2026年10月8日、シチズンマシナリーは軽井沢本社で会見を開き、マシニングセンタが担ってきた複雑な加工を自動旋盤に取り込む新機種2機種を発表しました。斜め穴や曲面、ミーリング(回転する刃物で面や溝を削る加工)を1台で済ませ、部品の載せ替えを減らすのが狙いです。
同社はシチズン時計の工作機械事業を担う会社で、棒状の材料を自動で送り込みながら小さな部品を削り続ける「CNC自動旋盤」が主力です。この記事を読むと、時計メーカーの子会社がなぜ精密部品の加工機で稼いでいるのか、新製品で何を広げようとしているのかが分かります。
以下では、会社の成り立ち、2つの製品ブランドと独自技術のLFV、JIMTOF2026で披露する新製品を順に取り上げます。そのうえで業績と需要の中身、就職先や取引先として見るときのポイントを、有価証券報告書やニュースリリースなどの公開情報で整理します。
シチズンマシナリーはどんな会社か

シチズンマシナリーは、シチズン時計が100%出資する工作機械メーカーです。本社は長野県北佐久郡御代田町にあり、ほかに所沢(埼玉県)、北上(岩手県)、佐久(長野県)に事業所を構えています。
主力のCNC自動旋盤は、棒材を機械の中へ自動で送り込み、回しながら刃物を当てて削っては切り離す動作を繰り返す加工機です。人が1個ずつ材料を取り付けなくても同じ部品を何千個と削り続けられるため、ねじやピン、軸のような小さな部品の量産に使われます。
自動旋盤は旋盤の仲間ですが、材料の供給から加工、切り離しまでを自動で続けられる点が大きな違いです。旋盤やマシニングセンタを含む工作機械全体の中での位置づけは、工作機械の種類と使い分けの記事で整理しています。
シチズン時計の工作機械事業を担う、自動旋盤の専業メーカーです。
※同社「会社概要」「沿革」「海外拠点」より。資本金は26億5,125万円。
時計部品の加工から始まった歴史
シチズン時計は公式サイトで、小さく高い精度が求められる時計部品で培った技術を生かし、1936年から工作機械を生産してきたと説明しています。一方、有価証券報告書の沿革には1941年に日東精機を合併して工作機械の生産を開始したとあり、起点とする年は資料によって異なります。
その後、1970年にはNC(数値制御)自動旋盤「Cincom D16」を開発し、これが現在の主力ブランドCincomの出発点になりました。
2011年には主軸台固定形の自動旋盤を手がけていたミヤノと経営統合し、2015年に現在のシチズンマシナリーへ社名を改めました。細い部品が得意なシチズンと、中径の部品が得意なミヤノの両方を持つようになったことが、今の製品構成の土台です。
強み①主軸台移動形「Cincom」と固定形「Miyano」
自動旋盤には、材料をつかむ主軸台そのものが前後に動く「主軸台移動形」と、主軸台は動かずに刃物の側が動く「主軸台固定形」があります。シチズンマシナリーは前者をCincom、後者をMiyanoのブランドで展開し、細い長物から中径の短い部品までを2つのブランドで受け持つ構成です。
主軸台移動形は、材料を支えるガイドブッシュのすぐ近くで削るため、細くて長い部品でもたわみにくいのが利点で、「スイス型」とも呼ばれます。主軸台固定形は材料を短くつかんでしっかり固定できるので、やや太い部品や、穴あけ・溝入れを組み合わせる複合加工に向きます。
部品の太さと長さで、2つのブランドを使い分けます。
※同社製品情報とニュースリリース(2026年10月8日)より。
取引先の立場では、削りたい部品の太さと長さを伝えれば、どちらのブランドが合うかを同じ窓口で相談できます。シチズン時計の有価証券報告書でも「ミヤノブランド(中・大型機)のグローバル販売戦略」を重点課題に挙げており、太めの部品の領域を海外で広げる方針です。

強み②切りくずを細かく切る「LFV」

金属を旋盤で削ると、刃物から帯状の切りくずが途切れずに出て、材料や刃物に絡みつくことがあります。絡んだ切りくずは加工面を傷つけたり刃物を欠けさせたりするため、機械を無人で長時間動かすときの大きな障害になります。
シチズンが開発したLFV(低周波振動切削)は、刃物を送る軸を主軸の回転に合わせて細かく振動させ、刃物が材料から離れる「空振り」の瞬間をつくる技術です。空振りのたびに切りくずが途切れるので、細かく分断された状態で排出されます。
刃物をわずかに振動させ、空振りの瞬間に切りくずを切ります。
※同社「LFV technology」ページの説明をもとに作図。振動は主軸の回転と同期させます。
同社によると、LFVはインコネルやチタン、ステンレス、銅、樹脂など、切りくずの処理が難しい材料に向いています。使い方も、既存のNCプログラムに開始と終了の2行を足すだけで、現場で取り入れやすい技術です。
2013年に初めて搭載機を発表してから対応機種を広げ、国内で出荷されるCincom L20のおよそ6割にLFVが搭載されています。切りくずの除去で機械を止める回数が減れば、夜間や休日の無人運転がしやすくなるため、人手の限られた加工会社ほど効果が大きくなります。
JIMTOF2026の新製品|自動旋盤でマシニング領域へ
JIMTOF2026(日本国際工作機械見本市、2026年10月26〜31日、東京ビッグサイト)で、同社は新機種2機種を初披露します。ブースのテーマは「理想を現実に、新たな加工領域へ。」で、自動旋盤で削れる範囲を広げることを前面に出しています。
新機種はCincom L32ハイスペックモデルとMiyano BNE-65ATCハイスペックモデルの2機種です。どちらもB軸(刃物の向きを傾ける軸)とATC(自動工具交換装置)を組み合わせて同時5軸加工に対応させ、受注は2027年2月に始める予定です。
斜め穴や曲面、ミーリングなど、これまでマシニングセンタなど別の設備で削っていた加工を自動旋盤の中で済ませるのが狙いです。載せ替えや段取り、位置合わせを減らし、工程集約(複数の工程を1台にまとめること)で生産性を上げる考えです。
旋盤とマシニングセンタに分かれていた工程を、自動旋盤1台にまとめます。
※MC=マシニングセンタ。同社ニュースリリース(2026年10月8日)の説明をもとに作図。
細い部品はL32、中径の部品はBNE-65ATCが受け持ちます。
※同社ニュースリリース(2026年10月8日)より。受注開始は2027年2月予定で、仕様・価格・発売時期は変更の可能性があります。

なぜ自動旋盤でマシニング領域を狙うのか
伊奈秀雄社長は会見で、マシニングセンタでは材料を治具(加工物を固定する道具)に取り付ける必要があり、人が関わる分だけミスのリスクが残ると説明しました。ロボットで一部を自動化していても、取り付けや確認で人の手が入る場面は残りやすいのが実情です。
自動旋盤なら棒材の供給を自動化しやすく、人手をかけずに部品を安定して供給できるというのが同社の考えです(MONOist、2026年10月13日)。背景には人手不足があり、社長は顧客の設備投資でも「課題解決型」が増えていると話しています。
効果の一例として同社は、医療用器具の部品で欧州製の小型マシニングセンタが13分かけていた加工を、L32ハイスペックモデルで8分20秒に縮めた例を示しています。部品や比較の条件はこの1例に限られるので、自社の部品で効くかは試し削りで確かめるのが確実です。
どこまでを置き換えるのか
自動旋盤は棒材から削り出す機械なので、置き換えの対象になるのは、L32でφ32mm、BNE-65ATCでφ65mmまでの太さに収まる部品です。大きなブロックや板状の材料から削る部品、大きく重いワークは、これまでどおりマシニングセンタの領域に残ります。
一方で、AI関連や医療、航空宇宙などの分野では、小さくて斜め穴や曲面を持つ複雑な部品が増えていると同社は説明しています。小さな複雑部品を旋盤とマシニングセンタの2台に分けて削っている工場ほど、置き換えの余地が大きいといえます。
工具の状態を見張る「ツールモニタープラス」
同じ10月8日には、加工中のモーター電流値から工具の破損や摩耗を検知するソフト「ツールモニタープラス」も発表しました。センサーを追加せずにソフトとして後付けでき、受注は2026年10月26日に始まります。
各軸の電流から複数の特徴量を計算し、学習したしきい値から外れるとアラームを出す仕組みで、刃物がワークに当たっていない空振りも見つけられます。対象はCincom L20とL32のWindows搭載機で、LFVと同じく長時間の無人運転を支える機能です。
業績|工作機械事業は862億円、売上の8割強が海外
シチズン時計の2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の有価証券報告書によると、工作機械事業の売上高は862億円(前期比16.1%増)、営業利益は77億円(同36.4%増)でした。営業利益率は約9%で、前期から利益の伸びが売上の伸びを上回っています。
工作機械事業は主にシチズンマシナリーとその子会社が担っており、同社の業績はこのセグメントの数字で見るのが基本です。グループ売上高3,468億円の約4分の1を占め、時計事業(1,970億円)に次ぐ2本目の柱で、デバイス事業(634億円)を上回ります。
地域別に見ると、日本の顧客向けは135億円にとどまり、アジア(334億円)と欧州(314億円)が二本柱です。国内は自動車関連の低迷で減収だった一方、中国の半導体関連や欧州の医療・航空機関連が伸び、全体を押し上げました。
海外が約84%を占め、アジアと欧州がほぼ並びます。
※シチズン時計 第141期有価証券報告書の「顧客との契約から生じる収益」の地域別内訳(工作機械事業、合計約863億円)。億円未満を四捨五入しているため、合計は本文の862億円と一致しません。海外比率は編集部が算出。
2026年度は1,040億円の見込み
足元はさらに伸びており、2026年4〜6月期の工作機械事業は売上高256億円(前年同期比35.0%増)、営業利益32億円(同112.5%増)でした。国内でも半導体関連の販売が増え、自動車関連にも緩やかな回復が見られます。
会見では2026年度の売上高を前年度比20%増の1,040億円と見込み、中期経営計画で2027年度までに掲げた1,000億円を1年前倒しで達成する見通しが示されました。業界全体の動きは、工作機械受注の推移と読み方で確認できます。
成長を支える需要と生産体制
成長の中心は半導体関連で、主軸台移動形のCincom Rシリーズは、半導体の検査装置に使うコンタクトプローブ(検査時にチップの端子に当てる細いピン)の量産向けに中国で旺盛な需要があります。同社は半導体製造・検査装置関連の需要が2030年ごろまで増えるとみています。
AIの普及でデータセンターの建設が続き、半導体やメモリ、コネクター、サーバ部品のほか、冷却ポンプや配管の継手といった精密部品の増産も追い風です。米州と欧州では医療関連の販売が堅調で、欧州では航空機関連も回復してきました。
小さく精密な部品を大量に必要とする分野が、受注を押し上げています。
※シチズン時計 有価証券報告書(2026年3月期)、2027年3月期第1四半期決算短信、MONOist(2026年10月13日)より。
北上の新棟と部品調達
需要に応えるため、2025年10月には北上事業所で延べ床面積5,200m²の新棟が完成し、倉庫と事務の機能を集約して生産スペースを広げました。Miyanoブランドの生産能力を増やす投資で、北上の最大生産能力は約2割増え、本格稼働は2026年4月の予定とされていました。
2026年度の生産量は前年度比1.53倍を見込み、現在もフル生産が続く状況です。一方で業界全体の活況からボールねじや軸受、直動部品などの調達が課題になっており、同社は先行発注で部材の確保を進めています。
就職・取引先として見たシチズンマシナリー

同社は御代田の本社と所沢・北上・佐久の事業所に加え、東日本・名古屋・西日本などにソリューションセンターを置き、機械の販売だけでなく加工の相談に応える体制をとっています。就職先として見るか、設備や加工先を選ぶ立場で見るかで、確かめたい点は変わります。
同じ公開情報でも、読み方は立場によって変わります。
就職・転職で見るなら
売上の8割強が海外で、欧州やアジアの顧客と向き合う機会が多い会社です。2026年3月期の工作機械事業の研究開発費は約21億円で、LFVや残材を減らす摩擦接合技術、センシングとAIを使った故障予測などの開発を進めています。
LFVやツールモニタープラスのように制御やソフトで差をつける開発が多く、機械系だけでなく電気・制御・ソフトウェアの知識も生きる職場です。業界内での規模や立ち位置は、産業機械・工作機械業界の主要企業と比べると見えてきます。
機械・電気・ソフトの経験を整理し、社外の仕事に生かす道も考えたい方は、転職・キャリアガイドも参考にできます。
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設備導入・加工先選びで見るなら
設備を選ぶ側なら、削りたい部品の太さと長さがCincomとMiyanoのどちらの範囲に入るか、斜め穴や曲面をいま別の機械で削っているかを最初に整理すると、相談が早く進みます。
新しいハイスペックモデルの受注は2027年2月からなので、JIMTOF2026の会場で実機を見て、自社の部品で試し削りを頼めるかを確かめておくと判断しやすくなります。ツールモニタープラスのように既存機へ後付けできる機能もあり、今の設備のまま試せることもあります。
加工を外注する立場なら、加工先の設備リストにCincomやMiyanoの機種名が並んでいれば、小径の量産部品に強い工場だと読み取れます。LFVの有無も、ステンレスやチタンなど切りくずの扱いにくい材料を頼むときの判断材料になります。
シチズンマシナリーのよくある質問
シチズンマシナリーとシチズン時計はどんな関係ですか?
シチズンマシナリーはシチズン時計が100%出資する子会社で、グループの工作機械事業を担っています。業績はシチズン時計の決算の中で「工作機械事業」のセグメントとして開示されています。
JIMTOF2026で発表された新機種はいつから買えますか?
Cincom L32ハイスペックモデルとMiyano BNE-65ATCハイスペックモデルは、2027年2月に受注を始める予定です。仕様や価格、発売時期は変更される可能性があると同社は説明しています。
シチズンマシナリーの自動旋盤はどんな部品の加工に向いていますか?
棒材から削り出す小さな部品の量産に向いており、Cincomは細くて長い軸やピン、Miyanoは中径で短い部品が中心です。新しいハイスペックモデルでは、斜め穴や曲面を持つ複雑な部品も対象になります。
「Cincom」「Miyano」はどう読みますか?
シチズン時計の有価証券報告書では、Cincomを「シンコム」、Miyanoを「ミヤノ」と表記しています。Miyanoは2011年に経営統合したミヤノに由来するブランドです。
まとめ
- シチズンマシナリーはシチズン時計100%出資の工作機械メーカーで、CNC自動旋盤が主力
- 細い長物向けのCincomと中径向けのMiyanoの2ブランドで、小さな部品の量産を幅広く受け持つ
- 切りくずを細かく分断するLFVは、無人運転を支える独自技術
- JIMTOF2026の新機種は、マシニングセンタで削っていた斜め穴や曲面を自動旋盤1台に集約する(受注は2027年2月予定)
- 工作機械事業の売上は862億円(2026年3月期)で8割強が海外、2026年度は1,040億円を見込む
シチズンマシナリーの強みは、時計部品で磨いた小さく精密な加工を、自動旋盤という形で世界の部品工場へ広げてきた点にあります。旋盤や切削の仕組みは加工技術の基礎、工作機械を動かすNC装置の側からはファナックの事業構成もあわせて読むと、業界の全体像がつかめます。
出典
出典・参考資料(9件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 新製品2機種:シチズン時計 ニュースリリース「【シチズンマシナリー】マシニングセンター領域の複雑加工を自動旋盤で実現」(2026年10月8日)
- ツールモニタープラス:シチズン時計 ニュースリリース「シチズンマシナリー『ツールモニタープラス』発売」(2026年10月8日)
- 会見の内容・業績見通し:MONOist「シチズンマシナリーが旋盤でマシニング領域へ、より小径高精度で成長」(2026年10月13日)
- 業績・地域別売上・研究開発費・沿革(1941年):シチズン時計 第141期有価証券報告書(2025年4月〜2026年3月)
- 2026年4〜6月期:シチズン時計 2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月14日)
- 工作機械生産の起点(1936年):シチズン時計「グループの強み」
- 会社概要・沿革・拠点:シチズンマシナリー「会社概要」、「沿革」、「海外拠点」
- 製品・LFV:シチズンマシナリー「製品情報」、「LFV technology」
- 北上事業所の新棟:MONOist(2025年10月10日)
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