「工場の省エネ」と聞くと、多くの方は照明をこまめに消したり、空調の温度設定を見直したりする取り組みを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、工場の省エネは、法律にもとづくエネルギー管理の仕組みと、ボイラーやコンプレッサー、モーターといった設備ごとの技術的な対策が組み合わさった活動です。エネルギーを多く使う事業者には国への報告義務があり、エネルギー価格の変動や脱炭素の要請もあって、現場の心がけを超えた経営課題として扱われるようになっています。
この記事では、工場の省エネを、定義と基本原理、省エネ法による管理の仕組み、主な対策の種類、メリットと限界、現場での進め方、関連する職種・スキルという順で整理します。
工場の省エネとは?エネルギーを「賢く使う」ための管理活動

工場の省エネとは、製品をつくるために使う燃料・熱・電気のムダを減らし、同じ生産量をより少ないエネルギーでまかなうための取り組みです。生産を止めて使用量を減らすことではなく、生産量あたりのエネルギー使用量を下げることが目的です。
この「生産量あたりのエネルギー使用量」をエネルギー消費原単位と呼びます。製品1トンあたり、部品1個あたりに、どれだけの電気や燃料を使ったかを表す指標です。生産量が増えれば使用量の総量も増えるため、工場の省エネでは総量と原単位の両方を見て評価します。
製造業は日本の最終エネルギー消費の約4割
資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年6月版)」によると、2023年度の最終エネルギー消費のうち、産業部門と業務他部門をあわせた企業・事業所他部門が61.1%を占めました。その中で最大のシェアを持つのが製造業で、製造業だけで最終エネルギー消費全体の約4割を占めています。
製造業の中でも、鉄鋼、化学、窯業土石(セメントなど)、紙・パルプといった素材系産業が、2023年度時点で製造業のエネルギー消費の約8割を占めています。高温の炉や大型の反応設備を連続運転する業種ほど、エネルギーの使い方がコストと競争力を大きく左右します。
一方で、1973年度と2023年度を比べると、製造業の生産は約1.5倍に増えたのに対し、エネルギー消費は約0.7倍に減っています。石油危機以降、日本の工場が長い時間をかけて省エネを積み重ねてきたことが、この数字に表れています。
働く人の立場から見ると、これは「分かりやすい改善はすでに進んでおり、残っている改善余地は細かく、見えにくい」ことを意味します。計測データをもとに地道にムダを探す力が、いまの現場で求められる理由です。
省エネの3つの基本原理
工場の省エネ対策は、大きく3つの考え方に整理できます。1つ目は、使わなくてよいエネルギーを使わない「止める・減らす」です。休憩時間や段取り替え中の設備停止、圧縮空気の漏れの修理などがこれにあたります。
2つ目は、同じ仕事をより少ないエネルギーで行う「効率を上げる」です。高効率モーターやインバーター、高効率ボイラーへの更新が代表例です。3つ目は、捨てていた熱などを別の用途に使う「回収して再利用する」です。排ガスや冷却水の熱を予熱や給湯に使う廃熱回収が該当します。
これら3つの対策を選ぶ前提として、どこでどれだけエネルギーを使っているかを測る「計測・見える化」と、決めた運転方法を守り続ける「運用の標準化」が欠かせません。技術だけでなく、管理の仕組みがセットになって初めて効果が続きます。
省エネ対策は、3つの原理と、それを支える管理の仕組みで整理できます。
※非化石エネルギーへの転換は、省エネと並ぶもう一つの柱として位置づけられています
省エネ法によるエネルギー管理の仕組み

工場の省エネを制度面で支えているのが、1979年に制定された省エネ法です。2023年4月の改正法の施行により、正式名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」となり、「省エネ・非化石転換法」とも呼ばれています。
省エネ法は、工場・事業場や運輸分野でエネルギーを使う事業者を直接規制するとともに、機械器具の製造・輸入事業者に消費効率の目標を課すことで、間接的にも省エネを促す仕組みです。工場で働く人に直接関わるのは、前者の工場・事業場に対する規制です。
対象となる事業者と工場
工場を持つ企業の場合、会社全体の年間エネルギー使用量が原油換算で1,500kl以上になると、国から「特定事業者」に指定されます。これは会社単位の基準で、複数の工場や事務所、店舗などの使用量を合計して判断します。
さらに、単独の工場で年間1,500kl以上を使う場合は「エネルギー管理指定工場」となり、3,000kl以上なら第一種、1,500kl以上3,000kl未満なら第二種に区分されます。規模が大きい工場ほど、求められる管理体制も重くなる仕組みです。
選任が必要な人材
特定事業者になると、社内で省エネを推進する役割の人を選任する必要があります。経営の立場から全社の取り組みを統括する「エネルギー管理統括者」と、その実務を補佐する「エネルギー管理企画推進者」が代表的な役割です。
指定工場には、現場のエネルギー管理を担う「エネルギー管理者」または「エネルギー管理員」を置きます。省エネルギーセンターによると、製造業など5業種の第一種エネルギー管理指定工場では、エネルギー使用量の区分に応じて、エネルギー管理士の免状を持つ人の中から1人から最大4人のエネルギー管理者を選任しなければなりません。
年1%改善の目標と国への報告
特定事業者は、毎年度、エネルギーの使用状況などをまとめた定期報告書と、今後の省エネ投資などを示す中長期計画書を国に提出します。提出期限は毎年度7月末です。
目標としては、エネルギー消費原単位または電気需要最適化評価原単位を、中長期的にみて年平均1%以上低減することが努力目標とされています。単年度ごとの達成を義務づけるものではありませんが、報告内容は国によって確認され、取り組み状況に応じて指導などの対象になることもあります。
現場の担当者にとっては、この1%という数字が毎年の改善活動の目安になります。生産量が変動しても原単位で評価されるため、設備の稼働率向上や不良の削減も、省エネの成果として数字に表れます。
2023年改正で加わった非化石転換と電気の需要最適化
2023年4月に施行された改正では、大きく3つの変更がありました。1つ目は、エネルギーの定義の拡大です。これまでは化石エネルギーが対象でしたが、太陽光発電などの非化石エネルギーも含む、すべてのエネルギーの使用の合理化が求められるようになりました。
2つ目は、非化石エネルギーへの転換です。特定事業者などの大規模事業者には、非化石エネルギーへの転換の目標に関する中長期計画の作成と、非化石エネルギーの使用状況などの定期報告が求められるようになりました。セメント製造業や自動車製造業など5業種については、国が2030年度の定量目標を設定しています。
3つ目は、電気の需要の最適化です。再生可能エネルギーの出力制御が行われる時間帯に電力使用をずらしたり、需給がひっ迫する時間帯に使用を減らしたりするデマンドレスポンス(DR)の実績を報告する仕組みが加わりました。工場の省エネは「量を減らす」管理から、「いつ、どのエネルギーを使うか」まで含む管理へと広がっています。
会社全体と工場単位の2段階で対象が決まり、役割の選任と毎年の報告が求められます。
※2023年4月施行の改正で、非化石転換と電気需要最適化に関する報告も加わりました。出典:近畿経済産業局、資源エネルギー庁、省エネルギーセンター

主な省エネ対策の種類

工場で使うエネルギーは、燃料や蒸気といった「熱」と、「電気」に大きく分けられます。どこにどれだけ使われているかは業種や設備構成によって大きく異なるため、対策も自社の実態に合わせて選ぶ必要があります。ここでは、多くの工場で共通して検討される対策を整理します。
蒸気・ボイラーと廃熱回収
蒸気は、加熱・乾燥・洗浄・殺菌など多くの工程で使われます。ボイラーでは、燃料に対して送り込む空気の量(空気比)を適正に保つことで、排ガスとして逃げる熱を減らせます。
蒸気配管では、保温材の劣化や、蒸気と凝縮水を分けるスチームトラップの故障が大きなロスにつながります。使われなくなった配管の撤去や、配管・バルブの保温強化は、比較的少ない投資で効果を得やすい対策です。
炉や乾燥機、コンプレッサーなどから出る排熱を、燃焼用空気の予熱、ボイラー給水の加温、暖房などに使う廃熱回収も重要です。熱を新たに「つくる」前に、捨てている熱を「使う」ことを検討するのが基本的な順序です。ただし、排熱が出る時間帯と熱を使いたい時間帯がずれると効果が小さくなるため、生産計画との組み合わせを確認します。
コンプレッサー(圧縮空気)
エアブローやエアシリンダー、エア工具などに使う圧縮空気は、電気で空気を圧縮してから使うため、その過程で多くのエネルギーが熱として失われます。扱いやすい反面、エネルギー効率の面では割高な動力源です。
代表的な対策は、配管や継手からのエア漏れの修理、必要以上に高い吐出圧力の引き下げ、使わない時間帯の停止、複数台を負荷に合わせて運転する台数制御です。エア漏れは音や専用の検知器で見つけることができ、日常点検と組み合わせて進めやすい領域です。
モーター・インバーター・空調・照明
日本電機工業会(JEMA)は、モーターで消費される電力は国内の全消費電力量の約55%、産業用モーターによる消費電力量は産業部門の消費電力量の75%を占めると推定しています。ポンプ、ファン、コンベヤ、工作機械など、工場の電気の多くはモーターを通じて使われています。
2015年度からは、三相誘導モーターに国際規格のIE3(プレミアム効率)相当の効率を求めるトップランナー制度が始まりました。高効率モーターへの更新に加え、ポンプやファンの回転数を必要な流量に合わせて下げるインバーター制御は、バルブやダンパーで流量を絞る運転に比べて大きな削減が見込める対策です。
ただし、JEMAは、高効率モーターは回転速度がやや速くなることがあり、ポンプやファンの用途では動力がかえって増える場合があると注意を促しています。機器を入れ替えるだけでなく、負荷との組み合わせを確認することが欠かせません。
空調では、設定温度の見直しに加え、必要な場所だけを冷やす・暖める局所空調や、外気の取り入れ方の工夫が有効です。照明はLEDへの更新と、人感センサーや昼光の活用による点灯時間の短縮が基本になります。
見える化とエネルギー管理システム
対策を選ぶ前提として重要なのが、エネルギーの見える化です。工場全体の電力量計だけでは、どの設備がどれだけ使っているかは分かりません。設備やライン単位で電力・蒸気・圧縮空気の使用量を計測し、生産実績と結びつけて分析することで、初めてムダの場所が見えてきます。
近年は、計測データを集約して分析するエネルギー管理システム(EMS)や、工場のIoT化と連動した取り組みも広がっています。計測の基礎はセンサー・計測技術とは?、工場全体のデータ活用はスマートファクトリーとは?で詳しく整理しています。
対象設備ごとに、代表的な対策と進めるうえでの注意点を整理しました。
※効果の大きさは業種・設備構成・稼働状況によって異なります
工場の省エネのメリットと限界

メリット:コスト削減と脱炭素を同時に進められる
最大のメリットは、エネルギーコストの削減です。燃料や電気の価格は国際情勢や為替によって大きく変動するため、使用量そのものを減らしておくことは、価格上昇への備えになります。
省エネは温室効果ガスの排出削減にも直結します。取引先から製品あたりのCO2排出量の開示や削減を求められる場面が増えており、省エネの実績はサプライチェーンの中での評価にも関わります。省エネは、脱炭素に向けた取り組みの中でも最初に着手しやすい手段です。
さらに、エア漏れや蒸気漏れの点検、設備ごとの稼働状況の見える化は、設備の異常の早期発見にもつながります。省エネ活動が、品質や設備保全の改善と一体で進むことも少なくありません。
限界:運用改善だけでは頭打ちになる
一方で、限界もあります。前述のとおり、日本の製造業はすでに長く省エネを進めてきたため、照明の消灯や設定温度の見直しといった運用改善だけで、年1%の改善を続けることは次第に難しくなります。
大きな削減には、ボイラーや炉、コンプレッサーの更新、生産工程そのものの見直しといった設備投資が必要になり、投資回収の期間が長くなりがちです。また、省エネだけでは排出量をゼロにはできないため、電化や燃料転換、再生可能エネルギーの導入と組み合わせることが求められます。
設備投資の際には国や自治体の補助金を活用できる場合がありますが、公募時期や要件は年度によって変わります。2026年9月時点の主な制度は製造業で使える補助金でも整理していますが、申請前には必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
省エネの効果は、コスト面だけでなく環境面・管理面にも広がります。
現場での省エネの進め方

工場の省エネは、思いつきの対策を積み重ねるより、「計測→分析→対策→効果検証」のサイクルを回すことで成果が安定します。ここでは、その4つのステップを順に見ていきます。
計測:どこで何を使っているかを把握する
最初に行うのは、エネルギーの使用実態の把握です。電力・燃料・蒸気・圧縮空気などを、工場全体、建屋、ライン、主要設備の順に細かく計測していきます。すべてを一度に計測する必要はなく、使用量の大きい設備から優先するのが現実的です。
同時に、生産量や稼働時間などのデータもそろえます。エネルギー使用量だけを見ても、それが生産に必要な分なのか、ムダなのかは判断できないためです。
分析:ムダと改善余地を特定する
集めたデータから、生産していない時間帯に使われているエネルギー(夜間・休日の待機電力などのベース負荷)、季節や製品による原単位の違い、同じ種類の設備の間の効率差などを探します。
省エネ法の判断基準では、設備の運転・計測・保守などの方法を社内ルールとして定める「管理標準」をつくり、それにもとづいて管理することが求められています。分析の結果を管理標準に反映させることで、担当者が変わっても同じ管理を続けられます。
対策:運用改善から設備投資へ
対策は、費用のかからない運用改善から始め、その後に設備投資を検討する順序が一般的です。不要時の停止、圧力や温度の設定見直し、エア漏れの修理などは、すぐに取りかかれます。
設備投資を伴う対策は、削減量、投資額、回収年数を比較して優先順位をつけます。中小企業の場合は、省エネルギーセンターが実施する省エネ診断のように、外部の専門家に工場を見てもらう支援策を活用する方法もあります。
効果検証:原単位で評価し、次の対策につなげる
対策を実施したら、計測データで効果を確かめます。このとき、生産量の変動の影響を除くため、総使用量だけでなく原単位で評価することが重要です。
効果が想定より小さい場合は、その理由を調べて次の対策に活かします。こうした検証結果を毎年度の定期報告や中長期計画に反映させていくことで、省エネは一過性のキャンペーンではなく、継続的な管理の仕組みになります。小さな改善を積み重ねて標準に反映する点は、生産現場のカイゼン活動とも共通しています。
計測から効果検証までのサイクルを回し、結果を次の計画に反映します。
※使用量の大きい設備から優先して計測するのが現実的です
工場の省エネに関わる職種・スキル

工場の省エネは、特定の部署だけで完結する仕事ではありません。設備を動かす人、直す人、生産の仕組みを考える人、経営の立場で投資を判断する人が、それぞれの立場で関わります。
主に関わる職種
中心となるのは、設備の点検・修理を担う設備保全と、生産ラインや工程を設計・改善する生産技術です。保全はエア漏れや蒸気漏れの発見、設備の運転状態の管理を、生産技術は高効率設備の導入や工程の見直しを担います。
企業によっては、電気・蒸気・圧縮空気・水などのユーティリティ設備を専門に管理する部署を置いています。また、省エネ法で求められるエネルギー管理統括者は経営の立場から全社を統括する役割のため、工場長や本社の管理職にとっても、省エネは重要な経営テーマです。
求められる知識と資格
必要な知識は、熱や伝熱の基礎、電気の基礎、ポンプ・ファン・圧縮空気などの流体機械、計測、そしてデータの分析です。現場では、設備の構造を理解したうえで、計測データから改善のヒントを読み取れる人が評価されます。
代表的な国家資格が、エネルギー管理士です。取得方法は、試験に合格する方法と、エネルギー管理研修を修了する方法の2つがあり、試験は熱分野と電気分野のいずれかを選んで受験します。試験に合格した場合、免状の交付申請にはエネルギーの使用の合理化に関する1年以上の実務経験が必要です。
電気主任技術者やボイラー技士など、ユーティリティ設備の保安に関わる資格も、省エネ業務と相性のよい資格です。製造業で評価される資格の全体像は製造業で役立つ資格で整理しています。
エネルギー管理士を中心に、ユーティリティ設備の保安に関わる資格が役立ちます。
※選任要件や受験資格は各制度の公式サイトで最新情報を確認してください
まとめ
工場の省エネは、節電の呼びかけにとどまらず、省エネ法にもとづく管理体制、設備ごとの技術的な対策、データにもとづく改善サイクルが組み合わさった活動です。2023年の改正で、非化石エネルギーへの転換や電気の需要最適化まで対象が広がり、脱炭素と一体で考える時代になっています。
- 製造業は2023年度に最終エネルギー消費の約4割を占め、素材系産業が製造業の約8割を使っている
- 省エネ法では、年間1,500kl以上を使う事業者が特定事業者となり、役割の選任と毎年度の報告が必要
- 目標はエネルギー消費原単位などを中長期的に年平均1%以上低減すること
- 主な対策は蒸気・ボイラー、コンプレッサー、モーター・インバーター、空調・照明、廃熱回収、見える化
- 進め方は計測→分析→対策→効果検証。保全・生産技術が中心となり、エネルギー管理士が代表資格
省エネは、脱炭素に向けた取り組みの土台です。燃料転換や再生可能エネルギーの活用まで含めた全体像は脱炭素とは?で、現場の改善活動の考え方はトヨタ生産方式・カイゼンとは?であわせて確認してみてください。
出典
- 部門別・製造業のエネルギー消費(2023年度):資源エネルギー庁「エネルギー動向(2025年6月版)第1章第2節 部門別エネルギー消費の動向」
- 省エネ法の目的・対象:資源エネルギー庁「省エネ法の概要」
- 2023年改正の3つのポイント:資源エネルギー庁「2023年4月施行の『改正省エネ法』、何が変わった?」
- 特定事業者・指定工場の基準と義務:近畿経済産業局「省エネ法における特定事業者と指定工場」
- 年平均1%以上低減の目標、管理標準:省エネルギーセンター「省エネ・非化石転換法関係情報」
- エネルギー管理士の取得方法・選任義務:省エネルギーセンター「エネルギー管理士試験制度の概要」
- モーターの電力消費割合、トップランナーモーター:日本電機工業会「トップランナーモータ」
- 省エネ診断:省エネルギーセンター「省エネ最適化診断」

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