イビデンとは?ICパッケージ基板の強みと事業・業績を決算で読む

半導体パッケージ基板の端子面を斜めから写した接写

イビデンは、AIサーバーや高性能CPUに使う半導体を載せる土台「ICパッケージ基板」を主力とする、岐阜県大垣市のメーカーです。2026年度(2027年3月期)の会社予想では、営業利益の約86%をこの基板を扱う電子事業で稼ぐ計画です。

2026年10月29日には、通期の経常利益予想を1,270億円から1,345億円へ約6%引き上げました。自動車の排ガスを浄化するセラミック部品も手がけますが、最終製品を持たない部品メーカーなので、決算のニュースだけでは事業の姿をつかみにくい会社です。

目次

イビデンはどんな会社か

イビデンは1912年に水力発電会社「揖斐川電力」として設立され、本社はいまも岐阜県大垣市にあります。主な製品はICパッケージ基板、SiC-DPF(炭化ケイ素製の排ガスフィルター)、グラファイトなどで、いずれも他社の製品に組み込まれるBtoBの事業です。

図1:イビデンの現在の姿

大垣に本社を置き、海外にも生産拠点を持つ部品メーカーです。

設立1912年揖斐川電力として発足。1982年に現社名へ
本社 岐阜県大垣市東証プライム・名証プレミアに上場(証券コード4062)
連結11,105人単体は4,036人(2026年3月31日現在)
売上4,162億円2025年度(2026年3月期)の連結実績

創業期は、発電した電気を売るだけでなく、電気炉で大量の電力を使うカーバイドの生産へ1917年に進みました。1919年には炭素製品に広げており、この流れは1969年に始めた特殊炭素製品や、現在のグラファイトの事業へ続いています。

電子分野への参入は1972年の電子回路製品からで、1987年にはプラスチック製のICパッケージ基板の営業を始め、1988年に河間工場で生産に入りました。

1999年には乗用車向けのDPF(排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルター)を世界で初めて実用化しており、電力から化学、炭素、電子、環境へと、主力を置き換えながら続いてきた会社です。

図2:事業の節目

祖業の電力から、基板とセラミックを柱とする今の形へ移ってきました。

1912揖斐川電力を設立水力発電から出発
1917カーバイドの生産電力を使う化学品へ。1919年に炭素製品も開始
1972電子回路製品へ参入1987年にパッケージ基板の営業を開始、翌年生産へ
1982イビデンに商号変更揖斐川電気工業から社名を変更
1999DPFを実用化乗用車向けで世界初。2004年にハンガリーへ生産会社を設立
2025大野事業場を開設AIサーバー向け基板の量産拠点

売上の柱は電子事業|3つの事業と稼ぐ比率

格子状の穴が並ぶセラミック製ハニカムフィルターの接写

事業の区分は電子、セラミック、その他の3つです。2026年度の会社予想では売上の68%、営業利益の86%を電子事業が占め、売上以上に利益が電子へ偏る構造になっています。2025年度の実績は売上の58%、営業利益の73%だったので、1年で比重がさらに上がる見通しです。

図3:事業別の売上と営業利益の比率

電子事業の比率は、売上より営業利益で大きくなります。

売上高 5,650億円
電子
3,850億円(68%)
セラミック
880億円(16%)
その他
920億円(16%)
営業利益 1,330億円
電子
1,140億円(86%)
セラミック
75億円(6%)
その他
115億円(9%)

※2026年度(2027年3月期)の会社予想。2026年10月30日の説明会資料より。比率は四捨五入のため、合計が100%にならない項目もあります。

電子事業:半導体とマザーボードをつなぐ基板

電子事業の製品はICパッケージ基板です。半導体チップとマザーボードの間に入る中継の部品で、チップの細かな端子の間隔を、マザーボード側の広い間隔へ変換しながら信号と電源を通します。チップの性能を外へ引き出す通り道にあたり、高性能なチップほど配線の本数も必要な電力も増えていきます。

図4:ICパッケージ基板の位置

チップのすぐ下で、端子の間隔を広げる役割を担います。

半導体チップICパッケージ基板マザーボード上:細かな間隔の端子下:広い間隔の端子

※構造を簡略化した模式図です。実際の基板はコアの上下に多数の配線層を重ねます。

使われる先はデータセンターのサーバーやパソコンで、同社は市場をAI GPU、AI ASIC(AI推論などに特化したチップ)、汎用サーバー、パソコンなどに分けて見ています。チップの実装工程全体を知りたいときは、半導体の後工程の流れもあわせて読むと位置づけが分かります。

セラミック事業:排ガス浄化と炭素製品

セラミック事業は、2026年度の売上予想が880億円です。自動車の排気系が中心で、半導体製造装置やEV向けにも広がっており、2026年度上半期の動きは製品ごとに次のように分かれました。

  • DPF(排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルター):一時的な受注増と円安で増収増益
  • 触媒担体保持・シール材:販売台数の回復で増収だが、資材高で営業減益
  • 特殊炭素製品(グラファイト):半導体製造装置向けの回復で増収増益
  • EVバッテリー用安全部材:販売・生産数量の増加で増収増益

炭化ケイ素をはじめとする材料の特性は、ファインセラミックスの種類と用途で詳しく比べています。内燃機関向けについて同社は見通しに変化はないとし、新興国の商用車や建機・農機の需要を取り込む方針を示しました。

その他事業:設備工事から建材、食品まで

その他事業は、設備の設計・施工、メラミン化粧板などの建材、法面・造園工事、食品加工といった幅広いグループ会社の集まりです。2026年度の売上予想は920億円と電子に次ぐ規模で、営業利益の予想115億円はセラミック事業の75億円を上回ります。

ICパッケージ基板で強いとされる3つの理由

はんだボールが並ぶパッケージ基板の裏面を真上から見た様子

同社は説明会資料で「ハイエンド市場でのトップシェアを維持する」と方針を掲げていますが、今回確認した決算資料に具体的なシェアの数字はありません。そこで会社の表現とは分けて、公開資料の数字で確かめられる事実から強みを読み解きます。

図5:公開資料から読める3つの強み

顧客、技術、資金の3つの面で確かめられる事実です。

顧客最先端チップの大手と取引NVIDIAが売上の29.4%、Intelが18.1%(2026年3月期)
技術大型・高多層を先行開発基板の大型化と配線層の増加に合わせて要素技術を開発
資金研究開発費を増やし続ける197億円(2022年度)から370億円(2026年度見通し)へ

最先端チップの大手を顧客に持つ

2026年3月期の有価証券報告書によると、NVIDIA向けの販売実績は1,224億70百万円で売上の29.4%、Intel向けは753億19百万円で18.1%でした。前の期のNVIDIA向けは20.3%だったので、AI向けGPUの拡大とともに最大顧客の比重が高まっています。

こうした顧客の製品は基板の大型化や多層化の先頭を走るため、量産で取引を続けること自体が次の製品に向けた技術の蓄積になると読めます。同じ市場を争う相手と増産の進め方の違いは、TOPPAN・イビデン・新光電気の増産戦略の比較で整理しました。

大型・高多層の基板を先回りして開発する

説明会資料の開発の見通しでは、基板サイズの表記が2025年の80×80から2030年以降の130×130超へ、配線層は9-X-9(コアの上下に9層ずつ)から14-X-14へ増えていきます。

面積が広がり層が増えるほど1枚に欠陥が入る確率も上がるので、大型の基板を安定して量産できること自体が参入の壁になります。ただし資料はサイズや層数の計画を示すもので、他社と比べた優位を数字で示しているわけではありません。

シリコンの小片を基板に組み込むEMIB-Tについても、2026年8月の説明会で同社は技術確立の段階をおおむね終え、歩留まり改善に入ろうとしていると説明しました。他社より先行しているとの認識も示しており、これは会社側の見方として読むものです。

次の世代の候補にはガラスコア基板もありますが、今回の資料はコア構造の複雑化や部品内蔵の進展を挙げるにとどめ、特定の材料への切り替えには触れていません。

研究開発費の9割を電子事業に振り向ける

2025年度の研究開発費は299億16百万円で、そのうち269億18百万円を電子事業が占めました。全社では2026年度に370億円(売上比6.6%)まで増やす見通しで、好業績の局面で次の製品開発に資金を回している点は、技術で勝負する部品メーカーらしい配分です。

業績を数字で見る|上方修正の中身と2030年度の目標

2026年4〜9月期の連結売上高は2,625億46百万円で前年同期比34.3%増、営業利益は601億16百万円で84.6%増でした。電子事業の売上は52.0%増、営業利益は96.7%増で、生成AI用と汎用のサーバー向け基板の需要、大野工場の生産安定、円安の3つが重なった結果です。

上半期の売上と営業利益がいずれも8月時点の予想を上回り、10月29日に通期予想を引き上げました。修正の幅は項目ごとに異なり、売上より利益の上積みが大きくなっています。

2026年度の通期予想8月4日時点10月29日修正後修正率前期比
売上高5,500億円5,650億円2.7%増35.8%増
営業利益1,270億円1,330億円4.7%増114.4%増
経常利益1,270億円1,345億円5.9%増121.1%増
純利益840億円890億円6.0%増39.7%増

純利益の伸びが営業利益より小さいのは、前期の637億円に政策投資株の売却益345億円(税引後換算)が入っているためです。

下半期の想定為替は1ドル150円と、上半期実績の159円より円高に置かれています。上半期に一時的な受注増があったセラミック事業は、下半期の営業利益を上半期の54億円より少ない21億円と見込みました。

価格の面では、2026年8月の説明会で同社は、第1四半期の売価・製品ミックスによる増益は主に売価の要因だと説明しました。業界全体の供給不足を背景に基板の平均価格が想定以上に上がっているとしており、数量だけでなく値段が利益を押し上げている点も今の業績の特徴です。

図6:売上高と営業利益の見通し

2030年度に売上1兆円以上、営業利益3,000億円以上を掲げます。

売上高
25年度 実績
4,162億円
26年度 予想
5,650億円
27年度 見通し
6,500億円
30年度 目標
1兆円以上
営業利益(括弧内は営業利益率)
25年度 実績
620億円(14.9%)
26年度 予想
1,330億円(23.5%)
27年度 見通し
1,650億円(25.4%)
30年度 目標
3,000億円以上(30%)

※濃い棒が実績、薄い棒が会社の予想・見通し・目標。2026年10月30日の説明会資料より。

今回の資料では2027年度の営業利益見通しを1,500億円から1,650億円へ150億円引き上げ、2030年度は電子事業だけで売上8,000億円、営業利益2,800億円を見込みました。なお年度の呼び方に注意が必要で、同社の2026年度は2027年3月期にあたります。

大野・河間への投資と今後の課題

同社の推計では、基板の微細配線に使うSAP(セミアディティブ法)の総需要が面積ベースで2026年の100から2030年に350へ増えます。一方で国内の能力増強計画は同じ期間に100から200へ増やす内容で、増産を続けても業界の供給能力を需要が大きく上回るとの見立てです。

図7:岐阜の2拠点への投資

拠点ごとに対象の製品と稼働の時期が分かれています。

大野事業場 Cell8
河間事業場 Cell6
対象製品
AI GPU向け高機能ICパッケージ基板
AI ASIC向け高機能ICパッケージ基板
投資額
既発表2,800億円(建屋の最大活用を検討中)
既発表2,200億円+今回追加1,500億円
稼働時期
2027年度より順次
2029年度より順次

※2026年10月30日の説明会資料より。河間の追加1,500億円は建屋の容積を最大限に使うための投資です。将来の候補地として河間にCell7、大野にCell9があり、これらを含む追加投資は顧客と条件を固めて2026年度中に決定・開示を目指すとしています。

設備投資額は2025年度の643億円から2026年度は2,100億円、2027年度は3,500億円へ増える見通しです。2026年度の2,100億円のうち2,000億円を電子事業が占め、投資の大半が基板に向かいます。

NVIDIAは2026年10月21日の発表で、大野工場を支えるために数十億ドル規模の能力予約の前払いを提供すると明らかにしました。同工場の能力を現在の3倍まで広げる目標で、追加分は2028年第1四半期から立ち上がるとしています。

同社の決算短信でも、2026年9月末までの半年で前受金が1,187億96百万円増えています。短信に顧客別の内訳は書かれていませんが、顧客の前払いが巨額投資の資金を支える形は、従来の部品ビジネスとは異なる特徴です。AI需要が部品全体へ広がる様子は次の記事でもまとめました。

読者が押さえておきたい4つの課題

強みの裏返しとして、同社の開示や説明会から読める論点は次の4つです。業績の見通しを読むときは、需要の強さだけでなくこれらの進み具合も見ておくと全体像がつかめます。

  • 顧客の集中:NVIDIAとIntelの2社で売上の47.5%(2026年3月期)を占める
  • 償却負担:減価償却費は662億円(2025年度)から900億円(2027年度)へ増える見通し
  • 人材の確保:量産の立ち上げに向けて採用強化、経験者の配置、省人化を進める
  • 材料の調達:ガラスクロスは供給元が増えて改善したものの、リスクがなくなったわけではない

就職・転職、取引先として見たイビデン

検査用の拡大鏡の下で小型の電子基板を確かめる手元

働く場としての数字は、2026年3月期の単体で平均年齢40.2歳、平均勤続16.9年、平均年間給与766万3,191円です。2025年4月の新卒入社は101人で、技術系が87人と大半を占めました。連結の従業員も半数ほどの5,608人が電子事業に所属しています。

生産拠点は岐阜県を中心に愛知県高浜市にもあり、海外はフィリピン、マレーシア、ハンガリー、韓国、メキシコが主な製造拠点です。2026年8月の説明会では、新卒・中途とも東海地区だけでなく全国で採用を広げ、関東圏の大学へのアプローチも進めていると説明しました。

図8:開示資料から読める仕事の接点

投資や開発の計画と、製造業の職種の関わりを整理しました。

生産技術大型・高多層基板の歩留まり改善
設備保全新棟の立ち上げと量産の維持
研究開発電源強化、光電変換、蓄電池の安全部材
購買・調達ガラスクロスなど主要材料の確保

※募集職種を示すものではありません。実際の職種は同社の採用情報で確認してください。

取引先の立場で見ると、大野は2027年度、河間は2029年度から順次稼働するため、装置や材料の商談はこの時期から逆算して動くことになります。主要材料の値上げについて同社は顧客への価格転嫁を進めていると説明しており、供給の安定と増産への追随が取引の重要な条件になりそうです。

基板メーカーの前後にどんな企業が並ぶのかは、電子部品・半導体業界の構造を見ると全体の位置関係を確かめられます。

電子部品・半導体材料のメーカーへの転職も考えたい方へ、求人の探し方と相談先を転職・キャリアガイドにまとめています。

イビデンのよくある質問

イビデンと新光電気工業の違いは何ですか?

どちらも高性能チップ向けのパッケージ基板を手がけますが、イビデンはDPFなどの排ガス部品も持つ上場企業です。新光電気工業は長野市に本社を置き、静電チャックなどの装置部品も収益源で、2025年6月に上場廃止となりました。

イビデンの株式分割はいつ行われましたか?

2026年1月1日と2026年10月1日に、それぞれ1株を2株にする分割を実施しました。2026年度の配当は分割後の換算で中間10円、期末予想10円の年20円で、2025年度の15円から増える予定です。

EVが増えるとセラミック事業はどうなりますか?

DPFや触媒担体保持・シール材は内燃機関向けの製品ですが、同社は新興国の商用車や建機・農機の需要を取り込むとしています。EV向けには蓄電池の安全部材を伸ばす方針で、新規製品の採用が決まり2027年第1四半期に量産を始める計画です。

まとめ

この記事のまとめ
  • イビデンはICパッケージ基板とセラミック部品を柱とする岐阜県大垣市のメーカー
  • 2026年度予想では営業利益の約86%を電子事業が稼ぐ
  • NVIDIAとIntelで売上の47.5%を占め、大型・高多層の基板を先行して開発している
  • 2026年10月29日に通期予想を上方修正し、2030年度に売上1兆円以上を目指す
  • 大野と河間に巨額を投じる一方、顧客集中・償却負担・人材・材料が論点になる

イビデンを理解するには、基板の技術と半導体市場の動きをあわせて見ると全体がつかめます。関連する職種は生産技術や購買・調達、技術テーマは半導体製造の記事が参考になります。業界全体は電子部品・半導体の業種ページから続けて読めます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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