「製造業の転職」と聞くと、多くの方は景気に左右されやすく、年齢が上がると難しくなる世界を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、設備保全や検査、生産管理などの職種では求人が求職者を大きく上回っており、経験のある人材を求める企業が多い状況です。一方で、職種によっては求人が少ないものもあり、ひとくくりには語れません。
この記事では、製造業の転職・採用市場を、市場全体の動き、職種別の求人倍率、年収の水準、企業が求める人材、転職で評価されるポイント、企業と働く人ができることという順で、公的統計をもとに整理します。
製造業の転職・採用市場の現状

製造業の転職・採用市場とは、製造業の企業が人を採用し、働く人が会社や職種を移っていく労働市場のことです。新卒採用に加えて、経験者を中途で採用する動きが広がっています。
総務省の労働力調査によると、2025年の製造業の就業者数は1,033万人で、前年から13万人減りました。働く人の数が減るなかで、必要な人材をどう確保するかが多くの企業の課題になっています。
厚生労働省の一般職業紹介状況では、令和7年度平均の有効求人倍率(パートを含む全職業)は1.20倍で、前年度の1.25倍から0.05ポイント下がりました。全体としては求人が求職者を上回る状態が続いています。
もっとも、この数字はパートを含むすべての職業の平均です。製造業の中でも、職種によって人手の足りなさには大きな差があるため、自分の職種の数字を見ることが大切です。
働く人の出入りを見ると、製造業はほかの産業より人の入れ替わりが少ないのが特徴です。厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、製造業の入職率は9.6%、離職率は9.8%で、産業計の14.7%、13.7%を大きく下回っています。
製造業は、人の出入りが少ない一方、離職が入職をやや上回っています。
※厚生労働省「令和7年雇用動向調査」。パートタイム労働者を含む値です。
入職率が低いということは、長く勤める人が多い安定した職場が多いということでもあります。ただし、離職が入職を上回っているため、辞める人の分を採用で埋めきれていない状況も読み取れます。
人の出入りが少ない職場では、中途で入った人が早く溶け込めるかどうかが定着を左右します。受け入れる側の教育の仕組みや、職場の雰囲気も、転職先を選ぶときの大事な判断材料になります。
職種別に見る求人倍率

製造業の採用市場は、職種によって状況が大きく異なります。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)に掲載された、令和7年度の有効求人倍率を比べてみます。
厚生労働省 job tag に掲載された令和7年度の値です。
※ハローワークの求人・求職をもとにした数値です。民間の転職サービスの求人は含みません。
設備保全・検査は特に不足
最も高いのは、設備保全に近い機械器具整備・修理の職業で、有効求人倍率は5.63倍です。求職者1人に対して5件を超える求人がある計算で、工場の設備を止めない人材は慢性的に足りていないと言えます。
製品の検査を担う検査工(工業製品)も4.41倍と高い水準です。自動化が進んでも、設備の面倒を見る人や品質を確かめる人の仕事はなくならず、むしろ重みを増しています。
これらの職種は、経験者であれば年齢を問わず歓迎されやすいのも特徴です。未経験から入る場合でも、機械や電気の基礎があれば、入社後に育てる前提で採用する企業も少なくありません。
設備保全の仕事の中身は設備保全とはで、品質の仕事は品質保証・品質管理とはで詳しく解説しています。
技術職も売り手市場
生産・品質管理技術者は4.22倍、機械設計技術者は3.14倍、電気技術者は2.43倍と、技術職も軒並み1倍を上回っています。経験のある技術者は、複数の企業から声がかかりやすい売り手市場にあると言えます。
ただし、ハローワークの統計は求人の一部を表したものです。技術職の中途採用は民間の転職サービスを通じたものも多く、実際の求人の状況には幅がある点は押さえておきたいところです。
特に、量産の立ち上げや自動化設備の導入を経験した人は、どの業界でも評価されやすい傾向があります。業界が変わっても通用する経験かどうかを意識しておくと、転職の選択肢が広がります。
製造オペレーターは業界で差
製造の現場で働くオペレーターは、業界によって状況が分かれます。化学製品製造オペレーターが4.37倍と高い一方、自動車組立は0.69倍と、1倍を下回っています。
同じ現場の仕事でも、業界や地域、勤務形態によって人の集まりやすさは違います。求人倍率の高さだけで判断せず、どの業界の、どんな働き方の仕事かまで確かめることが大切です。
化学やプラントのように24時間連続で操業する工場では、交替勤務に対応できる人材の確保が特に難しくなりやすい面があります。その分、夜勤手当などで年収が上がりやすい職場もあります。

製造業の年収水準

転職を考えるとき、年収の水準は気になるところです。job tagに掲載された、令和7年賃金構造基本統計調査をもとにした平均年収を職業ごとに比べると、次のようになります。
厚生労働省 job tag に掲載された、令和7年賃金構造基本統計調査の値です。
※職業ごとに統計上の分類が異なります。会社の規模や地域、残業・手当によって実際の年収には幅があります。
職種による違い
技術職では、生産・品質管理技術者が703.9万円、機械設計技術者が659万円と、高めの水準です。現場の職業では、自動車組立が591.7万円、化学製品製造オペレーターが550.0万円となっています。
求人倍率が高い職種が、必ずしも年収も高いとは限らない点には注意が必要です。検査工は求人倍率が4.41倍と高い一方、平均年収は460.5万円と、ほかの職業より低めです。
年収は、経験年数や担当する範囲によっても変わります。同じ職種でも、担当者から主任、係長へと役割が上がるにつれて差が開いていくのが一般的です。
会社や働き方による違い
同じ職種でも、会社の規模や業界によって年収には差があります。一般に、大手メーカーは基本給や賞与の水準が高く、中小企業は会社ごとの幅が大きい傾向があります。
また、製造の現場では交替勤務の手当や深夜の割増賃金、残業代が年収に占める割合も小さくありません。求人票を見るときは、基本給と手当の内訳まで確認することが、入社後のギャップを防ぐポイントです。
転職で年収を上げたい場合は、同じ職種で規模や業界を変えるか、経験を生かして上位の役割に就くのが現実的です。職種を大きく変える場合は、一時的に年収が下がることもある点は覚えておきたいところです。

企業が求める人材

求人の多い職種や企業の動きから見ると、製造業で特に求められている人材は、次の4つに整理できます。
経験のある即戦力に加えて、変化に対応できる人材が求められています。
設備と品質を支える人
求人倍率の高さからわかるとおり、設備保全や検査、品質管理など、工場を安定して動かす職種の需要は特に強くなっています。人手不足・省人化で自動化が進むほど、設備を扱える人の価値は上がります。
これらの職種は、経験年数や資格で力を示しやすいのも特徴です。機械保全技能士やQC検定などを持っていると、書類選考でも評価されやすくなります。
設備保全の経験者は、設備メーカーのサービス部門やFA業界など、工場の外にも活躍の場があります。
デジタルに強い人
工場のデータを集めて分析したり、ロボットや自動化設備を導入したりする仕事が増えています。現場の知識とデジタルの知識の両方を持つ人は、どの業界でも採用したい人材と言えます。
IT業界から製造業へ移る人もいますが、現場を知る人がデジタルを学ぶ形のほうが、実務では強みを発揮しやすい場面も多くあります。
まずはExcelでのデータ集計や、PLCの基礎、統計的な品質管理など、今の仕事に近いところからデジタルの力を足していくのが近道です。
現場をまとめるリーダー
ベテランの退職が進む工場では、班長や職長として現場をまとめ、若手に技能を伝えられる中堅層も求められています。
リーダー経験は職種を問わず評価されるため、転職の際には、何人のチームで、どんな改善を進めたかを具体的に説明できるようにしておくとよいでしょう。
人をまとめた経験は、技術や資格と違って書類に表れにくいものです。後輩の指導や改善活動の取りまとめなど、日々の役割を言葉にしておくと、面接で伝えやすくなります。
企業の側から見ても、現場のリーダーは社外から採りにくい人材です。そのため、社内でリーダーを育てる仕組みを持つ会社は、長い目で見て人材の確保に強いと言えます。
転職で評価されるポイントと注意点

製造業の転職では、経験をどう伝えるかで結果が変わります。準備から入社までの流れと、押さえておきたいポイントを見ていきます。
準備、応募・選考、入社の3つの段階に分かれます。
※期間や手順は、転職の方法や会社によって異なります。
経験を具体的に伝える
製造業の中途採用で重視されるのは、何をつくり、どんな問題を、どう解決したかです。「不良率を下げた」「段取り時間を短くした」など、成果を数字で示せると伝わりやすくなります。
扱った設備やソフト、材料、加工方法など、具体的な名前を挙げることも大切です。同じ職種名でも、会社によって仕事の中身は大きく違うからです。
面接では、失敗から何を学んだかを聞かれることもあります。うまくいかなかった経験を、次にどう生かしたかまで話せると、実務の力が伝わります。
業界や職種をまたぐときの注意
同じ職種で業界を移る転職は、経験が生きやすい一方、製品や品質基準の違いに戸惑うこともあります。たとえば自動車業界から別の業界へ移ると、品質の管理の仕方や開発のスピードが大きく変わります。
職種を変える場合は、それまでの経験のどこが次の職種で生きるかを整理しておくと、選考でも入社後でも役立ちます。
たとえば、保全の経験は生産技術で、現場の経験は品質保証や生産管理で生きやすい職種の組み合わせです。ものづくりの流れの前後にある職種を選ぶと、経験を無駄にせずに移ることができます。
勤務条件を必ず確認する
製造業では、交替勤務や夜勤、休日の決め方が会社によって大きく異なります。勤務形態と年間休日の確認は、年収と同じくらい大切なポイントです。
同じ「週休2日」でも、土日休みか、工場カレンダーに沿ったシフト休みかで生活のリズムは変わります。家族の予定や通勤の時間も含めて、長く続けられる条件かどうかを確かめておきましょう。
働き方の考え方は製造業の働き方改革で、職場の安全の考え方は製造業の職場環境と安全衛生で詳しく解説しています。

企業の取り組みと働く人ができること

採用が難しくなるなかで、企業は採用の方法や定着の仕組みを見直しています。企業側の取り組みと、働く人ができることを整理します。
企業の取り組み
中途採用を増やすだけでなく、未経験者を採用して社内で育てる、定年後の再雇用で経験者に長く働いてもらうなど、採用と育成、定着を組み合わせる企業が増えています。
自動化や省人化で少ない人数でも回る工場をつくることや、交替勤務の見直しなどで働きやすさを高めることも、人材を確保するための取り組みの一つです。
女性や高年齢の人が働きやすいように、重量物の作業を補助する機器を入れたり、作業の姿勢を見直したりする工場もあります。働きやすい職場づくりは、そのまま採用の力になります。
採用担当が押さえたいこと
採用する側にとっては、求人票で仕事の中身と働き方を具体的に伝えることが第一歩です。扱う製品や設備、交替勤務の有無、教育の進め方まで書かれている求人は、経験者にとって判断しやすくなります。
入社後の早い時期に、職場の先輩を相談役につけるなどの受け入れの工夫も、定着に効果があります。人の出入りが少ない製造業の職場では、中途入社の人が孤立しないよう気を配ることが大切です。
働く人ができること
転職を考えていなくても、自分の市場での位置を知っておくことは役立ちます。job tagでは職業ごとの年収や求人倍率を確認できるため、自分の職種の相場を知る手がかりになります。
そのうえで、社内で経験の幅を広げるか、社外に出るかを考えると、判断を誤りにくくなります。職種ごとの進み方は製造業のキャリアパスで解説しています。
まとめ
- 製造業の就業者数は1,033万人(2025年)で、前年から13万人減っている
- 製造業の入職率は9.6%、離職率は9.8%(令和7年)と、人の出入りは少ない
- 設備保全に近い職業の有効求人倍率は5.63倍(令和7年度)など、職種によって人手不足が深刻
- 平均年収は職種で差があり、求人倍率の高さと年収の高さは必ずしも一致しない
- 転職では、成果を具体的に伝え、勤務形態や手当の内訳まで確認することが大切
キャリアの考え方は製造業のキャリアパスで、職種ごとのスキルと年収は機械設計のスキル・資格とキャリアパスなどの職種別記事で詳しく解説しています。
製造業で働く人のキャリアや働き方については、人・キャリアのページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 製造業の就業者数:総務省統計局「労働力調査(基本集計)2025年(令和7年)平均結果の要約」
- 有効求人倍率(全体):厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)について」
- 入職率・離職率:厚生労働省「令和7年雇用動向調査結果の概況 産業別の入職と離職」
- 職業別の年収・求人倍率:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「機械設計技術者」(ほかに生産・品質管理技術者、産業用ロボットの保守・メンテナンス、検査工(工業製品)、化学製品製造オペレーター、電気技術者、自動車組立。年収は令和7年賃金構造基本統計調査、求人倍率は令和7年度)

コメント