ヘンリーの法則とは、温度が一定なら、液体に溶ける気体の量(物質量や質量)はその気体の分圧に比例する、という法則です。式では C = kHp と書き、気体を2倍の圧力で押しつければ、水に溶ける量もほぼ2倍になるという関係を表しています。
分かりにくくなる原因は、「溶ける気体の体積は圧力によらない」というもう1つの言い方と、気体の状態方程式の計算が混ざるところにあります。どちらも物質量(mol)で考えれば同じ内容です。
工場では炭酸飲料の充填やボイラー給水の脱気、排水処理の曝気、排ガスの吸収塔などで、分圧を上げ下げして気体を溶かしたり追い出したりするときの基本になっています。
この記事では、まず法則の意味と2つの言い方の関係を整理し、物質量を使った計算方法を例題で解きます。そのあと混合気体と水温の扱い、計算でよく出る疑問に答え、工場での使われ方と、アンモニアや塩化水素のように法則が当てはまりにくい気体まで順に見ていきます。
ヘンリーの法則とは:気体は「押した分だけ」水に溶ける
ヘンリーの法則は、英国の化学者ウィリアム・ヘンリーが1803年に発表しました。温度と圧力を変えながら水に吸収される気体の量を測り、余分にかけた気圧の分だけ、吸収される量が増えることを確かめたものです。
温度と水の量を同じにして、上から押す気体の圧力(分圧)だけを変えた比較です。水に溶けた粒の数が圧力に比例します。
※白い粒は水の上の気体、青い粒は水に溶けた気体の模式です。粒の数は比の目安で、実際の分子数ではありません。
式で書くと、気体Aが溶けた濃度 CA は、水と接している気体Aの分圧 pA に比例します。比例定数 kH をヘンリー定数と呼び、気体の種類と温度が決まれば一つの値になります。
気体が溶ける現象は、水から気体が出ていく動きと、気体が水に入る動きが釣り合った平衡の状態です。平衡の位置は温度で変わるため、ヘンリーの法則には「温度が一定なら」という条件が必ず付きます。水温を上げると、多くの気体は溶けにくくなります。
対象になるのは、酸素や窒素のように水に溶けにくい気体です。アンモニアや塩化水素のように水によく溶け、水と反応したり電離したりする気体は単純な比例にならないので、後の章で別に扱います。
工場でのヘンリーの法則の使い方は、「分圧を上げて溶かす」と「分圧を下げて追い出す」の2つに分けられます。
炭酸飲料は二酸化炭素を加圧して溶かし込み、ボイラー給水の脱気は酸素の分圧をほぼ0にして追い出し、排水処理の曝気や排ガスの吸収塔は、気体と液体を広い面で触れさせて溶け込みを進めています。
ヘンリーの法則でつまずきやすい2つの理由
法則そのものは「押せば溶ける」の一言で表せますが、計算問題になると手が止まる人が多くいます。理由は大きく2つで、教科書にある2つ目の言い方が分かりにくいことと、ヘンリーの法則と気体の法則の計算が混ざることです。
2つ目の言い方「溶ける気体の体積は圧力によらない」の意味
ヘンリーの法則は、次の2通りの言い方で紹介されることがよくあります。1つ目と2つ目が一見すると矛盾していて、ここで混乱する人が少なくありません。
- 一定温度で、一定量の溶媒に溶ける気体の物質量(質量)は、その気体の分圧に比例する
- 一定温度で、一定量の溶媒に溶ける気体の体積は、溶かしたときの圧力で測れば圧力によらず一定である
2つ目の言い方は、溶けた気体の量を体積で表していることがポイントです。ヘンリーが法則を発表した1803年ごろは、量を物質量(mol)で数える考え方がまだ整っておらず、気体の量は体積で比べるのが普通でした。molという言葉が使われるようになったのは19世紀の終わりごろです。
圧力を2倍にすると溶ける物質量は2倍になりますが、その気体を取り出して2倍の圧力のまま体積を測ると、状態方程式から体積は元と同じになります。物質量が2倍でも、押し縮められて同じ体積に収まるからです。
水に溶けた気体を取り出し、溶かしたときと同じ温度・圧力の注射筒に集めて体積を比べた模式です。
※標準状態など同じ条件に直して比べると、右の体積は左の2倍になります。どの条件で測った体積かを必ず確かめます。
つまずきの多くは「気体の法則」のほう
もう1つの理由は、ヘンリーの法則の問題の中に、気体の状態方程式の計算が入り込んでいることです。ヘンリーの法則の役割は「水に溶けている気体の物質量を求める」ところまでで、その後の質量・体積・圧力への換算は、ふつうの気体の計算です。
たとえば「温度が変わったら体積はどうなるか」「標準状態に直すと何Lか」は、ヘンリーの法則ではなく状態方程式 PV=nRT の問題です。ヘンリーの法則で物質量を出す段階と、気体の法則で換算する段階を分けて考えると、どこで間違えたかも見つけやすくなります。
圧力の単位がPa、kPa、atm、mmHgと混ざると、それだけで答えがずれます。換算のもとになる1気圧の考え方は、760 mmHgと1気圧の関係で整理しています。
ヘンリーの法則はモル(物質量)で計算する
計算では、体積ではなく物質量で考えるのが確実です。濃度 CA は「溶けた物質量 nA ÷ 溶液の体積」なので、両辺に水の体積を掛けると、溶ける物質量を直接求める式になります。
この式は、溶ける物質量が分圧と水の量の両方に比例することを表しています。1 Lの水と5 Lの水なら、同じ分圧で溶ける量は5倍になり、分圧・水の量・ヘンリー定数の3つが分かれば溶けた物質量が決まります。
注意したいのは、ヘンリー定数の表し方が文献によって違うことです。
ここで使う「濃度÷分圧」の形のほかに、逆数の「分圧÷濃度」やモル分率を使う形もあり、単位も mol/(L·Pa)、mol/(kg·bar)などさまざまです。表の値を使うときは、どの形の定数かを単位で確かめてから代入します。
ヘンリーの法則の計算方法:例題を4つの手順で解く
ここからは、物質量の式を使って具体的な問題を解きます。手順は次の図の4つで、ヘンリーの法則を使うのは2番目と3番目だけです。混合気体の問題でも、最初に対象の気体の分圧を出しておけば同じ流れで解けます。
例題の数値を当てはめた流れです。単位をそろえながら左上から順に進めます。
※混合気体のときは、STEP 1で「全圧×モル分率」から対象の気体の分圧を出しておきます。
使う例題は次のとおりです。酸素は20℃の水1.0 Lに、1.0×105 Paの圧力のもとで、標準状態に換算して0.031 L溶けます。では、同じ20℃の水3.0 Lに、3.0×105 Paの酸素は何g溶けるでしょうか。
問題文を「定数を求める条件」と「問われている条件」に分ける
最初に、問題文の数値を2つの行に分けて表にします。温度が同じ行どうしならヘンリー定数は共通なので、上の行から定数を求め、下の行に使うという流れが見た目で分かります。
| 20℃の酸素 | 水の体積 | 酸素の分圧 | 溶けた量 |
|---|---|---|---|
| 定数を求める条件 | 1.0 L | 1.0×105 Pa | 標準状態で0.031 L(=0.031÷22.4 mol) |
| 問われている条件 | 3.0 L | 3.0×105 Pa | n mol(求めて g に直す) |
表を作るときに確かめたいのは、圧力が対象の気体の分圧か、混合気体の全圧か、という点です。ほかに、溶けた量が「標準状態の体積」なのか「溶かしたときの圧力での体積」なのか、水の量が体積か質量かも、この段階で見ておきます。
ヘンリー定数を求める
上の行の値を n=k p V に入れます。標準状態の気体は1 molあたり22.4 Lなので、0.031 Lを22.4で割ると、水1.0 Lに溶けた酸素の物質量になります。
この値を1 bar(1.0×105 Pa)あたりに直すと 1.38×10−3 mol/(L·bar)です。
米国国立標準技術研究所(NIST)のデータベースにある酸素の定数を20℃に換算すると約1.42×10−3 mol/(kg·bar)で、例題の数値は実際の酸素の溶けやすさとほぼ一致しています。
求めたい条件で溶けている物質量を出す
温度が20℃のままなので、ヘンリー定数は上で求めた値をそのまま使えます。下の行の分圧3.0×105 Paと水3.0 Lを入れれば、溶けている酸素の物質量が出ます。
物質量を質量や体積に直す
問われているのは質量なので、物質量に酸素のモル質量32 g/molを掛けます。この換算はヘンリーの法則ではなく、ふつうの物質量の計算です。
答えを体積で求められた場合も、物質量さえ出ていれば、あとは条件を状態方程式に入れるだけです。どの温度・圧力での体積を聞かれているかを読み違えないことが、この手順でいちばん大切です。
混合気体の場合は分圧を使う
水が空気のような混合気体と接しているとき、それぞれの気体は自分の分圧に応じて、ほかの気体とは無関係に溶けます。そのため酸素の溶ける量を求めるなら、全圧ではなく酸素の分圧を式に入れます。分圧は「全圧×モル分率」で、気体ならモル分率は体積の割合と同じです。
乾燥空気は窒素が約78%、酸素が約21%で、計算問題では窒素:酸素=4:1と近似することもよくあります。空気を1種類の気体として扱うときの考え方は、平均分子量とモル分率・分圧の求め方で詳しく説明しています。
簡略に全圧1.0×105 Pa、酸素を5分の1として計算すると約8.9 mg/Lになります。純粋な酸素を1気圧で接触させた場合の約5分の1しか溶けないのは、空気中の酸素の分圧が全体の約5分の1だからです。
ヘンリーの法則の計算でよく出る質問
ここでは、溶けた量を出したあとの換算や、条件が変わったときの扱いなど、計算の途中で出てきやすい疑問に答えます。法則が当てはまる範囲や身近な現象の疑問は、記事の最後のよくある質問でまとめています。
溶けた気体の圧力を求めるにはどうする?
「溶けていた気体を取り出して容器に集めたときの圧力」を問う問題も、まずヘンリーの法則で溶けていた物質量を出します。物質量が分かれば、圧力は P=nRT/V で求まるので、ここから先は気体の法則の計算です。
反対に、溶けている量から「水と接していた気体の分圧」を逆算する問題では、n=k p V を p について解きます。どちらの場合も、ヘンリーの法則でつなぐのは「分圧」と「溶けた物質量」だけだと押さえておくと迷いません。
水温が変わったらヘンリー定数はどうなる?
ヘンリー定数は平衡定数の一種なので、温度が変わると値も変わります。酸素・窒素・二酸化炭素のように溶けると熱を出す気体は、水温が上がるほどヘンリー定数が小さくなり、溶けにくくなります。計算問題で温度が変わるときは、その温度の定数を使い直す必要があります。
データベースでは、25℃の定数と温度係数から、ほかの温度の値を出す式がよく使われます。NISTの値で酸素を計算すると、20℃の定数に対して40℃では約0.72倍になり、同じ分圧でも溶ける量が3割ほど減ります。
淡水が1気圧の空気と平衡になったときの溶存酸素(飽和溶存酸素)です。0℃と40℃では2倍以上の差があります。
※USGS Office of Water Quality Technical Memorandum 2011.03 の Benson と Krause の式(淡水・1気圧・水蒸気で飽和した空気)で計算した値。塩分があると、さらに少なくなります。
水温によって溶ける量が大きく変わることは、工場の水管理でもそのまま効いてきます。夏に水温が上がると、同じ曝気をしても水に入れられる酸素の上限が下がり、反対に温めた水からは溶けていた気体が出てきやすくなります。
圧力を5倍にしても溶ける酸素が49 mLのままなのはなぜ?
「0℃・1.0×105 Paで水1 Lに酸素が49 mL溶けるとき、0℃・5.0×105 Paでは何mL溶けるか(その圧力で測った体積)」という問題では、答えは49 mLです。物質量で計算しても、同じ答えになります。
物質量で解いて答えが合わないときは、5倍になった物質量の体積を「1.0×105 Paのまま」計算していることが多いです。体積は、どの圧力で測った値かをそろえて比べる必要があります。
実際の工場では:加圧して溶かし、圧を下げると泡になる
ここからは、ヘンリーの法則が工場や作業の現場でどう使われているかを見ます。最初の2つは、分圧を高くして気体を液体にためておき、圧力を下げたときに泡として出てくる現象を扱う例です。
どの場面も、気体の分圧を上げるか下げるかで、液体に溶ける量を動かしています。
※ヘンリーの法則で分かるのは「最終的にどこまで溶けるか(平衡)」です。どれだけ速く溶けるかは、気液の接触面積や時間で決まります。
炭酸飲料の充填:二酸化炭素を加圧して溶かし込む
炭酸飲料は水や糖液に二酸化炭素を圧入してつくる飲み物で、日本農林規格(JAS)が20℃で測ったガス内圧力の基準を定めています。水に二酸化炭素を圧入した炭酸水は0.29 MPa以上で、果汁や乳を加えたものなどは0.07 MPa以上、それ以外は0.10 MPa以上です。

ヘンリーの法則で、炭酸水にどのくらい二酸化炭素が溶けているかを見積もってみます。ガス内圧計の読みを大気圧との差とみなし、瓶の上部の気体がほぼ二酸化炭素だと仮定すると、0.29 MPaの炭酸水では二酸化炭素の分圧は約0.39 MPaです。
同じ式から、冷やした液のほうが多く溶けることも分かります。二酸化炭素のヘンリー定数は4℃で20℃の約1.6倍になるため、液を冷やしておけば、同じ圧力でもたくさん溶かせて、充填のときの泡立ちも抑えやすくなります。
栓を開けると、上部の気体は大気に置き換わり、二酸化炭素の分圧は約0.0004 barまで下がります。平衡で溶けていられる量は千分の1以下になるので、余った二酸化炭素が泡になって出ていき、時間がたつと気が抜けます。
二酸化炭素は水に溶けると一部が炭酸になり、石灰水やアルカリと反応します。反応まで含めた二酸化炭素のふるまいは石灰水に二酸化炭素を通したときの反応、加圧した塔で二酸化炭素をアンモニアの入った食塩水に吸わせる工業の例はソルベー法の炭酸化塔で取り上げています。
潜水と圧気工事の減圧症:体に溶けた窒素が泡になる
同じ現象が人の体の中で起きるのが減圧症(潜水病)です。高い圧力の空気を吸うと、窒素が分圧に比例して血液や組織に多く溶け込み、急に圧力が下がると、溶けきれなくなった窒素が体内で気泡になります。関節の痛みや神経の症状が出ることがあり、治療には酸素吸入や再圧が使われます。
水深10 mごとに水圧は約1気圧ずつ増えるので、水深30 m付近では空気の圧力が地上の約4倍になります。
水で概算すると、25℃の水に溶ける窒素は地上で約5.1×10−4 mol/kg、4倍の圧力では約2.0×10−3 mol/kgです。体の組織ごとに溶けやすさは違いますが、増え方の向きは同じです。
潜水士だけでなく、地下水を押さえるために圧縮空気を送るトンネルやケーソン(潜函)の工事でも同じ危険があります。
高気圧作業安全衛生規則では、減圧の速度を毎分0.08 MPa以下とし、体の組織ごとの不活性ガスの分圧が許容値を超えないよう、途中で減圧を止める時間を事業者が定めるよう求めています(第18条)。
実際の工場では:分圧を下げて追い出し、接触させて取り込む
残りの3つは、液体から気体を追い出す、あるいは気体を液体に移す設備です。どれも「平衡でどこまで溶けるか」はヘンリーの法則で決まり、「どれだけ速く動くか」は気体と液体の接触面積と時間で決まるという役割分担で設計されています。
ボイラー給水の脱気:蒸気で酸素の分圧をほぼ0にする
ボイラーの給水に溶けた酸素や二酸化炭素は、ボイラーや蒸気・復水の配管を腐食させます。米国エネルギー省(DOE)の資料によると、圧力の高いボイラーの多くでは溶存酸素を5 ppb(10億分の5)以下にすることが必要です。
低圧ボイラーでは43 ppbまで許容されることもありますが、同じ資料は、5 ppbまで下げれば機器が長持ちするとしています。
給水を蒸気で飽和温度まで加熱すると、上の空間はほぼ水蒸気になり、酸素の分圧がほぼ0になります。平衡で溶けていられる酸素も0に近づき、出てきた気体はベントから外へ出ます。
※トレイ式の模式図です。スプレーで霧状に吹き込む形式もあります。DOE の資料では、ベントから出す蒸気は加える蒸気の5〜14%程度です。
脱気器(デアレーター)は、給水を蒸気で器内の圧力の飽和温度まで加熱し、溶けていたガスを蒸気ではぎ取ってベントから出します。
温度を上げてヘンリー定数を小さくする効果に加えて、気相の酸素の分圧をほぼ0にする効果が大きいのが要点です。NISTの値で見ると、酸素のヘンリー定数は20℃から100℃で約3分の1にしか下がりません。
DOEの資料では、器内の圧力が急に上がると給水に酸素が再び溶け込むおそれがあるため、圧力調整弁で一定に保つよう勧めています。構造や設置の注意点は脱気器(デアレーター)の仕組み、薬品による脱酸素も含めた全体像はボイラー水の水処理で解説しています。
排水処理の曝気:溶存酸素の差が酸素を押し込む
下水や工場排水の生物処理では、微生物が有機物を分解するための酸素を、送風機で水中に空気を吹き込む曝気(ばっ気)で補います。
国土技術政策総合研究所によると、下水処理場では曝気に使う送風機の電力量が施設全体の約6割を占め、溶存酸素計の値で送る空気の量を細かく制御する技術の導入が進められています。
酸素が水に移る速さは、飽和溶存酸素と実際の溶存酸素の差に比例します。飽和溶存酸素はヘンリーの法則で決まる上限なので、水温が上がる夏はこの差が小さくなり、同じ量の酸素を溶かすのにより多くの空気が要ります。泡を細かくして接触面積を広げる散気装置も、この速さを上げる工夫です。
排水の汚れの量を酸素の量で表す指標はCOD(化学的酸素要求量)の測定法、曝気に使う機械の違いはファン・ブロワ・コンプレッサーの違いで整理しています。
ガス吸収塔・スクラバー:排ガスの成分を液に移す
工場の排ガスから酸性のガスなどを取り除く湿式のガス吸収塔(スクラバー)は、充填物を詰めた塔の上から液を流し、下から上がる排ガスと広い面で接触させます。
米国環境保護庁(EPA)の資料では、温度が低いほど、接触面積と液ガス比(ガスに対する液の量)が大きいほど吸収が進むと整理されています。
吸収塔の高さを決める計算は、薄いガスでヘンリーの法則が成り立ち、平衡の関係が直線になることを前提にしています。水に溶けにくいガスでは、苛性ソーダ液のようにガスと反応する液を使い、溶けた成分をすぐ別の物質に変えて液側の濃度を低く保つことで、吸収量を増やします。
半導体工場で使う特殊なガスの処理方式は除害装置の仕組みと方式比較にまとめています。気液の平衡を段で重ねて使う点では、蒸留塔の仕組みと同じ考え方の上にある装置です。
ヘンリーの法則が当てはまりにくい場合:溶けて反応する気体と高濃度・高圧
ヘンリーの法則は、溶けた気体が薄く、水の中でそのままの分子でいる場合の法則です。水によく溶けて反応・電離する気体や、濃度・圧力が高い条件では、分圧との単純な比例からずれます。気体ごとのヘンリー定数を並べると、溶けやすさの差がよく分かります。
| 気体 | ヘンリー定数(25℃) | 酸素との比 | 水の中での様子 |
|---|---|---|---|
| 窒素 N2 | 0.00065 | 約0.5倍 | 分子のまま溶ける |
| 酸素 O2 | 0.0013 | 1 | 分子のまま溶ける |
| 二酸化炭素 CO2 | 0.034 | 約26倍 | 大部分は分子のまま、一部が炭酸に |
| アンモニア NH3 | 約60 | 約4.6万倍 | 一部が NH4+ と OH− に |
アンモニアは酸素の約4.6万倍溶けやすく、溶けた一部が水と反応してアンモニウムイオンになります。塩化水素は水中でほぼすべて水素イオンと塩化物イオンに電離するため、分圧に比例するのは分子の形で溶けている分だけで、溶けている全体の量は比例しません。
アンモニアは工業的にはハーバー・ボッシュ法でつくられ、合成後のガスから冷却・液化して取り出します。条件と平衡の考え方はハーバー・ボッシュ法の反応式と工場の条件で解説しています。
溶けにくい気体でも、数MPaを超える高い圧力や、溶けた量が多くなる条件では、気体の非理想性や溶液中の分子どうしの影響で比例からずれてきます。高圧のプロセスでは、実測の溶解度データや、補正を入れた状態式で溶ける量を見積もるのが一般的です。
ヘンリーの法則のよくある質問
ヘンリーの法則とラウールの法則は何が違いますか?
ヘンリーの法則は、少量だけ溶けている成分(溶質)の分圧と濃度の比例を表します。ラウールの法則は、多くを占める成分(溶媒)の蒸気圧がそのモル分率に比例することを表し、どちらも理想的な希薄溶液で成り立つ関係です。
ヘンリー定数の単位がいろいろあるのはなぜですか?
濃度÷分圧で表すか、分圧÷濃度で表すか、濃度をmol/Lにするかモル分率にするかなど、定義の仕方が分野ごとに違うためです。数値を使う前に、単位と式の向きを確かめれば取り違えを防げます。
水を温めると小さな泡が出てくるのはなぜですか?
温度が上がると空気(窒素や酸素)のヘンリー定数が小さくなり、水に溶けていられる量が減るためです。溶けきれなくなった空気が、沸騰する前から小さな泡になって出てきます。
炭酸飲料を振ってから開けると噴き出すのはなぜですか?
振ると上部の気体が液中に細かい泡として入り込み、開栓で圧力が下がったときに、その泡が核になって溶けていた二酸化炭素が一気に気泡になるためです。泡のもとが少ない静かな状態で開けると、気泡の出方がゆるやかになります。
まとめ
- ヘンリーの法則は「温度一定なら、溶ける気体の量(物質量)はその気体の分圧に比例する」法則で、C=kHp と書ける
- 「溶ける体積は圧力によらない」は、溶かしたときの圧力で体積を測った場合の言い方で、物質量で考えれば1つ目と同じ内容
- 計算は n=k p V で物質量を出すところまでがヘンリーの法則で、質量・体積・圧力への換算は気体の計算になる
- 混合気体は対象の気体の分圧を使い、水温が変わればヘンリー定数も変わる(多くの気体は温度が上がると溶けにくい)
- 工場では炭酸飲料の充填・ボイラー給水の脱気・排水処理の曝気・排ガスの吸収塔で使われ、アンモニアや塩化水素のように反応・電離する気体では単純な比例にならない
ヘンリーの法則は、計算問題の公式であると同時に、気体を溶かしたいのか追い出したいのかを分圧で考える、化学・食品・水処理の現場の共通言語です。
化学メーカーがどんな製品をどの流れでつくっているかは化学業界の構造で、高気圧作業を含む現場の安全管理の基本は製造業の職場環境と安全衛生で整理しています。

出典
出典・参考資料(14件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 法則の発表:W. Henry「Experiments on the quantity of gases absorbed by water, at different temperatures, and under different pressures」Philosophical Transactions of the Royal Society of London 93(1803), DOI 10.1098/rstl.1803.0004
- ヘンリー定数の定義と編集:R. Sander「Compilation of Henry’s law constants (version 5.0.0) for water as solvent」Atmospheric Chemistry and Physics 23(2023)
- 酸素のヘンリー定数:NIST Chemistry WebBook「Oxygen」Henry’s Law data
- 窒素のヘンリー定数:NIST Chemistry WebBook「Nitrogen」Henry’s Law data
- 二酸化炭素のヘンリー定数:NIST Chemistry WebBook「Carbon dioxide」Henry’s Law data
- アンモニアのヘンリー定数:NIST Chemistry WebBook「Ammonia」Henry’s Law data
- 飽和溶存酸素の式:U.S. Geological Survey「Office of Water Quality Technical Memorandum 2011.03 Change to Solubility Equations for Oxygen in Water」(2011)
- mol という言葉の始まり:W. B. Jensen「The Origin of the Mole Concept」
- 炭酸飲料のガス内圧力:農林水産省「炭酸飲料の日本農林規格の一部を改正する件 新旧対照表」
- 減圧症のしくみ:MSDマニュアル家庭版「減圧症」
- 減圧の速度と減圧停止:e-Gov法令検索「高気圧作業安全衛生規則」第12条の2・第18条
- ボイラー給水の脱気:U.S. Department of Energy「Steam Tip Sheet #18 Deaerators in Industrial Steam Systems」(2012)
- 下水処理場の曝気の電力:国土技術政策総合研究所 記者発表「僅かな費用で電力削減 国内初『ICTを活用した水処理技術』が実規模レベルで稼動開始」(2015年2月25日)
- ガス吸収塔の設計の考え方:U.S. EPA「Air Pollution Control Cost Manual Section 5.2 Chapter 1 Wet Scrubbers for Acid Gas」
TOOLS & SERVICES
製造業で働く人の、仕事の道具・サービス紹介
これからの働き方、資格の勉強、打合せの記録。MONOSCOPE で紹介している3つです。
CAREER社外の仕事を知りたい転職・キャリアガイド今の会社で続けるか、社外にも目を向けるか。考える視点と転職サービスの紹介。仕事と働き方を考える ›
LICENSE仕事に関わる資格を学びたいSAT電験三種・エネ管・QC検定など。職種から資格を選べる表と受講料の比較。SATの対象資格を見る ›
RECORD打合せを記録したいPLAUD録音から文字起こし・要約まで。3機種の選び方と業務で使う前の確認表。PLAUDの使い方を見る ›
NEWSLETTER
生産技術・化学・樹脂・ゴムの記事を、週1回まとめてメールで受け取る
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
生産技術を選んだ状態で登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
