六方最密構造の密度・充填率・配位数の求め方|hcp金属の加工性とXRD

軽金属の薄板コイルを巻き戻しながら圧延する工場の圧延機

六方最密構造(hcp)は、同じ大きさの球を平面にすき間なく並べた層を、1層おきに同じ位置へ積み重ねた結晶構造です。単位格子の原子は2個、配位数(接する原子の数)は12、充填率は74%で、高さと底辺の比 c/a の理想値は1.633です。

マグネシウム、チタン、亜鉛、コバルトなど身近な金属の多くがこの構造をとり、原子がすべって形を変えられる向きが限られることが、加工のしやすさや熱処理の条件に表れます。計算で求める値は、材料の密度の確認やX線回折(XRD)の読み取りにもそのまま使えます。

この記事では、原子を並べて構造を組み立てたあと、原子数・配位数・一辺と半径の関係・密度・充填率の求め方を式で整理し、立方最密構造との違いを積み方で比べます。後半では、六方最密構造をとる金属の加工の難しさと工場での対策、XRDで結晶構造を確かめる方法を見ていきます。

目次

六方最密構造とは?12個の原子に囲まれた最密構造

六方最密構造は、正六角柱の頂点と上下の面の中心に原子があり、柱の中ほどにさらに3個の原子が入った形をしています。どの原子も周りの12個と接していて、同じ大きさの球をこれ以上すき間なく詰めることはできないため、「最密構造」と呼ばれる2種類の詰め方の1つです。

もう1つの最密構造が立方最密構造で、これは面心立方格子と同じものです。どちらも配位数は12、充填率は74%で、違いは原子の層をどの順番で積むかだけにあります。結晶学では六方最密構造の対称性を空間群 P63/mmc と表し、マグネシウムがその代表例として扱われます。

図1:六角柱と単位格子

六角柱全体には原子が6個入り、計算に使う単位格子はその3分の1にあたるひし形の柱(原子2個)です。

六角柱(原子6個)単位格子(原子2個)頂点 1/6 × 12 = 2上下の面の中心 1/2 × 2 = 1柱の内部 3合計 6色付きのひし形の柱=六角柱の1/3頂点 1/6 × 4 + 1/12 × 4 = 1内部 1 → 合計 2

※白丸は頂点、薄い青は上下の面の中心、濃い青は柱の内部の原子です。原子は実際には隣どうし接していますが、位置が分かるように小さく描いています。

六方最密構造を順を追って組み立てる

六方最密構造は、球を1層ずつ積んでいくと自然にできあがります。教科書の六角柱の図だけを見ると複雑に見えますが、平面に並べる、くぼみに置く、の2つの操作をくり返すだけなので、順番に組み立てると原子どうしの位置関係がつかみやすくなります。

1個の原子を取り囲むように平面に原子を並べる

まず、1個の原子の周りに6個の原子をすき間なく並べ、7個で正六角形をつくります。これを平面いっぱいに広げた層が、最も密に並んだ原子の平面で、この層を「A層」と呼ぶことにします。

中心の原子の周りを見ると、隣り合う3個の原子に囲まれた小さなくぼみが6か所できています。次の層の原子は、このくぼみに落ち込むように置くと最も低い位置に収まり、層どうしもすき間なく重なります。

6か所のくぼみのうち3か所に原子を置く

2層目の原子は、6か所のくぼみすべてには置けません。隣り合うくぼみどうしは原子の直径より近い距離にあるため、片方に置くともう片方には入らず、1つおきの3か所にだけ原子が収まります。こうしてできた2層目を「B層」と呼びます。

3層目を、1層目(A層)の真上の位置に戻して積むと、ABAB…という順のくり返しになり、これが六方最密構造です。A層の中心の原子から見ると、同じ層に6個、上のB層に3個、下のB層に3個の原子が接しています。

図2:A層・B層・C層の重ね方(上から見た図)

B層はくぼみの1つおきに乗り、3層目をA層の真上に戻すと六方最密構造、残りのくぼみ(C)に置くと立方最密構造になります。

ABBBCCCA層:最初に並べた平面(薄い丸)B層:くぼみ1つおきの3か所(青い丸)C:B層が乗らなかったくぼみ(点線)3層目をAの真上 → ABAB… = 六方最密構造3層目をCの位置 → ABCABC… = 立方最密構造

※B層の原子は実際にはA層と同じ大きさですが、くぼみの位置が分かるように小さく描いています。B層をCの位置に置いても同じ形になるので、違いが出るのは3層目からです。

六方最密構造の単位格子の計算まとめ

結晶のくり返しの最小単位が単位格子で、六方最密構造では正六角柱ではなく、その3分の1にあたる底面がひし形の柱が単位格子になります。六角柱は単位格子を3つ並べたもので、密度や充填率は計算しやすい六角柱で求めても答えは同じです。

求める値と答えを先に並べると、次の5つになります。

  • 単位格子内の原子数:2個(六角柱では6個)
  • 配位数:12
  • 原子半径 r と単位格子の一辺 a の関係:a = 2r(理想の高さは c = 1.633a)
  • 密度:ρ = M ÷(4√2 NA r3)(M はモル質量、NA はアボガドロ定数)
  • 充填率:π ÷(3√2)≒ 0.74(74%)

単位格子内の原子数

ひし形の柱の頂点8か所のうち、角度が120°の頂点4か所には原子の6分の1、60°の頂点4か所には12分の1が入っています。

頂点の原子は、そのまわり360°のうち柱が占める角度の割合(120°なら3分の1、60°なら6分の1)を、さらに上下で半分に分けた量だけ柱の中に含まれるからです。

単位格子(ひし形の柱)の原子数
16 × 4(120°の頂点) + 112 × 4(60°の頂点) + 1(内部) = 2個
六角柱(単位格子3つ分)の原子数
16 × 12 + 12 × 2 + 3 = 6個
六角柱の頂点の原子は6つの六角柱で、上下の面の中心の原子は2つの六角柱で分け合います。柱の内部の3個はまるごと数えます。6 ÷ 3 = 2 で、2つの数え方の答えは一致します。

配位数

配位数は、1個の原子に接している原子の数です。上下の面の中心にある原子に注目し、その六角柱の上にもう1つ六角柱を重ねて考えると、同じ層に6個、上の層に3個、下の層に3個で合計12個の原子が接していることが分かります。

六方最密構造の配位数
6(同じ層) + 3(上の層) + 3(下の層) = 12
六角柱1つだけでは、面の中心の原子の片側しか見えません。六角柱を2つ重ねると、上下両側の3個ずつが見えて数えやすくなります。面心立方格子の配位数も、単位格子を並べて数えると同じ12になります。

原子半径と単位格子の一辺の長さの関係

底面の正六角形では、中心の原子と頂点の原子が接しています。単位格子の一辺 a は隣り合う原子の中心どうしの距離なので、原子半径を r とするとa = 2rです。

底面で隣り合う原子が接している
a = 2r
a:単位格子の一辺(底面の六角形の一辺) r:原子半径。高さ c は次の「密度」で正四面体から求めます。

密度

密度は「質量 ÷ 体積」で、単位を g/cm3 にそろえれば、分子に原子の質量、分母に体積を入れるだけで求まります。手間がかかるのは六角柱の高さで、真ん中の層の原子と上下の層の原子がつくる正四面体の高さの2倍が六角柱の高さになります。

正四面体の頂点を A、底面の正三角形を BCD とし、A から底面に下ろした垂線の足を H とします。H は正三角形 BCD の重心なので、頂点 D と辺 BC の中点 M を結ぶ線を2:1に分ける点で、ここから三平方の定理で高さ AH が求まります。

図3:高さを求める正四面体

一辺2rの正四面体の高さ AH を三平方の定理で求め、2倍すると六角柱の高さ c になります。

ABCDHM2rAH正四面体の一辺 = 2r六角柱の高さ c = 2 × AHDM = √3 r(正三角形の高さ)DH = DM × 2/3 = 2√3 r/3AH = 2√6 r/3 ≒ 1.633rc = 4√6 r/3 ≒ 3.27rc/a = √(8/3) ≒ 1.633

※正四面体の4つの頂点は、真ん中の層の原子1個と、その上(または下)の層で接する3個の原子の中心です。

正四面体の高さ AH(三平方の定理)
DH = 23 × √3 r = 2√3 r3
AH2 = (2r)2 − (2√3 r)29 = 4r2 − 4r23 = 8r23
AH = 2√6 r3
六角柱の高さと c/a
c = 2 × AH = 4√6 r3 ≒ 3.27r
ca = 4√6 r ÷ 32r = 2√63 = √(8/3) ≒ 1.633
DM は一辺2rの正三角形の高さで √3 r。√(8/3) = 1.63299… で、これが理想の六方最密構造の c/a です。

底面の正六角形は、一辺2rの正三角形6つに分けられます。正三角形1つの面積は √3 r2 なので、六角形は 6√3 r2 になり、これに高さを掛けると六角柱の体積が出ます。

六角柱の体積(底面積 × 高さ)
底面積 = 6 × √34 × (2r)2 = 6√3 r2
V = 6√3 r2 × 4√6 r3 = 8√18 r3 = 24√2 r3(≒ 33.9r3)
六角柱の質量と密度(理想の六方最密構造)
質量 = 6 × MNA[g]
ρ = 6M ÷ NA24√2 r3 = M4√2 NA r3[g/cm3]
M:モル質量[g/mol] NA:アボガドロ定数 6.022×1023/mol r:原子半径[cm]。√18 = 3√2 です。単位格子1つ(原子2個、体積 8√2 r3)で計算しても同じ式になります。

実在の金属では c/a が1.633からずれるため、密度の確認には測定した格子定数 a と c をそのまま使うのが確実です。ひし形の単位格子の体積は (√3/2)a2c で表せるので、マグネシウムで計算すると資料の値1.74 g/cm3とよく合います。

計算例:マグネシウムの格子定数から密度を求める
V = √32 a2c = 0.8660 × (0.32094 nm)2 × 0.52108 nm = 0.04648 nm3
0.04648 nm3 = 0.04648 × 10−21 cm3 = 4.648 × 10−23 cm3
質量 = 2 × 24.305 g/mol6.022 × 1023/mol = 8.072 × 10−23 g
ρ = 8.072 × 10−23 g4.648 × 10−23 cm3 ≒ 1.74 g/cm3
a・c は室温付近の測定値(WebElements が引く Walker & Marezio、1959年)。1 nm = 10−7 cm なので 1 nm3 = 10−21 cm3。理想の式で r = a/2 = 0.1605 nm とすると約1.73 g/cm3となり、実際の c(0.5211 nm)が理想値(0.5241 nm)より少し短い分だけ小さく出ます。

充填率

充填率は、結晶の体積のうち原子そのものが占める割合です。分母の六角柱の体積は密度の計算で求めた 24√2 r3 をそのまま使え、分子は原子6個分の球の体積なので、r3 が打ち消し合って原子の大きさによらない定数になります。

六方最密構造の充填率
6 × 43πr324√2 r3 = 8π24√2 = π3√2 ≒ 0.740 = 約74%
π ÷ (3 × 1.4142) = 3.1416 ÷ 4.2426 = 0.7405。面心立方格子でも、原子4個・一辺 2√2 r から同じ π/(3√2) になります。残りの約26%が原子の間のすき間です。

六方最密構造と立方最密構造の違い

2つの最密構造は、1層目(A層)と2層目(B層)の並べ方までまったく同じです。違いは3層目をどこに置くかで、A層の真上に戻すか、まだ使っていないくぼみ(C)の上に置くかで構造が分かれます。

六方最密構造の場合(ABAB…)

六方最密構造では、3層目の原子を1層目と同じ位置に置き、A→B→A→B…と2層の周期でくり返します。真上から見ると、A層の原子の上には1層おきに同じ位置の原子が並び、図2のCの位置は上から下まで原子のない通り道として残ります。

立方最密構造の場合(ABCABC…)

立方最密構造では、3層目をB層が乗らなかったくぼみ(C)の上に置き、A→B→C→A→B→C…と3層の周期でくり返します。この積み重ねを斜めの向きから切り直すと、立方体の頂点と各面の中心に原子がある面心立方格子の形が現れます。

面心立方格子をとる金属の代表は、融解塩電解でつくるアルミニウムや電解精錬で仕上げる銅です。どちらも最密の層が4つの向きにあるため、どの方向から力を加えても原子がすべりやすく、薄い板や細い線に延ばしやすい金属として知られています。

計算を楽にする考え方:面心立方格子と同じ値になる理由

六方最密構造の密度や充填率を、面心立方格子の式で求めても答えは同じになります。どちらも同じ最密の層を同じすき間で積んでいて、違うのは3層目の横の位置だけなので、原子1個あたりが占める体積が等しいからです。

面心立方格子の式で密度を求める(原子4個、一辺 a′ = 2√2 r)
ρ = 4M ÷ NA(2√2 r)3 = 4M16√2 NA r3 = M4√2 NA r3
(2√2)3 = 16√2。六方最密構造の式 M ÷ (4√2 NA r3) と一致します。原子1個あたりの体積はどちらも 4√2 r3 です。

ただし、同じになるのは配位数・充填率・密度(原子1個あたりの体積)までで、単位格子の形や原子数、一辺の長さは違います。答えの確かめには便利ですが、六方最密構造の単位格子を問われたら、ひし形の柱・原子2個・a = 2r で答える必要があります。

この置き換えが成り立つのは原子が理想どおりに接している場合だけです。次の章で見るように、実在の金属は c/a が1.633からずれるので、密度を正確に求めるときは測った格子定数を使います。

六方最密構造をとる金属:マグネシウム・チタン・亜鉛・コバルト

六方最密構造(Mg型)をとる金属には、マグネシウム、チタン(室温のα相)、亜鉛、コバルトのほか、ベリリウム、ジルコニウム、カドミウムなどがあります。実在の金属の c/a は理想値の1.633ぴったりにはならず、原子が球として接しているという仮定から少しずつずれています。

金属a(nm)c(nm)c/a格子定数から求めた密度(g/cm3)資料の密度(g/cm3)
マグネシウム0.32090.52111.6241.741.74
チタン(α相)0.29510.46861.5884.504.51
亜鉛0.26650.49471.8567.14−
コバルト0.25070.40701.6238.84−
(理想の六方最密構造)2r3.266r1.633−−
格子定数は室温付近の測定値(WebElements、各元素の原著文献)。密度は単位格子(原子2個)で計算した値。資料の密度は物質・材料研究機構(マグネシウム)、日本チタン協会(純チタン)による

マグネシウムとコバルトはほぼ理想に近く、チタンは c が短めで、亜鉛は c が長く層の間が広がっています。c/a が違うと、どの面で原子がすべりやすいかが変わるため、同じ六方最密構造でも金属ごとに加工のしやすさが違う理由の1つになります。

図4:六方最密構造をとる主な金属と使われ方

軽さのマグネシウム、強さと耐食性のチタン、さび止めの亜鉛、電池と工具のコバルトと、用途は幅広く分かれます。

マグネシウム実用金属で最も軽い(1.74 g/cm³)。車両の軽量化部材、制振材
チタン航空機のエンジン・機体、化学プラントの熱交換器、人工骨
亜鉛鋼材のさびを防ぐめっき、ダイカスト部品
コバルトリチウムイオン電池の正極材、特殊鋼、超硬工具

※物質・材料研究機構(2017年)、産業技術総合研究所(2013年)、日本チタン協会「チタンの用途」、JOGMEC「鉱物資源マテリアルフロー(銅・ニッケル・コバルト・リチウム)」の記述をもとにまとめたものです。

亜鉛は、鋼材の表面を覆って先に溶けることで鉄を守るトタンの亜鉛めっきに多く使われ、亜鉛合金のダイカスト部品にもなります。

コバルトは純金属の部品としてより、ほかの材料の原料として使われます。エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の資料は、コバルト地金や硫酸コバルトが、リチウムイオン電池の正極材や特殊鋼・超硬工具になる流れを示しています。

マグネシウムやチタンは、ほかの元素を加えた合金として使われるのが普通です。合金元素は強さを上げるだけでなく、どの温度でどの結晶構造が安定するかも変えるため、次の章のチタンのα相・β相のように、加工や熱処理の条件を決める材料設計の土台になっています。

実際の工場では:hcp金属が冷間加工しにくい理由と温間加工

鍛造したチタン合金のブラケットを定盤の上で検査する手元

金属を曲げたり延ばしたりできるのは、結晶の中で原子の面がずれる「すべり」が起こるからです。圧延・プレス・鍛造といった塑性加工の難しさは、すべりやすい面と方向の組み合わせ(すべり系)がいくつあるかに大きく左右されます。

ただし、加工のしやすさは結晶構造だけでは決まりません。温度、合金の組成、結晶の向きのそろい方(集合組織)、加工の方法によっても変わり、同じ六方最密構造でも、マグネシウムと亜鉛は室温で割れやすく、チタンは冷間で曲げ加工ができます。

すべり系の数で比べる面心立方・体心立方・六方最密

面心立方格子では、最密の面({111}面)が4つの向きにあり、それぞれに3つのすべり方向があるので、すべり系は12通りあります。

これに対して六方最密構造では、マグネシウムや亜鉛のように c/a が大きい金属は、室温で主に働くのが底面に沿った1組の面だけで、すべり系は3つにとどまります。

図5:すべる面の数で比べる

六方最密構造は底面の1組だけ、面心立方格子は向きの違う最密の面が4組あり、力の向きに合う面を選べます。

六方最密構造面心立方格子底面の1組 × 3方向 = 3{111}面 4組 × 3方向 = 12

※図の右は4組あるうちの1つの面だけを描いています。六方最密構造でも、高い温度では柱面や錐面のすべりが加わります。

多結晶の金属が割れずに大きく形を変えるには、向きのばらばらな結晶粒が、それぞれ周りの粒に合わせていろいろな方向へ変形できる必要があります。すべり系が少ないと、c 軸(六角柱の高さ方向)へ縮んだり伸びたりする変形を担える仕組みが足りず、変形しきれない粒の境目から割れが入ります。

項目面心立方格子(立方最密)体心立方格子六方最密構造
配位数12812
単位格子の原子数422(六角柱では6)
充填率74%68%74%
原子の層の積み方ABCABC…最密の層をもたないABAB…
主なすべり系の数12({111}面×3方向)12({110}面。{112}・{123}面も数えると48)3(底面。マグネシウム・亜鉛で室温に主に働く)
代表的な金属アルミニウム、銅、ニッケル、オーステナイト系ステンレス室温の鉄、クロム、モリブデン、タングステンマグネシウム、チタン(α相)、亜鉛、コバルト
室温での加工の傾向延ばしやすく、深絞りや細線にしやすい鋼板のプレスなどで広く加工されるマグネシウム・亜鉛は割れやすく、温めて加工することが多い
すべり系の数は NPTEL(インド工科大学の公開講義)による。充填率は計算値。加工の傾向は代表的な純金属・合金での一般的な傾向で、合金の組成や板の集合組織で変わる

鉄は室温では体心立方格子ですが、約910℃を超えると面心立方格子に変わり、この性質が焼入れなどの鋼の熱処理の土台になっています。高炉でつくった鉄にニッケルを加えて室温でも面心立方格子を保つのが、SUS304などのオーステナイト系ステンレスです。

マグネシウム合金の温間プレスと圧延

産業技術総合研究所の解説によると、マグネシウムの室温成形性が低いのは結晶構造のためで、底面に沿った a 軸方向の変形(底面すべり)は容易でも、c 軸方向への変形は困難です。

しかも、ふつうに圧延した板では結晶の c 軸が板面に垂直にそろう集合組織ができるため、板の厚み方向の変形を担う底面すべりが働かなくなり、室温のプレスで割れやすくなります。

そこで工場では、金型と板材を加熱してプレスする温間プレス成形が使われます。同じ解説は、汎用のマグネシウム合金は250℃以上に加熱すると延性が出て温間プレスが有効になる一方、制振用の合金はそうならないことを課題に挙げています。

素材の側からの対策として、産総研は約500℃の熱処理と約200℃の温間圧延をくり返し、底面のそろい方を弱めた板をつくりました。室温のエリクセン値(板を球で押し広げて割れるまでの深さ)は、高温圧延材の3.1 mmから7.9 mmに高まっています。

この値はアルミニウム合金に迫る室温成形性とされ、アルミ合金の板と同じように、マグネシウムの板を室温でプレスする道が探られています。

物質・材料研究機構は2017年、マンガンを微量加えたマグネシウム合金を約200℃で押し出して結晶粒を5μm以下に細かくし、室温で圧縮しても急に割れず蛇腹状に変形する材料を発表しました。

市販のAZ31(Mg-3Al-1Zn)が斜めに割れるのに対し、開発材が壊れるまでに吸収するエネルギーは3倍以上でした。結晶粒どうしがすべり合う粒界すべりを、ふつうは高温でしか起きないところ、室温で起こしやすくしたのが特徴です。

チタンのα相とβ相:温度で結晶構造が変わる

純チタンは、882℃より低い温度では六方最密構造のα相、高い温度では体心立方格子のβ相になります。鉄の約910℃の変態と同じように、温度で結晶構造が入れ替わる同素変態で、熱間鍛造や熱処理の温度をこの変わり目の上にとるか下にとるかで、冷えたあとの組織と性質が変わります。

合金の分類は、室温でどちらの相が主になるかで決まります。日本チタン協会の一覧では、5Al-2.5Sn などのα合金、最も汎用的な6Al-4V(JIS 60種)などのα-β合金、22V-4Al(JIS 80種)などのβ合金に分かれています。

同じ一覧で、体心立方格子のβ合金には「冷間加工性」が特長として挙げられています。すべり系の多い体心立方格子を室温まで残すことで、六方最密構造のα合金より冷間で形をつくりやすくしているわけです。

一方でチタン材料は、六方最密構造でも曲げや絞りが比較的容易とされ、日本チタン協会によると成形性はSUS304とSUS430のほぼ中間です。c/a が1.588と小さいチタンでは、底面だけでなく柱面に沿ったすべりも働くことが背景にあります。

ただしスプリングバック(曲げた後の戻り)が大きく工具とかじりやすいので、成形速度を下げたり潤滑剤を使ったりします。冷間で難しい形状は、500〜600℃の熱間加工で成形します(日本チタン協会)。

切削でも、チタンは熱が刃先にこもって焼付きやすいので、切削速度を遅くし、切削剤で十分に冷やします。航空機のエンジン部品や機体の構造材に使われ、航空宇宙の部品メーカーでは、切削の手間を減らすために金属3Dプリンターでチタン合金の部品を造形する例も増えています。

X線回折(XRD)で結晶構造を確かめる

工場や研究所で結晶構造を確かめるときに使うのがX線回折(XRD)です。材料の品質管理で知りたいのは、主にどの結晶相が入っているか(相の同定)、チタンのα相とβ相の割合、板の結晶の向きのそろい方(集合組織)の3つで、どれも回折ピークの位置と強さから読み取ります。

X線を結晶に当てると、平行に並んだ原子の面で散乱した波が、ある角度でだけ強め合います。日本分析機器工業会の解説では、隣の面との行路差 2d sinθ が波長の整数倍になる条件がブラッグの公式で、回折角2θと強さを測ると回折パターンが得られます。

ブラッグの公式
2d sinθ = nλ
六方晶の面間隔(面指数 hkl)
1d2 = 43 × h2 + hk + k2a2 + l2c2
d:格子面の間隔 θ:ブラッグ角(2θ が回折角) λ:X線の波長 n:整数(ふつう1)。a・c は格子定数です。

α-チタンの格子定数を使い、実験室の装置で一般的な銅のKα1線で回折角を計算すると、底面に平行な(002)面のピークは38.4°付近に出ます。同じ手順で各面を計算すると図6のようになり、結晶ごとにピークの並び方が変わります。

たとえば c/a の大きい亜鉛では、(002)が36.3°、(100)が39.0°と計算でき、チタンとは(002)と(100)の順番が入れ替わります。c/a の違いが、回折パターンにもはっきり表れるわけです。

計算例:α-チタンの(002)面と(100)面の回折角(Cu Kα1、λ = 0.15406 nm)
(002):d = c2 = 0.46855 nm2 = 0.23428 nm
sinθ = 0.154062 × 0.23428 = 0.3288 → θ = 19.20° → 2θ ≒ 38.4°
(100):d = √32 a = 0.8660 × 0.29508 nm = 0.25555 nm
sinθ = 0.154062 × 0.25555 = 0.3014 → θ = 17.54° → 2θ ≒ 35.1°
a = 0.29508 nm、c = 0.46855 nm(室温、Pawar & Deshpande、1968年)。(100)は h = 1、k = l = 0 を面間隔の式に入れると 1/d2 = 4/(3a2) になります。温度や合金元素で格子定数が変わると、ピークも少しずれます。

図6:α-チタンの回折ピークの位置(計算値)

格子定数とブラッグの公式から、どの角度にピークが出るかを予想できます。実測のパターンをこの位置と照らし合わせます。

30°40°50°60°70°80°回折角 2θ(Cu Kα1)(100)(002)(101)(102)(110)(103)(112)35.1°38.4°40.2°53.0°62.9°70.6°76.2°

※棒の位置だけを示した計算値で、棒の高さはピークの強さを表しません。実際の強さは原子の散乱のしかたや試料の結晶の向きで変わります。

実際の分析では、測ったパターンを国際回折データセンター(ICDD)の粉末回折ファイルなどのデータベースと照らし合わせ、一致する物質を探して結晶相を決めます(リガクジャーナルの基礎講座)。

元素の種類ではなく結晶相を見分ける分析なので、同じチタンでもα相とβ相、同じコバルトでも六方最密構造と面心立方格子を区別できます。成分分析では同じに見える材料でも、熱処理の違いによる組織の差をつかめます。

ただし、ピークの位置だけで相を決めつけるのは危険です。チタン合金のβ相の主なピークはα相のピークと近い角度に出やすく、量の少ない相のピークは小さく埋もれるので、複数のピークの組み合わせや強さの比、熱処理の履歴と合わせて判断します。

圧延したマグネシウム合金の板を板面から測ると、c 軸が板面に垂直にそろった集合組織のため、粉末のときより(002)のピークが目立って強く出ます。板の結晶がどの向きにどれだけそろっているかは極点図で詳しく調べ、成形性の悪い向きのそろい方になっていないかを確かめます。

コバルトは約417℃で六方最密構造から面心立方格子に変わり、加熱と冷却で変わる温度に約30℃の差(ヒステリシス)があるので、熱処理後の相をXRDで確かめます。

こうした測定は、材料メーカーの出荷検査や部品メーカーの品質保証の仕事で、受入れた材料が仕様どおりの組織かを確かめる手段の1つになっています。

六方最密構造のよくある質問

六方最密構造の単位格子は六角柱ではないのですか?

単位格子は、正六角柱の3分の1にあたる底面がひし形の柱で、原子は2個入っています。六角柱は対称性が見やすいので図によく使われますが、単位格子を3つ並べたもので、原子は6個です。密度や充填率はどちらで計算しても同じ値になります。

六方最密構造の高さはいくつですか?

原子が理想どおりに接していると、高さ c は原子半径 r の 4√6/3 倍で約3.27r、一辺 a = 2r に対する比 c/a は √(8/3) ≒ 1.633 です。正四面体の高さ 2√6r/3 の2倍として求めます。

最密構造なのに金属によって密度が違うのはなぜですか?

充填率はどの金属でも74%と同じですが、密度は原子1個の質量と大きさで決まるからです。マグネシウムは原子が軽く1.74 g/cm3、同じ六方最密構造のコバルトは原子が重く小さいので約8.8 g/cm3になります。

六方最密構造と立方最密構造はXRDで見分けられますか?

見分けられます。六方最密構造には(100)・(002)・(101)などのピークが、面心立方格子には(111)・(200)・(220)などのピークが出て、並び方がはっきり違います。コバルトの二つの相や、チタン合金のα相・β相の確認にも使われます。

まとめ

この記事のまとめ
  • 六方最密構造は最密の層をABAB…と積んだ構造で、単位格子(六角柱の1/3)の原子数は2個、配位数は12
  • 一辺 a = 2r、高さ c は正四面体の高さの2倍で 4√6r/3、c/a の理想値は √(8/3) ≒ 1.633
  • 密度は M ÷(4√2 NA r3)、充填率は π/(3√2) ≒ 74%で、どちらも面心立方格子(立方最密構造)と同じ値になる
  • 実在の金属は c/a がずれるので、密度は測った格子定数で確かめる。マグネシウムは計算でも1.74 g/cm3
  • すべり系が少なく、マグネシウムや亜鉛は温めて加工する。チタンは882℃でα相からβ相に変わり、XRDで相と集合組織を確かめる

六方最密構造は、球の積み方という単純なモデルから、密度・充填率の計算、金属の加工のしにくさ、X線回折のピークの読み方までを1本の筋でつなげられる構造です。

結晶構造の違いが材料の選び方にどう効くかは、材料技術の基本や、めっきに使われる金属を比べためっきの種類と違いとあわせて読むと、製品の中で金属が使い分けられている理由をつかみやすくなります。

出典

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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