変圧器や遮断器の重電メーカーとして知られる明電舎ですが、2025年度に売上がいちばん大きかったのは鉄道や上下水道向けの社会システム事業でした。利益の大半を稼いだのは、電力インフラ事業と、納めた設備を保守するフィールドエンジニアリング事業の2つです。
強みの土台は、1970年に製品化した真空インタラプタから続く真空技術です。SF6ガスを使わない遮断器として北米を中心に採用が広がり、同じ技術は半導体製造装置向けの部品にも生かされていて、今期は2回目の業績予想の上方修正を発表しました。
明電舎は何をつくり、どこで稼いでいる会社か
明電舎は1897年創業の電機メーカーで、発電所から工場・鉄道・浄水場まで、電気を送り届けて使う側の設備をつくっています。事業は次の4つのセグメントに分かれ、顧客はほとんどが電力会社や自治体、鉄道会社、メーカーといった法人です。
- 電力インフラ:変圧器、開閉装置、避雷器、水力発電機、太陽光用パワーコンディショナ(電力会社・地方公営企業など)
- 社会システム:鉄道向けの変電設備、上下水道の監視システムや電気設備、無停電電源装置(鉄道会社・自治体・病院など)
- 産業電子モビリティ:EV用の駆動ユニット、自動車試験システム、真空コンデンサ、産業用モーター・インバータ(自動車・半導体製造装置メーカーなど)
- フィールドエンジニアリング:納めた電気設備や半導体製造装置の保守サービス
4つの事業のうち、社会システムと電力インフラがそれぞれ約1,000億円で並びます。
単位:億円
※出典:明電舎「2026年3月期 決算補足資料」(2026年5月14日)。セグメント間の取引を含む金額。連結売上高は3,262億円。不動産・その他は省略。
売上の規模と利益の大きさは一致しません。2025年度の営業利益は、電力インフラが125.8億円、フィールドエンジニアリングが126.7億円とほぼ同じで、売上がいちばん大きい社会システムは40.9億円にとどまりました。
保守サービスは売上が4事業で最も小さいのに、利益は最も大きくなっています。
単位:億円(かっこ内は売上高営業利益率)
※出典:明電舎「2026年3月期 決算補足資料」。利益率は図1の売上高で編集部が計算。
電力インフラの営業利益は前年の79.9億円から約1.6倍に伸びました。一方で産業電子モビリティは前年の11.3億円からほぼゼロに落ち込み、4事業の稼ぐ力の差がはっきり出た年でした。
納めた設備の保守が利益を支える
フィールドエンジニアリングの利益率が高いのは、明電舎が納めた変電設備や水処理の電気設備が全国で長く動き続け、その点検・修理・部品交換が毎年の仕事になるからです。会社は個人投資家向けの説明会資料で、この事業が「利益を下支え」していると書いています。
機器の販売で終わらず、保守で集めた情報が次の更新の提案に生かされる仕組みです。
※中期経営計画2027(2025年5月)が挙げる強み「製品納入から保守サービスまでのライフサイクルエンジニアリング」「豊富なメンテナンスストックと保守サービスデータ」をもとに編集部作成。
保守の対象は自社製品にとどまらず、半導体製造装置のメンテナンスにも広げる方針です。弱点は人手で、中期経営計画は自社・他社ともに技術サービス員が足りないことを課題に挙げ、技術研修センター「Manabi-ya」で育成を進めています。
強み① 真空技術:遮断器から半導体部品まで

遮断器は、事故で大きな電流が流れたときに回路を切って設備を守る装置で、工場の分電盤にあるノーヒューズブレーカーの大型版にあたります。明電舎はその心臓部である真空インタラプタ(真空の容器の中で電極を開閉して電流を切る部品)を自社でつくっています。
真空技術の研究は1965年に始まり、1970年に製品化しました。2020年5月には累計生産300万本に達し、当時は年間15万本以上を製造・販売していました。自社の真空遮断器に組み込むほか、国内外のスイッチギヤメーカーにも部品として納めています。
電流を切る部品の技術が、遮断器と半導体装置向けの部品の両方に使われています。
※出典:明電舎ニュースリリース(2020年6月9日)、個人投資家向け説明会資料(2025年)をもとに編集部作成。
SF6ガスを使わない遮断器が海外で売れる理由
高い電圧の遮断器には、絶縁性能の高いSF6(六フッ化硫黄)ガスが長く使われてきました。ところがSF6はCO2の約2万3,500倍の温室効果を持つため、欧州や米カリフォルニア州を中心に規制が強まり、真空で電流を切り乾燥空気で絶縁する方式への置き換えが進んでいます。
明電舎は2007年にSF6を使わない72.5kVの真空遮断器を米国に投入し、2020年には米国に製造会社を設けました。現在は北米の72.5kV遮断器でシェア約20%を持ち、米国の子会社だけで2024年度までに約1,300台を出荷しています。
真空遮断器は電圧を上げるほど設計が難しく、145kVでは1相に真空インタラプタを2本直列に並べていました。2025年10月には1本で123kVまで切れる製品を北米で売り出し、構造を簡単にして製造コストを抑え、価格競争力を高めたうえで、次は245kVの開発に取り組むとしています。
同じ真空技術を半導体製造装置へ
真空コンデンサは、エッチングや成膜など半導体の前工程の装置で、高周波の電力を安定して供給するために組み込まれる部品です。明電舎は真空遮断器で積み上げた技術を生かして1994年に量産を始め、国内で唯一のメーカーとして世界一を目指すと説明しています。
10年で売上が3倍超に伸びた、半導体需要に連動する事業です。
単位:億円
実績2024年度
計画
※出典:明電舎 個人投資家向け説明会資料(2025年)。電子機器事業には真空コンデンサのほか産業用PC・パルス電源などを含む。
会社は、メモリ需要や生成AIの普及で真空コンデンサのニーズが今後急増すると見ていますが、半導体の市況が悪い時期には売上が落ちる事業でもあります。業界全体の動きは半導体製造の記事一覧でも追えます。
強み② 海外で実績のある変電機器
明電舎の変圧器の販売開始は1905年、開閉器と避雷器は1955年で、どれも半世紀以上の実績があります。会社が説明会資料で示した数字を並べると、海外では製品ごとに得意な地域が分かれていることが分かります。
遮断器は北米、変圧器はインド、避雷器の部品は世界各国に広がっています。
※出典:明電舎 個人投資家向け説明会資料(2026年5月)。シェアは会社の公表値。
避雷器は、雷などで急に上がった電圧を地面へ逃がして変電設備を守る機器です。明電舎は心臓部の酸化亜鉛素子を約70か国に2,000万個以上納めており、2014年には避雷器の開発への寄与で米国の電気電子学会(IEEE)のマイルストーンを授与されました。
2025年度の海外売上高は908億円で、売上全体の27.9%でした。2026年4〜9月期には33.7%まで上がり、北米とインドを中心に変電事業が伸びたことで、海外の比重が増えました。
世界で変圧器が足りなくなった経緯と国内メーカーの増産計画は、変圧器不足の原因と納期の実情で整理しています。明電舎が沼津事業所の変圧器工場に160億円を投じる計画や、2040年に売上規模を2倍にする構想は、次の記事で詳しく読めます。

社会システム:鉄道と上下水道で担う範囲

社会システムは、鉄道会社や自治体、病院、工場などに向けて、電気設備を機器単体ではなくシステムとしてまとめて納める事業です。中期経営計画は強みに「システム・プラントまとめ力と豊富な大型プロジェクト実績」を挙げており、鉄道と水で担う範囲は次のように分かれます。
どちらも電気設備が中心ですが、水では運転維持管理まで広げようとしています。
※出典:明電舎「中期経営計画2027」(2025年5月13日)、個人投資家向け説明会資料(2026年5月)。
水の分野で目立つ製品がセラミック平膜で、厚さ6mmの板の細かい穴に原水を通して不純物をこし取ります。2024年2月にはシンガポール公益事業庁の浄水場向けに、会社が「世界最大」とする日量29万1,200m3の処理能力の膜を受注しました。
既存の有機膜から置き換える更新工事で、2026年の完成を予定しています。会社は、耐久性が高く寿命が長いうえに省エネで、膜の交換費用を含めた運転コストを既存の有機膜より下げられる点を特長に挙げています。
社会システムは大型案件が多く、水インフラが「売上計上の案件規模の差」で減収となるように、数字が振れやすい事業です。2026年4〜9月期は受注残を背景に増収増益となり、電鉄は国内外の案件が進み、水インフラは減収ながら採算が改善しました。
EV部品と試験装置:産業電子モビリティの回復

産業電子モビリティは、モーターを回す技術と真空・高電圧の技術を使った製品を、自動車メーカーや半導体製造装置メーカー、物流会社などに売る事業です。2025年度の営業利益は0.2億円でしたが、2026年4〜9月期は17.5億円まで回復しました。
EVと半導体の2つが回復し、試験装置は売上が増えたものの利益が減りました。
※出典:明電舎「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」(2026年10月30日)、「中期経営計画2027」。
EV向けについて、中期経営計画は「EVシフトは足元で鈍化も堅調に進展する見通し」としています。標準モデルをもとに小型化・高効率化した派生モデルを開発する方針で、EVシフトで増える部品の代表である駆動ユニットが対象です。
自動車試験システムは、完成車や電動の駆動系を台の上で回し、走行時の負荷を再現して性能や燃費を測る装置です。工場で使う産業用モーターの種類や、回転数を変えるインバータ制御と同じモーター制御の技術が土台になっています。
最新の業績:中間期は受注3割増で上方修正
2026年10月30日に発表した2026年4〜9月期の決算は、売上高1,538億円(前年同期比17.2%増)、営業利益97.6億円(同3.5倍)でした。
受注高は2,373億円と前年同期の1.3倍に増えました。変圧器のように納めるまで時間がかかる製品では、いま積み上がった受注が来期以降の売上の元になります。
売上・受注が伸び、営業利益は前年同期の3倍超になりました。
単位:億円(項目ごとに縮尺が違う)
※出典:明電舎「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」「同 決算補足資料」(2026年10月30日)。
通期の予想は、期初の売上高3,550億円・営業利益290億円から、7月に3,650億円・330億円へ、10月に3,700億円・350億円へと2回引き上げました。理由には電力インフラと保守サービスの旺盛な需要、EV製品を載せる車種の拡大を挙げています。
売上・利益の進捗は半分に届きませんが、明電舎は売上が年度末に集まる会社です。
受注高(予想4,100億円)
57.9%
売上高(予想3,700億円)
41.6%
営業利益(予想350億円)
27.9%
※点線は期間の経過分(50%)。進捗率は決算短信・決算補足資料(2026年10月30日)の数字で編集部が計算。
電力会社や官公庁、自治体の浄水場・下水処理場向けの設備は年度末に完成・引き渡しが集中するため、会社自身が「中間期の売上は年間に対して相対的に低い水準」と説明しています。上期の進捗だけで通期の達成を判断しないことが、明電舎の決算を読むときの前提です。
就職・取引先として見るときの確認ポイント
研究開発費は2025年度に135億円で前年の112億円から増え、従業員は連結で10,082人です。どの立場で明電舎を見るかによって、公開資料のどこを読むべきかが変わります。
同じ会社でも、就職・購買・投資で見る資料と数字が違います。
※編集部の整理。数字は決算補足資料・決算短信による。
技術者として入るなら、増産が続く変電機器の電気・電子設計や試験、人手が足りない保守の仕事は、人が要る分野です。中期経営計画は将来の技術として、デジタルツイン(設備の状態をデータで再現する技術)を使った保守や、パワー半導体で電圧を変える電子式の変圧器(SST)を挙げています。
取引先として見るなら、工場の受電設備であるキュービクルの中の変圧器や遮断器も更新時期と納期の確認が欠かせません。同業の重電・総合電機の顔ぶれは、次の記事で売上規模とあわせて比べられます。

明電舎のよくある質問
明電舎の配当方針はどうなっていますか?
配当性向30%レベルの維持を方針としています。2025年度の年間配当は1株157円で、2026年度の中間配当は83円でした(期末は未定)。
明電舎の株価が上がっているのはなぜですか?
会社は2026年5月の説明会資料で、世界的な電力需要の高まりを受けて投資家の期待が高まっており、株価はバブル期以来の高値を更新中だと説明しています。株価の今後や売買の判断は、この記事では扱いません。
明電舎のEVモーターはどの車に使われていますか?
2019年の日刊工業新聞の報道では、三菱自動車のPHEV「アウトランダーPHEV」とEV「アイ・ミーブ」にモーターとインバータが採用されているとされています。2026年の決算資料には搭載車種の拡大とありますが、車名は書かれていません。
明電舎の海外拠点はどこにありますか?
2026年3月末時点で、連結子会社40社のうち18社が海外の会社です。米国サウスカロライナ州で真空遮断器をつくり、インドで変圧器を製造し、シンガポールでは変電製品とセラミック平膜のユニット組立を手がけています。
まとめ
- 明電舎は変電・鉄道・水・EV・半導体部品・保守の4事業を持つ重電メーカー
- 売上が最も大きいのは社会システム、利益を稼ぐのは電力インフラと保守サービス
- 強みは1970年に製品化した真空インタラプタから続く真空技術と、海外での変電機器の実績
- 産業電子モビリティはEVと半導体の回復で、2026年4〜9月期に利益が戻った
- 通期予想は2回上方修正。売上は年度末に集中するため、中間期の進捗は低く出る
明電舎に関わる職種では、変電機器や駆動ユニットを設計する電気・電子設計のほか、納めた設備を守る設備保全の経験が生きます。業界全体の記事は電機・精密機器の業種ページにまとめています。
出典
出典・参考資料(11件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 株式会社明電舎「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」(2026年10月30日)
- 株式会社明電舎「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算補足資料」(2026年10月30日)
- 株式会社明電舎「2026年3月期 決算補足資料」(2026年5月14日)
- 株式会社明電舎 個人投資家向け会社説明会資料(2026年5月)
- 株式会社明電舎 個人投資家向け事業のご案内(2025年、真空コンデンサ)
- 株式会社明電舎「中期経営計画2027」(2025年5月13日)
- 株式会社明電舎 ニュースリリース「真空インタラプタ 累計生産300万本達成」(2020年6月9日)
- 株式会社明電舎 ニュースリリース「明電アメリカスイッチギヤ設立のお知らせ」(2020年4月6日)
- 株式会社明電舎 ニュースリリース「SF6ガス不使用 123kVエコタンク形真空遮断器を開発・販売開始」(2025年10月16日)
- 株式会社明電舎 ニュースリリース「チェスナッツアベニュー浄水場向けにセラミック平膜を受注」(2024年2月13日)
- 日刊工業新聞 ニュースイッチ(2019年1月15日、明電舎のEV用モーター・インバータ)
TOOLS & SERVICES
製造業で働く人の、仕事の道具・サービス紹介
これからの働き方、資格の勉強、打合せの記録。MONOSCOPE で紹介している3つです。
CAREER社外の仕事を知りたい転職・キャリアガイド今の会社で続けるか、社外にも目を向けるか。考える視点と転職サービスの紹介。仕事と働き方を考える ›
LICENSE仕事に関わる資格を学びたいSAT電験三種・エネ管・QC検定など。職種から資格を選べる表と受講料の比較。SATの対象資格を見る ›
RECORD打合せを記録したいPLAUD録音から文字起こし・要約まで。3機種の選び方と業務で使う前の確認表。PLAUDの使い方を見る ›
NEWSLETTER
設備保全・電機・精密機器の記事を、週1回まとめてメールで受け取る
週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。
設備保全を選んだ状態で登録へ ›無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。
WEEKLY NEWS
今週の製造業ニュース10選
メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。
LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
