「機械要素部品の市場」と聞くと、多くの方は規模が小さく、景気にもあまり左右されない地味な市場を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、ベアリングだけで年間7,000億円を超える生産があり、空圧・油圧機器を加えると兆円単位の市場です。しかも、自動車や設備投資、海外景気の動きを映して、年ごとの増減もはっきり表れます。
この記事では、機械要素部品業界の市場規模を、統計ごとの数え方の違い、過去5年の推移、需要先と製品の内訳、海外市場と輸出、市場を動かすトレンド、今後の見通しとキャリアへの影響という順で整理します。
機械要素部品業界の市場規模

機械要素部品は種類が多く、業界全体をひとつの数字で表す統計はありません。そこでこの記事では、統計が最も整っているベアリング(軸受)を市場の代表的な指標として見ていきます。
日本ベアリング工業会が経済産業省の機械統計をもとにまとめた資料では、2025年の軸受完成品の生産金額は7,047億円でした。同じ年の販売金額は8,203億円、軸受製造業の受注額は7,601億円です。
空圧・油圧機器も大きな市場です。日本フルードパワー工業会によると、2025年の出荷額は油圧機器が3,541億円、空気圧機器が5,467億円で、合わせて9,000億円を超えています。
前年からの動きは分野で分かれました。油圧機器は前年比0.6%減と横ばいだった一方、空気圧機器は5.3%増えています。建設機械向けが中心の油圧と、工場の自動化や半導体向けが多い空圧とで、需要先の違いが表れた形です。
注意したいのは、同じ業界でも、生産額・販売額・受注額・輸出額で数字が変わる点です。生産額は国内の工場でつくった分の金額、販売額は実際に販売した分の金額、受注額は注文を受けた時点の金額、輸出額は税関を通った金額です。記事やニュースを読むときは、どの数え方かを確かめる必要があります。
同じ年でも、数え方によって金額は異なります。
※出典:日本ベアリング工業会の各統計(資料:経済産業省機械統計、財務省貿易統計ほか)。いずれも暦年。
ねじ、ばね、歯車、直動部品など、ほかの機械要素部品にもそれぞれ市場があります。企業の売上高で見ても、空気圧機器のSMCは2026年3月期に8,425億円、直動部品のTHKは2025年12月期に2,404億円(継続事業)を売り上げています。
こうした分野を合わせると、機械要素部品業界は数兆円規模の裾野を持つと考えられます。ただし、分野ごとに統計の取り方が違うため、単純に足し合わせることはできない点に注意が必要です。
市場規模の推移

ベアリングの生産金額は、2021年から2023年まで7,100億円台で推移したあと、2024年に6,812億円まで減り、2025年は7,047億円に持ち直しました。大きく伸びも縮みもしないが、年ごとの波ははっきりあるのが、この市場の姿です。
2021年以降は7,000億円前後で推移しています。
※出典:日本ベアリング工業会「軸受完成品の生産・販売・受注・在庫及び在庫率の実績推移」(資料:経済産業省機械統計)。百万円単位の値を億円に換算。
販売金額で見ると、直近5年のピークは2022年の8,477億円です。販売には在庫の積み増しや取り崩しの影響も加わるため、生産金額とは動きが少しずれることがあります。増減の理由は、大きく次の3つの局面に分けて見ると理解しやすくなります。
コロナ禍からの急回復(2021〜2022年)
2020年はコロナ禍で自動車や機械の生産が止まり、部品の需要も大きく落ち込みました。その反動で、2021年の軸受販売金額は前年比27.0%増の7,989億円と急回復しています。
産業機械向けや、補修用のアフターマーケットが好調だったことが回復を支えました。景気の底から戻る局面では、部品の需要が一気に跳ね上がることがわかります。
2024年の落ち込み
2024年の生産金額は6,812億円で、前年から4.5%減りました。販売金額も8,406億円から7,901億円へと減っています。
自動車や設備投資といった需要先の動きが鈍ると、在庫の調整も重なって、部品メーカーの生産はより大きく振れやすくなります。完成品の業界に比べて、需要先の変化が増幅された形で表れやすいのが部品業界の特徴です。
2025年以降の持ち直し
2025年は生産金額が7,047億円、受注額が前年比3.5%増の7,601億円と、そろって持ち直しました。2026年に入っても、1〜6月の生産金額は3,624億円で、前年同期を5.4%上回っています。
2025年の受注の伸びを分野別に見ると、海外需要が前年比5.7%増と最も高く、国内の自動車向けや機械向けを上回りました。回復の起点が海外と設備投資にあることが、この時期の特徴です。
需要先・製品別の内訳

軸受製造業の受注額を需要先別に見ると、2025年は国内の自動車向けが最も多く、次いで海外向け、国内の一般機械向けと続きます。自動車・海外・機械の3つで受注の約9割を占める構図です。
国内の自動車向けと、海外向けが二本柱です。
※出典:日本ベアリング工業会「軸受製造業の受注実績」。受注額合計は7,601億円。3分野の比率は同資料から算出。
前年比で見ると、海外需要が5.7%増、一般機械向けが3.8%増、自動車向けが1.9%増でした。伸びをけん引しているのは、海外と機械の分野だといえます。
代理店を通じた受注は303億円で、受注全体に占める割合は4%ほどです(同資料から算出)。ただし、代理店や商社は小口の顧客や補修用の部品を支える流通の要でもあり、金額以上の役割を担っています。
製品別では、2025年の生産金額のうち玉軸受が3,660億円、ころ軸受が3,217億円、軸受ユニットが170億円です。モーターや家電に多い玉軸受と、重い荷重を受ける産業機械向けのころ軸受が、ほぼ半分ずつを分け合っています。
空圧・油圧機器では需要先の顔ぶれが異なります。油圧機器は市場の45%を土木建設機械が占める一方、空気圧機器は工場の自動化設備や半導体製造装置など、幅広い機械に使われています。

海外市場と輸出

機械要素部品業界は、輸出の比重が大きい業界です。ベアリングの輸出通関額は、完成品と部品を合わせて2025年に5,174億円でした。
年5,000億円台の輸出が続いています。
※出典:日本ベアリング工業会「軸受完成品・部品の輸出通関実績(金額)」(資料:財務省貿易統計)。百万円単位の値を億円に換算。
2025年の完成品の輸出額は4,227億円で、同じ年の販売金額8,203億円と比べると約5割にあたります。統計の基準は異なりますが、国内でつくったベアリングのおよそ半分が海外へ向かうと考えてよい規模です。
輸出先はアジアが中心です。2026年7月の単月では、完成品の輸出額419億円のうち中国向けが104億円、米国向けが85億円で、アジア向け全体は約58%を占めました。
さらに大手メーカーは、海外の工場で現地生産も進めています。2026年3月期の海外売上高比率は、日本精工で約69%、NTNで約74%(各社の地域別売上高から算出)に達しており、国内の統計に表れない海外での事業も大きいのが実態です。
空気圧機器でも、日本フルードパワー工業会は輸出が市場全体の約6割を占めるとしています。海外の主要企業との規模の比較は、主要プレイヤーの勢力図の記事で詳しく扱います。
SMCの2026年3月期の売上高を顧客の所在地別に見ると、日本は1,588億円で、海外が約8割を占めます(決算短信の仕向地別売上高から算出)。国内市場の規模だけでは、業界の実力は測れないといえます。
市場を動かす主なトレンド

機械要素部品の市場は、需要先の業界で起きている変化によって中身が入れ替わりつつあります。特に影響が大きいのは、次の4つの流れです。
どの分野の部品が伸びるかを左右する流れです。
自動化・省人化
人手不足を背景に、工場の自動化投資は中長期で続くと見られています。ナブテスコは2025年12月期、産業用ロボットの在庫が適正水準に戻ったことで、精密減速機を含む事業の売上高が前期比17.3%増えました。
ロボット1台には、関節ごとの減速機やベアリング、空圧機器など多くの機械要素部品が使われます。ロボットの普及は、そのまま部品の需要につながる構造です(参考:人手不足・省人化)。
半導体・データセンター
半導体製造装置は、高い精度で動く直動部品や空圧機器を多く使います。日本フルードパワー工業会の資料では、各工業会の2026年の出荷見通しとして、半導体・FPD製造装置関連が前年比12%増とされています。
ミネベアミツミも2026年3月期、データセンター向けのサーバー需要と航空機向け需要を背景に、ボールベアリングを含む事業の売上高を伸ばしました。半導体製造やデジタル関連の投資は、部品市場の新しい柱になっています。
ただし、半導体向けは投資の波が大きい分野でもあります。好調な時期と調整の時期が数年単位で入れ替わるため、需要の変動に合わせて生産を増減させる力も問われます。
自動車の電動化
国内受注の最大の需要先である自動車は、電動化によって部品の中身が変わりつつあります。業界動向サーチは、エンジンからモーターへの転換でベアリングの使用量が減るという見方を紹介しています。
一方で、モーター用の高速回転に耐えるベアリングなど、新しい需要も生まれています。使われる数が減っても、1個あたりに求められる性能は上がるという変化です。
自動車向けの比重は企業によって大きく異なります。たとえばNTNの2026年3月期は、ドライブシャフトなどのCVJアクスル事業の売上高が4,775億円で、軸受などの事業の3,489億円を上回りました。電動化の影響の受け方は、会社ごとに見ていく必要があります。
地政学・通商政策
輸出と海外生産の比重が大きい業界だけに、関税や為替、地域紛争の影響は避けられません。日本フルードパワー工業会も、中東情勢や通商政策、為替変動を不確実性として挙げています。
各社は、需要地の近くで生産する地産地消の体制づくりや、調達先の分散を進めています。どこで作り、どこへ売るかを組み替える動きは、生産技術や購買の仕事にも直結します。


今後の見通しとキャリアへの影響

日本フルードパワー工業会は2026年の出荷額を、油圧機器で前年比3.2%増の3,656億円、空気圧機器で7.6%増の5,885億円と見込んでいます。空圧・油圧機器は合計で9,541億円と、増加の見通しです。
ベアリングも2026年上半期の生産金額が前年同期を上回っており、足元は回復基調にあります。空気圧機器大手のSMCは、2027年3月期の売上高を前期比18.7%増の1兆円と予想しています。
一方で、日本フルードパワー工業会は、自動車関連分野の設備投資は慎重な姿勢が続く見通しだとしています。分野によって明暗が分かれるため、どの需要先に強い会社かを見ることが、これまで以上に重要になります。
伸びる職種
成長分野の顧客に部品を売り込むには、顧客の装置を理解して提案できる技術営業・FAEが欠かせません。海外売上比率が高いため、海外拠点の生産立ち上げを担う生産技術の需要も続きます。
新しい用途に合わせた部品を開発する機械設計や研究開発も、電動化や半導体向けの高機能化で役割が広がっています。
品質への要求が高い半導体や航空機向けが伸びるほど、品質保証・品質管理の重要性も高まります。
補修・交換の需要は景気の波を受けにくく、工場の設備保全の知識を持つ人材は、部品メーカーの技術サポートでも生かせます。
求められるスキル
部品の知識に加え、ロボットや半導体製造装置、電動車など顧客の業界の技術動向を理解する力が、これまで以上に評価されます。
また、海外の顧客や工場とやり取りする機会が多いため、語学力や異なる商習慣への理解も強みになります。部品の状態を監視する予知保全など、デジタル技術と組み合わせた提案力も求められつつあります。
まとめ
- ベアリングの生産金額は2025年に7,047億円。空圧・油圧機器の出荷額は同年に合計9,000億円超
- 生産額・販売額・受注額・輸出額で金額が異なるため、数え方を確かめて読む必要がある
- 生産金額は2024年に落ち込み、2025年から2026年上半期にかけて持ち直している
- 受注は自動車・海外・機械の3分野が中心で、輸出は完成品の販売額の約5割に相当する
- 自動化・半導体・電動化・通商政策が市場の中身を変え、2026年の空圧・油圧機器は増加見通し
業界の基本は機械要素部品業界とは、サプライチェーンや利益の出方は機械要素部品業界の構造、主要企業の顔ぶれは機械要素部品業界の主要企業と勢力図で解説しています。
関連する職種や技術については、機械要素部品の業種ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 軸受の生産・販売金額:一般社団法人日本ベアリング工業会「軸受完成品の生産・販売・受注・在庫及び在庫率の実績推移」(資料:経済産業省機械統計)
- 需要先別受注額:一般社団法人日本ベアリング工業会「軸受製造業の受注実績」
- 軸受の輸出額:一般社団法人日本ベアリング工業会「軸受完成品・部品の輸出通関実績(金額)」(国別は同会「国別輸出通関実績(完成品)」)
- 品種別生産金額:一般社団法人日本ベアリング工業会「軸受品種別生産金額実績」
- 油圧・空気圧機器:kikai-news.net「日本フルードパワー工業会(JFPA)、2026年・年度の油圧・空気圧機器需要見通しを発表」
- 2021年の販売額・電動化の影響:業界動向サーチ「ベアリング業界の動向やランキング、シェア等を分析」

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