ヨードホルム反応とは?反応式の作り方としくみ、構造決定での使い方

化学工場の品質管理室の実験台とドラフト、窓の外のプラント

ヨードホルム反応は、CH3CO− や CH3CH(OH)− という部分構造をもつ化合物で起きる反応です。ヨウ素と水酸化ナトリウム水溶液を加えて温めると、特有のにおいをもつ黄色の結晶ヨードホルム(CHI3)が沈殿します。

アセトンやエタノール、2-プロパノールなどが陽性になり、沈殿が出れば分子の中にこの部分構造があると分かります。そのため、有機化合物の構造を調べる定性試験として使われてきました。

反応の中では、メチル基 CH3 の水素3個がヨウ素に置き換わり、炭素と炭素の結合が切れて、ヨードホルムとカルボン酸の塩に分かれます。CH3CH(OH)− をもつアルコールは、最初にケトンへ酸化されてから同じ道をたどるので、化学反応式も段階ごとに物質の数を数えれば組み立てられます。

この記事では、陽性になる構造と条件、反応のしくみ、化学反応式の作り方、構造決定の問題文での表現、エタノールなどの例外、構造決定での使い方を順に確かめます。後半では、塩素版のハロホルム反応と水道水のトリハロメタン、分析の現場での位置づけ、ヨードホルムそのものの用途まで補足します。

目次

ヨードホルム反応とは?陽性になる構造と条件

ヨードホルム反応は、試験管1本でできる有機化合物の定性試験です。試料の水溶液に、ヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶かした液と水酸化ナトリウム水溶液を加え、湯浴で温めると、陽性なら黄色の細かい結晶が底にたまります。

沈殿するヨードホルム CHI3 は分子量 393.7 の黄色の結晶で、融点は 119〜122℃、水にはほとんど溶けません。米国 NIH の化合物データベース PubChem にも、特有の不快なにおいがあると記されていて、色とにおいの両方が見分けの手がかりになります。

陽性になるのは、次の2つの部分構造のどちらかをもつ化合物です。教科書では「アセチル基」「端から2番目の炭素にヒドロキシ基がある第2級アルコール」と説明されることが多く、正確にはCH3CO− の相手が水素か炭素であることが条件になります。

  • CH3CO−R(R は H か炭化水素基):アセトアルデヒド、アセトン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)などのメチルケトン
  • CH3CH(OH)−R(R は H か炭化水素基):エタノール、2-プロパノール、2-ブタノールなど。反応の途中で CH3CO−R に酸化される

図1:ヨードホルム反応で陽性・陰性になる部分構造

CH₃CO− が水素か炭素につながっていれば陽性。酸素や窒素につながる酢酸・エステル・アミドは通常の条件では陰性です。

陽性:CH₃CO−R(R=H・C)アセトン CH₃COCH₃、2-ブタノン、アセトアルデヒド CH₃CHO などのメチルケトンそのままヨウ素化
陽性:CH₃CH(OH)−R(R=H・C)2-プロパノール、2-ブタノールなど。第1級アルコールで陽性になるのはエタノールだけ先に酸化されてケトンに
陰性:CH₃CO− が O・N につながる酢酸 CH₃COOH、酢酸エチル CH₃COOC₂H₅、アセトアミド CH₃CONH₂通常の水溶液の条件
陰性:CH₃CO− も CH₃CH(OH)− もできないメタノール CH₃OH、1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール(第3級で酸化されない)酸化しても CH₃CO− にならない

※Rowett ほか(Chem. Eur. J. 2024)、LibreTexts、PubChem をもとに作成。例外の詳しい理由は後の「例外」の章で扱います。

反応の主役のヨウ素は、相手から電子を受け取る酸化剤として働きます。ただし塩基性の水溶液では、ヨウ素がまず水酸化物イオンと反応して次亜ヨウ素酸イオン IO− になり、これがアルコールの酸化と水素の置き換えを担います。

ヨウ素が酸化剤として働くときの半反応式
I2 + 2e− → 2I−
塩基性の水溶液でのヨウ素(次亜ヨウ素酸イオンができる)
I2 + 2OH− → I− + IO− + H2O
IO−:次亜ヨウ素酸イオン(ヨウ素の酸化数 +1)。左右で I 2個、O 2個、H 2個、電荷 −2 がそろっています。

水酸化ナトリウムが欠かせないのは、IO− をつくるためと、反応の途中で出る酸を中和し、最後に炭素どうしの結合を切るためです。水酸化ナトリウムの性質のとおり強い塩基なので、試験では保護めがねを着け、皮膚に付けないように扱います。

ヨードホルム反応のしくみ:反応の流れを順に追う

ヨードホルム反応は、丸暗記しなくても反応の流れを自分の手で書けば再現できる反応です。流れは「酸化」「水素3個のヨウ素化」「炭素と炭素の結合の切断」の3段階で、第2級アルコールから始める場合を例に順に追います。

図2:ヨードホルム反応の3つの段階(第2級アルコールから)

ケトンから始める場合は②から。どの段階でも水酸化物イオンが働きます。

R-CH(OH)-CH₃R-CO-CH₃R-CO-CI₃R-COO⁻CHI₃(黄色)第2級アルコールメチルケトントリヨードケトン① 酸化IO⁻ が H を2個取り去る② ヨウ素化 ×3CH₃ の H が1個ずつ I に③ OH⁻ がC−C を切る水に溶ける沈殿する

※Rowett ほか(Chem. Eur. J. 2024)、LibreTexts「Alpha Halogenation of Carbonyls」をもとに作成。R は水素または炭化水素基。

1段階目は酸化です。CH3CH(OH)−R の OH が付いた炭素から水素が2個取り去られ、C=O をもつメチルケトン CH3CO−R に変わります。アセトンや 2-ブタノンのように最初からケトンの化合物は、この段階を飛ばして次へ進みます。

① 第2級アルコールの酸化(イオンで書いた式)
R−CH(OH)−CH3 + IO− → R−CO−CH3 + I− + H2O
R 以外で H 5個・O 2個・I 1個、電荷 −1 が左右でそろっています。問題によっては、先に二クロム酸カリウムでアルコールを酸化してからヨードホルム反応を行う設定もあります。

2段階目は、C=O の隣にあるメチル基の水素の置き換えです。この位置の水素(α水素)は C=O に電子を引かれて外れやすく、水酸化物イオンに引き抜かれると負の電荷をもつエノラートができ、これがヨウ素を攻撃して C−I 結合をつくります。

ヨウ素が1個付くと、その電子を引く力で残りの水素はさらに外れやすくなります。LibreTexts の有機化学の教科書も、2個目以降の水素は1個目より速く置き換わると説明していて、反応は途中で止まらず CI3 まで一気に進みます。

② メチル基の水素3個をヨウ素に置き換える
R−CO−CH3 + 3I2 + 3OH− → R−CO−CI3 + 3I− + 3H2O
置き換えのたびに HI が1個でき、すぐに OH− で中和されて I− と H2O になります。左右で I 6個、H 6個、O 4個、電荷 −3 が一致します。

3段階目で、水酸化物イオンが C=O の炭素を攻撃します。C=O の炭素は酸素に電子を引かれてわずかに正の電荷を帯びているためで、続いて CI3 の部分が陰イオン CI3− として外れます。

CI3− が外れられるのは、電子を引くヨウ素3個が負の電荷を安定させるからです。外れた CI3− は隣のカルボン酸から水素イオンを受け取って CHI3 になり、カルボン酸は塩基性の液の中でカルボン酸イオン RCOO− として溶けたまま残ります。

③ 水酸化物イオンによる C−C 結合の切断
R−CO−CI3 + OH− → R−COO− + CHI3↓
↓ は沈殿を表します。教科書ではこの段階を「加水分解」と呼ぶこともありますが、実際に結合を切るのは水ではなく水酸化物イオンです。

温めるのは、エノラートができる段階が遅いと考えられていて、熱で全体の反応を速めるためです。できたヨードホルムは水にほとんど溶けないので、反応液の中に黄色い結晶として現れ、試験管の外から見ても結果が分かります。

ヨードホルム反応の化学反応式の作り方

ヨードホルム反応の化学反応式は、全体を一度に覚える必要はありません。前の章の3段階それぞれで、使った I2 と NaOH、できた NaI と H2O の数を数え、最後に足し合わせれば係数が決まります。

まず各段階を、水酸化ナトリウムを使った分子の式で書き直します。ヨウ素1個分の酸化や置き換えのたびに HI が出て、それが NaOH で中和されるという同じパターンの繰り返しなので、数え間違いは起きにくくなります。

① 酸化:I2 1個で H を2個取り去り、HI 2個を中和
R−CH(OH)−CH3 + I2 → R−CO−CH3 + 2HI
2HI + 2NaOH → 2NaI + 2H2O
② ヨウ素化:I2 3個で H を3個置き換え、HI 3個を中和
R−CO−CH3 + 3I2 → R−CO−CI3 + 3HI
3HI + 3NaOH → 3NaI + 3H2O
③ 切断:NaOH 1個で切る
R−CO−CI3 + NaOH → R−COONa + CHI3
HI の係数(2と3)は約分せずにそのまま残しておくと、最後に足し合わせるときに数えやすくなります。
段階使う I2使う NaOHできる NaIできる H2O
① 酸化(アルコールのときだけ)1222
② メチル基のヨウ素化3333
③ C−C 結合の切断0100
合計(第2級アルコール)4655
合計(メチルケトン)3433
表1:段階ごとに使う物質とできる物質の数(出発物質1個あたり)。メチルケトンは①がないので②と③だけを足す

表の合計を左辺と右辺に並べると、第2級アルコールの化学反応式ができあがります。中間にできるケトンと HI は、左右で打ち消し合うので式には残りません。

第2級アルコール(CH3CH(OH)−R)の化学反応式
R−CH(OH)−CH3 + 4I2 + 6NaOH → CHI3 + R−COONa + 5NaI + 5H2O
メチルケトン(CH3CO−R)の化学反応式
R−CO−CH3 + 3I2 + 4NaOH → CHI3 + R−COONa + 3NaI + 3H2O
検算(第2級アルコール):I は左 8個・右 3+5=8個、Na は 6個・1+5=6個、O は 1+6=7個・2+5=7個、R 以外の H は 5+6=11個・1+10=11個。

カルボン酸の塩 R−COONa の R は、出発物質の CH3 と反対側にあった部分です。具体的な物質で書くと、アセトンからは酢酸ナトリウムが、エタノールからは R が水素なのでギ酸ナトリウムができる点が混同しやすいところです。

アセトン(R=CH3)
CH3COCH3 + 3I2 + 4NaOH → CHI3 + CH3COONa + 3NaI + 3H2O
2-プロパノール(R=CH3)
CH3CH(OH)CH3 + 4I2 + 6NaOH → CHI3 + CH3COONa + 5NaI + 5H2O
エタノール(R=H)
C2H5OH + 4I2 + 6NaOH → CHI3 + HCOONa + 5NaI + 5H2O
エタノールの検算:C 2個=1+1、H 6+6=12個=1+1+10、O 1+6=7個=2+5、I 8個、Na 6個。

流れを書くのが不安なときは、反応物と生成物だけを並べて係数を文字で置き、元素ごとの数の式を解く未定係数法でも同じ式になります。ただし段階を数える方法なら、どこで HI が何個できたかまで説明できるので、反応のしくみの確認にもなります。

係数が分かると、試薬の量も計算できます。アセトン 1.00 g を全部ヨードホルムに変える場合を、メチルケトンの式で計算すると次のようになります。

計算例:アセトン 1.00 g から得られるヨードホルムと、必要なヨウ素・水酸化ナトリウム
アセトンの物質量 = 1.00 g58.08 g/mol ≒ 0.01722 mol
CHI3(1倍)= 0.01722 mol × 393.73 g/mol ≒ 6.78 g
I2(3倍)= 3 × 0.01722 mol × 253.81 g/mol ≒ 13.1 g
NaOH(4倍)= 4 × 0.01722 mol × 40.00 g/mol ≒ 2.75 g
反応がすべて式どおりに進んだときの理論値です。実際の試験や合成では、副反応や溶け残りの分を見込んで試薬を多めに加えます。

アセトン 1 g に対してヨウ素が 13 g 要るのは、6個のヨウ素原子のうち3個しかヨードホルムに入らず、残り3個は NaI として液に残るためです。第2級アルコールでは8個中3個で、ヨウ素の半分以上が副生物の側に回るので、ヨウ素の利用効率は高くありません。

図3:ヨウ素原子はどこへ行くか(出発物質1個あたり)

ヨードホルムに入るのは毎回3個だけで、残りはヨウ化ナトリウムとして液に溶けます。

メチルケトン第2級アルコールCHI₃ へ 3個NaI へ 3個CHI₃ へ 3個NaI へ 5個I 原子 6個(I₂ 3個)I 原子 8個(I₂ 4個)棒の長さはヨウ素原子の数に比例。CHI₃ に入る割合は 50% と 37.5%

※本文の化学反応式の係数から計算。

構造決定の問題文ではどう表現されるか

有機化合物の構造決定の問題では、「ヨードホルム反応」という言葉が直接書かれないことがよくあります。代わりに操作と観察の結果だけが書かれるので、文から反応を読み取ることが最初の一歩になります。

典型的なのは「水酸化ナトリウム水溶液とヨウ素を加えて温めると、特有のにおいをもつ黄色の沈殿が生じた」という書き方です。試薬が「ヨウ素ヨウ化カリウム水溶液」や「ヨウ化カリウムと次亜塩素酸ナトリウム」になっていても、どちらも液の中で IO− ができるので同じ反応を指します。

観察のほうも、「黄色結晶」「分子式 CHI3 の化合物が得られた」「融点 119℃ 前後の黄色結晶」といった形に言い換えられます。反対に「沈殿は生じなかった」という記述は、図1の2つの部分構造をもたないという、候補を減らすための情報として読みます。

図4:問題文の手がかりから部分構造を絞る流れ

反応名がなくても、試薬と観察の組み合わせでヨードホルム反応と分かります。

STEP 1試薬を読むNaOH+I₂、I₂-KI 水溶液、KI+NaClO のどれかと「温める」
STEP 2観察を読む黄色の沈殿、特有のにおい、CHI₃、融点 119℃ 前後
STEP 3部分構造に置き換える陽性なら CH₃CO−R か CH₃CH(OH)−R(R=H・C)がある
STEP 4ほかの情報と重ねる分子式、Na との反応、銀鏡反応、酸化の結果で候補を1つに

※陽性の結果だけで構造は1つに決まりません。分子式や他の試験の結果と合わせて絞ります。

ヨードホルム反応の例外:エタノールと、陽性にならないアセチル基

第1級アルコールは、ふつうはヨードホルム反応を示しません。その中でエタノールだけは陽性になるのが最もよく知られた例外で、CH3CH2OH を CH3CH(OH)−H と見れば、R が水素の場合に当てはまるからです。

エタノールは IO− でアセトアルデヒド CH3CHO に酸化され、メチル基がヨウ素化されたあと、ヨードホルムとギ酸イオンに分かれます。同じ理由でアセトアルデヒド自身も陽性になり、第1級アルコールとアルデヒドで陽性になるのはこの2つに限られます。

構造決定では、この例外が強い手がかりになります。「第1級アルコールで、ヨードホルム反応が陽性」と分かった時点で、候補はエタノールに決まります。一方、メタノールは炭素が1個で CH3−C の並びがないので陰性です。

もう一つの例外は、アセチル基をもっていても陰性になる化合物です。酢酸 CH3COOH、酢酸エチル CH3COOC2H5、アセトアミド CH3CONH2 は、どれも CH3CO− が酸素か窒素につながっていて、通常の条件では陰性です。

酢酸は塩基性の液の中で酢酸イオンになり、負の電荷をもつためにα水素が外れにくくなります。エステルやアミドも、隣の酸素や窒素が C=O に電子を与えるので、ケトンほど反応しやすくありません。

1870年にこの試験を提案したオーストリア出身の化学者リーベンも、陽性は CH3CO− が炭素か水素に結合した化合物とまとめていて、教科書の「アセチル基」はこの意味で読む必要があります。

ただし陰性かどうかは条件にも左右されます。高知工科大学の卒業研究の要旨では、教科書の方法では酢酸エステルや N,N-ジメチルアセトアミドが陰性でした。ところが水の代わりにメタノールを溶媒にすると、これらでも反応が進んだと報告されています。

著者は基質が水に溶けないことが原因と考えており、条件しだいで結果が変わりうることを示す一例です。

構造決定ではどう使う?分子式から候補を絞る例

構造決定で使うときは、反応の向きを逆に考えます。「この構造があるから陽性になる」ではなく、「陽性だったから CH3CO−R か CH3CH(OH)−R がある」と読み、分子式から書き出した候補をふるいにかけます。

例として、分子式 C4H10O のアルコールを考えます。候補は 1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノールの4つです。このうち CH3CH(OH)− をもつのは CH3CH(OH)CH2CH3 の 2-ブタノールだけです。

2-メチル-2-プロパノール (CH3)3COH も OH の付いた炭素にメチル基がありますが、その炭素に水素がない第3級アルコールなので、ケトンへ酸化されずに陰性です。

なお C4H10O にはエーテルも3つあるので、先に金属ナトリウムで水素が出るかを確かめ、アルコールに絞っておくのが定石です。エーテルは OH をもたないので、ナトリウムとは反応しません。

分子式 C4H8O のカルボニル化合物なら、陽性はメチルケトンの 2-ブタノンだけで、ブタナールと 2-メチルプロパナールは陰性です。

ヨードホルム反応で「ケトンかどうか」と「メチル基の位置」を、銀鏡反応やフェーリング反応で「アルデヒドかどうか」を分けて考えると、候補が早く減ります。2つの試験の結果を組み合わせれば、C4H8O の3つのカルボニル化合物のうち 2-ブタノンを確実に見分けられます。

研究や品質管理の現場でも、未知の物質を調べるときは、分かっている情報から候補を並べ、試験や測定の結果で順に消していく考え方は同じです。研究開発の仕事の流れの中では、こうした構造の確認が合成の各段階で繰り返されます。

ハロホルム反応の仲間:クロロホルムと水道のトリハロメタン

ここからは、ヨードホルム反応の基本を押さえたうえでの補足です。ヨウ素の代わりに塩素や臭素を使っても同じ型の反応が起き、まとめてハロホルム反応と呼ばれます。

塩素・臭素でも同じ反応が起きる

メチルケトンに次亜塩素酸ナトリウムや塩素と塩基を作用させるとクロロホルム CHCl3 が、臭素ならブロモホルム CHBr3 ができます。PubChem によると、クロロホルムはかつてさらし粉とアセトンやエタノールの反応でつくられていました。

いまの工業生産では、クロロホルムはメタンやクロロメタンを塩素化して大量につくられ、ハロホルム反応は使われていません。ヨウ素版だけが試験に残ったのは、生成物が水に溶けない黄色の固体で、目で見て判定できるからで、無色の液体のクロロホルムでは結果が見えません。

図5:ハロゲンが変わると何ができるか

反応の型は同じで、できるハロホルムの性質が違います。

塩素 → CHCl₃クロロホルム。無色の液体で、かつてはさらし粉から製造
臭素 → CHBr₃ブロモホルム。無色〜淡黄色の重い液体
ヨウ素 → CHI₃ヨードホルム。黄色の固体で沈殿するので試験に使える
水道の塩素 → THM消毒の塩素と水中の有機物から、微量のトリハロメタン

※PubChem(クロロホルム・ブロモホルム・ヨードホルム)、千葉県営水道の解説をもとに作成。

水道水のトリハロメタンができる考え方

水道水は法律で塩素消毒が義務づけられていて、消毒の塩素が水中の有機物と反応すると、クロロホルムなどのトリハロメタン(THM)が微量にできます。

川や湖の水に含まれる植物由来の成分などの有機物が主な元です。塩素で水素が置き換わってメタン1個分の炭素が切り出される点はハロホルム反応に通じる考え方とされ、塩素の量と有機物の量の両方が生成量を左右します。

千葉県営水道の解説では、有機物と塩素の接触時間が長いほど、水温が高いほど生成しやすく、夏に高くなる傾向があります。対策として、粉末活性炭やオゾンと粒状活性炭で有機物を減らし、塩素の注入量も抑えています。

項目水道水質基準
総トリハロメタン(下の4物質の合計)0.1 mg/L 以下
クロロホルム CHCl30.06 mg/L 以下
ブロモジクロロメタン CHBrCl20.03 mg/L 以下
ジブロモクロロメタン CHBr2Cl0.1 mg/L 以下
ブロモホルム CHBr30.09 mg/L 以下
表2:水道水のトリハロメタンの基準値(出典:環境省「水質基準項目と基準値」、令和8年4月1日施行の表)

トリハロメタンの元になる有機物の量は、工場の排水や原水の管理でも、酸化剤の消費量で表すCOD(化学的酸素要求量)などの指標で追いかけます。試験管の中の反応と同じ化学が、浄水場の運転条件にも表れているわけです。

分析の現場では:定性試験から機器分析へ

研究室や品質管理の現場で、ヨードホルム反応はいまどう位置づけられているのかを、この試験で分かることと分からないことから整理します。結論からいえば、手早く部分構造の当たりをつける試験で、最終的な確認は分析機器で行います。

試験管1本で分かること・分からないこと

ヨードホルム試験の強みは、数滴の試料と汎用の試薬だけで、数分のうちに目で見て結果が出ることです。陽性なら CH3CO−R か CH3CH(OH)−R があると分かり、アセトンやエタノールが混ざっているかの見当をつけるのにも使えます。

湯浴の試験管立てで底に黄色い沈殿がたまった試験管

判定では、試料を入れない液(空試験)を同じ操作で並べ、ヨウ素の色と見分けた黄色の結晶が出たかを比べます。沈殿をろ過して乾かし、融点が 119〜122℃ 付近か、特有のにおいがあるかを確かめれば、見た目の判定を裏づけることもできます。

一方で、この試験からは部分構造があるかないかしか分からず、どの化合物か、どれだけ含まれるかは分かりません。試料が水に溶けにくい、ヨウ素や塩基が足りないといった理由で陰性に見えることもあるため、陰性の結果だけで構造を否定するのは避けます。

IR・NMR・GC-MS で同じ構造を確かめる

いまの研究開発や品質保証・品質管理では、構造の確認は機器分析が中心です。ヨードホルム反応で見ている CH3CO− の部分構造は、それぞれの機器で次のような信号として現れます。

図6:ヨードホルム試験と分析機器で、メチルケトンがどう見えるか

試験は「ある・なし」、機器は「どこに・どれだけ」まで答えます。

黄色沈殿C=O 吸収CH₃ の信号m/z 43ヨードホルム試験ある・なしが分かる量は分からない赤外分光(IR)ケトンは1715 cm⁻¹ 付近¹H NMRC=O の隣の H は2.0〜2.5 ppmGC-MS成分を分けてCH₃CO⁺ の断片

※LibreTexts「Spectroscopy of Aldehydes and Ketones」(McMurry 19.14)をもとに作成。値は飽和の脂肪族ケトンの目安。

赤外分光では飽和のケトンの C=O が 1715 cm−1 付近に強く吸収し、¹H NMR ではカルボニルの隣の水素が 2.0〜2.5 ppm に現れます。メチルケトンの CH3 は隣の炭素に水素がないので、分裂しない1本の信号になるのが見分けの目印です。

混合物の中の成分を調べるなら、ガスクロマトグラフィーで成分を分けてから質量分析計に送る GC-MS が使われます。

メチルケトンは C=O の隣で切れて CH3CO+(m/z 43)の断片を出しやすく、ヨードホルム試験と同じ部分構造の手がかりを、量まで含めて得られます。ただし m/z 43 は C3H7+ でも出るので、分子イオンなど他のピークと合わせて判断します。

ヨードホルムとヨウ素:消毒薬の歴史と工業の中の陽性物質

最後の補足として、沈殿するヨードホルムそのものと、陽性になる物質が工業でどう扱われているかを見ていきます。教科書では脇役の生成物ですが、かつては医薬品として広く使われた物質でした。

ヨードホルムの性質と消毒薬としての用途

ヨードホルムは1822年にフランスのセリュラスが、ヨウ素のエタノール水溶液にカリウムを加えて得た黄色の沈殿として見つけたのが始まりです。その後は傷にまく消毒薬として長く使われましたが、PubChem によると、現在の用途は限られるとされます。

いまも身近なのは歯科で、水酸化カルシウムとヨードホルムを含むペースト状の根管充填材が医療機器として届け出られ、歯の根の治療に使われます。ヨウ素を含むため、添付文書はヨウ素に過敏症のある患者への使用を禁忌としています。

製法としては、アセトンに次亜塩素酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、水酸化ナトリウムを作用させる方法や、ヨウ化物をうすいアルコールやアセトンの溶液で電気分解する方法が知られています。どちらも I− からその場でヨウ素の酸化種をつくる方法です。

アセトン・エタノールなど工場で扱う陽性物質

ヨードホルム反応で陽性になる物質には、化学工場で大量に扱う溶剤や原料が並びます。アセトンはクメン法でフェノールと一緒に生産され、2-プロパノールはプロピレンから、2-ブタノン(メチルエチルケトン)は塗料や接着剤の溶剤として使われています。

エタノールは発酵のあと蒸留で濃縮してつくるほか、エチレンからの合成品もあります。プロピレンやエチレンの元をたどると、原油の分留で得たナフサにたどり着きます。

これらの製品の純度や不純物の確認では、ヨードホルム試験ではなくガスクロマトグラフィーで成分ごとの量を測ります。

一方、反応そのものは医薬品などの合成にも使われています。2024年の総説では、ぜんそく薬フルチカゾンプロピオン酸エステルの合成で4工程を1回のハロホルム反応に置き換え、100 g 規模で収率85%を得た例が紹介されています。

原料のヨウ素は、日本が強みをもつ資源です。米国地質調査所(USGS)の2026年版の資料では、2025年の生産はチリの約2万3,000トンに次いで日本が約9,000トンで世界2位でした。

日本の埋蔵量 490万トンは世界全体(630万トン超)の約8割に当たり、国内のガス田や油田のかん水から取り出されています。世界での主な用途は X 線造影剤、液晶、医薬品などです。

ヨードホルム反応のよくある質問

ヨードホルムは何色で、どんなにおいですか?

ヨードホルムは黄色の結晶で、薬品らしい特有の強いにおいがあります。昔の消毒薬のにおいとして知られ、水にほとんど溶けないので反応液の中で黄色い沈殿になります。

ヨードホルム反応ではなぜ温めるのですか?

メチル基の水素が外れてエノラートができる段階が遅いと考えられていて、室温のままでは反応に時間がかかるためです。湯浴で温めると、酸化からヨウ素化、切断までの全体が速く進み、沈殿が早く現れます。

アセトンと2-プロパノールはどちらも陽性ですか?

どちらも陽性です。アセトンはメチルケトンなのでそのまま反応し、2-プロパノールはまず酸化されてアセトンになり、同じ道をたどってヨードホルムと酢酸ナトリウムができます。

ヨウ素の代わりに塩素や臭素を使うとどうなりますか?

同じ型のハロホルム反応が起き、塩素ならクロロホルム、臭素ならブロモホルムができます。どちらも液体で沈殿にならないため、目で見て判定する試験にはヨウ素が使われます。

まとめ

この記事のまとめ
  • ヨードホルム反応は、I2 と NaOH を加えて温めると黄色のヨードホルム CHI3 が沈殿する反応で、CH3CO−R か CH3CH(OH)−R(R=H・C)があると陽性
  • しくみは「酸化(アルコールのとき)→ メチル基の H 3個のヨウ素化 → OH− による C−C 結合の切断」の3段階
  • 反応式は段階ごとに I2・NaOH・NaI・H2O を数えて足す。第2級アルコールは I2 4・NaOH 6、メチルケトンは I2 3・NaOH 4
  • エタノールとアセトアルデヒドは陽性、メタノールと第3級アルコールは陰性。酢酸・エステル・アミドは通常の条件で陰性
  • 構造決定では「NaOH とヨウ素で温めて黄色沈殿」を読み取り、分子式やほかの試験と合わせて候補を絞る。現場の確認は IR・NMR・GC-MS が中心

ヨードホルム反応は、メチル基の水素が1個ずつヨウ素に置き換わり、最後に炭素どうしの結合が切れるという流れを押さえれば、条件も係数も例外も同じ理屈で説明できます。陽性になる溶剤や原料をつくる側と使う側の産業のつながりは、化学業界のサプライチェーンから見渡せます。

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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