組成式と分子式の違いとは?SiO2が組成式の理由と元素分析での決め方

作業台に並ぶ水晶の原石とシリカの粉末、石英ガラス管

組成式は物質をつくる原子の数を最も簡単な整数の比で表した式、分子式は1個の分子に含まれる原子の実際の数を表した式です。グルコースなら組成式は CH2O、分子式は C6H12O6 で、二酸化ケイ素(SiO2)は分子をつくらない物質なので、比を表す組成式でしか書けません。

どちらの式も元素記号と数字の並びなので、CO2 と SiO2 のように見た目だけでは区別できないのが混乱の元です。SDS(安全データシート)や材料の分析報告書でも、その式が分子を表すのか比を表すのかで、分子量の意味や読み取れることが変わります。

この記事では、組成式と分子式の違いを示性式・構造式とあわせて表で整理し、SiO2・NaCl・金属が組成式で書かれる理由を図で確かめます。

続けて、元素の並べ方や二酸化炭素・硫酸アルミニウムといった日本語名の読み方など、化学式の書き方と読み方の決まりをまとめます。後半は練習問題と、元素分析から分子式を決める計算、SDS・ガラス・電池材料に出てくる化学式の読み方まで進みます。

目次

組成式と分子式の違い:原子の比で書くか、1分子の数で書くか

組成式と分子式の違いを一言でいうと、組成式は原子の数の最も簡単な整数比を、分子式は1個の分子に含まれる原子の種類と実際の数を表す点です。英語では前者を empirical formula、後者を molecular formula と呼びます。

ここで押さえたいのは、「分子があるかどうか」と「最も簡単な比で書くかどうか」が別の軸である点です。分子でできた物質にも組成式はあり、過酸化水素 H2O2 の組成式は HO、ベンゼン C6H6 の組成式は CH、硫黄の分子 S8 の組成式は S になります。

一方で、分子をつくらないイオン結晶や共有結合の結晶、金属には区切りになる「1個の分子」がないため、分子式は書けず組成式だけを使います。組成式は金属やイオン結晶のための式だと覚えてしまうと、この2つの軸が混ざってしまうので注意が必要です。

分子式と組成式の関係は、分子式が組成式をちょうど n 倍したもの、という式で書けます。n は分子量を組成式の式量(組成式に含まれる原子の原子量の合計)で割れば求まり、グルコースなら CH2O の式量30に対して分子量が180なので n=6 です。

分子式と組成式の関係
分子式 = (組成式)n  n = 分子量組成式の式量
(例)グルコース n = 180.1630.03 = 6.0 → (CH2O)6 = C6H12O6
n:1以上の整数。原子量は CIAAW の値(C 12.011、H 1.008、O 15.999)で、CH2O の式量は 12.011 + 2 × 1.008 + 15.999 = 30.026、C6H12O6 の分子量は 180.156 です。

化学式にはこのほか、官能基(性質を決める原子の集まり)を分けて書く示性式と、原子のつながりを線で描く構造式があります。酢酸を4つの式で書き分けると、下の図のように後ろの式ほど分子の情報が増えていきます。

図1:酢酸を4つの化学式で書き分ける

組成式は比だけ、分子式は原子の数、示性式は官能基、構造式はつながり方まで表します。

組成式 CH2OC:H:O=1:2:1 の比だけ。ホルムアルデヒドやグルコースとも同じ
分子式 C2H4O21分子に C 2個、H 4個、O 2個。分子量60.05が分かる
示性式 CH3COOHカルボキシ基(−COOH)を分けて書き、酸の性質が読める
HCCOHHHO構造式原子のつながり方まで描く。異性体を区別できる

※分子量は CIAAW の原子量で計算。構造式は平面に描いた模式図です。

示性式や構造式が必要になるのは、分子式が同じでも原子のつながり方が違う物質(異性体)があるからです。エタノール(C2H5OH)とジメチルエーテル(CH3OCH3)はどちらも分子式が C2H6O ですが、前者は常温で液体の酒精、後者は燃料やスプレーの噴射剤に使われる気体です。

4つの式の違いを、代表的な物質で表にまとめます。水や二酸化炭素のように、組成式と分子式がまったく同じになる物質も多いので、「CO2 は分子式、SiO2 は組成式」という区別は、式の見た目ではなく物質に分子があるかどうかで決まっていると考えます。

項目組成式分子式示性式構造式
表すもの原子の数の最も簡単な整数比1分子中の原子の種類と数官能基を分けた分子の式原子のつながり方(価標で結ぶ)
英語empirical formulamolecular formularational formulastructural formula
使える物質化学式で書けるすべての物質分子でできた物質だけ主に有機化合物主に分子でできた物質
酢酸CH2OC2H4O2CH3COOHH3C−C(=O)−O−H
グルコースCH2OC6H12O6(環の形で描くことが多い)六員環の構造式
水H2OH2O(組成式と同じ)H2OH−O−H
二酸化ケイ素SiO2なし(分子がない)なし網目の一部を図で示す
塩化ナトリウムNaClなし(イオン結晶)なしなし(結晶構造で示す)
定義は IUPAC「Nomenclature of Inorganic Chemistry(2005)」IR-4.2 による。組成式と分子式は英語で区別するが、示性式は日本の教科書で使われる呼び方で、英語の呼び名は資料によって違う

組成式は英語で empirical formula と呼び、実験(元素分析)で求まる式という意味から「実験式」とも訳されます。説明を求められたときは「組成式は物質を構成する原子の数を最も簡単な整数比で表し、分子式は分子を構成する原子の種類と数を表す」と答えれば過不足がありません。

組成式が同じでも分子式が違う物質は、身近にいくつもあります。CH2O という組成式だけでは分子の大きさは決まらず、ホルムアルデヒド・酢酸・乳酸・グルコースは、分子量が組成式の1倍・2倍・3倍・6倍という関係になっています。

図2:同じ組成式 CH2O でも分子の大きさは違う

CH2O のかたまりを何個つなげた大きさかが n で、分子量は 30.03 × n になります。

30.0360.0590.08180.16ホルムアルデヒド酢酸乳酸グルコースCH₂O(n=1)C₂H₄O₂(n=2)C₃H₆O₃(n=3)C₆H₁₂O₆(n=6)四角1つ=CH₂O の単位(式量30.03)棒の上の数字=分子量

※分子量は CIAAW の原子量から計算した値で、PubChem の値と一致します。四角は数の比を示すもので、分子の中で CH2O のかたまりが実際に並んでいるわけではありません。

組成式と分子式の違いがわかりにくい物質:SiO2・NaCl・金属・黒鉛

SiO2 が組成式なのは、分子をつくらず、Si と O が 1:2 の比で果てしなくつながった網目だからです。見た目は CO2 とそっくりで、Si と C は同じ14族の元素ですが、2つの物質のつくりはまったく違います。

CO2 では C が2つの O とそれぞれ二重結合をつくり、O=C=O という直線形の小さな分子で手が埋まります。分子どうしは弱い分子間力で集まっているだけなので、常圧では −78.5℃ で固体(ドライアイス)から気体に変わります。

分子の形でいえば、CO2 は極性分子と無極性分子の見分け方で扱う直線形の無極性分子です。1個ずつ取り出せる分子があるので、CO2 は分子式として書けます。

Si は原子が大きく O との二重結合が安定しないため、4本の単結合で4つの O と結びつきます。その O が隣の Si ともう1本の結合をつくるので、つながりが三次元に広がって終わりがありません。

どこまでが1個の分子という区切りがないため、SiO2 では原子の数の比だけを書きます。「巨大な分子」と説明されることもありますが、実際には結晶全体が1つの網目になった共有結合の結晶です。

図3:CO2 は分子、SiO2 は区切りのない網目

CO2 は1個ずつ数えられる分子、SiO2 は O を隣の Si と共有しながら広がる網目です。

二酸化炭素(CO₂)二酸化ケイ素(SiO₂)分子1個(O=C=O)を数えられる→ 分子式 CO₂(組成式も CO₂)大きな丸=Si、小さな丸=O。どこまでも続く→ 区切りがないので比だけを組成式 SiO₂ で書く

※平面に描いた模式図です。実際の SiO2 は、Si を中心に4つの O が正四面体の向きに並び、その四面体が頂点の O を共有して立体の網目をつくります。

網目のどこを切り出しても、Si 1個のまわりには O が4個あり、その O は隣り合う2個の Si に共有されています。Si 1個あたりの O を数えると次のように2個になり、結晶が大きくなっても比は変わりません。

Si 1個あたりの O の数(O は2個の Si が共有)
O = 4 × 12 = 2 → Si:O = 1:2 → 組成式 SiO2
共有結合の結晶では原子がつながり続けるので、分子式を書こうとすると結晶の大きさごとに数が変わってしまいます。そのため比だけを表す組成式を使います。

共有結合でできた物質が網目の結晶になるか小さな分子になるかの見分け方は、移行済みの共有結合の結晶と分子結晶の違いで、融点や硬さの比較とともに詳しく整理しています。ダイヤモンドや黒鉛も同じ網目の仲間で、炭素だけでできているので組成式は元素記号の C になります。

塩化ナトリウム NaCl は、Na+ と Cl− が交互に並んだイオン結晶で、ここにも「1個の分子」はありません。NaCl は Na と Cl が1:1で含まれることを示す組成式で、水に溶かしたときの反応をイオンごとに書くイオン反応式では、Na+ と Cl− に分けて扱います。

鉄や銅などの金属も、原子が自由電子でつながった結晶なので、組成式として元素記号の Fe や Cu をそのまま書きます。マグネシウムや亜鉛の結晶の並び方は六方最密構造の密度と充填率で扱っていて、どの金属でも結晶の中に分子の区切りはありません。

ここまでの判断を、物質の構造から式を選ぶ順に並べたのが次の図です。まず分子があるかを確かめ、分子がある物質では分子式を基本にして、必要に応じて比の組成式も添えます。

図4:組成式で書くか、分子式で書くかの選び方

分子があれば分子式で実際の数を示せます。分子がなければ組成式(または元素記号)しか書けません。

STEP 1物質に分子があるかを見る小さな粒として1個ずつ数えられる単位があるか。気体や液体、有機化合物の多くは分子でできている
STEP 2分子があれば分子式CO2、H2O、I2、C6H12O6。比が知りたいときは組成式(CH2O など)も書ける
STEP 3分子がなければ組成式イオン結晶(NaCl、Al2O3)、共有結合の結晶(SiO2、SiC)、金属・黒鉛は元素記号(Fe、Cu、C)

※ヨウ素 I2 のように固体でも分子が集まった結晶(分子結晶)なら、分子式で書きます。

分子がない物質では、1個の分子の質量を表す「分子量」も本来は使えず、組成式の原子量の合計を「式量」と呼んで区別します。SiO2 の 60.08 や NaCl の 58.44 は式量ですが、SDS などでは慣用的に「分子量」の欄にこの値が書かれていることもあります。

式量の計算(原子量は CIAAW の値)
SiO2:28.085 + 2 × 15.999 = 60.083
NaCl:22.990 + 35.45 = 58.44
Si 28.085、O 15.999、Na 22.990、Cl 35.45。物質量(mol)の計算では、分子量と同じように1 mol あたりの質量[g/mol]として使います。

化学式の書き方と読み方のルール:分子式は元素の並び順、組成式は電荷の釣り合いで決まる

組成式と分子式の違いが分かっても、元素をどの順に並べて日本語でどう読むかが分からないと、化学式と物質名を結びつけられません。この章では、分子でできた物質の分子式と、イオン結晶の組成式について、書き方と読み方の決まりを IUPAC の命名法に沿って整理します。

分子式の書き方:元素を並べる順番と数字の付け方

分子式では、元素記号の右下に原子の数を小さく書き、1個のときは数字を省きます。H2O は H が2個と O が1個、C6H12O6 は C・H・O がそれぞれ6個・12個・6個入った分子という意味です。

2種類の元素からなる分子では、電気的に陽性の元素を先に、陰性の元素を後に書くのが IUPAC の決まりです。並べる基準には電気陰性度の数値そのものではなく、周期表をもとに決めた元素の順番表が使われ、CO2・CCl4・H2S・HCl はこの順に沿っています。

アンモニアが H3N ではなく NH3 と書かれるのも、この順番表で H が15族と16族の間に置かれているからです。N や C は H より前に、O・S・ハロゲンは H の後ろに書くので、NH3 は例外ではなく決まりどおりの並びです。

酸素を含む酸(オキソ酸)は、伝統的に水素を先頭にして、中心の原子、酸素の順に書きます。H2SO4・HNO3・H2CO3 がその例で、有機化合物を C・H から書く Hill 方式は、後半の SDS の章で扱います。

分子式の読み方:後ろの元素から「〜化」と読み、数は漢数字で付ける

2種類の元素からなる物質の日本語名は、化学式の後ろに書く陰性の元素から「〜化」と読み、前の元素の名前を続けます。英語の carbon dioxide とは語順が逆になり、原子の数は一・二・三などの漢数字で、それぞれの元素名の前に付けます。

化学式日本語名英語名
CO一酸化炭素carbon monoxide
CO2二酸化炭素carbon dioxide
CCl4四塩化炭素carbon tetrachloride
CS2二硫化炭素carbon disulfide
N2O4四酸化二窒素dinitrogen tetraoxide
P4O10(組成式 P2O5)五酸化二リンdiphosphorus pentaoxide
名前の組み立て方は IUPAC「Nomenclature of Inorganic Chemistry(2005)」IR-5.2、日本語の表記は神奈川大学「化学表現Ⅱ 命名法のまとめ」による

数が1のときの「一」はふつう省きますが、CO と CO2 のように同じ元素の組み合わせで別の物質がある場合は、一酸化炭素と付けて区別します。リンの酸化物は分子が P4O10 なのに組成式 P2O5 から五酸化二リンと呼ばれ、名前が組成式に由来する例です。

水 H2O やアンモニア NH3、硝酸 HNO3 のように、規則で組み立てた名前ではなく昔からの慣用名で呼ぶ物質もあります。酸素の数の違いを「次亜・亜・過」で表す名前は、塩素のオキソ酸の違いで次亜塩素酸から過塩素酸までの4つを並べて整理しています。

イオン結晶の組成式の書き方:陽イオンを先に、電荷の合計をゼロにする

イオン結晶の組成式は陽イオンを先、陰イオンを後に書き、結晶全体で電荷の合計がゼロになるように数の比を決めます。陽イオンの価数と個数の積が、陰イオンの価数と個数の積に等しくなる最も簡単な整数の組を探すのが基本の手順です。

SO42− や PO43− のような多原子イオンが2個以上入るときは、イオン全体を括弧でくくり、括弧の外の右下に個数を書きます。括弧がないと、硫酸イオンが3個あるのか O の数が違うのかを式から読み分けられなくなります。

電荷の合計をゼロにして数の比を決める
Na+ と SO42−:(+1)× 2 +(−2)× 1 = 0 → Na2SO4
Al3+ と SO42−:(+3)× 2 +(−2)× 3 = 0 → Al2(SO4)3
価数の数字を入れ替えて相手の個数にすると早く求まります。ただし Ca2+ と O2− のように入れ替えると Ca2O2 になる組み合わせは、最も簡単な比の CaO に直します。

陽イオンが2種類あるときは、陽イオンどうしをアルファベット順に並べます。ミョウバンの性質と用途で扱うカリミョウバンが AlK(SO4)2·12H2O と書かれ、Al が K より前に来るのはこの決まりによるものです。

イオン結晶の組成式の読み方:陰イオンの名前から読む

組成式の日本語名は、陰イオンの名前から「イオン」を外して先に読み、陽イオンの名前を続けます。「〜化物イオン」は「〜化」に、「〜酸イオン」は「〜酸」になるので、NaCl は塩化ナトリウム、Al2(SO4)3 は硫酸アルミニウムと読みます。

イオン結晶では価数から数の比が1通りに決まるので、名前に二・三などの数字は付けないのがふつうです。鉄や銅のように価数が2通り以上ある金属では、塩化鉄(II) FeCl2 と塩化鉄(III) FeCl3 のように、ローマ数字で酸化数を添えて区別します。

工場で薬品を扱うときは、このローマ数字や「次亜」「亜」の一字の違いが別の物質を意味します。次亜塩素酸ナトリウム NaClO と亜塩素酸ナトリウム NaClO2 はどちらも漂白や殺菌に使われるので、SDS や発注書では名前と化学式に加えて CAS 番号まで照らし合わせます。

最後に、イオンの組み合わせから組成式と名前を書く練習です。左の列だけを見て組成式と名前を書いてから、右の電荷の確かめ方で答え合わせをしてください。

イオンの組み合わせ組成式名前電荷の確かめ
Cu2+ と SO42−CuSO4硫酸銅(II)(+2)× 1 +(−2)× 1 = 0
Al3+ と O2−Al2O3酸化アルミニウム(+3)× 2 +(−2)× 3 = 0
Ca2+ と PO43−Ca3(PO4)2リン酸カルシウム(+2)× 3 +(−3)× 2 = 0
NH4+ と SO42−(NH4)2SO4硫酸アンモニウム(+1)× 2 +(−2)× 1 = 0
陽イオンを先に書き、多原子イオンが2個以上なら括弧でくくる。銅は価数が2通りあるので名前に (II) を添える

組成式と分子式の練習問題

定義を確かめる基本問題を2つ解いたあと、燃焼の結果から組成式と分子式を決める応用問題に進みます。応用問題の考え方は、次の章の元素分析とそのままつながっています。

問題1:グルコースの組成式と分子式を求める

グルコース(ブドウ糖)は、1分子に C が6個、H が12個、O が6個含まれる分子なので、分子式は C6H12O6 です。組成式は原子の数の比を最も簡単な整数にしたものなので、次のように6で割って CH2O になります。

原子の数の比を最も簡単な整数比にする
C:H:O = 6:12:6 = 1:2:1
分子式 C6H12O6 組成式 CH2O
3つの数の最大公約数(6)で割ります。比を割り切れない分子(C3H8 など)では、組成式と分子式が同じになります。

水溶液の中のグルコースは、鎖の形と六員環の形の間を行き来していて、環をつくる仕組みはアセタールとヘミアセタールの構造で説明しています。形が変わっても原子の数は同じなので、分子式と組成式は変わりません。

問題2:組成式で表す物質はどれか

次の4つの物質を化学式で表したとき、組成式で表されるものを選ぶ問題です。選択肢は、黒鉛、ヨウ素、塩化ナトリウム、アンモニアの4つです。

答えは黒鉛と塩化ナトリウムです。黒鉛は炭素原子が共有結合で平面の網目をつくる結晶なので、分子の区切りがなく元素記号の C で表し、塩化ナトリウムはイオン結晶なので組成式 NaCl で表します。

ヨウ素は I2 という分子が分子間力で集まった分子結晶、アンモニアは NH3 という分子なので、どちらも分子式で表します。固体か気体かではなく、粒の単位が分子かどうかで判断するのが、この問題で確かめたいポイントです。

問題3(応用):燃焼で出た CO2 と H2O の質量から分子式を決める

C・H・O だけからなる有機化合物 9.00 mg を完全に燃やしたところ、CO2 が 13.19 mg、H2O が 5.40 mg できました。この化合物の分子量を180として、組成式と分子式を求めます。

C はすべて CO2 に、H はすべて H2O になったと考えて、それぞれの質量に含まれる C と H の質量を出します。O は燃焼のときに外から加わるので直接は測れず、試料の質量から C と H を差し引いて求めます。

① 各元素の質量
C = 13.19 × 12.01144.009 = 3.600 mg
H = 5.40 × 2 × 1.00818.015 = 0.604 mg
O = 9.00 − 3.600 − 0.604 = 4.796 mg
② 物質量の比(mmol)
C:H:O = 3.60012.011:0.6041.008:4.79615.999 = 0.2997:0.5992:0.2998
= 1:2.00:1.00 → 組成式 CH2O
③ 分子量から n を出す
n = 18030.03 = 5.99 ≒ 6 → 分子式 C6H12O6
CO2 の分子量 44.009、H2O の分子量 18.015。検算:C6H12O6 9.00 mg が燃えると、CO2 は 9.00 ÷ 180.156 × 6 × 44.009 = 13.19 mg、H2O は 9.00 ÷ 180.156 × 6 × 18.015 = 5.40 mg で、問題の値と一致します。

この計算から分かるとおり、燃焼の結果だけで決まるのは組成式までで、分子式を決めるには分子量という別の情報が必要です。分子量が180ではなく90なら、同じ燃焼結果でも分子式は C3H6O3(乳酸など)になります。

実際の分析室では:元素分析で組成式を出し、分子量で分子式を決める

ピンセットでスズ箔の試料カップに粉末試料を包む手元

ここからは、問題3と同じ考え方が実際の分析室でどう使われているかを見ていきます。元素分析で分かるのは元素の質量の割合と、そこから計算する組成式までで、分子式を決めるには質量分析などで求めた分子量と照らし合わせる必要があります。

CHN 元素分析装置のしくみ

大学や企業の分析室で使われる CHN 元素分析装置は、問題3の燃焼を自動で行う装置です。有機化合物を燃焼分解して CO2・H2O・N2 などに変え、熱伝導度検出器(TCD:ガスの熱の伝わりやすさの違いで量を測る検出器)で C・H・N の含有量を求めます。

九州大学の装置の説明では、試料をスズ製の容器に詰めて燃焼炉に入れます。燃焼炉の設定は950℃ですが、スズが燃えるときの発熱で1,800℃以上に達するとされています。燃焼ガスは不要な成分を除いたあと、銅を詰めた還元管で窒素酸化物を N2 に戻し、3つのガスを分けて検出します。

測った値は、アセトアニリドなど組成が分かっている標準物質で決めた係数を使って質量%に直します。O は多くの装置で直接測らず、問題3と同じく100%から C・H・N などの合計を差し引いて求めるので、ハロゲンや金属を含む試料では差し引きの値に誤差が乗ります。

図5:元素分析の結果から分子式を決めるまで

元素分析だけで決まるのは組成式までです。分子式には分子量という別の測定値が要ります。

燃やして測る原子量で割る整数比にする分子量と照合C・H・N の質量%物質量の比組成式分子式(n を決める)ここまでが元素分析で分かる範囲質量分析などの値が必要

※元素分析の原理は岡山大学・九州大学の装置案内による。O は多くの場合、差し引きで求めます。

計算例:カフェインの質量%から分子式を決める

C・H・N・O からなる白い結晶を分析して、C 49.48%、H 5.19%、N 28.85%、O 16.48%(差し引き)という結果が出たとします。試料を100 gと考えると各元素の質量がそのまま g で読めるので、原子量で割って物質量の比を出します。

① 100 g あたりの物質量(mol)
C 49.4812.011 = 4.120 H 5.191.008 = 5.149 N 28.8514.007 = 2.060 O 16.4815.999 = 1.030
② いちばん小さい O の値で割る
C:H:N:O = 4.00:5.00:2.00:1.00 → 組成式 C4H5N2O(式量 97.10)
③ 分子量194から n を出す
n = 19497.10 = 2.00 → 分子式 C8H10N4O2
N の原子量 14.007。検算:C8H10N4O2 の分子量は 194.19 で、C の割合は 8 × 12.011 ÷ 194.19 = 49.48%、N は 4 × 14.007 ÷ 194.19 = 28.85% となり、分析値と一致します。これはカフェインの分子式です。

実際の分析値は理論値からわずかにずれるので、比が 4.00 ではなく 3.98 のように出ても、整数に丸めてから分子量で確かめます。比が 1.5 や 2.33 に近いときは、2倍・3倍して整数にそろえるのが、比を読むときの基本です。

「±0.4%」の目安と分析値の読み方

新しい化合物を合成したとき、元素分析の値が計算値から ±0.4% 以内に収まることを、多くの学術誌が純度の目安として求めてきました。ただしこの値は、分析のばらつきまで考えて決めた一律の合否基準ではありません。

2022年の国際比較では、市販の5つの化合物を18の分析機関で測り、C・H・N の436件中47件(10.78%)が ±0.4% を外れました。著者らは、特定の機関が系統的に外れやすいとは言えず、試料も表示どおりの純度とみなせるとして、この基準には根拠が乏しいと結論しています。

品質管理で元素分析の値を使うときも、合否だけで読まず、同じ装置で測った過去のロットの値や、別の分析法の結果と並べて判断するのが基本です。製品ごとの規格値や試験の手順の決め方は品質保証の仕事の流れにまとめたので、分析結果が品質判断にどう組み込まれるかをあわせて確かめてください。

実際の工場では:SDS・ガラス・電池材料の化学式の読み方

工場や取引の書類に出てくる化学式は、教科書の組成式・分子式の区別に加えて、並べ方の決まりや材料ごとの慣習で書かれています。原子の比、分子があるか、材料の構造の3つを分けて読むと、同じ SiO2 でも書類によって何を表しているかが見えてきます。

SDS の化学式:並び順は Hill 方式、SiO2 は O2Si と書かれる

化学品の SDS には、成分の化学名・CAS 番号とともに化学式が載ります。厚生労働省の職場のあんぜんサイトにある結晶質シリカのモデル SDS では、化学式が「O2Si」、分子量が60.084と書かれています。

同じ SDS の CAS 番号は 14808-60-7、化審法の官報公示整理番号は 1-548 で、書類の上で物質を特定するときはこちらの番号を使います。

SiO2 が O2Si になるのは、データベースや索引で使われる Hill 方式で元素を並べているからです。Hill 方式は C を先頭、H を2番目にして残りをアルファベット順に並べ、C を含まない物質ではすべての元素をアルファベット順にするので、O が Si より前に来ます。

この並べ方は検索や整理のための決まりで、組成式か分子式かとは別の話です。新しい化学物質の届出で使う官報公示整理番号の扱いは新規化学物質の電子申請で説明していて、書類の上では化学式よりも CAS 番号や整理番号で物質を特定するのが確実です。

同じ SiO2 でも水晶・石英ガラス・シリカゲル・酸化膜は別の材料

組成式が SiO2 の材料は、原子が規則正しく並んだ水晶(石英)、並びが不規則な石英ガラス、すき間だらけの網目を乾かしたシリカゲルなど、構造の違うものがいくつもあります。組成式は比しか表さないので、化学式が同じでも硬さや透明さ、吸湿性はまったく違います。

シリカゲルはケイ酸のゲルを乾燥させてつくり、その作り方はゾルとゲルの違いとゾル-ゲル法で扱っています。半導体の工場では、シリコンウェーハの表面を酸化してつくる薄い SiO2 の膜が絶縁膜として使われ、その位置づけは半導体の前工程の流れで確かめられます。

セラミックス部品でも、アルミナ(Al2O3)や窒化ケイ素(Si3N4)は組成式で書かれ、性能は結晶の種類や粒の大きさで変わります。材料ごとの使い分けはファインセラミックスの用途と種類にまとめていて、どの材料も式だけでは品質が決まらない点は共通です。

ガラスとセメントは酸化物の質量%で組成を書く

窓ガラスなどのソーダ石灰ガラスは、決まった比をもつ化合物ではなく、いくつもの酸化物が溶け合って固まった非晶質(結晶でない固体)です。そのため1つの化学式では書かず、SiO2・Na2O・CaO などの酸化物に換算した質量%で組成を表します。

成分(酸化物に換算)質量分率[%]ガラスの中での役割
SiO273.08網目をつくる主成分
Na2O13.32網目を切って融けやすくする
CaO8.20水に溶けにくくする
MgO3.51CaO と同じ働きを分担
Al2O31.21耐久性を上げる
K2O0.33Na2O と同じ働き
SO3・Fe2O3・TiO2 ほか0.36原料や清澄剤に由来する微量成分
数値は NIST の標準物質 SRM 1831(ソーダ石灰板ガラス)の認証値で、ASTM C169 の方法などで分析した値。「その他」は SO3 0.25、Fe2O3(全鉄として)0.087、TiO2 0.019 の合計。FeO 0.025 は全鉄に含まれるため足していない。役割の欄はガラスの一般的な説明

この表の値は、ある製造ロットのソーダ石灰板ガラスを複数の試験所が複数の方法で分析して決めた認証値で、規格の上限・下限ではありません。分析法を確かめるための標準物質として使われ、工場の分析室ではこうした値と自社の測定値を比べて装置や手順の確かさを確認します。

セメントの業界では、酸化物を1文字で略す書き方が使われます。CaO を C、SiO2 を S、Al2O3 を A、Fe2O3 を F と書きます。主要な鉱物のエーライト Ca3SiO5(3CaO·SiO2)は C3S、ビーライト Ca2SiO4 は C2S です。

合金・不定比化合物・電池材料は小数や x で組成を書く

合金のように成分の割合を連続して変えられる材料では、整数比の組成式ではなく、成分の質量%や小数の添字で書きます。身近な合金の成分は合金の組成と用途のまとめで確かめられます。

IUPAC の命名法でも、組成が一定でない相は「~CuZn」のように前に「~(およそ)」を付けて書けるとしています。さらに詳しく示したいときは、CuxNi1−x(0≦x≦1)のように変数 x を使います。

酸化物の中にも、比が整数からずれる不定比化合物があります。名目上 FeO と書かれるウスタイトは鉄が少し足りない状態で安定し、Fe1−xO と書かれます。酸化鉄の種類による性質の違いは赤錆と黒錆の磁性の違いで扱っています。

リチウムイオン電池の正極材料も小数の添字で書かれる代表例で、ニッケル系の NMC811 は LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2 と表します。Ni・Mn・Co が結晶の同じ位置を8:1:1の割合で分け合っていることを示す式です。

正極・負極・電解質の材料が電池の種類でどう変わるかは、全固体電池とリチウムイオン電池の違いで整理しています。材料の仕様書でも、こうした小数の組成で製品の種類を区別しています。

結晶の中に水分子を決まった数だけ含む水和物は、「·」でつないで書きます。セッコウの CaSO4·2H2O がその例で、加熱して水が抜けると性質が変わる様子はセッコウと焼きセッコウの違いで説明しています。

図6:工場の書類で見る化学式の4つの書き方

整数比・質量%・小数や x・繰り返しの単位。どの書き方かで、式から読み取れることが変わります。

整数比の組成式SiO2、NaCl、Al2O3。分子のない結晶。SDS では Hill 方式で O2Si のように並ぶこともある
酸化物の質量%ガラス、セメント、鉱石、耐火物。1つの式で書けない混ざりものを、酸化物ごとの割合で表す
小数の添字や xLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、Fe1−xO、~CuZn。同じ位置を分け合う割合や、比のずれを示す
繰り返し単位と水和物ポリエチレン(C2H4)n、セッコウ CaSO4·2H2O。n は分子ごとに違い、平均の値で扱う

※IUPAC「Nomenclature of Inorganic Chemistry(2005)」IR-4・IR-11、厚生労働省モデル SDS、NIST SRM 1831、セメント鉱物の表記は Bogue 表記による。

高分子は1本ごとに鎖の長さが違うため、ポリエチレンなら繰り返しの単位を括弧でくくって(C2H4)n のように書きます。どの書き方も、式が表しているのは比なのか、実際の分子なのか、平均なのかを確かめてから数字を読むのが、現場で化学式を扱うときの共通の注意点です。

組成式と分子式のよくある質問

組成式と実験式は同じものですか?

どちらも原子の数を最も簡単な整数比で表した式で、英語ではどちらも empirical formula です。日本の教科書では、有機化合物の元素分析から求めた式を特に「実験式」と呼ぶことが多く、意味は組成式と同じです。

CO2 の組成式は何ですか?

CO2 の組成式も CO2 です。C と O の比 1:2 はこれ以上簡単にできないので、分子式と組成式が同じ式になり、「CO2 は分子式」というのは分子が実際にあるので分子式として書ける、という意味です。

高分子の化学式はどう書きますか?

繰り返しの単位を括弧でくくり、添字に n を付けて書きます。ポリエチレンは(C2H4)n または −[CH2−CH2]n− と書き、n は鎖ごとに違うので、分子量は平均の値で表します。

組成式で陽イオンの元素を先に書くのはなぜですか?

IUPAC の命名法では、2種類の元素からなる物質は電気的に陽性の元素を先に、陰性の元素を後に書くのが慣習だからです。NaCl や Al2O3、MgO もこの決まりに沿っています。

一方、構造の情報が少なく並べる基準がほかにないときの組成式は、C・H を先頭にしてアルファベット順に書くとされていて、SDS の O2Si はこの考え方に近い並べ方です。

まとめ

この記事のまとめ
  • 組成式は構成する原子の数の最も簡単な整数比、分子式は1個の分子に含まれる原子の種類と実際の数を表す
  • 分子にも組成式はあり、分子式=(組成式)n。n は分子量を組成式の式量で割って求める
  • SiO2 は分子をつくらず Si と O が1:2で網目をつくるので組成式で書く。NaCl・金属・黒鉛も分子がないので組成式(元素記号)
  • 分子式は陽性の元素を先に書き、日本語名は後ろの元素から「二酸化炭素」のように読む。イオン結晶は陽イオンを先に電荷の合計がゼロになる比で書き、「塩化ナトリウム」のように陰イオンから読む
  • 元素分析で分かるのは組成式までで、分子式には分子量が必要。O は多くの場合差し引きで求める
  • SDS の O2Si は Hill 方式の並び、ガラスは酸化物の質量%、電池材料や不定比化合物は小数や x で書く

組成式と分子式の違いは、式の見た目ではなく、その物質に数えられる分子があるかどうかと、比で書くか実際の数で書くかの2つの軸で整理できます。この区別を押さえておくと、SDS や分析の報告書、材料の規格に並ぶ化学式を、何を表す式なのか確かめながら読めるようになります。

化学式で表される材料が製品の中でどう使い分けられているかは、材料技術の基本とあわせて読むと、分析室で出した数字と工場の材料選びとのつながりがつかみやすくなります。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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