濃硝酸と希硝酸の半反応式とは?NO₂とNOに分かれる理由と作り方

防液堤の中に並ぶ化学工場の酸の貯槽と配管

濃硝酸の半反応式は HNO3+H++e−→NO2+H2O、希硝酸の半反応式は HNO3+3H++3e−→NO+2H2O です。同じ硝酸なのに生成物が分かれるのは、二酸化窒素と水の平衡 3NO2+H2O⇄2HNO3+NO が、液の中の水と硝酸の量で左右に動くためです。

この違いは工場でもそのまま表れ、濃い硝酸で金属を溶かすと赤褐色のNO2が多く出て、薄い硝酸では無色のNOが主になります。鉄やアルミニウムが濃硝酸にほとんど溶けない「不動態」も、ステンレスの酸洗いや不動態化処理につながる同じ化学の話です。

この記事では、2つの半反応式の違いと覚え方、生成物が分かれる理由、式の作り方と銅との反応式、計算例の順に整理します。後半では、不動態のしくみ、工場での硝酸の使い道と濃度の規格、NOxや法令を含む取扱いの注意までを見ていきます。

目次

濃硝酸と希硝酸の半反応式の違いと覚え方

2つの式を並べると、違いは右辺にできる窒素の化合物と、左辺で受け取る電子の数にあります。濃硝酸では窒素1個が電子を1個受け取ってNO2に、希硝酸では電子を3個受け取ってNOになり、水素イオンと水の数はその差に合わせて決まります。

濃硝酸の半反応式(生成物は二酸化窒素)
HNO3 + H+ + e− → NO2 + H2O
希硝酸の半反応式(生成物は一酸化窒素)
HNO3 + 3H+ + 3e− → NO + 2H2O
硝酸は水中でほぼ完全に電離しているので、イオンで書くと NO3−+2H++e−→NO2+H2O、NO3−+4H++3e−→NO+2H2O になります。e−:電子。どちらも両辺の原子の数と電荷(0)がそろっています。

硝酸が強い酸化剤になるのは、硝酸の窒素が酸化数+5という窒素で最も高い状態にあり、電子を受け取って低い状態へ下がりやすいからです。酸化数はNO2で+4、NOで+2なので、下がる幅がそのまま受け取る電子の数になります。

図1:窒素の酸化数の階段

硝酸の窒素(+5)が何段下がるかで、受け取る電子の数と生成物が決まります。

酸化数 +5HNO₃(硝酸)窒素がいちばん酸化された状態。相手から電子を奪う酸化剤として働く
酸化数 +4(電子1個)NO₂(二酸化窒素)赤褐色の気体。濃硝酸の代表的な生成物で、水が多いと水と反応する
酸化数 +2(電子3個)NO(一酸化窒素)無色の気体で水に溶けにくい。希硝酸の代表的な生成物で、空気に触れるとNO₂になる

※酸化数は、化合物の中の酸素を−2、水素を+1として求めます。HNO₃の窒素は +1+x+3×(−2)=0 より+5です。

2つの硝酸を項目ごとに比べると、次の表のようになります。表の「代表的な生成物」は半反応式で使う生成物で、実際の反応ではどちらの硝酸でもNO2とNOが両方でき、その割合が濃さで変わります。

比べる点濃硝酸希硝酸
代表的な生成物NO2(二酸化窒素)NO(一酸化窒素)
気体の色赤褐色無色(空気に触れると赤褐色に変わる)
窒素の酸化数の変化+5→+4+5→+2
HNO31個が受け取る電子1個3個
銅との反応式Cu+4HNO3→Cu(NO3)2+2NO2+2H2O3Cu+8HNO3→3Cu(NO3)2+2NO+4H2O
銅1 molあたりの気体(理論値)NO2 2 molNO 2/3 mol
鉄・アルミニウム・クロム不動態になり、ほとんど溶けない溶ける
反応式は半反応式から組み立てたもの(本文の作り方を参照)。不動態はコトバンク所収の日本大百科全書・世界大百科事典の「硝酸」による

覚え方は、名前と生成物を語呂で結ぶよりも、理由ごと押さえるほうが忘れにくく応用も利きます。押さえる点は次の2つで、生成物さえ決まれば、式そのものは後で紹介する4つの手順で必ず組み立てられます。

  • 水の量で覚える:濃硝酸は水が少ないのでNO2が水と反応せずに残り、希硝酸は水が多いのでNO2が水と反応してNOに変わる
  • 電子の数で確かめる:NO2は窒素が1段下がるので電子1個、NOは3段下がるので電子3個。左辺のe−の数が1か3かで式の正しさを点検できる

同じ硝酸なのに濃硝酸と希硝酸で生成物が異なる理由

結論からいえば、生成物を分けているのは液の中の水の量で、水が多いほどNO2がNOへ変わり、硝酸が濃いほどNOがNO2へ変わります。2つの向きは、次の1本の平衡の式の右向きと左向きにあたります。

二酸化窒素と水の平衡
3NO2 + H2O ⇄ 2HNO3 + NO
右向き:水が多い液(希硝酸)で進みやすく、NO2が硝酸とNOに変わる。左向き:硝酸が多く水が少ない液(濃硝酸)で進みやすく、NOが硝酸に酸化されてNO2になる。両辺とも N 3個・O 7個・H 2個。

ただし半反応式は代表的な生成物で整理した式で、実際に出るNO2とNOの割合は、硝酸の濃さに加えて金属の種類や温度、気体と液の触れ方でも変わります。以下では、銅を入れたときに液の中と液の外で何が起きているかを、順に見ていきます。

図2:銅を硝酸に入れたときに起きること

液の中ではNO₂とNOの両方ができ、濃さによってどちらかに寄せられます。液の外では、NOが空気の酸素でNO₂に変わります。

銅+硝酸NO₂ ができるNO ができる濃:NOが酸化されNO₂へ希:NO₂が水と反応しNOへ液の外(空気)Cu→Cu²⁺+2e⁻液の中(反応の直後)2NO+O₂→2NO₂(赤褐色に)

※どちらの硝酸でも、液から出たNOは空気に触れるとNO₂になります。希硝酸の試験管でも口の近くが赤褐色に見えるのはこのためです。

濃硝酸も希硝酸も、実はNO2とNOの両方ができている

銅を硝酸に入れると、濃硝酸でも希硝酸でも、NO2とNOの両方ができます。硝酸で金属を溶かす工程の窒素酸化物(NOx)を調べた2024年の論文では、銅と鉄を80℃で溶かしたとき、硝酸が8〜11 mol/L(質量でおよそ4〜5割)の範囲ではNOxの約9割がNO2でした。

同じ論文では、3〜8 mol/Lの範囲でNO2の割合が硝酸の濃さによって変わり、濃いほど金属1 molあたりのNOxも多くなると報告されています。濃硝酸ならNO2だけ、希硝酸ならNOだけ、と白黒がつくのではなく、濃さに応じて割合が連続的に動くと考えるのが実態に近い見方です。

そもそも銅は、イオン化傾向が水素より小さく、塩酸や希硫酸には溶けません。それでも硝酸に溶けるのは、水素イオンではなく硝酸イオンが酸化剤として電子を受け取るからで、標準電極電位で比べると差がはっきりします。

標準電極電位(25℃、値が大きいほど電子を受け取りやすい)
NO3− + 4H+ + 3e− ⇄ NO + 2H2O +0.96 V
Cu2+ + 2e− ⇄ Cu +0.34 V
Au3+ + 3e− ⇄ Au +1.52 V
硝酸イオンの側が銅より高いので、銅は電子を奪われて Cu2+ になります。金は硝酸イオンより高いので、硝酸だけでは溶けません。値は Chemistry LibreTexts の標準電極電位表による。

反応の途中では、硝酸が還元されてできる亜硝酸(HNO2)が仲立ちをすると考えられています。銅を硝酸に溶かす実験では、硝酸が薄い条件で、生じた亜硝酸が溶解を速める自己触媒的なふるまい(反応が始まるとだんだん速くなる)が報告されており、硝酸が濃い条件では見られないとされています。

濃硝酸ではNOが途中で硝酸に酸化されてNO2になる

濃硝酸の液は水が少なく、硝酸の分子が大量にあります。銅の表面でNOができても、気体として抜け出す前に周りの硝酸に酸化され、液の中でNO2に変わるため、出てくる気体はほとんどNO2になります。

液の中でNOが硝酸に酸化される反応(平衡の左向き)
NO + 2HNO3 → 3NO2 + H2O
上の平衡 3NO2+H2O⇄2HNO3+NO を右辺から左辺へ読んだ式です。硝酸が多く水が少ないほど、この向きに進みます。

この向きの反応は、ルシャトリエの原理で考えると分かりやすくなります。平衡の右辺にある硝酸が多く、左辺の水が少ない濃硝酸では、平衡は硝酸を減らして水を増やす左向きへずれ、NOはNO2へ押し戻されます。

希硝酸ではNO2が水と反応してNOに戻る

希硝酸は濃硝酸と違って水が多いため、できたNO2はすぐに水と出会います。NO2は水と反応して硝酸とNOに変わり、NOは水に溶けにくいので気体として出ていくため、希硝酸から出る気体はNOが主になります。

液の中でNO2が水と反応する(平衡の右向き)
3NO2 + H2O → 2HNO3 + NO
液の外でNOが空気に触れたとき
2NO + O2 → 2NO2
1つ目の式では、NO23個のうち2個の窒素が+5(硝酸)へ上がり、1個が+2(NO)へ下がります。同じ物質の一部が酸化され一部が還元されるこの反応を、不均化といいます。

この3NO2+H2O→2HNO3+NOは、硝酸を工業的につくるオストワルト法の吸収塔で使われている反応そのものです。工場では、出てきたNOを空気で再びNO2に酸化して水に吸わせることを塔の中で繰り返し、希硝酸の試験管で起きていることを大規模に利用しています。

濃硝酸と希硝酸の半反応式の作り方

半反応式は、反応物と生成物さえ分かれば、決まった4つの手順で誰でも同じ式にたどり着けます。硝酸の場合は、濃硝酸ならNO2、希硝酸ならNOを右辺に置くところだけが違い、あとの手順は共通です。

半反応式を作る4つの手順

図3:半反応式を作る4つの手順

酸素、水素、電荷の順に、両辺の数をそろえていきます。

①反応物と生成物を書く左辺に反応前の物質(HNO₃)、右辺に反応後の物質(NO₂またはNO)を書く
②酸素をH₂Oでそろえる酸素が足りない辺に、足りない数だけH₂Oを加える
③水素をH⁺でそろえる水素が足りない辺に、足りない数だけH⁺を加える
④電荷をe⁻でそろえる両辺の電荷の合計を比べ、大きい側にe⁻を加えて等しくする

※①の生成物は覚えておく必要があります。硝酸なら「濃いとNO₂、薄いとNO」を、水の量の理由と合わせて押さえます。

濃硝酸の半反応式の作り方

濃硝酸では右辺にNO2を置きます。酸素は右辺が1個少ないので水を1個、水素は左辺が1個少ないので水素イオンを1個加え、最後に左辺の電荷+1を電子1個で打ち消します。

手順① 反応物と生成物
HNO3 → NO2
手順② 右辺の酸素が1個足りないのでH2Oを1個
HNO3 → NO2 + H2O
手順③ 左辺の水素が1個足りないのでH+を1個
HNO3 + H+ → NO2 + H2O
手順④ 左辺の電荷が+1、右辺が0なので左辺にe−を1個
HNO3 + H+ + e− → NO2 + H2O
検算:H 2=2、N 1=1、O 3=3、電荷 0=0。窒素の酸化数は+5→+4で、1段下がった分が電子1個に対応します。

希硝酸の半反応式の作り方

希硝酸では右辺にNOを置きます。酸素は右辺が2個少ないので水を2個、水素は左辺が3個少ないので水素イオンを3個加え、左辺の電荷+3を電子3個で打ち消すと完成です。

手順① 反応物と生成物
HNO3 → NO
手順② 右辺の酸素が2個足りないのでH2Oを2個
HNO3 → NO + 2H2O
手順③ 左辺の水素が3個足りないのでH+を3個
HNO3 + 3H+ → NO + 2H2O
手順④ 左辺の電荷が+3、右辺が0なので左辺にe−を3個
HNO3 + 3H+ + 3e− → NO + 2H2O
検算:H 4=4、N 1=1、O 3=3、電荷 0=0。窒素の酸化数は+5→+2で、3段下がった分が電子3個に対応します。右辺はNO2ではなくNOです。

銅・銀との反応式:半反応式を足し合わせる

金属との反応式は、硝酸の半反応式と金属の半反応式 Cu→Cu2++2e− を、電子の数がそろうように何倍かして足し合わせます。最後に、電離していない形に戻すため両辺に同じ数の硝酸イオンを足すと、教科書で見る化学反応式になります。

銅と濃硝酸(電子2個どうしなので、硝酸の式を2倍)
Cu + 2HNO3 + 2H+ → Cu2+ + 2NO2 + 2H2O
両辺に 2NO3− を足して
Cu + 4HNO3 → Cu(NO3)2 + 2NO2 + 2H2O
銅と希硝酸(電子2個と3個の最小公倍数6にそろえ、銅を3倍・硝酸を2倍)
3Cu + 2HNO3 + 6H+ → 3Cu2+ + 2NO + 4H2O
両辺に 6NO3− を足して
3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 2NO + 4H2O
検算(濃):N 4=2+2、O 12=6+4+2、H 4=4。(希):N 8=6+2、O 24=18+2+4、H 8=8。H+と NO3− を合わせたものが HNO3 です。

銀は Ag→Ag++e− と電子を1個出すので、組み合わせ方だけが変わります。濃硝酸では電子1個どうしでそのまま足せて、希硝酸では銀の式を3倍して硝酸の式と足すと、次の2本になります。

銀と濃硝酸
Ag + 2HNO3 → AgNO3 + NO2 + H2O
銀と希硝酸
3Ag + 4HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O
検算(濃):N 2=1+1、O 6=3+2+1、H 2=2。(希):N 4=3+1、O 12=9+1+2、H 4=4。

2本の式を見比べると、希硝酸のほうが銅1 molあたりの硝酸も気体も少ないことが分かります。NOは電子を3個受け取れるので、NO2より少ない数で金属の電子を引き受けられるからです。銅の電解精錬のように銅を扱う現場でも、この係数の差が酸と排ガスの量の差になります。

計算例:銅1 kgを溶かすと、気体と硝酸はどれだけ出入りするか

反応式の係数から、銅1 kgを溶かしきったときの気体の量と、使う硝酸の量を求めます。ここで出すのは反応式どおりに進んだと仮定した理論値で、実際はNO2とNOが混ざるため、両者の間の値になります。

銅の物質量
1,000 g ÷ 63.55 g/mol = 15.74 mol
濃硝酸(Cu:NO2:HNO3=1:2:4)
NO2=15.74×2=31.5 mol → 31.5×22.4 L=約705 L(約1.45 kg)
HNO3=15.74×4=63.0 mol → 63.0×63.01 g=約3.97 kg
希硝酸(Cu:NO:HNO3=3:2:8)
NO=15.74×23=10.5 mol → 10.5×22.4 L=約235 L(約0.31 kg)
HNO3=15.74×83=42.0 mol → 42.0×63.01 g=約2.64 kg
モル質量:Cu 63.55、HNO3 63.01、NO2 46.01、NO 30.01 g/mol。気体の体積は0℃・1気圧(1 molあたり22.4 L)で換算。HNO3は100%硝酸に換算した量です。

濃硝酸で溶かすと、気体の体積は希硝酸の3倍、使う硝酸は約1.5倍になります。金属を硝酸で溶かす工程では、出てくるNOxを吸収塔などで処理する必要があり、その設備の大きさはこの係数の差に直結します。

不動態:鉄・アルミニウム・クロムが濃硝酸で溶けにくい理由

濃硝酸は銅や銀を溶かす強い酸化剤ですが、鉄・アルミニウム・クロムは濃硝酸にほとんど溶けません。表面にごく薄い酸化物の膜ができ、それ以上の反応を止める「不動態」になるためで、同じ金属でも希硝酸には溶けます。

図4:不動態のしくみ

濃硝酸の強い酸化力で金属の表面に薄い酸化皮膜ができ、内部への反応を止めます。皮膜ができない銅は溶け続けます。

鉄・アルミ・クロム銅薄い酸化皮膜で反応が止まる皮膜ができず Cu²⁺ で溶け出す濃硝酸濃硝酸

※不動態は条件しだいで壊れます。希硝酸や塩化物イオンを含む液、皮膜が傷ついた状態では、鉄やアルミニウムも溶けます。

この性質を製品に生かしているのがステンレスです。ステンレスの耐食性は、表面にできる厚さ数nmの不動態皮膜によるもので、皮膜はクロムを主とする水和オキシ水酸化物でできています。クロムを10.5%以上含む鉄の合金がステンレスと呼ばれるのは、この皮膜がクロムによって保たれるからです。

アルミニウムも空気中で自然に薄い酸化皮膜をつくり、これを電気化学的に厚く育てたものがアルマイトです。濃硝酸の中での不動態は、こうした酸化皮膜による保護を、強い酸化剤の力で一気につくっている状態といえます。

ステンレスの不動態化処理に硝酸を使う

ステンレスでも、溶接や切削のあとは表面が傷んだり鉄粉が付いたりして、本来の耐食性が出ないことがあります。そこで加工後に酸で洗って表面を清浄にし、同時に不動態皮膜を整える「不動態化処理」を行い、その代表的な液が硝酸の水溶液です。

新潟県工業技術総合研究所の試験では、SUS430を硝酸10〜50%・30〜50℃、SUS304を硝酸50%・50℃で、それぞれ60分浸しました。その結果、処理したものはすべて未処理より孔食電位(5%食塩水中で孔食が起きる電位)が高く、表面にクロムが濃縮していました。

ただし50%の硝酸ではほかの濃度より孔食電位が低く、濃すぎると保護性の劣る皮膜になると考察されています。これは1つの研究機関が特定の条件で調べた結果で、実際の処理条件は鋼種や規格に合わせて決めます。

濃ければ濃いほどよいわけではない点が、実務では大切です。SUS304が錆びる原因のひとつであるもらい錆の除去や、ステンレスの種類ごとの処理条件の違いも、この皮膜のでき方から理解できます。

実際の工場では:硝酸の使い道と濃度の規格

ステンレス部品をかごごと酸処理槽に下ろす作業者

半反応式で見た硝酸の2つの顔、つまり窒素を供給する原料としての顔と、金属を酸化する酸化剤としての顔は、工場での使い道にそのまま対応します。量で最も多いのは肥料で、そのほかに樹脂の原料づくりや金属の表面処理に使われています。

肥料・ナイロン原料・金属の表面処理

図5:硝酸の主な行き先

原料として窒素を渡す使い方と、酸化剤として金属に働く使い方があります。

肥料アンモニアで中和して硝酸アンモニウムに。用途の大半
ナイロン・ウレタンアジピン酸、カプロラクタム、ニトロベンゼンなどの製造
ステンレスの処理焼鈍後のスケール除去(硝酸・硝ふっ酸)と不動態化
シリコンのエッチングふっ酸との混酸で太陽電池用の基板表面を加工

※出典:欧州連合の技術資料(BREF、2006年)、IPCC 2006年ガイドライン、日本製鉄技報第416号(2020年)、特許公開 JP2005217193A。

欧州連合の技術資料(2006年)によると、生産される硝酸の大半は無機肥料向けで、多くはアンモニアで中和して硝酸アンモニウムにします。原料のアンモニアはハーバーボッシュ法でつくられ、硝酸自体もそのアンモニアを酸化してつくるので、硝酸アンモニウムの2つの窒素は、どちらも空気中の窒素に由来します。

硝酸アンモニウム(硝安)をつくる中和反応
NH3 + HNO3 → NH4NO3
酸化還元ではなく中和反応で、窒素の酸化数は変わりません(NH4+の窒素は−3、NO3−の窒素は+5のまま)。

樹脂の分野では、硝酸はナイロン6,6の原料であるアジピン酸や、ナイロン6の原料のカプロラクタム、ウレタン原料につながるニトロベンゼン・ジニトロトルエンの製造に使われます。アジピン酸はシクロヘキサノンなどを硝酸で酸化してつくり、ここでは硝酸が酸化剤として働いています。

金属の表面処理では、酸化剤としての性質が主役です。日本製鉄技報(2020年)によると、ステンレスの冷延鋼板を焼きなましたあとの連続ラインでは、前処理に続いて硝酸または硝酸とふっ酸の混合液(硝ふっ酸)に浸し、表面の酸化スケールを取り除きます。

同じ報告では、表面の光沢が求められるフェライト系ステンレスには硝ふっ酸への浸漬が使えず、硝酸の中で電解する方法などを使うとしています。シリコンでも、ふっ酸と硝酸の混酸で太陽電池用の基板をエッチングし、表面の反射を減らす方法が特許に記されています。

硝酸の濃度:98%・62%・50%の区分と市販品の濃さ

硝酸水溶液の区分として、98%(比重1.50以上)、62%(1.38以上)、50%(1.31以上)が辞典に挙げられており、市販の濃硝酸は60〜70%です。半反応式でいう「濃硝酸」は、おおむねこの市販品の濃さを指すと考えると実物とつながります。

70%前後で区切りがあるのは、硝酸と水が約70%(日本大百科全書では69.8%、沸点123℃)の共沸混合物をつくり、蒸留だけではそれ以上に濃くできないからです。

オストワルト法の吸収塔で得られる硝酸は50〜65%で、99%近い濃硝酸は、濃硫酸や硝酸マグネシウムで水を抜く方法などでつくります。

濃い硝酸に二酸化窒素を溶かしたものは発煙硝酸と呼ばれ、硝酸そのものも強い酸化剤として液体ロケット燃料に使われてきました。濃硝酸が光で分解して黄褐色になるのも、生じたNO2が溶けているためで、保管では光を避けることが基本になります。

硝酸を扱うときの注意:NOx・劇物・保管

硝酸の取扱いで気をつける点は、半反応式から読み取れる性質とつながっています。金属や有機物と反応してNOxを出すこと、皮膚を強く侵すこと、酸化剤としてほかの物の燃焼を助けることの3つで、法令でもこれらに応じた規制がかかっています。

図6:硝酸を扱うときの4つの注意

ガス・人体・火災・法令の4つの面から、取扱いのポイントを押さえます。

NOxを出さない・吸わない金属を溶かすと赤褐色のNO₂などが出る。局所排気と排ガス処理で外へ出さないガス
保護具をつける重い皮膚の薬傷・眼の損傷を起こす。保護手袋・保護衣・保護眼鏡・保護面人体
燃えやすい物と離す酸化性液体で火災を助長するおそれ。木材・紙・有機溶剤と一緒に置かない火災
法令の区分を確かめる10%を超えると劇物。消防法の第6類(指定数量300 kg)は高濃度品が対象で、濃度ごとにSDSで確認法令

※危険有害性は厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の硝酸のGHSラベル情報、法令は厚生労働省の毒物及び劇物取締法・同指定令と総務省消防庁の消防法令抜粋、消防法の該当は硝酸メーカーのSDSによる。

NOxは量の見積もりから始めます。前の計算例のとおり、銅1 kgを濃硝酸で溶かすだけで理論上700 L余りのNO2が出るので、金属を溶かす槽には局所排気をつけ、吸収塔などで処理してから外へ出すのが基本です。

NO2は、厚生労働省の職場のあんぜんサイトのGHSラベル情報で「吸入すると生命に危険」「呼吸器の障害」とされ、長期や反復のばく露では肺や免疫系の障害も挙がっています。換気と排ガス処理で、吸わない対策をとります。

処理した排ガスは、NOxの濃度を測って管理します。排ガスのNOx濃度の扱いは、排ガスのO2換算の考え方とあわせて押さえておくと役立ちます。

法令では、硝酸と、硝酸を10%を超えて含む製剤は、毒物及び劇物取締法の劇物にあたります。

消防法では硝酸が第6類危険物(酸化性液体)の品名に挙がり、指定数量は300 kgで、該当する量以上を貯蔵・取り扱う場所には危険物の施設としての基準がかかります。

ただし消防法の対象は高濃度の硝酸で、市販の65〜70%品は製品のSDSに「消防法:該当しない」と書かれる例があります。扱う濃度ごとにSDSと所轄の消防署で確かめてください。

保管は、換気のよい場所で容器を密閉し、施錠して管理します。水酸化ナトリウムのような強アルカリと同じく、作業前には製品のSDSで濃度ごとの区分と応急措置を確かめ、リスクアセスメントで漏えい時の中和や洗い流しの手順まで決めておきます。

濃硝酸と希硝酸のよくある質問

硝酸は何%から濃硝酸と呼ぶのですか?

何%からという決まった境目はありません。市販の濃硝酸はおおむね60〜70%で、これを水で薄めたものを希硝酸と呼ぶのが一般的です。実際のNO2とNOの割合は濃さに応じて連続的に変わるので、境目の数字よりも「水が多いほどNOが増える」という傾向で考えます。

金や白金は硝酸に溶けますか?

硝酸だけでは溶けません。金の標準電極電位(+1.52 V)が硝酸イオンの+0.96 Vより高く、硝酸イオンが金から電子を奪えないためです。濃硝酸1と濃塩酸3を混ぜた王水を使うと、金や白金も溶かせます。

熱濃硫酸の半反応式とはどう違いますか?

熱濃硫酸の半反応式は H2SO4+2H++2e−→SO2+2H2O で、硫黄が+6から+4へ下がって二酸化硫黄が出ます。硝酸と違って希硫酸にはこの酸化力がなく、加熱した濃硫酸だけが銅を溶かします。硫酸のつくり方は接触法の記事で整理しています。

濃硝酸が黄色っぽく見えるのはなぜですか?

光や熱で硝酸の一部が分解し、できたNO2が液に溶けているためです。純粋な硝酸は無色ですが、日光の当たる場所に置くと黄褐色になるので、褐色のびんに入れて冷暗所に保管します。

まとめ

この記事のまとめ
  • 濃硝酸の半反応式は HNO3+H++e−→NO2+H2O、希硝酸は HNO3+3H++3e−→NO+2H2O
  • 生成物が分かれるのは、平衡 3NO2+H2O⇄2HNO3+NO が水の量で動くため。実際はどちらでもNO2とNOが両方でき、割合が濃さで変わる
  • 半反応式は「反応物と生成物→O を H2O で→H を H+ で→電荷を e− で」の4手順で作り、銅との式は電子の数をそろえて足す
  • 鉄・アルミニウム・クロムは濃硝酸で不動態になり、ステンレスの不動態化処理や酸洗いにも硝酸が使われる
  • 硝酸の大半は肥料向けで、10%超は劇物、高濃度品は消防法の第6類危険物。金属を溶かす工程ではNOxの処理が欠かせない

濃硝酸と希硝酸の違いは、暗記の対象というより、平衡と電子のやりとりで説明できる現象です。同じ考え方は、硝酸工場の吸収塔やステンレスの表面処理、排ガス処理の設計にもそのまま生きています。

硝酸をつくる側のしくみは前述のオストワルト法の解説で、表面処理の選び方はめっきの種類と違いで、業界の全体像は化学業界の解説で確かめると、つながりがつかみやすくなります。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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