脱炭素・カーボンニュートラルとは?仕組みと基本原理を図解でわかりやすく解説

太陽光パネルを設置した工場の前で話す技術者たち

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を釣り合わせ、差し引きで実質ゼロにすることです。脱炭素は、そこへ向けて排出を減らしていく取り組み全体を指します。

製造業にとっては避けて通れないテーマで、燃料や電気を使うことで出たCO2のうち、工場などの産業部門の分は2024年度に3億3,400万トンにのぼり、部門別で最も多くなりました。

ボイラーや加熱炉、空調から、購入する材料や部品まで、ものづくりのあらゆる場面が関わります。

目次
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脱炭素・カーボンニュートラルとは

モニターで工場の電力使用量を確認する技術者

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、差し引きで実質ゼロにすることです。環境省は「排出量と吸収量を均衡させること」と説明しています。脱炭素は、そこへ向けて排出を減らしていく取り組み全体を指す言葉として使われます。

日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言しました。環境省によると、2050年カーボンニュートラルを掲げる国と地域は120以上にのぼります。

途中の目標は次のとおりで、2035年度と2040年度の目標は、2025年2月に閣議決定された地球温暖化対策計画で示されました。

  • 2030年度:2013年度比46%削減
  • 2035年度:60%削減
  • 2040年度:73%削減

ゴールまでの道筋が年限つきで定められている点も、このテーマの特徴です。

ポイントは「ゼロ」ではなく「実質ゼロ」という点です。排出をすべてなくすのは難しいため、まず減らせるだけ減らし、残った分を吸収や除去で打ち消すという考え方になっています。

似た言葉に「ネットゼロ」や「脱炭素化」があります。厳密な定義の違いはありますが、実務ではほぼ同じ意味で使われることが多く、いずれも排出を実質ゼロに近づける方向を指すと理解しておけば十分です。

製造業にとって避けて通れないテーマであり、環境省の集計では、2024年度の日本のエネルギー起源CO2のうち、産業部門(工場など)は3億3,400万トンで、部門別で最も多くなっています。

資源エネルギー庁のエネルギー動向(2025年6月版)でも、製造業は今も最終エネルギー消費全体の約4割を占めるとされており、工場の取り組みが、国全体の削減を大きく左右すると言えます。

同じ資料では、1973年度から2023年度にかけて製造業の生産は約1.5倍に増えた一方、エネルギー消費は約0.7倍に減ったとされています。日本の工場は長く省エネに取り組んできており、脱炭素はその延長線上にある取り組みでもあります。

図1:省エネとカーボンニュートラルの違い

似た言葉ですが、目指すゴールと打ち手の広さが異なります。

従来の省エネ
カーボンニュートラル
目標
エネルギー使用量を減らす
CO2排出を実質ゼロにする
主な指標
原油換算の使用量、原単位
CO2排出量(トン)
打ち手
設備の効率化、運用改善
省エネに加え電化・燃料転換・再エネ
対象範囲
主に自社の工場・事業所
取引先を含むサプライチェーン全体
時間軸
毎年の改善の積み重ね
2030年・2050年の長期目標から逆算

※省エネはカーボンニュートラルの土台であり、どちらか一方ではなく両方を組み合わせて進めます。

工場の脱炭素の仕組み

ボイラーなどのユーティリティ設備を点検する技術者

工場の脱炭素を考えるときは、まず「CO2がどこから出ているか」を分けて捉えます。国際的に使われているのが、Scope1・Scope2・Scope3という3つの区分です。

環境省の説明では、Scope1は燃料の燃焼や工業プロセスによる自社からの直接排出、Scope2は他社から供給された電気や熱・蒸気の使用に伴う間接排出です。ボイラーでガスを燃やせばScope1、購入電力でモーターを回せばScope2に数えられます。

Scope3は、それ以外の間接排出で、原材料の製造、輸送、製品の使用や廃棄など、取引先や顧客の側で出るCO2が含まれ、15のカテゴリに分けて算定します。これらを合計したものがサプライチェーン排出量です。

自動車や家電のように使用時にエネルギーを消費する製品では、顧客が使う段階の排出がScope3の大部分を占めることもあります。この場合、製品の省エネ性能を高める設計そのものが、削減の手段になります。

図2:サプライチェーン排出量の3つの区分

自社の工場を中心に、上流から下流までの排出をまとめて捉えます。

Scope3(上流)購入した材料・部品の製造、原料や部品の輸送など
材料・部品を調達
Scope1ボイラー・加熱炉の燃料燃焼、工業プロセス
Scope2購入した電気・熱・蒸気の使用
自社の工場加工・組立・検査などの生産活動
製品を出荷
Scope3(下流)製品の輸送、顧客での使用、使用後の廃棄など

※Scope3は15のカテゴリに分かれ、業種によって大きな割合を占める項目が異なります。

工場でCO2が生まれる4つの場所

自社の工場に目を向けると、CO2の発生源はおおむね次の4つに分けられます。どこが大きいかは業種によって異なり、自社の排出の内訳を知ることが対策の出発点になります。

図3:工場でCO2が生まれる主な場所

エネルギーの使われ方ごとに、発生源を分けて考えます。

熱をつくる設備ボイラー・加熱炉・乾燥炉などで燃料を燃やす
動力を使う設備モーター・コンプレッサー・ポンプが購入電力を使う
建物・ユーティリティ空調・照明・クリーンルームなどの常時運転
製造プロセスそのもの鉄の還元やセメント原料の分解など化学反応による排出

※鉄鋼・化学・セメントなど素材系の業種では、熱とプロセス由来の排出が大きな割合を占めます。

たとえば機械加工や組立が中心の工場では、購入電力によるScope2の割合が大きくなりがちです。一方、鋳造や熱処理、塗装乾燥などを持つ工場では、燃料を燃やすScope1の比重が高くなります。

自社の外にも広がる排出

製造業では、自社でコントロールしやすいScope1・2から削減を始めるのが一般的です。一方で、完成品メーカーから見ると部品メーカーの排出は自社のScope3にあたるため、取引先に削減を求める動きがサプライチェーン全体に広がっています。

脱炭素の基本原理

太陽光パネルや蓄電池、水素タンクが並ぶ工場の敷地

工場のCO2削減は、一見すると多様な技術の寄せ集めに見えます。しかし原理に分けて考えると、打ち手は大きく3つに整理できます。難しい化学や数式を知らなくても、この3つの考え方を押さえれば、新しい技術のニュースを見たときに「どの原理で減らすものか」を判断できるようになります。

図4:CO2を減らす3つの基本原理

どの技術も、このいずれか(または組み合わせ)に当てはまります。

1使う量を減らす省エネ・効率化で必要なエネルギーそのものを減らす
2エネルギーを替える電化・燃料転換・再エネで、単位あたりのCO2を下げる
3残りを回収・相殺するCO2を回収・利用したり、クレジットで埋め合わせたりする
一般に、1→2→3の順に検討すると、コストを抑えながら確実に削減を積み上げやすくなります。

排出量は「使った量 × 排出係数」で決まる

CO2排出量は、電気や燃料を使った量に、その単位あたりに出るCO2の量(排出係数)を掛けて求めます。たとえば同じ1kWhの電気でも、石炭火力が多い電力と再生可能エネルギーの電力とでは、係数がまったく違います。

つまり削減には、使用量を減らすか、排出係数の小さいエネルギーに替えるかの2つの方向があり、図4の1が前者、2が後者にあたります。

まず「使う量」を減らす

最初に取り組みやすいのは省エネで、次のような日常の改善で成果が出ることも少なくありません。

  • コンプレッサーのエア漏れを直す
  • 使わない時間の設備を止める
  • モーターをインバーター制御にする

使う量が減れば、そのあとに入れる再エネ設備や電化設備も小さくて済み、先に需要を絞り込むほど、次の投資が軽くなるという関係です。省エネは、脱炭素全体のコストを下げる土台の役割を持っています。

熱を「燃やさずにつくる」発想

工場では、加熱・乾燥・洗浄など、熱を使う工程が大量のエネルギーを消費しており、これを燃料の燃焼ではなく電気でまかなうのが電化です。

代表例がヒートポンプです。空気や水の中にある熱を集めて使う技術で、ヒートポンプ・蓄熱センターは、1の電気エネルギーで3〜7倍の熱エネルギーを生み出せると説明しています。燃やすより少ないエネルギーで同じ熱を得られるのが強みです。

減らしきれない分は「回収」と「相殺」

省エネと転換を進めても、プロセス由来の排出などはどうしても残ります。そこで、排ガスからCO2を分離して回収したり、森林保全や再エネ導入による削減量をクレジットとして購入し、埋め合わせたりする方法があります。

ただし、相殺はあくまで最後の手段で、自社で減らす努力を先に尽くすことが前提とされており、取引先や投資家もその順番を重視しています。

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脱炭素の種類・方式

電気室で計測器を確認しながら記録する技術者

工場で使われる脱炭素の方式は、対象となる排出の種類によって向き不向きがあります。

省エネ・高効率化

高効率の設備への更新や運用改善で、エネルギー使用量そのものを減らす方式です。空調、照明、コンプレッサー、ポンプ、ファンなど、ほぼすべての工場に共通する設備が対象になります。

エネルギーの使い方を計測して「見える化」し、無駄を見つけることが出発点で、投資額が比較的小さく、コスト削減にも直結するため、多くの工場で最初に手がける方式です。

電化・燃料転換

ボイラーや加熱炉など、燃料を燃やしている設備を、電気や、よりCO2の少ない燃料に切り替える方式です。主に次のようなものが含まれます。

  • 重油から都市ガスへの転換
  • ヒートポンプや電気炉による電化
  • 将来に向けた水素やアンモニアの活用

たとえば、塗装の乾燥や部品の洗浄に使う80℃前後の温水や温風は、ヒートポンプで置き換えやすい領域とされます。一方、鍛造や溶解のような高温の工程では、電気炉や水素などの燃料が候補になり、技術的な難しさも増します。

Scope1を大きく減らせる一方、設備の入れ替えや品質の再確認が必要になるため、計画的な準備が欠かせません。

再生可能エネルギーの導入

太陽光発電などを自社の屋根や敷地に設置したり、再エネ由来の電力を購入したりして、Scope2を下げる方式です。第三者が設備を設置して電気を供給するPPAという契約形態も広がっています。

工場の屋根は面積が広く、日中に電力を多く使う工場とは相性がよいとされます。ただし天候で発電量が変わるため、工場で使う電気のすべてを自家発電でまかなうのは難しいのが実情で、外部からの再エネ電力の調達と組み合わせるのが一般的です。

製造プロセスの転換と回収

鉄鋼や化学、セメントのように、原料の化学反応そのものからCO2が出る業種では、プロセスを根本から変える技術開発が進んでいます。高炉で水素を使って鉄鉱石を還元する技術や、排ガスからCO2を分離・回収するCCUSなどがこれにあたります。

これらは実用化までに長い期間と大きな投資を要する技術です。国の支援を受けながら大手企業や研究機関が開発を進めている段階のものが多く、個々の工場では将来の選択肢として動向を追っておくことが大切です。

図5:脱炭素の主な方式と対象

方式ごとに、減らせる排出の区分や代表的な技術が異なります。

主に減らす排出
代表的な技術・手段
省エネ・高効率化
Scope1・Scope2
インバーター化、エア漏れ対策、高効率空調
電化・燃料転換
主にScope1
ヒートポンプ、電気炉、都市ガス・水素への転換
再エネ導入
主にScope2
自家消費型太陽光、PPA、再エネ電力の購入
プロセス転換・回収
Scope1(工業プロセス)
水素還元製鉄、電炉化、CCUS

※1つの方式で完結することは少なく、工場の排出構成に合わせて組み合わせるのが一般的です。

脱炭素を理解するための基本用語

脱炭素の計画を話し合う社員たち

脱炭素の資料や取引先からの依頼には、専門用語がよく登場します。まずは次の言葉を押さえておくと、話の内容がつかみやすくなります。

  • 排出係数(電気や燃料などを単位量使ったときに出るCO2の量)
  • 原単位(製品1個や売上高あたりのエネルギー使用量やCO2排出量)
  • サプライチェーン排出量(Scope1・2・3を合計した、事業活動全体の排出量)
  • SBT(パリ協定の水準と整合した、科学的根拠に基づく削減目標)
  • PPA(発電事業者が設備を設置し、需要家が電気を長期で購入する契約)
  • カーボンプライシング(排出量取引や炭素税など、CO2に価格をつける仕組み)
  • CCUS(CO2を回収し、利用・貯留する技術の総称)

SBTは、取引先から目標設定を求められるきっかけとして耳にすることが多い言葉です。大手メーカーがSBTを掲げると、その目標にはScope3も含まれるため、部品や材料を納める企業にも排出量の報告や削減の協力が求められるようになります。

このうち原単位は、生産量の増減に左右されずに改善度合いを比べるための指標です。総量と原単位の両方を見ることで、生産が増えた年でも取り組みの成果を正しく評価できます。

排出係数は、電力会社や燃料の種類ごとに公表されている値を使うのが一般的です。同じ使用量でも、契約する電力メニューを変えるだけでScope2が大きく変わることがあるため、購買や総務の担当者も関わるテーマになっています。

カーボンプライシングは、排出にコストがかかる仕組みをつくり、削減を促す考え方です。日本でも排出量取引制度の義務化が進められており、詳しくは背景の記事で解説しています。

脱炭素・カーボンニュートラルのよくある質問

中小企業の工場でも脱炭素に取り組む必要はありますか?

大手メーカーがSBTのような目標を掲げると、部品や材料を納める企業にも排出量の報告や削減の協力が求められるようになります。まずは自社でコントロールしやすいScope1・2の排出量を把握するところから始めるのが一般的です。

省エネを進めればカーボンニュートラルを達成できますか?

省エネは使う量を減らす取り組みで、排出係数の大きいエネルギーを使い続ける限り、排出をゼロに近づけるには限界があります。電化や燃料転換、再エネの導入で係数を下げ、残った分を回収や相殺で打ち消す組み合わせが必要です。

カーボンクレジットで排出を相殺すれば実質ゼロと言えますか?

クレジットによる相殺は、自社で減らせるだけ減らしたあとの最後の手段とされています。取引先や投資家も削減の順番を重視しているため、省エネや転換の努力を示さずに相殺だけで済ませるのは避けたほうがよいでしょう。

電力の契約を変えるだけでCO2排出量は減りますか?

購入電力の排出量は使用量に排出係数を掛けて求めるため、再エネ由来など係数の小さい電力メニューに替えるとScope2が大きく下がることがあります。設備に手を入れずに効果が出るため、購買や総務の担当者も関わるテーマです。

脱炭素の取り組みは何から始めればよいですか?

最初に自社の排出がどこから出ているかを計測し、熱・動力・建物・プロセスのどこが大きいかをつかむことが出発点です。そのうえでエア漏れ対策のような省エネから手をつけると、後の電化や再エネの設備を小さく抑えやすくなります。

まとめ

この記事のまとめ
  • カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質ゼロにすること
  • 日本のエネルギー起源CO2では産業部門が最も多く、工場の取り組みが大きく影響する
  • 排出はScope1(直接)・Scope2(電気・熱)・Scope3(その他の間接)に分けて捉える
  • 削減の原理は「使う量を減らす」「エネルギーを替える」「残りを回収・相殺する」の3つ
  • 省エネ、電化・燃料転換、再エネ、プロセス転換を組み合わせて進めるのが基本

脱炭素がなぜ今これほど求められているのかは脱炭素・カーボンニュートラルが注目される背景と従来技術との違いで、工場での具体的な使われ方は脱炭素・カーボンニュートラルの主な用途と導入事例で解説しています。

エネルギーの計測に関心のある方はセンサー・計測やスマートファクトリー・IoT、排出の多い業種については鉄鋼・非鉄金属業界の記事も参考になります。

脱炭素の最新の動きや関連記事は、脱炭素・カーボンニュートラルの技術ページからあわせてご覧ください。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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