ゾルとゲルの違いとは?キセロゲル・ゲル化と工業のゾル-ゲル法

ゾルの槽から引き上げたガラス板と排気フード、乾燥炉が並ぶ作業場

ゾルとゲルの違いは、流れるか、形を保って流れないかという流動性の差です。ゾルはコロイドの小さな粒が液体の中でばらばらに動いている状態で、ゲルは粒や長い分子がつながった網目が液体を抱え込み、全体が固まった状態を指す言葉です。

牛乳や墨汁はゾル、ゼリーや豆腐、ゆで卵はゲルの例です。温めると溶けて冷やすと固まる寒天のように、同じ物質がゾルとゲルを行き来することもあり、この変化はガラスの膜づくりや乾燥剤、塗料、食品の製造で毎日使われています。

この記事では、まず違いを表で確かめ、コロイドの考え方、定義と覚え方、エアロゾルやキセロゲル、ゲル化とゾル化を順に整理します。後半では、ガラスの膜や断熱材をつくるゾル-ゲル法から、乾燥剤・食品・塗料のゲル、粘度とゲル化時間の測り方まで、工場での使われ方を見ていきます。

比べる観点ゾルゲルキセロゲル(乾いたゲル)
流れるか流れる(容器の形になる)流れない(自分の形を保つ)流れない固体
粒や分子の状態ばらばらに散らばり、自由に動くつながって網目をつくる網目の骨格だけが残る
液体の居場所粒のまわりを自由に満たす網目のすき間に閉じ込められる抜けて、すき間は空気になる
身近な例牛乳、墨汁、生卵、豆乳ゼリー、寒天、豆腐、ゆで卵高野豆腐、シリカゲル
工業での例ゾル-ゲル法のコーティング液、塗料塗布直後の膜、食品のゲル、高吸水性ポリマー乾燥剤、触媒の担体、クロマトグラフィーの充塡剤
出典:化学辞典 第2版・世界大百科事典・日本大百科全書(コトバンク「ゾル」「ゲル」)、IUPAC Gold Book「gel」「xerogel」をもとに作成
目次

コロイドとは?溶液と沈殿のあいだの大きさの粒

ゾルとゲルはどちらもコロイドの状態を表す言葉なので、先にコロイドを確かめておきます。砂糖を水に溶かすと、砂糖は分子1個ずつにばらけて水と見分けがつかなくなり、透明な液になります。このように分子やイオンの大きさで散らばったものを溶液(真の溶液)と呼びます。

反対に、土を水に混ぜると最初は濁っても、粒が大きいので時間がたつと底に沈みます。水に溶けにくい物質が粒として現れて沈む様子は沈殿ができる理由で詳しく扱っており、粒が大きく重いほど早く沈みます。

牛乳はその中間で、白く濁っていても置いておくだけでは沈みません。乳脂肪やタンパク質の粒が、分子よりは大きく、沈むほどは大きくない大きさで散らばっているからで、この状態をコロイド、液体が主役のものをコロイド溶液といいます。

図1:溶液・コロイド・沈殿は粒の大きさで分かれる

同じ「水に混ぜた液」でも、散らばった粒の大きさで、透明か、濁っても沈まないか、沈むかが変わります。

砂糖水牛乳泥水溶液:透明コロイド:濁るが沈まない粒が大きく底に沈む分子・イオンの大きさおよそ1 nm〜1 µmさらに大きい粒

※1 nm=10−9 m、1 µm=10−6 m。IUPAC の定義(およそ1 nm〜1 µm)をもとに作図。高校の教科書では上限を 10−7 m 程度とすることが多い。

国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、およそ1 nm〜1 µm の粒が散らばった状態をコロイドとしています。高校の教科書では 10−9〜10−7 m 程度とされることが多く、境界ははっきり決まっていないため、どちらの書き方も間違いではありません。

コロイドの粒は小さくても光をよく散らすので、横から光を当てると通り道が筋になって見えるチンダル現象が起き、見た目が澄んでいても溶液と見分けられます。透析や電気泳動といった実験での確かめ方は水酸化鉄(III)コロイドの性質と実験にまとめています。

ゾルとは?粒が液体の中で自由に動く流れるコロイド

ゾルは、コロイドの粒が液体の中で互いに独立して散らばり、全体として流れる状態です。化学辞典ではコロイド溶液と同じ意味とされ、牛乳、生卵の白身、墨汁、絵の具を水で溶いた液などが身近な例になります。

粒どうしがつながっていないので、容器を傾ければ液はそのまま流れ、粒も液と一緒に動きます。粒は水分子にあちこちからぶつかられて小刻みに動いており、このブラウン運動と粒どうしの反発のおかげで、軽く混ぜただけでも長く沈まずにいられます。

液体の種類で呼び名が変わり、水に散らばったものをヒドロゾル、アルコールや油などの有機溶媒に散らばったものをオルガノゾルといいます。金の粒を散らしたガラスのように、固体の中に粒が散らばった「固形のゾル」もあり、赤いガラスの色はこうした金属のコロイド粒子によるものです。

ゾルはさらに、金や酸化鉄の粒のように少量の電解質で集まって沈む疎水性のものと、ゼラチン水溶液のように水分子をまとって安定な親水性のものに分かれます。どちらに当たるかで、粒を沈めたいときの薬品の量や、逆に散らしておくための工夫が変わります。

ゲルとは?網目が液体を閉じ込めて流れなくなった状態

ゲルは、ゾルが流動性を失って固まった状態です。粒や長い分子がところどころで結びついて容器いっぱいに広がる網目をつくり、そのすき間に液体を閉じ込めているため、傾けても流れず、ぷるぷるとした弾力を持ちます。

図2:ゾルとゲルでは、粒のつながり方が違う

ゾルでは粒がばらばらに動き、ゲルでは粒や分子がつながった網目が液体を抱え込みます。

ゾル:流れるゲル:流れないゲル化ゾル化粒がばらばらに動く網目が液体を抱え込む

※世界大百科事典・化学辞典(コトバンク「ゲル」)の記述をもとに作図。ゲルの網目は、粒がつながったもの(シリカゲルなど)と、長い高分子が絡んだり結合したりしたもの(ゼラチン・寒天・高分子ゲル)がある。

旧来の説明では「流動性のないコロイド溶液」とも書かれますが、ゲルは液体が網目に閉じ込められた半固体なので、溶液とは区別して扱うのが今の考え方です。IUPAC はゲルを、液体が全体にしみ込んで膨らんだ、流れない網目と定め、小さいながら一定の力(降伏応力)までは形を保つとしています。

ゲルは見た目より多くの液体を含めます。世界大百科事典によると、寒天のゲルは99.8%以上の水を含むこともでき、ゼリーやこんにゃくがほとんど水でできていても形を保つのは、わずかな量の網目が全体を支えているからです。

網目のでき方には、水素結合のような弱い結びつきでできるものと、共有結合でがっちり結ばれるものがあります。紙おむつに使われる高吸水性ポリマーの網目は後者の例で、架橋の量を変えると、どれだけ水を吸うか、どれだけ丈夫なゲルになるかを設計できます。

ゾルとゲルの覚え方:語源で区別する

いちばん確実な覚え方は語源で、ゾル(sol)は溶液を表す solution、ゲル(gel)はゼラチン(gelatin)の頭から来た語とされます。ゾル=溶液のように流れる、ゲル=ゼラチンのように固まると結びつけると取り違えません。

コロイドやゾルという言葉は、19世紀の英国の化学者トーマス・グレアムが使い始めたとされます。グレアムはケイ酸の研究で、流れる液をヒドロゾル、ゼリー状に固まったものをヒドロゲルと呼び分けており、どちらもいまの工業でそのまま使われている呼び名です。

ゾルとゲルの覚え方:字の形で区別する

カタカナの形で覚える方法もあります。「ゾ」の斜めの線は滑り台のようで中身が流れていきそうに見え、「ゲ」は横棒が受け止めて動かなさそうに見えるので、「ゾ」は流れる、「ゲ」は止まると覚えておくと、語源を忘れたときの手がかりになります。

関連用語:エアロゾル・キセロゲル・シリカゲル

ゾルやゲルが付く言葉は多いものの、整理すると、粒が何に散らばっているかを表す名前と、ゲルが乾いた後の形の名前、そして製品名に分かれます。エアロゾルは前者、キセロゲルとエアロゲルは乾いた後の形、シリカゲルは製品名です。

エアロゾルは、液体や固体の細かな粒が空気などの気体に散らばったものです。雲や霧、煙がその例で、化学辞典では空気を分散媒とするゾルを「エーロゾル(煙霧質)」と呼んでいます。「エアロ」は空気を表す接頭語で、スプレー缶の「エアゾール」も同じ仲間の言葉です。

キセロゲルは、ゲルから液体をすべて抜いた後に残る、すき間の多い網目です。IUPAC はシリカゲルや乾いたゼラチンを例に挙げており、身近なところでは豆乳(ゾル)をにがりで固めた豆腐(ゲル)を、凍らせてから乾かした高野豆腐がキセロゲルに当たります。

図3:豆乳から高野豆腐まで、ゾル・ゲル・キセロゲルの順に変わる

同じ大豆のタンパク質が、流れる液、固まった豆腐、すき間だらけの乾物へと形を変えます。

ゾル豆乳タンパク質や油の粒が水に散らばり、流れる
ゲル豆腐にがりでタンパク質がつながり、水を抱えたまま固まる
キセロゲル高野豆腐水が抜けて網目だけが残り、すき間は空気になる

※日本大百科全書(コトバンク「ゲル」)はキセロゲルの例に高野豆腐、珪藻土、酸性白土を挙げている。

キセロ(xero-)は「乾いた」を表す接頭語です。網目の骨格だけが残ると、もともと液体があった部分が細かな穴になり、重さのわりに表面積がとても大きい固体になるので、気体や水分をよく吸着します。

同じ乾いたゲルでも、網目をほとんど縮ませずに液体を気体へ置き換えたものはエアロゲルと呼びます。IUPAC は分散相が気体である微多孔質の固体からなるゲルと定めており、キセロゲルとの違いは、後の工場の章で見る乾かし方で決まります。

シリカゲルは、ケイ酸のゲルを乾かしたキセロゲルの代表で、お菓子や電子部品の袋に入っている乾燥剤です。水ガラス(ケイ酸ナトリウムの水溶液)に酸を加えてゲルをつくり、洗って乾かす製法は後半で扱い、ほかの乾燥剤との使い分けは乾燥剤の選び方で比べています。

ゲル化・ゾル化とは?温度や力で行き来するゲルと戻らないゲル

流れるゾルが網目をつくって流れないゲルになることをゲル化、反対に網目がほどけてゲルが流れるゾルに戻ることをゾル化といいます。ゲル化のきっかけには、温度の変化、化学反応による結合、塩や酸などの添加があり、きっかけによって元に戻れるかどうかが分かれます。

寒天やゼラチンは、温めると網目がほどけてゾルになり、冷やすと再び網目をつくってゲルになる熱可逆的なゲルです。

国連食糧農業機関(FAO)などがまとめた寒天の規格では、1%の液を30℃に置くと固いゲルになり、70℃に1時間置いても溶けず、95℃より高く加熱して初めて溶けると確認試験に定めています。

固まる温度と溶ける温度がこれだけ離れているので、寒天のゼリーは夏の室温でも溶けません。ゼラチンのゼリーは口の中で溶ける食感が持ち味で、寒天のゼリーはもろい口当たりです。カラギーナンのように溶ける温度が比較的高いゲル化剤もあり、溶ける温度や食感の違いで使い分けています。

一方、生卵をゆでてゆで卵にする変化は戻らないゲル化です。熱でタンパク質の形がほどけ、分子どうしが新しく結びついて網目ができるので、冷ましても生卵には戻りません。共有結合で網目をつくる高分子のゲルも、いったん固まると溶かして戻すことはできません。

光を当てた部分だけを固める感光性高分子も、液体の樹脂が反応で網目をつくって固まる点では同じ仲間です。接着剤や歯科材料、3Dプリンターの樹脂のように、狙った場所と時間で固めたい製品では、この戻らないゲル化を利用します。

温度を変えずに、力だけでゲルとゾルを行き来する性質もあります。かき混ぜたり振ったりするとゾルのように流れ、置いておくとまたゲルに戻る現象はチキソトロピー(揺変性)と呼ばれ、ヨーグルトやペンキが示す性質として知られています。

熱可逆なゲルは型取りにも使われます。歯科用の寒天印象材の添付文書では、約100℃に加熱してゾル状に溶かし、石膏の模型を入れた容器に約45℃以上で流し込みます。約20℃の水で冷やしてゲルに戻すと、模型の形を写し取った型ができると説明されています。

型を外したら、そのゲルの型に別の石膏を流し込んで模型をつくります。歯科で使う石膏の種類と固まる仕組みは石膏の性質と用途にまとめており、ゾルとゲルを行き来する寒天と、水と反応して固まる石膏を組み合わせた工程です。

実際の工場では:ゾル-ゲル法でガラス膜や断熱材をつくる

工場では「流れる」ゾルの状態で液を塗ったり型に流したりして、「流れない」ゲルにして形を決め、最後に乾かして焼くという順番で、ゾルとゲルの性質を製造工程に組み込んでいます。その代表が、液体の原料から酸化物のガラスやセラミックスをつくるゾル-ゲル法です。

金属アルコキシドの加水分解と縮合でゾルをつくる

ゾル-ゲル法は、金属アルコキシドなどを加水分解・重縮合させてできる無機の高分子を前駆体にして、比較的低い温度でセラミックス材料をつくる方法です。シリカ(SiO2)の膜なら、ケイ素にエトキシ基が4つ付いたテトラエトキシシラン(TEOS)がよく使われます。

TEOS に水を加えると、エトキシ基が水のヒドロキシ基と入れ替わってエタノールが外れます。これが加水分解で、できた Si–OH(シラノール)どうしが水を外してつながると、ケイ素と酸素が交互に並ぶ Si–O–Si 結合(シロキサン結合)ができます。

① 加水分解(エトキシ基1つが OH に入れ替わる)
Si(OC2H5)4 + H2O → HOSi(OC2H5)3 + C2H5OH
② 縮合(2つの Si–OH から水が外れて Si–O–Si ができる)
2HOSi(OC2H5)3 → (C2H5O)3Si–O–Si(OC2H5)3 + H2O
③ すべてが反応しきった場合の全体
Si(OC2H5)4 + 2H2O → SiO2 + 4C2H5OH
Si(OC2H5)4:テトラエトキシシラン(TEOS) C2H5OH:エタノール。①②が何度も繰り返されて網目が広がります。③の原子の数は左右とも Si 1・O 6・C 8・H 24 で釣り合います。

TEOS は水と混ざりにくいので、エタノールなどのアルコールを溶媒にして水と酸または塩基の触媒を加えます。反応が進んでつながった分子が大きくなると液の粘度が上がり、ある所で急に流れなくなってゲル化しますが、溶媒を蒸発させて濃くしてもゲル化は起きます。

チタンやジルコニウムのアルコキシドは水との反応がきわめて速く、そのままでは水を加えた瞬間に沈殿ができてしまいます。そこでアセチルアセトンなどを加えて反応を遅らせ、ケイ素と同じように均一なゾルにしてから使うのが一般的な工夫です。

図4:ゾル-ゲル法でガラスの膜ができるまで

液を調合してゾルにし、塗ってゲルにし、乾かして焼くと、薄い酸化物の膜になります。

STEP 1原料液を調合アルコキシド・アルコール・水・触媒を混ぜる
STEP 2加水分解・縮合Si–O–Si がつながり、流れるゾルになる
STEP 3塗布してゲル化ディップやスピンで薄く塗ると、溶媒が飛んで固まる
STEP 4乾燥溶媒と水が抜けて網目が縮む。急ぐと割れる
STEP 5熱処理500℃以上で有機物を燃やし、緻密な膜にする
STEP 6重ね塗り・検査厚くしたいときは塗布と熱処理を繰り返す

※幸塚広光「ゾル-ゲルコーティングの基礎」(NEW GLASS Vol.25 No.3、2010)をもとに作成。熱処理の温度や回数は材料と目的で変わる。

コーティング:ディップとスピンで薄い膜をつける

ゾル-ゲル法がよく使われるのは、ガラスや金属の表面に薄い酸化物の膜をつけるコーティングです。真空装置を使う気相法(PVD・CVD)に比べて、簡便で安く膜をつくれる方法として知られ、液を塗る方式なので大きな板にも向いています。

塗り方は主に2つあります。基板をゾルに浸して一定の速さで引き上げるディップコーティングは、大きな面や両面を一度に塗れる反面、槽を満たす量のゾルが要ります。基板の上にゾルを垂らして数百〜数千 rpm で回すスピンコーティングは、少ない液で済みますが、曲面には塗れません。

膜の厚さは、ゾルの粘度が高いほど、引き上げる速さが速いほど厚くなります。そのため現場では、ゾルの粘度と引き上げ速度、回転数をそろえることが、膜厚をそろえることとほぼ同じ意味になり、後で見る粘度の管理が欠かせません。

塗ったゲルの膜は、乾燥と熱処理で溶媒や有機物が抜けて縮み、1回に厚く塗ると縮むときの引っ張りで割れやはがれが起きやすくなります。酸化物セラミックスの膜では1回で割れずにつけられる厚さは0.1 µm程度以下とされ、薄く塗って焼くことを繰り返して厚くするのが基本です。

セラミックスの部品でも、焼くと縮む理由は同じで、粉の成形体から寸法がどう変わるかはセラミックスの製造工程で扱っています。ゾル-ゲル法でつくった膜も、粒やすき間が焼き締まって緻密になる点はセラミックスの焼成と変わりません。

京都大学の金森主祥氏が紹介した専門書(2017年刊)では、撥水ウィンドウガラス、反射防止膜、自動車用の熱線カットガラス、LED の封止材、触媒、電池材料などが応用として並んでいます。

ファインセラミックスのように焼結体の部品として使われる分野と並べると、液から酸化物をつくる技術が膜や粒の形で広がっていることが分かります。

なお、同じシリカのガラスでも、通信用の光ファイバーの母材は主にゾル-ゲル法ではなく気相法でつくられます。

NTT の2015年の発表によると、世界で生産される通信用光ファイバーの約60%は、火炎の中でガラスの微粒子をつくって積み上げ、加熱して透明にする VAD法を基本技術にしています。

乾かし方でキセロゲルとエアロゲルに分かれる

液体を含んだゲルを乾かすとき、ふつうに加熱して蒸発させると、細い穴の中に残った液の表面張力が網目を内側へ引っ張ります。その結果、網目が大きく縮んで密なキセロゲルになり、シリカゲルのような小さな穴の多い固体ができます。

図5:乾かし方でキセロゲルとエアロゲルに分かれる

ふつうに乾かすと表面張力で網目が縮み、超臨界乾燥では網目を保ったまま液体だけが抜けます。

湿ったゲルキセロゲルエアロゲル網目+液体網目が縮み密になる網目を保ち軽い常圧で加熱乾燥超臨界乾燥

※NEDO「柔軟な高性能断熱材フレキシブルエアロゲルの実用化プロセス開発」(2021年)、IUPAC Gold Book「xerogel」「aerogel」をもとに作図。網目の縮み方は模式的に描いている。

これに対して超臨界乾燥では、二酸化炭素などを超臨界流体(液体と気体の区別がない状態)にして、ゲルの中の液体と入れ替えてから抜きます。液体と気体の境目ができないので表面張力が働かず、ゲルの外観や細かな構造を保ったまま乾かせるのが特徴です。

こうしてできたシリカのエアロゲルは、空気の分子が自由に飛べる距離(平均自由行程、約67 nm)より細かな穴でできているため、空気が熱を運びにくくなります。NEDO の事業報告(2021年)では、エアロゲルの熱伝導率は0.012 W/(m·K) 程度まで低くなるとされています。

ただしエアロゲルはとても脆く、そのままでは加工しにくいのが弱点です。NEDO の事業ではシリカエアロゲルをポリプロピレンの発泡体に詰めた厚さ1.8 mm のシートを開発し、熱伝導率は0.016 W/(m·K)(代表値)でした。

この事業では、平板でしか乾かせなかった従来品に対し、柔らかいシートをロール状のまま超臨界乾燥して長尺にする方法を開発しており、脆さを補う複合化と乾燥設備の大型化が量産の要点だと分かります。

水ガラスの製法:けい砂とアルカリからシリカゲルの原料をつくる

シリカゲルの原料になる水ガラスは、ケイ酸ナトリウムの濃い水溶液です。日本大百科全書は純粋なものを無色の水あめ状で粘性が高い液体と説明しており、ガラスと同じけい砂(SiO2)を出発原料にしてつくります。

SiO2は酸性酸化物なので、塩基である水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムと反応して塩になります。炭酸ナトリウムとの反応では、高温で二酸化炭素が気体として抜けていくので、反応が右へ進み続けます。

二酸化ケイ素とアルカリの反応(ケイ酸ナトリウムができる)
SiO2 + 2NaOH → Na2SiO3 + H2O
SiO2 + Na2CO3 → Na2SiO3 + CO2
Na2SiO3はSiO2とNa2Oの比(モル比)が1の場合の代表的な式で、工業製品の水ガラスはこの比の違いで号数が分かれ、JIS K 1408で規格化されています。検算:上はNa 2・Si 1・O 4・H 2、下はNa 2・Si 1・C 1・O 5で左右がそろいます。

工業的な製法は2つあります。世界大百科事典によると、けい砂と炭酸ナトリウムを約1300℃で融かしてガラス状の固体にし、オートクレーブ(加圧できる反応釜)の中で5〜10気圧をかけて水に溶かすのが乾式法です。

もう1つの湿式法は、ケイ藻土のような反応しやすいシリカ原料と水酸化ナトリウムを、オートクレーブの中で加熱して直接反応させる方法です(百科事典マイペディア)。乾式法の炭酸ナトリウムは、ソルベー法などでつくられるソーダ灰です。

項目乾式法湿式法
原料けい砂・炭酸ナトリウム(ソーダ灰)ケイ藻土などのシリカ原料・水酸化ナトリウム
主な工程約1300℃で融かしてガラス状の固体にし、5〜10気圧で水に溶かすオートクレーブで加熱して反応させる
主な反応SiO2+Na2CO3→Na2SiO3+CO2SiO2+2NaOH→Na2SiO3+H2O
出典:世界大百科事典・百科事典マイペディア(コトバンク「水ガラス」)をもとに作成

水ガラスに塩酸を加えると、弱い酸であるケイ酸が追い出され、白いゲル状の沈殿になります。この沈殿を水で洗って塩化ナトリウムを除き、加熱して水を追い出すと、すき間の多いキセロゲルであるシリカゲルが残ります。

弱い酸の塩に強い酸を加える(ケイ酸の遊離)
Na2SiO3 + 2HCl → H2SiO3 + 2NaCl
加熱して水を追い出す
H2SiO3 → SiO2 + H2O
H2SiO3はケイ酸の代表的な書き方で、実際には水を多く含むSiO2・nH2Oの網目です。乾かしたシリカゲルにも、穴の表面にはSi−OH(シラノール基)が残ります。

ケイ酸は炭酸より弱い酸なので、水ガラスを空気中に置いておくだけでも二酸化炭素を吸ってゲル状のケイ酸が出てきます(日本大百科全書)。保管ではふたを閉めて空気に触れさせないことが基本で、製品は接着剤や土木工事の土質改良剤にも使われます。

乾いたシリカゲルが水分を吸うのは、穴の表面に並んだシラノール基に水分子が水素結合で引き寄せられるからです(乾燥剤の選び方)。工場では塩酸ではなく硫酸を使い、穴の大きさを作り分けており、その工程は次の章で見ていきます。

身近な製品の中のゲル:シリカゲル・ゲル化剤・塗料

ゾル-ゲル法のような先端の工程だけでなく、乾燥剤や食品、塗料の工場でも、ゾルとゲルのどちらの状態をいつ使うかが製品の性能を決めています。ここでは、乾かしたゲル、食べるゲル、塗るときだけ流れるゲルの3つを見ていきます。

シリカゲル乾燥剤のつくり方

乾燥剤のシリカゲルは、アルコキシドではなく安いケイ酸ナトリウム(水ガラス)を原料にします。東ソーの技術報告によると、ケイ酸ナトリウムと硫酸を中和させてシリカをつくる湿式法のうち、酸性側で反応させて網目のゲルにするのがゲル法で、アルカリ性側で粒を沈める沈降法と区別されます。

ケイ酸ナトリウムと硫酸の中和(ゲル法・沈降法に共通)
Na2O・nSiO2 + H2SO4 → nSiO2 + Na2SO4 + H2O
Na2O・nSiO2:ケイ酸ナトリウム(n は製品ごとの SiO2 と Na2O の比) Na2SO4:硫酸ナトリウム。できたシリカはゲルの段階では多くの水を含んでいます。

工程は、反応・ゲル化の後に熟成と洗浄で硫酸ナトリウムを除き、乾燥、粉砕、分級(大きさでふるい分ける)と進みます。乾かすときに表面張力で縮む力を変えると穴の大きさや量を調整でき、小さな穴の多い製品から、エアロゲルのように縮ませずに穴を大きく残した製品までつくり分けられます。

穴の大きさは用途と直結しており、低い湿度で水を引きつけたい包装用の乾燥剤、反応する分子を穴に取り込む触媒の担体、成分を吸着の強さで分けるクロマトグラフィーの充塡剤で、求める穴の形が違います。化学辞典も、シリカゲルを乾燥剤や触媒の担体として用いると説明しています。

食品のゲル化剤:寒天・ゼラチンと表示のルール

食品工場では、寒天、ゼラチン、ペクチン、カラギーナンなどを使って液を固めたり、とろみをつけたりします。寒天は紅藻から取り出したガラクトースの多糖で、冷水には溶けず沸騰水に溶ける性質があり、前の章で見たように固まる温度と溶ける温度が大きく離れています。

こうした添加物を固める目的で使ったときは、食品表示で物質名と一緒に用途名を書きます。札幌市の解説によると、増粘剤・安定剤・ゲル化剤(糊料)は用途名の併記が要る8種類の一つで、主にゲル化の目的なら「ゲル化剤」か「糊料」と書き、増粘多糖類を増粘の目的で使う場合は用途名を省けます。

ゲル化剤の溶かし方や冷やし方は、食感だけでなく殺菌の工程とも関わります。高温で溶かした液を冷ます途中は菌が増えやすい温度帯を通るので、食品工場のHACCPでは、加熱の温度と冷却にかける時間を、記録して確かめる管理項目として扱います。

塗料のチキソトロピー:塗るときだけ流れる

塗料には、刷毛やローラー、スプレーで力をかけている間はよく流れ、塗り終わって力がなくなると流れにくくなる性質が求められます。この性質がチキソトロピーで、化学辞典はかき混ぜるとゲルからゾルになり、置くとゲルに戻る現象とし、油性ペイントを例に挙げています。

壁や部品の縦の面に厚く塗ると、塗料が重さで垂れ下がる「タレ」が起きます。塗料メーカーは揺変剤(チキソ剤)と呼ばれる添加剤を加え、顔料などの粒どうしに緩いつながりをつくらせて、塗った直後に網目が戻るように調整しています。

逆に網目が強すぎると、塗った跡が平らにならず刷毛目が残るので、流れやすさと戻りの速さの釣り合いが品質を左右します。工業塗装の方式ごとの膜厚や仕上がりの違いは粉体塗装・電着塗装・溶剤塗装の違いで比べています。

図6:製品ごとに、ゾルとゲルのどこを使い、何を見るか

同じゾル・ゲルでも、製品によって使う状態と、品質で確かめる性質が違います。

ゾル-ゲル膜ゾルで塗り、ゲルで形を決める。見るのは粘度と膜厚
シリカゲル乾かしたゲルの穴を使う。見るのは吸湿量と穴の大きさ
食品のゲル熱で溶かし冷やして固める。見るのは固まる温度と硬さ
塗料塗るときだけ流す。見るのはチキソ性とタレ

※各製品で確かめる性質は代表的なものを挙げた。実際の管理項目は製品の規格・社内基準で決める。

品質管理:粘度とゲル化時間を測る

ここまで見てきたように、工場で扱うゾルやゲルは「どれだけ流れるか」と「いつ流れなくなるか」で使い勝手が決まります。そのため品質管理では、流れやすさを表す粘度と、ゾルがゲルに変わるまでのゲル化時間が基本の測定項目になります。

傾けても流れないゲルのビーカーと、流れる液体のビーカー

粘度の測り方は JIS Z 8803(液体の粘度-測定方法)にまとめられており、細い管を流れる時間で測る細管式や、液の中で円筒や円すいを回す回転式などがあります。ゾル-ゲル法のコーティング液なら、粘度が膜厚を左右するので、ロットごとの粘度で引き上げ速度や回転数を決めます。

チキソトロピーのある塗料やスラリーは、かき混ぜる速さで粘度が変わるので、1点の値だけでは比べられません。回す速さを上げてから下げ、行きと帰りで粘度がどれだけずれるか、力を止めた後どれだけ早く戻るかを測り、タレにくさや塗りやすさの目安にします。

粘度はわずかな温度の違いでも大きく変わるため、測定温度と回転数(せん断の速さ)、使った測定器の種類を値と一緒に記録しておくことが欠かせません。条件がそろっていない値どうしを比べると、液が変わったのか測り方が変わったのか区別できなくなります。

ゲル化時間は、液を混ぜてから流れなくなるまでの時間で、塗ったり型に流したりできる時間の上限を決めます。熱で固まる樹脂では、決まった温度の熱板に少量の試料を載せてへらで混ぜ、糸を引かなくなるまでの時間を測る熱板法が広く使われています。

粉体塗料では ISO 8130-6 が、通常180℃でのゲル化時間の求め方を定めています。規格ごとに温度や試料の量が違うので、社内の基準値を決めるときは、どの方法で測った値かを必ず添えておきます。

研究や工程の立ち上げでは、レオメーター(粘弾性測定装置)で、固体らしさを表す貯蔵弾性率 G′ と、液体らしさを表す損失弾性率 G″ を時間を追って測ります。反応が進むと G′ が急に伸びて G″ を追い越し、この交点(tan δ = 1)をゲル化時間とみなす方法が使われています。

図7:レオメーターで見るゲル化時間

時間とともに G′(固体らしさ)が G″(液体らしさ)を追い越す点を、ゲル化の目安にします。

G′G″ゲル化時間(G′=G″)液体らしい(G″ が大きい)固体らしい(G′ が大きい)時間 →弾性率(対数)

※TA Instruments「Gelation Kinetics from Rheological Experiments」(RH103)をもとに模式的に作図。一定の温度・周波数・ひずみで測った場合の考え方で、条件を変えると交点の時間も変わる。

交点の時間は温度で大きく変わり、温度を変えて何点か測ると、どの温度で何分あれば固まるかという反応の速さが分かります。逆に、測る前に試料が固まり始めていると値がずれるので、混ぜてから装置に載せるまでの時間もそろえる必要があります。

こうした測定値は、出荷判定だけでなく、液の作り置きをいつまで使うか、塗装ラインの速度をどう決めるかといった工程の段取りにも使われます。測定と記録の仕組みづくりは品質保証・品質管理の仕事の中心にあり、ゾルとゲルの扱いはその分かりやすい例です。

ゾルとゲルのよくある質問

ゾルとゲルの違いを一言でいうと何ですか?

流れるかどうかです。ゾルはコロイドの粒がばらばらに散らばって流れる状態、ゲルは粒や分子がつながった網目が液体を閉じ込めて、形を保って流れない状態です。

ヨーグルトはゾルですか、ゲルですか?

置いてある状態では形を保つのでゲルに近く、かき混ぜると流れるようになります。力を加えるとゾルのように流れ、置くと戻るチキソトロピーを示す例として辞典にも挙げられており、どちらか一方に決めるより、状態が行き来するものと考えると分かりやすくなります。

ゼリーやこんにゃくは温めるとゾルに戻りますか?

ゼラチンや寒天のゼリーは熱可逆なので、温めると溶けて流れるゾルに戻り、冷やすとまた固まります。こんにゃくは水酸化カルシウムなどのアルカリを加えて加熱すると固まるゲルで、ゆで卵は熱でタンパク質が結びついたゲルです。どちらも新しくできた網目なので、温めても元の液には戻りません。

キセロゲルとエアロゲルの違いは何ですか?

どちらもゲルから液体を抜いた乾いたゲルで、違いは乾かし方です。ふつうに乾かして網目が縮んだものがキセロゲル、超臨界乾燥などで網目を保ったまま液体を気体に置き換えた、すき間の多い軽いものがエアロゲルです。

まとめ

この記事のまとめ
  • ゾルはコロイドの粒がばらばらに散らばって流れる状態、ゲルは粒や分子の網目が液体を閉じ込めて流れない状態
  • コロイドの粒はおよそ1 nm〜1 µm で、溶液の分子より大きく、沈殿する粒より小さい
  • ゾルは solution、ゲルは gelatin から来た語。ゲルから液体を抜くとキセロゲル、網目を保ったまま抜くとエアロゲル、シリカゲルはケイ酸のキセロゲル
  • 寒天やゼラチンは温度で行き来する熱可逆ゲル、ゆで卵や架橋高分子は戻らないゲル、塗料やヨーグルトは力で行き来するチキソトロピーを示す
  • 水ガラスはけい砂を炭酸ナトリウムと融かすか水酸化ナトリウムと加圧して反応させたケイ酸ナトリウムの水溶液で、酸を加えたゲルを乾かすとシリカゲルになる
  • 工場ではゾル-ゲル法で膜や断熱材をつくり、乾燥剤・食品・塗料でもゲルを使い分け、粘度とゲル化時間を条件をそろえて測って管理する

ゾルとゲルの違いは「流れるか、流れないか」という一点ですが、その切り替わりをいつ、どう起こすかが、膜の厚さや乾燥剤の吸湿力、塗料のタレ、食品の食感を決めています。材料をつくる会社から使う会社までのつながりは、化学業界のサプライチェーンから見渡せます。

出典

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MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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