同素体と同位体の違いとは?ビー玉のたとえと例、工業での使い道

製鋼所の屋根付き置き場に並ぶ電気炉用の黒鉛電極

同素体は、同じ元素の原子だけでできた単体のうち、原子のつながり方や並び方が違う物質どうしのことです。同位体は、陽子の数が同じで中性子の数が違う原子どうしのことで、ダイヤモンドと黒鉛は同素体、12C と 13C は同位体にあたります。

同素体は「単体(物質)どうし」、同位体は「原子どうし」と比べる階層が違い、性質の差も同素体は大きく、同位体はほとんどありません。工場では同素体の違いが硬い工具と電気を通す電極の差になり、同位体の違いは溶接部を透かす線源や、産地を見分ける分析に使われます。

この記事では、比較表とビー玉のたとえで違いを押さえ、見分け方と例を確かめたうえで、同位体と同素体をそれぞれ詳しく見ます。後半では、炭素・酸素・リン・硫黄の同素体の現場での使い分けと、同位体が原子量・非破壊検査・分析・ウラン濃縮にどう関わるかを整理します。

目次

同素体と同位体の違い:ビー玉にたとえると「並べ方」と「玉の中身」

同素体と同位体の違いを一言でいうと、同素体は原子の組み立て方の違い、同位体は原子そのものの違いです。同素体は同じ元素からなる単体どうしを比べ、同位体は同じ元素に属する原子どうしを比べるので、そもそも比べている対象が違います。

性質の差にも大きな開きがあり、同素体は硬さ・色・電気の通しやすさまで変わるのに対し、同位体どうしの化学的な性質はほぼ同じで、違うのは重さと放射線を出すかどうかです。主な観点を表に並べると次のとおりです。

比べる観点同素体同位体
何どうしを比べるか同じ元素からなる単体(物質)どうし同じ元素の原子どうし
同じもの元素の種類陽子の数(原子番号)と電子の数
違うもの原子のつながり方・並び方、分子をつくる原子の数中性子の数(質量数)
化学的性質大きく違う(燃えやすさ・毒性など)ほぼ同じ(水素だけは差が目立つ)
物理的性質硬さ・密度・色・電気伝導が大きく違う質量と密度がわずかに違う。放射線を出すものもある
代表例ダイヤモンドと黒鉛、酸素とオゾン、赤リンと黄リン、斜方硫黄と単斜硫黄1H・2H(D)・3H(T)、12C・13C・14C、35Cl・37Cl
書き分け方化学式で区別(O2 と O3)元素記号の左上に質量数(12C と 13C)
出典:コトバンク「同素体」「同位体」(デジタル大辞泉、精選版 日本国語大辞典、改訂新版 世界大百科事典ほか)をもとに作成

迷ったときは、比べている2つを化学式や記号で書いてみるとどちらの関係かを判定できます。

  • O2 と O3:どちらも酸素だけでできた単体で、原子の数が違う → 同素体
  • 12C と 13C:どちらも炭素の原子で、質量数が違う → 同位体
  • CO と CO2:炭素と酸素の化合物で、単体ではない → どちらでもない

図1:ビー玉でたとえる同素体と同位体

同素体は同じ玉の並べ方の違い、同位体は見た目がそっくりで中身(中性子の数)だけが違う玉の違いです。

同素体:並べ方が違う同位体:玉の中身が違う2個つなぐ3個つなぐ¹²C¹³C酸素 O₂オゾン O₃中性子6個中性子7個玉は同じ・つなぎ方で性質が変わる電子は同じ・重さだけ少し違う陽子中性子

※模式図です。実際の原子では陽子と中性子は中心の小さな原子核に集まり、その外側を電子が取り巻いています。同位体どうしは電子の数と並び方が同じなので、外から見た性質(化学的性質)はほぼ同じです。

ビー玉のたとえでは、同位体を「色違いの玉」と説明することがあります。ただし同位体は外側の電子の並びまでそっくりなので、色も形も同じで、重さだけが少し違う玉と考えたほうが実態に近くなります。

同素体の「並べ方」には、ダイヤモンドのように立体の網目に組む場合も、黒鉛のように平らな層を重ねる場合もあり、組み方の違いが硬さや電気の通しやすさを大きく変えます。

ここからは、原子そのものの違いである同位体、次に原子の組み方の違いである同素体の順に確かめます。

同位体:陽子の数が同じで中性子の数が違う原子

同位体は、陽子の数(原子番号)が同じで、中性子の数が違う原子どうしのことです。原子の重さの目安になる質量数は陽子と中性子の数の合計なので、同位体どうしは質量数が違い、元素記号の左上に質量数を添えて 12C や 13C のように書き分けます。

炭素には、陽子6個に中性子6個の 12C、7個の 13C、8個の 14C があります。天然の炭素は 12C が約98.9%、13C が約1.1%で、14C は半減期約5,730年で別の原子に変わっていく放射性同位体として、ごくわずかに含まれます。

図2:炭素の3つの同位体の原子核

陽子はどれも6個で、中性子の数だけが6・7・8個と違います。

¹²C¹³C¹⁴C陽子6・中性子6陽子6・中性子7陽子6・中性子8天然に約98.9%天然に約1.1%ごくわずか(放射性)陽子中性子

※存在比は CIAAW(IUPAC 原子量および同位体存在度委員会)の値をもとにした目安。原子核の中の粒の配置は模式的なものです。

同位体どうしは電子の数と並び方が同じなので、化学反応のしかたはほぼ同じです。化学的な性質は主に電子で決まり、電荷を持たない中性子が1〜2個違っても、結合のつくり方はほとんど変わりません。

例外的に差が目立つのは、質量の比が大きい水素です。重水素 D(2H)はふつうの水素 1H の約2倍の重さがあり、D2O でできた重水は融点3.82℃、沸点101.42℃とふつうの水より少し高く、原子炉の減速材にも使われます。

放射線を出して別の原子に変わるものを放射性同位体、変わらないものを安定同位体と呼び、工業での使い道もこの2つで分かれます。周期表の原子量が半端な数になるのも同位体が混ざっているためで、計算のしかたは後半の工業の章で扱います。

同素体:同じ元素の単体で、原子のつながり方が違うもの

同素体は、同じ元素の原子だけでできているのに、原子のつながり方や並び方が違うために性質の異なる単体どうしのことです。酸素 O2 とオゾン O3 は分子をつくる原子の数が違い、ダイヤモンドと黒鉛は結晶の中での原子の組み方が違います。

同素体をもつ代表的な元素は硫黄 S・炭素 C・酸素 O・リン P で、頭文字から「SCOP(スコップ)」と覚える方法がよく知られています。同位体と違って性質の差が大きく、ダイヤモンドはモース硬度10の最も硬い鉱物なのに、黒鉛はモース硬度1〜2と柔らかく、電気をよく通します。

図3:炭素の4つの同素体の組み方

どれも炭素原子だけでできていますが、原子のつながり方で形と性質がまったく違います。

ダイヤモンド各炭素が4本の共有結合で立体の網目をつくる。非常に硬く、電気を通さない立体の網目
黒鉛(グラファイト)炭素の六角形の網が層になって重なる。層の方向に電気を通し、層どうしは滑りやすい平らな層
フラーレンC60 などのかご形の分子。五角形と六角形が組み合わさったサッカーボールの形かご形の分子
カーボンナノチューブ六角形の網を丸めた筒。直径は0.4〜50 nm ほど細い筒

※改訂新版 世界大百科事典・化学辞典(コトバンク「黒鉛」)、日本大百科全書(コトバンク「カーボンナノチューブ」)、日本冷凍空調学会「最近気になる用語」をもとに作成。

同じ元素の単体でないものは同素体に含めず、CO と CO2 は炭素と酸素の化合物なので同素体ではなく、12C と 13C は原子どうしの関係なので同位体です。ダイヤモンドの網目と、分子が分子間力で集まった結晶の違いは、共有結合の結晶と分子結晶の違いで詳しく比べています。

工場で使われる同素体:炭素・酸素・リン・硫黄

同素体は原子の組み方が違うだけで硬さや反応のしやすさが大きく変わるため、工場では同じ元素を、性質の違う別の材料として使い分けています。どの性質がどの用途に効いているかを先に図で見てから、元素ごとに確かめます。

図4:同素体の性質の違いが用途の違いになる

同じ元素でも、どの同素体を選ぶかで工場での役割がまったく変わります。

ダイヤモンド硬い → 切削工具・研削砥石の刃先
黒鉛電気を通し熱に強い → 電気炉の電極・電池の負極
オゾン強い酸化力 → 浄水場でかび臭などを分解
赤リン常温で自然発火しない → 安全マッチの側薬

※性質と用途は本文の各項の出典(経済産業省、東京都水道局、東京消防庁、コトバンク各項目ほか)による。

炭素:ダイヤモンド工具、黒鉛電極、カーボンブラック

ダイヤモンドの硬さは、切削工具や研削砥石の刃先に生かされています。焼き固めたあとのセラミックスのように硬くてもろい材料は、セラミックスの製造工程でも見たとおり、ダイヤモンド工具で研削して寸法を仕上げます。

ただし鉄系の材料を削ると刃先が高温になり、摩耗や化学反応でダイヤモンドの刃先が消耗しやすいため、鋼には立方晶窒化ホウ素(cBN)の工具を使い分けます。硬さだけでなく、相手の材料と炭素が反応しないかまで考えて選ぶのが工具選定の実務です。

黒鉛は層の方向に電気をよく通し、高温でも形を保つので、電気炉の電極として欠かせない材料です。経済産業省の資料によると、黒鉛電極はコークスなどを練り合わせて成形・焼成し、高温で熱処理してつくられ、国内では4社が生産しています。

直径約20インチ(約51 cm)以上の太い電極は、鉄スクラップを溶かす電気炉の陰極として使われ、ほかの素材では代わりにするのが難しいとされています。CO2 を減らすために高炉から電炉への転換が進むほど、黒鉛電極の安定供給が重みを増します。

炭素の電極は金属の製錬にも使われ、アルミニウムの融解塩電解では炭素の陽極が酸素と反応して少しずつ減っていきます。黒鉛は電気分解の電極材料のほか、層の間にリチウムイオンを出し入れできることからリチウムイオン電池の負極材にもなっています。

カーボンブラックは、黒鉛に似た炭素の平面が数層重なった小さな結晶の集まりで、無定形炭素に分類されます。90%以上がゴムの補強剤に使われ、そのうち約8割がタイヤ向けとされ、国内生産量は2018年に約60万トン(カーボンブラック協会の推計)でした。

フラーレンは発見により1996年のノーベル化学賞が贈られた同素体で、カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男氏が見つけました。カーボンナノチューブは導電性と機械的な強さを兼ね備え、化学的にも安定なため、電子デバイスや複合材料への応用が開発されています。

酸素とオゾン:浄水場のオゾン処理

酸素 O2 とオゾン O3 は酸素原子2個の分子か3個の分子かの違いで、オゾンは酸素よりはるかに強い酸化力をもちます。オゾンは時間とともに酸素に戻るため貯めておけず、使う場所でオゾン発生器を動かし、空気や酸素からつくります。

酸素からオゾンができる反応
3O2 → 2O3
放電などでエネルギーを与えると、酸素分子の一部がオゾン分子になります。原子の数は両辺とも6個で、同じ元素の単体どうしの変化です。

この酸化力を使っているのが浄水場の高度浄水処理です。東京都水道局は、生活排水に由来するアンモニアなどの課題がある利根川水系の全浄水場に、オゾンと生物活性炭による処理を1992年度から順に導入し、2013年度に完了しました。

図5:オゾンと生物活性炭を使う高度浄水処理の流れ

沈殿で濁りを除いたあと、オゾンで分解し、活性炭で吸着と微生物の分解を重ねます。

STEP 1取水川の水を取り入れる
STEP 2沈殿凝集剤で濁りを固めて沈める
STEP 3オゾン処理かび臭の原因物質などを強い酸化力で分解
STEP 4生物活性炭活性炭の吸着と、すみついた微生物の分解で有機物を除く
STEP 5ろ過砂などの層で細かな粒を取り除く
STEP 6消毒塩素で消毒して配水する

※東京都水道局「東京水道経営プラン2016」のオゾン及び生物活性炭処理のイメージ図をもとに作成。浄水場によって工程の組み方は異なります。

この工程では、酸素の同素体であるオゾンと、炭素からできた活性炭が順に働きます。前段で濁りを固めて沈める凝集剤については、ミョウバンと浄水場の凝集剤で触れています。

一方でオゾンは人の体にも有害で、2025年10月からは労働安全衛生規則にもとづく濃度基準値として、短時間(15分間)の値 0.1 ppm が適用されています。発生器や接触池のまわりでは、漏れたオゾンを吸わないための換気と濃度の監視が欠かせません。

リン:赤リンはマッチ、黄リンは水中で保管

リンの同素体の黄リン(白リン)と赤リンは、同じ元素とは思えないほど危険性が違います。黄リンは融点44℃のろう状の固体で、湿った空気中では約30℃で発火し、致死量が50 mg ほどの猛毒なので、水に沈めて空気に触れないように保管します。

赤リンは黄リンを空気を断って長時間加熱してつくる赤褐色の粉末で、常温の空気中では安定し、毒性もほとんどありません。安全マッチは箱の側面の側薬に赤リンを使い、頭薬の塩素酸カリウムとこすれ合ったときだけ火がつく仕組みで、東京消防庁の資料では側薬の54%が赤リンです。

消防法では黄リンが第3類(自然発火性物質及び禁水性物質)、赤リンが第2類(可燃性固体)の危険物で、黄リンは毒物及び劇物取締法の毒物でもあります。

黄リンはリン化合物の原料にもなり、リン酸のうち純度を極めたものは半導体用高純度リン酸としてエッチング液に使われます。

硫黄:同素体の違いが温度管理に効く

硫黄には、常温で安定な斜方硫黄、約95℃より上で安定な単斜硫黄、液体を急冷してできるゴム状硫黄があります。斜方硫黄と単斜硫黄はどちらも S8 分子が集まった結晶で、違いは分子の並び方にあり、詳しくは斜方硫黄と単斜硫黄の違いで整理しています。

製油所で回収された硫黄は液体のまま運ばれ、その多くが接触法による硫酸の原料になります。液体硫黄は約160℃から環が開いて急に粘り始めるので、配管の温度管理では同素体の変化をそのまま運転条件に置き換えて考えます。

工場で使われる同位体:原子量・非破壊検査・分析・ウラン濃縮

同位体は化学的な性質がほとんど同じなので、工場では重さの違いと放射線という2つの手がかりを使います。重さの違いは原子量の計算や同位体比分析、ウラン濃縮に関わり、放射線は溶接部を透かして見る非破壊検査に使われます。

原子量が小数になるのは同位体の平均だから

周期表の原子量が 35.45 のような半端な数になるのは、天然の元素が同位体の混合物で、原子量はその存在比で重みをつけた平均だからです。塩素は 35Cl が約75.8%、37Cl が約24.2%含まれ、それぞれの相対質量に存在比を掛けて足すと原子量になります。

塩素の原子量(相対質量 × 存在比の和)
34.969 × 0.758 + 36.966 × 0.242
= 26.506 + 8.946 = 35.452 ≒ 35.45
34.969・36.966:35Cl・37Cl の相対質量(12C を12としたときの値) 0.758・0.242:天然の存在比の代表値

天然の存在比は産地や物質でわずかに揺れるため、IUPAC(国際純正・応用化学連合)の委員会は2009年以降、塩素の標準原子量を [35.446, 35.457] の幅で示しています。水素や炭素も同じく幅で示され、計算で使う 35.45 や 12.01 はその代表値です。

成分の分子量をモル分率で平均して混合気体の平均分子量を求めるのと同じく、原子量は同位体の相対質量を存在比で平均した値です。この平均の考え方は、ガスの密度計算から分析値の換算まで、現場の計算の土台になっています。

放射線透過試験:Ir-192 と Co-60 で溶接部を透かす

鋼管の突合せ溶接部に巻き付けた放射線透過試験用のフィルムカセット

放射性同位体の使い道で工場に最も身近なのが、溶接部の内部を壊さずに調べる放射線透過試験(RT)です。溶接部の片側に線源、反対側にフィルムや検出器を置いて透かして撮ると、内部のブローホール(気泡)や溶け込み不良が濃淡の違いとして写ります。

図6:放射線透過試験で溶接部の中を写すしくみ

線源の放射線が溶接部を通り抜け、通り抜けた量の違いがフィルムに濃淡として残ります。

γ線源(Ir-192 など)溶接部(鋼板)フィルム・検出器溶接部の中の空洞(欠陥)は放射線を通しやすく、黒く写る健全な部分は放射線をよく吸収し、白っぽく写る

※配置は模式図です。ATOMICA「非破壊検査用の線源」をもとに作成。撮影方法や写真の判定は JIS Z 3104 などの規格に従います。

X線装置を持ち込みにくい現場ではγ線源が活躍し、日本原子力研究開発機構の ATOMICA によると、Ir-192(イリジウム192)が最も代表的です。線源は外形が小さく細い管や狭いすき間にも入り、電源もいらないので、プラントの配管や貯槽の現地工事で使いやすいのが利点です。

コバルト60(Co-60)は Ir-192 の約3倍のエネルギーのγ線を出すので、比較的厚い鋼材や構造物の検査に向きます。2004年3月の時点では、民間企業の検査装置で Ir-192 が647台、Co-60 が143台使われていました。

Ir-192 の半減期は73.8日と短く、線源は月単位で目に見えて弱くなります。同じ濃さの写真を撮るのに要る照射時間は線源の強さにほぼ反比例するため、現場では減衰を計算して照射時間を延ばし、弱くなった線源は交換します。

線源の強さの残り
A = A0 × (12)t / T
(例)Ir-192 の線源を30日使ったとき
(12)30 / 73.8 = 0.754 → 強さは約75%
照射時間 = 1 ÷ 0.754 = 約1.3倍
A0:はじめの強さ A:t 日後の強さ t:経過日数 T:半減期(Ir-192 は73.8日)。半減期の2倍(約148日)で強さは4分の1になります。

撮影の方法や写真の読み方は、鋼の溶接部なら JIS Z 3104(鋼溶接継手の放射線透過試験方法)などで決められ、屋外タンクの溶接部の検査にも使われます。

放射性同位元素を使うため、線源の保管や使用は放射性同位元素等の規制に関する法律にもとづいて管理され、撮影中は周囲に立入禁止の区域を設けて、作業者と周りの人が放射線を浴びないようにします。

溶接の方法ごとの特徴は溶接の種類と違い、航空機部品などで非破壊検査を特殊工程として審査する仕組みはNadcap(特殊工程認証)で扱っています。

同位体比で産地や原料を見分ける

安定同位体は放射線を出しませんが、わずかな存在比の違いが「何からできたか」の手がかりになります。植物は光合成の仕組みによって取り込む 13C の割合が違い、サトウキビやトウモロコシのような C4 植物は、多くの果物などの C3 植物より 13C をやや多く含みます。

財務省の関税中央分析所は、安定同位体比質量分析計(IRMS)で炭素の同位体比を測り、はちみつへの異性化糖や果汁への糖の添加を調べる方法を検討しています。糖の組成が似ていて成分分析では見分けにくい混ぜものも、原料の植物の違いとして数字に表れるのが強みです。

放射性の 14C は、プラスチックや燃料に含まれる植物由来の炭素の割合(バイオベース度)を測るのに使われます。植物の炭素は大気と同じ割合の 14C を含み、長い年月をかけてできた石油や石炭では壊れてなくなっているため、ASTM D6866 などの規格で割合を求めます。

同位体の重さの違いは、身近な分析装置の結果にも表れます。ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で塩素を1個含む化合物を測ると、質量が2違う2本のピークがおよそ3対1の高さで並びます。35Cl と 37Cl の存在比を映したこの形は、塩素を含む物質かどうかの判断材料になります。

成分を分けてから質量分析計に送る前段の仕組みは、クロマトグラフィーの原理と GC・HPLC の違いで解説しています。

ウラン濃縮:化学では分けられない同位体を重さで分ける

同位体は化学反応ではほとんど分けられないため、分けるには重さのわずかな違いを使います。その代表がウラン濃縮で、天然ウランに0.7%ほどしか含まれないウラン235を、原子力発電の燃料に使う3〜5%まで高めます。

ウランは気体の六フッ化ウラン(UF6)にして遠心分離機で高速回転させ、重い 238UF6 が外側、軽い 235UF6 が中心軸側にわずかに偏ることを使います。重さの差は1%に満たないため、1台で得られる濃度の差は小さく、多数の遠心分離機をつないだカスケードで段階的に濃縮します。

2種類の六フッ化ウランの重さの比
235UF6:235.04 + 6 × 19.00 = 349.0
238UF6:238.05 + 6 × 19.00 = 352.0
352.0349.0 = 1.0086 → 重さの差は約0.9%
235.04・238.05:ウラン235・ウラン238 の相対質量 19.00:フッ素の相対質量(フッ素は同位体が1種類だけなので、差はウランの同位体だけで生まれます)

国内では日本原燃が青森県六ヶ所村のウラン濃縮工場で遠心分離機を使った濃縮を行い、1992年に操業を始めました。化学的にはほぼ同じという同位体の性質が、分離の難しさとして表れるのがこの工程です。

同素体と同位体のよくある質問

水素 H2 と重水素 D2 は同素体ですか?

同素体ではありません。どちらも水素の単体で原子2個の同じ形の分子ですが、違うのは原子のつながり方ではなく、原子の中の中性子の数です。同位体の違う水素からできた分子どうしの関係にあたります。

同素体をもつ元素の覚え方はありますか?

代表的な硫黄 S・炭素 C・酸素 O・リン P の頭文字をとった「SCOP(スコップ)」がよく使われます。実際にはスズ(白色スズと灰色スズ)など、ほかにも同素体をもつ元素があります。

一酸化炭素と二酸化炭素は同素体ですか?

同素体ではありません。同素体は1種類の元素だけでできた単体どうしの関係で、CO と CO2 は炭素と酸素が結びついた化合物です。成分の元素が同じで組成が違う化合物どうしなので、同素体とも同位体とも別の関係です。

ダイヤモンドと黒鉛を燃やすと何ができますか?

どちらも炭素だけでできているので、酸素の中で十分に燃やすと同じ二酸化炭素になります。燃えるまでの温度や燃え方は違っても、生成物が同じになることは、同素体が同じ元素の単体であることの確かめ方の一つです。

まとめ

この記事のまとめ
  • 同素体は同じ元素の単体どうしで原子のつながり方が違うもの、同位体は陽子の数が同じで中性子の数が違う原子どうし
  • ビー玉でたとえると、同素体は同じ玉の並べ方の違い、同位体は見た目が同じで重さだけ違う玉の違い
  • 同素体は性質が大きく違い、ダイヤモンド工具・黒鉛電極・オゾン処理・赤リンのマッチのように別の材料として使い分ける
  • 同位体は化学的性質がほぼ同じで、工場では重さの違い(原子量・同位体比分析・ウラン濃縮)と放射線(溶接部の透過試験)を使う
  • 原子量は同位体の相対質量を存在比で平均した値で、塩素なら約35.45になる

同素体と同位体は、比べているのが「物質の組み立て方」か「原子そのもの」かで整理でき、その違いが材料の選び方や検査・分析の方法に表れます。

素材をつくる化学メーカーの事業は化学業界とは?企業の種類と仕事の流れ、分析や検査を担う仕事は品質保証・品質管理の仕事内容から見渡せます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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