2025年の製造業の残業時間(所定外労働時間)は月13.4時間で、全産業の平均(9.8時間)より3.6時間多くなっています。工場の残業を減らすには、時間を削る前に、残業が生まれる仕組みを調べる必要があります。
原因になりやすいのは、段取り替え(生産する品種を切り替える準備)、生産計画の急な変更、特定の人にしかできない作業です。こうした仕組みが変わらないまま時間だけを削ると、仕事が翌日に回るか、別の人に集中するだけになります。
この記事では、製造業の残業の現状を統計で確認したうえで、残業が減らない工場に出る症状と原因の5つの分類を整理します。続いて、段取り・計画・属人化・見える化の4つの対策と公的な事例を紹介します。
工場の残業は産業平均より多い
まず、製造業の残業がどの程度なのかを数字で確認します。厚生労働省の毎月勤労統計調査(2025年分確報、事業所規模5人以上)で、製造業の月間所定外労働時間を見てみます。その値は13.4時間で、調査産業計の9.8時間を3.6時間上回っています。
しかも調査産業計が前年比2.5%減だったのに対し、製造業は1.1%増でした。パートタイムを除く一般労働者に絞ると、製造業の所定外労働時間は月14.7時間になります。
製造業の残業は、全産業の平均より月3.6時間多くなっています。
※厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」第2表。事業所規模5人以上、就業形態計(パートタイム労働者を含む)の1人あたり月間平均。主な産業を抜粋。
平均で月13時間台というと多くないように見えますが、これはパートタイム労働者を含めた1人あたりの平均です。現場では、特定の工程や特定の人に残業が偏っているケースが少なくありません。
平均値だけを見て「うちは問題ない」と判断すると、偏りを見落とします。
残業には法律上の上限もあります。
時間外労働は原則として月45時間・年360時間までで、特別条項を結んでも年720時間以内に収めなければなりません。さらに、休日労働を含めて単月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内という上限もあります。
制度の全体像や交替勤務との関係は、製造業の働き方改革と残業規制で詳しく整理しています。
時間外労働が一定の時間を超えると、法律上の扱いやコストが変わります。
※厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」をもとに作成。
上限を守ることは前提ですが、コストの面でも残業削減は重要です。月60時間を超えた時間は割増率が50%以上になるため、一部の人に残業が集中している工場ほど人件費の負担が重くなります。
残業が減らない工場に共通する症状

残業が減らない工場には、共通して見られる症状があります。どれも現場では「いつものこと」として受け入れられていることが多く、原因として意識されにくいものです。
自社のラインに当てはまるものがいくつあるか、次の6つで確認してみてください。当てはまる症状によって、優先して手を付けるべき原因が変わります。
症状ごとに、疑うべき原因の見当がつきます。
症状が1つだけという工場は少なく、多くは2つ以上が重なっています。たとえば属人化している工程で段取り替えが夕方に集中すると、その人だけが毎日遅くまで残る、という形で表に出ます。
残業が生まれる5つの原因
症状の裏にある原因は、大きく5つに分けられます。原因ごとに打ち手がまったく違うため、まず自社の残業がどれから来ているのかを切り分けることが出発点になります。
「仕事量が多い」の中身を、5つに分けて考えます。
※1つの工場で複数の原因が重なることが一般的です。
段取り替えに時間がかかる
段取りとは、品種や工程内容を切り替える際に必要な材料、機械、治工具、図面などの準備と試し加工のことです。多品種少量生産の工場ほど切り替えの回数が増え、その間は設備が止まります。
段取り1回あたりの時間が長いと、回数を減らすために同じ品番をまとめて流したくなります。すると在庫が膨らみ、急ぎの品番を割り込ませるたびに計画外の段取り替えが夕方に押し出されるという悪循環に入ります。
生産計画が揺れる
受注の変動や短納期の依頼、仕様の変更が頻繁にあると、組んだ生産計画がその日のうちに崩れます。計画を立て直す仕組みがない工場では、崩れた分を現場の残業で埋めるのが当たり前になります。
計画そのものが設備や人の能力を考慮せずに組まれている場合もあります。能力を超えた量が最初から計画に載っていれば、残業は計画の時点で決まっていることになります。
作業が属人化している
特定の設備の段取り、難しい品番の加工、最終検査の判定などが1人のベテランに頼っていると、その人の手が空くまで後工程が待つことになります。ライン全体の残業の多くが、実はこの1人を待つ時間から生まれていることもあります。
属人化は休みの取りにくさにもつながります。その人が休むとラインが止まるため、有給休暇を取れず、繁忙期には長時間労働が続きやすくなります。
設備停止や不良の手直しが多い
設備の故障やチョコ停(短時間の停止)、不良品の手直しは、予定していた生産時間をそのまま削ります。1回ごとの損失は小さくても、毎日積み重なると定時後の取り戻し生産が常態化します。
この種の残業は、計画上は見えないのが厄介な点です。予定どおりに進めば残業ゼロのはずなのに、実際には毎日1時間残っている、という工場では、設備と品質のロスが残業の正体であることが多いです。
残業を管理する仕組みがない
残業が事前の申請なしに行われ、理由も記録されていないと、どの原因から来た残業なのかを後から分析できません。職場によっては、残業代が生活給の一部として当てにされている、上司より先に帰りにくい、といった慣習が残業を支えている場合もあります。
この5つ目の原因は、ほかの4つの対策を進めるうえでの土台でもあります。中身が見えない残業は、減らしようがないからです。
対策1:段取り替えの時間を短くする

段取り時間の短縮は、設備投資をほとんどかけずに効果を出しやすい対策です。考え方の軸になるのが、内段取りと外段取りの区別です。
内段取りは機械やラインを停めて行う作業、外段取りは停めずに行える作業を指します。改善の基本は、内段取りをできるだけ外段取りに移し、残った内段取りを短くすることです。考え方の源流はトヨタ生産方式のカイゼンにあります。
同じ段取り作業でも、機械が動いている間に済ませる分を増やせば停止時間は短くなります。
※長さは考え方を示すための例示です。外段取りは段取り担当者などが稼働中に並行して行います。
中小機構のJ-Net21では、段取り改善を次の順で進める方法が紹介されています。
- 現状把握:段取り作業をビデオで撮影し、作業ごとの時間を調べる
- 作業の分類:外段取り、内段取り、探す・取りに行くなどのムダに分ける
- 費用をかけない改善:加工が終わる前に次の金型や治具を準備する、複数人で同時に作業する、整理整頓を徹底する
- 中程度の投資:内段取りの外段取り化、治具の標準化、品番ごとに治工具を小箱でセットにして管理する
- 大きな改善:金型や取り付け構造の改造。経済的なメリットを必ず検証する
最初にビデオを撮ると、段取り時間の中に「工具を探す」「台車を取りに行く」「前回の条件を人に聞く」といった時間が意外に多く含まれていることに気づきます。こうしたムダは、投資ゼロの整理整頓と事前準備だけで減らせます。
段取りが短くなると、同じ品番をまとめて流す必要が薄れ、急ぎの品番を割り込ませても残業になりにくくなります。段取り改善は、次に述べる計画の柔軟性を高める効果も持っています。
対策2:生産計画で揺れを吸収する
計画の揺れから来る残業には、計画の立て方と変更のルールで対応します。ポイントは、どこまでを確定として動かさないかを決めておくことです。
近い日ほど変更しにくく、先の日ほど柔軟にしておきます。
※各期間を何日・何週にするかは、リードタイムや受注の形態によって工場ごとに決めます。
確定期間を決めても、急な注文をすべて断れるわけではありません。大切なのは、変更を受けるかどうかを現場の班長がその場で判断するのではなく、営業・生産管理・製造で残業の要否まで含めて決める流れにすることです。
もう一つは、設備と人の能力を考慮して計画を組むことです。能力を超えた量を載せないだけで、計画の時点で決まっていた残業はなくなります。Excelでの管理に限界を感じている場合は、生産スケジューラによる有限能力の計画も選択肢になります。

取引先からの短納期発注や頻繁な仕様変更が残業の原因になっている場合は、社内だけでは解決しません。
厚生労働省は、発注側の企業に対して、長時間労働につながる短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮することを求めています。これは労働時間等設定改善法の努力義務です。
取引先と話し合う際は、変更が入った日に何時間の残業が発生したかという記録が根拠になります。記録を取る仕組みは、対策4で扱います。
対策3:属人化をほどいて仕事を分け合う

特定の人に残業が偏っている場合は、その人にしかできない作業を減らすことが対策になります。方法は、1人が複数の工程や設備を扱えるようにする多能工化と、作業のやり方をそろえる標準化の2つです。
最初にやることは、誰がどの作業をどのレベルでできるかを一覧にすることです。一覧にすると、「できる人が1人しかいない作業」が負荷の山の場所として浮かび上がります。
1人しかできない工程をなくすと、残業を分け合えるようになります。
※色付きのマスは、担当できる人が1人しかいない工程。改善前はAさんが休めず、段取りと検査の待ちがライン全体の残業になりやすい状態です。
一覧表は、力量を段階で評価するスキルマップ(力量表)の手順に沿って作ると、育成の順番まで決めやすくなります。全員が全工程をできる必要はなく、まずは各工程に2人以上を目標に、ボトルネックになっている工程から広げていきます。

多能工化と並行して、ベテランの頭の中にある手順やコツを作業標準書に落とし込みます。段取りの条件、良品と不良品の判定の境目、トラブル時の対処などを書き出しておけば、応援に入った人でも作業を引き継げます。
ただし、標準書は作っただけでは使われません。現場の最善のやり方を反映しているか、読みやすいかによって定着が大きく変わります。書き方や定着のさせ方は作業標準書が守られない原因と対策を参考にしてください。
対策4:残業を申請制にして中身を見える化する
4つ目の対策は、残業そのものを管理する仕組みづくりです。段取り・計画・属人化の対策も、どこで何時間の残業が出ているかが分からなければ優先順位をつけられません。
基本は、残業を事前の申請と上長の指示で行うことにし、その際に理由を記録することです。
理由を「段取り」「計画変更」「設備停止」「不良の手直し」「特定者の作業待ち」などの区分で選べるようにしておくと便利です。月末に集計したときに、原因の内訳がそのまま見えるためです。
- 残業は口頭ではなく、残業指示書や勤怠システムで申請・指示する
- 理由は自由記述ではなく区分から選び、必要に応じて一言添える
- 日々の残業時間を職場の全員が見られる場所に掲示・共有する
- 月45時間や月60時間に近づいている人を、管理職が月の途中で把握できるようにする
- 週1回、理由の内訳を見て、多い区分から対策を決める
設備停止が理由の上位に来るなら、故障の傾向を分析して保全の方法を見直します。定期交換だけで防げない故障が多い場合は、TBMとCBMの使い分けを検討する価値があります。
見える化で注意したいのは、残業時間の数字だけを追いかけて「とにかく帰れ」と指示しないことです。原因が残ったまま時間だけを削ると、持ち帰りや翌日への先送り、記録されない残業に置き換わるおそれがあります。
数字は責めるためではなく、原因を探すために使うという前提を、管理職の間でそろえておく必要があります。
残業代が生活給として当てにされている職場では、残業が減ると手取りも減ることへの不安が出ます。削減で浮いた人件費の一部を基本給や賞与に回す方針を先に示しておくと、現場の協力を得やすくなります。
公的な事例に見る残業削減
厚生労働省の働き方改革特設サイトや働き方・休み方改善ポータルサイトには、中小製造業の取り組み事例が掲載されています。ここでは、この記事で挙げた対策に近い4社の事例を紹介します。
多能工化と見える化を組み合わせている事例が目立ちます。
※従業員数と効果は、厚生労働省の各事例ページに掲載された時点の情報です。
ライオンパワーは、特定の社員に業務が集中していた状態を、製造部門の全員が複数の機械を扱えるようにすることで解消しました。
定時退社を評価するポイント制と組み合わせ、月平均の残業時間は2014年の約60時間から2019年には約30時間まで減っています。
東知は、ISO9001の取得をきっかけに業務フローとマニュアルを整え、製造ノウハウをデータベースにまとめました。
特定の人しかできなかった見積作成を誰でもできるようにした点は、属人化をほどく対策そのものです。残業指示を書面化したことも、管理の仕組みづくりにあたります。
秀工社は、日々の所定外労働時間を全社員が見られるようにし、管理職がすぐに対応できる体制をつくりました。月80時間以上の時間外労働をする人の割合が半分以下になっており、見える化が長時間労働の偏りを抑えることを示す例です。
ミズタニバルブ工業は、全部門で毎日30分のカイゼン活動を続け、日々の仕事のムリ・ムダ・ムラを見つけては改善案を出し合っています。
営業部門ではタブレット端末で受発注できるようにしたことで直行直帰が可能になり、時間外労働が各人月10時間以上減りました。年間休日も2019年度の109日から2025年度には124日に増えています。
4社に共通するのは、「早く帰ろう」という呼びかけだけでなく、誰でも代われる状態と、残業の中身が見える状態をつくっていることです。
自社で始める場合も、まず1つのラインで残業理由の記録とスキル一覧づくりから始めると、次に打つべき対策が見えてきます。
まとめ
- 製造業の月間所定外労働時間は13.4時間で、調査産業計の9.8時間より多い(2025年確報)
- 工場の残業は、段取り・計画・属人化・設備と品質のロス・管理の仕組みの5つから生まれる
- 段取りは内段取りを外段取りに移し、残った内段取りを短くするのが基本
- 計画は確定期間を決め、変更時は残業の要否まで含めて関係部門で判断する
- 多能工化で「1人しかできない工程」をなくし、残業の理由を記録して内訳から対策を選ぶ
残業削減は、製造現場だけでなく生産計画や工場運営の課題でもあります。計画の立て方は生産管理の仕事、現場の指標管理は工場長が管理するKPIの記事もあわせてご覧ください。
人手を増やしにくい状況で工数そのものを減らしたい場合は、省人化の仕組みも関連する取り組みになります。
出典
出典・参考資料(10件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 産業別の所定外労働時間:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」
- 時間外労働の上限規制:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
- 月60時間超の割増賃金率:厚生労働省「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
- 段取り・内段取り・外段取りの定義:日本IE協会「IE用語 段取り」
- 段取り改善の進め方:中小機構 J-Net21「ムダのない段取り改善の方法について教えてください。」
- 短納期発注等への配慮:厚生労働省「しわ寄せ」防止特設サイト
- ライオンパワーの事例:厚生労働省 働き方改革特設サイト
- 東知の事例:厚生労働省 働き方改革特設サイト
- 秀工社の事例:厚生労働省 働き方・休み方改善ポータルサイト
- ミズタニバルブ工業の事例:厚生労働省 働き方改革特設サイト
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