2040年、日本の製造業で働く人は、いまより最大で約205万人少なくなる。労働政策研究・研修機構(JILPT)の推計が示す、何も手を打たなかった場合の姿です。
その一方で、工場には、デジタル化や脱炭素への対応、関税や輸出規制に揺れる調達の見直しが同時に求められています。この記事では、これからの日本の製造業が抱える課題を、白書と公的統計で一枚の地図にまとめます。
課題は人手不足・DX・GX・経済安全保障の4つですが、共通するのは「減っていく人数で、生産性と供給の強さを同時に高めること」です。
日本の製造業の現在地|まず押さえたい4つの数字
これまでの章では、日本の製造業の歴史や、家電・半導体が後退した理由をたどってきました。まずは、いまの姿を4つの数字で確かめます。
規模は大きいまま、人と生産性に課題が集まっています。
※生産性の対象国数は資料により34か国(白書資料)と35か国(日本生産性本部)で異なります。出典:2026年版ものづくり白書、日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」
製造業はいまもGDPの約2割を生む、日本経済の柱で、規模で見れば、主要国の中でも製造業の比重が高い国に入ります。
一方で、1人あたりの稼ぐ力は2000年の1位から20位まで下がりました。円安でドル換算の値が目減りした面もありますが、米国の3分の1程度という差は大きいままです。
強みと弱みを国際比較で詳しく見たい場合は、日本の製造業の強みと弱みの記事で比べました。
これからの課題は「4つの変化」と「2つの土台」
2026年版ものづくり白書は、保護主義的な政策で国際経済の先行きが読みにくくなったこと、AIなどのデジタル技術が急速に進んだことを挙げています。そのうえで、中長期を見据えた成長投資と経営改革を求めています。
外から押し寄せる変化を整理すると、製造業の課題は次の4つにまとまります。
- 人手不足(人口減少と高齢化)
- DX・AI(デジタル技術の進歩)
- GX(脱炭素への移行)
- 経済安全保障(地政学リスクと保護主義)
4つの変化は別々ではなく、同じ2つの土台の上でつながっています。
※人手不足はDXによる省力化を、GXと経済安保は設備投資と調達の見直しを、それぞれ必要とします。
4つの課題は、互いに結びついています。人が減るからこそ、データとAIで少ない人数でも回る工場にする必要があるというように、1つの課題への対応が別の課題の前提になります。
GXと経済安全保障は、どちらも設備の更新や調達先の切り替えを伴います。投資の原資を生み、新しい設備を使いこなす人を育てることが、4つすべての土台です。

課題1 人手不足|働き手は2040年に最大2割減る

人材・労働力不足を事業への影響として挙げた企業は、2023年度の59.2%から2025年度には70.9%まで増えました。生産工程の仕事の有効求人倍率は1.60倍で、全業種の1.13倍を上回ります(白書資料、2026年初の値)。
有効求人倍率は、求職者1人に対して何件の求人があるかを示す数字で、1を超えるほど、人を集めにくい状態を表します。
成長と労働参加が進まなければ、約2割の働き手が減ります。
※JILPT「2023年度版 労働力需給の推計」(2024年3月)。製造業の値は同推計の産業区分による。「労働参加」は女性や高齢者などが働く割合を指します。
JILPTの推計では、経済がゼロ成長で働く人の割合も変わらない場合、製造業の就業者は2022年の996万人から2040年に791万人へ減ります。成長と労働参加が進めば979万人と、ほぼ今の水準を保てる見込みです。
人手不足の行方は決まった未来ではなく、賃金や働き方、省力化への投資しだいで変わります。
若手が減り、熟練者が引退していく
深刻なのは人数だけでなく、年齢の偏りです。製造業で働く34歳以下は、2002年の384万人から2025年には258万人に減った一方、65歳以上は58万人から85万人に増えています。
JILPTが2026年5月に公表した調査では、将来の技能継承に「不安がある」「やや不安がある」企業が合わせて85.4%にのぼります。理由の上位は、熟練技能者の高齢化・退職(63.0%)と、若手が採用できないこと(57.0%)です。
現状と企業の打ち手は、製造業の人手不足と採用難の記事で詳しく整理しています。
外国人材と高齢者が支える現場
人手不足を補う担い手として、外国人材の存在感が増しています。製造業の外国人労働者は2021年の46.6万人から2025年には63.5万人に増え、雇用者の6.4%を占めます。
2027年4月には、技能実習に代わる「育成就労」制度が始まります。制度の違いと準備は製造業の外国人材の記事で確かめられます。
企業が人手不足への対応として挙げたのは、中途採用の強化(69.0%)、初任給・賃金の引き上げ(50.5%)、高齢者の活用(48.5%)でした。採ることと同じくらい、辞めずに育つ職場をつくることが問われています。
課題2 DX・AI|データを「集める」から「使う」へ
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術で仕事の進め方や事業の形を変えることです。工場では、設備や工程のデータを集め、品質の安定や段取りの短縮、省力化に生かす取り組みを指します。
データを取る企業は多い一方、効果や会社をまたぐ連携まで進む企業は少数です。
※上3つは2026年版ものづくり白書の企業調査(n=2,851)の各項目の回答割合。データ連携は2025年の値で、2023年は19.8%。
データを取得している企業は66.0%ですが、効果を得たのは43.9%にとどまり、取引先とデータをやり取りする企業間の連携は16.4%で、2年前より下がりました。
白書は、個社の効率化には一定の成果があるものの、新しいビジネスモデルづくりのような高度な領域では成果が出ていないと指摘しています。データを集める段階から、工場をまたいで使う段階への移行が次の山です。
生成AIとフィジカルAIの広がり
AIは、図面や技術文書を探す生成AIから、ロボットを動かす「フィジカルAI」まで広がっています。政府は2026年3月にAIロボティクス戦略をまとめ、日本の強みとして産業用ロボットや部品・素材のサプライチェーン、現場のデータを挙げました。
ただし温度差は大きく、生成AIの普及を事業への影響として挙げた企業は、大企業の28.6%に対し中小企業は7.0%です。現場で何が変わるかはフィジカルAIと製造現場の記事で紹介しています。
技能継承にもデジタルが使われ始めています。JILPTの調査では、デジタル手順書や動画マニュアルを使う企業が多い一方、デジタル技術を使いこなせる人材の不足を課題に挙げた企業が64.2%ありました。
企業がまず確かめたいのは、どの工程のデータが品質やコストに効くのか、そのデータを誰が読み解くのかという2点です。機械を入れる前に、使う人の手当てが要ります。

課題3 GX|脱炭素がコストと取引条件になる

GX(グリーントランスフォーメーション)は、脱炭素を進めながら産業の競争力も高めようとする取り組みで、製造業は熱や電気を大量に使うため、この課題の中心にいます。
2023年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は約10億1,700万トンで、2013年度から27.1%減りました。工場などの産業部門のCO2排出量は約3億4,000万トンで、CO2全体の34.3%を占める最大の部門です(電気・熱の使用分を含めた値)。
2026年度からは排出量取引が始まり、目標は年を追って厳しくなります。
- 2013年度(基準年)削減目標の比較の起点
- 2023年5月 GX推進法が成立今後10年で150兆円超の官民投資を目指し、GX経済移行債を約20兆円規模で発行
- 2023年度 27.1%減電源の脱炭素化と、製造業の国内生産の減少が主な要因
- 2026年度 GX-ETS(排出量取引制度)が開始直接排出が年10万トン以上の事業者が対象
- 2035年度 60%減2025年2月に閣議決定した新しい目標(2013年度比)
- 2040年度 73%減同上
- 2050年 ネットゼロ排出と吸収を差し引きゼロにする
※出典:環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量」(2025年4月)、地球温暖化対策計画(2025年2月)、経済産業省 GX関連ページ
2035年度に60%減、2040年度に73%減という目標は、これまでの削減ペースを保つだけでは届かない水準です。ボイラや炉の燃料転換、電化、省エネ設備への更新といった大型投資が欠かせません。
2026年度からは、直接排出が年10万トン以上の事業者を対象に排出量取引制度(GX-ETS)が始まりました。対象の判定や届出の手順はGX-ETSの対象企業と対応手順の記事にまとめています。
制度の対象外の中小企業にも、取引先から部品1個あたりのCO2排出量を尋ねられる場面が増えています。脱炭素は環境対策であると同時に、受注を続けるための取引条件になりつつあります。
排出の多い設備の対策は、設備更新の時期と合わせて計画すると、二重の投資を避けられます。
課題4 経済安全保障|「安く・早く」に「止まらない」が加わる
経済安全保障は、国民生活や産業に欠かせない物資や技術を、他国の圧力や供給の途絶から守る考え方です。2022年に経済安全保障推進法が成立し、国が供給の安定を支える「特定重要物資」が指定されました。
製造業に関わる部品・素材・装置が多く含まれています。
※内閣府「サプライチェーン強靱化」の公表資料をもとに編集部で分類。2022年12月に11物資、2024年2月に12物資、2025年12月に16物資。
16物資には、半導体や蓄電池、工作機械・産業用ロボットなど、製造業そのものの部品・装置が多く並びます。サプライチェーン(原料から製品が届くまでの供給網)を止めないことが、国の政策課題になったといえます。
白書の企業調査では、影響の大きかった国際情勢として米国の関税措置、米国の対中半導体規制の強化、中国のレアアース輸出制限が挙がりました。2025年は、米国の関税の影響で自動車産業の営業利益が前年から4割減りました。
関税の動きと日本企業の対応は、米国関税とサプライチェーン再編の記事で整理しています。経済安全保障に取り組む企業は、2024年度の約4割から約6割に増えましたが、白書は、その多くが情報収集の段階にとどまると指摘しています。
1社や1か国にしか頼れない部品や材料は、調達先を増やすか在庫を積むかを、コストとの見合いで決めることになります。
企業に求められること|省力化投資・価格転嫁・賃上げの循環
4つの課題への対応には、どれも投資と人手がかかります。白書の企業調査では、直近3年に価格転嫁に取り組んだ企業が80.6%、賃上げが79.4%、設備投資が64.5%でした。
投資で生産性を上げ、その成果を賃金と人材に回す流れです。
※割合は2026年版ものづくり白書の企業調査(n=3,026、直近3年の取り組み)。各段階は自動的にはつながらず、それぞれに企業の取り組みが必要です。
白書は、収益力の高い企業ほど省力化投資に積極的だと分析しています。1人あたりの設備が多い企業ほど労働生産性が高く、生産性の高い企業ほど賃上げ率も高い傾向があります。
日本の製造業は、この1人あたりの設備の水準が先進国の中で低いとされます。人を増やせない時代には、設備とデータに投資して1人の生み出す価値を上げることが基本の打ち手になります。
何から確かめるか
4つを一度に進められる企業は多くないため、優先順位を決める入口として、次の4点を確かめます。
- 人:5年後に退職する熟練者と、その技能を引き継ぐ人がいるか
- データ:品質やコストに効く工程のデータを取れているか
- エネルギー:排出の多い設備と、取引先が求める報告の範囲
- 調達:1社・1か国にしか頼れない部品や材料がどこにあるか
答えは企業の規模や業種、取引関係によって変わります。素材や化学のように熱を大量に使う業種ではGXが、多品種の部品加工では人手と技能継承が先に来ることもあります。
職種別に変わる仕事と、身につけたい力

4つの課題は、働く人の日々の仕事も変えていきます。新しい仕事が生まれるというより、いまの仕事の判断材料に、データ・排出量・調達リスクが加わる形の変化です。
どの職種でも、数字をもとに判断する場面が増えていきます。
※職種ごとの代表的な変化を編集部で整理したものです。
若手や異業種から来る人にとって、この変化は不利な話ではなく、データやデジタルに慣れた世代は、熟練者の経験と組み合わせることで、早くから任される仕事が増えます。
学び方の入口としては、技能伝承と人材育成の仕組みを知り、社内の教育や技能検定、公的な助成を使って学ぶ道があります。
まとめ
- 製造業はGDPの19.0%を生む柱だが、労働生産性はOECD主要国中20位まで下がった
- 働き手は2040年に最大約205万人減る推計で、若手の減少と技能継承が重い課題
- データの取得は66.0%まで進んだが、効果や企業間の連携はこれから
- 脱炭素は2035年度60%減の目標とGX-ETSで、コストと取引条件の両面に効く
- 16の特定重要物資に象徴されるように、供給を「止めない」ことが求められている
4つの課題に共通する答えは、投資で1人あたりの生み出す価値を上げ、その成果を賃金と人材に回すことです。関わりの深い職種として、生産技術のスキルとキャリアや購買・調達のスキルとキャリアもあわせて読むと、仕事の変化が具体的に見えてきます。
連載「製造業を知る」の第5章では、このあと製造業の最新技術一覧と製造業の景気動向と今後の見通しに進みます。連載の全体は製造業を知る(連載の入口)から読めます。
出典
出典・参考資料(10件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書」(2026年5月)/同 概要/同 厚生労働省担当部分の概要
- 経済産業研究所 BBL 資料「2026年版ものづくり白書について」(2026年6月)
- 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」(2025年12月)
- 労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計(速報)」(2024年3月)
- 労働政策研究・研修機構「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」(2026年5月)
- 経済産業省 育成就労制度説明資料(2026年)
- 環境省「2023年度の温室効果ガス排出量及び吸収量について」(2025年4月)/同 概要/同 詳細(部門別排出量)
- 環境省「地球温暖化対策計画」(2025年2月閣議決定)
- 経済産業省「温暖化対策・GX」/同「排出量取引制度」
- 内閣府「サプライチェーン強靱化(特定重要物資)」
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