イオン半径は、結晶の中でイオン1個が占める大きさを表す値で、陽イオンは元の原子より小さく、陰イオンは元の原子より大きくなります。大小関係は「同族で同じ価数なら原子番号が大きいほど大きい」「同じ電子配置なら原子番号が大きいほど小さい」という2つの法則でほぼ見分けられます。
この大きさは比較問題のためだけの値ではなく、どのイオンが結晶のどの席に入れるかを決める物差しとして材料の現場で使われています。リチウムイオン電池の正極、ジルコニアのセラミックス、水処理のイオン交換樹脂では、数十 pm(1 pm は1兆分の1メートル)の差が性能を左右します。
後半では、Shannon の数値表の読み方と結晶構造の予測、電池・ジルコニア・水処理での使われ方、X線回折(XRD)で確かめる品質管理まで扱います。
イオン半径とは?陽イオンと陰イオンの大きさの違い
イオン半径は、原子核の中心からイオンのいちばん外側の電子殻までの広がりを、結晶の中の実測値から割り出したものです。電子の雲にははっきりした境目がないため、結晶中で隣り合う陽イオンと陰イオンの中心間の距離をX線回折で測り、それを2つのイオンに割り振って半径を決めています。
基準として広く使われる Shannon(1976年)の「有効イオン半径」は、6個の陽イオンに囲まれた酸化物イオン O2− を140 pm とした値です。単位は pm かオングストローム(Å、1 Å=100 pm)で、文献によっては同じイオンでも数 pm 違う値が載っています。
陽イオンは原子より小さく、陰イオンは原子より大きい
ナトリウム原子は、最外殻の M 殻に電子を1個だけ持っています。この電子を失って Na+ になると、いちばん外側の電子殻が M 殻から1つ内側の L 殻に変わるため、大きさが縮みます。金属から求めた Na 原子の半径は約186 pm、Na+ は102 pm で、半分ほどです。
塩素原子は電子を1個受け取って Cl− になっても、最外殻は M 殻のままです。それでも Cl2 分子の結合距離から求めた原子の半径が約99 pm なのに対し、Cl− は181 pm まで広がります。
原子核の正電荷(陽子17個)は変わらないまま、電子が17個から18個に増えるからです。電子どうしの反発が強まり、電子1個あたりを引きつける力も弱まるので、電子の雲が外へ広がります。
陽イオンは外側の電子殻を1つ失って縮み、陰イオンは同じ殻に電子が増えて広がります。
※円は同じ縮尺。原子の値は Na が金属結晶の原子間距離の半分(WebElements)、Cl が Cl2 の結合距離の半分(NIST CCCBDB)、イオンは Shannon(1976)の6配位の有効イオン半径。定義の違う値どうしなので、大きさの傾向をつかむ目安として見てください。
まとめると、陽イオンのイオン半径は元の原子半径より小さく、陰イオンのイオン半径は元の原子半径より大きくなります。食塩の結晶では大きな Cl− がすき間なく並び、その間に小さな Na+ が入る形になっていて、この大きさの差が結晶の形を決めています。
イオン半径の大小を見極める2つの法則
異なる元素のイオンどうしを比べるときは、次の2つの法則を使います。どちらも、いちばん外側の電子殻の大きさと、その電子を原子核がどれだけ強く引きつけるかの2つで説明できます。
- 法則1:同じ族の元素で同じ価数のイオンは、原子番号が大きいものほどイオン半径が大きい(例:Li+<Na+<K+)
- 法則2:ある希ガスと同じ電子配置をもつイオンどうしは、原子番号が大きいものほどイオン半径が小さい(例:O2−>F−>Na+>Mg2+>Al3+)
判断の順番は、まず電子殻の数を比べ、殻の数が同じなら原子核の正電荷を比べると覚えておくと迷いません。殻が1つ増える効果は、陽子が数個増えて引きつけが強まる効果よりずっと大きいからです。
数値で比べるときは、同じ表の、同じ配位数(まわりを囲む反対符号のイオンの数)の値どうしを使います。同じイオンでも配位数や電子の詰まり方(スピン状態)で値が変わるため、条件のそろわない数値を並べると法則に合わないように見えるからです。
縦(同族・同じ価数)は下ほど大きく、同じ電子配置の並びは原子番号が大きいほど小さくなります。
同族で同じ価数のイオンは、原子番号が大きいほど大きい
1族のアルカリ金属イオンの6配位の有効イオン半径は、Li+ 76 pm、Na+ 102 pm、K+ 138 pm、Rb+ 152 pm、Cs+ 167 pm です。周期が1つ下がるたびに、電子が入っているいちばん外側の殻が1つ外へ移るので、下の元素ほど大きくなります。
原子番号が大きくなると陽子も増えるので、引きつけが強まって小さくなりそうにも見えます。しかし陽子と同じ数だけ電子も増え、増えた電子の多くは内側の殻に入って外側の電子から見た核の正電荷を打ち消すため、外側の電子が実際に感じる引きつけはあまり強くならず、殻が増える効果が勝ちます。
価数が同じ +1 でも、電子殻が1つ増えるごとにひと回り大きくなります。
※円は同じ縮尺。値は Shannon(1976)の6配位の有効イオン半径。
同じ法則は陰イオンにも当てはまり、ハロゲン化物イオン(6配位)は F− 133 pm、Cl− 181 pm、Br− 196 pm、I− 220 pm と下ほど大きくなります。2族も Mg2+ 72 pm、Ca2+ 100 pm、Ba2+ 135 pm と同じ並びです。
希ガスと同じ電子配置のイオンは、原子番号が大きいほど小さい
ネオン(Ne)と同じ電子配置の O2−、F−、Na+、Mg2+、Al3+ は、どれも電子10個・殻2つです。6配位の値は O2− 140 pm、F− 133 pm、Na+ 102 pm、Mg2+ 72 pm、Al3+ 53.5 pm で、原子番号が大きいほど小さい値です。
電子の数と殻の数がそろっているので、違うのは原子核の陽子の数だけです。陽子が8個の O2− から13個の Al3+ へ増えるにつれて、同じ10個の電子をより強い正電荷で引き寄せることになり、電子の雲が内側へ縮みます。
電子の数が同じなら、陽子が多いほど電子を強く引き寄せて小さくなります。
※円は同じ縮尺。値は Shannon(1976)の6配位の有効イオン半径。
理由を一言で説明するには、有効核電荷という言葉が便利です。外側の電子が実際に感じる原子核の正電荷のことで、陽子の電荷から内側の電子が打ち消す分を差し引いて考えます。同じ電子配置なら内側の電子の数も同じなので、陽子が1個増えるとそのまま有効核電荷が増え、イオンは小さくなります。
アルゴン(Ar)と同じ電子配置の S2− 184 pm、Cl− 181 pm、K+ 138 pm、Ca2+ 100 pm も同じ理由で、原子番号の順に小さくなります。法則1で使った「内側の電子が正電荷を打ち消す」という考え方と組み合わせると、2つの法則は1つの理屈で説明できます。
イオン半径の大小を判断する手順(重要ポイントのまとめ)
ここまでの内容を、イオンの大きさを比べるときの手順に並べ直すと次のようになります。上から順に当てはめれば、ほとんどの組み合わせで大小を決められます。
- 同じ元素の原子とイオン:陽イオンは原子より小さく、陰イオンは原子より大きい
- 同じ元素で価数の違う陽イオン:電子が少ないほど小さい(6配位・高スピンで Fe2+ 78 pm>Fe3+ 64.5 pm)
- 違う元素のイオン:まず電子殻の数を比べ、殻が多いほうが大きい(同族・同じ価数なら原子番号が大きいほど大きい)
- 電子殻の数が同じ(同じ電子配置):原子番号が大きく陽子が多いほど小さい
- 電子殻が増える効果は、陽子が増える効果より優先される
表の数値で確かめるときは、図5の順に条件をそろえます。とくに配位数は結晶の種類で変わるので、比べたいイオンが同じ配位数で載っているかを最初に確かめておくと、思わぬ逆転に戸惑わずにすみます。
イオン半径の値は、イオンの種類だけでなく「どんな環境にいるか」まで含めて決まります。
例題:6つのイオンを大きい順に並べる
元素記号の左下の数字は原子番号(陽子の数)で、この6つのイオンをイオン半径の大きい順に並べる問題を考えます。
最初に電子殻の数を数えます。S2− は電子18個で殻3つ(Ar 型)、O2−・F−・Na+・Mg2+ は電子10個で殻2つ(Ne 型)です。Be2+ は電子2個で殻1つ(He 型)なので、殻の数から S2− が最大、Be2+ が最小と決まります。
残りの Ne 型の4つは電子配置が同じなので、法則2により原子番号の小さい順に大きくなります。並べると次のとおりで、Shannon の6配位の値(Be2+ は4配位なら27 pm)で確かめても同じ順になります。
手で並べる比較は、大小の向きをつかむには十分です。一方、材料の設計では「Ni2+ は Li+ の席に入れるか」のように、数 pm の差まで表の値で比べて判断するので、次の章からは数値表そのものの読み方に進みます。
実際の材料設計では:数値表の読み方と結晶構造の予測
Shannon の有効イオン半径は配位数ごとに値が違う
材料の研究や開発で最もよく使われるのが、R. D. Shannon が1976年に発表した有効イオン半径の表です。酸化物やフッ化物の結晶で測った多数の原子間距離を整理し、イオンごとに配位数とスピン状態の組み合わせ別の値を載せているのが特徴です。
同じイオンでも、まわりを囲むイオンが多いほど値は大きくなります。Li+ は4配位で59 pm、6配位で76 pm、8配位で92 pm と、配位数が変わるだけで3割以上違うので、比べるときは配位数の欄をそろえます。
Shannon は O2− を126 pm とする「結晶半径」も別に載せていて、陽イオンでは有効イオン半径より14 pm 大きい値です。文献の値を引用するときは、どちらの半径かを確かめてから使わないと比較を誤ります。
| イオン | 4配位 | 6配位 | 8配位 |
|---|---|---|---|
| Li+ | 59 | 76 | 92 |
| Na+ | 99 | 102 | 118 |
| K+ | 137 | 138 | 151 |
| Mg2+ | 57 | 72 | 89 |
| Ca2+ | - | 100 | 112 |
| Al3+ | 39 | 53.5 | - |
| Ni2+ | - | 69 | - |
| Zr4+ | - | 72 | 84 |
| Y3+ | - | 90 | 101.9 |
| Sc3+ | - | 74.5 | 87 |
| O2− | 138 | 140 | 142 |
| F− | 131 | 133 | - |
| Cl− | - | 181 | - |
| S2− | - | 184 | - |
半径比で配位数を見積もる(半径比則)
イオン結晶では、小さな陽イオンのまわりを大きな陰イオンが囲みます。陰イオンどうしが触れ合ったまま陽イオンにも接していられる限界は幾何学で決まり、半径比 r+/r− が大きいほど多くの陰イオンに囲まれる形が安定です。これを半径比則(ポーリングの第1規則)と呼びます。
陽イオンが大きくなるほど、まわりを囲める陰イオンの数が増えます。
※数値は陽イオンと陰イオンの半径比 r+/r− の目安の範囲。イオンを硬い球とみなした幾何学の値(√2−1=0.414、√3−1=0.732 など)。
代表的な3つの結晶で計算すると、予想と実際の構造が一致します。陽イオンの値は、実際の結晶の配位数に合わせた欄を使っています。
ただし、半径比則は結晶構造の見当をつける道具であって、構造を決める法則ではありません。約5,000種の酸化物を調べた George らの研究(2020年)では、第1規則の予想どおりだった局所の配位は66%にとどまりました。
外れる理由は、結合に共有結合の性質が混じったり、大きな陰イオンの電子雲が陽イオンに引かれてゆがんだりして、イオンを硬い球とみなす仮定が成り立たなくなるためです。予想と合わないときは、実測の構造を優先して考えます。
イオンを球として詰める考え方は、金属結晶の配位数や充填率を求めるときと同じで、六方最密構造の配位数と充填率で詳しく計算しています。イオン結晶とほかの結晶との違いは、共有結合の結晶と分子結晶の違いの4種類の比較が参考になります。
ペロブスカイトの許容因子で組み合わせを選ぶ
セラミックスや電子材料で多いペロブスカイト型(ABO3)では、大きな A イオン、小さな B イオン、酸化物イオンの半径の組み合わせで結晶が成り立つかを見積もります。そのときに使うのが、1920年代に Goldschmidt が考えた許容因子 t です。
t がちょうど1なら、イオンがすき間なく詰まった理想的な立方体の形になり、SrTiO3 はほぼこの値です。積層セラミックコンデンサ(MLCC)の誘電体に使われる BaTiO3 は、大きな Ba2+ のために t が1をわずかに超えます。
Bartel らの検証(2019年)では、t がおよそ0.825〜1.059の範囲をペロブスカイトとみなす分類の的中率は74%でした。半径比則と同じく、候補を絞り込むための目安として使う値です。
実際の工場では:電池・ジルコニア・水処理で効くイオンの大きさ
工場や開発の現場では、イオン半径は「どのイオンが、どの席や通路に入り、その結果何が起きるか」を考える材料になります。
どれも「入れたいイオン」と「入ってほしくないイオン」を大きさで見分ける話です。
リチウムイオン電池の正極:Li+ と Ni2+ の陽イオンミキシング
エネルギー密度を高めやすい正極材料、ニッケル比率の高い層状酸化物 LiNixMnyCozO2(NMC、x≧0.6)は、Li+ の層と遷移金属の層が交互に重なった結晶です。充電では Li+ が層から抜け、放電では戻るので、Li+ の層は電池の中のイオンの通り道になっています。
ところが6配位の Ni2+ は69 pm と Li+ の76 pm に近いので、焼成中に Ni2+ が Li+ の席に入り込む「陽イオンミキシング(Li/Ni 混合)」が起きます。低スピンの Ni3+(56 pm)なら差が大きいので、Ni を3価に保つ焼成条件が大事です。
Orlova らの研究(2021年)は、Ni 比率の高い NMC の電気化学的な性質がこの混ざり具合に左右され、原因は Li+ と Ni2+ の半径の近さにあると述べています。同じ NMC811 でも、最後の焼成が空気中か酸素中かで混ざり方そのものが変わりました。
焼成炉の温度と雰囲気の管理が正極材の品質を左右するのは、このためです。電池全体の構成の違いは全固体電池とリチウムイオン電池の違いで整理しています。
ジルコニアを安定化するドーパント選び
純粋なジルコニア(ZrO2)は低温で単斜晶という形をとり、加熱すると正方晶、さらに立方晶へと結晶の形が変わります。焼き固めた部品が冷えるときに形が変わると使いにくいため、Zr4+ の一部を3価のイットリウム(Y3+)などに置き換えて、立方晶や正方晶を室温でも安定させます。
4価の Zr4+ の席に3価の Y3+ が入ると正の電荷が足りなくなり、Y 2個につき酸化物イオンが1個抜けた「酸素空孔」ができます。Y2O3 を8 mol% 前後加えた「8YSZ」は立方晶が室温でも安定で、空孔を伝って酸化物イオンが動くため、高温の固体電解質として働きます。
この固体電解質は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の電解質や、溶けた鉄の中の酸素をその場で測るジルコニア酸素センサーに使われています。センサーは参照極とジルコニア、測りたい溶融金属の3つでできていて、ジルコニアの両側の酸素の濃さの違いから生じる起電力を読み取ります。
ドーパント(添加するイオン)の候補を比べるときも、イオン半径の表が出発点です。8配位で比べると Zr4+ 84 pm に対して Y3+ は101.9 pm、スカンジウムの Sc3+ は87.0 pm で、Sc3+ のほうが母体のイオンにずっと近い大きさです。
ジルコニアがどんな部品に使われているかは、ファインセラミックスの用途と種類にまとめています。
東京理科大学などの研究グループ(2015年発表)は、Y を加えた 8YSZ と Sc・Ce を加えた 10SSZ を、600℃と800℃で2,000時間加熱しました。そのうえで、8YSZ だけ酸素イオン伝導度が下がる理由を、放射光X線回折と中性子回折で調べています。
SOFC には10万時間程度の運転が求められるため、ドーパントの選び方は初期の性能だけでなく長期の耐久性も左右します。イオン半径の表は、こうした候補を最初に絞り込む段階で使われます。
イオン交換樹脂とゼオライトの選択性
ボイラーの軟水化や純水づくりで使う強酸性陽イオン交換樹脂は、イオンごとに引きつける強さが違います。Dow の技術資料の選択係数(架橋度8%、H+=1)は Li+ 0.79、Na+ 1.56、K+ 2.28、Cs+ 2.56 で、同じ1価なら裸のイオンが大きいほど強く保持されます。
小さなイオンほど水分子を強く引きつけて厚い水和の殻をまとうため、水の中では Li+ がいちばん大きくふるまい、樹脂に近づきにくいと説明されます。2価の Ca2+ は4.06、Ba2+ は9.06 と1価よりずっと大きな値です。
Na 形の樹脂で水中の Ca2+ を選んで取り除き、使い終わったら食塩水で Na 形に戻せるのは、この選択係数の差のおかげです。水処理での使い方はボイラー水の水処理で解説しています。
陰イオン交換樹脂でも同じ傾向があり、強塩基性(Type I)の選択係数(OH−=1)は F− 1.6、Cl− 22、Br− 50、I− 175 と、ハロゲン化物イオンが大きくなるほど強く保持されます。食塩電解で Na+ だけを通す膜の働きは、イオン交換膜法の記事で扱っています。
乾燥剤や吸着剤に使うゼオライト A(モレキュラーシーブ)では、骨格の中の陽イオンの大きさで細孔の入口を調整します。Na 形の4A は入口が約4 Å で、Na+ をより大きな K+ に替えると約3 Å に狭まり(3A)、Ca2+ に替えると約5 Å に広がります(5A)。
5A で入口が広がるのは、2価の Ca2+ 1個が Na+ 2個の電荷を受け持つため、単位胞あたりの陽イオンが12個から8個に減り、窓の位置をふさいでいた Na+ がいなくなるからです。乾燥剤としての選び方は乾燥剤の種類と選び方にまとめています。
品質管理では:XRD の格子定数でイオンの入り方を確かめる

イオン半径から立てた「この席にこのイオンが入るはず」という見込みは、X線回折(XRD)で確かめます。XRD では結晶の面の間隔が分かり、そこから単位胞の辺の長さである格子定数が求まるので、イオンの大きさの足し算と実測の格子定数を比べられるからです。
別のイオンが混ざり込んで固溶体になると、置き換わったイオンの大きさに応じて格子定数がずれます。成分の割合に対して格子定数がほぼ直線的に変わる経験則をベガード則と呼び、格子定数の変化から、どれだけ固溶したかの見当がつけられます。
NMC 正極の陽イオンミキシングでは、XRD のピーク強度比 I003/I104 が簡易な指標としてよく使われます。ただし Orlova らは、粒子の向きのそろい方(優先配向)を補正してはじめて定量に使えると指摘しています。
同じ研究では、混ざり具合をリートベルト解析(パターン全体を結晶構造モデルで合わせ込む方法)で決めました。欠陥が5%以下の範囲では、単位胞の体積も混ざり具合とほぼ直線の関係にありました。
一方で、格子定数だけではどのイオンがどの席に入ったかまでは決められません。組成は蛍光X線などの元素分析で別に確かめ、席の割り振りはリートベルト解析や中性子回折、X線吸収分光と組み合わせて判断するのが基本で、前述の 8YSZ の研究もこの組み合わせを使っています。
工場の受け入れ検査や工程管理では、ロットごとに格子定数やピーク強度比の推移を記録しておくと、焼成炉の温度や雰囲気のずれに早く気づけます。品質管理の仕事全体の流れは品質保証・品質管理とはで紹介しています。
イオン半径のよくある質問
イオン半径の表によって値が違うのはなぜですか?
イオンには境目がなく、結晶中の陽イオンと陰イオンの距離を割り振る基準が表ごとに違うからです。Shannon の有効イオン半径は O2− を140 pm、結晶半径は126 pm として割り振っており、さらに配位数やスピン状態ごとに値が分かれています。
同じ元素で価数が違うと、イオン半径はどう変わりますか?
価数が大きいほど電子が少なくなり、同じ原子核に引きつけられる電子が減るのでイオンは小さくなります。6配位・高スピンの値で、Fe2+ は78 pm、Fe3+ は64.5 pm です。
水和イオン半径とは何ですか?
水溶液の中でイオンがまとう水分子の層まで含めた大きさのことです。小さなイオンほど水分子を強く引きつけて厚い層をまとうため、裸のイオンとは大小が逆になり、水中では Li+ が Na+ や K+ より大きくふるまいます。値は求め方で大きく違うので、比べるときは同じ文献の値を使います。
ランタノイド収縮とは何ですか?
ランタン(La)からルテチウム(Lu)へ原子番号が増えるにつれ、3価のイオンが少しずつ小さくなる現象です。増えた電子が内側の 4f 軌道に入って核の正電荷をあまり打ち消さないためで、6配位では La3+ 103.2 pm、Gd3+ 93.8 pm です。
同位体どうしでイオン半径は変わりますか?
変わらないと考えてかまいません。イオン半径は電子の数と陽子の数で決まり、中性子の数が違う同位体では電子配置も核の電荷も同じだからです。同位体と同素体の違いは同素体と同位体の違いで整理しています。
まとめ
- イオン半径は結晶中のイオン間距離を割り振って決めた大きさで、陽イオンは元の原子より小さく、陰イオンは元の原子より大きい
- 同族で同じ価数のイオンは原子番号が大きいほど大きく、同じ電子配置のイオンは原子番号が大きいほど小さい。判断はまず殻の数、次に核電荷
- 数値は Shannon の有効イオン半径を使い、同じ表・同じ配位数・同じスピン状態の値で比べる
- 半径比則や許容因子で結晶構造の見当をつけられるが、的中率は6〜7割台の目安
- 電池正極の Li/Ni 混合、ジルコニアのドーパント、イオン交換の選択性はどれもイオンの大きさの問題で、XRD の格子定数とリートベルト解析で確かめる
イオン半径の2つの法則は、殻の数と核の引きつけという2つの考え方で説明でき、材料の現場では「どのイオンをどの席に入れるか」を決める物差しになります。配位数をそろえた数値表で考える習慣をつけると、電池やセラミックスの技術資料の数字にも意味が見えてきます。
分子の性質と電子の偏りの関係は極性分子と無極性分子の違い、焼成で結晶をつくる工程はセラミックスの製造工程で解説しています。

出典
出典・参考資料(13件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 有効イオン半径:R. D. Shannon「Revised effective ionic radii and systematic studies of interatomic distances in halides and chalcogenides」Acta Crystallographica A32, 751–767(1976)、doi:10.1107/S0567739476001551。値は KnowledgeDoor Elements Handbook「Shannon-Prewitt Effective Ionic Radius」の表で確認
- ナトリウムの結晶構造と金属結合半径:WebElements「Sodium: crystal structure」
- Cl2 の結合距離:NIST Computational Chemistry Comparison and Benchmark Database「Cl2」
- NaCl の格子定数:産業技術総合研究所 結晶構造データ「NaCl」(Nickels, Fineman, Wallace, J. Phys. Chem. 53, 625, 1949)
- 半径比則の検証:J. George ほか「The Limited Predictive Power of the Pauling Rules」Angewandte Chemie International Edition 59, 7569(2020)
- 許容因子:C. J. Bartel ほか「New tolerance factor to predict the stability of perovskite oxides and halides」Science Advances 5, eaav0693(2019)
- NMC 正極の陽イオンミキシング:E. D. Orlova ほか「Comprehensive Study of Li+/Ni2+ Disorder in Ni-Rich NMCs Cathodes for Li-Ion Batteries」Symmetry 13, 1628(2021)
- ジルコニアの安定化と酸素空孔:S. Fabris, A. T. Paxton, M. W. Finnis「A stabilization mechanism of zirconia based on oxygen vacancies only」(arXiv:cond-mat/0206080)
- SOFC 電解質の長期加熱:東京理科大学「燃料電池材料の性能低下原因をマルチプローブで解明」(2015年5月13日)
- ジルコニア酸素センサー:佐伯直哉「ジルコニア酸素センサーにおける固体電解質-参照極界面の局所平衡状態に対する熱力学解析」大阪大学 博士論文(2023)
- イオン交換樹脂の選択係数:Dow「DOWEX Ion Exchange Resins: Using Ion Exchange Resin Selectivity Coefficients」(Form No. 177-01755-0207)
- ゼオライト A の細孔と陽イオン:Oregon State University「Preparation and Characterization of Zeolite 5A」、米国特許 US4056370「Zeolite A with improved properties」
- ベガード則:A. R. Denton, N. W. Ashcroft「Vegard’s law」Physical Review A 43, 3161(1991)
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