フィッシャー投影式は、糖のように不斉炭素(4つの異なる原子や原子団が付いた炭素)が縦に並ぶ分子を、横の結合は手前、縦の結合は奥という約束で平面に描く方法です。十字の交点に炭素があると読み、紙の上のOHが右か左かで立体の違いを表します。
同じC6H12O6でも、グルコース・マンノース・ガラクトースはOHの向きが1か所違うだけで別の糖になり、甘さや体での使われ方も変わります。食品や医薬の工場では、この向きの違いを旋光計やHPLCで確かめながら、原料と製品の品質を管理しています。
この記事では、書き方のルールとD型・L型の決め方、環の構造式(ハース式)への直し方を順に整理します。後半では、グルコースから他の単糖を組み立てる考え方と、旋光度・HPLCによる糖の分析、異性化糖やビタミンCの製造で立体がどう効くかを取り上げます。
フィッシャー投影式とは:糖の立体を平面に描く約束
フィッシャー投影式は、ドイツの化学者エミール・フィッシャーが、糖の立体配置を紙の上で比べるために使い始めた描き方です。フィッシャーは糖とプリンの合成の研究で1902年にノーベル化学賞を受けており、グルコースの4つの不斉炭素の向きを決めた仕事の道具がこの投影式でした。
糖は結晶や水溶液の中ではほとんどが環の形をとっていますが、水の中では環が開いた鎖状の分子とも入れ替わっています。フィッシャー投影式は、この鎖状の形を縦にまっすぐ伸ばして描くもので、読むときの約束は次の3つだけです。
- 十字の交点には炭素があり、元素記号の「C」は省く
- 横に出た2本の結合は紙の手前へ、縦の2本は紙の奥へ向いている
- 紙の上で180°回してもよいが、90°回すと手前と奥が入れ替わり、別の分子(鏡像)を表してしまう
いちばん小さな糖のグリセルアルデヒドで、フィッシャー投影式(左)と、くさび形で立体を描いた形(右)を並べました。2つは同じ分子を表します。
※太いくさびは紙の手前へ、破線は紙の奥へ向かう結合です。この配置のグリセルアルデヒドがD型の基準になります。
くさび形の図は1つの炭素なら分かりやすいものの、不斉炭素が4つ並ぶグルコースで描くと線が重なって読めなくなります。どの炭素でも「横は手前、縦は奥」とそろえて描くので、フィッシャー投影式では炭素ごとのOHの左右を見比べるだけで立体の違いが分かります。
フィッシャー投影式の書き方のルール
書くときは、まず糖の炭素の鎖を縦にまっすぐ置き、どちらを上にするかを決めてから、各炭素のHとOHを左右に振り分けます。上下の向きと手前・奥の約束がそろっていないと、同じ糖を描いたつもりでも読み手には別の糖に見えてしまいます。
水の中のグルコースは、α型の環、鎖状、β型の環の3つが入れ替わりながら釣り合っており、鎖状はごくわずかです。それでも立体の向きを比べるときは、鎖状の形に戻して描くのが約束で、環の形への直し方は後の章でまとめて扱います。
ルール1:いちばん酸化された炭素を上に置く
1つ目のルールは、主鎖の中でいちばん酸化の進んだ炭素を上に置き、炭素の4本の結合を上下左右に向けることです。グルコースならアルデヒド基(−CHO)の炭素が最上段に来て、上から順にC1、C2…C6と番号を振ります。
フルクトースのようにケトン基(C=O)をもつ糖(ケトース)では、カルボニルの炭素はC2で、それに近い端のCH2OHをC1として上に置きます。こうして上下をそろえておけば、どの糖でも同じ番号の炭素どうしを横に並べて比べられます。
アルデヒド基のC1を上に置き、C2〜C5のOHの向きを左右で表します。D型かL型かは、いちばん下の不斉炭素C5のOHで決まります。
※交点の炭素C2〜C5が不斉炭素です。C1とC6は不斉炭素ではありません。
ルール2:横の結合は手前、縦の結合は奥
2つ目のルールは、各炭素で左右に出ている結合(グルコースではHとOH)を紙の手前へ、上下に出ている結合(主鎖の隣の炭素)を紙の奥へ向けることです。主鎖の炭素はどこでも奥へ向かうので、実際の分子は紙の奥へ弓なりに反った形をしています。
鎖が奥へ丸まっているため、C5のOHと上端のC1はもともと近い位置にあり、ここから環ができる理由も投影式から読めます。逆に、この約束を守らずに投影式を動かすと別の分子になるので、やってよい操作と、いけない操作を図3で分けておきます。
フィッシャー投影式は「横は手前、縦は奥」を保つ動かし方だけが許されます。迷ったら、動かした後も横の結合が手前を向いているかを確かめます。
※紙を裏返す(裏から見る)操作も、手前と奥が入れ替わるので使えません。
フィッシャー投影式から分かる糖の性質:アルデヒド基・多価アルコール・D/L
図2のグルコースを上から読むと、C1にアルデヒド基があり、残りのC2〜C6にOHが1本ずつ付いています。つまりグルコースは「アルデヒド基をもつ多価アルコール」で、この2つの顔が糖の性質の大部分を説明します。
アルデヒド基は相手を還元して自分は酸化されやすいので、グルコースはフェーリング液や銀鏡反応で還元性を示します。OHが5本ある多価アルコールなので水と水素結合をつくりやすく、極性分子の典型として水によく溶ける一方、油にはほとんど溶けません。
フィッシャー投影式でいちばんよく使う読み方が、D型・L型の判定です。カルボニル基からいちばん遠い不斉炭素(いちばん下の不斉炭素)のOHが右ならD型、左ならL型で、グルコースではC5のOHが右なのでD-グルコースになります。
基準は図1のグリセルアルデヒドで、OHが右のものをD-グリセルアルデヒドと名づけ、同じ向きのものをD系列と呼びます。アルドヘキソース(アルデヒド基をもつ炭素6個の糖)は不斉炭素が4つあるので、立体異性体は24=16種類あり、そのうち8種類がD型、8種類がその鏡像のL型です。
注意したいのは、D・Lと、偏光を右に回す(+)か左に回す(−)かは無関係な点です。D型の糖にも右旋性と左旋性の両方があり、回す向きは旋光計で測って初めて分かるので、D/Lと似た記号のR/S、α/βとあわせて表1で区別しておきます。
| 記号 | 何を表すか | どこを見て決めるか | D-グルコースでの例 |
|---|---|---|---|
| D・L | 糖全体の系列(鏡像のどちら側か) | いちばん下の不斉炭素のOHが右ならD、左ならL | C5のOHが右なのでD |
| (+)・(−) | 偏光を回す向き(右旋性・左旋性) | 旋光計で測る。構造からは決まらない | 右に回すので(+) |
| R・S | 1つの不斉炭素の立体配置 | 付いている原子の優先順位と向き(CIP則) | C2〜C5の4か所それぞれに付く |
| α・β | 環になったときのC1(アノマー炭素)のOHの向き | ハース式で−CH2OHと反対側ならα、同じ側ならβ | α型とβ型が水中で入れ替わる |
自然界の糖はほとんどがD型で、L-グルコースは天然にはほぼ見つかりません。一方でタンパク質をつくるアミノ酸はL型がほとんどで、アミノ酸・タンパク質の検出反応で扱うアミノ酸も、同じグリセルアルデヒドの基準でL型に分類されます。
糖の構造は何を覚えればいい?グルコース1つから読む
糖の構造式は種類が多く、1つずつ丸暗記しようとすると混乱します。覚えるのはD-グルコースのフィッシャー投影式1つだけで、C2からC5のOHの向き「右・左・右・右」を押さえれば、残りは規則から組み立てられます。
上端はアルデヒド基、下端は−CH2OHで、間の4つの炭素のOHが右・左・右・右と並ぶ形です。いちばん下の右がD型の印なので、「最後の右はD型の右」と意味づけておくと、L-グルコースは4つ全部を反対にした左・右・左・左だとすぐに書けます。
この「1つを正確に覚え、違う炭素だけを書き換える」考え方は、研究や品質管理で構造式を読むときも同じです。似た名前の糖が並ぶ成分表や規格書を見たときも、グルコースと何番の炭素が違うかを確かめれば、構造の違いを取り違えにくくなります。
フィッシャー投影式(鎖式)からハース式(環の構造式)にする方法
水の中のグルコースは、ほとんどが六員環(炭素5個と酸素1個の環)の形をしています。環ができるのは、C5のOHの酸素が非共有電子対でC1のアルデヒドの炭素を攻撃し、ヘミアセタールをつくるからで、C=Oの二重結合の片方とO−Hの結合が切れて新しい結合に組み替わります。
C1の炭素は酸素に電子を引かれてわずかに正(δ+)を帯びており、そこへ電子の多い酸素が近づくという流れは、エステル化や加水分解とも共通です。ヘミアセタールそのものの性質やα型・β型の割合は、アセタールとヘミアセタールの構造の違いで詳しく整理しています。
環を平らな六角形にして横から見たように描くのがハース式で、フィッシャー投影式から描き換えるには決まった手順があります。D型の糖を、環の酸素を右奥に置く標準の向きで描く場合、次の4手順で変換できます。
投影式で右にあるOHは環の下へ、左にあるOHは環の上へ移ります。C1にできる新しいOHの向きでα型とβ型が分かれます。
※D型の糖のピラノース(六員環)を、環の酸素を右奥にした標準の向きで描くときの規則です。L型の糖や五員環では上下の対応を描き直して確かめます。
この規則でD-グルコースを描くと、C2のOHは下、C3は上、C4は下になり、C1のOHが下ならα型、上ならβ型です。デンプンはα型、セルロースはβ型のC1がグリコシド結合でつながったもので、C1のOH1本の向きが、食べて消化できるか、繊維になるかを分けています。
グルコースから他の単糖の構造式を作る方法
グルコースのフィッシャー投影式から、よく出てくる単糖は1か所の書き換えで作れます。不斉炭素が複数ある分子のうち、1か所の不斉炭素だけ立体が逆のものどうしを「エピマー」と呼び、マンノースはグルコースのC2エピマー、ガラクトースはC4エピマーです。
C2〜C5のOHの向きを、D-グルコースの「右・左・右・右」と比べています。違う炭素は1〜2か所で、C5はどれも右(D型)です。
※OpenStax Organic Chemistry 2e 25.3 の構造による。フルクトースはC2が不斉炭素でないので、不斉炭素はC3〜C5の3つです。
マンノースとガラクトースは、グルコースの投影式を書いてから、C2またはC4のHとOHを入れ替えるだけで書けます。ハース式にすると、マンノースはC2のOHが上、ガラクトースはC4のOHが上になり、図4の規則がそのまま使えます。
フルクトースの構造式の作り方
フルクトースは、グルコースの上の2つの炭素を組み替えた形です。C1のアルデヒド基を−CH2OHに、C2のH−C−OHをC=Oに書き換え、C3〜C5はグルコースと同じ左・右・右のままにすれば、D-フルクトースの投影式になります。
環になるときは、C2のケトンの炭素をC5またはC6のOHが攻撃します。C5のOHが付くと五員環(フラノース)、C6のOHが付くと六員環(ピラノース)で、砂糖(ショ糖)の中のフルクトースは五員環の形でグルコースとつながっています。
水に溶けたフルクトースでは、六員環のβ型が約68%、五員環のβ型が約22%、五員環のα型が約6%を占め、環の形が1つに決まりません。グルコースと同じ組み立て方でも、ケトースは攻撃するOHが2通りあるぶん、描ける環が増えると押さえておけば混乱しません。
実際の工場では:旋光度とHPLCで糖を確かめる

フィッシャー投影式で区別した立体の違いは、工場の品質管理では測定値として確かめます。代表的なのが、偏光の回る角度を測る旋光度と、成分を分けて量を測るHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で、旋光度は「規格どおりの糖か」、HPLCは「何がどれだけ入っているか」を見る役割です。
旋光度で規格に合っているかを見る
不斉炭素をもつ分子の溶液に偏光(振動の向きがそろった光)を通すと、振動面が少し回ります。旋光計は、光源と偏光板、試料を入れた観測管、角度を読む検光板を一直線に並べた装置で、回った角度から比旋光度を計算します。
偏光板で向きをそろえた光が糖の溶液を通ると振動面が回ります。検光板を回して、光がいちばん暗く(または明るく)なる角度を読みます。
※測定値は光の波長、温度、濃度、管の長さで変わるため、規格ではこれらの条件をそろえて比べます。
日本農林規格のJAS 1412「ぶどう糖」(2025年改正)は、結晶ぶどう糖の比旋光度を52.5以上53.7以下と定めています。試料約11 gにうすいアンモニア水0.2 mLを加えて20 ℃で100 mLにし、1時間置き、ろ過したろ液を200 mmの観測管に入れて測ります。
溶かした直後のグルコースは、α型とβ型の割合が平衡に届いておらず、比旋光度が時間とともに変わります。α型だけなら+112.2、β型だけなら+18.7で、平衡で+52.6前後に落ち着きます。
規格でアンモニア水を加えて1時間置くのは、塩基で環の開閉を速め、値が安定してから測るためと考えられます。
比旋光度は、異性化糖が混ざったり、分解物ができたりすると値がずれるため、純度の目安になります。ただし旋光度は溶液全体の平均値で、どの糖がどれだけ混ざっているかまでは分からないので、組成はHPLCで確かめます。
砂糖の業界では、同じ原理の糖度計(サッカリメーター)で、スクロースの量を国際糖度目盛(°Z)で読みます。純粋なスクロース26.016 gを20 ℃で100 mLにした溶液を200 mmの管で測った値を100 °Zとする目盛で、1988年から国際的に使われています。
HPLCで何がどれだけ入っているかを量る
HPLCは、試料をカラム(分離用の管)に流し、成分ごとに出てくる時間の差で分けて量る方法です。JAS 1412のぶどう糖含有率では、陽イオン交換樹脂を詰めたカラムに水を流し、示差屈折率検出器で糖を検出し、5点の検量線から含有率を求めます。
糖は紫外線をほとんど吸収しないので、溶液の屈折率の差で検出する示差屈折率検出器がよく使われます。無水結晶ぶどう糖の含有率の規格は無水物換算で99%以上で、ほかの糖や分解物があれば別のピークとして現れるので、原理はクロマトグラフィーの原理とGC・HPLCの違いで確かめられます。
還元性を使って糖の量を測る方法もあり、水あめの分解の進み具合や、はちみつの還元糖の量の測定に使われています。アルデヒド基をもつかどうかで測れる糖が変わるので、HPLCで組成を見るか還元糖で量を見るかは、知りたいことに合わせて選びます。
医薬品では鏡像異性体を不純物として管理する
糖以外の医薬品でも、立体の違いは品質の規格に直結します。日米欧の医薬品規制の調和で定めたICH Q6A(1999年)では、単一の鏡像異性体として開発した原薬は、もう一方の鏡像異性体をほかの不純物と同じ考え方で管理するとしています。
同じ指針は、原薬の確認試験が両方の鏡像異性体とラセミ体(等量の混合物)を見分けられることも求めています。製剤でも、製造中や保管中にラセミ化しないと示せない限り、もう一方の量を管理します。
鏡像の分子を作り分ける研究はノーベル化学賞2026の不斉自己触媒の解説でも取り上げており、出荷判定の仕事は品質保証・品質管理の仕事で全体像をつかめます。
医薬品の試験では、旋光度やキラルカラム(鏡像異性体を分けられるカラム)を使ったHPLCで、もう一方の鏡像異性体の量を確かめます。原料から製品まで規格で品質をつなぐ流れは、サリチル酸とアスピリンの製法と品質管理で、医薬品原料の具体例として紹介しています。
実際の工場では:異性化糖・希少糖・ビタミンCは「どの炭素を変えるか」
糖の工業では、酵素や触媒で特定の炭素だけを変えて、別の糖や糖アルコールをつくります。フィッシャー投影式で並べると、どの製品も「グルコースのどの炭素に手を入れたか」で説明できるので、工程の意味が読み取りやすくなります。
酵素や水素化は、決まった炭素だけを変えます。変えなかった炭素の向きはそのまま残るので、製品の立体は投影式で追いかけられます。
※異性化はグルコースイソメラーゼ、アルロースはD-タガトース3-エピメラーゼなどの酵素による。
清涼飲料に多い異性化糖(ぶどう糖果糖液糖)は、固定化したグルコースイソメラーゼでグルコースの一部をフルクトースに変えたものです。この酵素はC1とC2を組み替えるだけで、C3〜C5の左・右・右は変わらず、できるフルクトースもD型です。
希少糖のアルロース(D-プシコース)は、D-フルクトースのC3だけを反転させたC3エピマーで、香川大学のグループが見つけた3-エピメラーゼでつくります。同グループは、酵素で1か所ずつ向きを変えて全部の六炭糖をつくる道筋を「イズモリング」として示しました。
米国食品医薬品局(FDA)は2020年の指針で、アルロースを栄養成分表示の「糖類」「添加糖類」の量に含めなくてよいとし、熱量は1 gあたり0.4 kcalで計算するとしています。C3の向きが1か所違うだけで、体の中での扱いと食品表示の数字まで変わる例です。
ビタミンC(L-アスコルビン酸)は、ライヒシュタイン法と呼ばれる経路でつくられてきました。D-グルコースを水素化したD-ソルビトールを微生物でL-ソルボースに酸化し、2-ケト-L-グロン酸を経てビタミンCにする流れで、後半を発酵に置き換えた方法も使われています。
D-グルコースから始めたのにL型になるのは、立体が反転したからではなく番号の振り方が逆になるためです。ソルビトールのC5をケトンにすると、そちらが上になるよう番号を振り直すので投影式を180°回して描き直すことになり、旧C2の右のOHが新しいC5で左に来ます。
糖の工場で働く人にとって、こうした読み替えは、原料の規格書や特許、酵素の仕様書を読むときに欠かせません。番号と左右の約束を押さえておけば、名前のD・Lが変わっても、分子のどこに手を入れたのかを投影式の上で追えます。

フィッシャー投影式のよくある質問
D型は右旋性、L型は左旋性という意味ですか?
違います。D・Lは構造の系列(いちばん下の不斉炭素のOHの向き)を表し、偏光を右に回すか左に回すかは旋光計で測って初めて分かります。D型の糖にも、右に回すものと左に回すものの両方があります。
フィッシャー投影式とR・S表示はどう対応しますか?
投影式からも各不斉炭素のR・Sを決められます。いちばん優先順位の低い原子(多くはH)が横にあるときは手前を向いているので、残り3つを優先順に回した向きの逆がその炭素の配置になります。D-グリセルアルデヒドはR配置です。
L型の糖は自然界に存在しますか?
少ないながら存在します。L-グルコースは天然にはほぼ見つかりませんが、植物の多糖に含まれるL-アラビノースや、海藻に含まれるL-フコースのように、L型が主に使われている糖もあります。
ハース式といす形配座はどう違いますか?
ハース式は六員環を平らな六角形として描き、OHが環の上か下かだけを示す描き方です。実際のグルコースの環は平らではなく、いす形と呼ばれる折れ曲がった形をとっており、OHの向きを空間的に正確に表すときはいす形配座で描きます。
まとめ
- フィッシャー投影式は、横の結合を手前、縦の結合を奥として糖の立体を平面に描く方法で、180°回転は可、90°回転は不可
- いちばん酸化された炭素を上に置き、上からC1、C2と番号を振る。グルコースはC2〜C5のOHが右・左・右・右
- いちばん下の不斉炭素のOHが右ならD型、左ならL型で、偏光を回す向き(+・−)とは関係がない
- ハース式では投影式の右のOHが環の下、左のOHが環の上になり、C1のOHの向きでα・βが決まる
- 工場では旋光度で規格に合うかを、HPLCで組成を確かめ、異性化糖・アルロース・ビタミンCは決まった炭素だけを変えてつくる
フィッシャー投影式は、構造式を暗記するための道具であると同時に、どの炭素の向きが違うかを一目で比べるための共通語です。グルコース1つを正確に描ければ、マンノースやフルクトース、工場で変える炭素の位置まで、同じ約束の上で読み解けます。
糖や医薬品の原料をつくる会社の顔ぶれと仕事の流れは化学業界とはの解説で、新しい糖の素材を生み出す仕事は研究開発の仕事内容の解説で全体像をつかめます。
出典
出典・参考資料(10件)を開く出典・参考資料を閉じる
- フィッシャー投影式・D/L・アルドースの構造:OpenStax「Organic Chemistry 2e」25.3 D,L Sugars
- 環化・ハース式・変旋光・フルクトースの環の割合:OpenStax「Organic Chemistry 2e」25.5 Cyclic Structures of Monosaccharides: Anomers
- 糖の還元(糖アルコール):OpenStax「Organic Chemistry 2e」25.6 Reactions of Monosaccharides
- エミール・フィッシャーのノーベル化学賞:The Nobel Prize in Chemistry 1902(NobelPrize.org)
- ぶどう糖の比旋光度・HPLC による含有率:農林水産省「日本農林規格 JAS 1412:2025 ぶどう糖」
- 国際糖度目盛:NIST「Certificate of Analysis, Standard Reference Material 17e Sucrose」、ICUMSA(International Commission for Uniform Methods of Sugar Analysis)
- 医薬品の鏡像異性体の管理:ICH「Q6A Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances」(1999年)
- アルロースと3-エピメラーゼ、イズモリング:Glycoforum「希少糖」シリーズ(2025年)
- アルロースの栄養表示:FDA「The Declaration of Allulose and Calories from Allulose on Nutrition and Supplement Facts Labels: Guidance for Industry」(2020年)
- ビタミンCの製法(ライヒシュタイン法):欧州特許 EP0518136B1「Fermentation process for producing 2-keto-L-gulonic acid」、Sonoyama et al. Applied and Environmental Microbiology 43(5), 1982
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