「製造業の年収」と聞くと、多くの方は「安定しているが、金融やITほど高くはない」という印象を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、製造業の平均給与は全業種の平均を上回っており、統計の種類や見る切り口によって順位や金額の印象が大きく変わります。同じ製造業でも、職種、企業規模、年齢によって年収には大きな幅があります。
この記事では、製造業の年収を、全業種の中での位置づけ、製造業の中での違い、職種別の水準、企業規模別の差、年齢別の賃金カーブという順で整理し、最後に年収を上げる方法をまとめます。
製造業の年収は全業種の中でどの位置にあるか

年収を比べるときに最初に確認したいのは、どの統計の数字を見ているかです。代表的な公的統計は、国税庁の「民間給与実態統計調査」と、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の2つです。
この2つは調べている対象や金額の定義が異なるため、同じ製造業でも金額が一致しません。数字を比べるときは、同じ統計の中で業種同士を比較するのが基本です。
国税庁の統計では製造業の平均給与は567.6万円
国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は477.5万円でした。これに対し、製造業の平均給与は567.6万円で、業種平均を約90万円上回っています。
この平均給与には賞与も含まれます。製造業の平均賞与は114.8万円で、前年から11.6%増えました。平均給与も前年比6.5%増と、業種平均の伸び(3.9%)を上回っています。
賞与の伸びが大きいことは、製造業の年収が企業業績の影響を受けやすいことも示しています。多くのメーカーでは賞与の一部が業績に連動して決まるため、好調な年には年収が大きく増える一方、景気の後退期には賞与が減って年収が下がることもあります。
業種別の順位では、電気・ガス・熱供給・水道業、金融業・保険業、情報通信業に次ぐ4番目です。建設業(565.4万円)とはほぼ同水準で、卸売業・小売業やサービス業よりは高い位置にあります。
なお、この平均給与は正社員とそれ以外をあわせた数字です。同じ調査で全業種の平均給与を見ると、正社員は545万円、正社員以外は206万円と大きな差があります。業種ごとの平均値は、正社員以外の働き手がどれだけ含まれているかによっても上下します。
また、平均値は一部の高額な給与を受け取る人に引っ張られやすい性質があります。平均給与が567.6万円だからといって、製造業で働く人の多くがその金額を受け取っているとは限りません。平均値は「業種全体の水準を比べる目安」として使うのが適切です。
男女別では、全業種の平均給与が男性587万円、女性333万円と差があります。製造業でも男女の差は大きく、職種構成や勤続年数、管理職比率の違いが背景にあります。
1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与を業種別に並べたものです。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」をもとに作成。平均給与には賞与を含む。正社員以外も含む平均値。
賃金構造基本統計調査では月額33.0万円
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」では、一般労働者(短時間労働者以外)の所定内給与額を「賃金」として集計しています。残業代や賞与を含まない、毎月決まって支払われる基本的な給与です。
この統計で製造業の賃金は月33.0万円(男女計、平均44.1歳、勤続15.3年)で、全産業平均の34.06万円をやや下回ります。国税庁の統計では業種平均を大きく上回るのに、こちらでは平均並みにとどまる点が特徴です。
差が生じる主な理由は、製造業では賞与と残業代・交替勤務手当などの比率が比較的大きいことです。所定内給与だけで比べると目立たなくても、賞与を含めた年間の総額では上位に入る、というのが製造業の年収の実態に近い見方です。
このことは、賞与や残業代を含む毎月の現金給与総額を調べている厚生労働省「毎月勤労統計調査」でも確認できます。2025年の確報(事業所規模5人以上)では、調査産業計の現金給与総額が月平均35万5,941円だったのに対し、製造業は43万282円でした。
この調査はパートタイム労働者も含めた平均のため、パート比率の高い業種は低めに出ます。製造業はパート比率が比較的低いことも、全体の平均を上回る一因です。どの統計でも、対象と定義を確かめたうえで比べることが大切です。

製造業の中でも業種によって年収は違う

製造業とひとことで言っても、食料品、化学、鉄鋼、電子部品、輸送用機械など、日本標準産業分類の中分類だけで24の業種に分かれます。業種によって事業の収益性や働き方が大きく異なるため、平均賃金にも差が生じます。
中分類別の賃金は、賃金構造基本統計調査の「一般労働者 産業中分類」の統計表としてe-Statで公開されています。ただし、概況資料(要約版)には中分類別の数字は掲載されていないため、比べたい場合は統計表を直接確認する必要があります。
業種間の差を生む主な要因
中分類ごとの平均賃金の差は、業種そのものの「格」ではなく、いくつかの構造的な要因の組み合わせで説明できます。自分が関心のある業種を見るときは、次の要因をあわせて確認すると数字の意味がわかりやすくなります。
平均賃金の差は、業種の構造的な特徴から生じます。
※個別の業種の数値は、e-Statの賃金構造基本統計調査(産業中分類)で確認できます。
たとえば、鉄鋼や化学のような装置産業では、少人数で大規模な設備を運転し、24時間の連続操業のために交替勤務が組まれることが一般的です。こうした業種では、基本給に加えて交替勤務の手当が年収を押し上げます。
一方、組立工程で人手を多く必要とする業種や、パート・アルバイト比率の高い業種では、平均値が低めに出る傾向があります。これは個々の正社員の待遇が低いという意味ではなく、平均値の計算に含まれる人の構成の違いによるものです。
業種を選ぶときの見方
業種別の平均値は、あくまで業界全体の傾向です。同じ業種の中でも企業によって差があり、上場企業であれば有価証券報告書で平均年間給与を確認できます。業種の特徴や主要企業は、製造業の業種一覧の記事で整理しています。
有価証券報告書の平均年間給与を見るときは、集計の対象に注意が必要です。多くの場合、数字は提出会社単体の従業員を対象としており、グループ会社の従業員は含まれません。持株会社の場合は、本社部門の少人数だけの平均になっていることもあるため、事業会社の数字とあわせて確認すると実態に近づきます。

職種別に見る製造業の年収

製造業の年収を考えるうえで、業種以上に影響が大きいのが職種です。同じ会社の中でも、設計や開発などの技術職と、製造現場の技能職では、賃金水準や年齢による上がり方が異なります。
職種別の年収を公的統計で確認するには、厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」が便利です。job tagでは、令和7年賃金構造基本統計調査の結果を加工した職業別の年収(きまって支給する現金給与額と年間賞与などから算出)が掲載されています。
job tagに掲載されている職業別の年収を比べたものです。
※厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)の「賃金(年収)」。令和7年賃金構造基本統計調査を加工したもので、製造業以外で働く人も含む。
技術職は年収が高く、年齢とともに伸びやすい
job tagの数値では、電気技術者が703.9万円、機械設計技術者が659.0万円と、技術職は製造業全体の平均を上回る水準です。大学・大学院卒の比率が高く、経験を積むほど担当できる範囲が広がることが、年収の伸びにつながっています。
組込みソフトウェアの技術者も578.5万円で、平均年齢が37.1歳と比較的若いことを考えると、年齢の割に高い水準です。製品の電子化が進むなかで需要が伸びている職種です。各職種の仕事内容は、製造業の職種一覧で確認できます。
技能職は業種と勤務形態で差が出る
製造現場の技能職は、業種や勤務形態による差が大きいのが特徴です。自動車組立(591.7万円)や鉄鋼製造オペレーター(587.6万円)は、交替勤務を含む働き方で、技能職の中では高い水準にあります。
一方、溶接工(454.7万円)は、技術職と比べると200万円以上の差があります。ただし、溶接は資格や技能のレベルによって担当できる仕事が変わるため、同じ職種の中でも経験と資格で年収に幅が出ます。
年収だけでなく、時間当たりの賃金で比べる見方もあります。job tagでは、残業代や賞与を含めた一般労働者の時給換算額も示されており、機械設計技術者は3,085円、電気技術者は3,352円、溶接工は2,037円です。労働時間の長さを差し引いても、職種による差が大きいことがわかります。
技能職の年収を上げるうえでは、交替勤務の有無や残業時間に頼るのではなく、技能のレベルや担当できる設備・工程の幅を広げることが重要です。多能工として複数の工程を担えるようになると、班長や職長などの役職にもつながりやすくなります。
求人サイトの年収データを見るときの注意点
民間の求人サイトや転職サービスも、職種別の平均年収を公表しています。ただし、その多くは自社サービスの登録者や求人票の提示額をもとにしたもので、調査対象や算出方法が公的統計とは異なります。
求人サイトの数字を参考にする場合は、「誰を対象にした、どの時点の、どんな定義の数字か」を必ず確認してください。公的統計の水準を基準にし、求人サイトの数字は職種間の相対的な差を見る補助資料として使うのが安全です。

企業規模別に見ると大企業と小企業で月約8万円の差

年収の差が最もはっきり表れるのが、企業規模です。賃金構造基本統計調査では、常用労働者1,000人以上を大企業、100〜999人を中企業、10〜99人を小企業として集計しています。
この区分は、中小企業基本法で定める中小企業の定義(製造業では資本金3億円以下または従業員300人以下)とは異なります。統計によって「大企業」「中小企業」の線引きが違うため、数字を比べるときは区分の定義もあわせて確認してください。
令和7年の調査結果(全産業、男女計)では、大企業の賃金が月38.51万円、中企業が32.62万円、小企業が30.56万円でした。大企業を100とすると、中企業は84.7、小企業は79.4です。
所定内給与額(月額)を企業規模別に比べたものです。
※厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」をもとに作成。全産業の一般労働者。賞与・残業代を含まない。
月額の差は大企業と小企業で約8万円で、単純に12か月分とすると年間で約95万円になります。実際には賞与の差も加わるため、年収ベースの差はさらに広がると考えられます。
男性だけで見ると、大企業42.80万円、中企業35.60万円、小企業32.96万円です。女性は大企業31.08万円、中企業28.01万円、小企業26.40万円で、規模による差は男性の方が大きくなっています。
規模による差が生まれる背景には、1人当たりの付加価値(生産性)の差があります。大企業は設備投資や研究開発に大きな資金を投じ、価格交渉力も比較的強いため、利益を賃金や賞与に回しやすい構造です。中小企業は取引先からの価格要請を受けやすく、原材料費の上昇分を価格に転嫁しにくいことが、賃上げの余力に影響します。
ただし、企業規模による差は平均値の比較です。中小企業でも、特定分野で高いシェアを持ち、利益率の高い会社では、大企業と同等以上の待遇を用意している例もあります。大手と中小の違いは、年収以外の面も含めて大手メーカーと中小メーカーの違いで比較しています。
年齢別に見る製造業の賃金カーブ

製造業の賃金は、年齢とともにどのように上がっていくのでしょうか。賃金構造基本統計調査の製造業・男性の年齢階級別賃金を見ると、20歳代前半から50歳代後半まで、ほぼ一貫して上昇しています。
所定内給与額(月額)を年齢階級別に並べたものです。
※厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」をもとに作成。一般労働者の男性。賞与・残業代を含まない。
製造業の男性の賃金は、20〜24歳の23.23万円から、55〜59歳の44.01万円まで、約1.9倍に上がります。一方、60〜64歳では33.22万円に下がり、定年後の再雇用などで賃金水準が大きく変わることがわかります。
女性は製造業全体の平均が25.42万円で、男性(35.59万円)との差が大きいのが現状です。年齢による上昇幅も男性より小さく、管理職比率や職種構成の違い、勤続年数の差などが影響していると考えられます。
30歳代から40歳代にかけて差が開く
年齢階級ごとの伸びを見ると、30〜34歳から45〜49歳にかけて、5歳ごとに月3万円前後ずつ上がっています。この時期は、現場のリーダーや係長などの役職に就く人が増え、担当範囲の広がりが賃金に反映されやすい時期です。
逆に言えば、30歳代から40歳代にどのような経験を積むかで、その後の賃金水準が大きく変わります。専門性を深める道と、マネジメントに進む道のどちらを選ぶかを、この時期に意識しておくことが大切です。
この賃金カーブから読み取れるのは、製造業では同じ会社で経験を積み、役職や担当範囲を広げることで賃金が上がる仕組みが今も残っていることです。一方で、60歳以降に賃金が下がる点は、キャリアの後半を考えるうえで無視できないポイントです。
60歳以降の賃金は、会社ごとの再雇用制度や役職定年の仕組みによって大きく変わります。65歳までの雇用確保は法律で企業に義務づけられていますが、その間の処遇は企業によって差があります。長く働くことを考えるなら、入社や転職の段階で定年後の制度も確認しておくと安心です。
50歳代以降の働き方としては、技能伝承を担う指導役や、専門性を生かした技術顧問などの道があります。技能伝承の取り組みは技能伝承の記事で紹介しています。
製造業で年収を上げる4つの方法

ここまでの統計から、製造業の年収は「業種」「職種」「企業規模」「年齢と役職」の組み合わせで決まることがわかります。年齢は自分で変えられないため、年収を上げたい場合は残りの要素に働きかけることになります。
4つのルートは、どれか1つを選ぶものではありません。資格を取って職種を広げ、その経験を武器に転職する、というように組み合わせることで、年収を上げられる可能性は高まります。
今の会社で上げる方法と、環境を変える方法があります。
※どのルートも、担当できる仕事の範囲を広げることが年収アップの前提になります。
1. 資格を取って担当業務を広げる
製造業では、電気主任技術者や危険物取扱者のように、法令で選任や配置が求められる資格があります。こうした資格は資格手当の対象になりやすく、担当できる業務も広がります。
技能検定や機械保全技能士のように、技能のレベルを客観的に示す資格も、社内の昇格要件として使われることがあります。職種別のおすすめ資格は製造業で役立つ資格一覧で整理しています。
資格手当の金額や対象資格は会社によって異なります。まずは自社の就業規則や資格取得支援制度を確認し、受験料の補助や合格時の報奨金がある資格から取り組むと、費用の負担を抑えながら年収アップにつなげられます。
2. 職種を転換して専門性を高める
職種別の年収差が大きい製造業では、職種を移ることが年収アップの近道になる場合があります。たとえば、製造オペレーターとして設備に詳しくなった人が、設備保全や生産技術に移るケースは珍しくありません。
現場の経験は、生産技術や品質保証の仕事でも大きな強みになります。社内公募や異動希望の制度を使い、現場経験を生かせる職種に移る方法を検討する価値があります。
職種転換では、新しい分野の基礎知識を事前に身につけておくことが成功の鍵になります。CADやプログラミング、データ分析などは社外の講座でも学べるため、学び直しの方法はリスキリングの記事も参考にしてください。
3. 転職で企業規模や業種を変える
企業規模による賃金差を考えると、経験を積んだうえで規模の大きい企業や、収益性の高い業種に移ることは、年収を上げる有力な選択肢です。製造業では経験者採用が広がっており、設計・生産技術・品質保証などの職種で求人が多く出ています。
ただし、転職で年収が上がるかどうかは、経験や専門性がどれだけ評価されるかにかかっています。採用市場の動向は製造業の転職・採用市場の記事で解説しています。
転職先を比べるときは、提示された年収の金額だけでなく、賞与の比率、残業代の扱い、各種手当、退職金や企業年金の有無まで確認することが大切です。月給が高く見えても、賞与や退職金を含めた生涯の収入では差が縮まる、あるいは逆転することもあります。
4. 海外拠点での経験を積む
多くの日本の製造業は海外に生産拠点を持っており、工場の立ち上げや現地スタッフの指導を担える人材が求められています。海外赴任では、赴任手当や住宅の補助などが支給されるのが一般的で、期間中の収入が増えることがあります。
また、海外での経験そのものがキャリアの強みになり、帰任後の昇格や転職での評価につながることもあります。語学力に加えて、現場の改善や品質管理を自分で回せる実務力が重視されます。
海外勤務の機会は、大企業だけでなく、海外に工場を持つ中堅・中小企業にもあります。若手のうちから海外案件に関わりたい場合は、入社前や転職前に、海外拠点の有無や派遣の実績を確認しておくとよいでしょう。
まとめ
- 国税庁の統計では、製造業の平均給与は567.6万円で、業種平均の477.5万円を上回る
- 賃金構造基本統計調査の所定内給与では製造業は月33.0万円で全産業平均並み、賞与と手当で差がつく
- 職種別では電気技術者や機械設計技術者などの技術職が高く、技能職は業種と勤務形態で差が出る
- 企業規模別では大企業を100とすると小企業は79.4で、月額で約8万円の差がある
- 年収を上げる方法は、資格取得、職種転換、転職、海外経験の4つのルートがある
年収は仕事を選ぶうえで重要な要素ですが、仕事内容や働き方、キャリアの広がりとあわせて考えることが大切です。職種ごとのキャリアの道筋は製造業のキャリアパスで紹介しています。
統計の数字は毎年更新されます。就職や転職の判断に使う場合は、最新の公表資料もあわせて確認してください。
出典
- 製造業・業種別の平均給与と平均賞与:国税庁「令和6年分民間給与実態統計調査結果について」
- 産業別・企業規模別・年齢階級別の賃金:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
- 製造業の中分類別賃金の統計表:政府統計の総合窓口(e-Stat)「令和7年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業中分類」
- 機械設計技術者の年収:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「機械設計技術者」
- 電気技術者の年収:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「電気技術者」
- 自動車組立の年収:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「自動車組立」
- 鉄鋼製造オペレーターの年収:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「鉄鋼製造オペレーター」
- 溶接工の年収:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「溶接工」
- 組込み・IoTのシステムエンジニアの年収:厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「システムエンジニア(組込み、IoT)」
- 産業別の現金給与総額:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」

コメント