2026年10月19日、電炉大手の東京製鉄は11月契約の鋼材販売価格を全品種でトン3,000円引き上げると発表しました。中東情勢の長期化で原油やLNG(液化天然ガス)が値上がりし、燃料費や電力代、諸資材のコストが増えていることを理由に挙げています。
東京製鉄は、使い終わった鉄(鉄スクラップ)を電気炉で溶かして鋼材をつくる国内最大の電炉メーカーで、翌月の販売価格を毎月自社サイトで公開している点に特徴があります。
以下では、会社の概要、値決めの仕組み、電炉と高炉の違い、製品と工場、利益の決まり方、強み、取引先・就職先としての見方の順に、決算資料などの公開情報から整理します。
東京製鉄はどんな会社か

東京製鉄(正式社名は東京製鐵株式会社)は、鉄スクラップを原料にして鋼材をつくる電炉専業メーカーです。1934年に東京都足立区で設立され、現在は東証プライム市場に上場し、本社を東京都千代田区霞が関に置いています。
生産拠点は愛知県の田原工場、岡山県の岡山工場、福岡県の九州工場、栃木県の宇都宮工場の4つです。採用情報では年間約300万トンの鋼材を生産する日本最大の電炉メーカーと説明しており、従業員数は1,161人(2026年3月末)です。
製品は、ビルや倉庫の骨組みに使うH形鋼、建物の柱になる角形鋼管、機械や部品の材料になる熱延コイルなど多岐にわたります。建材と鋼板の両方を手がけており、2026年3月期の出荷数量では鋼板が全体の約6割を占めました。
約1,200人の会社が、4つの工場で年約300万トンの鋼材をつくっています。
※出典:東京製鐵 会社概要・沿革、マイナビ2028 会社概要。
なぜ東京製鉄の値決めが注目されるのか
東京製鉄の価格改定がニュースになる理由は、翌月の販売価格を毎月自社サイトで公開していることにあります。販売情報のページには契約月ごとの価格と市況コメントが載り、2007年以降の月別の価格表もさかのぼって閲覧できます。
原料の鉄スクラップも購入価格表を随時更新して公開しており、2026年は月に複数回の改定が続いています。東洋経済(2010年)は、同社が業界団体に属さず、製品価格を毎月見直して価格表をオープンにする経営を「異色経営」として紹介しました。
価格表が誰でも見られるため、買い手と売り手の双方が市況を読む材料にしています。
※公開価格は参照される目安で、個々の取引価格を直接決めるものではありません。海外の注視は SX Coal(2023年12月)の報道によります。
「東鉄ショック」と呼ばれた値下げ
価格の影響力を示す例として知られるのが、2010年10月18日の発表です。東京製鉄は11月売りのH形鋼とホットコイル(熱延コイル)を前月から大幅に値下げし、値上げを進めていた同業他社が打撃を受けたことから「東鉄ショック」と呼ばれました。
同社は当時、輸入材の流入に対抗して水面下の取引価格に合わせたと説明しています。
2026年11月契約の値上げ理由
2026年10月19日の発表で、同社は販売情報ページの市況コメントに次の4つの点を示しています。コスト高だけでなく、需要と輸入材の見通しまで含めた説明です。
- エネルギー・資材:中東情勢の長期化で原油・LNGが上がり、燃料費・電力代・諸資材も上昇。コスト高は今後も続く見込み
- 建材:需要期を迎えて堅調。データセンターや半導体工場向けの大型投資も計画され、中長期的に鉄骨需要が高まる見通し
- 鋼板:需要は力強さを欠くが、世界的なインフレと原料炭の高騰を背景に、国際的に鋼材価格の見直しが進んでいる
- 輸入鋼材:AD(反ダンピング)調査前の駆け込み輸入はあるが、中期的には増加に歯止め。海上運賃の高騰も輸入価格を押し上げる
電炉は電気の熱で鉄を溶かすため、電力代の上昇が製造コストに直接響きます。今回の値上げは、スクラップ価格の動きに加え、エネルギーの負担を製品価格に移す動きとして読むことができます。
価格表を読むときの確認点
価格表は、品種・サイズごとの単価(円/トン)に、鋼材の規格ごとの上乗せ額(エキストラ)を足す形です。2026年10月契約の価格表では、H形鋼の中巾148×100〜294×200が11万6,000円で、規格がSS490なら5,000円が上乗せされると示されています。
- 契約月:何月契約の価格か(今回の値上げは11月契約分)
- 品種とサイズ:同じH形鋼でも寸法の区分ごとに単価が違う
- 規格エキストラ:材質の規格で上乗せ額が変わる
公開価格は個々の需要家との契約条件まで表すものではないため、自社の仕入れ先の改定と並べて方向感をつかむ材料として使うのが現実的です。需要家と直接決める「ひも付き」と流通経由の「店売り」の違いは、鉄鋼業界の商流と利益構造で整理しています。
電炉と高炉の違い

鉄鋼メーカーは製法によって大きく2つに分かれます。高炉は鉄鉱石を石炭由来のコークスで還元して鉄を取り出し、電炉は使い終わった鉄製品などの鉄スクラップを電気の熱で溶かして、もう一度鋼にします。
高炉大手の日本製鉄やJFEスチールが鉄鉱石から一貫して生産するのに対し、東京製鉄は原料を国内で回収されるスクラップに頼る点が根本的な違いです。高炉大手2社の規模や製鉄所の違いは、日本製鉄とJFEスチールの比較で詳しく比べています。
| 比べる点 | 高炉 | 電炉(東京製鉄) |
|---|---|---|
| 主な原料 | 鉄鉱石・原料炭(コークス) | 鉄スクラップ |
| 鉄を溶かす熱源 | コークスの燃焼と還元反応 | 電気(アーク放電の熱) |
| 鋼材1トンあたりのCO2(2030年想定・東京製鉄の試算) | 1.6トン | 0.2トン |
| コストを左右するもの | 鉄鉱石・原料炭の価格 | スクラップ価格と電力代 |
| 代表的な会社 | 日本製鉄、JFEスチール | 東京製鉄 ほか |
集めたスクラップを電気炉で溶かし、圧延して建材や鋼板に仕上げます。
※圧延は、固まった鋼をローラーで延ばして板や形鋼にする工程です。
電炉は鉄鉱石を還元する工程がないため、同じ鋼材でもCO2の排出が少なく済みます。その一方で原料の質と電力の価格がコストと品質を左右するため、スクラップの集め方と電気の使い方が経営の要になります。
高炉各社も脱炭素に向けて電炉への転換や水素を使う製鉄の準備を進めており、その動きは水素還元製鉄と電炉転換の現在地で解説しています。
製品と4工場:電炉で薄板までつくる

2026年3月期の製品出荷数量は276万トン(国内241万トン、輸出34万トン)でした。品種別では薄板が47%、形鋼が34%、厚板が17%、棒鋼が2%で、薄板と厚板を合わせた鋼板が約6割を占めます。
建材の形鋼より、薄板・厚板の鋼板のほうが出荷量は多くなっています。
※出荷数量ベース。出典:東京製鐵「2026年3月期 決算説明資料」(2026年4月24日)。
1969年に岡山工場でH形鋼の生産を始めた同社は、1991年に同じ岡山工場で幅広の熱延コイル(ホットコイル)の生産に乗り出し、2009年には田原工場でも生産を始めました。建材だけでなく薄板まで電炉でつくれることが、建設と製造業の両方に売れる品種の幅につながっています。
4工場の役割
4工場は操業の時期も得意な製品も異なります。沿革に載っている設備の完成時期から、それぞれの役割を整理すると次のようになります。
最新の田原と老舗の岡山が鋼板を、九州と宇都宮が建材を中心に担います。
※出典:東京製鐵「東京製鐵の歴史」「工場紹介」。宇都宮工場をH形鋼の生産拠点とする記述は東洋経済オンライン(2011年)によります。
値上げはすぐ利益にならない:メタルスプレッドと時間差
電炉メーカーの利益を読むときの基本は、製品の出荷価格から鉄スクラップの購入価格を引いた「メタルスプレッド」です。東京製鉄も決算資料でこの数字を四半期ごとに開示しており、2026年1〜3月期は出荷価格9万2,700円、スクラップ4万7,000円で、差は4万5,700円でした。
この差から電力代や人件費などを払った残りが利益になります。
※出典:東京製鐵「2026年3月期 決算説明資料」。前の四半期より出荷価格が約500円下がり、スクラップが約2,300円上がったため、差は約2,800円縮みました。
2026年3月期の実績は、売上高2,680億円(前期3,267億円)、営業利益72億円(同301億円)でした。中国からの鋼材輸出が高水準で続き、国内の建築案件の工期遅れも重なって、出荷単価がトン10万6,700円から9万4,300円に下がったことが主な要因です。
スクラップ単価も4万7,800円から4万4,300円に下がりましたが、製品価格の下げ幅のほうが大きく、スプレッドは5万8,900円から5万円に縮みました。生産量の減少で固定費の負担が重くなったことも、減益の理由として挙げられています。
2027年3月期は値上げの反映待ち
2026年に入ると中東情勢の緊迫でスクラップ価格が急騰し、同社は前年度末から計3回の製品値上げに踏み切りました。それでも4〜6月期は営業損失23億円となり、決算資料は値上げが出荷価格に反映するまで「相応の時間を要する」と説明しています。
10月16日には業績予想を修正し、通期の営業損益を40億円の赤字予想から10億円の黒字予想に引き上げました。出荷単価が想定どおり上がり、スクラップの購入価格が想定を下回ったためで、値上げの効果は数か月遅れて業績に表れることが数字から読み取れます。
原料高から黒字予想への修正まで、半年ほどの時間差がありました。
※出典:東京製鐵「2027年3月期 第1四半期決算説明資料」「業績予想の修正に関するお知らせ」、販売情報ページ。
東京製鉄の強み

価格の機動力と品種の幅に加えて、公開情報から読み取れる強みが、原料を集める仕組みと低CO2鋼材です。どちらもスクラップを主原料にする電炉だからこそ効く取り組みで、近年の発表も多くがこの2つに関わっています。
スクラップを集める網と、CO2を減らした鋼材を売る仕組みを同時に広げています。
※出典:東京製鐵の各ニュースリリース、「ほぼゼロ」紹介ページ。
スクラップを集める仕組み
工場から離れた地域のスクラップを集めるため、同社は集荷拠点のサテライトヤードを増やしています。2022年の名古屋、2024年の関西、2025年の東京湾岸に続き、2026年5月には休止中の高松鉄鋼センターに代わる拠点として高松サテライトヤードを開設しました。
運び方も見直しており、2026年5月からは東京湾岸サテライトヤードから宇都宮工場への輸送の一部を、トラックから鉄道コンテナに切り替えています。物流会社などとの共同発表では、輸送時のCO2排出量を約32%減らせるとしています。
低CO2鋼材「ほぼゼロ」と長期環境ビジョン
同社の説明では、通常の製品でも製造段階のCO2排出量は鋼材1トンあたり約0.4トンで、高炉製品の約5分の1です。「ほぼゼロ」は、追加性のある非化石証書やデマンド・レスポンス(電力の需給に合わせて電気を使う時間を動かす仕組み)を活用して、これを約0.1トンまで下げたブランドです。
国内4工場の全品種が対象で、品質と納期は通常品と同じとされ、価格は1トンあたり5,900円の上乗せです。賃貸住宅の躯体やエレベーターの主要部材、鋼材輸送トレーラーなどで採用が広がっています。
長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」では、電炉での生産量を2030年に600万トン、2050年に1,000万トンへ増やす目標を掲げています。CO2の原単位(鋼材1トンあたりの排出量)は、2013年度比で2024年度までに35%減りました。
今後は2030年度に60%減、2050年にカーボンニュートラルを目指しています。鋼材のCO2排出量は輸出先の取引先からデータを求められる場面も増えており、欧州向けの手続きはEU CBAM本格適用への対応手順で解説しています。
取引先・就職先として見た東京製鉄
購買・調達担当の目線
鋼材を買う側にとって、東京製鉄の価格表は毎月の方向感をつかむ手がかりです。JFEスチールの2026年の値上げと調達対策のような高炉メーカーの動きと並べて見ると、品種ごとのコストの流れを社内に説明しやすくなります。
低CO2の鋼材を指定したい場合には、「ほぼゼロ」のように上乗せ額と排出量の根拠がはっきりした製品が有力な選択肢です。顧客からCO2データを求められる部品メーカーにとっては、材料の段階で排出量を示せることが提案の材料になります。
就職・転職先としての目線
従業員1,161人で年約300万トンを生産しており、少ない人数で大きな設備を動かす会社です。工場は愛知・岡山・福岡・栃木の4か所にあり、採用情報では、製鋼、圧延、制御システム、購買、企画物流などの職種が紹介されています。
電炉業界のなかでの位置づけや同業他社との比較は、業界全体の勢力図とあわせて見ると理解が深まります。環境対応で採用が広がる低CO2鋼材や鉄道輸送のように、脱炭素の取り組みに関わりたい人にも接点の多い会社です。
電炉メーカーに限らず、社外にどんな仕事や会社があるかを広く知りたい方へ、転職・キャリアガイドを用意しています。
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東京製鉄のよくある質問
「東京製鉄」と「東京製鐵」はどちらが正しい表記ですか?
正式な社名は旧字体を使った「東京製鐵株式会社」で、報道では常用漢字の「東京製鉄」と書かれることが多く、報道では「東鉄」と略されることもあります。証券コードは5423で、東証プライム市場に上場しています。
東京製鉄の販売価格はどこで確認できますか?
公式サイトの「販売情報」ページで、契約月ごとの価格と市況コメント、建材・鋼板の価格表PDFが公開されています。過去の月別価格表も2007年分からさかのぼって確認できます。
鉄スクラップの買取価格も公開されていますか?
公開されています。公式サイトの「購買情報」ページに国内鉄スクラップの購入価格表と検収規格表が載っており、2026年は月に複数回の改定がありました。
東京製鉄の配当はどのくらいですか?
2026年3月期の年間配当は1株50円で、2027年3月期は40円を予想しています(2026年4月24日の決算説明資料時点)。2026年3月期の配当性向は44%でした。
まとめ
- 東京製鉄は鉄スクラップを原料にする電炉専業で、4工場で年約300万トンを生産する日本最大の電炉メーカー
- 翌月の販売価格とスクラップ購入価格を公開しており、国内外のメーカーや買い手が市況を読む材料にしている
- 2026年11月契約は全品種トン3,000円の値上げで、中東情勢によるエネルギー高などを理由に挙げた
- 利益はメタルスプレッドで決まり、値上げは数か月遅れて業績に表れる(2027年3月期は営業黒字予想に修正)
- サテライトヤードによる集荷網と低CO2鋼材「ほぼゼロ」が、原料と環境の両面の強みになっている
東京製鉄の価格表は、鋼材を買う人にとっても業界を知りたい人にとっても、市況と電炉の経営を同時に読める資料です。業界の仕事の全体像は鉄鋼・非鉄金属業界とはで、鋼材の買い方は購買・調達の記事で、環境対応は脱炭素・カーボンニュートラルの記事であわせて確認できます。
出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 11月契約の値上げ・市況コメント・価格表:東京製鐵「販売情報」(2026年10月19日更新)、2026年10月 販売価格表
- 会社概要:東京製鐵「会社概要」、「工場紹介」、「東京製鐵の歴史」
- 生産量・電炉専業の説明:マイナビ2028「東京製鐵 会社概要」
- 2026年3月期の業績・品種構成・メタルスプレッド・配当:東京製鐵「2026年3月期 決算説明資料」(2026年4月24日)
- 2027年3月期第1四半期:東京製鐵「2027年3月期 第1四半期決算説明資料」(2026年7月17日)
- 業績予想の修正:東京製鐵「業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年10月16日)
- 価格公開と東鉄ショック:東洋経済オンライン「東京製鉄の異色経営、価格とエコを武器に挑戦状」(2010年12月8日)
- アジアの競合による注視:SX Coal「Tokyo Steel to maintain steel prices stable for 6th mth in Jan 2024」(2023年12月22日)
- 環境目標・高炉と電炉のCO2:東京製鐵「長期環境ビジョン Tokyo Steel EcoVision 2050」
- 低CO2鋼材:東京製鐵「ほぼゼロ」
- サテライトヤード・鉄道輸送・省エネ評価:「高松サテライトヤード」オープンのご案内(2026年5月22日)、鉄道用コンテナによる鉄スクラップの輸送開始について(2026年4月24日)、省エネ法事業者クラス分け評価制度におけるSクラス取得について(2026年5月7日)
- 宇都宮工場の位置づけ:東洋経済オンライン(2011年)
- スクラップ購入価格:東京製鐵「購買情報」
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