ダイヘンが経常20%上方修正|半導体電源と蓄電池が伸びた理由

鋼板にアーク溶接で溶接ビードを置くトーチの接写

変圧器と溶接機の大手ダイヘンは2026年10月29日、2027年3月期の通期業績予想を引き上げ、経常利益を255億円から305億円へ19.6%上方修正しました。売上高も3,000億円へ200億円上乗せし、期末配当は1株21円から30円へ9円増やしています。

会社が挙げた理由は、半導体関連企業の設備投資と生産自動化投資が想定を上回ったことと、再生可能エネルギー向け蓄電池システムの受注が想定以上に増えたことの2点です。この記事では、その中身を公表資料の数字で確かめ、取引先や就職・転職先として見るときの読み方まで整理します。

目次

ダイヘンが10月29日に発表した上方修正の中身

今回の発表は決算短信ではなく、中間期と通期の「業績予想」を修正したお知らせです。4〜9月期の実績やセグメント別の内訳は、後日の中間決算で公表されるため、ここで扱う数字はすべて会社の予想値になります。

図1:ダイヘンの通期業績予想(2027年3月期)の修正

売上は7%、利益はどの段階でも2割前後引き上げられました。

前回予想(5月)
今回予想(10月)
前期実績
売上高
2,800億円
3,000億円(+7.1%)
2,377億円
営業利益
250億円
300億円(+20.0%)
187億円
経常利益
255億円
305億円(+19.6%)
201億円
純利益
165億円
200億円(+21.2%)
141億円
期末配当
21円
30円(+9円)
―

※純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。前期は2026年3月期。期末配当は2026年10月1日の株式分割(1株→5株)後の金額。出典:ダイヘン「業績予想の修正並びに期末配当予想の修正に関するお知らせ」(2026年10月29日)

修正後の営業利益率は計算で10.0%となり、前回予想の8.9%から1ポイント以上上がります。経常利益の305億円は前期の201億円から約5割増える水準で、5月の時点の予想(255億円)をさらに上積みする形です。

中間期の予想も営業利益を2割引き上げ

同じ発表で、4〜9月の中間期予想も見直されました。売上高は1,250億円から1,260億円への小幅な増額にとどまる一方、営業利益は90億円から110億円へ22.2%引き上げています。経常利益も95億円から115億円へ増やしており、売上の伸び以上に利益が膨らむ見立てです。

中間期の修正理由は「半導体関連企業の設備投資や生産自動化投資が当初想定以上に増加」とされています。通期ではこれに加えて、蓄電池システムの受注増が理由に挙がっており、下期の売上に効いてくる受注を織り込んだ修正だと読めます。

配当は期末9円増、株式分割後の数字の読み方

ダイヘンは2026年10月1日に1株を5株に分割したため、配当の数字は分割の前後が混ざります。中間配当105円は分割前の株数が基準で、期末配当の21円→30円は分割後の株数が基準です。

分割前に直すと期末は105円から150円になり、年間では210円から255円へ増える計算です。前期の年間180円と比べる場合も、この分割前換算で並べると比べやすくなります。配当性向30%以上という方針に沿って、利益の上方修正をそのまま配当に反映した形です。

ダイヘンの3つの事業|変圧器・溶接・半導体電源

ダイヘンは1919年に変圧器の専門メーカーとして創業し、変圧器の技術を応用して溶接機、さらに溶接ロボットや半導体向けの電源へと事業を広げてきた会社です。2026年3月期の連結売上高は2,377億円、従業員は4,542人で、事業は3つのセグメントに分かれています。

図2:ダイヘンの3セグメントと売上構成比

売上の半分以上は電力機器で、残りを溶接・電源とロボットが分け合います。

エネルギーマネジメント54%柱上変圧器、超高圧変圧器、受変電設備、系統用蓄電池、EV充電システム
マテリアルプロセシング32%アーク溶接機などの溶接・接合機器と、半導体製造装置向けの高周波電源
ファクトリーオートメーション14%アーク溶接ロボットなどの産業用ロボットと、ウエハを運ぶクリーン搬送ロボット

※売上高構成比は2026年3月期。今回の上方修正の事業別内訳ではありません。出典:ダイヘン 会社説明会資料(2026年10月7日)

注意したいのは、溶接機はマテリアルプロセシング、溶接ロボットはファクトリーオートメーションと、同じ溶接でも機器とロボットで所属が分かれる点です。半導体向けでも、高周波電源はマテリアルプロセシング、ウエハを運ぶ搬送ロボットはファクトリーオートメーションに入ります。

主力製品の多くは国内で首位のシェアを持ちます。会社説明会資料に載っている主な数字は次のとおりで、いずれも外部の調査会社の統計や同社の推計に基づく値です。

図3:ダイヘンの主要製品のシェア

4つの主力製品はいずれも国内首位で、溶接ロボットは世界でも首位です。

柱上変圧器|国内62%(1位)電柱の上で電圧を家庭用に下げる機器。創業以来の主力製品(JEMA統計と同社調査による概算)
アーク溶接ロボット|国内39%・世界20%(ともに1位)自動車・建機などの生産ラインで溶接する(新報「ウェルディングMART2025」、富士経済2025)
アーク溶接機|国内59%(1位)・世界8%(4位)自動車・造船・建機で金属をつなぐ機械(新報「ウェルディングMART2025」、富士経済と同社調査)
半導体製造装置向け高周波電源|国内40%(1位)・世界19%(3位)微細加工のプラズマをつくる電源(グローバルネット「世界半導体製造装置・試験/検査装置市場年鑑2024」)

※出典:ダイヘン 会社説明会資料(2026年10月7日)の「主要製品のシェア」。調査の時点・対象は資料記載の各出典による。

溶接機と溶接ロボットの両方で国内首位にいるため、溶接電源の制御とロボットの動きを1社で組み合わせられるのが同社の持ち味です。溶接の方式そのものの違いは溶接の種類(TIG・MIG・MAG・被覆アーク)の記事で整理しています。

会社が挙げた理由1|半導体の設備投資で高周波電源が伸びる

検査台でカバーを外した半導体装置用の高周波電源ユニット

1つ目の理由である半導体関連の設備投資が、最も直接に効くのが高周波電源です。高周波電源は、半導体製造装置の中でガスに高い周波数の電力を加えてプラズマ(電気を帯びたガス)をつくる電源で、ウエハを削るエッチングや膜をつける成膜の工程に欠かせません。

回路を細かく深く掘るほど、プラズマの強さを正確に、しかも素早く切り替える制御が要ります。ダイヘンは説明会資料で、エッチングの深掘り・微細化に向けた独自の電源システムを挙げています。

この電源にはパルス発振や省電力といった次世代プロセス向けの機能が載っており、エッチングの位置づけは半導体の前工程の流れの記事で確認できます。

図4:AI需要がダイヘンの半導体向け製品に届くまで

データセンターの投資が、製造装置を経て電源と搬送ロボットの注文になります。

AI・データセンター半導体メーカー製造装置メーカーダイヘンメモリ・高機能品設備投資エッチング装置など電源・搬送ロボット

※第1四半期決算短信・補足資料(2026年8月4日)の記載をもとにした流れ。ダイヘンの電源やロボットは製造装置に組み込まれて半導体メーカーに納入されます。

第1四半期(4〜6月)の決算短信では、生成AI関連の需要を背景にデータセンター向けを中心とした半導体関連投資が好調で、マテリアルプロセシングの受注高は前年同期比63.6%増の301億円でした。

補足資料によると、高周波電源システムの受注高は過去最高を更新し、データセンター向けの高機能半導体デバイスとメモリ向けの需要が高い水準で続いており、電源への注文が受注全体を押し上げた形です。

先端パッケージ向けの搬送ロボットも半導体の追い風

半導体の追い風は電源だけではありません。ファクトリーオートメーションでは、半導体の先端パッケージ向け搬送ロボットの需要増が第1四半期の増収要因に挙がっています。先端パッケージは複数のチップを1つの基板に高密度で載せる技術で、AI向け半導体で採用が広がっています。

ダイヘンは、角型の大きな基板の上に配線層をつくるPLP(パネルレベルパッケージ)向けに、500〜600mm角のパネルを運ぶロボットを投入しました。このうち可搬質量20kgの大気ロボットは、台湾と国内の大手メーカーで標準搭載を獲得しています。

真空中で運ぶ真空ロボットも国内の大手メーカーに納入しており、後工程の全体像は半導体の後工程と先端パッケージの記事にまとめています。

会社が挙げた理由2|再エネ向け蓄電池システムの受注が急増

絶縁紙を挟んで巻かれた変圧器コイルの銅線の接写

通期の修正で新しく加わった理由が、再生可能エネルギーの導入拡大を背景にした蓄電池システムの受注増です。太陽光発電が増えると、昼の余った電力をためて夕方以降に流す設備が要るため、送電網に直接つなぐ「系統用蓄電所」の建設が各地で進んでいます。

ダイヘンは蓄電池と、その充放電を制御するパワーコンディショナー、複数の設備をまとめて動かすEMS(エネルギーマネジメントシステム)を組み合わせて売っています。

第1四半期の補足資料では、比較的早く系統に接続できる高圧連系の蓄電所(2MW/8MWh)の導入が加速していると説明しています。

図5:ダイヘンのEMS事業の受注高見通し

2026年度の受注は前年度の約2.6倍、2030年度は700億円超を見込みます。

2025年度 実績
170億円
2026年度 見通し
450億円
2027年度 見通し
550億円
2030年度 見通し
700億円超

※EMS事業は系統用蓄電池などを含む受注高。売上高ではありません。出典:ダイヘン 会社説明会資料(2026年10月7日)。10月29日の上方修正前に公表された見通し。

受注は伸びても第1四半期の売上は前年割れ

ここで読み違えやすいのが、受注と売上の時間差です。エネルギーマネジメントの第1四半期の受注高は441億円と33.7%増えた一方、売上高は245億円で5.5%減、営業利益も22億円で6.3%減でした。前年同期に国内工場向けの受変電設備で大口の納入があった反動です。

蓄電所の設備は受注から据え付け、引き渡しまでに時間がかかるため、今の受注増は後の期の売上になります。通期の修正理由に蓄電池の「受注」が挙がっているのは、下期に売上として計上される分を見込んだためと読めます。

変圧器は新工場で生産能力を引き上げ

同じセグメントの変圧器では、データセンターや半導体工場の新増設で電力需要が増えるとみて、増産の手を打っています。

説明会資料によると、産業用油入変圧器は2026年10月の新工場完成で生産能力が従来の1.7倍になり、大形変圧器は2026年度に1.2倍、2029年度の新工場完成で2.0倍にする計画です。

変圧器は世界的に納期が延びている機器で、背景は変圧器不足とデータセンター需要の記事で数字を使って整理しています。受変電設備を発注する側にとっては、供給の増え方が気になるところです。

第1四半期はFA・溶接関連の受注も増加

作業台に並べた溶接ワイヤとトーチのノズル・チップ

10月29日の修正理由には、溶接ロボットや溶接機の個別の名前は出てきません。ただし中間期の理由にある「生産自動化投資」の増加は、溶接ロボットを含むファクトリーオートメーションに関わる話で、第1四半期の数字にもその動きが表れていました。

図6:第1四半期(2026年4〜6月)のセグメント別実績

受注はすべての事業で大きく伸び、売上と利益が減ったのはエネルギーマネジメントだけです。

受注高
売上高
営業利益
エネルギーマネジメント
441億円(+33.7%)
245億円(−5.5%)
22億円(−6.3%)
ファクトリーオートメーション
117億円(+61.6%)
82億円(+25.7%)
4億円(約3.7億円増)
マテリアルプロセシング
301億円(+63.6%)
227億円(+37.4%)
26億円(+39.5%)
全社
860億円(+46.5%)
555億円(+13.1%)
40億円(+28.9%)

※かっこ内は前年同期比。億円未満は切り捨て。出典:ダイヘン 2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年8月4日)

ファクトリーオートメーションは、世界的な生産自動化投資の回復を受けて受注が61.6%増え、補足資料によると日本・中国・欧州・北米などすべての地域で伸びました。営業利益は4億円と小さいものの、前年同期のほぼゼロから立ち上がっています。

自動化投資の戻りは同社だけの動きではなく、ロボット業界全体の受注の流れは産業用ロボット受注額の推移で確認できます。

溶接機を含む溶接・接合も、中国の炭鉱設備メーカー向けの販売増で受注を伸ばしました。高周波電源ほどの勢いではありませんが、マテリアルプロセシングの数字を支える柱の1つになっています。

AI溶接ロボットや金属3Dプリンタも投入

2026年7月には工場内を自ら移動してツールを持ち替える自走ロボット「VIVACE」の受注を始め、作業対象物をカメラで認識するAIアーク溶接ロボットは2026年10月の受注開始を予定しています。狙いは、ロボットへの教示や溶接の熟練技能がなくても自動化できる状態です。

2026年5月には、金属ワイヤをアーク溶接で積み上げて形をつくる金属積層造形(WAAM)の事業も始めました。ロケットノズルや船のプロペラのような大型部品を想定し、2030年に売上高100億円を目標に掲げています。溶接の技術を、つなぐ用途からつくる用途へ広げる取り組みです。

下期に確かめたい点と、立場ごとの見方

今回の修正を数字で分解すると、上期の増額分と下期の増額分に分けられます。通期の経常利益305億円から中間期の115億円を引くと、下期の経常利益は計算で190億円となり、前回予想の160億円から30億円増えています。

上期の増額は20億円なので、通期の上乗せの半分以上は下期の見込みです。下期は蓄電池の受注が売上になるかどうかと、半導体関連の投資が高い水準で続くかどうかに左右されるため、今後発表される中間決算で受注残や事業別の数字を確かめる必要があります。

リスクとしては、半導体の設備投資は数年ごとに大きく波打つ点が挙げられます。また溶接・接合の伸びは中国の特定業種向けに支えられている面があり、どちらも会社の予想の前提が崩れれば下期の数字は変わります。

図7:立場ごとに確かめたいこと

上方修正の数字そのものより、自分に関わる製品の動きを確かめるのが実務的です。

機器を買う側(購買・設備)変圧器・受変電設備・溶接機の納期回答と、増産後の供給の見通しを営業窓口に確かめる
部品・材料を納める側高周波電源・搬送ロボット・蓄電池システム向けの部材で、下期の発注量がどう変わるかを確かめる
就職・転職で見る人伸びている3事業のどこに配属されうるか、事業所ごとの製品と増産計画を採用情報で確かめる
業界の動きを追う人中間決算の事業別受注と受注残を見て、半導体投資と蓄電所の勢いが続いているかを確かめる

就職や転職で見る場合、ダイヘンは変圧器という電力インフラの安定した柱を持ちながら、半導体・ロボット・蓄電池という伸びる分野を同時に抱える会社です。同じFA分野の動きとしては、安川電機の業績予想修正と並べて読むと、ロボット需要の回復の度合いを比べられます。

電機・半導体装置のメーカーへの転職も考えたい方へ、求人の探し方と相談先を転職・キャリアガイドにまとめています。

ダイヘンの上方修正のよくある質問

今回の上方修正で、事業ごとの内訳は公表されていますか?

公表されていません。10月29日のお知らせは全社の売上高・利益と配当の予想だけで、セグメント別の内訳は中間決算の発表を待つ必要があります。事業ごとの動きは、第1四半期の決算短信と補足資料から読み取るのが現時点で確かな方法です。

配当の「9円増」は株式分割の前と後どちらの数字ですか?

分割後の数字です。期末配当は1株21円から30円に増え、2026年10月1日の1株→5株の分割前に換算すると105円から150円への増配になります。中間配当105円は分割前の株数が基準なので、年間の比較は分割前換算で並べると分かりやすくなります。

修正後の予想は、ダイヘンの中期計画の目標と比べてどうですか?

2026年度の中期計画目標(売上高2,500億円、営業利益率10%以上)を、売上高3,000億円・営業利益率10.0%で上回る予想です。売上高は、2030年度の目標に置いていた3,000億円の水準に前倒しで届く計算になります。

ダイヘンは溶接ロボットで世界一ですか?

同社の会社説明会資料では、アーク溶接ロボットの世界シェアを20%で世界1位としており、根拠は富士経済の2025年の調査です。産業用ロボット全体の首位という意味ではなく、アーク溶接に使うロボットに限った順位です。

まとめ

この記事のまとめ
  • ダイヘンは2026年10月29日、通期の経常利益予想を255億円から305億円へ19.6%引き上げ、期末配当も9円増やした
  • 会社が挙げた理由は、半導体関連・生産自動化の設備投資の増加と、再エネ向け蓄電池システムの受注増の2点
  • 半導体向けでは高周波電源の受注が過去最高で、先端パッケージ向け搬送ロボットも伸びている
  • 蓄電池は受注が大きく伸びた一方、第1四半期の売上は前年割れで、増加分は後の期の売上になる
  • 下期の経常利益は計算で190億円と前回より30億円多く、中間決算の事業別受注と受注残が次の確認点

ダイヘンの今回の修正は、半導体と電力という製造業の2つの大きな投資の流れが、1社の業績に重なって表れた例です。取引先として関わるなら購買・調達や技術営業・FAEの仕事の記事、技術の背景は半導体製造や産業用ロボットのテーマから関連記事をたどれます。

FA・ロボット関連の企業の動きは、FA・自動化システムの業種ページにまとめています。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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