ハロゲン化水素は、ハロゲン原子と水素原子が共有結合した分子で、フッ化水素 HF・塩化水素 HCl・臭化水素 HBr・ヨウ化水素 HI の4種です。どれも常温では刺激臭のある気体か、HF のように沸点が室温に近い物質で、水によく溶けて酸性の水溶液になります。
4種の違いでよく聞かれるのは2つです。水溶液の酸の強さは HF<HCl<HBr<HI で、HF だけが弱酸です。沸点は分子が重いほど高くなるはずなのに、HF だけが 19.5℃と飛び抜けて高くなります。前者は結合の切れやすさ、後者は分子どうしの水素結合で説明できます。
工場でも4種の役割ははっきり分かれ、HF はフッ素樹脂と半導体、HCl は塩ビの工程と鋼の酸洗い、HBr は臭素化合物、HI は還元剤として使われます。一方で4種とも腐食性が強く、HF は毒物、ほかの3種は劇物に当たるので、ガスの検知と漏れたときの手順が欠かせません。
ハロゲン化水素とは?4種類に共通する性質
ハロゲン化水素とは、17族のハロゲン(F・Cl・Br・I)が水素と1本の共有結合でつながった二原子分子です。ハロゲンは水素より電気陰性度が大きく、結合の電子対をハロゲン側へ引き寄せるので、どれも水素側がわずかに正、ハロゲン側がわずかに負の極性分子になります。
電気陰性度は、結合した原子が電子対を引きつける強さの目安です。ポーリングの値で水素は 2.20、フッ素は 3.98 で、その差 1.78 は4種の中で最大です。差の考え方と大きい順は電気陰性度の解説で詳しく扱っています。
極性分子は、同じく極性を持つ水によく溶けます。水に溶けると H+ を水分子に渡して H3O+(オキソニウムイオン)ができるので、4種とも酸性を示します。分子の形と極性の関係は極性分子と無極性分子の見分け方で整理しています。
下のハロゲンほど原子が大きく結合が長くなり、電気陰性度の差(極性)は小さくなります。
※結合距離は NIST Chemistry WebBook、電気陰性度はポーリングの値(H 2.20、F 3.98、Cl 3.16、Br 2.96、I 2.66)をもとに作成。
4種の違いは、原子の大きさの順にほぼ一方向へ並びます。ハロゲン原子が大きくなるほど結合は長く、弱く、極性は小さくなり、その中で HF だけが水素結合という別の力を持つ、と押さえると全体がつかめます。数字を1表にまとめると次のとおりです。
| 比べる観点 | HF | HCl | HBr | HI |
|---|---|---|---|---|
| 水溶液の名前 | フッ化水素酸 | 塩酸 | 臭化水素酸 | ヨウ化水素酸 |
| 水溶液の酸の強さ | 弱酸(Ka 約7 × 10−4) | 強酸 | 強酸 | 強酸(4種で最強) |
| 結合エネルギー(kJ/mol) | 565 | 427 | 363 | 295 |
| 結合距離(pm) | 91.7 | 127.5 | 141.4 | 160.9 |
| 電気陰性度の差(H 2.20 との差) | 1.78 | 0.96 | 0.76 | 0.46 |
| 沸点(℃) | 19.5 | −85.0 | −66.8 | −35.4 |
| 分子どうしの水素結合 | 強い | ほとんどない | ほとんどない | ほとんどない |
| 主な工業用途 | フッ素樹脂・冷媒の原料、半導体の洗浄 | 塩ビの工程、鋼の酸洗い、水処理 | 臭化物・臭化アルキルの原料、エッチング | 還元剤、ヨウ素化合物の原料 |
表の上半分が「酸の強さ」、下半分が「沸点」の理由につながる数字です。次の章からは、それぞれの順番がなぜそうなるのかを1つずつ確かめます。
ハロゲン化水素の性質で押さえる2つのポイント
ハロゲン化水素の性質で押さえておきたいのは、酸の強さの順番が HF<HCl<HBr<HI であることと、HF だけが弱酸であることの2つです。どちらも直感とずれやすく、電気陰性度だけで考えると逆の答えを出してしまうので、理由まで一緒に覚えておくと迷いません。
酸の強さの順番は HF<HCl<HBr<HI:結合の切れやすさで決まる
水溶液の酸の強さは HF<HCl<HBr<HI で、周期表の下にあるハロゲンほど強い酸になります。
いちばん大きな理由は、H−X の結合が下へ行くほど長く弱くなり、H+ を手放しやすくなることです。結合エネルギーは H−F 565、H−I 295 kJ/mol と、約2倍も違います。
電気陰性度だけで考えると、フッ素が水素の電子を最も強く引くので、HF が最も H+ を出しやすく見えます。しかし実際の H−F 結合は短くて強く、4種の中で最も切れにくい結合です。「結合の極性が大きい=電離しやすい」とはならない点が、この順番の要です。
H−F は4種で最も切れにくい結合で、HF だけが水中で一部しか電離しない弱酸です。
※結合エネルギーは LibreTexts「Bond Energies」の平均値。強酸3つの差は水中ではほとんど見えず(水平化効果)、順番は酢酸などの溶媒中で確かめられたものです。
もう1つの理由は、できた陰イオンの大きさです。I− のように大きな陰イオンは、負の電荷が広い体積に散らばるので、H+ を引き戻す力が弱くなります。反対に小さな F− は電荷が狭い範囲に集まり、H+ と強く引き合います。イオンの大きさの順はイオン半径の解説で確かめられます。
HCl・HBr・HI はどれも水中でほぼ完全に電離するので、水溶液の pH を測っても3つの差はほとんど見えません。水より H+ を受け取りにくい溶媒の中で比べると差が表れ、この現象を水平化効果と呼びます。強酸どうしの順番は、こうした条件で確かめられた順番です。
HF だけが弱酸である理由:強い結合とイオン対
HF だけが弱酸になるのは、H−F の結合が強くて切れにくいうえに、電離してもイオンどうしが強く引き合って離れにくいからです。電離定数 Ka は約 6.8 × 10−4 mol/L(pKa 約3.2)で、0.1 mol/L の水溶液でも電離しているのは全体の約8%にとどまります。
一方で、小さな F− は水分子を強く引き寄せて大きなエネルギーを出すので、結合を切るエネルギーの多くはそこで取り戻されます。英国の化学教材 Chemguide は、それでも弱酸になる理由として、電離した H3O+ と F− がイオン対のまま離れにくい点を挙げています。
高校化学では「HF は分子間で水素結合をつくり、水素原子が挟まれて H+ として出にくい」と説明されることもあります。これは入口として分かりやすい説明で、詳しく見ると結合の強さとイオン対の両方が効いています。電離度の計算や濃い液でのふるまいはフッ化水素の性質の解説で扱いました。
理由を一言で説明するなら、次の文がまとまっています。「H−F 結合は4種で最も強く、電離しても H3O+ と F− が強く引き合うため、HF は水中で一部しか電離せず弱酸になる」。電気陰性度の大きさだけを理由に書くと、順番が逆になる説明と区別がつかなくなります。
ハロゲン化水素の沸点:HF だけ高いのは水素結合のため
ハロゲン化水素の沸点は HCl −85.0℃、HBr −66.8℃、HI −35.4℃ と分子が重いほど高くなり、HF だけが 19.5℃と例外的に高くなります。HF の分子どうしが水素結合で強く引き合い、気体にするのに余分なエネルギーが要るためです。
HCl から HI へ沸点が上がるのは、分子が大きいほど電子の雲がゆがみやすく、分子どうしに働く分散力(ファンデルワールス力の一つ)が強くなるからです。この流れのままなら、最も軽い HF の沸点は HCl より低いはずでした。
HCl→HBr→HI は分子が重くなるほど沸点が上がり、HF だけが流れから外れて高くなります。
※モデルSDS(厚生労働省)、化学辞典・ブリタニカ(コトバンク)の値をもとに作成。HI は資料により −35.4〜−35.5℃。点線は HCl から外へ延ばした傾向の目安です。
水素結合は、電気陰性度の大きい F・O・N に結合した水素原子が、隣の分子の F・O・N の非共有電子対に引き寄せられる結びつきです。
分散力よりずっと強いので、HF は液体の中で分子どうしが鎖のようにつながり、沸点が 100℃以上も押し上げられます。水やアンモニアの沸点が高いのも同じ理由で、水素結合の解説で16物質を並べて比べています。
現場では、この沸点の差が扱い方の違いになります。純粋な HF は1気圧で 19.5℃が沸点なので、空調の効いた室内では液体でも、夏の屋外や加温された配管の近くではすぐ気体になります。HCl・HBr は常温では高圧の液化ガスとしてボンベで扱い、漏れればそのまま気体で広がります。
フッ化水素:ホタル石からつくり、ガラスを溶かす
フッ化水素は、ホタル石と濃硫酸からつくる弱酸で、ガラスの主成分 SiO2 を溶かすという、ほかの3種にない性質を持ちます。毒性も4種の中で最も強く、毒物及び劇物取締法の毒物に当たります。ここでは製法と反応の要点に絞り、詳しい性質と応急処置は個別の記事に任せます。
フッ化水素の製法
フッ化水素は、フッ化カルシウムを主成分とするホタル石(蛍石)に濃硫酸を加えて加熱し、出てくる気体を集めてつくります。沸点の高い硫酸が、沸点の低い HF を塩から追い出す反応で、「揮発性酸の遊離」と呼ばれます。
工場でも原理は同じで、乾燥したホタル石の粉と硫酸を回転炉(ロータリーキルン)で反応させ、出てきたガスを冷却・精製して無水フッ化水素にします。ホタル石の産地と世界の生産量、キルンの後の精製の流れは、先に紹介したフッ化水素の解説の「実際の工場では」にまとめています。
フッ化水素を下方置換で集める理由
HF の分子量は20で、空気の平均分子量28.8より軽いのに、教科書では下方置換で集めます。気体の中でも HF どうしが水素結合で会合し、32℃付近では (HF)2〜(HF)3 に相当する重さになるため、見かけの分子量が40〜60と空気より重くなるからです。
水によく溶けるので水上置換は使えず、ガラスを溶かすのでガラス器具も使えません。実際の実験室では、気体のまま集めるより水に吸収させてフッ化水素酸にすることが多く、器具はポリエチレンやフッ素樹脂(PTFE)製を使います。
ガラスの腐食反応:SiO₂ のエッチング
フッ化水素は、酸にも熱にも強い二酸化ケイ素 SiO2 を溶かします。ケイ素とフッ素の結びつきがケイ素と酸素の結びつきより強く、Si−O の網目が Si−F に置き換わって、気体や水に溶ける物質として表面から外れていくからです。この「削る」操作をエッチングと呼びます。
SiO2 は分子ではなく、ケイ素と酸素が立体の網目のように共有結合した結晶で、SiO2 は組成式です。一方、反応でできる SiF4 は1個ずつ独立した分子で、常温では気体です。この違いは共有結合の結晶と分子結晶の違いで整理しています。
この反応は酸化還元反応ではありません。反応の前後でケイ素の酸化数は +4、フッ素は −1、酸素は −2 のまま変わらず、酸素とフッ素の入れ替わり(酸と塩基の反応に近い置換)として理解するのが正確です。
気体の HF では SiF₄ が気体で抜け、水溶液では H₂SiF₆ として液に溶けて表面から外れます。
※コトバンク(世界大百科事典・化学辞典)の記述をもとにした模式図。どちらも酸化数は変わらず、酸化還元反応ではありません。
ドライエッチングの反応式
水を使わず、気体の HF で SiO2 を削る方法をドライエッチング(気相エッチング)と呼びます。ケイ素原子1個の周りの酸素4個がすべてフッ素に入れ替わるので、生成物は SiF4 と水になります。
ウェットエッチングの反応式
フッ化水素酸(水溶液)で削る方法がウェットエッチングです。水溶液では、できた SiF4 がさらに2分子の HF と結びつき、水に溶けるヘキサフルオロケイ酸 H2SiF6 になります。
反応式を組み立てるときは、「まず SiO2 を水と反応させた形 H2SiO3 にし、それを HF と反応させる」という2段階で考えると、係数を合わせやすくなります。メタケイ酸が実際に途中でできるわけではなく、式をつくるための補助線です。
半導体の工場では、シリコンウエハー表面の酸化膜を、フッ化アンモニウムで緩衝したフッ化水素酸(バッファードフッ酸)で溶かして形を整えます。ウエハーにパターンをつくる工程全体の中での位置は、半導体の前工程の流れで見渡せます。
塩化水素:製法とアンモニアの検出
塩化水素は、4種の中で最も多くつくられ、最も広く使われているハロゲン化水素です。実験室では食塩と濃硫酸から、工場では食塩電解の塩素と水素から合成するか、塩素を使う化学品の工程で副生したものを回収してつくります。ここでは教科書の要点を確かめ、塩酸の工業的な話は個別の記事に任せます。
塩化水素の製法
実験室では、塩化ナトリウムに濃硫酸を加えて加熱し、出てくる塩化水素を集めます。フッ化水素と同じ揮発性酸の遊離で、沸点の高い硫酸が残り、沸点 −85℃ の HCl が気体として出ていくので反応が右へ進みます。
沸点の高い濃硫酸が残り、沸点の低いハロゲン化水素だけが気体になって出ていくので、反応が右へ進みます。
※化学辞典・世界大百科事典(コトバンク)の製法の記述をもとに作成。濃硫酸の沸点は濃度で変わります。
HCl は空気より重い(約1.27倍)ので下方置換で集めます。工場での合成塩酸と副生塩酸のつくり方、国内の生産量、塩酸の貯槽の材質は塩化水素と塩酸の解説で詳しく扱っています。
アンモニアの検出に使う HCl
濃塩酸をつけたガラス棒をアンモニアに近づけると、白い煙が立ちます。気体の HCl とアンモニアが反応して、塩化アンモニウムの細かい固体ができるためで、発生した気体がアンモニアかどうかを確かめる方法として知られています。
同じ反応は逆向きにも使え、アンモニア水を含ませた布を配管の継ぎ目に近づけて白煙で HCl の漏れを探す方法もあります。ただし白煙で分かるのはある程度濃い漏れに限られるので、今の工場では後で述べるガス検知器が主役です。
HBr もアンモニアと白煙をつくり、ハロゲン化物イオンの見分けにはハロゲン化銀の沈殿の色も使われます。
工場での使い道:4種のハロゲン化水素はどこで使われるか
4種のハロゲン化水素は、HF はフッ素化学の出発原料、HCl は塩素化学の副産物と酸洗い、HBr は臭素化合物の原料、HI は還元剤とヨウ素化という役割で使い分けられています。ここまで見た性質の違いが、そのまま用途の違いになっています。
結合が強い HF は、フッ素を有機物や金属に入れる反応の原料になり、ガラスを溶かす性質は半導体の洗浄に使われます。
逆に結合が弱い HI は、水素を相手に渡しやすいことから還元剤になります。HCl と HBr は強酸で扱いやすく、量の多い HCl は鋼の洗浄、HBr はより細かな化学品の合成に回ります。
結合が強い HF はフッ素化学の原料に、結合が弱い HI は還元剤に、と性質の違いが用途を分けています。
※厚生労働省モデルSDS(用途は NITE-CHRIP より)、コトバンク、Wikipedia「Cativa process」、特許 US5007982 をもとに作成。
| 物質 | 工場で使う場面 | 工場で出てくる場面 | 現場での形 |
|---|---|---|---|
| HF | フッ素樹脂・冷媒(フロン類)の原料、半導体の酸化膜エッチングと洗浄、アルミ製錬のフッ化物、重合などの触媒 | ホタル石と硫酸の反応(製造そのもの)、半導体・ガラス加工の排ガス | 無水フッ化水素(ボンベ・タンク)、フッ化水素酸(水溶液) |
| HCl | 鋼の酸洗い、塩ビ原料のオキシ塩素化、水処理の pH 調整とイオン交換樹脂の再生、半導体の洗浄 | 塩ビやウレタン原料をつくる工程(副生塩酸)、ごみ焼却の排ガス | 塩酸(35%前後)、高純度の塩化水素ガス |
| HBr | 無機臭化物・臭化アルキルの原料、医薬原料、有機合成の触媒、シリコンのドライエッチング | 芳香族などを臭素で臭素化する工程 | 臭化水素酸(約48%)、高純度の臭化水素ガス |
| HI | 還元剤、ヨウ素化合物の原料、医薬原料、分析用試薬 | 酢酸をつくる触媒サイクルの中(回して使う) | ヨウ化水素酸(約57%まで) |
HF:フッ素樹脂・冷媒の原料と半導体の洗浄
無水フッ化水素の最大の行き先は、フッ素を含む化学品の原料です。
クロロホルムと HF から冷媒にもなるフロン類 HCFC-22 をつくり、それを熱分解して PTFE(テフロン)の原料モノマーのテトラフルオロエチレンへつなげます。フッ素を有機物に入れる多くの工程は、フッ素ガスではなく HF から始まります。
電子材料では、金属などの不純物を極めて少なくした高純度のフッ化水素酸が、半導体ウエハーの酸化膜の除去と洗浄に使われます。フッ素単体との違いや、フッ素ガスが使われる場面はハロゲン単体の性質と用途で比べられます。
HCl:塩ビの工程と鋼の酸洗い
HCl は、つくる量より「出てくる量」が目立つ物質です。塩化ビニルの原料 1,2-ジクロロエタンを熱分解すると塩化水素が出て、それをエチレン・酸素と反応させるオキシ塩素化で原料に戻します。使い切れない分は副生塩酸として出荷され、国内の塩酸の約6割を占めます。
塩酸の最大の使い道の一つが、鋼材の表面の錆やスケールを溶かす酸洗いです。溶融亜鉛めっきの前処理として薄い塩酸に鋼を浸し、きれいな鉄の面を出してからめっき槽へ送ります。めっきの種類ごとの前処理の違いはめっきの種類と選び方で見られます。
HBr:臭素化合物の原料と、シリコンのドライエッチング
臭化水素は、工業的には臭素と水素を白金などの触媒で約375℃に加熱して直接合成します。水溶液の臭化水素酸は、臭化カルシウムなどの無機臭化物や、医薬・農薬の中間体になる臭化アルキルの原料として使われ、有機合成の触媒にもなります。
臭素系難燃剤のように芳香族へ臭素を入れる工程では、入れた臭素と同じ数の HBr が副生するので、その回収と処理が工程の一部になります。置換反応で水素とハロゲンが入れ替わるしくみは、塩素の例をベンゼンと塩素の反応で扱いました。
電子材料の分野では、高純度の HBr ガスがプラズマでシリコンを削るドライエッチングに使われます。
HBr のプラズマは酸化膜をほとんど削らず、多結晶シリコンだけを選んで削れることが特許文献に示されています。この特許では多結晶シリコンと酸化膜の選択比が約100対1で、従来の塩素系のプラズマ(約30対1)より高いとされ、下の薄いゲート酸化膜を残す加工に向きます。
HI:還元剤とヨウ素化、酢酸をつくる触媒サイクル
ヨウ化水素は4種で最も結合が弱く、酸化されて I2 になりやすい強い還元剤です。濃いヨウ化水素酸は、ニトロ化合物の還元や、アルコールをヨウ化アルキルに変える反応、エーテルの切断に使われ、ヨウ素化合物や医薬原料の製造で働きます。
半反応式の組み立て方は酸化剤と還元剤の半反応式の作り方で整理しています。HI の還元力は、工業ではより大きな反応の「回し役」としても使われています。
代表例が、メタノールと一酸化炭素から酢酸をつくるカティバ法(とその前のモンサント法)です。イリジウムやロジウムの触媒にヨウ化メチルが反応して酢酸ができます。
出てきた HI がメタノールを再びヨウ化メチルに戻します。HI は消費されず、反応器の中でメタノールからヨウ化メチルをつくり直しながら回り続ける中間体です。
安全な取り扱い:許容濃度・法令とガスの検知
4種のハロゲン化水素は、どれも目・皮膚・呼吸器を強く傷める腐食性の物質で、低い濃度でも健康に影響します。中でも HF は皮膚から浸透して体内のカルシウムを奪うので毒物に当たり、ほかの3種は劇物です。扱う物質ごとに、許容濃度と法令、検知と対応の手順を確かめておきます。
4種の許容濃度と法令の違い
許容濃度は、空気中の濃度をどこまでに抑えれば健康への悪影響がほぼないかを示す目安で、値の種類によって意味が違います。表を読む前に、次の4つの違いを押さえておくと、数字を単純に大小で比べる間違いを避けられます。
- 最大許容濃度(日本産業衛生学会):作業中のどの時点でも超えてはいけない値。刺激の強いガスに使われる
- TLV-C(ACGIH の天井値):米国の学会の値で、意味は最大許容濃度に近い
- TLV-TWA(ACGIH の時間加重平均):1日8時間・週40時間の平均で守る値
- 管理濃度(作業環境測定):特定化学物質などの作業場を測って評価するときの基準。法令で使う
| 物質 | 許容濃度の目安 | 毒物及び劇物取締法 | 労働安全衛生法 | 高圧ガス保安法 |
|---|---|---|---|---|
| HF | 最大許容濃度 3 ppm(産衛学会)、TLV-TWA 0.5 ppm(ACGIH)、管理濃度 0.5 ppm | 毒物 | 特定化学物質 第2類(特定第2類物質)、表示・通知、リスクアセスメント | 毒性ガス(一般則第2条) |
| HCl | 最大許容濃度 2 ppm(産衛学会)、TLV-C 2 ppm(ACGIH) | 劇物(10%を超える製剤も劇物) | 特定化学物質 第3類、表示・通知、リスクアセスメント | 液化ガス・圧縮ガス |
| HBr | TLV-C 2 ppm(ACGIH)、産衛学会の値と管理濃度はなし | 劇物(含む製剤も劇物) | 表示・通知、リスクアセスメント | 液化ガス |
| HI | ヨウ素として 0.1 ppm(産衛学会)、ヨウ素・ヨウ化物として TLV-TWA 0.01 ppm(ACGIH) | 劇物 | モデルSDS に記載なし(製品の SDS で確認) | モデルSDS に記載なし(製品の SDS で確認) |
法令の違いは、設備と手続きの違いになります。HF は特定第2類物質なので局所排気装置、作業環境測定、特殊健康診断、作業主任者の選任が要ります。HCl も特定化学物質の第3類として、設備に腐食しにくい材料を使う、定期に点検するといった基準がかかります。
HBr は特化則の対象外ですが、ラベル表示と SDS の交付、リスクアセスメントは必要です。HI は厚生労働省のモデルSDS に労働安全衛生法・高圧ガス保安法の記載がないので、製品の SDS で適用法令を確かめます。
高圧ガス保安法の「毒性ガス」は、一般高圧ガス保安規則の第2条に列記されたガスと、毒物及び劇物取締法の毒物に当たるガスです。HF は毒物なので毒性ガスに入りますが、劇物の HCl と HBr は列記になく、モデルSDS でも液化ガス・圧縮ガスとして載っています。
新しくハロゲン化水素を扱い始めるときは、作業の洗い出しから低減措置まで工場のリスクアセスメントのやり方の6ステップで評価し、物質ごとの法令の欄は製品の SDS の15項で確かめるのが確実です。
漏えい量の単純計算:1 L の HCl で何 ppm になるか
許容濃度の ppm がどれくらい小さい量かは、計算してみると実感できます。1 L の塩化水素ガス(わずか約1.5 g)が、50 m³ の部屋に均一に広がった場合を考えます。1円玉1枚半ほどの重さです。
この計算は、ガスが部屋全体に瞬時に均一に混ざり、換気も吸収もないと仮定した単純な目安です。
実際には漏れた場所の近くで濃度が高く、HCl は空気より重いので床付近にたまり、換気で薄まっていきます。危険度の評価や避難の判断の根拠には使わず、「ごく少量でも許容濃度を超える」ことの実感として使ってください。
ガス検知と漏れたときの動き方
ハロゲン化水素の漏れは、人の鼻ではなくガス検知器で見つけるのが基本です。臭化水素のモデル SDS は許容濃度を超えてもにおいで十分に感じないと注意し、塩化水素のモデル SDS は警報付きのガス検知器の設置を勧めています。
検知器は、まず選び方と保守が大事です。ボンベの収納庫や配管の継ぎ目の近くに置く定置式の検知警報器で常時見張り、点検や漏れ探しには携帯型を使います。対象のガスごとにセンサーが違うので、HF・HCl・HBr それぞれに合う型式かを確かめ、定期的な校正とセンサーの交換を計画に入れます。
一般高圧ガス保安規則は、可燃性ガスと、告示で定める毒性ガスの製造施設に、ガスがたまりやすい場所で漏えいを検知して警報する設備を置くよう定めています。
HF はこの規則の毒性ガスですが、HCl と HBr は毒性ガスの列記になく、設置は事業所のリスクアセスメントやモデルSDS の勧めに基づく判断になります。
HCl と HBr は空気より重いので低い位置に、HF は会合や温度で重さが変わるので、メーカーの推奨と気流を見て設置位置を決めます。
検知器を選んで保守する「備え」と、警報後に動く「対応」を分けて手順を決めておきます。
※一般高圧ガス保安規則 第6条、厚生労働省モデルSDS(塩化水素・臭化水素)をもとに作成。実際の初動は事業所の手順書に従ってください。
警報が鳴った後の動き方は、検知器の話とは分けて手順書に決めておきます。基本は、ボンベの元弁や供給の遮断と排気の確保を設備側で行い、人はまず風上・上の階へ退避して連絡することです。発生源を探す作業は、呼吸用保護具と耐薬品性の保護衣を着けた担当者が、携帯型の検知器で行います。

半導体工場のように HF・HBr・HCl をまとめて使う現場では、ボンベを排気付きのシリンダーキャビネットに収め、排気は除害装置を通してから外へ出します。除害の方式の違いは半導体工場の除害装置の解説で比べています。
容器と材質:乾いたガスと湿ったガスで変わる
ハロゲン化水素の設備材料は、水分があるかどうかで考え方が大きく変わります。水を含まない乾いた HCl・HBr ガスは鋼やステンレスをあまり侵さないので、ボンベや配管にはそれらが使われます。一方、少しでも湿気が入ると強酸の水溶液になり、ほとんどの金属が腐食します。
そのため、ガス配管ではボンベの交換時に空気や湿気を入れないよう、窒素で置換してから接続する手順が組まれます。水溶液の貯槽にはゴムライニング鋼や樹脂の槽を選び、HF の水溶液はガラスを溶かすのでポリエチレンやフッ素樹脂の容器にします。
ただし、材質の適否は濃度・温度・圧力・不純物によって変わり、同じ物質でも一般論だけでは選べません。具体的な選定は、製品の SDS の7項(取扱い及び保管上の注意)と、容器・バルブ・配管のメーカーが出している適合表で確かめます。
ハロゲン化水素のよくある質問
ハロゲン化水素とハロゲン化水素酸は何が違いますか?
ハロゲン化水素は HF・HCl などの分子そのもので、純粋な状態では気体か液体です。それを水に溶かした水溶液がハロゲン化水素酸で、塩化水素の水溶液を塩酸、フッ化水素の水溶液をフッ化水素酸(フッ酸)と呼びます。
電気陰性度が最も大きいのに、なぜ HF が最も弱い酸なのですか?
酸の強さを決めるのは結合の極性より、結合の切れやすさと、できたイオンが離れていられるかだからです。H−F は4種で最も強い結合で、電離しても H3O+ と F− が強く引き合うため、電離が一部で止まります。
4種のうち工業で最も多く使われるのはどれですか?
量では塩化水素(塩酸)が最も多く、塩ビやウレタン原料の工程で大量に副生し、鋼の酸洗いや水処理に使われます。フッ化水素は量では及びませんが、フッ素樹脂・冷媒・半導体に欠かせない原料です。
ハロゲン化水素のガスはにおいで気づけますか?
4種とも強い刺激臭がありますが、臭化水素のモデル SDS は、許容濃度を超えてもにおいで十分に感じないと注意しています。扱う場所ではガス検知器で常時見張り、においを頼りにしないのが原則です。
まとめ
- ハロゲン化水素は HF・HCl・HBr・HI の4種の極性分子で、どれも水に溶けて酸になる
- 酸の強さは HF<HCl<HBr<HI。結合が長く弱いほど H+ を手放しやすく、HF は強い結合とイオン対で弱酸になる
- 沸点は分子が重いほど高いが、HF だけは水素結合で 19.5℃と飛び抜けて高い
- HF はホタル石と硫酸からつくり SiO2 を溶かす。HCl は食塩と硫酸から得られ、アンモニアと白煙をつくる
- 工業では HF がフッ素化学と半導体、HCl が塩ビの工程と酸洗い、HBr が臭素化合物とエッチング、HI が還元剤と酢酸の触媒サイクルを担う
- 4種とも腐食性が強く、HF は毒物、ほかは劇物。漏れはにおいではなくガス検知器で見つけ、警報後の手順を決めておく
ハロゲン化水素の4種は、同じ「HX」という形でも、結合の強さと水素結合の違いが酸の強さ・沸点・用途・扱い方まで分けています。化学メーカーから半導体・素材まで、これらの酸性ガスをつくる側と使う側のつながりは化学業界のサプライチェーンから見渡せます。
出典
出典・参考資料(12件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 結合エネルギー:LibreTexts「Bond Energies」
- 結合距離:NIST Chemistry WebBook「Constants of diatomic molecules」(HF・HCl・HBr・HI)
- 酸の強さと HF のイオン対:Chemguide「The acidity of the hydrogen halides」
- HF の電離定数・ガラスとの反応:コトバンク「フッ化水素酸」(世界大百科事典ほか)
- 臭化水素の製法・性質・用途:コトバンク「臭化水素」(ブリタニカ国際大百科事典、化学辞典 第2版、世界大百科事典ほか)
- ヨウ化水素の性質・用途:コトバンク「ヨウ化水素」、Wikipedia「Hydrogen iodide」
- 酢酸の製造と HI:Wikipedia「Cativa process」
- 臭素系難燃剤:Wikipedia「Tetrabromobisphenol A」
- HBr によるシリコンのドライエッチング:特許 US5007982「Reactive ion etching of silicon with hydrogen bromide」
- 許容濃度・法令・用途・物性:厚生労働省 職場のあんぜんサイト モデルSDS(ふっ化水素・塩化水素・臭化水素・ヨウ化水素)
- 毒性ガスの定義・漏えい検知警報設備:e-Gov 法令検索「一般高圧ガス保安規則」(第2条、第6条)
- 特定化学物質の設備・健康診断:e-Gov 法令検索「特定化学物質障害予防規則」
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