α-アミノ酸の基本構造と覚え方|中性・酸性・塩基性の分類と工業生産

白い結晶性のアミノ酸の粉末をガラス皿に広げた検査台の様子

α-アミノ酸は、カルボキシ基(−COOH)のすぐ隣の炭素にアミノ基(−NH2)が付いたアミノ酸です。この炭素をα炭素と呼び、水素原子と「側鎖(R)」も付いていて、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸はすべてこの形をもち、互いの違いは側鎖だけです。

構造は、いちばん単純な側鎖をもつアラニンを基準にすると組み立てやすく、側鎖の性質で中性・酸性・塩基性の3つに分かれます。側鎖の違いは「どのpHで電荷がゼロになるか(等電点)」の違いとして現れ、発酵液からアミノ酸を取り出す工程や分析装置での分離に、そのまま使われています。

この記事では、まずα-アミノ酸の定義とL体、アラニンから側鎖を付け替える覚え方、中性・塩基性・酸性アミノ酸の特徴と等電点を整理します。後半では、発酵法・酵素法・化学合成法によるつくり分けと精製、調味料・飼料・医薬・化粧品での用途、アミノ酸を測る方法までを見ていきます。

目次

α-アミノ酸とは:α炭素にアミノ基が付いたアミノ酸

アミノ酸は、1つの分子の中にアミノ基とカルボキシ基の両方をもつ化合物の総称で、カルボン酸の仲間として分類されます。カルボキシ基の隣の炭素から順にα、β、γ、δと記号を振り、アミノ基がα位の炭素に付いたものがα-アミノ酸です。

図1:炭素の番号とα-アミノ酸の一般式

カルボキシ基の隣がα炭素です。α炭素に4つの異なる原子・原子団が付くのが、タンパク質をつくるα-アミノ酸の共通の骨格です。

COOHCCCNH₂H₂NCCOOHRHαβγα炭素α位にアミノ基が付くα-アミノ酸の一般式側鎖

※側鎖Rが水素原子Hのものがグリシン、メチル基−CH3のものがアラニンです。

α-アミノ酸の一般式
R−CH(NH2)−COOH
R:側鎖(アミノ酸ごとに異なる原子団)。CH の C がα炭素で、H・NH2・COOH・R の4つが付いています。

側鎖が水素でない限り、α炭素には4つの異なる原子・原子団が付くので、α炭素は不斉炭素原子になります。その結果、右手と左手のように重ね合わせられない鏡像の2つの形(鏡像異性体)があり、タンパク質をつくるアミノ酸はグリシンを除いてすべてL体です。

図2:L体とD体は鏡に映した関係

フィッシャー投影式で、COOHを上・側鎖Rを下に置いたとき、アミノ基が左にあればL体、右にあればD体です。

COOHRH₂NHCOOHRHNH₂L体(タンパク質の材料)D体鏡

※横の結合は紙面の手前、縦の結合は紙面の奥を向いています(フィッシャー投影式の約束)。

L・Dの決め方は、糖のD/Lと同じグリセルアルデヒドを基準にした約束で、描き方はフィッシャー投影式の記事で詳しく扱っています。鏡像の違いは医薬品の効き目や安全性にも関わるので、不斉合成と医薬品製造の関係のように、工業でも一方の形だけをつくる技術が重視されます。

もう1つ押さえたいのは、α-アミノ酸が水の中で「双性イオン」になる点です。中性付近の水溶液では、カルボキシ基がH+を放してCOO−に、アミノ基がH+を受け取ってNH3+に変わるので、1つの分子が正と負の電荷を同時にもつ形が主です。

中性付近の水溶液での主な形(双性イオン)
R−CH(NH3+)−COO−
分子全体の電荷の合計はゼロですが、分子の中に+と−の部分があります。酸や塩基を加えると、この形が陽イオンや陰イオンに変わります(後の「酸性アミノ酸」の章で扱います)。

α-アミノ酸の基本形はアラニン:側鎖を付け替えて組み立てる

20種類の構造を1つずつ覚える前に、基準になる形を1つ決めると楽になります。基準にするのは、側鎖がメチル基(−CH3)のアラニンで、骨格「H2N−CH−COOH」に何をぶら下げるかだけを考えれば、ほかのアミノ酸が書けるようになります。

たとえば、アラニンのメチル基の水素1つをフェニル基に置き換えるとフェニルアラニン、ヒドロキシ基に置き換えるとセリン、−SHに置き換えるとシステインです。名前に「アラニン」が入るフェニルアラニンは、この組み立て方がそのまま名前になった例です。

ただし、この組み立て方は書くための便法で、すべての側鎖に当てはまるわけではありません。側鎖のないグリシン、α炭素の隣で枝分かれするバリン・イソロイシン・トレオニン、側鎖が窒素とつながって環になるプロリンは例外で、次の章で1つずつ見ていきます。

アミノ酸どうしは、一方のカルボキシ基ともう一方のアミノ基から水1分子が取れてつながります。この結合をペプチド結合(−CO−NH−)といい、糖どうしがつながるグリコシド結合と同じく、水が取れてつながる脱水縮合の一種です。

2つのアミノ酸がペプチド結合でつながる(ジペプチドができる)
H2N−CHR1−COOH + H2N−CHR2−COOH
→ H2N−CHR1−CO−NH−CHR2−COOH + H2O
R1、R2:それぞれのアミノ酸の側鎖。太字の CO−NH がペプチド結合です。多数つながったものがポリペプチド、さらに決まった形に折りたたまれたものがタンパク質です。

図3:タンパク質の骨格は同じ繰り返し、違いは側鎖

3つのアミノ酸がつながった鎖です。主鎖は「N−Cα−C」の同じ並びの繰り返しで、性質の違いは下にぶら下がる側鎖Rが生みます。

H₂NCαCNCαCNCαCOOHOOHHR₁R₂R₃ペプチド結合(−CO−NH−)側鎖が性質を決める

※α炭素に付く水素は省略しています。

主鎖の形はどのタンパク質でも同じなので、タンパク質ごとの性質の違いは、側鎖の並び順から生まれます。側鎖が水になじむか、電荷をもつか、硫黄を含むかを知っておくと、溶けやすさや検出反応の色まで説明できるようになります。

側鎖で分けて覚えるα-アミノ酸の構造

構造を覚える近道は、20種類を側鎖の形でグループに分け、グループごとに特徴を1つずつ押さえることです。分子量は側鎖の大きさの目安になるので、グループ分けとあわせて表1にまとめました。

図4:側鎖の形で8グループに分ける

中性アミノ酸は側鎖の形でさらに6つに分かれます。酸性と塩基性は、側鎖に電離する基をもつグループです。

炭化水素の鎖(中性)グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン。水になじみにくい
環になる(中性)プロリン。側鎖の端がアミノ基の窒素とつながる
ヒドロキシ基をもつ(中性)セリン、トレオニン。−OHで水になじみやすい
ベンゼン環をもつ(中性)フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン
硫黄を含む(中性)システイン、メチオニン
アミドをもつ(中性)アスパラギン、グルタミン。−CONH2は酸性も塩基性も示さない
酸性アミノ酸アスパラギン酸、グルタミン酸。側鎖に−COOH
塩基性アミノ酸リシン、アルギニン、ヒスチジン。側鎖にH+を受け取る窒素
分類アミノ酸(略号)側鎖の特徴分子量
中性グリシン(Gly)−H。不斉炭素がない唯一のアミノ酸75
中性アラニン(Ala)−CH3。構造を組み立てる基準89
中性バリン(Val)α炭素の隣で枝分かれ(分岐鎖)117
中性ロイシン(Leu)バリンの側鎖にCH2を1つ足した形(分岐鎖)131
中性イソロイシン(Ile)ロイシンと枝の位置が違う異性体。不斉炭素2つ131
中性プロリン(Pro)側鎖が窒素とつながった環(イミノ酸)115
中性セリン(Ser)−CH2OH105
中性トレオニン(Thr)−CH(OH)CH3。不斉炭素2つ119
中性フェニルアラニン(Phe)−CH2−ベンゼン環165
中性チロシン(Tyr)フェニルアラニンのベンゼン環に−OH(フェノール性)181
中性トリプトファン(Trp)インドール環(ベンゼン環を含む二環)204
中性システイン(Cys)−CH2SH。2分子がS−S結合でつながる121
中性メチオニン(Met)−CH2CH2SCH3149
中性アスパラギン(Asn)−CH2CONH2(アミド)132
中性グルタミン(Gln)−CH2CH2CONH2(アミド)146
酸性アスパラギン酸(Asp)−CH2COOH133
酸性グルタミン酸(Glu)−CH2CH2COOH147
塩基性リシン(Lys)−(CH2)4NH2146
塩基性アルギニン(Arg)グアニジノ基をもつ174
塩基性ヒスチジン(His)イミダゾール環をもつ155
表1:タンパク質を構成する20種類のα-アミノ酸(分子量は原子量から計算し整数に丸めた値)

中性アミノ酸:側鎖が酸性も塩基性も示さない

中性アミノ酸は、側鎖に酸性や塩基性を示す基をもたないアミノ酸で、アミノ基とカルボキシ基を1つずつもつのでモノアミノモノカルボン酸とも呼ばれます。

「中性」は側鎖の性質による分類名で、水溶液がちょうどpH7になるという意味ではありません。等電点はおおむね5〜6台に集まり、システインは約5.0、チロシンは約5.7とやや酸性側です。

グリシンは側鎖が水素だけの最も小さいアミノ酸で、α炭素に水素が2つ付くため不斉炭素がなく、L体・D体の区別もありません。名前はギリシャ語の「甘い」に由来し、実際に甘味があります。アラニンは前の章で見た基準の形です。

バリン、ロイシン、イソロイシンは、側鎖が枝分かれした炭化水素で、まとめて分岐鎖アミノ酸(BCAA)と呼ばれます。

ロイシンはバリンの側鎖にCH2を1つ足した形、イソロイシンはロイシンと分子式が同じで枝の位置だけが違う異性体です。イソロイシンは側鎖の炭素も不斉炭素なので、不斉炭素を2つもちます。

セリンとトレオニンは側鎖にヒドロキシ基をもち、水になじみやすいアミノ酸です。トレオニンもイソロイシンと同じく不斉炭素を2つもちます。フェニルアラニンはアラニンにフェニル基が付いた形で、チロシンはそのベンゼン環にヒドロキシ基が付いた形です。

チロシンのフェノール性ヒドロキシ基はごく弱い酸性を示しますが、側鎖にカルボキシ基がないので酸性アミノ酸には入りません。トリプトファンの側鎖はベンゼン環とピロール環がつながったインドール環で、ベンゼン環をもつこの3つは、濃硝酸で黄色になるキサントプロテイン反応を示します。

硫黄を含むのはシステインとメチオニンで、システインの−SHは酸化されて2分子がS−S結合(ジスルフィド結合)でつながり、タンパク質の立体構造を支える橋かけになります。

アミノ酸・タンパク質の検出反応のうち、酢酸鉛(II)で黒い沈殿ができる硫黄反応はシステインやシスチンで陽性になり、メチオニンはふつう陰性です。

プロリンは側鎖の端がアミノ基の窒素とつながって五員環をつくるため、窒素に水素が1つしかない第二級アミン(イミノ酸)です。アスパラギンとグルタミンは、酸性アミノ酸のカルボキシ基がアミド(−CONH2)になった形で、アミドは酸性も塩基性も示さないので中性に分類されます。

塩基性アミノ酸:側鎖がH+を受け取る

塩基性アミノ酸は、側鎖にH+を受け取れる窒素をもつアミノ酸で、リシン、アルギニン、ヒスチジンの3つです。側鎖がH+を受け取って正の電荷を帯びやすいため、等電点は中性アミノ酸より高く、リシンが約9.8、アルギニンが約10.8です。

リシンは側鎖の端にもう1つアミノ基をもち、アミノ基2つ・カルボキシ基1つの「ジアミノモノカルボン酸」に当たります。

アルギニンは側鎖にグアニジノ基、ヒスチジンはイミダゾール環をもち、どちらもアミノ基とは別の窒素の原子団なので、塩基性アミノ酸を一律に「アミノ基が2つ」とまとめるのは正確ではありません。

ヒスチジンの側鎖は塩基性が弱く、等電点は約7.6と中性に近い値です。体内のpH付近でH+を受け取ったり放したりできるので、酵素の中で反応を助ける役目を担うことがよくあります。

酸性アミノ酸:側鎖にもう1つのカルボキシ基

酸性アミノ酸は、側鎖にもう1つカルボキシ基をもつアミノ酸で、アスパラギン酸とグルタミン酸の2つです。アミノ基1つ・カルボキシ基2つなので「モノアミノジカルボン酸」とも呼び、等電点はアスパラギン酸が約3.0、グルタミン酸が約3.2と、酸性側に寄ります。

グルタミン酸は昆布のうま味の成分で、ナトリウム塩のL-グルタミン酸ナトリウムがうま味調味料として使われています。アスパラギン酸は、アスパラガスの芽から見つかったアスパラギンに由来する名前で、アスパラギンの側鎖のアミドがカルボキシ基になった形です。

3つの分類で等電点が分かれる理由は、pHを変えたときの電荷の変わり方で説明できます。アミノ酸は酸性の液では陽イオン、塩基性の液では陰イオンになり、電荷の合計がちょうどゼロになるpHが等電点です。

pHを上げていくと、H+が順に外れて電荷が変わる(中性アミノ酸の場合)
H3N+−CHR−COOH ⇄ H3N+−CHR−COO− ⇄ H2N−CHR−COO−
(陽イオン)   (双性イオン)   (陰イオン)
左向きはH+が付く向き、右向きはH+が外れる向きです。⇄は両方向に進んで釣り合う平衡を表します。

図5:pHで変わるアミノ酸の電荷と3つの等電点

上は中性アミノ酸の形の移り変わりの模式図、下の目盛りは代表的な3つのアミノ酸の等電点です。等電点より酸性側では正、塩基性側では負に帯電します。

陽イオン(+)双性イオン(±)陰イオン(−)H₃N⁺−CHR−COOHH₃N⁺−CHR−COO⁻H₂N−CHR−COO⁻02468101214pHGlu 約3.2Ala 約6.0Lys 約9.8酸性アミノ酸中性アミノ酸塩基性アミノ酸

※等電点は資料によって0.1〜0.2程度違います(値は LibreTexts の表と計算による)。

側鎖に電離する基がない中性アミノ酸の等電点は、カルボキシ基とアミノ基のpKa(H+を放す強さの目安)の平均で求められます。アラニンで計算すると、次のように約6.0になります。

アラニンの等電点(pI)
pI = pKa1 + pKa22 = 2.34 + 9.692 = 6.015 ≒ 6.0
pKa1:カルボキシ基(2.34)、pKa2:アミノ基(9.69)。側鎖にも電離する基があるアミノ酸では、近い2つのpKaの平均をとります(グルタミン酸ならカルボキシ基2つ分)。

pHそのものの意味は水のイオン積とpHの記事で確かめられます。等電点では分子全体の電荷がゼロになるので、電圧をかけてもどちらの極へも動かず、電気泳動でアミノ酸やタンパク質を分ける方法の土台になっています。

実際の工場では:発酵法・酵素法・化学合成法のつくり分け

工業で使うアミノ酸の大部分は、微生物に糖からアミノ酸をつくらせる発酵法でつくられています。ほかに酵素法、化学合成法、タンパク質を分解する抽出法があり、どれを選ぶかは「L体だけが要るか」「原料と中間体が安く手に入るか」で決まります。

図6:アミノ酸の4つのつくり方

発酵法と酵素法はL体だけをつくれます。化学合成法はL体とD体が半分ずつできるので、区別の要らないアミノ酸に向きます。

発酵法糖蜜・でんぷん糖を微生物がアミノ酸に。L体だけ。グルタミン酸・リシンなど現在の主流
酵素法手前の物質を1〜2種類の酵素で変換。L体だけ。フマル酸からアスパラギン酸など
化学合成法化学反応でつくる。L体とD体が等量。グリシン、飼料用のDL-メチオニンなど
抽出法タンパク質を加水分解して取り出す。量が原料に左右され大量生産に不向き

発酵法:グルタミン酸とリシン

1908年に池田菊苗が昆布のうま味の正体をグルタミン酸と突き止め、翌1909年にグルタミン酸ナトリウムの調味料が売り出されました。当初の製法は、小麦や大豆のタンパク質を塩酸で加水分解して取り出す抽出法で、原料に含まれる量に生産が縛られていました。

転機は1956年で、協和醗酵工業の木下祝郎らが、グルタミン酸を培地中に大量にためる細菌(現在の名称はCorynebacterium glutamicum)を見つけ、発酵法での工業生産に成功しました。

微生物にアミノ酸をつくらせる工業生産が可能だと示した発見で、1960年代にはグルタミン酸の製造が抽出法から発酵法へ切り替わっていきます。

ただし、微生物には自分に必要な量以上のアミノ酸をつくらないように抑える仕組み(代謝制御)があり、ほかのアミノ酸は野生の菌ではたまりませんでした。

そこで、特定の栄養を要求する変異株や、アミノ酸に似た物質に耐える変異株を選ぶ方法が開発され、ホモセリンを要求する変異株でリシンを大量にためる発酵も実現しました。

発酵槽には、さとうきび・とうもろこし・キャッサバなどからとった糖蜜や糖と微生物を入れ、かき混ぜ方、空気の量、温度、pHを整えて培養します。

でんぷんを酵素で糖に変える工程は、前述のグリコシド結合を切る糖化と同じしくみで、糖を微生物に変換させる考え方は生分解性ポリマーの原料の乳酸づくりにも共通しています。

酵素法と化学合成法:アスパラギン酸・グリシン・DL-メチオニン

酵素法は、アミノ酸の一歩手前の物質を1〜2種類の酵素で目的のアミノ酸に変える方法で、手前の物質が安く手に入るときに力を発揮します。代表例は、アスパルターゼという酵素でフマル酸にアンモニアを付け、L-アスパラギン酸をつくる反応です。

酵素法の例:フマル酸からL-アスパラギン酸
HOOC−CH=CH−COOH + NH3 → HOOC−CH2−CH(NH2)−COOH
左:フマル酸、右:L-アスパラギン酸。酵素アスパルターゼが二重結合にアンモニアを付け、L体だけをつくります。1970年代には、この酵素をもつ大腸菌をゲルに閉じ込めて塔に詰め、原料液を流し続ける連続生産が研究されました。

化学合成法では、L体とD体が半分ずつ混ざったラセミ体ができるため、L体だけが必要な用途ではD体を分けたり変換したりする工程が要ります。この手間から多くのアミノ酸では発酵法に置き換わりましたが、鏡像の区別がないグリシンと、D体でも使えるメチオニンは今も化学合成でつくられています。

化学合成法の例:グリシン(モノクロロ酢酸とアンモニア)
ClCH2COOH + 2NH3 → H2NCH2COOH + NH4Cl
化学合成法の例:DL-メチオニン(ヒダントイン経路の概略)
CH2=CH−CHO + CH3SH → CH3S−CH2CH2−CHO
→(HCN・NH3・CO2)→ ヒダントイン → 加水分解 → DL-メチオニン
グリシンの式では、アンモニア1分子が塩素と置き換わり、もう1分子が出てきたHClを受け取ってNH4Clになります。メチオニンは、アクロレイン(CH2=CH−CHO)とメタンチオール(メチルメルカプタン)から3-メチルチオプロパナールをつくり、シアン化水素・アンモニア・二酸化炭素でヒダントイン環を経て、加水分解でラセミ体にします。

メチオニンがラセミ体のままで使えるのは、D-メチオニンが体内の酵素でL体に変わり、L体と同じように利用されるためです。多くのD-アミノ酸は栄養としてほとんど役に立たないので、これはメチオニンならではの例外です。

精製:等電点で結晶にし、イオン交換で集める

発酵が終わった液には、目的のアミノ酸のほかに菌体、溶けたタンパク質、色素、残った糖や無機塩が混ざっています。菌体やタンパク質は結晶の成長を邪魔するので先に除き、そのあとアミノ酸の電荷と溶けやすさの違いを使って取り出します。

図7:発酵液から製品の結晶までの工程例

等電点で結晶にする方法と、イオン交換樹脂で集める方法を、アミノ酸の性質に合わせて組み合わせます。順番や組み合わせは品目ごとに違います。

01培養発酵槽で糖からアミノ酸をつくらせる
02菌体を除く遠心分離や膜ろ過で菌体・タンパク質を分ける
03イオン交換で集めるリシンはpH 2付近で陽イオン交換樹脂に吸着させ、アンモニア水で溶かし出す
04等電点で晶析グルタミン酸はpH 3.2付近で最も溶けにくくなり結晶が出る
05結晶を分ける遠心分離で結晶と母液を分け、母液からも回収する
06塩にして乾燥ナトリウム塩や塩酸塩など、用途に合う形の製品にする

グルタミン酸は等電点のpH 3.2付近で溶解度が最も小さくなるため、発酵液をこのpHに合わせると結晶が出てきます。ただしpHを合わせるだけの単純な晶析では、回収できるのは全体の約2分の1〜3分の1にとどまるとされ、イオン交換樹脂での濃縮や母液の再処理を組み合わせて収率を上げます。

塩基性のリシンは、酸性にした発酵液では正の電荷を帯びるので、陽イオン交換樹脂に吸着させて不純物と分けられます。樹脂からアンモニア水で溶かし出したあと、濃縮して結晶にし、飼料では塩酸塩の「塩酸L-リジン」などの形で流通します。

実際の工場では:調味料・飼料・医薬・化粧品での使われ方

アミノ酸は品目ごとに主な用途が分かれ、前の章のつくり方とも対応しています。グルタミン酸は調味料、リシンやメチオニンは飼料、分岐鎖アミノ酸を含む多くの品目は医薬品、セリンやグリシンなどは化粧品の原料として使われます。

図8:アミノ酸の主な用途と代表的な品目

同じアミノ酸でも、食品・飼料・医薬で求められる純度や形(塩の種類)が変わります。

調味料L-グルタミン酸ナトリウム(うま味)
飼料添加物塩酸L-リジン、DL-メチオニン、L-トレオニン、L-トリプトファン
医薬・輸液総合アミノ酸製剤、分岐鎖アミノ酸の製剤
化粧品保湿成分、アミノ酸系の洗浄成分

飼料では、とうもろこしなどの穀物に足りないリシンやメチオニンを補い、アミノ酸の釣り合いを整えます。塩酸L-リジン、DL-メチオニン、L-トレオニン、L-トリプトファンなどは、農林水産大臣が定める飼料添加物に指定されています。

足りないアミノ酸を補えば、飼料のタンパク質そのものを減らしても家畜の成長を保てます。

熊本県の試験では、1998年版日本飼養標準のアミノ酸要求量に基づくアミノ酸添加の低タンパク質飼料で、豚からの窒素排泄量を27.8%減らせたと報告され、ふん尿による環境負荷を下げる手段にもなっています。

医薬品では、口から食事がとれない患者に点滴で入れる総合アミノ酸製剤(輸液)があります。ある製剤の添付文書では、200 mLにL-ロイシンやL-イソロイシンなど多くのアミノ酸が入り、遊離アミノ酸の合計は20.07 gで、リシンは酢酸塩の形で配合されています。

輸液は品質の基準が厳しく、つくる工場にはGMP(医薬品の製造と品質管理の基準)への適合が求められます。国内の製薬工場への投資とGMP対応の論点は、扶桑薬品の岡山第二工場の記事で取り上げています。

化粧品では、肌の角層にある天然保湿因子(NMF)の約半分がアミノ酸と、アミノ酸からできるピロリドンカルボン酸(PCA)で占められ、セリン・アラニン・グリシンなどが保湿成分として配合されます。

ココイルグルタミン酸ナトリウムのように、アミノ酸と脂肪酸を結合させた成分もあります。肌のpHに近い条件で洗えるので、アミノ酸系の洗浄成分としてシャンプーや洗顔料に使われています。

実際の現場では:ニンヒドリン反応とアミノ酸分析計で測る

アミノ酸分析の試料バイアルをラックに並べる手元

アミノ酸を見つける代表的な反応は、ニンヒドリン水溶液を加えて温めると青紫〜赤紫に色づくニンヒドリン反応です。反応するのはアミノ基で、イミノ酸のプロリンは黄色になり、反応のしくみや色の違いは前述の検出反応の記事で詳しく扱っています。

食品や原料に含まれるアミノ酸の種類と量は、アミノ酸分析計で量ります。タンパク質はまず6 mol/Lの塩酸で110 ℃・24時間加水分解し、アミノ酸にばらします。続いて陽イオン交換カラムで1種類ずつ分け、出口でニンヒドリンと反応させて570 nmと440 nmの吸光度を測ります。

陽イオン交換カラムで分かれる順番は、ここまで見てきた側鎖の電荷とよく対応しています。カラムの前でアミノ酸に蛍光や紫外線で見える目印を付け、HPLCで分ける方法もあり、分離のしくみはクロマトグラフィーの記事で比べています。

発酵や精製の現場では、こうした分析で製品の純度や副生するアミノ酸の量を確かめ、出荷の判定に使います。原料の受け入れから製品の出荷までの確認は品質保証・品質管理の仕事の中心で、アミノ酸の構造と性質の知識がそのまま判断の根拠になります。

α-アミノ酸のよくある質問

アミノ酸とα-アミノ酸は何が違いますか?

アミノ酸はアミノ基とカルボキシ基の両方をもつ化合物の総称で、α-アミノ酸はアミノ基がα位の炭素に付いたものだけを指します。β-アラニンやγ-アミノ酪酸(GABA)のように、アミノ基がβ位やγ位に付くアミノ酸もあります。

必須アミノ酸はどれですか?

ヒトの必須アミノ酸は、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジンの9種類です。体内で十分につくれないため、食事から取る必要があります。

天然のアミノ酸はすべてL体ですか?

タンパク質を構成するアミノ酸は、鏡像のないグリシンを除いてすべてL体です。一方で、タンパク質に組み込まれないD-アミノ酸も自然界にあり、化学合成で得たメチオニンのようにD体を含むまま使われる製品もあります。

L・Dはグリセルアルデヒドを基準にした表記で、立体配置を優先順位で表すR・Sとは別の基準です。L体の多くはS配置ですが、側鎖に硫黄をもつL-システインはR配置です。

アミノ酸の名前に付く「L」「DL」は何を表しますか?

Lは鏡像異性体のうちL体だけであること、DLはL体とD体が等量ずつ混ざったラセミ体であることを表します。発酵法や酵素法でつくるとL体、化学合成でつくると通常はDL体になるので、表示から製法の見当もつきます。

まとめ

この記事のまとめ
  • α-アミノ酸は、α炭素にアミノ基・カルボキシ基・水素・側鎖Rが付いた分子で、タンパク質の20種類は側鎖だけが違う
  • グリシン以外はα炭素が不斉炭素で、タンパク質をつくるアミノ酸はL体。水中では双性イオンになる
  • 構造はアラニンを基準に側鎖を付け替えて組み立て、側鎖の形で8グループに分けると覚えやすい
  • 側鎖の性質で中性・塩基性・酸性に分かれ、等電点はおおむね5〜6台、約7.6〜10.8、約3.0〜3.2と分かれる
  • 工業では発酵法が主流で、グリシンとDL-メチオニンは化学合成。精製には等電点晶析とイオン交換を使い、調味料・飼料・医薬・化粧品に使われる

側鎖の違いという1つの考え方が、構造の覚え方から等電点、発酵液からの精製、分析計での分離までを一本につないでいます。アミノ酸を扱う産業の広がりは、化学業界の企業の種類と仕事の流れや、研究から量産までを担う研究開発の仕事からも見渡せます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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