鉛蓄電池とは、負極に鉛、正極に二酸化鉛、電解液に希硫酸を使い、放電で両極とも硫酸鉛になり、充電で元に戻る二次電池です。全体の反応は Pb+PbO2+2H2SO4 ⇄ 2PbSO4+2H2O で、1セルの電圧は約2 V、自動車の12 Vは6セルを直列につないだものです。
1859年の発明から165年以上たったいまも、車の始動用バッテリー、ハイブリッド車の補機用電池、工場やビルの非常用電源、フォークリフトなどで使われています。放電すると電解液の硫酸が減って水が増えるため、電解液の濃さ(比重)を測れば充電の状態が分かるのもこの電池の特徴です。
この記事では、まず酸化数と半反応式で放電・充電の原理を整理し、流れた電子1 molあたりに極板と電解液の質量がどれだけ変わるかを計算例で確かめます。そのうえで、実際の電池の構造と種類、劣化と点検、充電時の水素と安全、リチウムイオン電池との使い分けとリサイクルへと進みます。
鉛蓄電池の原理をわかりやすく整理
鉛の性質を利用(酸化数+2の硫酸鉛に落ち着く)
鉛蓄電池の材料は、どれも鉛とその化合物です。負極の鉛(Pb)は酸化数0、正極の二酸化鉛(PbO2)の鉛は酸化数+4で、どちらも希硫酸の中では酸化数+2の硫酸鉛(PbSO4)になる方向へ反応が進みます。
酸化数0の鉛は電子を出して+2に上がり、酸化数+4の二酸化鉛は電子を受け取って+2に下がります。
※電子は負極の鉛から外部の導線を通って正極の二酸化鉛へ流れます。両極の鉛が同じ+2に向かう反応を、別々の極で進めて電流として取り出すのが鉛蓄電池です。
鉛は+2の状態が安定で、硫酸鉛は硫酸の中にほとんど溶けずに電極の上へとどまります。鉛と二酸化鉛を直接触れさせれば熱が出るだけですが、2つを離して導線でつなぐと、鉛が手放した電子が導線を通って二酸化鉛へ移り、その流れが電流になります。
このとき電子を出す鉛は還元剤で負極、電子を受け取る二酸化鉛は酸化剤で正極です。ふつう電池の極はイオン化傾向の大小で決めますが、鉛蓄電池は両極とも鉛なので比べられず、「還元剤が負極、酸化剤が正極」と考えると迷いません。
極ごとのイオン反応式
負極の放電反応
負極では、鉛が電子を2個放して鉛(II)イオン(Pb2+)になります。生じた Pb2+ はすぐに希硫酸の硫酸イオン(SO42−)と結び付き、水に溶けにくい硫酸鉛となって負極の表面に残ります。
外部の回路に電子が流れ続ける限り、負極の鉛は少しずつ硫酸鉛に変わっていきます。放電が進むほど負極の表面は硫酸鉛で覆われ、反応できる鉛が減るので、電池が取り出せる電気の量には上限があります。
正極の放電反応式
正極の二酸化鉛は、負極から導線を通って届いた電子を受け取って還元されます。酸化数+4の鉛が電子2個で+2になり、電解液の H+ と SO42− を取り込んで、正極でも硫酸鉛と水ができます。
全体の式を見ると、放電で消費されるのは電解液の硫酸で、代わりに水ができています。放電が進むほど電解液の硫酸が薄くなることが、この後の質量の計算と、実物の電池で比重を測る点検の両方につながります。
電子は外部回路を負極から正極へ流れ、電解液の硫酸は両極に取り込まれて硫酸鉛と水に変わります。
※正極では電解液の H+ も使われて水ができます。両極にできた硫酸鉛は溶け出さずに電極の上に残ります。
鉛蓄電池の蓄電(充電)の原理
電池には、一度放電すると元に戻せない一次電池と、充電して繰り返し使える二次電池があります。ボルタ電池やダニエル電池、市販の乾電池は一次電池で、鉛蓄電池は外から電気を流すと放電と逆向きの反応が起きて材料が元に戻る二次電池(蓄電池)です。
逆向きの反応を起こせるのは、放電でできた硫酸鉛が電極の上にとどまっているからです。極板は網目状の鉛合金の「格子」に、細かい穴の多い活物質(反応する物質)を詰めた構造で、格子が活物質を支えて電気を集め、配っています。
硫酸鉛は硫酸の中にほとんど溶けないため、放電後も活物質の中に固定されています。電池メーカーの研究では、充電は硫酸鉛がわずかに溶けて Pb2+ になり、すぐ隣の鉛の表面で電子を受け取る形で進むと報告されており、硫酸鉛が電極から離れると反応はほとんど進みません。
もし硫酸鉛が電極から剥がれて容器の底に落ちてしまうと、充電しても元には戻りません。実物の電池でも、活物質の脱落や、充電しきれずに残った硫酸鉛の固まりは容量が減る原因で、後の章で見る寿命と劣化の話につながります。
充電が終わりに近づき硫酸鉛がほとんど残っていないと、流した電気は水の電気分解に使われ始め、負極から水素、正極から酸素が出ます。充電中の水素の発生は、電解液が減る原因であると同時に、鉛蓄電池を扱う現場で換気が求められる理由でもあります。
放電で動く電子と物質量の比(電子1 molあたりの質量変化)
鉛蓄電池の量的な関係は、流れた電子の物質量を基準にすると見通しよく整理できます。ここで見るのは、固体の極板(負極・正極)の質量と、電解液(硫酸の水溶液)の質量、そして電解液の濃度の3つで、どれも電子の物質量に比例して変わります。
負極では鉛が硫酸鉛になるので、Pb 1 molあたり SO4(96 g)が極板に加わり、そのとき電子が2 mol流れます。正極では二酸化鉛が硫酸鉛になるので、増えるのは PbO2 と PbSO4 の差の SO2(64 g)で、こちらも電子2 molです。
電解液の側から見ても同じ答えになります。全体の式では電子2 molで硫酸が2 mol減り水が2 mol増えるので、電子1 molあたり硫酸98 gが消えて水18 gが加わり、差し引き80 g減ります。極板の増加と電解液の減少がぴったり釣り合うことは、計算の検算にも使えます。
電解液から80 gが抜けて、負極に48 g、正極に32 gが移ります。
実物の電池の容量は、電子の物質量ではなくアンペア時(Ah)で表されます。1 Ahは3,600 Cで、ファラデー定数(電子1 molの電気量、9.65×104 C/mol)で割ると約0.0373 molなので、1 Ahあたりの変化も同じ比で求められます。
| 変化するもの | 電子1 molあたり | 1 Ahあたり(1セル) |
|---|---|---|
| 負極の質量 | +48 g | +1.79 g |
| 正極の質量 | +32 g | +1.19 g |
| 電解液中の硫酸 | −98 g | −3.66 g |
| 電解液中の水 | +18 g | +0.67 g |
| 電解液全体の質量 | −80 g | −2.98 g |
表の値はあくまで反応式から求めた理論上の量で、実際に取り出せる容量は温度・放電の速さ・電池の劣化の具合で変わります。それでも、放電量に比例して硫酸が減り電解液が薄くなるという関係は変わらないので、電解液の比重を測れば充電の状態を推定できます。
流れた電気の量が、硫酸の消費、電解液の濃度、比重の順に表れます。
※比重1.280(20℃)・濃度約37%は自動車用の完全充電時の値(電池工業会)。放電して比重が1.100くらいまで下がると、電解液は−10℃前後で凍りやすくなります。
比重が下がった電解液は凍りやすくなる点にも注意が必要です。電池工業会によると、満充電の比重1.280では凍りにくいものの、放電して1.100前後まで下がると凍結温度は−10℃前後になり、凍った電解液の膨張で電槽が割れることもあります。
鉛蓄電池の計算例(電気分解と組み合わせる)
電子1 molあたりの変化が分かれば、流れた電気の量を何かで知るだけで、極板や電解液の変化を計算できます。次の例では、鉛蓄電池で別の電解槽を動かし、そこで析出した銅の量から流れた電子の量を求めるという、電気量を別の反応で測る考え方を使います。
例題:電気分解で析出した銅から硫酸の濃度を求める
鉛蓄電池を電源にして、白金板を電極に硫酸銅(II)水溶液を電気分解したところ、陰極に5.08 gの銅が析出した。鉛蓄電池には質量パーセント濃度35%の希硫酸1,000 gが入っていたとすると、電気分解の後の希硫酸の質量パーセント濃度はいくらか(Cu=63.5、S=32、O=16、H=1)。
電池と電解槽を直列につないだ回路では、どこを通る電子の物質量も同じです。そのため、陰極に析出した銅の量から電子の物質量を出せば、それがそのまま鉛蓄電池の中を流れた電子の量になり、硫酸の減少と電解液全体の減少を別々に求めて割り算すれば濃度が出ます。
解き方と答え
電子の物質量を1つ決めれば、溶質と溶液の質量を別々に出して割るだけです。
見落としやすいのは、溶質の硫酸だけでなく溶液全体の質量も減る点です。硫酸の減少だけを引いて1,000 gで割ると33.4%になります。水が18 gずつ増えるので、溶液の減少は98 gではなく80 gになることを押さえておけば、密度や比重を問われても同じ手順で進められます。
同じ考え方を実物の電池に当てはめてみます。電池工業会は、エンジンの始動限界を容量の60〜70%程度の放電としており、27 Ahのバッテリーなら約18.9 Ahを使うとエンジンがかからなくなる例を挙げています。この放電量で1セルの電解液がどう変わるかを、理論値で計算します。
満充電で約37%だった電解液が、エンジンがかからなくなるところまで放電すると3割を切るほど薄くなる計算です。電池が上がった状態で寒い場所に置くと凍結のおそれがあるのは、放電量と電解液の濃さが直結しているからだと分かります。
実際の鉛蓄電池の構造と種類
反応式に出てくる鉛・二酸化鉛・希硫酸は、実物の電池ではそれぞれ負極板・正極板・電解液にあたります。ここからは、反応がどんな部品の中で起きているのか、用途によって電池のつくりや保守のしかたがどう違うのかを見ていきます。
極板・格子・セパレータと12 Vの組み方
電池工業会の説明では、自動車用のバッテリーは正極板と負極板を交互に重ね、その間に両極が触れてショートしないよう隔離するセパレータを挟んだ極板群と、電解液、樹脂の電槽・蓋でできています。電槽は6つの部屋に区切られ、2 Vの極板群を6個直列につないで12 Vにしています。
- 正極板:鉛合金の格子に、茶色の二酸化鉛の活物質を保持
- 負極板:鉛合金の格子に、グレーの海綿状の鉛の活物質を保持
- セパレータ:強化繊維や合成樹脂の薄い板で、両極の接触を防ぎ、電解液のイオンは通す
- 電解液:希硫酸(完全充電時の比重1.280)。電槽・蓋は合成樹脂
活物質に細かい穴が多いのは、硫酸と触れる面積を広げて大きな電流を取り出すためです。極板には格子に鉛の粉の練り物(ペースト)を詰めるペースト式と、ガラス繊維のチューブに活物質を詰めるクラッド式があり、薄いペースト式は大電流向き、クラッド式は長寿命で振動に強いのが特徴です。
負極の活物質には、性能を保つための添加剤も入っています。カーボンや、リグニンに代表される有機防縮剤(負極の鉛が粗く固まるのを防ぎ、細かい穴を保つ添加剤)がその例で、配合は電池メーカーが特性を評価して決めています。
液式と制御弁式(VRLA)の違い
鉛蓄電池は、電解液の扱い方で液式(ベント式)と制御弁式に大きく分かれます。液式は希硫酸を液のまま入れ、充電で減った水を精製水で補う電池で、制御弁式(VRLA)は電解液をガラス繊維の不織布にしみ込ませた密閉構造の電池です。
制御弁式は、充電で正極から出た酸素を負極板で吸収させて電解液に戻す仕組みのため、補水や比重測定が要らず、ガスの発生も少ないのが利点です。内部の圧力が上がったときだけ弁が開いてガスを逃がすので、液漏れしにくく、車のトランクや座席の下にも置けます。
| 比べる点 | 液式(ベント式) | 制御弁式(VRLA) |
|---|---|---|
| 電解液の状態 | 希硫酸を液のまま入れる | ガラス繊維の不織布(セパレータ)にしみ込ませる |
| 補水 | 必要(精製水。液面を UPPER と LOWER の間に保つ) | 不要 |
| 充電時のガス | 水素・酸素が出る。据置用は触媒栓で水に戻して減液を抑える | 酸素を負極で吸収。圧力が上がると弁からガスを出す |
| 点検 | 液量・比重・外観・端子 | 外観・端子・内部抵抗・電圧(比重測定は不要) |
| 主な用途 | エンジン車の始動用、据置用(ベント式) | ハイブリッド車の補機用、UPS・通信・防災の非常用電源 |
自動車用と産業用(据置用)の使い分け

自動車用のバッテリーは、エンジンを始動するスターターに電気を送り、走行中はオルタネータ(発電機)で充電されながら、ライトや車載コンピュータのバックアップを支えています。アイドリングストップ車用は停車中の電装品も受け持つため、充放電の量が格段に多くなります。
ハイブリッド車にも、駆動用のニッケル水素電池やリチウムイオン電池とは別に、12 Vの鉛蓄電池が補機用として積まれています。ハイブリッドシステムの起動やメモリーのバックアップ、電圧の安定化を受け持ち、電動化で変わる部品のなかでも残り続けている部品の一つです。
産業用の据置鉛蓄電池は、工場やビルの電気室・キュービクルに置かれ、停電のときに受変電設備の遮断器を操作する電源、非常照明、非常用発電機の始動、UPS(無停電電源装置)などに電気を送ります。直流電源装置と組み合わせて使われ、シリコンドロッパで負荷側の電圧をそろえる設備もあります。
フォークリフトなど現場で動く車両の動力用には、寿命が長く振動や衝撃にも強いクラッド式の鉛蓄電池が使われます。工場の中で充電する電池なので、フォークリフトの安全対策と同じく、充電する場所の換気や火気の管理まで含めて運用を決めておくことが大切です。
始動・補機の車載用と、停電に備える据置用、動力用で、求められる性能が違います。
寿命と劣化、点検と安全
劣化の仕組み(サルフェーションと格子の腐食)
代表的な劣化がサルフェーションで、充電が足りない状態で使い続けると、鉛に戻りきらなかった硫酸鉛が負極にたまり、反応できる活物質が減って容量が小さくなります。部分充電のまま充放電を繰り返すアイドリングストップ車用で特に問題になり、負極へのカーボン添加などの対策が取られています。
据置用で多い寿命の原因は、正極の格子の腐食です。古河電池によると、格子が少しずつ腐食して伸びると活物質との密着が悪くなり、内部抵抗が増えて必要な容量が取り出せなくなります。温度が10℃上がると寿命はおよそ半分になり、適切な使用環境は25℃とされています。
このほか、電池工業会は自動車用の推奨交換時期を2〜3年とし、取り付けから3年以上たったものは劣化を疑うよう案内しています。放電したまま置いておくこと、近距離の走行ばかりで充電が追いつかないこと、高温の場所で使うことは、どれも寿命を縮める使い方です。
原因ごとに、表に出てくるサインと点検項目が決まっています。
自動車用と据置用の点検
自動車用の液式バッテリーでは、液量の点検が道路運送車両法の日常点検に含まれ、少なくとも月1回、液面が UPPER と LOWER の線の間にあるかを確かめます。半分以下に減っていたら精製水を UPPER まで補い、外観のひび・液漏れと、取付金具・端子の緩みや腐食も見ておきます。
据置用の鉛蓄電池は、年に1〜2回の点検が勧められています。液の減りが異常に早い、異常な発熱、電槽の亀裂、制御弁式の内部抵抗が注意レベルを超えた、浮動充電中の電圧にばらつきが出た、といったサインが交換を考える目安です。
古河電池は、寿命を迎えた操作用の蓄電池のせいで停電後に遮断器を入れ直せず、停電が1時間半続いた事例を紹介しています。いざという時に初めて使う電池だからこそ、時間基準と状態基準の保全を組み合わせ、内部抵抗の傾向を記録して予知保全のように劣化を先回りする考え方が役立ちます。
充電と取り扱いの安全(水素・硫酸・硫化水素)
充電の終わりや過充電では、電解液の水が分解されて水素と酸素が出ます。電池工業会は火気を近づけない、端子を金属工具でショートさせない、静電気を逃がすといった注意を挙げており、小さな火花でも水素に引火するおそれがあります。
電解液の希硫酸は約37%と濃く、皮膚についたら多量の水で洗い流します。また電池工業会は、寿命に近い・液量不足・過充電・高温といった条件が重なると、充電中に硫酸が還元されて有毒な硫化水素が出ることがあるとして、異臭がしたらすぐ充電を止めて換気するよう呼びかけています。
工場やビルの大きな蓄電池設備は、消防法に基づく省令と市町村の火災予防条例の対象です。以前は「4,800 Ah・セル以上」(2 V×24セルで200 Ah)が対象の目安でした。総務省消防庁は2024年1月から、蓄電池容量(kWh)で区分する方式に改めています(容量10 kWh以下などは対象外)。
対象の設備には、屋内では屋外に通じる換気設備(水素への備え)、開放形の鉛蓄電池では耐酸性の床・台への設置、屋外では雨水の浸入を防ぐ筐体への収納などが求められます。
細かな基準は自治体で違うため、設置や増設のときは管轄の消防と確認します。
電池の交換や配線の作業では、充電器や直流電源を確実に止めてから作業に入ることも欠かせません。保全作業でのエネルギー遮断の手順はロックアウト・タグアウトの考え方が参考になり、保護具の着用も含めて職場の安全衛生のルールとして決めておくと安心です。
リチウムイオン電池との使い分けとリサイクル
リチウムイオン電池との使い分けと国内メーカー
軽くて多くのエネルギーをためられるリチウムイオン電池は、スマートフォンから電気自動車の駆動用まで広がりました。電池工業会の自主統計では、2024年度の国内販売数量はリチウムイオン電池が約3億645万個、自動車用鉛電池が約2,166万個、その他の鉛電池が約497万個です。
個数で比べると差は大きいものの、鉛蓄電池は12 Vの車載電源や停電用の非常電源として今も欠かせません。150年以上の改良で積み上げた信頼性と、整った回収・リサイクルの仕組みが重さというハンデを補い、用途ごとの使い分けが続いています。
駆動用では全固体電池とリチウムイオン電池の違いに注目が集まる一方、補機用の鉛蓄電池は3〜5年ごとに替える消耗品で、交換の需要も続きます。国内では、GSユアサ、古河電池、エナジーウィズなどが自動車用・産業用の鉛蓄電池をつくっています。
回収とリサイクル
鉛蓄電池は、リサイクルの仕組みが最も整った製品の一つです。
米国の業界団体バッテリー・カウンシル・インターナショナル(BCI)の2026年8月発表の調査では、2020〜2024年の米国の鉛蓄電池のリサイクル率は約98%(97.7%)でした。以前の調査(2018年までのデータ)は99%で、どちらも高い水準です。回収した電池の鉛は製錬し直され、新しい電池の材料になります。
日本では1994年10月に電池工業会が自主回収を始め、2012年7月からは鉛蓄電池再資源化協会(SBRA)が広域認定による回収を運用しています。事業所から出る使用済み鉛蓄電池は、電解液が強い酸性のため特別管理産業廃棄物として扱います。
鉛の価格が上がった2000年代後半からは韓国などへの輸出が増えました。環境省の資料では、2014年の輸出量は約12万トンで、国内で出る使用済み電池の4割近くにあたると推計されています。鉛の製錬所は銅や亜鉛の製錬所と残渣を融通し合っており、非鉄金属業界の構造を保つうえでも、国内での回収と再生は大切な論点です。

鉛蓄電池のよくある質問
鉛蓄電池は放電したまま置いておいてもよいですか?
放電したまま置くと、負極にできた硫酸鉛が結晶になって戻りにくくなり、電解液も薄いまま凍りやすくなります。使った後は早めに充電し、長く使わない車や設備は定期的に充電するのが基本です。
バッテリー液が減ったら水道水を足してもよいですか?
足すのは精製水(市販のバッテリー補充液)で、水道水は使いません。減っているのは充電中に分解された水なので、硫酸を足す必要もなく、液面を UPPER の線まで戻せば十分です。制御弁式の電池は補水できない構造です。
鉛蓄電池と燃料電池は何が違いますか?
鉛蓄電池は電池の中の鉛と硫酸にエネルギーをためておき、使い切ったら充電する蓄電池です。燃料電池は外から水素と酸素を送り続ける限り発電を続ける装置で、ためるのではなく燃料から電気をつくる点が違います。
鉛蓄電池はリチウムイオン電池に置き換わりますか?
駆動用やエネルギーを多くためる用途ではリチウムイオン電池が広がっていますが、12 Vの補機用や非常用電源では鉛蓄電池がいまも多く使われています。長い使用実績やリサイクルの仕組みも含めて、用途ごとに選ばれているのが実情です。
まとめ
- 鉛蓄電池は、負極の鉛と正極の二酸化鉛が希硫酸の中で、どちらも酸化数+2の硫酸鉛になる反応から電気を取り出す二次電池
- 全体は Pb+PbO2+2H2SO4 ⇄ 2PbSO4+2H2O。放電で硫酸が減り、充電で戻る
- 電子1 molあたり、負極は+48 g、正極は+32 g、電解液は−80 g(硫酸−98 g、水+18 g)
- 硫酸鉛が電極にとどまるので充電でき、たまりすぎたり剥がれたりすると劣化になる
- 実物は液式と制御弁式、車載用と据置用があり、液量・比重・内部抵抗の点検、水素の換気と硫酸の扱いが保守の要
鉛蓄電池は、半反応式と物質量の比という化学の基本が、比重の点検や凍結、充電中の換気といった現場の注意に直結する電池です。
電解液の硫酸は接触法でつくられ、電気分解の量的な関係はアルミニウムの融解塩電解にも共通し、車の電装は自動車業界のサプライチェーンの中で支えられています。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 構造・電圧・電解液:電池工業会「自動車用バッテリーの構造」、「自動車用バッテリーって何をしているの?」、「電池のしくみについて」
- 点検・安全・凍結・硫化水素:電池工業会「自動車用バッテリーの点検」、「自動車用バッテリーあがりについて」、「自動車用バッテリーのよくある質問」
- 歴史:電池工業会「電池の歴史④ 鉛蓄電池(二次電池)」
- 反応式と充電反応の過程:GS Yuasa Technical Report 第11巻第1号(2014年)「鉛蓄電池反応の詳細理解に向けた取り組み」
- サルフェーションと負極の添加剤:GS Yuasa Technical Report 第15巻第2号(2018年)「カーボンへの有機防縮剤吸着が鉛蓄電池特性へおよぼす影響」
- 据置鉛蓄電池の種類・劣化・点検:古河電池「据置鉛蓄電池の保守点検方法は?交換時期はいつ?」(2020年10月5日)
- 制御弁式据置鉛蓄電池:GSユアサ「SEシリーズ」
- ハイブリッド車の補機用電池:ジーエス・ユアサ バッテリー ニュースリリース(2024年4月25日)、「ハイブリッド車用補機用バッテリーの充電方法」
- 蓄電池設備の規制:総務省消防庁 消防予第306号(令和5年5月31日)、旧基準(4,800 Ah・セル)は同庁 検討部会資料「資料1-4」(2015年)
- 国内のリサイクル:環境省「使用済鉛蓄電池の適正管理に関するこれまでの経緯と諸外国の状況について」(2016年2月)
- 米国のリサイクル率:Battery Council International「National Recycling Rate Study」(2026年8月6日)、前回調査(2019年11月14日、2018年までのデータで99%)
- 販売数量:電池工業会「二次電池販売数量年度別推移」
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