塩素のオキソ酸とは?次亜塩素酸・亜塩素酸・塩素酸・過塩素酸の違いと酸化力

塩素酸ナトリウムをつくる電解槽が並ぶ電解工場の内部

次亜塩素酸 HClO・亜塩素酸 HClO2・塩素酸 HClO3・過塩素酸 HClO4 の違いは、塩素に付く酸素の数(1〜4個)と、それに伴う塩素の酸化数(+1〜+7)です。4つとも酸素を含む酸(オキソ酸)で、名前の「次亜」「亜」「過」は酸素の数を表す目印になっています。

酸素が多いほど酸としては強くなり、室温の薄い水溶液で相手を酸化する勢いは逆に弱くなります。ただし酸の強さと酸化剤としてのふるまいは別の物差しで、標準電極電位で比べると4つはどれも強い酸化剤です。教科書の酸化力の順は、主に反応の速さの違いを表しています。

この記事では、構造式と名前の付け方、酸の強さと酸化力が逆になる理由を順に確かめます。後半では、漂白剤・除草剤・ロケット推進剤として工場で使われる塩と、消防法や水道の水質基準での扱いまで、現場で塩素系の酸化剤を扱う人向けに整理します。

目次

塩素のオキソ酸の化学式と構造式

化学式では HClO・HClO2・HClO3・HClO4 と書きますが、構造式で原子がこの順に並ぶわけではありません。どの酸でも酸素原子1個が水素と塩素の間に入り、ヒドロキシ基(−OH)をつくるのが共通の骨組みです。

残りの酸素は塩素に直接つながり、次亜塩素酸では0個、亜塩素酸では1個、塩素酸では2個、過塩素酸では3個になります。酸として放す水素イオンは、いつも −OH の水素1個だけなので、4つとも1価の酸です。

図1:塩素のオキソ酸4つの構造式

H−O−Cl の骨組みは共通で、塩素に直接付く酸素(色付き)が0〜3個と増えていきます。

HOClHOClOHOClOOHOClOOO次亜塩素酸亜塩素酸塩素酸過塩素酸HClO(Cl:+1)HClO₂(Cl:+3)HClO₃(Cl:+5)HClO₄(Cl:+7)

※塩素と酸素の結合は、高校化学では配位結合や二重結合で描き分けることがあります。ここでは原子のつながり方だけを線で示しています。

もう1つ押さえておきたいのが、4つの酸がどんな形で存在するかです。化学辞典によると、無水の状態で取り出せる塩素のオキソ酸は過塩素酸だけで、次亜塩素酸・亜塩素酸・塩素酸は水溶液の中にしか存在しません。

そのため工場や実験室で扱うのは、酸そのものより、ナトリウムやカリウムと組んだ塩や、過塩素酸の60〜70%水溶液が中心です。次亜塩素酸も、実際には次亜塩素酸ナトリウムの液やさらし粉・高度さらし粉を水に溶かして使います。

塩素のオキソ酸の命名法:「過」「亜」「次亜」は酸素の数の目印

塩素は酸化数 −1 の塩化物イオンから +7 の過塩素酸まで、いくつもの酸化数をとります。オキソ酸も酸素の数ごとに別の物質になるため、HClO3 を基準の「塩素酸」と決め、酸素の多い・少ないを接頭語で表す約束で名前を付けています。

  • 過塩素酸 HClO4:基準より酸素が1個多い(「過」は多すぎるの意味)
  • 亜塩素酸 HClO2:基準より酸素が1個少ない(「亜」は一段下の意味)
  • 次亜塩素酸 HClO:基準より酸素が2個少ない(「亜」のさらに次)

基準が HClO3 なのは命名の約束によるもので、4つの中でいちばん安定だからではありません。前述のとおり、単離できるほど安定なのはむしろ過塩素酸です。硫酸 H2SO4 と亜硫酸 H2SO3、硝酸と亜硝酸も同じ考え方で名付けられています。

名称次亜塩素酸亜塩素酸塩素酸過塩素酸
化学式HClOHClO2HClO3HClO4
Cl の酸化数+1+3+5+7
塩の名前(ナトリウム塩の例)次亜塩素酸ナトリウム NaClO亜塩素酸ナトリウム NaClO2塩素酸ナトリウム NaClO3過塩素酸ナトリウム NaClO4
酸化数は H を +1、O を −2 として、分子全体が0になるように求めます(例:HClO4 は 1 + x − 8 = 0 で x = +7)

酸化数 +4 の二酸化塩素 ClO2 は、オキソ酸ではなく塩素の酸化物ですが、パルプの漂白や水処理で欠かせない物質です。後半の工業の章では、塩の名前とあわせて二酸化塩素も登場します。

塩素のオキソ酸の酸性の強さと酸化力の強さ

塩素のオキソ酸は、結合する酸素が多いほど強い酸になり、教科書で扱う酸化力は逆の順に弱くなります。2つの性質を同じ表に並べると、反対向きの関係がひと目で分かります。

比べる観点次亜塩素酸 HClO亜塩素酸 HClO2塩素酸 HClO3過塩素酸 HClO4
酸の強さ(pKa)弱酸(約7.5)やや強い(約2.3)強酸強酸(最も強い)
教科書の酸化力の順最も強い強いやや弱い最も弱い
Cl⁻ まで還元される電位(電子1個あたり)1.50 V1.58 V1.45 V1.39 V
存在のしかた水溶液のみ(室温で分解)水溶液のみ(室温で不安定)水溶液のみ(約40%まで)無水物も単離できる(分解しやすく危険)
出典:pKa は化学辞典・世界大百科事典(コトバンク)、電位は日本化学会「国際化学オリンピック予備問題」の酸性溶液の標準電極電位から計算(25℃、各物質の活量1の条件)

表の電位の行を見ると、酸化力は「酸素が多いほど弱い」と一直線には並ばず、4つとも 1.4〜1.6 V の近い値です。酸の強さは pKa の差が大きくはっきりした傾向ですが、酸化力の順は比べる条件に左右されるため、理由は2つの章に分けて考えます。

結合する酸素原子が増えるほど酸性が強くなる理由

酸が強いとは、水の中で −OH の水素が H+ として外れやすいことです。塩素のオキソ酸では、塩素に付く酸素が増えるほど O−H 結合の電子が塩素側へ引き寄せられ、水素が電子を手放して H+ になりやすくなります。

高校化学の電子式では、2つ目以降の酸素を、塩素の非共有電子対を受け取る配位結合として描きます。酸素の電気陰性度(3.44)は塩素(3.16)より大きいので、酸素は結合の電子を自分の側へ引き、その分だけ塩素は −OH の電子を強く引っぱります。

もう1つの理由は、H+ が外れた後に残る陰イオンの安定さです。過塩素酸イオン ClO4− では、マイナスの電荷が4個の酸素に分散するため安定で、いったん外れた H+ が戻りにくくなります。次亜塩素酸イオン ClO− では、電荷が酸素1個に集中しています。

この傾向を数字で見積もる目安が、ポーリングの規則です。オキソ酸を (HO)qEOp と書いたとき、水素の付いていない酸素の数 p が1増えるごとに pKa が約5下がるとするもので、塩素のオキソ酸にもよく当てはまります。

ポーリングの規則(オキソ酸の1段目の pKa の目安)
pKa ≒ 8 − 5p
次亜塩素酸 HClO(p = 0)と亜塩素酸 HClO2(p = 1)の例
HClO:8 − 5 × 0 = 8 (実測 約7.5)
HClO2:8 − 5 × 1 = 3 (実測 約2.3)
p:中心の原子に付き、水素が付いていない酸素の数。HClO3(p = 2)は −2、HClO4(p = 3)は −7 と予想され、水中ではどちらもほぼ完全に電離する強酸になります。目安の式なので、実測とは1程度ずれます。

図2:ポーリングの規則で予想した pKa と実測値

pKa が小さいほど強い酸です。酸素が1個増えるごとに、予想値は5ずつ下がります。

87.532.3−2−7強酸強酸次亜塩素酸亜塩素酸塩素酸過塩素酸pKa 0薄い色:規則による予想 濃い色:実測 点線の矢印:水中でほぼ完全に電離

※規則は Texas A&M 大学の講義資料、実測値は化学辞典(コトバンク:次亜塩素酸 pK 約7.49(20℃)、亜塩素酸 pKa 2.31(25℃))による。

結合する酸素原子が増えるほど酸化力が弱くなる理由:電位と反応の速さを分ける

酸化力とは、相手から電子を奪う力のことです。塩素のオキソ酸は、電子を受け取って塩化物イオン Cl− と水に変わることで相手を酸化し、その変化は半反応式で書けます。

塩素のオキソ酸が Cl− まで還元される半反応式(酸性の水溶液)
HClO + H+ + 2e− → Cl− + H2O
HClO2 + 3H+ + 4e− → Cl− + 2H2O
ClO3− + 6H+ + 6e− → Cl− + 3H2O
ClO4− + 8H+ + 8e− → Cl− + 4H2O
受け取る電子の数は、塩素の酸化数の下がり幅(+1→−1 で2、+7→−1 で8)と一致します。左右で電荷の合計はどれも −1 です。塩素酸と過塩素酸は強酸なので、水中ではイオンの形で書いています。

どれだけ強く電子を奪えるかを熱力学で表すのが標準電極電位で、値が大きいほど強い酸化剤です。

日本化学会が載せる酸性溶液の電位から、Cl− まで還元されるときの電子1個あたりの値を計算すると、次亜塩素酸 1.50 V、亜塩素酸 1.58 V、塩素酸 1.45 V、過塩素酸 1.39 Vでした(出典により ±0.02 V ほど揺れる値です)。

計算例:過塩素酸イオンが Cl− まで還元されるときの電位(電子1個あたり)
ClO4− →(1.20 V、2e−)→ ClO3− →(1.19 V、2e−)→ HClO2 →(1.67 V、2e−)→ HClO →(1.63 V、1e−)→ ½Cl2 →(1.36 V、1e−)→ Cl−
2×1.20 + 2×1.19 + 2×1.67 + 1×1.63 + 1×1.368 = 11.118 ≒ 1.39 V
各段階の電位に電子の数を掛けて足し、全体の電子の数で割ると、つないだ反応の電位になります(25℃、物質の濃度・活量がすべて1の標準状態)。どの酸も、塩素ガスが Cl− になる電位 1.36 V より大きく、強い酸化剤です。電位の表は出典によって小数第2位が揺れます。Chemistry LibreTexts の値(1.201・1.181・1.64 V)で同じ計算をしても、4つとも ±0.02 V 以内(1.38〜1.57 V など)になります。

この電位は、反応が終わったときに取り出せる力の大きさで、反応がどれだけ速く進むかは表しません。差は最大でも0.2 V ほどしかなく、亜塩素酸のほうが次亜塩素酸より大きいため、電位だけでは教科書の順番は説明できません。

大きく違うのは反応の速さです。化学辞典は過塩素酸について、熱く濃い水溶液では酸化力がきわめて強い一方、冷たく薄い水溶液では弱く安定だとしています。日本大百科全書にも、薄い過塩素酸の過塩素酸イオンは、塩素酸と違って亜鉛や硫化水素、二酸化硫黄では還元されないとあります(亜鉛は H+ と反応して水素を出します)。

過塩素酸イオンは、4個の酸素が塩素を正四面体の形で取り囲み、電荷も均等に分散しています。相手の物質が塩素に近づいて電子を渡す入口がふさがれているため、反応を始めるのに大きなエネルギー(活性化エネルギー)が必要になり、室温では反応がほとんど進まないと説明されます。

逆に次亜塩素酸は、塩素の周りの酸素が1個だけで相手が近づきやすく、不安定なので、相手の分子とすぐに反応します。教科書でよく見る「酸素が増えると陰イオンが安定になり、分解しにくくなる」という説明は、この速さの違いを指していると読むのが正確です。

図3:電位はほぼ横並び、室温での反応の速さは大きく違う

左は反応しきったときの力(熱力学)、右は室温の薄い水溶液で反応が始まる勢い(速さ)で、別の物差しです。

電位(熱力学)室温での反応の速さ次亜塩素酸亜塩素酸塩素酸過塩素酸次亜塩素酸亜塩素酸塩素酸過塩素酸1.50 V1.58 V1.45 V1.39 Vほぼ反応しないどれも Cl₂(1.36 V)より強い熱く濃い過塩素酸は別(非常に強い)

※電位は日本化学会「国際化学オリンピック予備問題」の酸性溶液の値から計算。右の棒は化学辞典・日本大百科全書などの記述をもとにした定性的な序列で、数値ではありません。

条件でも酸化力は変わります。化学辞典によると、塩素酸塩の水溶液は酸性では強い酸化力を示しますが、中性やアルカリ性では非常に弱くなります。現場では「どの酸化剤が強いか」より、pH・温度・濃度・相手の物質の4つで酸化力を見積もる考え方が役に立ちます。

酸化剤の強さを電子のやりとりで考える見方は、濃硝酸と希硝酸の半反応式とも共通しています。水に溶けた有機物の量を酸化剤の消費量で表すCOD(化学的酸素要求量)の測定も、酸化剤が条件しだいで働き方を変える例です。

工場で使われる塩素のオキソ酸の塩

工業で流通するのは、4つの酸のナトリウム塩やアンモニウム塩と、二酸化塩素です。原料はどれも食塩水を電気分解して得る塩素や塩素酸塩ですが、4つの塩が同じ工程から一度にできるわけではなく、つくり方の道筋は下の図のように分かれます。

図4:食塩水から塩素のオキソ酸の塩ができるまで

次亜塩素酸塩は塩素と苛性ソーダから、残りの3つは塩素酸ナトリウムを出発点にしてつくります。

食塩水Cl₂ + NaOH次亜塩素酸Na塩素酸Na過塩素酸Na過塩素酸NH₄二酸化塩素亜塩素酸NaNaClイオン交換膜で電解NaOH 液に Cl₂隔壁なしで電解さらに電解NH₄Cl と交換酸性で還元NaOH+還元剤

※化学辞典・ブリタニカ国際大百科事典(コトバンク)、日本ソーダ工業会、カーリットの製品情報をもとに作成。過塩素酸アンモニウムの交換の工程は一般的な経路で、各社の製法の詳細は公開されていません。

次亜塩素酸ナトリウム:水道・プール・食品工場の殺菌

次亜塩素酸ナトリウムは、苛性ソーダの水溶液に塩素ガスを吸収させてつくる有効塩素12%の液体です。原料の塩素と苛性ソーダはどちらもイオン交換膜法による食塩電解でつくられ、上下水道やプールの殺菌、パルプの漂白、食品工業まで幅広く使われます。

この液には弱点もあります。日本水道協会の手引きによると、次亜塩素酸ナトリウムは保存中に少しずつ自己分解し、亜塩素酸ナトリウムを経て塩化ナトリウムと塩素酸ナトリウムに変わり、この反応は元に戻りません。

保存中の次亜塩素酸ナトリウムの自己分解(全体の反応)
3NaClO → 2NaCl + NaClO3
酸化数 +1 の塩素が −1(NaCl)と +5(NaClO3)に分かれる不均化です。左右で Na 3個、Cl 3個、O 3個がそろっています。副反応として酸素も出ます。

分解は温度が高いほど、日光(紫外線)が当たるほど、鉄・銅・ニッケルなどの金属が混ざるほど速く進みます。水道では塩素酸の上昇を抑えるため、貯槽を日陰や空調のある場所に置き、購入量を減らして回転を早める管理がとられています。

亜塩素酸ナトリウムと二酸化塩素:繊維・パルプの漂白と水処理

亜塩素酸ナトリウムは、二酸化塩素を還元剤と苛性ソーダの液に吸収させてつくる白い粉や淡黄色の液で、酸を加えると二酸化塩素を出して漂白します。国内メーカーのカーリットは、25%液と80%粉末を製紙・繊維向けの漂白剤として販売しています。

同社の製品情報には、工場排ガスの窒素酸化物(NOx)処理、プリント基板の銅張り積層板の黒化処理、温泉・プールの殺菌といった用途も並んでいます。食品添加物としては、フキ・桃・ブドウ・サクランボの漂白などに、使える食品と量を決めたうえで使われています。

二酸化塩素 ClO2 は、黄色から赤黄色の気体で、紙・パルプや繊維、小麦粉の漂白、水の殺菌に使われます。国内のクラフトパルプの漂白は、塩素ガスを使う方式から、ダイオキシン類を生みにくい ECF 漂白(塩素ガスを使わない漂白)へ切り替わってきました。

塩素酸ナトリウム:パルプ漂白用の二酸化塩素の原料と除草剤

塩素酸ナトリウムは、塩化ナトリウムの温かい水溶液を、陽極と陰極を仕切る隔壁なしで電気分解してつくります。陽極でできた塩素が陰極側の水酸化物イオンとすぐに混ざって次亜塩素酸イオンになり、それが不均化して塩素酸イオンに変わる仕組みです。

隔壁なしの電解で塩素酸ナトリウムをつくる(全体の反応)
NaCl + 3H2O → NaClO3 + 3H2
二酸化塩素の発生(塩素酸塩を酸性で還元する例)
2NaClO3 + SO2 + H2SO4 → 2ClO2 + 2NaHSO4
1つ目の式は左右で Na 1個、Cl 1個、O 3個、H 6個がそろいます。陰極で水素が出る分、塩素の酸化数が −1 から +5 へ上がります。2つ目の式は Na 2個、Cl 2個、S 2個、O 12個、H 2個がそろい、塩素は +5 から +4 に還元されます。

二酸化塩素は衝撃や有機物との接触で爆発しやすい気体なので、製紙工場では塩素酸ナトリウムを硫酸の中で還元し、工場内の設備で発生させて漂白に使います。電気分解の基本となる陽極・陰極の反応は、電気分解の反応式で詳しく扱っています。

塩素酸ナトリウムは除草剤としても使われてきました。日本大百科全書は塩素酸塩の用途に、過塩素酸塩の製造やマッチ・花火、漂白剤を挙げています。化学辞典によると、塩素酸塩は有機物や硫黄、リンなどの燃えやすい物と混ざると摩擦などで爆発することがあり、保管では可燃物と分けることが欠かせません。

過塩素酸アンモニウム:ロケットの固体推進薬

過塩素酸アンモニウム NH4ClO4 は、固体ロケットの推進薬で燃料を燃やす酸素を供給する酸化剤です。カーリットは国内で唯一の製造メーカーで、H3 ロケットをはじめとする固体ロケットブースタや防衛用途の推進薬の主原料として、1964年から供給しています。

同社によると、製造には電気分解の技術、危険物の取扱いのノウハウ、粒の大きさをそろえる技術が欠かせません。塩素酸ナトリウムをさらに電解して過塩素酸ナトリウムにし、アンモニウム塩に変えるのが一般的な流れで、ロケットや航空機の産業構造は航空宇宙・造船業界の解説で見渡せます。

過塩素酸塩をつくる流れ(一般的な経路)
NaClO3 + H2O → NaClO4 + H2 (電解)
NaClO4 + NH4Cl → NH4ClO4 + NaCl
1つ目は左右で Na 1個、Cl 1個、O 4個、H 2個、2つ目は Na 1個、N 1個、H 4個、Cl 2個、O 4個がそろっています。1つ目の電解で、塩素の酸化数は +5 から +7 に上がります。

過塩素酸そのものは、60〜70%の水溶液が分析用の試薬として流通しています。化学辞典は、金属や鉱物の試料を溶かす前処理、電解研磨の液、過塩素酸塩の製造などの用途を挙げており、花火の酸化剤には過塩素酸カリウムが使われています。

図5:塩素のオキソ酸の塩と二酸化塩素の主な用途

酸化数が低い塩は殺菌・漂白、高い塩は酸化剤や推進薬の原料として使われます。

次亜塩素酸ナトリウム(+1)上下水道・プールの殺菌、食品工場の洗浄、パルプの漂白。有効塩素12%の液体
亜塩素酸ナトリウム(+3)・二酸化塩素(+4)繊維・木材・食品の漂白、NOx 処理、パルプの ECF 漂白、水の殺菌
塩素酸ナトリウム(+5)パルプ漂白用の二酸化塩素の原料、除草剤(用途の一つ)、過塩素酸塩の原料
過塩素酸アンモニウム(+7)固体ロケットブースタの推進薬の酸化剤。過塩素酸カリウムは花火の酸化剤

※日本ソーダ工業会「ソーダ製品の説明」、カーリット「化学品事業」「工業用化学品」「ロケット推進薬原料」、化学辞典・日本大百科全書(コトバンク)をもとに作成。かっこ内は塩素の酸化数。

安全と法令:消防法の第1類・第6類と水道の基準

塩素のオキソ酸の塩は、どれも強い酸化剤です。この章では前半で工場や倉庫で薬品そのものを扱うときの法令、後半で水道水に含まれる濃度の基準を、対象を分けて整理します。

消防法・毒劇法での扱いと保管の注意

消防法では、塩素酸塩類・過塩素酸塩類・亜塩素酸塩類が第1類危険物(酸化性固体)の品名に挙げられ、次亜塩素酸塩類も政令で第1類に加えられています。一方、液体の過塩素酸は、過酸化水素や硝酸と同じ第6類危険物(酸化性液体)です。

指定数量は、第1類が確認試験で決まる種別によって 50 kg・300 kg・1,000 kg、第6類が 300 kg です。毒物及び劇物指定令では、塩素酸塩類とこれを含む製剤が劇物(爆発薬を除く)、亜塩素酸ナトリウムとこれを含む製剤が劇物(25%以下のものと爆発薬を除く)に指定されています。

なお、次亜塩素酸ナトリウムの溶液は液体なので第1類の固体には当たらず、水道用のものは日本水道協会の手引きによると消防法・毒劇法などの規制を受けません。

酸化性の薬品のドラムを棚の段ボールから離して置いた保管室

酸化性固体は自分では燃えませんが、可燃物の燃焼を激しくします。厚生労働省のモデル SDS は、過塩素酸アンモニウムを爆発物と酸化性固体に分類し、硫黄・木炭・金属粉・有機物との混触を避けるよう求めています。

保管では、段ボールや木製パレット、油、還元剤、酸を同じ場所に置かず、こぼれた粉を可燃性の布やおがくずで拭き取らないことが基本です。こうした危険の洗い出しは工場のリスクアセスメントの手順で整理でき、受け入れる製品ごとに SDS の適用法令の欄で類・品名・指定数量を確かめます。

水道水の塩素酸・亜塩素酸・過塩素酸の基準

飲み水の側では、消毒の副産物として塩素のオキソ酸のイオンに基準が設けられています。環境省の水質基準の表では、塩素酸が水質基準で 0.6 mg/L 以下、亜塩素酸と二酸化塩素が水質管理目標設定項目で各 0.6 mg/L 以下です。

塩素酸は2008年4月に水質基準に加わり、日本水道協会によると、水道水の塩素酸は消毒に使う次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素の不純物に由来するものが多いと考えられています。前述の自己分解を抑える保管管理が、水質の管理にも直結しているわけです。

過塩素酸は、日本では毒性評価が定まらない物質などを並べた要検討項目にあり、目標値は 0.025 mg/L です。

米国環境保護庁(EPA)は2026年1月に飲料水の規制案に署名し、甲状腺ホルモンへの影響を踏まえた健康目標値を 0.02 mg/L とし、2027年5月までに最終規則に署名する予定です。

図6:塩素のオキソ酸と塩に関わる法令・基準の早見

薬品として扱うときの法令と、水に含まれる濃度の基準は別の仕組みです。

消防法 第1類塩素酸塩類・過塩素酸塩類・亜塩素酸塩類・次亜塩素酸塩類(酸化性固体)
消防法 第6類過塩素酸(酸化性液体)。指定数量 300 kg
毒劇法 劇物塩素酸塩類とこれを含む製剤(爆発薬などを除く)
水道の基準塩素酸 0.6 mg/L(基準)、亜塩素酸 0.6 mg/L(目標)、過塩素酸 0.025 mg/L(要検討)

※消防法 別表第一、危険物の規制に関する政令、毒物及び劇物指定令(国立医薬品食品衛生研究所の掲載)、環境省「水質基準について」(令和8年4月1日適用の表)をもとに作成。

安全衛生の基本的な考え方は製造業の職場環境と安全衛生も参考になります。酸化剤を扱う工程では、法令の区分を覚えるより、手元の製品の SDS で区分と混触の相手を先に確かめる習慣が事故を減らします。

塩素のオキソ酸のよくある質問

塩素酸と過塩素酸の違いは何ですか?

塩素酸 HClO3 は塩素の酸化数が +5、過塩素酸 HClO4 は +7 で、酸素が1個多いのが過塩素酸です。塩素酸は約40%までの水溶液でしか存在しませんが、過塩素酸は無水物も取り出せ、60〜70%の水溶液が試薬として市販されています。

塩素のオキソ酸でいちばん強い酸はどれですか?

過塩素酸です。水溶液中ではほぼ完全に電離し、塩素のオキソ酸の中で最も強く、知られている酸の中でも最も強い部類に入ります。

次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウムは同じものですか?

働く成分はどちらも次亜塩素酸の仲間ですが、液の pH が違います。次亜塩素酸ナトリウムの液はアルカリ性で次亜塩素酸イオン ClO− が多く、酸性寄りの次亜塩素酸水は殺菌力の強い HClO の割合が高くなります。

過塩素酸は消防法の危険物ですか?

過塩素酸は第6類危険物(酸化性液体)で、指定数量は 300 kg です。過塩素酸アンモニウムや過塩素酸カリウムなどの塩は、第1類危険物の過塩素酸塩類に当たります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 塩素のオキソ酸は HClO・HClO2・HClO3・HClO4 で、塩素の酸化数は +1・+3・+5・+7。構造式は H−O−Cl が共通
  • 名前は HClO3 を基準の「塩素酸」とし、酸素が多いと「過」、少ないと「亜」「次亜」を付ける
  • 酸素が増えるほど O−H の電子が引かれ、陰イオンの電荷も分散するので酸は強くなる(pKa 約7.5→約2.3→強酸)
  • 教科書の酸化力の順は室温・希薄での反応の速さで、電位は4つとも 1.4〜1.6 V と大差ない。過塩素酸は熱く濃いと非常に強い
  • 工業では次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウムと二酸化塩素、塩素酸ナトリウム、過塩素酸アンモニウムとして使われ、消防法の第1類・第6類や水道の基準で管理される

塩素のオキソ酸の違いは、酸素の数という1つの軸から、酸の強さ、酸化剤としてのふるまい、工場での使い道までつながっています。食塩電解から始まる無機薬品の全体像は無機化学の工業的製法まとめ、それをつくる側の産業のつながりは化学業界のサプライチェーンから見渡せます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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