ウレタンフォームを原料に戻す|3社協業と高純度リサイクルポリオール

パレットに積まれた軟質ウレタンフォームの端材

2026年10月13日、豊通ケミプラス、三洋化成工業、エボニック インダストリーズの3社が、ポリウレタンフォームのケミカルリサイクルで共同の取り組みを始めました。シートやマットレスに使われたフォームを分解し、主原料のポリオール(ウレタンの液体原料)に戻して再び使う構想です。

今回の発表は、回収から再製品化までを3社で共同評価する段階に入ったという内容で、国内での商業化を目標に掲げています。事業化の時期や処理量、投資額はまだ公表されておらず、焦点は従来品の弱点だったリサイクルポリオールの純度をどこまで高められるかにあります。

この記事では、まず発表で決まったことと未公表のこと、フォームが埋立・焼却されてきた理由を押さえます。そのうえでリサイクル方式ごとの違いと純度の壁、回収から再製品化までの流れ、化学メーカーや採用企業の確認点を整理します。

目次

3社の発表で決まったこと・まだ決まっていないこと

発表によると、3社は廃棄されたフォーム(PCR)と製造工程で出る端材(PIR)の両方を回収し、エボニックの技術でポリオールを再生する仕組みをつくります。得られた高純度ポリオールは、新しいフォームの原料として再利用することを想定しています。

役割分担は、豊通ケミプラスがコーディネーターとして回収網と物流を生かし、全体の仕組みづくりと事業推進を担う形です。そこにエボニックが持つケミカルリサイクル技術と、三洋化成のポリオール設計・プロセス技術を組み合わせます。

図1:3社の役割分担

回収・分解・原料づくりの3つの持ち場を、1社ずつが受け持ちます。

コーディネーター豊通ケミプラス回収ネットワークと物流機能を生かし、全体のスキーム構築と事業推進を担う(資料の図では「市場開拓」)
分解技術エボニック使用済みフォームからポリオールを再生するケミカルリサイクル技術を提供(資料の図では「特許保有、技術サポート」)
原料設計三洋化成工業ポリオール設計・プロセス技術で、純度と品質の安定を高める(資料の図では「技術適用」)

※2026年10月13日の3社共同リリースの記載をもとに作成。

3社の組み合わせは、回収から原料づくりまでの持ち場をそれぞれ埋める形になっています。豊通ケミプラスは豊田通商グループの化学品商社で、モビリティ向けの材料やウレタンも取り扱っています。

三洋化成は子会社のサンケミカルとともにポリウレタンフォーム用原料を製造し、自動車などのシート用原料として販売しているメーカーです(同社有価証券報告書)。再生ポリオールを、ふだんの製品と同じ物差しで評価できる立場にあります。

一方で、今回の発表は取り組みの開始を告げるもので、量産の計画まで示したものではありません。エボニックの技術はドイツのパイロットプラントで実績を積んでいますが、日本でどこに設備を置き、いつどれだけ処理するかは書かれていません。

図2:発表で分かっていること/未公表のこと

体制と目標は示された一方、時期・量・設備はこれからです。

分かっていること
未公表・これから
体制
3社の役割分担(コーディネーター・分解技術・ポリオール設計)
国内設備の場所、出資や契約の形
回収の対象
使用済みフォーム(PCR)と製造工程の端材(PIR)
どの製品・地域から回収を始めるか
品質
高純度で安定した品質のリサイクルポリオールを目指す
純度や物性の目標値
評価
回収・分別から再製品化までを共同評価し、既存のLCAを追加検証
評価の期間と結果の公表時期
事業化
技術の商業化と社会実装を国内で目指す
開始時期、処理量、投資額

※2026年10月13日の3社共同リリースをもとに整理。PCRはPost-Consumer Recycled(使用済み製品由来)、PIRはPost-Industrial Recycled(製造工程の端材由来)の略。

なぜ今か|ポリウレタンフォームの使われ方と行き先

自動車シートの断面に見える軟質ウレタンフォーム

ポリウレタンは、ポリオールとイソシアネートという2種類の液体原料を反応させてつくる樹脂です。触媒や発泡剤、整泡剤を加えて泡立てると、柔らかい軟質フォームや、断熱材に使う硬い硬質フォームになります。

軟質フォームは自動車のシートやマットレス、家具のクッションに使われ、硬質フォームは建材や冷蔵庫の断熱材が主な用途です。今回の発表が背景で例に挙げているのは、シート・マットレス・家具といった軟質側の製品です。

図3:軟質ウレタンフォームができるまで

2つの液体原料を混ぜて泡立て、シートや寝具のクッションにします。

ポリオールイソシアネート混ぜて発泡シート・寝具

※実際の配合には触媒・発泡剤・整泡剤なども加わります。今回の協業は、使い終わったフォームからポリオールを取り戻すことを目指しています。

使い終わったフォームの多くは、今も埋立や焼却で処理されるのが実情です。発表資料は、焼却時のCO2排出と埋立処分場の逼迫に加えて、本来は再利用できる有機資源が失われている点を課題に挙げています。

日本国内の廃フォームの量は発表に示されていませんが、エボニックは欧州の廃マットレスについて推計を公表しています。欧州では毎年約4,000万枚のマットレスが捨てられ、そこに含まれる軟質フォームは約30万トンにのぼるとされます。

図4:欧州の廃マットレス10枚の行き先

10枚のうち8枚ほどは、埋立か焼却で処理されています。

10枚中8枚が埋立か焼却(埋立約50%+焼却約3分の1)、リサイクルは約17%

※欧州で毎年捨てられる約4,000万枚のマットレス(軟質フォーム約30万トン)についてのエボニックの推計。リサイクルされる約17%も、品質の低下を伴う利用が中心とされています。

数字の上ではリサイクルされている分もありますが、粉砕して固め直す方法では元のシートやマットレスと同じ品質に戻りにくく、主に付加価値の低い用途に回っています。原料レベルで循環させる方法が求められてきたことが、今回の協業の背景にあります。

リサイクルの方式と「純度の壁」

ポリウレタンフォームのリサイクルは、形を変えて使うマテリアルリサイクルと、化学反応で分子をほどいて原料に戻すケミカルリサイクルに大きく分かれます。今回の取り組みは後者のうち、分解したあとの精製まで含めて純度の高いポリオールを取り出すことを狙っています。

図5:リサイクル方式ごとの違い

違いは、取り出したものを新しいフォームにどこまで使えるかに表れます。

マテリアルリサイクル
従来の分解法
今回目指す姿
処理の中身
粉砕して接着・圧縮し、固め直す
薬剤と熱で結合を切り、ポリオールを取り出す
分解に加えて、不純物を減らす精製と設計まで行う
得られるもの
再生チップや成形品
副生成物・未分解成分を含む再生ポリオール
高純度で品質の安定した再生ポリオール
新しいフォームでの使い方
元の製品には戻りにくい
バージン品に混ぜて一部を置き換える
リサイクル原料としての再利用を想定
主な課題
低付加価値用途へのダウンサイクル
純度不足、高温・長時間の処理
回収物の品質、商業規模での安定、LCAを検証中

※3社共同リリースと、ポリウレタンフォームのグリコリシスに関する総説(Materials、2024年)をもとに整理。

分解に使う薬剤で方式が分かれる

ケミカルリサイクルは、ウレタンの結合を何で切るかによって方式が分かれます。総説では、グリコール(多価アルコール)を使うグリコリシス、水を使う加水分解、アミンや酸を使うアミノリシス・アシドリシスなどが挙げられ、最も普及しているのはグリコリシスとされています。

方式分解に使うもの取り出せるものこの記事での位置づけ
グリコリシスグリコール(多価アルコール)再生ポリオール(分解途中の成分を含みやすい)最も普及している従来の代表例
加水分解水(エボニックは独自の触媒系を併用)ポリオールとアミン(TDA)今回の協業でエボニックが持ち込む方式
アミノリシスアミンポリオールなど総説で挙げられるその他の方式
アシドリシス酸ポリオールなど総説で挙げられるその他の方式
ポリウレタンのケミカルリサイクルの主な方式(総説 Materials 2024、Evonik 公開情報をもとに作成)

グリコリシスで残る分解途中の成分

軟質フォームのグリコリシスは、総説に載る研究例では160〜250℃ほどの温度で行われ、生成物は上下2層に分かれることが多いとされます。上の層が回収ポリオールで、下の層には未反応のグリコールやアミン、カルバメートなど分解途中の成分が残ります。

回収ポリオールにアミンが残ると反応性が高まり、フォームの配合に影響が出ます。そのため研究例では、再生ポリオールでバージン品の最大50%程度(10%の例もあり)を置き換える使い方で物性を確かめています。

純度が足りないと何が困るか

3社の発表も同じ課題を指摘しています。従来技術では副生成物や未分解成分が多く含まれ、バージンポリオールとの混合利用が前提になるため、100%リサイクル原料として使うのが難しいという説明です。

発表は、品質の安定性と日本国内の化学物質規制への対応も実用化のハードルに挙げています。組成がはっきりしない原料は成分の説明や管理の手間が増えるため、国内の新規化学物質の届出のような制度との関係も、再生原料を使う側が確かめておきたい点です。

エボニックの加水分解は何が違うのか

エボニックの方式は、独自の触媒系でウレタンの結合を切る加水分解です。分解後はポリオールとアミン(TDA:トルエンジアミン)の液体混合物になり、精製工程で両者を分けたうえで、TDAは別の反応でイソシアネートのTDIに戻せるとしています。

同社はドイツ・ハーナウのパイロットプラントで、2022年末に分解設備を動かし、2023年からは分離設備で品質を高めてきました。英国のフォームメーカー The Vita Group とはマットレスで協業し、再生ポリオールを最大100%使った軟質フォームを形にしています。

ただし、この100%はエボニックが欧州で積み上げた開発成果で、日本の協業で同じ品質や配合がすでに実現したという意味ではありません。国内の回収物で同じ純度が出るか、三洋化成の設計技術でどう仕上げるかが、これから共同評価で確かめる中身です。

回収から再製品化まで|端材と使用済み品で難しさが違う

回収したマットレスの布地を外してフォームを分ける作業

3社は今後、回収・分別から高純度リサイクルポリオールの製造、再製品化までのバリューチェーン全体を共同で評価します。品質評価に加えて、既存のLCA(ライフサイクルアセスメント:原料から廃棄までの環境負荷の評価)の結果を、プロジェクトで得たデータで追加検証するとしています。

図6:3社が共同評価するバリューチェーン

分解技術だけでなく、前後の工程がそろって初めて循環が回ります。

集める
01回収使用済み製品(PCR)と製造端材(PIR)を集める
02分別・前処理解体して布地や金属を外し、フォームを取り出す
原料に戻す
03分解・精製ケミカルリサイクルでポリオールを再生し、不純物を減らす
04品質評価純度と安定性を確かめ、原料として仕上げる
使う・確かめる
05再製品化再生ポリオールで新しいフォームをつくる
06LCAの追加検証既存のLCA結果を、プロジェクトのデータで確かめ直す

※工程の区切りは3社リリースの「回収・分別から高純度リサイクルポリオールの製造、再製品化に至るまで」をもとに編集部で分けたものです。

回収物のうち製造工程の端材(PIR)は、どの工場のどの配合のフォームかが分かっており、使用による汚れもありません。量は限られますが、組成のそろった原料から分解条件や品質を確かめられる点で、評価を始めやすい原料です。

使用済み製品(PCR)は事情が違い、マットレスなら布地やばね、自動車のシートなら骨格や表皮が付いているため、解体してフォームだけを取り出す前処理が必要です。使われた年数や配合もばらばらで、異物や汚れが混ざる可能性も高くなります。

発表資料の循環図でも、回収したマットレスを解体してからケミカルリサイクルに回す流れが描かれています。エボニックが欧州で廃棄物処理大手の Remondis と2023年から廃マットレスフォームの回収・選別で協力しているのも、分解技術の手前の工程が循環の成否を左右するためです。

回収網と物流を持つ商社がコーディネーターに入っているのは、この前段を組み立てるためでもあります。どこから、どれだけ、どんな状態のフォームを安定して集められるかが分かって初めて、処理設備の規模や事業性を見積もれるようになります。

化学メーカーと採用企業が確かめておきたいこと

協業が商業化まで進めば、影響は3社にとどまりません。ナフサから最終製品までつながる化学業界の構造の中で、ポリオールの供給側、回収を担う商社、フォームの加工会社、最終製品のメーカーと、立場ごとに受け止め方が変わります。

図7:立場ごとの受け止め方

同じ再生ポリオールでも、立場によって見るべき点が変わります。

ポリオールメーカー原料の一部が石油由来から回収品由来に変わる。ロットごとの品質をどう保証するかが新しい仕事になる
化学品商社売る相手だけでなく、使用済み品を集める先とのつながりが価値になる。回収と物流の設計が腕の見せどころ
フォーム加工メーカー工程で出る端材がごみではなく原料の候補になる。再生原料で既存の発泡ラインが回るかの確認が要る
自動車・寝具メーカー再生材を使った製品の選択肢が増える。使用後の製品を回収に回す側としての役割も問われる

※発表内容をもとにした編集部の整理です。各社の具体的な計画は公表されていません。

採用する側が確かめたい項目は、品質・加工・法規・供給の4つに分けると整理しやすくなります。具体的な基準値は発表に示されていないため、次の項目は評価の観点として使い、数字は試作と評価で詰めていくことになります。

  • 品質:純度とロットごとのばらつき、フォームにしたときの硬さや耐久性などの物性
  • 加工:既存の配合や発泡ラインでそのまま使えるか、反応の速さに違いが出ないか
  • 法規:成分を説明できるか、国内の化学物質規制や顧客の含有物質管理に対応できるか
  • 供給:回収量の地域や時期による変動を抑え、必要量を安定して確保できるか

こうした評価を担うのは、主に原料メーカーやフォーム加工会社の研究開発と品質保証の担当者です。これまでの配合開発に「回収原料の品質のばらつき」という新しい変数が加わるため、評価の段取りそのものを見直す場面も出てきます。

需要側では、欧州の使用済み自動車(ELV)の新しい規則で、新型車に使うプラスチックに再生材の最低比率を求める案がまとまりました。

2025年12月の暫定合意(議会・理事会の正式承認はこれから)では、規則の発効から6年以内に15%、10年以内に25%とされ、その20%は使用済み自動車などからの再生材とする内容です。

この目標でシート用フォームの再生ポリオールがどう数えられるかは、本記事では確認できていません。それでも自動車業界の部品メーカーにとって再生材の調達先を広げる流れは強まっており、国内で再生ポリオールを供給できる体制ができれば選択肢の一つになります。

リサイクルポリオールのよくある質問

リサイクルポリオールとバイオマスポリオールは何が違いますか?

バイオマスポリオールはひまし油など植物由来の原料からつくるポリオールで、リサイクルポリオールは使用済みのウレタンを分解して取り出したポリオールです。石油由来の原料を減らす目的は共通ですが、原料の出どころが異なります。

リサイクルポリオールだけで新しいフォームはつくれますか?

エボニックは自社の加水分解で得た再生ポリオールを最大100%使ったフォームを試作していますが、従来の分解法では純度の問題からバージン品との混合が前提でした。日本の協業でどこまで単独使用に近づけるかは、今後の共同評価で確かめられます。

断熱材に使う硬質フォームも対象ですか?

今回の発表は自動車のシートやマットレス、家具といった軟質フォームの製品を例に挙げており、硬質フォームについては触れていません。硬質フォームの分解を扱う研究例はありますが、協業の対象範囲として公表された情報はありません。

マテリアルリサイクルは不要になりますか?

不要にはなりません。粉砕・再成形のマテリアルリサイクルは、品質が下がっても使える用途の受け皿として役割があり、ケミカルリサイクルは元と同じ品質の原料に戻したい場合の手段として使い分けられます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 2026年10月13日、豊通ケミプラス・三洋化成・エボニックがポリウレタンフォームのケミカルリサイクルで共同の取り組みを開始
  • 回収・物流は豊通ケミプラス、分解技術はエボニック、ポリオール設計は三洋化成が受け持ち、国内での商業化を目指す
  • 時期・処理量・投資額・国内設備はまだ公表されていない
  • 従来の分解法は副生成物が多く、バージン品との混合が前提だった。今回は高純度化で再利用の幅を広げる狙い
  • 端材と使用済み品では前処理の難しさが違い、回収から再製品化までの全体とLCAを共同で評価する

ウレタン原料を手がける企業の顔ぶれは化学メーカーの売上高ランキングで、石油化学の上流で進む再編は西日本のエチレン集約の記事で整理しています。

リサイクルが温室効果ガスの削減とどう結びつくかは、脱炭素・カーボンニュートラルの基本もあわせてご覧ください。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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