発電所に尿素水がある理由は?脱硝の仕組み・濃度と保管の注意点

工業用薬液の貯蔵タンクと配管のイメージ

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発電所に尿素水があるのは、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を減らすためです。尿素水から作ったアンモニアを還元剤として使い、SCR(選択触媒還元)装置の触媒上でNOxを窒素と水へ変えます。

尿素水は燃料でも、発電用の水でもなく、排ガス処理のために供給する薬剤です。火力発電設備のほか、ボイラーやガスタービン、ごみ焼却炉、ディーゼルエンジンの脱硝にも使われています。

ただし、発電所向けの尿素水を、自動車で使う32.5%のDEFと同じ仕様だと考えることはできません。ここでは用途と反応の仕組み、濃度の違い、保管や配管材料を確認する考え方を整理します。

目次

尿素水とは

尿素水は、尿素CO(NH2)2を水に溶かした水溶液です。脱硝用途では、必要な還元剤を供給する原料として貯蔵し、設備が指定する濃度と品質を管理して使います。

工業用には40%などの製品があり、油研化学の製品資料では32.5%、35%、40%の質量濃度が示されています。多木化学も排煙脱硝用40%尿素液を扱っており、工業設備の濃度は一種類ではありません。

図1:同じ1,000kgでも、尿素と水の割合は違う

濃度は質量分率で比較します。帯の全体が水溶液1,000kgです。

40%尿素水
40%水60%
尿素400kg + 水600kg
32.5%尿素水
32.5%水67.5%
尿素325kg + 水675kg

質量比の説明用比較です。同じ濃度でも用途規格や不純物の管理値が異なり、製品の互換性は保証されません。

32.5%のDEFと工業用40%を区別する

DEFはディーゼルエンジンの排ガス処理に用いる尿素水で、代表的な組成は尿素32.5%、純水67.5%です。工業脱硝用の40%液とは尿素の割合が異なり、同じ量を送っても供給される尿素量は変わります。

濃度が一致すれば、すべて同じ品質になるわけでもありません。北海道三井化学は工業用40%尿素水について、船舶用尿素水AUS40の規格を満たさないことを製品ページで明記しています。

発注時には尿素水という名称だけでなく、濃度の基準、用途、要求規格、受入検査の項目をそろえます。設備で指定された品質を満たすことを先に確かめ、濃度が高い製品へ独自に置き換えないようにします。

濃度から尿素の質量を計算する

質量濃度40%は、水溶液の質量のうち尿素が40%を占めるという意味です。例えば1,000kgの40%液には尿素400kgと水600kgが含まれ、32.5%液なら尿素325kgと水675kgになります。

尿素の質量と、必要な水溶液の質量
mu = ms × w
ms = muw
(例)ms = 4000.325 = 約1,231kg
mu:尿素の質量[kg]、ms:水溶液の質量[kg]、w:尿素の質量分率。40%ならw=0.40とします。

尿素400kgを32.5%液で供給する計算では、400÷0.325=約1,231kgです。40%液1,000kgに対して約1.23倍の溶液質量が必要で、増えた分は主に一緒に運ぶ水の違いに相当します。

同じ1,000kgを送る条件なら、両者の尿素量の差は400−325=75kgです。液の供給量を変えずに濃度だけを変更すると、還元剤の原料量まで変わることが、この差から分かります。

反対に同じ尿素量を送る比較では、溶液の総質量が変わります。受入れ量や貯蔵量の見積りは、液そのものの量を見ているのか、有効成分の尿素量を見ているのかをそろえて行います。

この例は同じ尿素質量を比較するための計算で、実機の噴射量を決めるものではありません。体積流量へ換算するには密度が別に必要であり、脱硝量には排ガス条件や反応効率も関係します。

体積と質量の指示を混同しないためには、質量流量を測るコリオリ流量計の考え方が参考になります。濃度の比較はkg同士で行い、Lの数値をそのままkgとして式へ入れません。

尿素水の役割とSCR装置の仕組み

SCRは選択触媒還元を意味し、アンモニアと排ガス中のNOxを触媒上で反応させる方式です。尿素水はアンモニアを作る原料であり、触媒そのものでも、NOxを水へ洗い落とす洗浄液でもありません。

図2:尿素水は、排ガス側へ還元剤を供給する

尿素水を排ガスへ直接噴霧する方式の概念例です。

燃焼設備NOxを含む排ガス尿素水タンク尿素水供給蒸発・分解NH₃を混合SCR触媒NOxを低減処理後の排ガス煙突へ触媒上で NOx → N₂ + H₂O灰:排ガス 青:尿素水

流れの関係を示す模式図です。触媒上の表示は生成物の概念で、反応式は本文に示します。実際の触媒位置、反応温度、他の排ガス処理装置の順番は設備ごとに異なります。

まず燃焼設備からNOxを含む排ガスが流れ、触媒へ入る前に還元剤が供給されます。触媒上で反応した後の排ガスは、設備に応じた他の処理を経て煙突へ向かうという関係です。

発電所ではボイラーや排熱回収ボイラーなどと組み合わせて脱硝設備を配置します。熱を回収する機器の位置づけは、廃熱ボイラーの仕組みと併せると排ガスの流れを整理できます。

蒸発・熱分解・加水分解でアンモニアになる

尿素水を排ガスへ噴霧する方式では、液滴の水が蒸発し、尿素の熱分解と中間生成物の加水分解が進みます。これらを経て生じるアンモニアが排ガスへ混ざり、SCR触媒へ供給されます。

図3:水溶液から還元剤へ変わる過程

熱分解で生じたNH₃は残り、HNCOだけが加水分解へ進みます。

尿素水(液滴)H₂O 蒸発CO(NH₂)₂尿素の熱分解NH₃ ①HNCO加水分解H₂ONH₃ ②CO₂CO₂ 排ガスへNH₃ 計2分子排ガスへ混合尿素1分子あたり・完全反応時

青い分岐は二つのNH₃を集める関係、灰色は蒸発水・中間体・CO₂の関係を示します。反応を区別する概念図で、各過程が別の槽で一段ずつ起こる意味ではありません。

尿素からアンモニアを作る反応
CO(NH₂)₂ → NH₃ + HNCO
HNCO + H₂O → NH₃ + CO₂
全体:CO(NH₂)₂ + H₂O
→ 2NH₃ + CO₂
HNCOはイソシアン酸。反応が完全に進む理論上、尿素1molからアンモニア2molが生じます。

発電設備での供給方法を、必ず尿素水の直接噴霧だけと考える必要はありません。別の分解設備で尿素からアンモニアを発生させ、そのガスを排ガスへ供給する構成もあります。

タンクに液体を貯める部分と、還元剤を発生させて供給する部分、触媒でNOxを処理する部分を分けると理解できます。自分の設備ではどこでアンモニアを作っているのか、系統図で確かめることが基本です。

触媒上でNOxを窒素と水へ変える

SCRの代表的な反応として、一酸化窒素NOをアンモニアと酸素で還元する式があります。NOと二酸化窒素NO2の割合によって反応は異なりますが、次の式はNOに対する基本例です。

SCR触媒上の代表的な反応(NOの場合)
4NO + 4NH₃ + O₂
→ 4N₂ + 6H₂O
NO:一酸化窒素、NH₃:アンモニア、O₂:酸素、N₂:窒素、H₂O:水。実際の排ガスにはNO₂なども含まれます。

触媒には、酸化チタンを担体としてバナジウムやタングステンの成分を使うものがあります。板状やハニカム状などの形状もあり、燃料、排ガスの性状、温度条件に合う触媒を設備ごとに選びます。

触媒を使わずに還元剤でNOxを低減するSNCRもあり、SCRとは別の方式です。尿素水タンクがあるという外観だけでは脱硝方式を特定できず、反応器や触媒の有無まで確認して区別します。

供給量と混ざり方の両方が性能に関わる

アンモニアが不足するとNOxが十分に反応せず、過剰なら未反応のアンモニアが下流へ出ることがあります。後者はアンモニアスリップと呼ばれ、尿素水を多く送れば良いという制御にはできません。

全体の供給量が合っていても、触媒入口で濃度に偏りがあると、局所的な不足と過剰が同時に起こり得ます。ヤンマーの技術資料でも、蒸発と混合の状態が浄化性能に大きく影響すると説明されています。

尿素水の液滴や液膜が残る条件では、配管内などにデポジットができ、噴射やガスの流れに影響します。温度、噴霧、混合を一体で設計する必要があり、ここから独自の噴射温度を決めることはできません。

脱硝結果を評価するときは、出口のNOx濃度だけでなく、測定値の基準もそろえます。排ガスのO₂換算を理解すると、空気で薄まった影響と処理性能を区別して比較できます。

供給する還元剤の必要量は、NOx濃度だけでなく排ガス流量にも関係します。排ガス量の計算と乾き・湿りの基準をそろえ、濃度と流量を同じ条件の値として扱います。

尿素水の取り扱いと安全性

透明な液体のサンプル瓶と分析機器のイメージ
品質管理を表すイメージ画像。外観だけで濃度や品質は判定できません。

尿素水を原料として貯蔵すれば、アンモニアを現場で発生させる構成を選べます。ただし、尿素水は無条件に無害という意味ではなく、生成したアンモニア側も含めて設備全体を管理します。

タイキ薬品工業の40%尿素水SDSには、眼や皮膚への接触を避け、適切な保護具を使うことが示されています。取扱い前に納入品の最新SDSと設備の手順書を確認し、その製品に合う管理条件を使います。

温度管理

凍結や結晶化の条件は尿素濃度によって違い、すべての尿素水に同じ下限温度は使えません。Cumminsが示す約−11℃は、尿素32.5%と水67.5%からなるDEFの凍結点です。

32.5%は尿素と水が一定の濃度で凍結・融解する共晶組成です。凍っただけで必ず成分が分離して使用不能になるとはいえず、融解後の扱いは製品や設備の指定に従います。

図4:低温側の管理値は製品仕様から選ぶ

車載用DEFの凍結点を、工業用40%液のタンク設定へ転用しません。

32.5% DEF

凍結点 約−11℃

出典:Cummins

管理条件を、そのまま転用しない

40% 製品例

結晶開始 0℃

出典:タイキ薬品工業 SDS

0℃は特定40%製品のSDSに記載された値です。タンクの加温設定や許容保管温度を示す図ではありません。

一方、タイキ薬品工業の40%製品では結晶開始温度0℃と記載されています。これは製品例ですが、濃度が違えば低温側の管理条件も変わることを示し、32.5%液の条件をそのまま流用できません。

高温での長期保管にも注意が必要で、尿素の分解や水分蒸発による品質変化を避けます。SDSの保管条件、製造日、保管温度と期間を確認し、全製品に共通する保存期限を独自に決めないようにします。

結晶が見えた場合も、濃度の違いと汚染の有無を区別して扱います。自己判断で水を加えたり加熱条件を変えたりせず、納入品と設備の指定に沿って状態を確認します。

温度を記録する計器にも測定位置や精度の違いがあるため、温度計の種類と測定誤差を踏まえて管理します。外気温だけで液温を判断せず、設備で決められた測定値を使います。

腐食対策

貯蔵容器や配管には、尿素水と接触しても必要な耐久性と品質を保てる材料を選びます。腐食による漏れを防ぐだけでなく、材料から溶け出す成分などで尿素水を汚染しないことも確認事項です。

例えばタイキ薬品工業の40%製品SDSは、容器材料としてポリエチレンやポリプロピレンを挙げています。車載用DEFの資料にはステンレスなどの指定もありますが、それを全濃度・全温度の適合保証とは扱いません。

ステンレスにも材質の違いがあり、SUS304・SUS316などの種類を区別して仕様を確認します。配管本体だけでなく、ポンプ、弁、シール、ホースまで接液する部品全体が対象です。

材料の名称が適合していても、別薬品の残留や異物の混入があれば品質を保てません。専用の移送器具や識別を含む管理を設備仕様に組み込み、保守の際も元の材質条件を維持します。

漏洩防止

漏れを防ぐ管理では、タンクの容量だけでなく、接続部、シール、移送配管、受入れ時の状態も確認します。定期点検をすれば安全が保証されるわけではなく、異常を見つけて対応できる仕組みが必要です。

図5:管理する範囲はタンクから供給先まで

液位、接液材、温度、品質を同じ系統の条件として確認します。

受入れ尿素水液位計TI温度計防液堤(受け囲い)ポンプ弁・シール①噴射部・分解装置へ① 配管・ポンプ・弁の確認:接液材・漏れ・異物混入

確認範囲を示す模式図です。TIは温度表示、横の細い管は液位計の概念表現です。防液堤の寸法、計器方式や警報設定、配管の運転・復旧手順を指示しません。

受入れ時の過充填を考えるには、残量と受入量を同じ基準で把握する必要があります。タンクのレベル制御と液位の考え方を参考に、容量と液位の関係を設備の仕様で確認します。

漏出時には、河川や排水系へそのまま流さず、納入品のSDSと事業所の手順に沿って回収・処理します。薄めれば問題がなくなるとは考えず、回収液と汚染した器具も含めて適切に扱います。

排ガスの他の管理項目も、尿素水による脱硝だけで解決するわけではありません。例えば硫酸露点による低温腐食は別の条件で評価し、脱硝と熱回収を設備全体の課題として整理します。

尿素水のよくある質問

発電所の尿素水は燃料ですか?

脱硝用の尿素水は燃料ではなく、排ガス中のNOxを減らすための薬剤です。尿素水からアンモニアを作り、それを還元剤として使う点が、燃焼で熱を取り出す燃料とは異なります。

工業用40%液を自動車へ入れられますか?

濃度と用途規格が異なるため、そのまま代用できるとはいえません。同じ40%でも船舶用AUS40に適合しない工業製品があり、使う機器が指定する濃度と品質を満たす製品を選びます。

凍結した尿素水は必ず使用不能ですか?

32.5%DEFでは、凍結と融解を経ても一定の濃度が保たれるというメーカー説明があります。工業用の他濃度へ一般化せず、製品仕様と設備側の取扱い指示を確認します。

尿素水を多く送れば脱硝性能は上がりますか?

量だけでは決まりません。過剰なアンモニアの下流流出や混合の偏りも問題になるため、排ガスの流量、温度、NOx濃度、触媒などの条件を合わせて供給を設計します。

32.5%液と40%液は同じ体積で比較できますか?

質量濃度から尿素量を比較する場合、先に液量を質量へそろえます。Lからkgへ直すには濃度や温度に対応する密度が必要であり、同じ体積だから同じ尿素量とはなりません。

まとめ

この記事のまとめ
  • 発電所の尿素水は、NOxを低減する還元剤の原料
  • 尿素からアンモニアを作り、SCR触媒上で反応させる
  • 32.5%DEFと工業用40%液は仕様を分けて考える
  • 凍結・保管・接液材の条件は納入品ごとに確認する
  • 供給量だけでなく蒸発・混合・触媒の条件が重要

尿素水の役割は、発電の燃焼工程と排ガス処理の関係の中で理解できます。濃度と要求品質、アンモニアを作る方式、保管や移送の条件を分けて確認すると、設備ごとの違いを整理しやすくなります。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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