共有結合の結晶と分子結晶の違い・見分け方|融点・硬さの比較と工業での使い道

引き上げ炉の手前の台に置かれたシリコン単結晶のインゴット

共有結合の結晶と分子結晶の違いは、結晶全体が原子どうしの共有結合で1つの網目につながっているか、分子が弱い分子間力で集まっているかにあります。ダイヤモンドやケイ素(Si)、二酸化ケイ素(SiO2)が前者、ドライアイスやヨウ素が後者で、融点には千℃を超える差が出ます。

どちらも非金属の原子が共有結合でつながっているため、化学式を見ただけでは区別しにくいのが難しいところで、SiO2 と CO2 はその典型です。この違いは、半導体のシリコンや水晶振動子、医薬品の結晶形の管理といった工場の材料選びや品質管理にもそのまま表れます。

この記事では、2つの結晶の違いを表で比べて見分け方を整理し、SiO2 が分子をつくらない理由とフッ化水素との反応を確かめます。後半では、イオン結晶・金属結晶を含めた4種類の比較、工業での使われ方、結晶の種類を確かめる分析法まで見ていきます。

目次

共有結合の結晶と分子結晶の違いを見分ける方法

共有結合の結晶は数が少ないので、代表例のダイヤモンド・黒鉛・Si・SiC・SiO2 を押さえ、それ以外の非金属の物質はまず分子結晶を疑うのが実用的な見分け方です。ただし化学式だけで未知の物質を確実に分類することはできないので、迷ったときは融点や硬さなどの性質で確かめます。

2つの違いがいちばんよく表れるのは、固体を融かすときに何を切る必要があるかです。共有結合の結晶では原子どうしの強い共有結合そのものを切らなければならず、分子結晶では分子と分子の間の弱い力が外れるだけで、分子の中の共有結合はそのまま残ります。

図1:網目と分子:融かすときに切れるもの

共有結合の結晶は結晶全体が1つの網目で、分子結晶は分子どうしが弱い力で寄り集まっているだけです。

共有結合の結晶(ダイヤモンド・SiO₂など)分子結晶(ドライアイス・ヨウ素など)融かすには原子どうしの共有結合を切る→ 融点が高く、とても硬い点線(分子間力)だけが外れる。分子の中の共有結合は切れない → 融点が低く、昇華しやすい

※原子の並びは模式的に描いたもので、実際の結晶構造(ダイヤモンドは正四面体の向きにつながる立体の網目)を表すものではありません。

この違いを、代表的な物質の数字で並べたのが次の表です。融点は共有結合の結晶が1,400℃を超えるのに対し、分子結晶は100℃前後かそれ以下で、ドライアイスのように常圧では液体にならず固体から直接気体になる(昇華する)ものもあります。

項目共有結合の結晶分子結晶
結晶をつくる粒子原子分子
粒子をつなぐ力共有結合(結晶全体が1つの網目)分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)
化学式の意味組成式(SiO2、SiC)か元素記号(C、Si)分子式(CO2、I2、C10H8)
融点非常に高い。Si 1,414℃、SiO2(結晶)約1,710℃、SiC は常圧で融けず約2,700℃で昇華、炭素は3,500℃以上(常圧では融けず昇華)低い。ナフタレン 80℃、ヨウ素 114℃、CO2 は常圧で −78.5℃ で昇華
硬さ非常に硬い(モース硬度でダイヤモンド10、石英7)やわらかく、くだけやすい
電気ほとんど通さない(Si・SiC は半導体。黒鉛は例外で通す)通さない
水への溶け方溶けない物質による(ヨウ素・ナフタレンは溶けにくく、有機溶媒に溶ける)
代表例ダイヤモンド、黒鉛、Si、SiC、SiO2(水晶・石英)ドライアイス(CO2)、ヨウ素、ナフタレン、氷
融点は PubChem(CRC Handbook・米国エネルギー省 PAC・NIOSH・ICSC の値)、NIST Chemistry WebBook、二酸化炭素は NIST の物性値(常圧の昇華点 194.7 K)による。モース硬度は米国鉱物学会の表による

見分けるときの手順は、次の図のように「金属を含むか」から始めると迷いにくくなります。非金属だけでできていれば、代表例に当てはまるかを見て、当てはまらなければ分子結晶と考えるのが目安です。

図2:よく出る物質の簡易判定の手順

金属の有無→代表例かどうか→性質で確認、の順に見ます。最後の確認を飛ばさないことが大切です。

STEP 1金属の元素を含むか金属だけなら金属結晶、金属と非金属ならイオン結晶(NaCl、アルミナなど)
STEP 2代表例に当てはまるかダイヤモンド・黒鉛(C)、Si、SiC、SiO2。ほかに Ge、窒化ホウ素も網目をつくる
STEP 3当てはまらなければ分子結晶を疑うCO2、I2、H2O、有機化合物の多くは分子が集まった結晶
STEP 4性質で確かめる融点が非常に高く硬い→共有結合の結晶、低く昇華しやすい→分子結晶。最終的には X線回折で構造を確かめる

※代表例を覚えるための目安で、すべての物質を化学式だけで分類できるわけではありません。例外や新しい材料は、構造と物性を調べて判断します。

注意したいのは、性質の一般論にも例外があることです。黒鉛は共有結合の結晶ですが、炭素の層の中を電子が動けるので電気を通し、Si や SiC は電気を少しだけ通す半導体になります。「共有結合の結晶=電気を通さない」と言い切らないことが、材料を扱ううえでは大事です。

SiO2の式が分子に見えることが混乱の元

CO2 と SiO2 は、同じ14族の元素に酸素が2つ付いた同じ形の式に見えます。ところが CO2 は分子1個の中身をそのまま表す分子式で、SiO2 は原子の数の比が Si:O = 1:2 であることだけを示す組成式です。

実際の二酸化ケイ素では、1個の Si が4個の O と単結合し、Si を中心にした正四面体(SiO4)をつくります。四面体の頂点の O は隣の四面体の Si ともつながっているので、結晶全体が切れ目のない網目になり、どこまでを1個と数える区切りがありません。

Si 1個あたりの O の数(O は隣り合う2個の Si が共有)
O = 4 × 12 = 2 → Si:O = 1:2 → 組成式 SiO2
Si は4本の結合をすべて O に向け、O は2本の結合で2個の Si をつなぎます。原子が何億個集まっても比は1:2のままなので、結晶の大きさによらず SiO2 と書きます。

図3:CO2 の分子と SiO2 の網目

CO2 は二重結合で手が埋まった小さな分子、SiO2 は O を共有しながら四方に広がる網目です。

CO₂(分子結晶をつくる)SiO₂(共有結合の結晶)O=C=O分子の間は弱い分子間力だけSi太い丸の Si を囲む O は4個。どの O も隣の Si と共有

※平面に広げて描いた模式図です。実際の SiO2 では O が正四面体の頂点の向きにあり、Si−O−Si が折れ曲がりながら立体の網目をつくります。大きい丸が Si、白い小さい丸が O です。

SiO2という分子はなぜできないのか

炭素は酸素と二重結合をつくれるので、C の4本の手は O=C=O の2本の二重結合で埋まり、それ以上どこともつながらない小さな分子になります。分子どうしは弱い分子間力でしか引き合わないので、CO2 は常温で気体です。

ケイ素は炭素より原子が大きく、Si と O の距離が長いため、酸素との二重結合が安定せず、4本の単結合を4個の O に向けます。O にはもう1本の手が残るので次の Si とつながり、この連鎖が三次元に広がった結果が SiO2 の網目で、高い融点と硬さはここから生まれます。

SiO2の補足:フッ化水素に溶け、水ガラスやシリカゲルの原料になる

網目全体が強い Si−O 結合でできた SiO2 は、塩酸や硫酸にはほとんど溶けません。例外がフッ化水素(HF)で、Si が O よりも F と強く結びつくため網目がほどけ、フッ化水素が少なければ四フッ化ケイ素の気体、多ければヘキサフルオロケイ酸が水溶液に残ります。

二酸化ケイ素とフッ化水素の反応
SiO2 + 4HF → SiF4 + 2H2O
SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O
SiF4:四フッ化ケイ素(気体) H2SiF6:ヘキサフルオロケイ酸(水に溶けて残る)。どちらの式も Si 1、O 2、H・F の数が両辺で一致します。

この反応は、ガラスへの目盛り刻みやつや消し、半導体ウェーハ上の酸化膜を溶かすエッチングに使われます。半導体の工程では、フッ化アンモニウムを加えて溶ける速さを一定に保つバッファードフッ酸(BHF)がよく使われます。

フッ化水素は毒物及び劇物取締法の毒物に指定されているので、工場では専用の設備と保護具で扱い、使ったあとの液も中和して処理します。

水ガラスは、フッ化水素ではなくアルカリとの反応でできます。けい砂(SiO2)を炭酸ナトリウムと融かすか、水酸化ナトリウムと加圧して反応させるとケイ酸ナトリウムになり、その濃い水溶液が水ガラスです。

二酸化ケイ素とアルカリの反応(水ガラスの原料になるケイ酸ナトリウム)
SiO2 + 2NaOH → Na2SiO3 + H2O
SiO2 + Na2CO3 → Na2SiO3 + CO2
工業製品の水ガラスは SiO2 と Na2O の比(モル比)の違いで号数が分かれ、JIS K 1408 で規格化されています。Na2SiO3 はモル比1の場合の代表的な式です。

水ガラスに酸を加えるとケイ酸がゲル状に固まり、これを洗って乾かすと、細かい孔が無数にある乾燥剤のシリカゲルになります。濃い水酸化ナトリウム水溶液がガラスをゆっくり侵すのも同じ反応で、すり合わせのガラス栓が固着しやすいため、保管にはポリエチレン容器やゴム栓が使われます。

イオン結晶・金属結晶も含めた4種類の結晶の比較

固体の結晶は、粒子をつなぐ結合の種類で共有結合の結晶・分子結晶・イオン結晶・金属結晶の4つに分けられます。融点・硬さ・電気の通り方を並べると、粒子の種類と結合の強さの違いがそのまま表れるので、材料の性質を予想する手がかりになります。

項目共有結合の結晶分子結晶イオン結晶金属結晶
粒子原子分子陽イオンと陰イオン金属の陽イオンと自由電子
結合共有結合分子間力イオン結合(静電気の引力)金属結合
元素の組み合わせ非金属(主に14族)非金属金属+非金属金属
融点の例Si 1,414℃ナフタレン 80℃NaCl 約801℃、アルミナ 約2,050℃鉄 1,538℃(水銀は常温で液体)
硬さ・変形非常に硬いが、たたくと割れるやわらかく、くだけやすい硬いが、たたくと割れる延ばしたり曲げたりできる
電気(固体)ほとんど通さない(黒鉛は通す、Si は半導体)通さない通さない通す
電気(融かしたとき・水溶液)−(融かしにくい)通さない通す通す(融けても)
代表例ダイヤモンド、SiO2ドライアイス、ヨウ素塩化ナトリウム、アルミナ鉄、銅、アルミニウム
融点は PubChem・CRC Handbook などの値。アルミナは資料により2,030〜2,070℃。硬さ・変形と電気は代表的な物質の一般的な傾向

イオン結晶は固体ではイオンが動けず電気を通しませんが、融かすとイオンが動き出して電気を通します。アルミナを融かして電解するアルミニウムの製錬はこの性質を利用したもので、融点を下げるために氷晶石に溶かしてから電気を流します。

塩化ナトリウムの融点は約801℃と高く、海水を蒸留しても水だけが蒸発して塩が残ります。水に溶けにくいイオン結晶が液の中で生じれば沈殿になり、分析や排水処理で金属イオンを取り除くのに使われます。

金属結晶は、自由電子が陽イオンの間を動き回ることで電気と熱をよく通し、原子の面がずれても結合が切れないので延ばしたり曲げたりできます。原子の並び方(面心立方・体心立方・六方最密構造)で加工のしやすさが変わり、別の元素を混ぜた合金にすると強さや融点も変わります。

同じ分子結晶の中でも融点には幅があり、分子が大きいほど、また水素結合があるほど高くなります。氷は H2O 分子が水素結合で集まった分子結晶で、分子が小さい割に0℃と融点が高めですが、それでも共有結合の結晶と比べれば桁違いに低い値です。

実際の工場では:共有結合の結晶を材料に使う

工場で共有結合の結晶が選ばれる理由は、網目がもたらす高い融点・硬さ・化学的な安定性と、原子が規則正しく並んだ単結晶ならではの電気的な性質です。同じ元素や組成でも、結晶か非晶質か、どの結晶構造かで用途がまったく変わるのが、この分野の特徴です。

図4:共有結合の結晶が使われる場所

電気を少しだけ通す性質、高い耐熱性と硬さ、規則正しい振動。網目の性質がそれぞれの用途を支えています。

シリコン単結晶LSI・メモリなど半導体チップの基板(ウェーハ)
炭化ケイ素(SiC)高い電圧を扱うパワー半導体、研磨材、耐熱部材
水晶・石英ガラス時計や通信機の振動子、半導体の炉芯管、レンズ
ダイヤモンド非鉄金属やセラミックスを削る切削工具、研削砥石

※SUMCO 有価証券報告書、三菱電機「SiCレクチャーシリーズ」、村田製作所「人工水晶の育成方法」、英興「石英ガラス資料」、理化学研究所(2009年)の記述をもとにまとめたものです。

半導体のシリコン単結晶

半導体チップの基板には、結晶全体の原子の向きがそろったシリコンの単結晶が使われます。SUMCO の有価証券報告書によると、結晶炉の中の高純度の石英ルツボで多結晶シリコンを融かし、時間をかけて単結晶を成長させながら引き上げて、円柱形のインゴットをつくります。

この引き上げ法(チョクラルスキー法、CZ法)では、融液に種結晶を浸し、るつぼと種結晶を回転させながらゆっくり引き上げます。融点1,414℃のシリコンを、融点がさらに高い SiO2 の石英ガラスの器で融かす点にも、共有結合の結晶どうしの組み合わせが生きています。

インゴットは厚さ1 mm 以下にスライスされ、研削・研磨・洗浄を経て鏡面のウェーハになり、口径は100 mm から300 mm まで世代ごとに大きくなってきました。ここから先の回路づくりは、半導体の前工程で行われます。

SiCパワー半導体

炭化ケイ素(SiC)は、Si と C が交互に共有結合した網目の結晶で、Si の約10倍の絶縁破壊電界強度(電気を通さずに耐えられる電界の強さ)をもちます。同じ耐圧なら半導体の層を薄くできるので電気抵抗が下がり、電気自動車や鉄道のインバーターに使うパワー半導体の損失を減らせます。

一方で SiC は、常圧では Si:C = 1:1 の融液ができないため、シリコンのように融かして引き上げることができません。三菱電機の解説によれば、黒鉛のるつぼの中で原料を2,000〜2,500℃に保って昇華させ、少し温度の低い種結晶の上に再び結晶させる昇華法が主流です。

昇華法は融液から引き上げる方法より成長が遅く、結晶の中に転位(原子の並びの乱れ)が残りやすいことが課題とされ、これが SiC ウェーハが高価な理由の1つです。硬さと耐熱性を生かした研磨材や耐熱部材としての使い方は、ファインセラミックスの種類と用途で詳しく整理しています。

水晶振動子と石英ガラス:同じSiO2で結晶と非晶質

同じ SiO2 でも、原子が規則正しく並んだ結晶が水晶(石英)、並びに規則性のない非晶質(ガラス状態)が石英ガラスで、工場ではまったく違う役目をもちます。水晶は電圧をかけると決まった周波数で振動する圧電性をもち、時計や通信機器の振動子として基準の周波数をつくります。

振動子用の水晶は人工的に育てます。村田製作所の解説では、オートクレーブと呼ばれる圧力容器にアルカリ溶液を入れて高温・高圧にする水熱合成法が使われています。下部で溶けた原料が対流で上部へ運ばれ、温度の低い種結晶の上に析出して育ちます。

わざわざ水熱合成で育てるのは、水晶の結晶構造が573℃を境に変わり、振動子に使う低温型(α-石英)は573℃を超えない条件で育てる必要があるからです。融液から育てる方法では、この低温型の結晶が得られません。振動の周波数が温度で変わる性質を逆に利用したのが水晶温度計で、わずかな温度差を周波数の変化として読み取ります。

石英ガラスは熱膨張係数が約5×10−7/℃と極めて小さく、急に熱しても割れにくいうえ、純度が高く不純物を出しにくい材料です。そのため半導体の熱処理に使う炉芯管やウェーハを載せるボート、露光装置のレンズ、光ファイバーなどに使われています。

ダイヤモンド工具

ダイヤモンドは、炭素原子が正四面体の向きに共有結合でつながった網目で、天然の物質の中で最も硬く、切削工具や研削砥石の刃先に使われます。アルミニウム合金や銅などの非鉄金属、セラミックス、ガラスを削るときに、刃先が摩耗しにくく、仕上げ面がきれいに保てます。

ただし鉄鋼の切削には向きません。理化学研究所の発表によると、鉄系の材料は削るときに熱を多く出し、摩耗と化学的な反応でダイヤモンドの刃先が著しく消耗するためです。

鉄鋼には、ダイヤモンドに次ぐ硬さで熱に強い立方晶窒化ホウ素(cBN)の工具が使われます。工具を取り付ける側の旋盤や研削盤などの工作機械と合わせて選ばれます。

実際の工場では:分子結晶の昇華と結晶形を管理する

保冷手袋でドライアイスのブロックを発泡スチロール箱に詰める手元

分子結晶を扱う工場で問題になるのは、分子間力が弱いことから来る性質です。低い温度で昇華すること、同じ分子でも並び方の違う結晶(結晶多形)ができることの2つは、精製や保管、医薬品の品質管理にそのまま関わります。

昇華を使う精製:有機EL材料とヨウ素

分子結晶は融点より低い温度でも少しずつ気体になるので、真空の中で温めて気体にし、温度の低い場所で再び結晶させると、気体にならない不純物を残して精製できます。これが昇華精製で、溶媒に溶けにくく再結晶で精製しにくい材料にも使えるのが利点です。

有機ELのディスプレイに使う発光材料は、真空蒸着で膜にするので、昇華精製で金属不純物や残った溶媒を取り除いてから使われます(福井キヤノンマテリアルの解説)。

ヨウ素も昇華しやすい代表的な分子結晶で、日本は国内のガス田のかん水から2025年に約9,000トンを生産し、チリに次ぐ世界2位です(米国地質調査所)。X線造影剤や液晶ディスプレイの材料、医薬品などに使われます。

ドライアイス:常圧では液体にならない二酸化炭素

ドライアイスは CO2 の分子結晶で、常圧では −78.5℃ で固体から直接気体になります。液体の CO2 が存在できるのは三重点の圧力0.518 MPa(約5気圧)以上のときだけなので、大気中では融けて水たまりにならず、白い煙を出しながら消えていきます。

図5:二酸化炭素の状態図(模式図)

常圧(0.1 MPa)の線は固体と気体の境目にしか当たらないので、ドライアイスは液体を経ずに昇華します。

固体液体気体三重点 −56.6℃・0.518 MPa昇華点 −78.5℃(常圧)常圧 0.1 MPa臨界点へ温度 →圧力 →

※目盛りは実際の比率ではありません。値は NIST の物性値(三重点 216.58 K、常圧の昇華点 194.7 K)によります。

原料の CO2 は、石油精製やアンモニア製造の工程で副生するガスを精製・液化したものです。一般的には、液化炭酸ガスの圧力を三重点より下げると一部が気化して熱を奪い、残りが雪のような固体になるので、それをプレス機で固めてブロックやペレットにします。

日刊工業新聞(2019年)は、製油所やアンモニアプラントの統廃合で原料が減り、液化炭酸ガスとドライアイスの需給がひっ迫していると伝えています。二酸化炭素の検出や工場での使い方と合わせると、同じ CO2 が気体・液体・固体で別々の製品になっていることが分かります。

医薬品の結晶多形と品質管理

医薬品の有効成分(原薬)の多くは有機化合物の分子結晶で、同じ分子でも結晶の中での並び方が違う「結晶多形」をとるものがあります。並び方が違えば溶けやすさや安定性も変わるため、化学的には同じ物質でも、薬としての効き方が変わるおそれがある点が問題になります。

日米欧の医薬品規制の調和指針 ICH Q6A は、新しい原薬について結晶多形、溶媒和物・水和物、非晶質の有無を調べ、製品の品質や性能に影響するなら規格を設けて管理するよう求めています。

調べる方法としては、融点、固体の赤外吸収、粉末X線回折、DSC などの熱分析、ラマン分光、顕微鏡などが挙げられています。製剤の中の結晶形は直接測りにくいため、溶出試験などで性能の変化を見張るのが一般的です。

よく知られた例が抗 HIV 薬のリトナビルで、発売から約2年後の1998年に、それまで知られていなかった安定な結晶形(Form II)が現れました。

Form II の溶解度は従来の結晶形の半分に満たず、カプセルが溶出試験の規格を外れて市場から回収され、製剤を作り直すことになりました(米国科学アカデミー紀要、2003年)。

この事例以降、製薬会社は開発の早い段階で多くの溶媒や条件で結晶をつくり、現れうる結晶形を洗い出しておくようになりました。製造では晶析の条件をそろえ、保管中にも結晶形が変わらないかを確かめる仕組みが、医薬品メーカーの品質管理の柱の1つになっています。

結晶の種類を確かめる分析:X線回折・融点測定・DSC

見た目や化学式では分からない結晶の違いは、分析装置で確かめます。工場の品質管理や研究所でよく使われるのは、原子の並びを見るX線回折(XRD)、融ける温度を測る融点測定、熱の出入りを測る示差走査熱量測定(DSC)の3つです。

X線回折では、原子が3次元に規則正しく並んだ結晶なら鋭いピークがいくつも現れ、液体や非晶質なら「ハロー」と呼ばれる幅の広い山しか出ません。リガクジャーナルの基礎講座によると、測ったパターンをデータベースと照らし合わせて結晶相を決め、同じ組成の結晶多形も区別できます。

そのため、同じ SiO2 でも水晶(α-石英)と石英ガラスは一目で見分けられ、医薬品の原薬がどの結晶形かも確かめられます。ピークの位置から面の間隔を求める計算は、六方最密構造の記事で計算例つきで紹介しています。

図6:X線回折とDSCで見える結晶と非晶質の違い

結晶は鋭いピークと決まった温度での融解、非晶質は幅の広い山とガラス転移の段差として現れます。

X線回折(XRD)示差走査熱量測定(DSC)結晶(水晶):鋭いピーク非晶質(石英ガラス):ハロー回折角 2θ →融点で吸熱のピーク(結晶の融解)ガラス転移で段差(非晶質)温度 →

※形を比べるための模式図で、ピークの位置・数・大きさは実際の測定値ではありません。DSC は吸熱を下向きに描いています。

融点測定は、分子結晶の原薬や中間体を受け入れるときの基本の検査で、決まった温度で鋭く融けるかどうかで結晶形や純度の目安になります。不純物を含むと融け始めが低く、融ける幅が広がるので、規格の融点範囲と比べて異常を見つけます。

DSC は、試料と基準物質を同じように温めながら熱の出入りを測る方法で、日本分析機器工業会の解説では融解・結晶化・ガラス転移を観測できます。結晶なら融点で吸熱のピーク、非晶質ならガラス転移温度でベースラインの段差が出るので、結晶多形や非晶質の混ざり具合を調べられます。

こうした分析は、材料メーカーの出荷検査や受入れ側の品質保証の仕事で、ロットごとに結晶の状態が変わっていないかを確かめる手段になっています。共有結合の結晶は融点が高すぎて融点測定に向かないので、主に X線回折で結晶相を確かめます。

共有結合の結晶と分子結晶のよくある質問

黒鉛は電気を通すのに共有結合の結晶ですか?

はい、共有結合の結晶です。黒鉛では炭素原子が3本の共有結合で平面の網目をつくり、残りの電子が層の中を動けるので電気を通します。層どうしは弱い分子間力で重なっているだけなので、はがれやすく、鉛筆の芯や潤滑材に使われます。

氷は分子結晶ですか?

氷は H2O 分子が水素結合で集まった分子結晶です。水素結合は分子間力の中では強いので、分子の大きさの割に融点が0℃と高めですが、融けても分子の中の O−H 結合は切れません。

ゲルマニウムや窒化ホウ素も共有結合の結晶ですか?

どちらも共有結合の結晶です。ゲルマニウムはダイヤモンドと同じ形の網目をつくる半導体で、立方晶の窒化ホウ素(cBN)はダイヤモンドに次ぐ硬さをもち、鉄鋼を削る工具に使われます。

分子結晶でも物質によって融点が違うのはなぜですか?

分子間力の強さが違うからです。分子が大きく電子が多いほどファンデルワールス力が強くなり、水素結合があるとさらに強くなるので、CO2 は −78.5℃ で昇華するのに対し、ナフタレンは80℃、ヨウ素は114℃ で融けます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 共有結合の結晶は原子が共有結合で1つの網目につながった結晶、分子結晶は分子が分子間力で集まった結晶
  • 見分けるには代表例(ダイヤモンド・黒鉛・Si・SiC・SiO2)を押さえ、迷ったら融点・硬さ・X線回折で確かめる
  • SiO2 は分子式ではなく組成式で、Si が4個の O と単結合し、O を共有しながら立体の網目をつくる
  • SiO2 はフッ化水素に溶けて SiF4・H2SiF6 になり、アルカリとの反応で水ガラスの原料になる
  • 工場ではシリコン単結晶・SiC・水晶・石英ガラス・ダイヤモンド工具に網目の性質が生き、分子結晶では昇華精製やドライアイス、医薬品の結晶多形の管理が課題になる

共有結合の結晶と分子結晶の違いは、化学式の見た目ではなく、原子どうしがどこまでつながっているかで決まります。同じ組成でも構造が変われば性質が変わることは、半導体から医薬品まで、材料を選び品質を守るときの共通の考え方です。

材料の性質が製品でどう使い分けられているかは、材料技術の基本や、酸化物の高温での反応を扱ったテルミット反応とレール溶接とあわせて読むと、結晶の種類と工場の工程とのつながりをつかみやすくなります。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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