大阪ソーダがシリカゲルに100億円超|尼崎・松山で能力2倍の狙い

ガラスシャーレに盛った白い球状シリカゲルの接写

2026年10月21日、大阪ソーダは兵庫県の尼崎工場で、医薬品精製用シリカゲルの製造設備を増やす工事の起工式を開きました。10月8日の愛媛県・松山工場に続く起工で、二つの工場の増設工事がそろって動き出しました。

投資は松山・尼崎の2拠点で総額100億円超、製造能力は現有の約2倍を目指す計画です。完成は尼崎が2027年11月末、松山が2028年2月末の予定で、糖尿病薬や肥満症薬の精製に使うシリカゲルの需要増に備えます。

この記事の内容は、動画でも解説しています。

目次

大阪ソーダのシリカゲル増設の中身

今回の計画は2025年12月に発表され、2026年10月に両工場で起工した増設工事です。投資額は松山・尼崎の合計で100億円超とされ、拠点ごとの内訳は公表されていません。

規模が大きいのは松山で、延床面積4,000㎡・4階建ての設備を10月20日に着工しました。尼崎は延床面積約1,000㎡・2階建ての設備で、11月1日に着工し、2027年11月末に完成する予定です。

図1:尼崎工場と松山工場の増設工事の概要

規模は松山が大きく、完成は尼崎が3か月早い計画です。

尼崎工場
松山工場
所在地
兵庫県尼崎市大高洲町
愛媛県松山市北吉田町
延床面積・階数
約1,000㎡・2階建て
4,000㎡・4階建て
起工式
2026年10月21日
2026年10月8日
着工
2026年11月1日
2026年10月20日
完成予定
2027年11月末
2028年2月末
2拠点の合計:投資総額100億円超、製造能力は現有の約2倍(拠点別の投資額と能力は非公表)

※出典:大阪ソーダ ニュースリリース(2026年10月8日・10月21日)

同社は両工場の工事を2027年度内に終える方針です。新中期経営計画「Transform Our Future 2030」では、この増設をヘルスケア領域の成長を加速させる重要な成長投資と位置づけています。

医薬品精製用シリカゲルとは

ラックに取り付けたステンレス製の分取用カラム

クロマトグラフィーで不純物を分ける材料

シリカゲルは二酸化ケイ素(シリカ)を主成分とする多孔質の粒子で、大阪ソーダの製品はゾル-ゲル法で作られています。医薬品向けでは粒の大きさや細孔(粒の表面にある微細な穴)の径をそろえ、筒状のカラムに詰めて使います。

この使い方はクロマトグラフィーと呼ばれ、溶かした混合物をカラムに流すと、成分ごとに粒子への吸着しやすさが違うため出てくる時間に差が出ます。この時間差を利用して、目的の成分と不純物を分け取るのが基本の仕組みです。

分析用と精製(分取)用

クロマトグラフィーには、成分の量や純度を調べる「分析」と、目的の成分を集める「分取」の二つの使い方があります。大阪ソーダのシリカゲル「DAISOGEL」は、分析用と分取用を同じ製法で作っていると販売元のカタログで紹介されています。

医薬品の製造で使用量が大きいのは分取用です。原薬をキロ単位、トン単位で精製するには大きなカラムに大量のシリカゲルを詰めるため、薬の生産量が増えるほどシリカゲルの使用量も増えやすい関係にあります。

ペプチド医薬の精製では、表面に炭素の鎖(C18やC8)を結合させた「逆相」と呼ばれるシリカが中心です。DAISOGELでもODS(C18)とC8の系列が米国FDAの原薬等登録原簿(DMF)に登録され、結合相はGMP(医薬品の製造管理・品質管理の基準)に沿って作られています。

図2:シリカゲルを詰めたカラムでペプチドを精製する流れ

合成したままの粗ペプチドを、シリカゲルの層で目的の成分と不純物に分けます。

粗ペプチドシリカゲルの層高純度の原薬不純物

※実際の製造では、条件を変えて精製を複数回くり返すのが一般的です。

需要が伸びる理由は糖尿病薬と肥満症薬

ラックに並んだ白い粉末入りのガラスバイアル

需要を押し上げているのは、糖尿病治療薬と肥満症治療薬です。大阪ソーダは2023年の尼崎投資の時点から、インスリンの使用が欧米やアジアで広がっていることを増産の理由に挙げていました。

ペプチド医薬は精製の工程が重い

近年伸びているGLP-1受容体作動薬(血糖を下げるホルモンGLP-1の働きをまねる薬)は、アミノ酸がつながったペプチドでできています。化学合成で作ると目的のペプチドに似た構造の不純物が混ざるため、それを取り除く精製が欠かせません。

米デュポンは2026年10月22日の新製品発表で、逆相シリカ媒体を粗ペプチドから不純物を除く中核の精製工程と説明しています。化学メーカーのヌーリオンも2023年の製品発表で、GLP-1薬は規制当局が求める純度99.5%に届くまで一般に3〜4段階の精製を要すると述べています。

精製の段数が多いほど、同じ量の原薬をつくるのに必要な充填剤も増えます。そのためGLP-1薬の増産は、精製材料の需要増と強く結びつきます。

肥満症薬の市場拡大と新興国の参入

肥満症向けでは、日本でもセマグルチド(商品名ウゴービ)が2023年11月に薬価収載され、保険診療で使えるようになりました。大阪ソーダは、欧米製薬企業の大型投資と、中国・インドなど新興国企業の後発参入が中長期の成長を支えるとみています。

図3:医薬品精製用シリカゲルの需要を押し上げる4つの要因

薬そのものの広がりと、つくる会社の増加が重なっています。

糖尿病治療薬インスリンやGLP-1薬の使用が欧米・アジアで拡大
肥満症治療薬新しい市場として発展。日本も2023年に薬価収載
欧米製薬の大型投資先行する製薬企業が原薬の生産能力を拡大
新興国の後発参入中国・インドなどの企業が後発品で参入

※大阪ソーダのニュースリリースと報道(2025年12月・2026年10月)をもとに作成

2028年頃に需要が能力を上回る想定

大阪ソーダの見立てでは、医薬品精製用シリカゲルの需要は2030年度まで年平均20%で伸び、2028年頃には現有の製造能力を上回ります。尼崎・松山の完成予定はその前後にあたり、需要が能力を超える時期に増設を間に合わせる計画です。

年平均20%の伸びが5年続くと、需要は単純計算で約2.5倍になります。製造能力の約2倍への増強は大きな数字ですが、想定どおりに需要が伸びた場合、余裕は大きくありません。

図4:需要の見通しと増設完成の時間軸

需要が現有能力を超える想定の時期に、二つの工場の完成が重なります。

2026年10〜11月両工場で着工松山10月20日、尼崎11月1日
2027年11月末尼崎工場が完成延床約1,000㎡の設備
2028年2月末・2028年頃松山完成/需要が現有能力を超える想定2拠点で能力約2倍の体制へ
2030年度まで需要は年平均20%成長の想定同社の想定する成長率の期間

※「現有能力」「約2倍」は同社発表時点の製造能力が基準。需要の数字はいずれも大阪ソーダの想定です。

30億円から100億円超へ、段階的な投資の流れ

大阪ソーダのシリカゲル増産は、今回が初めてではありません。2023年8月には、尼崎工場に約30億円を投じて製造棟を新設し、同工場の能力を2023年度比で約1.5倍にする計画が報じられました。

2024年9月には松山工場に製造設備を新設し、製造能力を約2倍に広げています。報道によると同社はすでに50億円超を設備増強に投じており、今回の100億円超はそれを上回る規模の追加投資です。

図5:シリカゲル増産投資の段階と能力の変化

数年おきに投資を重ね、拠点と能力を広げてきました。

これまでの増強(50億円超)
2023年8月尼崎に約30億円製造棟を新設し、同工場の能力を約1.5倍にする計画
2024年9月松山に設備を新設製造能力を約2倍に。尼崎と合わせた二拠点体制へ
今回の増設(100億円超)
2025年12月100億円超の増設を発表両工場で能力を現有の約2倍にする計画
2026年2月松山で立地協定愛媛県・松山市と締結
2026年10月両工場で起工式松山10月8日、尼崎10月21日
2027年11月〜2028年2月尼崎・松山が完成2027年度内の工事完了を目指す

※2023年の投資額・能力は日本経済新聞、2024年以降は大阪ソーダの発表と報道による。50億円超に含まれる投資の内訳は公表されていません。

二拠点体制とBCP

松山の設備新設で、以前から製造してきた尼崎と合わせた二拠点体制ができ、同社はBCP(事業継続計画)の対応を強化したと説明しています。地震や設備トラブルで片方が止まっても、もう片方で供給を続けやすくする狙いです。

ただし、どの製品をどちらの工場で作れるか、片方が止まったときにどこまで代わりを担えるかは公表されていません。二拠点化は供給を安定させる土台であり、実際の代替範囲は取引の中で確かめる事項です。

大阪ソーダの中でのシリカゲルの位置づけ

大阪ソーダは、かせいソーダや塩素製品などの基礎化学品を源流とする化学メーカーです。2026年3月期の連結売上高は999億円で、事業は基礎化学品、機能化学品、ヘルスケア、商社部門ほかの4つのセグメントに分かれます。

シリカゲルを含む医薬品精製材料はヘルスケアに入り、同セグメントの売上高は146億円(前期比6.9%増)と全体の約15%です。医薬品の原薬・中間体や、光学活性体(左右の形を作り分けた化合物)もこのセグメントで扱っています。

売上の比重は大きくないものの、同社は有価証券報告書で、医薬品精製材料の売上が糖尿病・肥満症薬向けの需要拡大で増えたと説明しています。新中計では医薬品精製材料の世界トップシェアの維持・拡大を掲げ、液体クロマトグラフィー用の新しい充填剤の研究やポリマーゲル市場への参入も進めます。

図6:医薬品精製用シリカゲルの世界シェア

世界で使われる医薬品精製用シリカゲルの、およそ10個に7個が大阪ソーダ製という計算です。

世界シェア約70%(大阪ソーダ発表、2026年10月)

※シェアの算出方法・対象市場の定義は公表されていません。

一般の知名度は高くなくても特定の用途で世界の大半を押さえる点で、大阪ソーダは日本のニッチトップ企業の典型です。素材で世界首位を持つ化学メーカーには信越化学工業などがあり、大阪ソーダは医薬品の製造工程という見えにくい場所で地位を築いてきました。

製薬・化学の現場から見た今回の投資

白い粉末のサンプル瓶を確かめる品質管理担当者の手元

製薬の購買・品質保証

精製材料は原薬の品質に直接かかわるため、一度採用した銘柄を別の製品に切り替えるには検証が必要です。購買や品質保証の担当者にとっては、能力増強そのものより、新設備で作る製品が既存品と同等であることの説明が関心事になります。

製造場所が増える場合の通知や、どの工場の製品が届くかの扱いも確認しておきたい点です。品質保証の変更管理の観点で、新設備の稼働前に供給元と情報をそろえておくと、切り替え時の混乱を減らせます。

化学メーカーの研究開発・技術営業

基礎化学品が中心の会社でも、医薬品向けの高機能材料で世界シェアを持てば、景気の波とは別の伸びを取り込めます。2026年3月期は機能化学品が4.0%の減収だった一方で、ヘルスケアは6.9%の増収でした。

化学業界で研究開発や技術営業を目指す人には、素材の性能だけでなく顧客の製造工程や規制まで理解して売る事業の例として参考になります。販売元のカタログによると、同社のシリカ表面処理の工場は大手製薬会社の監査を受けています。

就職・転職で見る場合

有価証券報告書によると、2026年3月末の連結従業員1,032名のうち、ヘルスケアの所属は250名です。工場の増設は製造や品質管理、設備保全の人員を伴うことが多く、尼崎・松山での求人の動きは今後の確認点になります。

図7:立場別に見た今回の投資の確認ポイント

発表で分かる事実と、次に確かめたい点を立場ごとに分けました。

製薬の購買・品質保証分かること:2拠点で能力約2倍、完成は2027年11月〜2028年2月。確かめたい点:新設備品の同等性の説明、製造場所の変更の通知、二拠点の代替範囲
化学メーカーの研究開発・技術営業分かること:世界シェア約70%、需要は年平均20%の想定。確かめたい点:新しい充填剤やポリマーゲルの開発の進み方
就職・転職を考える人分かること:ヘルスケアの所属は250名、中計で成長領域に位置づけ。確かめたい点:尼崎・松山での製造・品質管理の求人
業界の動きを追う人分かること:GLP-1薬の増産で精製材料の需要が拡大。確かめたい点:海外の競合製品の動き、2028年以降の需給

大阪ソーダのシリカゲル増設のよくある質問

大阪ソーダのシリカゲルは何に使われますか?

医薬品の分析や精製の工程で、カラムに詰めて目的の成分と不純物を分ける充填剤として使われます。糖尿病治療薬や肥満症治療薬など、ペプチド医薬の精製向けで需要が伸びています。

増設した設備はいつ完成しますか?

完成予定は尼崎工場が2027年11月末、松山工場が2028年2月末です。大阪ソーダは両工場の工事完了を2027年度内に目指すとしています。

大阪ソーダはどんな会社ですか?

かせいソーダなどの基礎化学品から、合成ゴムや樹脂などの機能化学品、医薬品精製材料などのヘルスケアまで手がける化学メーカーです。2026年3月期の連結売上高は999億円、営業利益は176億円でした。

医薬品精製用シリカゲルに競合はありますか?

海外ではヌーリオンやデュポンなどが、GLP-1などペプチド医薬の精製向けにシリカ系の充填剤を発売しています。大阪ソーダは世界シェア約70%(同社発表)を持ち、需要の伸びに合わせて2拠点で増設中です。

まとめ

この記事のまとめ
  • 大阪ソーダは尼崎・松山の2拠点に総額100億円超を投じ、医薬品精製用シリカゲルの能力を約2倍にする
  • 起工式は松山が2026年10月8日、尼崎が10月21日で、完成は2027年11月末〜2028年2月末の予定
  • シリカゲルはカラムに詰めて不純物を分ける材料で、GLP-1などペプチド医薬の精製に欠かせない
  • 需要は2030年度まで年平均20%の想定で、2028年頃に現有能力を上回る見通し
  • 世界シェア約70%を持つ一方、二拠点の代替範囲や新設備品の扱いは取引の中で確認が必要

医薬品は完成品の工場だけでなく、精製材料のような見えにくい素材の供給に支えられています。仕事として関わる道を知りたい人は研究開発の仕事内容、業界の全体像は食品・医薬・日用品業界の解説もあわせてご覧ください。

化学メーカー同士の規模や得意分野を比べたい場合は、化学メーカーの売上高ランキングから主要企業の位置づけを確認できます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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