クルマの神経ワイヤーハーネスとは?手作業が残る理由と日本企業

コネクタが付いた自動車用ワイヤーハーネスの束

クルマ1台に張りめぐらされた電線をつなげると、住友電装グループの説明で総長1.5km、ロイター通信の報道では最大5kmに及びます。この長い電線を車種ごとに束ねて仕立てた部品が、ワイヤーハーネスです。

ワイヤーハーネスは、バッテリーの電力とセンサーや制御装置の信号を車内に運ぶ配線部品です。電線を切って端子を付ける工程は機械が担う一方、電線を束ねて形を整える工程にはいまも人の手が多く残っています。世界の3強のうち2社は日本企業です。

この記事では、ワイヤーハーネスの役割と部品の構成、つくり方、手作業が残る理由、生産拠点と供給網、主要企業、EVやゾーン化で何が変わるかを順に整理します。

目次

ワイヤーハーネスとは|電力と信号を運ぶ電線の束

内張りを外した車のドア内部を走るワイヤーハーネス

ワイヤーハーネスは、ライトやワイパー、エアコン、エンジンやモーターの制御装置、カメラやレーダーといった車載機器をつなぐ電線の束です。部品メーカー各社は、人の体でいえば神経や血管にあたる部品だと説明しています。

運ぶものは大きく2つあります。1つはバッテリーから各機器へ送る電力で、もう1つはセンサーや制御装置(ECU)の間でやりとりする信号です。電動車ではこれに加えて、200Vを超える高電圧バッテリーからモーターへ大きな電力を送る高電圧ハーネスが載ります。

図1:ワイヤーハーネスが運ぶ電力と信号

バッテリーの電力を各機器へ配り、センサーと制御装置の間で信号をやりとりします。

バッテリーワイヤーハーネス電力を配る信号を伝える

※電動車には、通常の12V系に加えて200Vを超える高電圧系のハーネスが載ります(矢崎総業の製品説明)。

ハーネスを構成する部品

ハーネスの中身は、電気を通す電線と、電線の先に付ける金属の端子、端子を収めて機器と抜き差しできるようにする樹脂のコネクタが基本です。そこに、電線を擦れや熱から守るテープ・チューブ・プロテクタと、車体に固定するクランプが加わります。

電線の芯は銅が中心で、軽量化のためにアルミを使う回路も増えています。端子やコネクタ、樹脂の成形部品まで自社グループでつくるハーネスメーカーも多く、住友電装の岩手の子会社は樹脂成形やゴム成形の部品も製造しています。

図2:ワイヤーハーネスを構成する部品

電線・端子・コネクタの3つが骨格で、保護材と固定具で車体に沿わせます。

電線銅やアルミの芯を樹脂で覆った線。太さは流す電流で変わる
端子電線の先に圧着する金属部品。相手の端子とかみ合って通電する
コネクタ端子を収める樹脂の箱。機器との抜き差しをまとめて行う
保護材・固定具テープ・チューブ・プロテクタで守り、クランプで車体に留める

端子やコネクタ、電線の役割そのものは工場の設備の配線とも共通しており、制御盤の内線と外線の違いで扱った電線・端子台の考え方がそのまま当てはまります。違いは、クルマのハーネスが振動・熱・水にさらされる車内で、車体の形に沿って取り回される点です。

ワイヤーハーネスができるまで

ハーネスの製造は、電線を加工する前半と、加工した電線を束ねて形にする後半に分かれます。前半は専用の自動機が受け持ち、後半の束ねて形を整える工程に人の作業が集中します。

図3:ワイヤーハーネスができるまでの6工程

電線の加工は機械、束ねて形にする工程は人、最後に全数を検査します。

電線の加工
01切断・皮むき電線を決まった長さに切り、端の被覆をむく主に自動機
02端子の圧着端子を電線にかしめて固定し、電気をつなぐ主に自動機
03小分けの組立端子付きの電線を小さな束にし、コネクタに挿す人の作業が多い
束ねて形にする
04図板で布線実物大の図を描いた板の上で、電線を決まった経路に沿わせる人の作業が多い
05テーピング・部品付け束をテープやチューブで巻き、クランプやプロテクタを付ける人の作業が多い
06導通・外観検査すべての回路に正しく電気が通るかを確かめて出荷する検査

※工程の分け方や自動化の範囲は、メーカーや車種によって異なります。

前半|電線の切断と端子の圧着

最初の工程では、巻かれた電線を必要な長さに切り、端の被覆をむいて端子をかしめます。かしめが甘いと抜けや発熱の原因になるので、圧着の高さや引っ張り強さを機械で管理する工程です。

この前半は、切断から圧着までを1台でこなす専用機が広く使われています。ハーネス加工機メーカーのスイスKomaxは、手作業の多い最終組立の手前にある前組立(pre-assembly)を自動化し、後工程の負担を減らす考え方を打ち出しています。

後半|図板の上で束ねて形にする

組立図板の上で電線の束にテープを巻く作業の手元

後半の主役は、実物大のハーネスの形を描いた大きな板(組立図板)です。作業者は板に立てた治具に沿って電線を1本ずつ這わせ、枝分かれの位置で束をまとめ、テープを巻いてクランプを付けていきます。

完成したハーネスは、すべての回路に電気が正しく通るかを導通検査で確かめます。1本の配線間違いでも車の機能が止まるので、全数検査が基本です。

ワイヤーハーネスに手作業が残る3つの理由

ドイツの大学の研究者は、ハーネス製造の手作業の比率が最大90%に達すると論文で整理しています。スウェーデン・チャルマース工科大学などのレビュー論文も、組立は現在も手作業が中心で、業界は全面的な自動化にも部分的な自動化にもまだ踏み切れていないと指摘しています。

図4:ハーネス製造に占める手作業の比率

研究者の整理では、製造工程の最大9割が人の手に頼っています。

製造工程の手作業の比率は最大90%(Nguyenほか、Procedia CIRP 2021)

※論文の要旨に示された最大値で、工程や工場によって比率は異なります。電線の切断・圧着など前半の工程は自動化が進んでいます。

切断や圧着のように機械化が進んだ工程がある一方で、全体の比率がここまで高くなるのは、後半の工程に次の3つの事情が重なるからです。

図5:ハーネスの自動化が難しい3つの理由

柔らかさ、種類の多さ、細かさが、ロボットの苦手な条件として重なります。

理由1柔らかく形が決まらない電線は持つたびに曲がり、ほかの線に隠れる。ロボットは位置をつかみにくい
理由2車種と仕様ごとに種類が多いオプションの組み合わせで形が変わる。専用機をつくっても数が出にくい
理由3端子が細かく密集する電線は細く端子は小さくなり、コネクタの小さな穴に挿す作業が増える

※チャルマース工科大学などのレビュー論文(2023年)と、ハーネス加工機メーカーKomaxの説明をもとに当サイトで整理。

理由1|柔らかくて形が決まらない

ロボットは、決まった形の部品を決まった位置でつかむのが得意です。電線は持ち上げるたびにたわみ、束の中でほかの線に隠れるので、研究の世界では「変形する線状物」と呼ばれ、ロボットに扱わせる方法そのものが研究テーマになっています。

同じ理由で、完成したハーネスを自動車の組立ラインで車体に取り付ける作業も自動化が進んでいません。チャルマース工科大学などのレビューは、車両へのハーネス組み付けを最も自動化が難しい作業の1つに挙げ、人とロボットが分担する協働型の研究を紹介しています。

理由2|車種と仕様ごとに種類が多い

ハーネスは車種ごとの専用品で、同じ車種でもグレードやオプションの組み合わせで回路が変わります。矢崎総業とマツダは、人手の工程が多いうえに部品の種類が増え、在庫管理や生産・物流が複雑になっていたことを課題に挙げています。

種類が多いと、1種類あたりの生産数は小さくなります。特定のハーネス専用の自動機を入れても稼働が少なく、モデルチェンジのたびに作り直しが必要なので、図板と人の組み合わせのほうが割に合いやすい構造です。

理由3|端子が細かく密集する

Komaxは、電線が細くなり端子も小さくなる一方で制御装置の接続部の密度が上がり、小さな穴に端子を挿す作業が手作業でも難しくなっていると説明しています。車種の多様化と電動化も、ハーネス全体を複雑にする要因です。

人の作業が多いぶん、立ち作業や腕を上げた姿勢が続く負担も課題になっており、先のレビュー論文は筋骨格系の障害につながる点に触れています。人手不足が続く国内では、こうした工程をどう省人化するかが製造業の人手不足と採用難への打ち手の1つになります。

生産拠点と供給網|ウクライナで見えた代わりのきかなさ

人の作業が多い製品なので、ハーネスメーカーは大きな雇用を抱えています。矢崎総業はグループで21万8,566人が働き、そのうち20万1,019人、約92%が海外です(当サイト計算)。住友電装グループも31か国に展開し、従業員は約22万人にのぼります。

図6:矢崎グループの従業員の国内・海外の内訳

働く人の9割以上が海外にいます。

海外20万1,019人 国内1万7,574人

※矢崎総業の会社概要より。グループ全体の従業員数で、ハーネス以外の事業も含みます。拠点は46か国・地域。

完成車メーカーの工場が世界に散らばっているため、ハーネスも各地域でつくられています。欧州向けではウクライナのほか、東欧や北アフリカ、メキシコなどが生産や調達の候補に挙がってきました(ロイター、2022年3月)。

2022年、ウクライナ侵攻で欧州の車が止まった

ハーネスが供給網の弱点になることを示したのが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻です。ウクライナには欧州の自動車メーカー向けのハーネス工場が集まっていたため、侵攻後はフォルクスワーゲン(VW)とBMWが減産し、一部の組立ラインを止めました(ロイター、2022年3月14日)。

VWのディース社長(当時)は、ウクライナ製ハーネスの不足がグループ最大のサプライチェーンの問題になったと述べています。ハーネスはモデルごとの専用品で、ほかの工場の在庫で置き換えることができないため、VWは生産を北アフリカや東欧へ移して対応しました。

取引先の立場で見ると、ハーネスは代わりの調達先をすぐには用意できない部品です。関税や為替で生産地を動かすときも同じ制約がかかり、自動車関税15%の部品メーカーへの影響で整理した生産移管の判断でも、ハーネスのような労働集約型の部品は移すのに時間がかかります。

ワイヤーハーネスの主要企業|世界3強のうち2社が日本企業

日刊工業新聞は2022年の記事で、ハーネスの世界市場を年3兆〜4兆円とし、住友電工、矢崎総業、米アプティブを3強と整理しました。首位がどこかは集計の仕方で変わり、住友電装は自社の世界シェアを27%と説明しており、住友電工は中国の現地企業を含めると24〜25%程度とみています。

同じ記事は、アプティブがハーネス以外の部品を強化しているのに対し、高品質のハーネスを短納期で供給できる日系2社にはシェアを広げる余地があるとみています。古河電工グループとフジクラグループもハーネスを手がけており、日本は電線メーカーを起点にハーネスの産業が厚く育った国です。

企業ハーネスの担い手特徴・最近の動き
矢崎総業矢崎総業(非上場)とグループ会社グループ売上高2兆6,096億円、46か国・地域に拠点。高電圧ハーネスは多くの電動車に採用。2026年10月にマツダと自動化前提の新しい生産方法を発表
住友電気工業完全子会社の住友電装(三重県四日市市)住友電装は自社の世界シェアを27%と説明。2010年にアルミワイヤーハーネスの販売を開始
アプティブ(米国)同社の電気配線事業世界3強の一角。ハーネス以外の電子部品も強化している
古河電気工業古河ASアルミ電線向けの防食端子「α端子」。2021年にシート用ハーネスのアルミ化で質量44%減
フジクラフジクラ電装自動車用ハーネスを手がける
ワイヤーハーネスの主要企業(各社の公開情報・報道をもとに当サイト作成。数字の基準日は各社の発表時点)

完成車メーカーから見ると、ハーネスメーカーは直接部品を納める一次サプライヤー(Tier1)にあたります。自動車業界の構造の中でも、新車の開発段階から車両の配線設計に深く入り込む点が、ほかの部品と違うところです。

住友電工の事業構成や、ハーネスと光通信で稼ぎ方がどう違うかは、決算資料をもとに別の記事で詳しくまとめています。

EV・ゾーン化・自動化で何が変わり、何が残るか

電気自動車の前部を走るオレンジ色の高電圧ケーブル

電動化とソフトウェアで機能を更新するクルマ(SDV)への移行は、ハーネスに逆向きの2つの力をかけています。高電圧化と機能の増加で求められる性能は上がる一方、配線の仕方を変えて量を減らす動きも進んでいます。

図7:ワイヤーハーネスのこれまでとこれから

電線を束ねる部品という本質は残り、材料・配線の設計・つくり方が変わります。

これまで
これから
電圧
12V系の配線が中心
電動車は200V超の高電圧ハーネスが加わる
材料
電線の芯は銅
軽いアルミ電線を使う回路が増える(銅の約半分の重さ)
配線の設計
機能ごとに制御装置をつなぐため、配線が長く複雑
車体を区域(ゾーン)に分けて制御装置を集約し、配線を短くする
つくり方
種類が多く、図板での手作業が中心
設計段階から自動化を前提に種類を減らす
残るもの
電力と信号を確実に届ける役割
役割は同じで、車種ごとの専用設計も続く

※各社の発表と報道をもとに当サイトで整理。変化の進み方は車種やメーカーによって異なります。

高電圧化とアルミ化|重さと銅の値段への対策

電動車では、200Vを超える高電圧バッテリーからモーターへ大電流を流すため、太くて硬い高電圧ハーネスが必要になります。電線の太さと重さが増えるので、銅より軽いアルミへの置き換えが進んできました。

住友電工は2010年にアルミワイヤーハーネスの販売を始め、同じ通電性能で電線の重さを銅の半分に抑えたと説明しています。古河電工グループは2021年、トヨタ紡織製のシート用ハーネスで152回路のうち115回路をアルミ化し、質量を44%減らしました。

ただしアルミ電線と銅合金の端子をつなぐと腐食が起きやすく、水がかかる回路には防食対策が要るので、すべてを一気にアルミにはできません。また銅の値上がりはいまもハーネスの採算を左右しており、銅建値と電線価格の関係を知っておくと業績の動きが読みやすくなります。

ゾーン化|配線を短くする設計

これまでのクルマは、機能を1つ足すたびに制御装置と配線を足してきました。ゾーン型の電気・電子の設計では、車体を前後左右などの区域に分けて区域ごとの制御装置に配線を集め、機器から制御装置までの距離を短くします。

BMWの新しいEV「iX3」では、この設計でハーネスの総延長が600m短くなり、重さが約30kg軽くなったと報じられています(EE Times Japan、2026年2月)。ハーネスはなくならないものの、長さが減るぶん、メーカーには配線の設計から提案する力が問われます。

自動化を前提に設計する|矢崎総業とマツダの例

手作業の比率を下げる試みも、工程の改善から設計の見直しへ広がっています。矢崎総業とマツダは2022年初めから共同で取り組み、2026年10月15日、自動化を前提に種類・仕様・構造・製造工程を一体で見直したハーネスを新型CX-5に初めて載せたと発表しました。

車両全体で最適化した結果、新型CX-5のハーネスの種類は先代より約80%減りました。完成品は矢崎の関連会社の工場(山口県美祢市)でつくり、マツダの広島県と山口県の工場へ納めます。

種類を減らせば専用機の稼働が上がり、国内の車両工場の近くでも採算が合いやすくなります。理由2で見た「種類が多いと自動化が割に合わない」壁を、設計の側から崩しにいく取り組みです。

電動化で増える部品と減る部品の全体像は、EVシフトで部品メーカーはどう変わるかで数字とともに整理しています。

ワイヤーハーネスのよくある質問

ワイヤーハーネスとケーブルの違いは何ですか?

ケーブルは電線を被覆でまとめた1本の線材で、ワイヤーハーネスは複数の電線に端子やコネクタ、保護材、固定具を付けて、取り付け先の形に合わせて仕立てた部品です。ハーネスは、そのまま車体に取り付けて機器につなげる状態で納められます。

ハーネス工場ではどんな工程を担当しますか?

電線の切断・圧着機の段取りと品質確認、図板の上での布線やテーピング、完成品の導通検査などに分かれます。製造職のほか、生産ラインの設計や改善を担う生産技術、完成車メーカーと配線の設計を詰める設計職もあります。

EVになるとワイヤーハーネスは減りますか?

一概には減りません。高電圧ハーネスや充電まわりの配線が加わる一方、ゾーン型の設計では配線の総延長が短くなる例もあり、本数や長さよりも高電圧への対応や軽量化などの設計力が問われるようになっています。

アルミ電線がすべての回路に使われないのはなぜですか?

アルミ電線を銅合金の端子につなぐと、異種金属の接触で腐食が起きやすいためです。水がかかる回路には防食端子などの対策が必要になるため、コストや使う場所に合わせて回路ごとに銅とアルミが使い分けられています。

まとめ

この記事のまとめ
  • ワイヤーハーネスは、電力と信号を車内に運ぶ電線・端子・コネクタの束で、1台で総長1.5km〜最大5kmに及ぶ
  • 電線の切断・圧着は自動機が担い、図板の上で束ねて形にする工程に人の作業が集中する
  • 柔らかく形が決まらない、種類が多い、端子が細かいの3つが自動化を難しくしている
  • 住友電工、矢崎総業、アプティブが3強で、車種専用のため供給が止まると代わりがきかない
  • 高電圧化・アルミ化・ゾーン化に加え、矢崎とマツダのように設計から自動化する動きが始まっている

ワイヤーハーネスは目に触れにくい部品ですが、クルマの機能が増えるほど重みを増し、電線・素材・生産技術の各分野が交わる製品です。関連する職種は生産技術、業界全体は自動車業界とは何かを解説した記事からあわせてご覧ください。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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