蒸留・分留とは?違いと原理、実験の7つの注意点と工場の蒸留塔

化学工場に並ぶ3本の蒸留塔と塔頂の凝縮器・配管ラック

蒸留とは、液体の混合物を加熱して蒸気にし、その蒸気を冷やして液体に戻すことで、蒸発しやすい成分と蒸発しにくい成分を分ける操作です。分留は蒸留の一種で、沸点の違う液体どうしの混合物を、蒸発と凝縮をくり返して沸点ごとに分ける方法を指します。

実験室のフラスコと冷却器も、化学工場で高くそびえる蒸留塔も、使っている原理は同じです。蒸留塔は化学産業の消費エネルギーの約4割を占めると言われるほど、工場の分離工程の中心にある設備でもあります。

この記事では、蒸留の定義と実験の7つの注意点を理由とあわせて確かめ、分留の原理と両者の違いを整理します。後半では、工場の蒸留塔のしくみ、沸点差だけで分けられないときの方法、省エネと安全の考え方まで見ていきます。

目次

蒸留とは?

蒸留は、液体に別の物質が混ざった混合物から、目的の成分を取り出す分離法の1つです。沸騰した液から出る蒸気には、もとの液よりも蒸発しやすい成分が多く含まれるため、その蒸気だけを集めて冷やせば、蒸発しやすい成分を濃く取り出せます。

いちばん分かりやすい例が、塩化ナトリウム水溶液の蒸留です。水溶液を枝付きフラスコに入れて加熱すると、水だけが沸騰して水蒸気になり、枝からリービッヒ冷却器へ流れ込んで冷やされ、液体の水に戻って三角フラスコ(受け器)にたまります。

塩化ナトリウムは融点が約801℃と高く、水が沸騰する温度ではほとんど蒸発しないので、フラスコの中に残ります。こうして蒸発しにくい固体が溶けた液から、蒸発しやすい液体だけを純粋に近い形で取り出すのが、最も基本的な蒸留(単蒸留)です。

図1:蒸留装置の各部と役割

フラスコで蒸気をつくり、温度計で蒸気の温度を確かめ、冷却器で液体に戻して受け器に集めます。

枝付きフラスコリービッヒ冷却器受け器(開放)温度計球部は枝元水の出口(上)水の入口(下)金網・水浴などで加熱

※温度計の球部・冷却水の向き・受け器を密閉しないことは、次の章の注意点と対応しています。

このとき温度計が示すのは、枝へ出ていく蒸気の温度です。水だけが留出しているあいだは、大気圧ならほぼ100℃で一定に保たれ、ここから蒸留が順調に進んでいるかどうかを読み取れます。

蒸留の実験での7つの注意点

加熱マントル上の丸底フラスコと冷却器を組んだ実験室の蒸留装置

蒸留の手順には、液の量や温度計の位置、冷却水の向きなど、細かい決まりがいくつもあります。どれも暗記のための約束ではなく、分離の精度を保ち、突沸や器具の破損を防ぐための理由があり、その理由を知っておくと工場の蒸留塔の設計や運転の考え方にもつながります。

図2:蒸留の7つの注意点と、守らないと起きること

7つの注意点は、分離の精度を守るものと、突沸や破損を防ぐものに分けられます。

液の量は2分の1以下多すぎると沸騰した液が枝へあふれ、混合物のまま受け器に入る
沸騰石を入れる入れないと液が過熱して一気に沸く突沸が起き、液が飛び散る
温度計の球部は枝元位置がずれると留出する蒸気の温度を正しく測れない
冷却水は下から上へ上から流すと冷却器に空気が残り、蒸気が冷えきらない
受け器を密閉しない閉じると膨らむ空気と蒸気の逃げ場がなく、栓が飛ぶ・器具が割れる
直接加熱しない炎が一点に当たるとガラスが割れ、温度も安定しない
はじめと終わりは捨てる最初と最後の留出液には不純物が混ざりやすい

※LibreTexts「Organic Chemistry Lab Techniques」、富山県総合教育センター「加熱による注意」をもとに作成。実際の液量や捨てる量は、実験の目的と手順書に従います。

フラスコに入れる量は2分の1以下にする

枝付きフラスコに入れる液は、容量の2分の1以下にとどめます。多く入れすぎると、沸騰したときに泡立った液や飛び散った液が枝へ流れ込み、分けたいはずの混合物がそのまま受け器に入ってしまうためです。

米国の有機化学の実験書(LibreTexts)でも、フラスコは容量の3分の1から2分の1を満たすとしています。逆に少なすぎても、フラスコの空間に残る蒸気の分だけ回収できる量が減るので、目的の量に合った大きさのフラスコを選ぶことが大切です。

フラスコに沸騰石を入れる

突沸を防ぐために、加熱する前のフラスコに沸騰石を入れます。滑らかなガラス容器では泡のきっかけがなく、液が沸点を超えても沸騰せずに温度だけが上がる過熱の状態になりやすく、それが何かの拍子に一気に沸騰するのが突沸です。

突沸が起きると、熱い液がフラスコから飛び出したり、枝へ吹き上がったり、器具が壊れたりします。沸騰石は細かい穴を多く持つ素焼きなどの小片で、穴の中の空気が泡のきっかけになり、液を少しずつ穏やかに沸騰させます。

沸騰石は必ず加熱する前に入れ、入れ忘れたときは一度冷ましてから入れます。過熱した液に入れると、その瞬間に突沸を起こすことがあるためで、一度使った沸騰石は穴に液が入って働きが落ちるので、再利用しません。

温度計はフラスコの枝元に球部がくるようにする

温度計は、液の温度ではなく、枝へ出ていく蒸気の温度を測るために使います。そのため球部(液だめ)を枝の付け根の高さに合わせ、留出している物質の沸点を示す位置に置きます。

球部が高すぎると蒸気に十分触れずに低めの値を示し、液に浸かると液の温度を示してしまいます。純物質は一定の圧力で沸点が一定なので、正しい位置の温度計が一定の値を保っていれば、目的の物質が留出していると判断できます。

リービッヒ冷却器に通す水は下から上へ流す

リービッヒ冷却器の冷却水は、低い側の口から入れて高い側の口から出します。下から上へ流すと冷却器の外筒が水で満たされますが、上から流すと水が下へ抜けて空気が残り、冷却が足りずに蒸気が受け器の外へ逃げてしまうためです。

この向きにすると、冷却水は蒸気とは逆向きに流れます。出口近くの冷えかけた液ほど冷たい水に触れる向流になり、熱交換の効率が上がる点は、工場の熱交換器で使う対数平均温度差(並流と向流)の考え方と同じです。

アダプターと受け器は密閉しない

アダプターと受け器のすき間は、栓などでふさがずに大気へ開けておきます。装置を密閉したまま加熱すると、膨らむ空気と蒸気の逃げ場がなくなって中の圧力が上がり、栓が飛んだりガラス器具が割れたりするおそれがあるためです。

揮発しやすく燃えやすい液を蒸留するときは、開いた口から出る蒸気が火元に近づかないよう、受け器を氷水で冷やしたり、換気のよい場所で行ったりします。工場の蒸留塔でも、閉じた容器の圧力をどう逃がすかは安全設計の柱で、後の章で触れます。

枝付きフラスコは直接加熱せず金網、水浴、油浴を使う

枝付きフラスコは、炎を直接当てずに金網や水浴、油浴、マントルヒーターを通して加熱します。炎が一点に当たると、その部分だけが急に熱くなってガラスにひずみが生じて割れることがあり、間接的に温めると液全体の温度もそろいやすくなります。

沸点が100℃より低い液なら水浴、それより高い液なら油浴というように、液の沸点に合わせて熱源を選びます。エタノールなど燃えやすい有機溶媒の蒸留では、引火を避けるためにガスバーナーの炎は使わず、電気で温める器具を使うのが基本です。

蒸留のはじめと終わりの留出液は捨てる

蒸留を始めてすぐに出てくる液(初留)は、器具に残っていた水分や、目的の物質より沸点の低い不純物を含みやすいため、別の容器に受けて捨てます。温度計の値が目的の沸点で安定してから受け器を替え、本留を集めるのが基本の流れです。

終わりのほうは、沸点の高い不純物が出始めるうえ、フラスコの液がなくなるまで加熱すると空焚きになって危険です。乾固する前に加熱を止め、留出の速さも毎秒1滴ほどに抑えると分離がよくなり、どこからどこまでを集めるかは実験の目的と手順書で決めます。

分留とは?気液平衡で見る分け方の原理

分留とは、沸点の違う2種類以上の液体が混ざった混合物を、蒸発と凝縮を何度もくり返すことで、沸点の範囲ごとの成分に分ける操作です。水とエタノール、ベンゼンとトルエンのように、どちらの成分も蒸発する液体どうしの混合物を分けるときに使います。

液体どうしの混合物を1回だけ蒸留しても、きれいには分かれません。沸騰している液からは、沸点の低い成分も高い成分も同時に蒸気になり、蒸気の組成は「沸点の低い成分が多め」になるだけだからです。

液と蒸気が同じ温度で触れ合い、どちらの組成も変わらなくなった状態を気液平衡と呼びます。理想的な溶液では、各成分の蒸気の圧力(分圧)はその成分の液中の割合に比例し、これをラウールの法則と呼びます。

ラウールの法則(理想溶液)と、蒸気の中の割合
pA = xA × pA*  yA = pAP
計算例:80℃でベンゼンとトルエンを半分ずつ(モル分率 x = 0.5)含む液
pベンゼン = 0.5 × 101.0 = 50.5 kPa  pトルエン = 0.5 × 38.8 = 19.4 kPa
yベンゼン = 50.550.5 + 19.4 = 約0.72
pA:成分Aの分圧 xA:液の中のAのモル分率 pA*:純粋なAの蒸気圧 yA:蒸気の中のAのモル分率 P:全圧(ここでは 50.5 + 19.4 = 69.9 kPa)。80℃の純物質の蒸気圧(ベンゼン 101.0 kPa、トルエン 38.8 kPa)は NIST のアントワン式から計算

液の中では半分ずつだったベンゼンが、蒸気の中では約72%に増えました。この蒸気を冷やして液に戻し、もう一度蒸発させると、ベンゼンの割合はさらに上がります。分留は、この「蒸発→凝縮」を何段も重ねて、少しずつ成分の割合を偏らせていく操作です。

図3:気液平衡図(ベンゼンとトルエンの例)

曲線が対角線より上にあるほど、蒸気は沸点の低い成分に富み、蒸発と凝縮の1回ごとに割合が上がります。

00.51液の中のベンゼンの割合0.721太い曲線:気液平衡点線:液と蒸気が同じ割合階段:蒸発と凝縮液0.5 → 蒸気約0.72ここに近いほど分けにくい0.3→0.53→0.74→0.88蒸気の中のベンゼンの割合

※80℃付近の蒸気圧の比(約2.6)で一定として描いた理想溶液の模式図。割合はモル分率です。

実験室では、フラスコの上に分留管(ガラス玉などを詰めた管)を付け、管の中で蒸気が凝縮と再蒸発をくり返すようにします。工場ではこれを背の高い精留塔(蒸留塔)で行い、段の数を増やすほど、沸点の近い成分どうしでも分けられるようになります。

分留の代表例が原油の分留で、加熱した原油を精留塔に入れ、塔の上ほど温度が低いことを利用して、下から残油・軽油・灯油、塔頂からナフサとガスを同時に取り出します。各留分の温度や製油所の装置は石油(原油)の分留で詳しく整理しています。

蒸留と分留の違いは?

高校の教科書では、蒸留は「液体と固体(不揮発性の物質)を分ける方法」、分留は「液体と液体を分ける方法」と区別して説明されることが多くあります。この区別は覚え方としては分かりやすいものの、正確には蒸留が総称で、分留はその中の一つのやり方です。

比べる点単蒸留(いわゆる蒸留)分留(分別蒸留・精留)
分ける混合物液体+蒸発しにくい固体(例:塩化ナトリウム水溶液)、沸点差の大きい液体どうし沸点の近い液体どうし(例:エタノールと水、原油)
蒸発と凝縮の回数1回分留管や塔の中で何回もくり返す
主な装置枝付きフラスコ、リービッヒ冷却器、受け器分留管、精留塔(蒸留塔)、還流
得られるもの蒸発しやすい成分(例:水)沸点の範囲ごとの複数の成分(留分)
選ぶ目安相手がほとんど蒸発しない、または沸点が大きく離れているどちらの成分も蒸発し、1回では割合が十分に偏らない
単蒸留で足りるか分留が必要かは、成分の沸点の差(蒸気圧の比)と、求める純度で決まります

塩化ナトリウム水溶液が蒸留の例によく使われるのは、塩化ナトリウムの融点が約801℃(米国の CRC ハンドブックの値は800.7℃)と高く、水の沸点ではほとんど蒸気にならないからです。相手が蒸発しなければ1回の蒸留で純粋な水が得られるので、分留管も塔も必要ありません。

一方、エタノールと水のようにどちらも蒸発する液体は、1回の蒸留では「エタノールが多めの液」が得られるだけです。何段もの分留を重ねて割合を上げていくところに、工業の蒸留塔が背の高い設備になる理由があります。

実際の工場では:蒸留塔のしくみと運転

化学工場の蒸留塔は、実験室の分留を大きくして連続で動かせるようにした設備です。原料を塔の途中から休みなく入れ続け、塔頂から沸点の低い成分、塔底から沸点の高い成分を絶えず取り出しながら、何年も止めずに運転します。

蒸留塔はリボイラー・コンデンサー・濃縮部・回収部でできている

塔の底には液を温めて蒸気をつくるリボイラー(再沸器)、塔頂には出てきた蒸気を冷やして液に戻すコンデンサー(凝縮器)があり、どちらも熱交換器の一種です。実験室のフラスコの加熱がリボイラー、リービッヒ冷却器がコンデンサーに当たります。

図4:蒸留塔の構成

原料を入れる段より上が濃縮部、下が回収部で、塔頂の還流と塔底のリボイラーが蒸気と液の流れをつくります。

コンデンサー還流ドラムリボイラー原料濃縮部回収部還流留出液缶出液軽い成分重い成分途中の段へ

※点線は段(トレイ)のイメージ。実際の段数や原料を入れる位置は、分ける成分と求める純度で塔ごとに決めます。

原料を入れる段より上の部分は、上るにつれて軽い成分が濃くなるので濃縮部、下の部分は重い成分を残しつつ軽い成分を追い出すので回収部と呼びます。

塔の中では、リボイラーでつくった蒸気が上へ、還流した液が下へと逆向きに流れ、各段で触れ合うたびに軽い成分は蒸気へ、重い成分は液へ移っていきます。

温度・圧力・流量・液面は計器で常に測られ、還流量やリボイラーの蒸気量を自動で調節しています。こうした制御の組み方は、P&ID(配管計装図)に塔と計器のつながりとして描かれます。

トレイと充填物:蒸気と液を触れ合わせる仕掛け

蒸気と液を触れ合わせる塔の中身には、大きく分けてトレイ(棚段)と充填物の2種類があります。棚段塔は、泡鐘・多孔板・バルブといった構造の棚板を何段も重ね、各段にたまった液の中を蒸気がくぐる形で、堰を越えた液はダウンカマーという通り道から下の段へ流れます。

充填塔は、金属やセラミックの小片(不規則充填物)や、波板を組んだ部材(規則充填物)を塔に詰めたものです。液は充填物の表面を薄く流れ落ち、蒸気はそのすき間を上るので、圧力損失が小さく、熱に弱い物質を減圧で蒸留する用途に向いています。

還流比と段数:純度・回収率・エネルギーのつり合い

塔頂で凝縮した液のうち、塔に戻す量と製品として取り出す量の比を還流比と呼びます。還流比を上げると各段で触れ合う液が増えて分離は鋭くなり、同じ純度なら少ない段数で済みますが、そのぶんリボイラーで加える熱とコンデンサーで捨てる熱が増えます。

設計では、これ以下では無限の段数が必要になる最小還流比を求め、その1.2〜2.0倍ほどを経済的な運転の目安にします。運転員は製品の純度、塔底に逃げる目的成分(回収率)、処理量、蒸気代を見比べながら還流量を決めており、蒸留塔の運転は純度とエネルギーのつり合いを取り続ける仕事です。

蒸留塔が使われている場所

蒸留塔は、製油所の常圧蒸留装置だけでなく、石油化学、溶剤の回収、医薬品の原料の精製、酒類やバイオエタノールの製造など幅広い工場で使われています。

ナフサを分解してつくったガスを成分ごとに分けるエチレンプラントでも、多数の蒸留塔が並んでおり、その再編の動きは西日本のエチレン集約で整理しています。

酸素や窒素も、空気を液化してから蒸留塔で分けてつくられています(深冷分離)。窒素の沸点は約−196℃、酸素は約−183℃とわずかな差しかありませんが、上下2段の精留塔をつなぐ構成で高純度に分けており、沸点の差を使うという原理は温度がマイナス180℃台でも変わりません。

沸点差だけでは分けられないとき:共沸・減圧・水蒸気蒸留

ふつうの蒸留や分留が使えるのは、成分の沸点に差があり、加熱しても壊れない物質に限られます。混合物の性質によっては、段数をいくら増やしても分けられなかったり、沸点まで温めると分解したりするため、工場では条件や添加物を変えた蒸留法を使い分けています。

図5:ふつうの蒸留で分けにくいときの4つの方法

「なぜ分けにくいか」によって、加えるもの・変える条件が違います。

共沸蒸留共沸して分けられない組み合わせに第3の成分(エントレーナー)を加え、新しい共沸物として水などを抜き出す例:無水エタノール
抽出蒸留沸点の近い成分に、片方だけをよく溶かす溶剤を塔の上から流し、蒸気圧の差を広げる例:C4留分のブタジエン
減圧蒸留圧力を下げて沸点を下げ、熱に弱い物質や沸点の高い成分を分解させずに蒸発させる例:石油の残油・医薬原料
水蒸気蒸留水と混ざらない物質に水蒸気を吹き込み、本来の沸点より低い温度で一緒に留出させる例:植物の精油

※東洋エンジニアリング・日本ゼオンの公開資料、LibreTexts、日本化学会の資料をもとに作成。

共沸:エタノールと水は約95.6%から先へ進まない

液体の組み合わせによっては、ある組成で液と蒸気の組成が同じになり、それ以上は蒸留で分けられなくなります。これが共沸で、そのときの混合物を共沸混合物と呼びます。

代表例がエタノールと水で、エタノール約95.6質量%の液は約78.2℃で同じ組成の蒸気を出して沸騰します。気液平衡図では曲線が対角線と交わる点に当たり、どれだけ段数を増やしても、ふつうの蒸留ではこの濃度を超えられません。

そこで無水エタノールをつくるときは、シクロヘキサンなどの第3の成分(エントレーナー)を加え、水を含む新しい共沸物として塔頂から抜き出す共沸蒸留を使います。このほか、ゼオライトなどの吸着剤や膜で残りの水を取り除く方法もあり、乾燥剤の考え方は乾燥剤の選び方でまとめています。

抽出蒸留:溶剤で蒸気圧の差を広げる

沸点の近い成分どうしは、段数を増やしても塔が高くなりすぎて現実的ではありません。抽出蒸留では、片方の成分だけをよく溶かす溶剤を塔の上から流し、溶剤に溶けた成分を蒸発しにくくすることで、2つの成分の蒸発しやすさの差を広げます。

共沸蒸留が「加えた成分と一緒に塔頂へ追い出す」方法なのに対し、抽出蒸留は「溶剤と一緒に塔底へ引き留める」方法と考えると区別できます。

日本ゼオンの GPB 法は、エチレン製造の副産物の C4 留分を塔の中段に入れ、塔頂から DMF(ジメチルホルムアミド)の溶液を流して、合成ゴムの原料になる高純度のブタジエンを分けています。ブタジエンは溶剤と一緒に塔の下へ引き留められ、そのあと溶剤から分けて取り出されます。

減圧蒸留:圧力を下げて沸点を下げる

液体は、自分の蒸気圧がまわりの圧力と等しくなる温度で沸騰するので、まわりの圧力を下げれば沸点も下がります。たとえば水は、大気圧(101.3 kPa)では約100℃ですが、約12.35 kPa まで圧力を下げると約50℃で沸騰します。

熱で分解・変質しやすい医薬品の原料や香料、沸点が高すぎて常圧では蒸発させにくい石油の残油などは、減圧蒸留で分けます。塔や容器の内側が大気圧より低くなるため、外からの圧力でつぶれないような設計が必要になり、その考え方は真空容器の法的区分と外圧強度の記事で触れています。

水蒸気蒸留:混ざらない液体は蒸気圧が足し合わされる

水と混ざらない物質に水蒸気を吹き込んで加熱すると、それぞれが自分の蒸気圧を出し、全体の圧力はその和になります。2つの蒸気圧の合計が大気圧に届いた時点で沸騰するため、混合物はどちらの成分の沸点よりも低い温度で留出します。

水蒸気蒸留の例:水とトルエン(混ざり合わない)は約84℃で沸騰する
56.2 kPa(水)+ 44.9 kPa(トルエン)= 約101.2 kPa = 大気圧(101.3 kPa)
84.3℃での水とトルエンの蒸気圧を、NIST のアントワン式などで計算した値。トルエンだけなら沸点は約111℃で、水と一緒なら約26℃低い温度で留出します。教材によっては85℃(水434 torr+トルエン326 torr=760 torr)と紹介されますが、これは概算の値です

水蒸気蒸留は、ミントやラベンダーなどの植物から香りの成分(精油)を取り出す主な工業的な方法で、高温で傷みやすい成分を低い温度のまま回収できます。工場で蒸気を液に直接吹き込む加熱の計算は、蒸気の直接加熱で扱っています。

蒸留のエネルギーと安全:省エネ技術と事故を防ぐ要点

蒸留は、液を蒸発させる熱をリボイラーで加え、同じ量の熱をコンデンサーで冷却水に捨てる操作です。この性質から、工場では「熱をどう減らすか」と「圧力と温度をどう安全に保つか」が、蒸留塔の2つの大きなテーマになっています。

蒸留塔は化学産業のエネルギーの約4割を使う

産業技術総合研究所の研究者らの論文(2014年)は、化学産業の消費エネルギーのうち、分離技術の主役である蒸留塔が占める割合は最も大きく、約40%に達すると言われていると紹介しています。省エネルギーが国の課題になるほど、蒸留は熱を多く使う工程です。

理由は、液を蒸気に変える潜熱の大きさにあります。水1 kgを大気圧で蒸発させるには約2,256 kJが必要で、20℃の水を100℃まで温める熱(約335 kJ)の約7倍に当たり、還流を増やすほどこの大きな熱を何度も加えては捨てることになります。

ヒートポンプとHIDiC:捨てていた熱を塔の中で使い回す

省エネの基本の発想は、コンデンサーで捨てている熱をリボイラーに戻して使うことです。ただし塔頂の蒸気は塔底の液より温度が低いので、そのままでは熱を渡せず、圧縮機で蒸気の圧力と温度を上げてから使うヒートポンプの考え方が取り入れられてきました。

この発想を塔の内部に組み込んだのが、内部熱交換式蒸留塔(HIDiC)です。塔を回収部と濃縮部に分け、回収部から出た蒸気を圧縮機で少し加圧して濃縮部へ送ると、濃縮部の温度が回収部より高くなり、濃縮部で蒸気が凝縮するときの熱が壁を通して回収部の液を蒸発させます。

図6:リボイラーだけの蒸留塔と SUPERHIDIC のエネルギー

東洋エンジニアリングの説明図では、従来の塔を100とすると、圧縮機とリボイラーを合わせて約50になります。

従来の塔SUPERHIDICリボイラー 100圧縮機 40+リボイラー 10= 約50圧縮機の電力は一次エネルギーに換算

※東洋エンジニアリングの発表(2014年11月)の比較図をもとに作成。同社は多くの場合40〜60%の省エネとしており、削減率は分ける物質や運転条件で変わります。

国のプロジェクトでは、2005年2月に丸善石油化学の千葉工場で、シクロペンタンを精製する既設の塔を対象に HIDiC の試験設備を建てました。連続1000時間の運転で、既設の塔と比べて60%以上の省エネを確かめています。

その後、東洋エンジニアリングと産総研が特許を持つ SUPERHIDIC が同工場のメチルエチルケトンの製造設備に導入されました。東洋エンジニアリングは2017年4月、従来の塔と比べて50%を超える省エネを達成したと発表しました。

一方で、可燃性の蒸気を扱う圧縮機は防爆にする必要があって高価になり、汚れやすい液には使いにくいことが普及の壁だったと、産総研の論文は振り返っています。蒸留の熱の使い方は、工場の省エネや脱炭素の取り組みで最初に見直される対象の一つです。

実験室と工場に共通する安全の考え方

実験の注意点で見た突沸と密閉の危険は、工場の蒸留塔でも形を変えて現れます。液が局所的に過熱されれば急な沸騰で圧力が跳ね上がり、出口がふさがれば塔の圧力は上がり続けるため、「過熱させない」「圧力の逃げ道を確保する」という考え方は実験室と同じです。

工場の塔や容器には、圧力が設定値を超えたときに自動で開く安全弁が付き、冷却水が止まったときや火災のときにも圧力を逃がせるよう設計されています。トレイの汚れや腐食は分離の性能と安全の両方に響くので、数年ごとの定期修理(定修)で塔を開けて点検します。

蒸留・分留のよくある質問

蒸発と蒸留はどう違うのですか?

蒸発(蒸発濃縮)は、溶媒を蒸気にして飛ばし、あとに残る濃い液や固体を得る操作です。蒸留は、出てきた蒸気を冷やして液体として回収する操作で、残るものと出ていくもののどちらを目的にするかが違います。

沸騰石の代わりに使えるものはありますか?

液を撹拌子(スターラーバー)でかき混ぜながら加熱する方法があり、実験書でも沸騰石と並べて紹介されています。どちらも液の中に泡のきっかけや流れをつくって過熱を防ぐもので、加熱を始める前に入れておく点は同じです。

実験室の分留と石油の分留は同じしくみですか?

同じしくみです。どちらも蒸発と凝縮をくり返して沸点の範囲ごとに分けており、製油所の常圧蒸留装置は、塔の高さごとに灯油や軽油を同時に、連続して取り出せるようにした大きな分留装置です。

蒸留で純度はどこまで上げられますか?

段数と還流比を増やせば純度は上がりますが、加える熱と設備の大きさも増えるため、どこまで上げるかは製品の規格と費用で決まります。エタノールと水のような共沸混合物では、ふつうの蒸留だけでは共沸組成を超えられず、共沸蒸留や吸着・膜を組み合わせます。

まとめ:蒸留と分留は沸点の違いで混合物を分ける方法

この記事のまとめ
  • 蒸留は、混合物を加熱して蒸気にし、冷やして液に戻すことで成分を分ける操作の総称で、分留はその一種
  • 実験の7つの注意点は、分離の精度を守ることと、突沸・過圧・ガラスの破損を防ぐことに理由がある
  • 分留は気液平衡を利用し、蒸発と凝縮をくり返して沸点の低い成分の割合を少しずつ上げていく
  • 工場の蒸留塔はリボイラー・コンデンサー・濃縮部・回収部でできており、還流比で純度とエネルギーのつり合いを取る
  • 共沸・熱に弱い物質には共沸蒸留・抽出蒸留・減圧蒸留・水蒸気蒸留を使い、省エネには HIDiC などのヒートポンプ技術がある

蒸留は、沸点の違いで混合物を分けるという化学の基本が、そのまま工場の中心的な設備になった操作です。蒸留塔が並ぶ職場の全体像は化学業界とはやプラント業界とはの記事からたどれます。

出典

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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