錆は磁石にくっつく?赤錆と黒錆・酸化鉄の磁性の違い

赤錆の浮いた鋼板の上に置いた磁石と、縁に付いた黒い錆の粒

錆が磁石にくっつくかどうかは錆の種類で決まり、配管によく出る赤錆はほとんどつかず、黒錆(Fe3O4)はよくつきます。

配管から出てきた汚れが鉄錆かどうかを、磁石で確かめようとする場面があります。ところが、磁石についても黒錆とは限らず、つかなくても鉄錆でないとは言い切れません。

この記事では、錆が磁石につく・つかない理由、鉄錆の種類、汚れが鉄錆かどうかの確かめ方を順に整理します。磁石そのものは錆びるか、ステンレスは磁石につくと錆びるかは、最後のよくある質問で答えます。

目次

鉄錆は磁石にくっつくのか?

図1:錆の粉に磁石を近づけると

同じ「鉄錆」でも、磁石への反応は粒の種類で分かれます。

赤錆の粉黒錆の粉赤錆+黒い粒ほとんど動かない吸い寄せられる黒い粒だけつく

※模式図。黒い粒の正体は、黒錆(マグネタイト)や酸化されずに残った鉄粉であることが多い。粒の大きさや磁石の強さで反応の程度は変わる。

結論ですが、一般的に配管の鉄錆と言われる赤錆は磁石にはくっつきませんので、汚れが錆かどうかを判断するのに、磁石は向いているとは言えません。

赤錆の主な成分は、オキシ水酸化鉄(FeOOH)と酸化鉄(Fe2O3)で、どちらも室温では磁石にほとんど反応しません。

正確には、赤錆に含まれるα-Fe2O3(ヘマタイト)は反強磁性体で、室温では磁気の向きがわずかに傾いて弱い強磁性を示しますが、その磁化はごく弱いものです。工学の資料では常磁性として扱われることもありますが、いずれにしても、純鉄のように磁石に勢いよくつくことはありません。

ただ、実際に磁石を近づけると、一部の汚れは磁石につく場合があります。それは、錆の中に磁性をもつ構造の違う赤錆(γ-Fe2O3)や黒錆(Fe3O4)、酸化されていない鉄が含まれているからです。

図2:鉄と酸化鉄の磁性の違い

磁石によくつくのは鉄・マグネタイト・マグヘマイトで、赤錆の多くはほぼ反応しません。

磁性の種類
磁石を近づけると
鉄(Fe)
強磁性
強くつく
黒錆(Fe3O4)・マグヘマイト(γ-Fe2O3)
フェリ磁性(逆向きの磁気が打ち消し合わず、差し引きで磁化が残る)
よくつく
ヘマタイト(α-Fe2O3)
反強磁性(室温ではわずかに傾いた弱い強磁性で、磁化はごく弱い)
ほとんどつかない
ゲーサイト(α-FeOOH)
反強磁性
ほとんどつかない
レピドクロサイト(γ-FeOOH)
室温では常磁性
ほとんどつかない

※磁性の分類は Parkinson(2016)、Guyodo ほか(2016)、Strangway ほか(1967)による。

鉄錆と一言に言っても複数の種類があり、磁石につくものもあれば、つかないものもあります。

鉄錆にはどんな種類がある?

鉄錆びには、大きく分けて次の4種類があります。

  • 白錆
  • 赤錆
  • 黒錆
  • 緑錆

基本的には、鉄が空気中の酸素や水と化学反応を起こし、酸化されたものを鉄錆と呼んでいます。その組成によって、呼び方も特性も変わります。

現場で「白錆」と呼ぶものの多くは、亜鉛めっき鋼管や亜鉛めっき部品の表面にできる亜鉛の酸化物で、鉄の錆ではないので、白い粉そのものは磁石につきません。

緑錆(グリーンラスト)は、2価の鉄イオンを多く含む不安定な錆で、酸素に触れると、赤錆の一種であるレピドクロサイトに変わることが研究で確かめられています。

この中で、配管の鉄錆として発生しやすい赤錆にも、次のような種類があります。

  • Fe(OH)3
  • Fe2O3・H2O
  • Fe2O3(α、β、γ、εの4種類)
  • FeOOH

これらは赤褐色をしているため赤錆と呼ばれますが、それぞれの特性が違います。例えば同じ赤錆でも、α-Fe2O3の磁化はごく弱く、γ-Fe2O3はフェリ磁性体で磁石につきます。

図3:赤錆の中身と磁石への反応

赤褐色の錆の多くは磁石につかず、つくのはマグヘマイトや混じった黒錆・鉄です。

γ-FeOOH(レピドクロサイト)
ほとんどつかない大気中で最初にできやすい赤錆。室温では常磁性で、加熱するとマグヘマイトに変わることがある
α-FeOOH(ゲーサイト)
ほとんどつかない長い年月をかけて落ち着いた錆の主成分。耐候性鋼の安定さびもこれが主体
α-Fe2O3(ヘマタイト)
ほとんどつかない赤色の酸化鉄。反強磁性で、室温では弱い強磁性を示すが磁化はごく弱い
γ-Fe2O3(マグヘマイト)
つく赤褐色でもフェリ磁性。磁気テープなどの記録媒体にも使われてきた
黒錆の上に赤錆が重なった錆
一部つく見た目は赤錆でも、下の黒錆(Fe3O4)の粒は磁石につく
錆の中に残った鉄
強くつく酸化されずに残った鉄粉や鉄の芯。錆ではなく鉄そのもの

※磁石への反応は室温での目安。黒錆や鉄粉が混じれば、その粒だけ磁石につく。

大気中の鋼材では、最初にレピドクロサイトができ、10〜30年かけてゲーサイトを主体とする錆に変わっていくと考えられていますが、どちらの段階でも、赤錆の大部分は磁石にほとんど反応しません。

つまり、赤錆と一言に言っても成分や構造によって磁性が変わるため、磁石につくかどうかで、鉄錆かどうかを判断するのは難しいと言えます。

赤錆を発生させないように加熱などで強制的に酸化させた際にできる黒錆(Fe3O4)は、磁鉄鉱(マグネタイト)と呼ばれ、磁石によくつきます。

図4:黒錆(Fe3O4)ができる場面

高温での酸化や、酸素の少ない水の中で黒錆ができやすくなります。

熱間圧延の黒皮鋼材の表面に FeO・Fe3O4・Fe2O3 の層ができる
ボイラーの給水系酸素を抜く処理(AVT)では主なスケールが黒錆になる
高温からの冷却数百℃から常温へ冷える間に、表面に黒錆の皮膜ができる
黒染め処理高温のアルカリ液で、部品の表面に黒錆の薄い皮膜をつける

※黒皮の層構成は新日鉄住金技報 第401号、給水系のスケールは JST の終了報告書(西嶋 2021)、黒染めは名古屋市工業研究所の技術資料と米国特許 US6309476 の説明による。

熱間圧延した鋼材の表面には、地鉄側からFeO、Fe3O4、Fe2O3の順に酸化スケールの層ができます。新品の配管から出る黒い薄片が磁石につくのは、この黒皮が剥がれたものの場合があります。

火力発電所のボイラー給水では処理の方法で錆の種類が変わり、酸素を抜く全揮発処理(AVT)では主なスケールがマグネタイト、酸素を入れる酸素処理(OT)ではヘマタイトです。

給水中の酸化鉄を磁力で取り除く研究では、超伝導磁石を使う強い磁場の装置を、マグネタイト用とヘマタイト用で分けて開発しているのは、錆の種類で磁石への引かれ方が違うためです。

配管の材料を選ぶときの錆の考え方は、ステンレス配管のデメリットでも整理しています。

鉄錆かどうかを判断するためには?

配管内の汚れが鉄錆かどうかを判断するのに、最も確実な方法は成分分析です。化学的な分析方法にはいろいろありますが、酸化鉄などの固体の無機物の場合は、次のような方法が一般的です。

  • X線光電子分光法
  • オージェ電子分光法
  • 走査型電子顕微鏡
  • エネルギー分散型蛍光X線分析法
  • メスバウアー分光法
  • レーザーラマン分光光度法
  • X線回折法

注意したいのは、元素を調べる分析だけでは赤錆と黒錆を区別しにくい点で、どちらからも鉄(Fe)と酸素(O)しか出てこないためです。

錆の種類まで知りたいときは、結晶の形を調べるX線回折法(XRD)が使われ、耐候性鋼の錆の調査でも、採取した錆をXRDで分析しています。放射光を使うX線吸収微細構造(XAFS)で、鉄の化学状態から赤錆と黒錆を見分けられるかを確かめた例もあります。

分析化学の専門機関が多くあるので、「元素」「錆の種類」など何を知りたいかを伝え、どの方法が最適かは相談して決めればよいと思います。

軽いものと比較するのであれば、水に沈めてみて比重を比べるのも、簡易的ですが有効な方法です。酸化鉄の密度は、黒錆で5.18g/cm³、ヘマタイトで5.26g/cm³とどれも5前後あり、軽い汚れとは区別できますが、酸化鉄どうしは密度が近く、比重では見分けられません。

図5:汚れが鉄錆かを確かめる順番

現場でできる確認から始め、はっきりさせたいときに分析を頼みます。

01色を見る赤褐色なら赤錆、黒なら黒錆や黒皮、白なら亜鉛めっきの錆の可能性
02磁石を近づけるつく粒は黒錆や鉄粉の候補。つかなくても鉄錆でないとは言えない
03水に沈める軽い汚れとは分けられるが、酸化鉄どうしは区別できない
04分析を頼むX線回折法などで錆の種類まで特定できる

※01〜03は候補を絞る手がかりで、錆の種類を確定できるのは04の分析だけ。

配管の材料として鉄とステンレスのどちらが向くかは、ステンレスと鉄の特徴の比較にまとめています。

錆と磁石のよくある質問

酸化鉄は磁石にくっつきますか?

酸化鉄の種類によります。黒錆(Fe3O4)とマグヘマイト(γ-Fe2O3)はフェリ磁性で、磁石にくっつきます。

一方、赤い酸化鉄のヘマタイト(α-Fe2O3)は磁化がごく弱く磁石にほとんどくっつかず、種類ごとの違いは図2のとおりです。

黒い酸化鉄でも、ウスタイト(FeO)は反強磁性になるのは約−70℃以下の低温だけなので、室温では常磁性で、磁石にほとんどくっつきません。

磁石は錆びますか?

ここからは錆の磁性とは別に、磁石そのものの錆の話で、磁石も種類によっては錆びます。特にネオジム磁石は鉄を多く含み、錆びやすい磁石です。

ネオジム磁石は、結晶の粒の境目にあるネオジムの多い部分から腐食が進み、表面処理をしないまま高温高湿に置くと、表面が赤錆で覆われます。

そのため、ネオジム磁石にはニッケルめっきなどの防錆膜を付け、用途に応じて、アルミや窒化チタンのコーティングも使われます。

めっきの種類ごとの特徴は、めっきの種類と違いで詳しく比べています。

一方、フェライト磁石は酸化鉄が主成分のため、化学的に安定しています。磁力はネオジム磁石より弱いものの、錆びの心配は小さい磁石です。

ネオジム磁石の原料をめぐる供給の話は、レアアース輸出規制の磁石への影響で扱っています。

ステンレスは磁石につくと錆びやすいですか?

磁石につくかどうかだけでは、錆びやすさは決まりません。ステンレス協会は、磁性と耐食性には直接の関係がないとしています。磁石につくSUS444などでも、SUS304より錆びにくい鋼種があります。

フェライト系やマルテンサイト系のステンレスは、もともと磁石につきますが、磁石につかないはずのSUS304も、曲げなどの加工をした部分は磁性を帯びることがあります。ただし、磁性を帯びても磁石になるわけではないので、鉄粉を引き寄せて錆びる心配はないとされています。

鋼種ごとの違いはステンレスの種類と違いで、SUS304に錆が出る理由はSUS304が錆びる原因(もらい錆・孔食)で解説しています。

錆びた鉄は磁石につきますか?

錆の下に鉄が残っていれば、その鉄が磁石につきます。ただし、錆の層が厚いほど、磁石と鉄の間が離れて引く力は弱くなります。

磁石から離れるほど磁界が弱くなる理由は、磁力線と磁束の違いで図を使って説明しています。錆びきって鉄が残っていなければ、赤錆の塊はほとんど磁石につきません。

まとめ

この記事のまとめ
  • 一般的な赤錆は磁石にはくっつきにくい
  • 構造や組成によっては磁性を持つものもある(γ-Fe2O3など)
  • 黒錆(Fe3O4)や残った鉄粉は磁石によくつく
  • 磁石や比重は手がかりにとどめ、錆の種類はX線回折法などで調べる
  • しっかりと判断するためには分析機関への依頼が必要

錆びは結合構造や酸素の数によって、性質がまったく変わるので注意が必要です。

配管の錆に関わる話題では、ボイラーで起きる低温腐食と高温腐食の違いもあわせて読むと、錆ができる条件が見えてきます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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