クメン法とは、ベンゼンとプロピレンからクメン(イソプロピルベンゼン)をつくり、空気で酸化してクメンヒドロペルオキシドにしたあと酸で分解して、フェノールとアセトンを同時に得る工業的製法です。全体の式は C6H6+C3H6+O2→C6H5OH+CH3COCH3 です。
できたフェノールは、ポリカーボネートやエポキシ樹脂の原料になるビスフェノールA、フェノール樹脂、ナイロンの原料などに使われる基礎化学品です。アセトンが必ず一緒にできることはこの製法の強みであると同時に、アセトンの売れ行きで採算が揺れる弱みにもなっています。
この記事では、クメン法に登場する4つの物質と3段階の反応式、各段階で何が起きているかを順に整理し、フェノールの製法の中でクメン法が選ばれる理由を見ます。続いて、実際のフェノール工場の工程と安全管理、アセトンとの需給バランス、フェノールの用途と国内の生産の動きを取り上げます。
クメン法に登場する4つの物質と構造
クメン法は、ベンゼンからクメンを経由してフェノールをつくる方法で、原料2つと中間体2つが主な登場物質です。ベンゼン環はそのままフェノールの骨格に残り、プロピレンから来た3個の炭素がアセトンになって外れるという見方をすると、反応の全体がつかみやすくなります。
ベンゼン環にイソプロピル基が付いたクメンを、O−O結合をもつクメンヒドロペルオキシドに変えてから分解します。
※CHPはクメンヒドロペルオキシドの略です。ベンゼン環は略記の六角形と円で表し、環の水素は省いています。
ベンゼン:フェノールの骨格になる環
ベンゼン(C6H6)は、炭素6個が正六角形につながった芳香族炭化水素で、クメン法ではこの環がそのままフェノールの骨格になります。石油化学では、原油の分留で得たナフサを分解・改質した留分から取り出され、国内では2025年に約273万トンが生産されました(石油化学工業協会)。
プロピレン(プロペン):イソプロピル基のもと
プロピレン(CH2=CH−CH3、IUPAC名はプロペン)は、炭素3個で二重結合を1つもつアルケンで、国内では主にナフサを分解するエチレン設備で生まれます。クメン法ではベンゼン環にイソプロピル基(−CH(CH3)2)として付き、最後はアセトンになって環から外れます。
プロピレンの側から見ると二重結合に付く付加反応、ベンゼンの側から見ると環の水素がイソプロピル基に置き換わる置換反応です。同じ反応を両側から見ているだけなので、「付加か置換か」で迷ったら、どちらの分子を主語にしているかを確かめると整理できます。
クメン(イソプロピルベンゼン):主役の中間体
クメンはベンゼン環にイソプロピル基が1つ付いた化合物(C9H12)で、製法の名前にもなっている主役の中間体です。環のすぐ隣の炭素(ベンジル位)が、ほかの炭素3個と結合した第三級の炭素で、水素を1個だけもっていることが、次の酸化で効いてきます。
クメンヒドロペルオキシド:O−O結合をもつ過酸化物
クメンヒドロペルオキシド(CHP)は、クメンのベンジル位の水素と炭素の間に酸素分子1個がそのまま入り込んだ形の化合物で、C6H5−C(CH3)2−O−O−Hと書けます。名前の「ペルオキシド」は過酸化物、「ヒドロ」はO−Oの先に水素が付いていることを表します。
O−O結合は弱く、熱や酸、一部の金属で切れやすいため、CHPは消防法で第5類(自己反応性物質)に分類される有機過酸化物です。この切れやすさがフェノールをつくる反応を進める力であり、同時に工場が最も気を配る危険の源でもあります。
クメン法の流れ(3段階の反応式)
クメン法は、①ベンゼンとプロピレンからクメンをつくる、②クメンを空気で酸化してCHPにする、③CHPを酸で分解してフェノールとアセトンにする、の3段階で進みます。どの段階も熱を出す反応で、3つを足すと原料3つから製品2つができる全体の式になります。
固体の酸触媒でクメンをつくり、空気で酸化し、酸で分解します。分解で出るα-メチルスチレンは水素化してクメンに戻せます。
※条件は欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)に示された範囲です。CHPは分解の前に真空で濃縮します(工場の章で説明)。
クメンをつくる:ベンゼンとプロピレンのアルキル化
最初の段階では、酸触媒のはたらきでベンゼン環にイソプロピル基を付け、クメンをつくります。ベンゼン環に炭化水素の基を付ける反応はアルキル化と呼ばれ、クメン1 molができるごとに約99 kJの熱が出る発熱反応です。
反応は、酸の水素イオン(H+)がプロピレンに付いてプラスの炭素(カルボカチオン)ができ、それがベンゼン環と結合する流れで進みます。このとき水素イオンは水素の多い端の炭素に付き、プラスの電荷は真ん中の炭素に残るため、付く基はn-プロピル基ではなくイソプロピル基になります。
教科書ではこの酸触媒の例として濃硫酸やリン酸が挙げられますが、工場で使われてきたのは担体に載せた固体リン酸(SPA)や塩化アルミニウムです。
欧州連合の技術資料によると、1980年代後半にゼオライト触媒が導入され、選択性の高さと触媒管理の簡単さから主流になりました。示されている収率は、固体リン酸で95%、塩化アルミニウムで98%、ゼオライトで99%です。
できたクメンにさらにプロピレンが付くと、イソプロピル基を2つもつジイソプロピルベンゼン(DIPB)ができてしまいます。そこで工場はベンゼンを過剰に入れて多置換を抑え、それでもできたDIPBはベンゼンと反応させてクメンに戻すトランスアルキル化を組み合わせています。
クメンを空気で酸化してクメンヒドロペルオキシドにする
2段階目では、液体のクメンに空気を吹き込み、酸素でゆっくり酸化してCHPにします。酸素分子1個がそのままクメンのC−H結合の間に入る形の反応で、これも発熱です。
この酸化は、不対電子をもつラジカルが次々に受け渡される連鎖反応です。ベンジル位の第三級C−H結合は、水素が抜けたあとのラジカルがベンゼン環と第三級の炭素で安定になるため切れやすく、酸化はほぼこの位置だけで進みます。
工業条件は80〜120℃、大気圧から約700 kPa、滞留時間4〜20時間です(欧州連合の技術資料)。主な副生物は、酸化の途中でできるジメチルベンジルアルコール(DMBA)とアセトフェノンで、温度を低く抑え、CHPの濃度を高くしすぎない運転がクメンの損失を減らすとされています。
そのため酸化はCHPが17〜30%ほどになったところで止め、残りの未反応クメンは次の濃縮で回収して酸化に戻します。一度に全部をCHPにしないのは、副生物を減らすためと、分解しやすい過酸化物を高い濃度・高い温度で長く置かないためです。
クメンヒドロペルオキシドを酸で分解する
最後の段階では、濃縮したCHPを、酸を触媒にして分解し、フェノールとアセトンにします。酸化に何時間もかかるのに対し、この分解は速く、しかも大きな熱を出す反応です。
分解の途中では、フェニル基(ベンゼン環)が炭素から酸素へ移る転位が起きます。この酸で進む転位はホック転位と呼ばれ、ベンゼン環とイソプロピル基の炭素の間に酸素が割り込み、そこで切れることで、環の側がフェノール、残りがアセトンになります。
工場では、酸として通常は硫酸を使い、2段に分けて分解するのが一般的です。酸化で副生したDMBAはこの段階で水が抜けてα-メチルスチレン(AMS)になり、AMSは製品として売るか、水素を付けてクメンに戻して原料として使い直します。
計算例:フェノール1トンと一緒にできるアセトンは何kgか
全体の式から、フェノール1 molにつきアセトンが必ず1 molできることが分かります。分子量をフェノール94.11、アセトン58.08、クメン120.19として、フェノール1トンあたりの理論量を求めると次のようになります。
理論の1.28トンと実際の1.31〜1.38トンの差は、DMBA・アセトフェノン・重い副生物(タール)になった分です。酸化と分解の選択性を1%上げることが、そのまま原料費の削減になるため、工場は酸化の温度やCHPの濃度、分解の段数を細かく管理しています。
フェノールの製法でなぜクメン法が使われるのか?
欧州連合の技術資料は、フェノールの7つの製法のうち世界で最も広く使われ、欧州で主流なのはクメンの酸化だとしています。国内でも、三井化学が停止を決めた市原工場のフェノールプラントの対象製品はフェノール・アセトン・α-メチルスチレンで、クメン法の併産品の組み合わせと一致します。
クメン法が選ばれる理由の1つ目は、副生物のアセトンが溶剤やビスフェノールA、MMAの原料として売れる製品であることです。2つ目は、原料が石油化学の基礎品であるベンゼン・プロピレン・空気で、融かした水酸化ナトリウムのような過酷な条件を使わず、大量の塩や廃アルカリも出さないことです。
| 製法 | 主な原料 | 反応の流れ | フェノール以外にできるもの | いまの位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| クメン法 | ベンゼン・プロピレン・空気 | アルキル化→空気酸化→酸で分解 | アセトン(ほかにAMS・アセトフェノン) | 世界で最も広く使われる |
| アルカリ融解法 | ベンゼン・硫酸・水酸化ナトリウム | スルホン化→水酸化ナトリウムで融解→酸で遊離 | 亜硫酸ナトリウムなどの塩 | 欧州では使われていない |
| クロロベンゼン法 | ベンゼン・塩素・水酸化ナトリウム | 塩素化→加水分解 | 塩化ナトリウム | 欧州では使われていない |
| トルエン酸化法 | トルエン・空気 | 安息香酸を経て酸化・分解 | アセトンはできない | 欧州生産の5%未満で、商業的な製法ではなくなった |
| ベンゼンの直接酸化 | ベンゼン・酸素や過酸化水素・N2O | 1段で酸化 | アセトンはできない | まだ商業化されていない |
別の理由:アルカリ融解法などとの比較
アルカリ融解法は、ベンゼンを硫酸でスルホン化し、そのナトリウム塩を融かした水酸化ナトリウムと反応させ、酸でフェノールを取り出す方法です。フェノール1 molをつくるのに水酸化ナトリウムを2 mol使い、亜硫酸ナトリウムが同じだけ出るため、薬品代と塩の後処理が重くなります。
クロロベンゼンを水酸化ナトリウムで加水分解する方法も、塩素と水酸化ナトリウムを使って塩化ナトリウムを出すので、同じく塩の処理が付いて回ります。これに対してクメン法は、酸素を空気から取り、酸は触媒として少量使うだけなので、副生物の大部分がアセトンという売れる製品になる点で有利です。
一方、トルエンを酸化する方法やベンゼンを直接酸化する方法は、アセトンを出さない製法として研究・実用化が試みられてきました。欧州連合の技術資料は、アセトンの価格変動を避けられる製法は事業上望ましいとしながらも、どれも広く使われるには至っていないとしています。
実際のフェノール工場では:濃縮・分解熱・分離回収・安全

教科書の3つの式の間には、実際の工場では濃縮・中和・蒸留・回収の工程が挟まります。ここでは欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)をもとに、式だけでは見えない運転上の要点を工程順に見ていきます。
ゼオライト触媒でクメンをつくる
クメンの製造ではゼオライト触媒が主流で、固定床に詰めて気相で反応させる方式と、液相で反応させる方式があります。反応の発熱は回収して後ろの蒸留の熱源に使われ、原料のベンゼンとプロピレンは反応の前に蒸留で水を除いておきます。
固体リン酸の触媒は、反応後の工程にあるフィルターの保守が頻繁で、ベンゼンがある場所での作業が多いことも課題でした。ゼオライトへの切り替えは、収率だけでなく、こうした保守作業の負担を減らす意味もありました。
酸化塔からCHPの真空濃縮へ
酸化には、塔の下から空気を泡にして吹き込む気泡塔型の反応器を2〜6基以上使い、液は直列に、空気は並列に流します。反応熱は塔の内外の熱交換器で除いて温度を保ち、塔頂から出る排ガスは安全のために酸素濃度が低いことを監視したうえで、凝縮・活性炭吸着・燃焼で処理します。
以前は炭酸ナトリウムの水溶液を加えて有機酸を除く湿式の酸化が使われていましたが、いまはアルカリを加えない乾式の酸化のほうが効率が良いとされています。
酸化を出た液はCHPが17〜30%で、残りの大半は未反応のクメンです。
これを薄膜蒸発器やフラッシュ塔で真空にして沸点を下げ、低い温度のままクメンを飛ばして、CHPを65〜85%まで濃縮します。真空にする第一の理由はCHPの分解を防ぐという安全上の要請で、設備は外圧に耐える真空容器として設計します。
反応の3段階の間に、濃縮・中和・蒸留・回収の工程が入ります。過酸化物を扱う酸化と濃縮では温度の管理が要です。
※欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)2.1.1.5・8.2.2をもとに要点をまとめたものです。工程の分け方や段数は工場によって異なります。
分解・中和・蒸留とAMSの回収
分解には、CHPと約40%の希硫酸を1対4ほどで混ぜて水相を循環させる二相式と、ごく少量の酸を加える均一式があります。分解は速く熱も大きいので2段に分けて進め、欧州連合の技術資料は、2段の設計が原料の消費を大きく減らし、熱量計で分解を制御すると中程度に減らせると整理しています。
分解液に残った酸は、フェノールのナトリウム塩やイオン交換樹脂で中和します。そのあと何本もの蒸留塔でアセトン・未反応クメン・AMS・フェノールを順に分け、高い沸点の残り(タール)はフェノール1トンあたり20〜200 kgほど出て、炉の燃料などに使われます。
蒸留には多くの熱を使い、資料に載った例ではフェノール1トンあたり蒸気1.9トン(18 bar)と0.4〜0.9トン(5 bar)、電力190 kWhです。排水からは、酸化工程の過酸化物を分解し、フェノールを溶剤で抽出して回収してから、最終の排水処理に送ります。
クメンヒドロペルオキシドの暴走を防ぐ
厚生労働省のモデルSDSはCHPを有機過酸化物タイプEとし、約150℃に加熱すると爆発することがあり、コバルトや銅・鉛の合金、無機酸に触れると激しく分解することがあるとしています。分解に使う酸そのものが危険源にもなるので、酸を加える場所と量、温度を工程の中で厳しく決めておきます。
有機過酸化物は、分解で出た熱がさらに分解を速める「暴走」を起こしやすい物質です。過酸化物を扱う工程は、温度管理を誤ると暴走反応の危険があります。
そこで工場では、酸化塔の冷却能力と攪拌、温度計の数と位置、緊急停止時に何を止め何を動かし続けるかを、反応の熱の出方(エンタルピーの変化)と合わせて設計します。
異常な昇温や圧力上昇に備えて、インターロックや安全弁のような保護装置も組み合わせます。止めたあとも冷却と攪拌が続くようにしておくことが、過酸化物を扱う設備の基本です。
アセトンの併産と需給バランス
クメン法では、フェノールとアセトンができる割合が反応式で決まっており、運転の工夫では変えられません。フェノール1トンをつくるとアセトンが約0.62トンできるので、フェノールの需要に合わせて生産するとアセトンの量も自動的に決まり、その売れ行きが採算を左右します。
原料1.62トンが、フェノール1トンとアセトン0.62トンになります。アセトンの量はフェノールの量で決まります。
※分子量(ベンゼン78.11、プロピレン42.08、酸素32.00、フェノール94.11、アセトン58.08)から求めた理論量です。実際は副生物の分だけ原料が多く要ります。
フェノールの大きな使い道であるビスフェノールA(BPA)は、フェノール2分子とアセトン1分子からできるので、アセトンも一緒に使います。ただしその割合は、クメン法でできる割合のちょうど半分ほどです。
欧州連合の技術資料も、クメン法の経済性は副生アセトンの価格に強く左右され、その価格は大きく変動すると書いています。フェノールが売れてもアセトンの値が崩れれば利益は薄くなり、逆にアセトンが足りない時期にはフェノールの生産が引っ張られるという、2つの製品の市況がつながった事業です。
そこでメーカーは、アセトンの出口を自社のチェーンの中につくってきました。三井化学は2011年、大阪工場のプロピレン法イソプロピルアルコール(IPA)の設備を止め、フェノール・チェーンのアセトンを原料にする年6万トンのアセトン法IPA設備の新設を発表しました。
アセトンはほかに、アクリル樹脂の原料になるMMAや、溶剤のメチルイソブチルケトン(MIBK)にも使われます。国内のフェノール・アセトンの生産の流れは、エチレン設備の集約でプロピレンの供給がどう変わるかとも切り離せません。
フェノールの用途と国内の生産
ビスフェノールA・フェノール樹脂・ナイロン原料
フェノールの用途について欧州連合の技術資料は、フェノール樹脂、アニリン、カプロラクタム、エポキシ樹脂とポリカーボネートの原料になるビスフェノールAなどを挙げています。最終製品は、接着剤、積層板、塗料の原料、可塑剤、農薬、ゴム薬品まで広がります。
フェノールは樹脂・繊維の原料として、電機・自動車・建材から日用品までつながっています。
※欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)8.1・2.1.2の記述をまとめたものです。
ビスフェノールAから重合するポリカーボネートは、透明で衝撃に強いエンジニアリングプラスチックの代表で、電機・自動車の部品に使われます。同じくビスフェノールAを原料とするエポキシ樹脂は、塗料や接着剤、半導体の封止材、CFRPの成形に使う樹脂として広く使われています。
フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドを反応させた熱で固まる樹脂で、1907年に米国で特許が出願されたベークライトに始まる、歴史の長い合成樹脂です。社名をこの樹脂の商品名に由来する住友ベークライトのように、フェノール樹脂を出発点に事業を広げてきた化学メーカーもあります。
フェノールを水素化したシクロヘキサノンは、ナイロン6の原料のカプロラクタムや、ナイロン6,6の原料のアジピン酸につながります。新しい設備ではシクロヘキサノンをフェノールの水素化でつくるとされ、その先で使う硝酸はオストワルト法でつくられます。
国内の生産と主なプラント
石油化学工業協会の統計によると、国内のフェノール生産は2021年の約61.8万トンから2025年には約32.8万トンへと、4年でほぼ半分になりました。ビスフェノールAも2021年の約44.7万トンから2024年の約14.0万トンへ減りました(2025年は秘匿)。
2021年から2025年の4年で、国内のフェノール生産はほぼ半分になりました。
※出典:石油化学工業協会「石油化学製品の生産」(経済産業省 生産動態統計)。2021年 617,697 t、2022年 555,771 t、2023年 450,622 t、2024年 386,224 t、2025年 327,716 t。
三井化学と三菱ケミカルが2025年1月に出した共同発表は、その背景を、2022年以降に中国を中心としたアジアで新しい設備が動き出したことによる大幅な供給過多と、国内需要の縮小と説明しています。両社が挙げる主なプラントは次のとおりです。
| 会社 | 拠点 | フェノールの年産能力 | 発表された動き |
|---|---|---|---|
| 三井化学 | 大阪工場(大阪府高石市) | 20万トン | 今後の国内供給の軸にする |
| 三井化学 | 市原工場(千葉県市原市) | 19万トン | 2026年度までに停止すると2024年4月に発表 |
| 三菱ケミカル | 茨城事業所(茨城県神栖市) | 28万トン | ビスフェノールAなどの誘導品も展開 |
三井化学の市原工場は1970年にフェノールの生産を始めた拠点で、同社は中国・上海でも生産しています。
三菱ケミカルも2024年3月に九州事業所のビスフェノールA設備(年12万トン)を止めました。国内のフェノール・チェーンは、上流のフェノールから下流のビスフェノールAまで同時に縮小と再編が進んでいる状況です。
両社の共同検討には、定修(定期修理)やトラブルで一方が止まったときの製品の融通、タンクの運用、物流の合理化が含まれます。フェノール関連製品は経済安全保障の面でも重要とされ、1社では支えきれない供給を業界で守る動きとして、化学メーカーの再編の流れの中に位置づけられます。

クメン法のよくある質問
フェノールとアセトンの割合は運転で変えられますか?
変えられません。クメンヒドロペルオキシド1分子がフェノール1分子とアセトン1分子に分かれるので、重さでフェノール1トンにつきアセトン約0.62トンの割合が反応式で決まっています。割合を変えたいときは、アセトンをIPAやMMAなど別の製品に変える設備を後ろに持つことで対応します。
アセトンを出さずにフェノールをつくる方法はありますか?
トルエンを安息香酸経由で酸化する方法や、ベンゼンを酸素・過酸化水素・N2Oで直接酸化する方法があります。ただし欧州連合の技術資料(2017年)では、トルエン法は欧州生産の5%未満で商業的な製法ではなくなり、直接酸化はまだ商業化されていないとされています。
クメンはフェノール以外にも使われますか?
クメンの主な用途は、クメンヒドロペルオキシドを経たフェノールとアセトンの製造です。欧州連合の技術資料には、日本の化学会社がクメンヒドロペルオキシドを酸化剤に使ってプロピレンオキサイドだけをつくる方法を開発し、副生するクミルアルコールを水素化してクメンに戻すと紹介されています。
クメン法で硫酸はどのくらい使いますか?
硫酸は分解を進める触媒なので、反応液の中に必要な濃さはごく低いとされています。二相式では希硫酸を循環させて使い回し、分解のあとは中和して硫酸ナトリウムなどの塩として排水側で処理します。硫酸そのものの工業的な製法は接触法です。
まとめ
- クメン法は、ベンゼンとプロピレンからクメンをつくり、空気で酸化したクメンヒドロペルオキシドを酸で分解して、フェノールとアセトンを同時に得る製法
- 全体の式はC6H6+C3H6+O2→C6H5OH+CH3COCH3で、3段階とも発熱、最後の分解が最も速く熱も大きい
- クメンのベンジル位のC−H結合が酸化されやすく、分解ではフェニル基が酸素へ移る転位でフェノールとアセトンに分かれる
- 工場はゼオライト触媒でクメンをつくり、CHPを真空で濃縮してから硫酸で分解し、過酸化物の暴走を防ぐ温度管理が要になる
- フェノール1トンでアセトン約0.62トンが必ずでき、その売れ行きと国内外の需給が採算と再編を左右している
クメン法は、ベンジル位の反応性や転位という有機化学の基本が、副生物の扱い、過酸化物の安全管理、2つの製品をまとめて売る事業の組み立てにまで表れている製法です。
フェノールからビスフェノールA、樹脂、部品へと続く流れは化学業界のサプライチェーンと、使い終えた樹脂を原料に戻す動きはケミカルリサイクルの解説とあわせて読むと、つながりがつかみやすくなります。
出典
出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 工程・条件・原単位・用途・製法の比較:European Commission JRC「Best Available Techniques (BAT) Reference Document for the Production of Large Volume Organic Chemicals」(2017年)第8章 Phenol、2.1.1.5 Cumene ほか
- 反応熱:NIST Chemistry WebBook「Benzene」、「Propene」、「Benzene, (1-methylethyl)-」、「Hydroperoxide, 1-methyl-1-phenylethyl」、「Phenol」、「Acetone」
- 反応のしくみ:JoVE「Benzene to Phenol via Cumene: Hock Process」
- 危険性:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「1-メチル-1-フェニルエチル=ヒドロペルオキシド」モデルSDS
- ベークライトの特許:US Patent 942,699「Method of making insoluble products of phenol and formaldehyde」(L. H. Baekeland、1907年出願、1909年12月7日付与)
- 国内の生産量:石油化学工業協会「石油化学製品の生産」
- 国内のプラントと再編:三井化学・三菱ケミカル「フェノール関連製品の安定供給に向けた共同検討を開始」(2025年1月17日)、三井化学「市原工場のフェノールプラント生産停止について」(2024年4月4日)
- アセトン法IPA:三井化学「フェノール・チェーンの強化・拡大について―大阪工場アセトン法IPAプラントの新設―」(2011年8月29日)
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