「金型・加工業界の市場規模」と聞いても、具体的な金額を思い浮かべられる方は多くないのではないでしょうか。
金型は完成品のように店頭に並ぶことがなく、統計の数え方によって金額が大きく変わる分野です。そのため、どの統計の、何を数えた数字かを押さえて読むことが大切です。
この記事では、金型・加工業界の市場規模を、統計ごとの数え方、生産額の推移、需要先の内訳、海外市場と輸出、市場を動かすトレンド、今後の見通しとキャリアへの影響という順で整理します。
金型・加工業界の市場規模

業界の規模を示す代表的な数字は、経済産業省の製造業事業所調査をもとにした金型の生産額です。日本金型工業会の集計では、2024年の生産額は約1兆4,548億円で、2023年から1.5%増えました。
同じ2024年の事業所数は4,077、従業者数は69,553人です。2023年の4,321事業所、74,587人と比べると、事業所も働く人も減るなかで、生産額はほぼ横ばいを保っています。
従業者1人あたりに直すと、2024年の生産額は約2,092万円です(生産額と従業者数から算出)。人が減っても生産額を保てているのは、設備の自動化や大型・高精度の型への集中が進んでいるためと考えられます。
ただし、金型の市場規模には複数の数え方があります。経済産業省の機械統計(生産動態統計)は、対象を一部の事業所に絞って毎月の生産額を集計するもので、金額は製造業事業所調査より小さく出ます。ほかにも、貿易統計の輸出入額や、各国の生産額を比べる国際統計があります。数字を比べるときは、同じ統計どうしで比較するのが基本です。
なお、プレス加工や切削加工で量産した部品の売上は、金型の生産額には含まれません。統計上は金属プレス製品製造業など別の産業として集計されるため、この記事では業界の中心である金型の統計を軸に見ていきます。
同じ「金型の市場」でも、統計によって対象と金額が異なります。
※いずれも日本金型工業会の集計・資料より。ISTMA(国際金型協会)の数値は1ドル150円換算で、国ごとに集計年が異なります。

市場規模の推移

金型の生産額は、1991年の約1兆9,575億円をピークに減少し、2010年には約1兆873億円まで落ち込みました。その後は持ち直し、近年は1兆4,000億円台で推移しています。
ピークの1991年から減少したあと、近年は横ばい圏で推移しています。
※出典:日本金型工業会「全国金型統計調査」(2019年以前は工業統計、2021年以降は製造業事業所調査をもとに集計)。億円未満切り捨て。2020年は経済センサスで対象の定義が異なるため省略。
リーマン・ショック後の落ち込みと回復
2010年の落ち込みは、2008年のリーマン・ショック後に自動車や家電の生産が大きく減った時期と重なります。新車の開発が先送りされると、金型の注文もまとめて減るためです。
その後は新型車の投入や海外生産の拡大に伴って需要が戻り、2017年には約1兆5,257億円まで回復しました。金型の需要は、新車開発のサイクルに強く連動していると言えます。
コロナ禍以降は横ばい圏
2019年は約1兆3,602億円まで減りましたが、2021年以降は1兆4,000億円台を保っています。コロナ禍や半導体不足による自動車の減産を経ながらも、大きく崩れてはいません。
一方で、事業所数は2021年の4,357から2024年には4,077へ減りました。1事業所あたりの生産額は増える方向にあり、廃業や統合で担い手が絞られていることがうかがえます。
なお、2020年の数値は経済センサスをもとにしており、対象となる事業所の定義がほかの年と異なります。統計の切り替えをまたいで比べる場合は、増減の幅を厳密に読みすぎないことが大切です。
物価上昇の影響
近年の生産額には、鋼材やエネルギー価格の上昇分を価格に反映した影響も含まれていると考えられます。金額が横ばいでも、つくっている型の数が同じとは限らない点には注意が必要です。
反対に、発注元の原価低減の要請が強い時期には、型の数が増えても金額が伸びにくくなります。金額の推移は、数量と価格の両方の動きを合わせて読む必要があります。
需要先・製品別の内訳

金型の需要先を見ると、自動車への偏りがはっきりしています。日本金型工業会の資料では、2025年の需要業界別構成比で、自動車・二輪・輸送用車両機器向けが73.0%を占めます。
需要の7割超を自動車・輸送機器向けが占めています。
※出典:日本金型工業会「一目でわかる日本の金型産業(令和8年)」。
2位の産業機器でも6.0%にとどまり、家電や情報機器の比重は小さくなっています。これらの製品の生産の多くがアジアに移ったことも、国内の金型需要が自動車に集まった背景にあると考えられます。
型の種類では、プレス型とプラスチック型が中心で、2025年はこの2種類で全体の約3分の2を占めます。ダイカスト型や鍛造型は比率こそ小さいものの、エンジンや足回りなど自動車の基幹部品を支える型です。
地域別に見ると、生産額は愛知県が最も多く、神奈川県、大阪府、静岡県、岐阜県が続きます。自動車メーカーや部品メーカーの工場が集まる地域に、金型メーカーも集積していることがわかります。
伸びしろという点では、電動車向けのモーターコアや電池ケース、大型のアルミダイカスト部品など、電動化に伴う新しい部品の型に注目が集まっています。反対に、エンジンや変速機の部品に使う型は、長い目で見れば需要が減る可能性があります。
産業機器や生活用品、情報・通信機器向けの型は比率こそ小さいものの、自動車以外の取引先を持つことは、自動車の減産局面で仕事量を支える助けになります。需要先の分散に取り組む金型メーカーも見られます。

海外市場と輸出

日本の金型は海外にも多く出ています。財務省の貿易統計をもとにした日本金型工業会の集計では、2025年の輸出額は約2,040億円で、前年から約5%増えました。
ただし長い目で見ると、輸出は減少傾向にあります。2010年以降では2013年の約3,215億円が最も多く、2024年は約1,942億円と、2013年から約4割減った水準でした。
2013年をピークに減少し、2025年はやや持ち直しました。
※出典:日本金型工業会「貿易統計(輸出)」(財務省貿易統計をもとに集計)。億円未満切り捨て。
主な輸出先は、2025年で米国が約715億円(35%)と最も多く、タイ(約253億円)、中国(約229億円)、メキシコ(約213億円)が続きます。海外に進出した自動車・部品メーカーの工場で使われる型が多いと考えられます。
輸出が減ってきた背景には、海外の自動車工場が型を現地や周辺国で調達する割合を高めてきたことがあります。一方で、新型車の立ち上げに使う難易度の高い型は、今も日本から送られる例が少なくありません。
輸入は2025年で約1,339億円です。このうち中国からが約773億円と約6割を占めており、海外から型を調達する動きも定着しています。
世界に目を向けると、国際金型協会(ISTMA)の統計では、35か国の金型生産額の合計約13兆1,221億円のうち、中国が53.6%を占めます。日本は約9,771億円(2023年)で、中国、米国に次ぐ3位です。
輸入元では、中国に次いで韓国が約274億円(約2割)を占めています。アジアとの間で、型の輸出と輸入が同時に進んでいるのが日本の金型市場の姿です。国内の企業には、難易度の高い型や短納期への対応など、海外との違いを出せる仕事が求められています。
市場を動かす主なトレンド

ここからは、金型・加工業界の市場を動かしている主な変化を見ていきます。特に次の4つは、今後の仕事量や求められる技術を左右するものです。
需要の中身と、つくり方の両面で変化が進んでいます。
自動車の電動化
電動車ではエンジンや変速機の部品が減る一方、駆動用モーターのコアや電池ケース、インバーターの放熱部品などが新たに必要になります。どの部品の型を得意とするかで、電動化の影響は明暗が分かれます。
車体の部品を大型のアルミダイカストで一体成形する動きも出ており、大型のダイカスト型や、それを扱う鋳造技術への関心が高まっています。
ただし、電動化の進み方は国や地域によって差があります。当面はエンジン車やハイブリッド車の部品と、電動車の新しい部品の両方の型が必要とされる状況が続くと見られます。
担い手の減少と淘汰
帝国データバンクの調査を報じた金型新聞によると、2025年1〜9月の金型メーカーの倒産・休廃業・解散は126件でした。4年連続で増えるペースで、過去10年で最も多い水準とされています。
背景には人材難や市場の低迷、経営者と熟練者の高齢化があります。人手不足が続くなか、技能と設備を引き継ぐ事業承継やM&Aが業界全体の課題です。
デジタル化・自動化
人手が減るなかで仕事量を保つため、CAD・CAEによる成形シミュレーションや、加工機の夜間無人運転、測定の自動化が広がっています。
金型の一部を3Dプリンティングでつくり、冷却水路を自由に配置して成形時間を短くする取り組みもあります。デジタル技術は、熟練技能を補い、次の世代に残す手段としても期待されています。
こうした設備やソフトウェアへの投資は小規模な企業ほど負担が重く、投資できる企業とできない企業の差が広がりやすい点も見逃せません。国や自治体の補助金を活用して設備を更新する企業も増えています。
取引慣行の見直し
金型業界では、量産が終わった後も発注元の型を無償で保管させられる問題が長く指摘されてきました。2026年1月には下請法が「中小受託取引適正化法(取適法)」に改められ、取引の適正化が一段と求められています。
公正取引委員会は近年、型の無償保管などを理由とする勧告を相次いで出しており、大手メーカーの側でも保管中の型の棚卸しや、返却・廃棄のルールづくりが進んでいます。
型の保管費用や、材料費・人件費の上昇分の価格転嫁が認められやすくなれば、中小の金型メーカーの収益改善につながる可能性があります。

今後の見通しとキャリアへの影響

金型の市場について、公的機関や業界団体がまとまった数値の見通しを示している例は多くありません。足元の動きとしては、経済産業省の機械統計で、2026年1〜7月の金型生産額が約1,866億円と、前年同期を2.0%上回っています。
同じ統計では、この期間の生産額のうち、自社で使うためにつくられた型(内製)の比率は25.9%でした。発注元が型を内製するか外注するかの配分も、受注側の仕事量を左右する要素の一つです。
中長期では、国内の自動車生産がどう推移するか、電動化の部品をどれだけ国内でつくるかが、金型需要の大きさを決めることになります。働く人にとっては、業界全体の数字だけでなく、勤め先の取引先と得意分野がどちらを向いているかを見ることが大切です。
自動車の生産動向に左右される構造は当面続くと見られますが、担い手が減るなかで仕事は残った企業に集まりやすくなっています。市場全体は横ばいでも、個々の企業では仕事が増える場面もあると言えます。
伸びる職種
需要が高まりやすいのは、金型設計や成形シミュレーションを担う機械設計の技術者、5軸加工機やCAMを使いこなす加工技術者、自動化ラインを立ち上げる生産技術の人材です。
電動車向けの新しい部品では、材料や工法の知識も欠かせません。発注元の開発段階から加わって、つくり方を提案できる人材の価値は、今後さらに高まると考えられます。
求められるスキル
現場の技能に加えて、3D CADやCAM、測定データの扱いなど、デジタルの基礎は必須になりつつあります。技能検定で技能を示しつつ、データを使って説明できる力があると強みになります。
品質の面では、測定結果を記録して不良の原因をたどる力も求められます。品質保証・品質管理の考え方を身につけておくと、発注元との打合せでも信頼を得やすくなります。
また、中小企業が多い業界のため、見積りや客先との調整まで担える人は重宝されます。技能とデジタル、顧客対応を組み合わせられるかが、キャリアの伸び方を左右すると言えます。
まとめ
- 金型の生産額は2024年で約1兆4,548億円(製造業事業所調査)
- 1991年のピークから減ったが、近年は1兆4,000億円台で横ばい
- 需要の73.0%が自動車・二輪・輸送用車両機器向け(2025年)
- 輸出は2025年に約2,040億円で、米国向けが35%で最大
- 電動化、担い手の減少、デジタル化、取引慣行の見直しが市場を動かす
業界の全体像は金型・加工業界とは、企業どうしの関係や利益の出方は金型・加工業界の構造、代表的な企業は金型・加工業界の主要企業と勢力図で解説しています。
関連する記事は、金型・プレス・切削加工の業種ページからあわせてご覧ください。
出典
- 需要業界別構成比・輸出入・世界の金型生産:一般社団法人日本金型工業会「一目でわかる日本の金型産業(令和8年)」
- 2024年の生産額・事業所数・従業者数:一般社団法人日本金型工業会「製造業事業所調査(令和6年)」
- 生産額の推移:一般社団法人日本金型工業会「全国金型統計調査(令和5年)」
- 輸出額の推移:一般社団法人日本金型工業会「貿易統計(輸出)」
- 2026年1〜7月の生産額:一般社団法人日本金型工業会「金型生産額推移表」(経済産業省「機械統計」をもとに作成)
- 倒産・休廃業件数:金型しんぶんONLINE「金型メーカーの倒産・廃業 4年連続で増加(帝国データバンク調べ)」

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