水和とは?イオンが水に溶ける原理と水和物の結晶水|セメント・医薬品での水和

撹拌機付きのステンレス製溶解槽が並ぶ化学工場の一角

水和(すいわ)とは、極性をもつ水分子がイオンや分子のまわりに引き寄せられて取り囲み、ひとまとまりになる現象です。食塩が水に溶けるときも、硫酸銅(II)の結晶が水を抱えて青い五水和物になるときも、水分子が静電気の力で相手にくっつくという同じしくみが働いています。

水和は教科書の中だけの話ではなく、セメントが水と反応して固まる力や、医薬品の原薬が水和物か無水物かで溶け方が変わる理由にもなっています。工場では、反応の発熱による温度の上がり方、結晶に入っている水の数、原料の含水量として、毎日の品質の数字に表れます。

後半は、セメントとセッコウの水和、医薬品・化学品の水和物の管理で現場が何を見ているかを順に扱います。

目次

水和とはどんな原理か:極性の水がイオンを取り囲む

先に結論を書くと、物質が水に溶けるかどうかは、水和で出る熱の大きさだけでは決まりません。結晶をばらばらにするのに要るエネルギーと、ばらけた粒子が水和して出すエネルギーの差で考えると、溶ける・溶けない、温まる・冷えるの違いが説明できます。

水和の出発点は、水分子の極性です。酸素は水素より電子を引きつける力(電気陰性度)が強く、さらに分子が折れ曲がった形をしているため、水分子は酸素の側がわずかにマイナス(δ−)、水素の側がわずかにプラス(δ+)に偏っています。

このような分子を極性分子と呼び、見分け方は極性分子と無極性分子の見分け方で詳しく扱っています。食塩(NaCl)の結晶を水に入れると、結晶の表面にあるイオンに水分子が次々と寄ってきて、向きをそろえて取り囲みます。

図1:Na+とCl−の水和

陽イオンには水の酸素の側(δ−)が、陰イオンには水素の側(δ+)が向いて取り囲みます。水分子の向きが逆になるのがポイントです。

陽イオン(Na⁺)陰イオン(Cl⁻)Na⁺Cl⁻OOOOOOOO水の O 側(δ−)が内側を向く水の H 側(δ+)が内側を向く

※大きな円が酸素、小さな円が水素の模式図です。実際には最初の層の外側にも、向きのそろった水分子がゆるく続きます。

陽イオンのNa+には、水分子の酸素の側が引き寄せられます。酸素には結合に使われていない電子の対(非共有電子対)があり、そのマイナスの偏りが陽イオンのプラスと静電気的に引き合うためで、この引力をイオン−双極子相互作用と呼びます。

陰イオンのCl−には、反対に水素の側(δ+)が向いて近づきます。水和したイオンは周りを水分子の層に包まれて結晶から引きはがされ、熱運動で水の中へ散っていくので、イオンがばらばらに水和して散らばった状態が「溶けている」状態です。

溶ける・溶けないを決めるのは、結晶をこわす側と水和する側のエネルギーの釣り合いです。食塩の場合、固体のNaClをばらばらの気体のイオンにするには約788 kJ/molが要り、そのイオンが水和するときには約784 kJ/molの熱が出るため、差し引きでわずかに熱を吸って溶けます。

溶解の熱=結晶をこわす熱+水和で出る熱(NaCl、25℃)
ΔH溶解 = ΔH格子 + ΔH水和
+3.9 = +788 + ΔH水和
ΔH水和 = 3.9 − 788 = 約−784 kJ/mol
ΔH溶解:無限に薄めた水溶液への溶解エンタルピー(NaClは+3.87 kJ/mol) ΔH格子:固体を気体のイオンにばらすのに要るエネルギー(ボルン・ハーバー回路で約788 kJ/mol) ΔH水和:Na+とCl−の水和エンタルピーの合計。格子エネルギーの値は資料により770〜790 kJ/molほどの幅があります。

図2:食塩が溶けるときのエネルギー

結晶をこわすのに要るエネルギー(上向き)と、水和で出るエネルギー(下向き)がほぼ同じ大きさで、差はわずか+3.9 kJ/molです。

NaCl(固体)Na⁺(気体)+Cl⁻(気体)Na⁺aq + Cl⁻aq結晶をこわす+788 kJ/mol水和で熱が出る−784 kJ/mol差 +3.9 kJ/mol(少し吸熱)

※縦軸は模式で、差の+3.9 kJ/molは見やすく広げて描いています。aqは水和して水溶液中にある状態を表します。

差が小さい食塩はほとんど温度が変わりませんが、水和の熱が勝つ物質は溶かすと熱くなり、結晶をこわす熱が勝つ物質は冷えます。水酸化ナトリウムの固体を水に溶かすと急に熱くなるのは前者で、工場で苛性ソーダを希釈するときに少しずつ加えて冷却するのはこのためです。

溶解エンタルピーの例(25℃、無限に薄めた場合)
NaOH:−44.5 kJ/mol(溶かすと発熱)
NH4NO3:+25.7 kJ/mol(溶かすと吸熱)
マイナスは熱を出し、プラスは熱を吸うことを表します。硝酸アンモニウムが水に溶けると冷えるので、たたくと冷える瞬間冷却パックに使われます。

水和の強さはイオンによって大きく違い、目安になるのがイオンの大きさと電荷です。下の表のように、小さいイオンほど、また価数が大きいイオンほど水分子を強く引きつけ、水和エンタルピーの絶対値が大きくなります。

イオン6配位のイオン半径水和エンタルピー(約)
Li+76 pm−520 kJ/mol
Na+102 pm−406 kJ/mol
K+138 pm−322 kJ/mol
Mg2+72 pm−1,921 kJ/mol
Ca2+100 pm−1,577 kJ/mol
Al3+53.5 pm−4,665 kJ/mol
Cl−181 pm−363 kJ/mol
イオン半径はShannonの有効イオン半径、水和エンタルピーはLibreTextsの表の値。1個のイオンの水和エンタルピーは水素イオンの値の決め方で変わるため、資料によって数十 kJ/mol違います。表のNa+とCl−を足すと−769 kJ/molで、前の計算の約−784 kJ/molとは約15 kJ/molの差があります。格子エネルギーに10 kJ/molほどの幅があり、水和エンタルピーも資料で異なるためで、この計算は桁と傾向をつかむ目安です。

表で同じ1価のLi+、Na+、K+を比べると、イオンが小さいほど値が大きくなります。大きさがLi+とほぼ同じMg2+は約3.7倍、3価のAl3+はさらに桁違いで、イオンの並び方の法則はイオン半径の大小の決まり方で整理しています。

強く水和するイオンは、水の中では水分子の層をまとった分だけ大きくふるまいます。裸のイオンではいちばん小さいLi+が、水溶液中ではNa+やK+より動きにくくなります。

電気の運びやすさを表す極限モル伝導率で比べると、水和の殻が厚いイオンほど値が小さく、Li+ 38.7、Na+ 50.1、K+ 73.5 S·cm2/molの順に大きくなります。陽イオンの大きさの順と、水の中での動きやすさの順が逆になるのが水和の効果です。

図3:裸のイオンと水和したイオン

小さいイオンほど厚い水の層をまとうので、水の中では大小が逆になり、Li+がいちばん動きにくくなります。

Li⁺Na⁺K⁺裸のイオン 76 pm裸のイオン 102 pm裸のイオン 138 pm伝導率 38.7伝導率 50.1伝導率 73.5

※点線の円は水の層の厚さの違いを示す模式で、大きさは実寸ではありません。伝導率は25℃の極限モル伝導率(S·cm²/mol)で、棒が長いほど水の中を速く動きます。

水和の殻の厚さは、イオン交換樹脂がどのイオンを選んで捕まえるかや、電池の電解液の中でイオンがどれだけ速く動くかにも効いてきます。数字を全部覚える必要はなく、小さく電荷の大きいイオンほど水を強く抱え、水の中では大きく重くふるまうとつかんでおけば、後半の話が読みやすくなります。

水和するのはイオンだけではありません。エタノールや糖のように、分子の中に-OH(ヒドロキシ基)をもつ極性分子にも、水分子が水素結合でまとわりつきます。これを分子の水和と呼び、タンパク質やデンプンが水中で安定に分散する親水コロイドも、粒子の表面に水和した水の層があるためです。

水素イオンも裸ではいられず、水分子と結び付いたオキソニウムイオン(H3O+)としてふるまい、水のイオン積を考えるときの土台になります。反対に、酸素や窒素のような無極性の気体は水和がほとんど起きないので水に溶けにくく、溶ける量はヘンリーの法則のとおり圧力で決まります。

こうしてイオンや分子のまわりに引き寄せられた水分子を水和水と呼びます。水溶液の中の水和水はたえず周りの水と入れ替わっていますが、次の章で見るように、結晶の中では水和水が決まった位置に固定されることがあり、それが水和物です。

水和水を持つ硫酸銅(II)五水和物はどういう状態か

硫酸銅(II)五水和物(CuSO4・5H2O)は、銅(II)イオン1個あたり5個の水分子を結晶の中に取り込んだ青い結晶です。水溶液から結晶になるとき、水和していた水の一部がそのまま結晶の骨組みに組み込まれるので、溶解で起きる水和と結晶の水和は同じ現象の続きです。

水溶液の中の銅(II)イオンは、6個の水分子に囲まれたヘキサアクア銅(II)イオン[Cu(H2O)6]2+として存在し、水溶液の青い色はこの形に由来します。水分子は酸素の非共有電子対を銅に差し出して結び付いており、こうした結合を配位結合、できたイオンを錯イオンと呼びます。

結晶になると、銅の周りにある6個の酸素のうち、4個は水分子のもの、残りの2個は上下にある硫酸イオンの酸素に置き換わります。5個目の水分子は銅には直接結び付かず、少し離れた場所で、配位している水分子や硫酸イオンと水素結合でつながって骨組みの中に固定されています。

図4:硫酸銅(II)五水和物の結晶の中の5個の水

銅に直接結び付く水が4個、銅から離れて水素結合で固定される水が1個です。上下の硫酸イオンは隣の銅とも結び付いて、結晶全体をつなぎます。

Cu水水水水水SO₄SO₄隣の Cu へ隣の Cu へ①②③① 配位している水 4個② 硫酸イオンの O 2個③ 5個目の水 1個Cu に直接結び付く上下から Cu に結び付き、隣の Cu ともつながるCu には結び付かず、水素結合で固定される

※結晶の一部を平面に描いた模式図です。実際の結晶は三斜晶で、銅の周りの6個の酸素は上下に少し伸びた八面体に並びます。

化学式に5H2Oと書けるのは、この1か所に5個の水があるからではなく、結晶全体で数えると銅1個あたり水が5個の割合になるからです。硫酸イオンは2つの銅の間をつなぐ橋の役目をしており、銅1個あたりで見ると硫酸イオンも1個の割合です。

結晶中の水の呼び方は資料によって少し違います。結晶の中に決まった数だけ入っている水全体を結晶水(または水和水)と呼びます。そのうち金属イオンに直接結び付いた①を配位水、金属から離れた③を格子水と分けることが多く、化学式の「・5H2O」は配位水と格子水を合わせた数です。

結晶の水は、結び付き方の違いによって抜けやすさも違います。五水和物を加熱すると、水は一度に抜けずに三水和物、一水和物を経て白い無水物になり、温度は加熱の速さや試料の量で変わりますが、最後の1個はほかよりずっと高い温度まで残ります。

加熱で結晶水が抜ける3つの段階(温度は目安)
CuSO4・5H2O → CuSO4・3H2O + 2H2O(約60〜80℃)
CuSO4・3H2O → CuSO4・H2O + 2H2O(約110〜120℃)
CuSO4・H2O → CuSO4 + H2O(約200〜240℃以上)
段階の温度は資料や昇温の速さ、雰囲気で数十℃変わります(63・109・200℃前後とする資料もあり、結晶構造の論文は約80℃・約120℃・240℃超としています)。青い五水和物は加熱で白い無水物になり、水を加えると青に戻ります。無水物は600℃を超えるあたりから酸化銅(II)と三酸化硫黄に分解します。

この階段状の重さの減り方は、試料を加熱しながら重さを記録する熱重量分析(TG)でそのまま観察できます。段ごとの減り方の計算やTG曲線の見方、乾燥した空気中で結晶水が抜ける現象は、風解と潮解の違いの記事でまとめています。

水和物を扱う実務でいちばん効くのは、秤量の計算です。試薬瓶に「硫酸銅(II)五水和物」とあれば、量った重さの約36%は水なので、無水物の式量で計算すると銅の量が足りなくなります。式量の求め方は組成式と分子式の違いでも扱っています。

0.100 molの硫酸銅(II)を量るとき(式量 CuSO4・5H2O 249.68、CuSO4 159.60)
五水和物なら 0.100 × 249.68 = 24.97 g
無水物なら 0.100 × 159.60 = 15.96 g
五水和物 25.0 gの中身
CuSO4:25.0 × 159.60249.68 = 15.98 g  水:25.0 − 15.98 = 9.02 g
式量はCu 63.546、S 32.06、O 15.999、H 1.008から求めました。結晶水の割合は 5 × 18.015 ÷ 249.68 = 36.08%です。

五水和物を水に溶かすと、結晶水の9.02 gは溶媒の水に加わります。溶解度の計算で「結晶水は溶媒として数える」のはこのためで、めっき液や銅の電解精錬の電解液を濃度どおりに仕込むときも、同じ考え方で溶質と水を分けて数えます。

実際の工場では:セメントとセッコウは水和で固まる

工業で最も大量に起きている水和は、セメントの水和反応です。セメントや焼きセッコウは、水と反応して水を取り込んだ新しい結晶(水和物)をつくり、その結晶どうしがからみ合うことで固まるので、乾いて固まるのではなく、水を化学的に取り込んで固まる材料です。

打設直後のコンクリートから温度センサーの線が延びる基礎の型枠

セメントの水和反応と発熱

ポルトランドセメントの主成分は、けい酸三カルシウム(略号C3S)、けい酸二カルシウム(C2S)、アルミン酸三カルシウム(C3A)などの鉱物です。C3Sは水と反応して、結晶性の低いけい酸カルシウム水和物(C-S-H)と水酸化カルシウムになり、このC-S-Hが強度を生みます。

けい酸三カルシウムの水和(代表的な書き方の1つ)
2Ca3SiO5 + 6H2O → 3CaO・2SiO2・3H2O + 3Ca(OH)2 + 熱
3CaO・2SiO2・3H2OがC-S-Hにあたります。C-S-Hは組成が一定しないため、水の数を変えた書き方もあります。C2S(Ca2SiO4)も同様に水和し、2Ca2SiO4 + 4H2O → 3CaO・2SiO2・3H2O + Ca(OH)2 と書けますが、C3Sより反応がゆっくりで、出る熱も水酸化カルシウムも少なくなります。C3Sの検算:Caは6=3+3、Siは2=2、Oは10+6=16=3+4+3+6、Hは12=6+6で釣り合います。

C3Aは水と触れるとすぐに反応して大量の熱を出し、そのままでは練り混ぜた直後に固まってしまいます。そこでセメントにはセッコウを加えておき、溶け出した硫酸イオンがC3Aの表面にエトリンガイトという水和物の膜をつくって、反応を遅らせます。

完全に水和したセメントでは、セメント1 gあたり約0.24 g(資料により0.23〜0.25 g程度)の水が化学的に取り込まれて、加熱しても簡単には抜けない水になります。

練り混ぜに使った水のうち、反応に使われなかった分は細かい空隙に残り、乾燥とともに抜けていくので、水を入れすぎると空隙が増えて強度が下がります。

水和反応の熱は、ダムの堤体や橋脚の基礎のように一度に大量に打ち込むマスコンクリートで問題になります。内部の温度が上がって表面との温度差が大きくなると、冷えて縮むときに温度ひび割れが入るため、発熱の小さいセメントを選んだり、内部に温度計を埋めて温度の推移を監視したりします。

発熱を抑えたセメントの水和熱の規格値(国土交通省の資料が引くJIS規格値)
中庸熱ポルトランドセメント:材齢28日 340 J/g以下
低熱ポルトランドセメント:材齢7日 250 J/g以下、28日 290 J/g以下
J/gはセメント1 gが水和して出す熱の量です。上の値は改正前のJIS R 5210を引いた資料のものです。JIS R 5210(ポルトランドセメント)は2026年3月に改正されましたが、改正後の水和熱の値は本稿では確かめられていないため、設計・発注では最新版の規格を確認してください。

現場では、水和を「温度」と「時間」で管理します。打ち込み後の温度の上がり方を測り、寒い時期は保温して水和を進め、夏場やマスコンクリートでは冷やして温度差を抑え、型枠を外す時期や強度の出方を水和の進み具合から判断します。

セッコウと乾燥剤:結晶水の出し入れを使う材料

セッコウボードや型取り用の焼きセッコウは、硫酸カルシウム二水和物を120〜150℃ほどで焼いて結晶水の4分の3を追い出した半水和物で、水を加えると再び二水和物に戻って固まります。

固まったセッコウは重さの約21%が結晶水なので、火にあぶられると水を出しながら熱を吸い、燃え広がりを遅らせます。

焼きセッコウが水和して固まる(式量 CaSO4・2H2O 172.17)
CaSO4・12H2O + 32H2O → CaSO4・2H2O
結晶水の割合:2 × 18.015172.17 = 20.93%
二水和物の結晶が針状に伸びてからみ合うことで硬くなります。加熱で水を追い出す向きの反応は吸熱です。

塩化カルシウムのように、水和物をつくりながら空気中の水分を取り込む性質は乾燥剤として使われ、組み合わせ方は乾燥剤の選び方で表にしています。水和物をつくる力が強すぎると、取り込んだ水に自分が溶けて液になる潮解まで進むので、原料や乾燥剤の保管では湿度を管理します。

図5:水和が効いている現場と、そこで見るもの

同じ水和でも、現場ごとに見る数字が違います。温度、結晶に入った水の数、含水量の3つが主な目印です。

セメント・コンクリート水和熱と内部の温度、型枠を外す時期、強度の出方
セッコウ・建材焼き温度と結晶水の数、水を加えて固まるまでの時間
乾燥剤・原料の保管保管湿度と吸湿量、風解や潮解による重さの変化
医薬品・化学品水和物か無水物か(結晶形)と、規格に入る含水量

※管理する数値と基準は、製品の規格や社内基準によって決まります。

医薬品・化学品の品質管理では:水和物は別の結晶として扱う

同じ化合物でも、水和物と無水物は結晶の中の並び方が違う別の固体です。水に溶ける速さや、湿度・温度に対する安定性が変わるので、医薬品の原薬では「どの水和物か」まで含めて品質を決め、製造のたびに同じ結晶形になっているかを確かめます。

水和物と無水物で溶け方・安定性が変わる

医薬品の規格の作り方を定めた国際的な指針ICH Q6Aは、同じ原薬が異なる結晶形をとる多形(結晶多形)に、水和物・溶媒和物(擬多形)や非晶質も含めると定義します。結晶形の違いが溶け方や安定性に影響する場合は、その結晶形を規格の中で管理するという考え方です。

身近な例がカフェインで、日本薬局方には一水和物のカフェイン水和物と、無水カフェインが別々の品目として収載されています。カフェイン水和物の添付文書には「乾燥空気中で風解する」と書かれており、保管の湿度によって結晶水が抜け、重さと結晶形が変わることが分かります。

水和物は、乾燥工程で温度を上げすぎると結晶水が抜けて別の結晶形になり、反対に無水物は湿った空気や水を使う造粒工程で水和物に変わることがあり得ます。どちらに転ぶかは物質ごとに違うので、開発の段階で湿度と温度を変えて結晶形が変わる条件を調べ、その範囲の中で製造・保管します。

水和物の水を測り、結晶形を確かめる

ICH Q6Aは、吸湿しやすい原薬や化学量論的な水和物では水分の試験が重要だとしています。加熱して減った重さを測る乾燥減量で足りる場合もあるものの、カールフィッシャー滴定のように水だけを選んで測る方法が望ましいとしています。乾燥減量は水以外の揮発分も拾ってしまうためです。

測った水分は、理論値と比べて判断します。一水和物なら式量から計算した結晶水の割合が基準で、それより多ければ表面に付いた水が、少なければ結晶水の抜けが疑われるため、X線回折(XRD)で結晶形そのものも確かめて、規格に入っているかを判定します。

図6:水和物の品質を確かめる流れ

水分の数字だけでなく、結晶形と合わせて見ると、水が「結晶の中にある」のか「表面に付いているだけ」なのかを区別できます。

STEP 1水分を測るカールフィッシャー法で水だけを測り、式量から計算した理論の結晶水と比べる
STEP 2水の抜け方を見る熱重量分析(TG)で、何℃で何%減るかを見て、結晶水か付着水かを見分ける
STEP 3結晶形を確かめて判定X線回折で水和物か無水物かを確かめ、製品の規格に照らして合否を決める

※どの試験を規格に入れるか、判定の基準値は品目ごとの規格で決まります。

カールフィッシャー法の反応式や、熱重量分析で段ごとの減り方を読む方法は、前述の風解の記事で詳しく扱っています。こうした試験結果の記録と判定は品質保証・品質管理の仕事の中心の1つで、医薬品をつくる食品・医薬・日用品業界の工場でも毎日のように行われています。

水和のよくある質問

水和と溶媒和の違いは何ですか?

溶媒和は、溶媒の分子が溶質の粒子を取り囲む現象全般をいい、溶媒が水のときを特に水和と呼びます。メタノールやアンモニアの液体の中でイオンが溶媒分子に囲まれるのも溶媒和で、しくみは水和と同じく極性による引力です。

水和と加水分解はどう違いますか?

水和は、水分子が粒子を取り囲んだり結晶に入ったりするだけで、相手の分子の結合は切れません。加水分解は、水が反応して相手の結合を切り、別の物質に変える反応で、エステルが酸とアルコールに分かれる反応や、デンプンが糖に分かれる反応が代表例です。

水和水と結晶水は同じものですか?

結晶の中の水について言うときは、ほぼ同じ意味で使われます。水和水は水溶液中でイオンや分子を取り囲む水も含む広い言葉で、結晶水は結晶の中に決まった数だけ入った水に限って使い、そのうち金属イオンに直接結び付いたものを配位水と呼び分けます。

セメントの「水和熱」と溶解熱は同じものですか?

別のものです。セメントの水和熱は、セメントの鉱物が水と反応して新しい水和物をつくるときに出る反応熱で、J/gで表します。溶解熱は、物質が水に溶けて水和したイオンや分子になるときの熱で、どちらも水和が関わりますが、測っている反応が違います。

まとめ

この記事のまとめ
  • 水和は、極性をもつ水分子がイオンや分子を取り囲む現象。陽イオンには水の酸素の側、陰イオンには水素の側が向く
  • 溶けるかどうかは、結晶をこわすエネルギーと水和で出るエネルギーの差で決まる。NaClは差が+3.9 kJ/molで、ほとんど温度が変わらない
  • 小さく電荷の大きいイオンほど強く水和し、水の中では水の層をまとって大きくふるまう(Li+はK+より動きにくい)
  • 硫酸銅(II)五水和物では、水4個が銅に配位し、5個目は銅から離れて水素結合で固定される。加熱すると3段階で抜ける
  • セメントとセッコウは水を取り込む水和反応で固まり、水和熱は温度ひび割れの管理に直結する
  • 医薬品では水和物と無水物を別の結晶形として扱い、水分と結晶形をあわせて確かめる

水和は、溶ける・固まる・結晶になるという、化学工場や建設現場の基本の動きを1つのしくみで説明してくれる考え方です。原料や製品が「水とどう結び付いているか」を意識すると、温度や重さの小さな変化の理由が読み解けるようになります。

結晶そのものの成り立ちを知りたい場合は共有結合の結晶と分子結晶の違いを、水和物の保管で起きる変化はあわせて風解の記事を読むと、固体と水の関係を工場の目線で整理しやすくなります。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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