信越化学工業は2026年10月27日、2026年4〜9月期(上期)の決算を発表し、売上高は前年同期比11%増の1兆4,206億円、営業利益は16%増の3,859億円でした。塩化ビニル樹脂(塩ビ)とシリコンウエハーで世界1位を持つ素材メーカーで、今年で創業100年です。
今回の決算で目立つのは事業ごとの明暗で、AI向けの半導体材料を含む電子材料は営業利益が28%増えた一方、塩ビ中心の生活環境基盤材料は16%の減益でした。この記事を読むと、何で稼ぎ、どこが強く、業績が何で動くのかを一度でつかめます。
ここでは同社の決算短信と統合報告書2026をもとに、会社の概要、4つの事業の売上と利益、世界1位の製品とその理由を整理します。そのうえで業績の推移と上期決算、最近の投資、働く会社・取引先として確認したいことを順に見ていきます。
この記事の内容は、動画でも解説しています。
信越化学工業はどんな会社か
信越化学工業は、半導体の基板と、水道管や住宅に使う塩ビという、性格の違う2つの世界1位で稼ぐ会社です。2026年3月期の売上高は2兆5,739億円、営業利益は6,352億円、営業利益率は24.7%で、売上の約4分の1が営業利益として残ります。
1926年に肥料会社「信越窒素肥料」として発足し、1940年に今の社名になりました。本社は東京都千代田区丸の内にあり、海外売上高比率は78.6%と、売上の8割近くを海外で得ています。
売上の8割近くを海外で稼ぎ、従業員の半分以上が海外で働く会社です。
※連結従業員は27,342名、海外従業員比率は58.5%(いずれも2026年3月期)。出典:信越化学工業 統合報告書2026「At a Glance」、2026年3月期の業績は同社「業績概要(10年サマリー)」
4つの事業と売上・利益の柱

事業は電子材料、生活環境基盤材料、機能材料、加工・商事・技術サービスの4つに分かれます。2026年3月期は売上の約4割を電子材料が占め、セグメント利益の合計のうち約54%を電子材料が稼いでいます。
売上は電子材料と生活環境基盤材料がほぼ並びますが、利益は電子材料が2倍以上です。
※売上高と営業利益は同じ目盛り。出典:信越化学工業「業績概要(10年サマリー)」2026年10月作成
電子材料
半導体の基板になるシリコンウエハーを筆頭に、回路を描くフォトレジスト、回路の原板になるマスクブランクス、チップを包む封止材料などを扱います。モーターの省電力化に欠かせないレアアース(希土類)磁石や、光ファイバーの原料になる合成石英もこの事業に入ります。
生活環境基盤材料
上下水道などのインフラから住宅、農業、生活用品まで使われる塩ビが中心で、か性ソーダやポバールも手がけます。米国・欧州・日本の3拠点で年産484万トンという世界一の生産能力を持ち、売上規模は電子材料とほぼ同じです。
機能材料
シリコーンは1953年に日本で初めて事業化した製品で、いまは5,000種を超える品ぞろえがあります。ほかに医薬・食品・工業用に使うセルロース誘導体、害虫の交信を乱す合成性フェロモン、金属ケイ素、ペリクル(マスクの防じん膜)などを扱います。
加工・商事・技術サービス
子会社の信越ポリマーが塩ビやシリコーンを加工し、半導体ウエハーを運ぶケースや自動車・情報機器の部品をつくります。信越エンジニアリングはグループの工場の設計・建設を担い、真空重ね合わせ装置などの装置も提供しています。

世界1位の製品と強みの理由
同社は統合報告書2026で、5つの製品を世界1位、3つの製品を世界2位としています。順位だけを見ると「何でも強い会社」に見えますが、強みの理由は製品ごとに違うため、表で全体を確かめてから主要な製品の背景を見ていきます。
半導体の材料に世界上位の製品が集まっています。
| 製品 | 順位 | 事業 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 塩化ビニル樹脂(塩ビ) | 世界1位 | 生活環境基盤材料 | 上下水道、住宅、農業、生活用品 |
| 半導体シリコン(シリコンウエハー) | 世界1位 | 電子材料 | すべての半導体チップの基板 |
| 合成石英(液晶用フォトマスク基板) | 世界1位 | 電子材料 | 液晶パネル用フォトマスクの基板 |
| 半導体ウエハーケース | 世界1位 | 加工・商事・技術サービス | ウエハーの保管・輸送 |
| 防虫用合成性フェロモン | 世界1位 | 機能材料 | 害虫の防除 |
| マスクブランクス | 世界2位 | 電子材料 | 半導体の回路パターンの原板 |
| フォトレジスト | 世界2位 | 電子材料 | 回路を描く感光材料 |
| セルロース誘導体(メチルセルロース) | 世界2位 | 機能材料 | 医薬・食品・工業用 |
| シリコーン | 国内1位 | 機能材料 | 電子機器、化粧品、建築など幅広い産業 |
※順位は同社の統合報告書2026(2026年3月期のプロフィール)による。シェアの率や調査方法は公表されていないため、順位は同社の示す位置づけとして読む。
塩ビ:米国シンテックの一貫生産
塩ビの強さを支えるのは、米国子会社のシンテックです。1974年にテキサス州で操業を始め、「フル生産、全量販売」を基本に輸出も広げ、2001年には年間生産能力200万トンを超えて世界1位になりました。
もう一つの理由は、原料からの一貫生産です。2008年に塩の電気分解から塩ビモノマー(塩ビの原料)までの工程を加え、2020年にはエチレンの生産も始めたことで、岩塩と天然ガスが豊富な米国の地の利を生かした体制ができました。
原料の岩塩と天然ガスから、塩ビ樹脂までを自社で一貫してつくります。
※364万トンは2024年の増強完了時点のシンテックの塩ビ生産能力。2026年からはルイジアナ州でエチレン工場と電解・塩ビモノマー工場の新設を進めている。出典:統合報告書2026「収益力強化の歴史」
ただし塩ビは市況品(需給で価格が大きく動く汎用品)で、利益は世界の需給や景気に左右されます。生活環境基盤材料の営業利益は2023年3月期の5,413億円から2026年3月期の1,648億円まで下がっており、規模とコストの強さがあっても、市況の波そのものは避けられません。
シリコンウエハー:300mmの先行と長期契約
ウエハーを担うのは1967年設立の子会社、信越半導体です。1984年に福島県の白河工場で単結晶の引き上げからウエハー加工までの一貫生産を始め、2001年からは世界に先駆けて直径300mm(12インチ)ウエハーの量産に入りました。
統合報告書は、価格でシェアを取りに行く動きとは一線を画し、顧客との長期契約で景気に左右されにくい運営をしていると説明しています。ウエハーは品質が少しでもぶれると顧客の歩留まりに響く材料のため、供給の安定そのものが選ばれる理由になります。
半導体材料の品ぞろえ:工程ごとに材料を持つ
電子材料のもう一つの特徴は、ウエハーだけでなく半導体の前工程で使う材料を幅広くそろえている点です。回路を描くフォトレジストは世界2位で、同じ分野では東京応化工業などと競い、回路の原板になるマスクブランクスも世界2位につけています。
基板から回路づくり、封止・放熱、運搬まで、工程ごとに同社の材料が使われます。
※TIMはチップと放熱部品のすき間を埋める放熱材料。出典:統合報告書2026「AI-Driven Future」「At a Glance」
材料を工程ごとに複数持っていると、顧客が新しい製造プロセスを開発する段階から相談を受けやすい立場になります。半導体の材料メーカーには1つの工程に特化した会社も多く、基板から後工程の放熱材まで一社で持つ幅の広さは信越化学の大きな特徴です。
シリコーン・セルロース・レアアース磁石
シリコーンは電子機器や化粧品、建築など用途が広く、1980年代初めに国内トップの地位を確立しました。医薬品の錠剤にも使うセルロース誘導体(メチルセルロース)は世界2位で、ドイツの子会社を含め医薬用添加剤の設備増強も進めています。
レアアース磁石は1972年に開発した製品で、環境対応車や家電のモーターに使われます。決算短信でも「磁性材料の原料対策」を課題に挙げており、レアアースの輸出規制が話題になるなか、同社は2026年4月に業務用エアコンの圧縮機から磁石をリサイクルする協創を始めました。
業績の推移と2026年10月の上期決算
10年で見ると、売上高は2018年3月期の1兆4,414億円から2026年3月期の2兆5,739億円まで増えました。営業利益は塩ビ中心の事業の利益が膨らんだ2023年3月期に9,982億円の最高を記録した後、その事業の減益で2026年3月期は6,352億円まで下がっています。
2023年3月期をピークに下がった利益が、2027年3月期は再び増える予想です。
※斜線は会社予想(2026年10月27日時点で7月の予想を据え置き)。下のカードは2026年4〜9月の前年同期比。出典:同社「業績概要(10年サマリー)」、2027年3月期第2四半期決算短信
上期決算は電子材料が増益をけん引
2026年4〜9月期の営業利益3,859億円のうち、電子材料が2,189億円と約57%を占めました。決算短信は、データセンターを中心とするAI関連投資で半導体市場が大きく伸び、いくつかの製品群で供給がひっ迫したと説明しています。
そのなかで供給対応と価格改定を進め、四半期で見ると営業利益は4〜6月の1,737億円から7〜9月の2,121億円に増え、7〜9月だけでは前年同期比27%増でした。
一方の塩ビは、5月後半にアジアで在庫の積み上がりと需要の鈍化から市況が軟化し、7月に値上げを通したものの減益でした。半導体の需要と塩ビの市況という別々の波で動く事業を両方持つことが、同社の業績を読むときの基本になります。
通期予想と株主への還元
2027年3月期の通期予想は売上高2兆7,000億円(前期比5%増)、営業利益7,000億円(10%増)で、7月の予想を据え置きました。年間配当は創立100周年の記念配当20円を含めて136円と、前期の106円から30円増やす予定です。
あわせて2026年4月に決めた上限2,500億円の自己株式取得は、7月と8月の買付けで終了しました。上期の地域別売上はアジア・オセアニアが34%、米国が26%、日本が22%で、海外の比率が高い分、為替の動きも業績に響きます。
AI需要と最近の投資

統合報告書2026はAI向けの特集を組み、ウエハーやフォトレジストに加え、データセンターの冷却や放熱に使うシリコーン、GaN(窒化ガリウム)のパワー半導体向けQST基板の開発を挙げています。投資は完成した案件と進行中の案件が混じっているため、分けて確かめておきます。
半導体材料とシリコーンの増強が完成し、塩ビ原料とシリコーンの次の増強が進行中です。
※2026年7月の統合報告書2026時点の状況。出典:統合報告書2026「製造・設備体制」
2027年3月期の設備投資は3,800億円を予定し、上期だけで1,667億円を使いました。完成済みの案件が半導体材料とシリコーンに集まっているのに対し、金額の大きい塩ビ原料の増強は進行中で、その効果が数字に出るのはこれからです。
シリコーンでは、サーバーを液体に浸して冷やす液浸冷却向けに、フッ素を使わない(非PFAS)シリコーンオイルの実用化を進めています。統合報告書は、データセンターの冷却にかかる電力が施設全体の40%程度に達するとの見方を示し、冷却の省エネを新しい需要として位置づけています。
働く会社・取引先として確認したいこと

採用の職種と国内の拠点
採用ページで技術系として示されている職種は、研究開発、生産技術、プラントエンジニアリング・機器開発、情報システムで、社員紹介には営業とコーポレート部門も並びます。キャリア採用ではプラントエンジニアの職(機械・電気・計装・プロセス)を募集しています。
国内の主な拠点は次の5地区で、工場と研究所が同じ地区に置かれています。各工場・事業所の近くには独身寮と社宅があり、主な職場が首都圏から離れた地区にあるため、勤務地の希望は早めに確かめておくと安心です。
- 直江津地区(新潟県):直江津工場、合成技術研究所など
- 武生地区(福井県):武生工場、磁性材料研究所
- 群馬地区:磯部工場・松井田工場・伊勢崎工場、シリコーン電子材料技術研究所など
- 白河地区(福島県):信越半導体の白河工場・研究所
- 鹿島地区(茨城県):鹿島工場、塩ビ・高分子材料研究所
人材に関するデータ
統合報告書2026は、画一的な人事異動をせず、一つの分野で深い専門性を持ちながら他の業務もこなす「T字型人材」を育てる方針を示しています。従業員1人当たりの営業利益は直近3年平均で年2,600万円で、少人数で高い利益を出す会社だと読み取れます。
有給休暇と男性の育児休業の取得率は、どちらも高い水準です。
男性の育児休業取得率 88.1%(10人中9人)
年間有給休暇取得率 77.3%(10日付与で約8日)
※対象は信越化学の従業員と出向者(単体)。平均勤続年数は20年、1人当たり研修時間は10.19時間、キャリア採用数は128人。出典:統合報告書2026「人材戦略」
平均勤続年数は20年と長く、海外勤務の経験者は累計471人です。女性活躍では、2026年度からの2年間で採用時の女性比率を事務系40%・技術系10%にする目標を掲げており、技術系の女性比率はまだ低いことがうかがえます。
これらの数字は単体の平均で、職種や工場ごとの働き方の違いまでは分かりません。志望先として比べるときは、優良企業の見分け方で挙げている離職率や残業時間も、説明会や面接で確かめておくと判断しやすくなります。
取引先として見た特徴
ウエハーは長期契約を軸に安定供給する一方、上期の決算短信には半導体材料の「価格改定」や塩ビの「適時の値上げ」も書かれています。購買担当の立場では、安定供給を重視する相手であると同時に、需給がひっ迫すれば価格の見直しを求めてくる相手と考えておくのが現実的です。
化学・半導体材料のメーカーへの転職も考えたい方へ、求人の探し方と相談先を転職・キャリアガイドにまとめています。
信越化学工業のよくある質問
信越化学工業と信越半導体はどういう関係ですか?
信越半導体は1967年に設立されたシリコンウエハーの会社で、1979年から信越化学の100%子会社です。グループの電子材料事業の中核で、福島県の白河工場などでウエハーをつくっています。
シンテックとはどんな会社ですか?
シンテックは米国にある信越化学の塩ビ子会社で、1974年にテキサス州で操業を始めました。2024年に塩ビの生産能力が364万トンとなり、塩の電気分解とエチレン製造を含む一貫生産で同社の塩ビ世界1位を支えています。
半導体の市況が悪くなると業績はどうなりますか?
電子材料は営業利益の半分以上を占めるため、半導体の需要が落ちれば業績への影響は大きくなります。ただしウエハーは長期契約を軸に運営しているとされ、塩ビは半導体とは別の市況で動くため、両方が同時に落ちるとは限りません。
信越化学工業ではどんな職種を採用していますか?
技術系は研究開発、生産技術、プラントエンジニアリング・機器開発、情報システムで、ほかに営業やコーポレート部門があります。化学系だけでなく、機械・電気・情報工学などの専攻ごとに対応する職種が採用ページで示されています。
まとめ
- 信越化学工業は塩ビとシリコンウエハーで世界1位を持つ素材メーカーで、2026年に創業100年を迎えた
- 2026年3月期は売上高2兆5,739億円、営業利益6,352億円で、利益の約54%を電子材料が稼ぐ
- 塩ビはシンテックの原料一貫生産、ウエハーは300mmの先行と長期契約が強みの理由
- 2026年4〜9月期は電子材料が28%増益の一方、塩ビ中心の事業は市況軟化で16%減益だった
- 国内5地区の工場・研究所が主な職場で、男性育休取得率88.1%など働き方の数字も公表している
信越化学工業は、半導体と生活インフラという性格の違う2つの市場で世界の上位に立つ会社です。素材の流れを広く知りたい人は化学業界の全体像、半導体側の取引先を知りたい人は電子部品・半導体業界の主要企業もあわせて読むと、同社の立ち位置がつかみやすくなります。
日本の素材・部品メーカーがどの分野で強いのかは、世界シェアトップの日本の製造業で企業と製品の一覧にまとめています。
出典
出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 上期決算・セグメント・通期予想・配当:信越化学工業「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」2026年10月27日
- 10年の売上・利益・セグメント推移、設備投資:信越化学工業「業績概要(10年サマリー)」2026年10月作成
- 世界シェア順位・プロフィール:信越化学工業「統合報告書2026」目次・At a Glance
- シンテック・信越半導体の歴史、設備投資、人材データ:信越化学工業「統合報告書2026」第2章 創出価値の向上
- AI関連製品・液浸冷却・QST基板:信越化学工業「統合報告書2026」第3章 成長率の向上
- 会社概要:信越化学工業「会社概要」
- 沿革:信越化学工業「沿革」
- 採用職種・工場と研究所:信越化学工業「採用情報」、同「工場・研究所」
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