銀鏡反応の反応式の作り方|トレンス試薬・構造決定での使い方と鏡づくり

ジョウロで銀引きの液を流し、鏡に変わりつつある板ガラス

銀鏡反応は、アンモニア性硝酸銀水溶液(トレンス試薬)にアルデヒドを加えて温めると、ジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+ が還元されて銀が析出し、ガラスの内側が鏡になる反応です。アルデヒドは還元剤として働き、カルボン酸の塩に変わります。

銀鏡反応の全体の式(塩基性の水溶液)
RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 3OH− → RCOO− + 2Ag + 4NH3 + 2H2O
R:炭化水素の部分。一般のアルデヒド1分子で銀が2原子析出します。組み立て方は「銀鏡反応の反応式の作り方」で順に説明します。

トレンス試薬は、硝酸銀水溶液にアンモニア水を少しずつ加え、いったん出る褐色の酸化銀の沈殿がちょうど消えたところでつくります。アンモニアは銀イオンを錯イオンにして塩基性の液に溶かしておく役で、同じ化学は1835年のリービッヒ以来、鏡や魔法瓶の銀めっきにも使われてきました。

この記事では、反応の流れと半反応式、全体の式を組む手順、構造決定での使い方、ギ酸や還元糖が陽性になる理由とフェーリング反応との違いを確かめます。後半では、鏡づくりなどの化学銀めっき、爆発性の雷銀を防ぐ扱い方、分析での位置づけまで、ラボや工場で銀を扱う人向けに整理します。

目次

銀鏡反応の反応の流れ:アルデヒドの還元性で銀イオンが銀に戻る

銀鏡反応は、アルデヒドがもつ還元性(相手に電子を渡す性質)を確かめる反応です。アルデヒド基 −CHO は酸化されてカルボキシ基 −COOH になりやすく、そのとき出る電子を銀イオンが受け取って金属の銀に戻ります。

試薬の組み合わせは「硝酸銀+アンモニア水+加温」で、文献や問題文では「アンモニア性硝酸銀水溶液を加えて温める」と書かれることが多くなります。試薬づくりと銀の析出は別の段階なので、図1のように分けて見ると流れがつかめます。

図1:試験管で見る銀鏡反応の流れ

左の3本が試薬(トレンス試薬)づくり、右の1本が検出です。褐色の沈殿が消えたところが試薬の完成の目安です。

トレンス試薬をつくる検出するAgNO₃ 水溶液褐色の Ag₂O が沈殿透明に戻る内壁に銀鏡NH₃ 水を少しNH₃ 水を追加アルデヒド無色Ag⁺ が OH⁻ と結びつく[Ag(NH₃)₂]⁺ ができる湯浴 50〜60℃

※日本大百科全書・世界大百科事典(コトバンク「銀鏡反応」)の操作の記述をもとに作成。

アルデヒドが電子を出す側の変化は、酸性の水溶液を前提にすると次の半反応式で書けます。RCHO と RCOOH を比べると右に O が1個多いので左に H2O を足し、右に足りない H を H+ で、電荷の差を e− でそろえます。

アルデヒド(還元剤)の半反応式:酸性の水溶液で書いた形
RCHO + H2O → RCOOH + 2H+ + 2e−
銀イオン(酸化剤)の半反応式
Ag+ + e− → Ag
R:アルキル基などの炭化水素の部分(ホルムアルデヒドでは H)。アルデヒドの炭素の酸化数は +2 だけ上がり、出る電子は2個です。ホルムアルデヒドだけは、できるギ酸もさらに酸化されるため、銀が最大4原子になります。

銀は電子を受け取りにくいのでアンモニアが反応を助ける、と説明されることがありますが、標準電極電位で見ると話は逆です。Ag+ + e− → Ag は +0.799 V と大きく、銀イオン自体はむしろ電子を受け取りやすい酸化剤です。

アンミン錯イオン [Ag(NH3)2]+ にすると電位は +0.373 V に下がり、酸化力はかえって弱くなります。それでもアルデヒドを酸化するには十分で、銀イオンがゆっくり還元されるので、きめの細かい銀の膜がガラスに付く点が錯イオンにする利点です。

アンモニアにはもう一つ、塩基性の液の中で銀を沈殿させずに溶かしておく役があります。アルデヒドは塩基性のほうが酸化されやすく、できたカルボン酸もすぐ中和されて塩(RCOO−)になります。強い還元剤を使ったり強く熱したりすると還元が速すぎ、銀は鏡にならずに黒灰色の粉として沈みます。

銀鏡反応の反応式の作り方

銀鏡反応の全体の式は丸暗記しなくても、試薬づくりの2段階と酸化還元の1段階を順に書けば組み立てられます。イオンの式の基本はイオン反応式の書き方と同じで、両辺の原子の数と電荷の合計を最後に必ずそろえます。

硝酸銀の銀イオンが酸化銀として沈殿する

硝酸銀水溶液にアンモニア水を少し加えると、アンモニアが水と反応してできた水酸化物イオン OH− が銀イオンと結びつきます。水酸化銀 AgOH はすぐに水を失うため、目に見えるのは褐色の酸化銀 Ag2O の沈殿です。

銀イオンが水酸化物イオンと出会う
Ag+ + OH− → AgOH
2AgOH → Ag2O + H2O
まとめると
2Ag+ + 2OH− → Ag2O + H2O
Ag2O:酸化銀(褐色の沈殿)。NH3 + H2O ⇄ NH4+ + OH− で OH− が供給されます。

金属イオンが液の性質によって沈殿したり溶けたりする話は、硫化水素と金属イオンの沈殿の考え方とつながっています。沈殿が出る量のアンモニアと、溶かす量のアンモニアは違うので、ここでは「少し加える」段階です。

酸化銀の沈殿は過剰のアンモニア水でジアンミン銀(I)イオンになる

さらにアンモニア水を加えると、銀イオン1個にアンモニア分子2個が結びついたジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+ ができ、沈殿は溶けて透明に戻ります。この錯イオンは、銀を中心にアンモニアが左右に並んだ直線の形をしています。

酸化銀がアンモニアで溶ける
Ag2O + 4NH3 + H2O → 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH−
検算:Ag 2・N 4・H 14・O 2 が左右で一致し、電荷の合計は左右とも 0 です。

沈殿がちょうど消えたところで止めると、余分なアンモニアが少ない試薬になります。この液を「アンモニア性硝酸銀水溶液」や「トレンス試薬」と呼び、1882年にドイツの化学者ベルンハルト・トレンスが報告したことから名前が付いています。

アルデヒドとの酸化還元反応で銀が析出する

トレンス試薬は塩基性なので、先ほどの酸性形の半反応式を塩基性の形に直してから足します。酸化剤と還元剤の半反応式の作り方と同じく、出る電子と受け取る電子の数をそろえるのが要です。

図2:銀鏡反応の全体の式を組む4つの手順

酸性形の半反応式を塩基性に直し、電子の数をそろえて足し、最後に原子と電荷を検算します。

STEP 1アルデヒドの式を書くRCHO + H₂O → RCOOH + 2H⁺ + 2e⁻(酸性形)
STEP 2塩基性の形に直す両辺に OH⁻ を3個足し、H⁺ と OH⁻ を H₂O に。RCOOH は RCOO⁻ に
STEP 3電子の数をそろえて足す銀の式 [Ag(NH₃)₂]⁺ + e⁻ → Ag + 2NH₃ を2倍して足し、e⁻ を消す
STEP 4原子と電荷を検算するAg・N・H・O の数と、左右の電荷の合計(−1)がそろえば完成
アルデヒドの半反応式:塩基性の水溶液で書いた形
RCHO + 3OH− → RCOO− + 2H2O + 2e−
ジアンミン銀(I)イオンの半反応式(×2)
2[Ag(NH3)2]+ + 2e− → 2Ag + 4NH3
足して電子を消した全体の式(イオン反応式)
RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 3OH− → RCOO− + 2Ag + 4NH3 + 2H2O
検算:Ag 2・N 4・H 16・O 4(R を除く)が左右で一致し、電荷の合計は左右とも −1 です。

液の中には NH4+ もあるので、カルボン酸の陰イオンをアンモニウム塩として書くこともできます。上の式の両辺に NH4+ の生成(NH3 + H2O → NH4+ + OH−)を足して整理すると、次の形になります。

アンモニウム塩で書いた全体の式
RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH− → RCOONH4 + 2Ag + 3NH3 + H2O
検算:Ag 2・N 4・H 15・O 3(R を除く)、電荷の合計は左右とも 0。アルデヒド1分子で銀が2原子析出する比は、どちらの書き方でも同じです。

2つの式は見た目が違っても、同じ反応を別の粒子の組み合わせで書いたものです。係数を聞かれたら、アルデヒド1に対して [Ag(NH3)2]+ が2、銀が2という比を押さえ、残りの NH3・OH−・H2O は原子と電荷の検算で決めれば迷いません。

構造決定での使い方:反応を組み合わせて第一級アルコールを絞り込む

銀鏡反応で直接わかるのは「還元性のある基、主にアルデヒド基があるかどうか」だけです。それでも有機化合物の構造決定では、アルコールを酸化してから銀鏡反応を行い、第一級アルコールかどうかを見分ける使い方がよく登場します。

分子式 C4H10O を例にとると、構造異性体はアルコールが4種類、エーテルが3種類の計7種類あります。どれも無色の液体でにおいも似ているため、見た目ではなく反応の結果を順に組み合わせて候補を減らしていきます。

図3:C₄H₁₀O の7つの異性体を反応で絞り込む流れ

銀鏡反応は3段目で使います。どの段で何が分かるかを分けて追うのがコツです。

1段目:金属ナトリウムを加える
気体(H₂)が出るアルコール 4種類−OH をもつ。次の段へ進む
反応しないエーテル 3種類ジエチルエーテルなど。ここで分かれる
ポイント−OH の有無アルコールとエーテルの区別だけが分かる
2段目:二クロム酸カリウムなどで酸化する
第一級1-ブタノール・2-メチル-1-プロパノールアルデヒドになる
第二級2-ブタノールケトン(2-ブタノン)になる
第三級2-メチル-2-プロパノール酸化されにくい
3段目:酸化した液で銀鏡反応・ヨードホルム反応
銀鏡 陽性第一級だったアルデヒドができた証拠
銀鏡 陰性・ヨードホルム 陽性第二級だったCH₃CO− をもつケトンができた
どちらも陰性第三級だったアルデヒドもケトンもできていない

※2つの第一級アルコール(直鎖と枝分かれ)の区別は、銀鏡反応ではつきません。沸点や生成物の構造など別の情報を使います。

第二級アルコールの 2-ブタノールは CH3CH(OH)− の部分をもつので、酸化する前でもヨードホルム反応で黄色の沈殿が出ます。銀鏡反応が陰性でヨードホルム反応が陽性なら、第二級と判断できます。

注意したいのは、銀鏡反応が陽性でも「元の物質がアルデヒドだった」とは限らない点です。酸化の段を挟んだのか、元の液をそのまま調べたのかで結論が変わるので、どの操作の後の結果なのかを必ず一緒に記録することが、実験ノートでも問題を解くときでも大切です。

アルデヒドではないのに銀鏡反応・フェーリング反応が陽性になる物質

銀鏡反応は「アルデヒドの検出反応」と紹介されますが、アルデヒドに分類されない物質でも陽性になるものがあります。どれも分子の中にアルデヒド基と同じ働きをする部分をもつか、反応液の中でその形に変わるのが理由です。

  • ギ酸 HCOOH:カルボン酸ですが、構造式 H−CO−OH の左側に H−C(=O)− というアルデヒド基と同じ並びがあります。還元剤として働き、二酸化炭素まで酸化されます
  • グルコース(ブドウ糖):水溶液中では大半が環の形ですが、一部が鎖の形になってアルデヒド基を出し、平衡が移りながら反応が進みます
  • フルクトース(果糖):ケトンの形の糖ですが、塩基性の液の中でアルデヒド基をもつ形に変わるため陽性になります
ギ酸の半反応式(酸性の水溶液で書いた形)
HCOOH → CO2 + 2H+ + 2e−
グルコースの銀鏡反応
C6H12O6 + 2[Ag(NH3)2]+ + 3OH− → C6H11O7− + 2Ag + 4NH3 + 2H2O
C6H11O7−:グルコン酸イオン(アルデヒド基がカルボキシ基の陰イオンに変わったもの)。検算:C 6・H 27・O 9・N 4、電荷は左右とも −1 です。

環の形の糖が鎖の形に開く仕組みは、ヘミアセタールとアセタールの違いで詳しく扱っています。ショ糖(スクロース)やデンプンは、還元性を担う部分が糖どうしの結合に使われているため陰性で、還元糖かどうかを見分ける目安になります。

図4:銀鏡反応で陽性・陰性になる主な物質

陽性の物質は、アルデヒド基か、反応液の中でアルデヒド基になる部分をもっています。

アルデヒドホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなど。陽性
ギ酸H−C(=O)− をもつカルボン酸。陽性
還元糖グルコース、フルクトース、マルトースなど。陽性
陰性の例ケトン(アセトン)、ショ糖、デンプン、アルコールそのもの

※日本大百科全書・世界大百科事典(コトバンク)、Fehling’s solution(Wikipedia)の記述をもとに作成。

同じく還元性を調べるフェーリング反応は、酸化剤が銀ではなく銅(II)イオンで、陽性なら青い液から赤い酸化銅(I) Cu2O が沈殿します。陽性になる範囲はおおむね重なりますが、ベンズアルデヒドのような芳香族アルデヒドはフェーリング反応では反応しにくい点が違います。

比べる観点銀鏡反応(トレンス試薬)フェーリング反応
酸化剤ジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+酒石酸の錯体になった銅(II)イオン
陽性のときの変化銀が析出し、器の内側が鏡になる青い液から赤色の Cu2O が沈殿する
試薬のつくり方硝酸銀+アンモニア水。使う直前につくり、保存しないA液(硫酸銅(II))と B液(酒石酸ナトリウムカリウム+水酸化ナトリウム)を使う直前に混ぜる
芳香族アルデヒド銀鏡ができる反応しにくい
量を測る使い方主に定性(あるかないか)還元糖の定量(レイン・エイノン法など)に使われる
出典:コトバンク「銀鏡反応」、Wikipedia「Fehling’s solution」「Tollens’ reagent」、税関「デキストリン中の還元糖分の定量分析法」をもとに作成

工業の銀鏡:鏡・魔法瓶・オーナメントの化学銀めっき

試験管の銀鏡反応と工場の銀引きは、どちらも銀のアンミン錯イオンを還元剤でゆっくり還元し、ガラスの上に銀を析出させる点で同じ化学です。違うのは目的で、検出では銀が出るかどうかを見れば足りますが、製造では大きな面に均一な反射膜をつくり、何年もはがれないように守る工程が加わります。

図5:試験管の銀鏡反応と、鏡の銀引きの違い

反応は同じでも、製造では前処理・膜の厚さ・保護層までを工程として管理します。

試験管の銀鏡反応(検出)目的:還元性のある物質があるかを見る還元剤:調べたい試料(アルデヒド・還元糖など)付く場所:試験管の内壁。膜のむらは問わない後処理:銀を溶かして洗い、廃液を回収する定性分析
鏡の銀引き(製造)目的:大きな面に均一で丈夫な反射膜をつくる還元剤:ブドウ糖など、速さを調整しやすいもの付く場所:研磨・洗浄し、スズの液で処理したガラス面後処理:銅などで裏打ちし、塗装で銀を守る無電解めっき

※大阪市立科学館研究報告(2014)、コトバンク「化学めっき」の記述をもとに作成。

鏡の銀引き:ブドウ糖でゆっくり還元し、銅と塗装で守る

ガラスに銀を化学的に付けて鏡をつくる方法は、1835年にドイツの化学者リービッヒが開発しました。それ以前は、スズ箔に水銀をしみ込ませてガラスに密着させるアマルガム法が主流で、仕上がりまでに約1か月かかったとされています。

大阪市立科学館が2013年に調べた手作業の銀引きでは、磨いたガラスにスズの液をかけてから、銀の液とブドウ糖の液を混ぜて流していました。職人は気温に合わせてブドウ糖液の濃さを変え、夏は薄くして反応をゆっくりにしていたそうで、還元の速さが鏡の仕上がりを決めることがよく分かります。

図6:銀引きの鏡の断面と、光が返る場所

光はガラスを通って銀の膜で反射し、銀の裏は銅と塗装が守ります。

ガラス板銀の膜(反射する面)銅などの裏打ち保護塗装研磨・洗浄し、スズの液で前処理光はガラスを通り、銀の膜で反射して戻ります(鏡の表はガラス側)可視光(380〜800 nm)の反射率:銀 92.7〜98.7% アルミ 85.8〜92.5%

※大阪市立科学館研究報告 24(2014)「手作業による鏡の製作の現場調査」(反射率は理科年表 平成25年版による)をもとに作成。層の厚さは実際の比ではありません。

いまの鏡は、ガラスへの銀引きかアルミニウムの真空蒸着を機械化したラインでつくられ、廉価な鏡にはプラスチック板にアルミを蒸着したものが多くなります。可視光の反射率は銀のほうが高いため、像の鮮明さを求める鏡には銀が使われ、銀面には銅などを塗る裏打ちと塗装ではがれと変色を防ぎます。

魔法瓶とクリスマスオーナメント

ガラス製の魔法瓶(デュワー瓶)は、二重のガラス瓶の間を真空にして伝導と対流を止め、内面の銀めっきで熱の放射を跳ね返す構造です。英国のデュワーが1890年代に考案し、この銀めっきにも銀鏡反応が使われてきたことが辞典に記されています。

ガラスのクリスマスオーナメント発祥の地とされるドイツのラウシャでは、1870年から玉飾りの内側を硝酸銀の液で銀めっきするようになりました。液を玉の中に入れ、温水の中で回すと内側全体に銀鏡ができ、外から見ると銀色に光ります。

無電解めっきとして見た銀鏡:還元剤と前処理

電気を流さず、還元剤で金属イオンを金属に戻して表面に付ける方法を化学めっき(無電解めっき)と呼び、銀鏡はその原型にあたります。電気を使う電気めっきとの違いは、電気分解のしくみと比べると分かりやすく、電気を通さないガラスやプラスチックにも金属を付けられる点が最大の特徴です。

還元剤は金属ごとに使い分けられていて、辞典には次のような組み合わせが載っています。還元が強く速いほど膜は早く付きますが、粉になりやすくなるので、きれいな面が要る用途ではゆっくり進む還元剤や条件が選ばれます。

  • 銀・銅の化学めっき:ホルムアルデヒド、ブドウ糖など(鏡の銀引きはブドウ糖が代表)
  • ニッケルの化学めっき:次亜リン酸塩、ボラン(水素化ホウ素の化合物)など
  • 電気を通さない材料の前処理:塩化スズ(II)で表面を鋭敏化し、塩化パラジウムで活性化して、析出の起点をつくる

手作業の銀引きでガラスにスズの液をかけていたのも、この前処理と同じ考え方です。無電解ニッケルなど工業で使われるめっきの種類と選び方はめっきの種類と違いに、めっきを含む表面処理の全体像は表面処理の基本原理にまとめています。

化学めっきは膜の厚さをそろえやすい反面、析出の速さは遅めで、プラスチック部品に電気めっきをかける前に表面へ電気を通すための下地づくりにも使われます。亜鉛やスズで鉄を守るトタンとブリキのめっきが「さびを防ぐ」ためなのに対し、銀鏡の銀は「光を返す」ために付けている点が目的の違いです。

実験で扱うときの安全:トレンス試薬は作り置きしない

トレンス試薬でいちばん気をつけたいのは、つくってから置いておくと爆発性の物質ができることです。アンモニア性の銀溶液を保存すると窒化銀(日本語では雷銀と呼ばれる)ができ、数日置いただけの溶液や、冷蔵庫に入れておいた溶液が爆発した報告もあります。

湯浴で温めて内側に銀鏡ができた試験管を手袋で持つ手元

冷やしても静かに扱っても危険は下がらないため、トレンス試薬は使う直前に必要な量だけつくり、残りは保存しないのが原則です。容器の表面に浮いた膜や壁に付いた銀にも爆発性の化合物が含まれることがあるので、試薬をつくった容器ごと早めに処理します。

  • 作り置きしない:使う直前に必要な量だけ調製し、実験の終わりに残りを処理する
  • すぐに壊す:使い終わった液は放置せず、希酸でアンモニアを中和するか、食塩水や希塩酸で銀を塩化銀 AgCl として沈殿させ、爆発性の化合物ができない状態にする
  • 銀は回収する:処理した液と沈殿は、施設の廃液ルールに従って銀を含む廃液として回収し、流しに捨てない
  • 強く熱さない:直火で加熱せず、50〜60℃の湯浴で温める

原料の硝酸銀は、厚生労働省のモデルSDS(安全データシート)で皮膚腐食性や水生生物への毒性に分類され、劇物と消防法の第1類(酸化性固体)に当たります。皮膚に付くと組織を傷めて黒く変色するので、保護手袋と保護眼鏡を着け、可燃物や還元性の物質と離して保管します。

試験管の内側に付いた銀は、希硝酸を少し入れると溶けて硝酸銀に戻ります。銀と希硝酸の反応は濃硝酸と希硝酸の反応の主題そのもので、有毒な一酸化窒素が出るため、ドラフトの中で扱います。こうした手順を作業ごとに洗い出して決めておくのがリスクアセスメントの考え方です。

器具に付いた銀を希硝酸で溶かす
3Ag + 4HNO3 → 3AgNO3 + NO + 2H2O
廃液の銀を塩化銀として沈殿させる
Ag+ + Cl− → AgCl
NO:一酸化窒素(無色の有毒な気体で、空気中で赤褐色の NO2 に変わる)。AgCl:白色の沈殿で、光に当たると黒ずみます。

分析での位置づけ:定性試験としてわかること、量を測る方法との違い

銀鏡反応は、還元性のある物質があるかないかを見る定性試験です。どれだけあるかは鏡の濃さからは決められず、構造を詳しく知るにも向かないため、いまの研究や品質管理では機器分析や滴定と組み合わせて使われます。

構造決定の主役は機器分析で、赤外分光(IR)で脂肪族アルデヒドの C=O が 1740〜1720 cm−1、C−H が 2830〜2695 cm−1 に吸収を示します。¹H NMR ならアルデヒドの水素が 9〜10 ppm に現れ、どこにアルデヒド基があるかまで分かります。

混ざった試料から目的の成分を分けて量るなら、クロマトグラフィーが使われます。銀鏡反応は、試薬と試験管があればその場で結果が見えるので、教育や現場での簡易な確認、未知試料の当たりを付ける最初の一手として役割が残っています。

還元糖の量を測る場面では、銀ではなく銅の還元を使う方法が公的な分析法に残っています。税関のデキストリン中の還元糖の分析法では、フェーリング溶液を沸騰させながら糖の液を滴下し、指示薬メチレンブルーの青が消えたところを終点とするレイン・エイノン法で、還元糖をぶどう糖として定量します。

色や沈殿の変化で成分を確かめる反応は、食品工場や医薬の品質管理で今も基礎として使われています。タンパク質を調べるビウレット反応やニンヒドリン反応などはアミノ酸・タンパク質の検出反応にまとめていて、銀鏡反応と同じく「何が起きたら陽性か」を押さえておくと結果を読み違えません。

銀鏡反応のよくある質問

ケトンが銀鏡反応で陰性になるのはなぜですか?

ケトンのカルボニル基の炭素には水素が付いておらず、炭素どうしの結合を切らないとそれ以上酸化されないためです。ただしフルクトースのように、隣の炭素に −OH をもつケトンは塩基性の液でアルデヒドの形に変わり、陽性になります。

銀鏡ができずに黒い粉が沈むのはなぜですか?

還元が速すぎるか、ガラスの内側が汚れていて銀が付く足場がないためです。強く加熱したり還元力の強い物質を多く入れたりすると銀は細かい粒のまま沈むので、器具をよく洗い、湯浴で穏やかに温めます。

アンモニア性硝酸銀水溶液とトレンス試薬は同じものですか?

同じものを指します。硝酸銀水溶液にアンモニア水を加えて褐色の沈殿を溶かした液で、主成分はジアンミン銀(I)イオンです。水酸化ナトリウムを少し加えてからアンモニアで溶かす調製法もあります。

銀鏡反応とフェーリング反応は、どちらが感度が高いですか?

一概には比べられず、対象と目的で選びます。銀鏡反応は芳香族アルデヒドでも陽性になり、変化が鏡として見やすい一方、フェーリング反応は A液と B液を分けておけば保存でき、還元糖の定量法としても使われています。

まとめ

この記事のまとめ
  • 銀鏡反応はトレンス試薬の [Ag(NH3)2]+ がアルデヒドに還元されて銀が析出する反応で、全体の式は RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 3OH− → RCOO− + 2Ag + 4NH3 + 2H2O
  • 試薬は 2Ag+ + 2OH− → Ag2O + H2O の褐色沈殿を、過剰のアンモニアで錯イオンにして溶かしてつくる
  • 構造決定では、Na との反応・酸化・銀鏡反応・ヨードホルム反応を組み合わせて第一級アルコールを絞り込む
  • ギ酸・グルコース・フルクトースも陽性。フェーリング反応は銅(II)の還元で、芳香族アルデヒドには反応しにくい
  • 鏡・魔法瓶・オーナメントの銀めっきは無電解めっきの原型。トレンス試薬は雷銀ができるので作り置きせず、すぐ処理して銀を回収する

銀鏡反応は、半反応式で読む酸化還元と、ガラスに膜をつくる表面処理の技術が一本の線でつながる題材です。化学の知識がどんな仕事で生きるかは、品質保証・品質管理の仕事や、化学メーカーの全体像から見渡せます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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