酸を薄めてもpH7を超えない理由|10⁻⁸ mol/L塩酸のpH計算と現場の希釈

工場の排水処理設備の中和槽に差し込まれたpHセンサーとかくはん機

強酸をいくら水で薄めてもpH7を超えないのは、薄めるのに使う水そのものが電離して水素イオン(H+)を出しているからです。たとえば1.0×10−8 mol/Lの塩酸は、−log をそのまま取るとpH 8に見えますが、水の電離を入れると25℃でpH 6.98です。

酸から来るH+が水由来の1.0×10−7 mol/Lより少なくなると、pHは水が決める7へ近づくだけで、その先へは進みません。強塩基も同じ理屈で、25℃の水溶液ならどれだけ薄めてもpH7を下回らず、ごく弱い塩基性にとどまります。

後半では、排水を水で薄めて流すことの限界、純水のpHが測りにくい理由、薬液の希釈作業と品質管理でのpHの扱いという現場の話につなげます。

先に答え:1.0×10−8 mol/Lの塩酸(25℃)
[H+]= 1.0×10−8(酸由来)
+ 9.5×10−8(水由来)
= 1.05×10−7 mol/L
pH = −log10(1.05×10−7) ≒ 6.98
求め方は「計算でpH7を超えないことを確かめる」の章で、二次方程式から順に示します。
目次

そもそもpHとは?水素イオン濃度を対数で表した目盛り

pHは水素イオン指数とも呼ばれ、水溶液中の水素イオンのモル濃度[H+]を、常用対数を使って1つの数字に置き換えたものです。[ ]は、その物質のモル濃度(mol/L)を表す記号として使います。

pHの定義
pH = −log10[H+]
計算例
[H+]= 0.1 = 10−1 mol/L
→ pH = −log1010−1 = 1
[H+]= 0.01 = 10−2 mol/L
→ pH = −log1010−2 = 2
[H+]:水素イオンのモル濃度[mol/L]。[H+]が10倍になるとpHは1小さくなり、10分の1になるとpHは1大きくなります。

身の回りの水溶液の[H+]は、およそ1 mol/Lから10−14 mol/Lまで14桁にわたって変わるので、濃度のままでは比べにくくなります。そこで対数を取って0〜14程度の目盛りに縮め、pHが1違えば[H+]は10倍違うという読み方をするのがpHの考え方です。

図1:pHの目盛りと[H+]・[OH−]の関係(25℃)

目盛りが1つ右へ進むごとに[H+]は10分の1、[OH−]は10倍になります。

0171314酸性中性塩基性[H⁺]0.1mol/L[H⁺]=[OH⁻]=1.0×10⁻⁷[OH⁻]0.1mol/LpH=−log[H⁺]、[H⁺]×[OH⁻]=1.0×10⁻¹⁴

※25℃の値。中性のpHは温度で変わります(0℃で約7.5、100℃で約6.1)。

pHで塩基性の強弱も表せるのはなぜ?

水素イオンの濃度で塩基性の強さまで表せるのは、水溶液中では[H+]と水酸化物イオンの濃度[OH−]が、水の電離平衡で結び付いているからです。純粋な水もごくわずかに電離していて、H2O ⇄ H+ + OH− の平衡が成り立っています。

水の電離平衡と水のイオン積
K = [H+][OH−][H2O]
K[H2O]= Kw =[H+][OH−]
Kw = 1.0×10−14(mol/L)2(25℃)
[H2O]は約55 mol/Lと大きく、電離でほとんど変わらないので定数とみなし、Kにまとめて水のイオン積Kwとします。

Kwが一定なので、どちらか一方の濃度が分かればもう一方は割り算で決まります。[OH−]が0.1 mol/Lの塩基性の液なら、[H+]は1.0×10−14÷10−1=1.0×10−13 mol/Lとなり、pH 13という1つの目盛りで塩基の強さも表せます。

Kwの導き方や、温度が上がると中性のpHが7より小さくなる理由は、水のイオン積Kwの解説で詳しく扱っています。この記事の計算は、すべて25℃でKw=1.0×10−14とした値です。

強酸を薄めてもpH7を超えない理由

pH 6の塩酸を水で100倍に薄める場面で考えます。塩酸は強酸でほぼ100%電離するので、塩化水素の濃度がそのまま酸由来のH+の濃度になり、1.0×10−6 mol/Lを100倍に薄めると1.0×10−8 mol/Lになります。

ここで−log10(1.0×10−8)=8と計算すると、酸を薄めただけで塩基性になるという矛盾が起きます。見落としているのは、H+の出どころが塩酸だけではなく、薄めるのに使った水にもあるという点です。

よくある誤り:酸のH+だけで計算する
pH = −log10(1.0×10−8) = 8 (×)
正しい考え方:H+は酸と水の両方から来る(電荷のつり合い)
[H+]= C +[OH−]
C:塩酸の濃度(=[Cl−])[mol/L]。液全体で正の電荷と負の電荷は等しいので、[H+]=[Cl−]+[OH−]が成り立ちます。水はH+とOH−を1個ずつ出すので、[OH−]が水由来のH+の量に等しくなります。

純粋な水は25℃でH+を1.0×10−7 mol/L含んでいるので、酸を極端に薄めると、酸由来のH+より水由来のH+のほうが多くなります。1.0×10−8 mol/Lの塩酸では、全体のH+の約9割を水が出している計算です。

ただし水由来のH+は純水のときより少し減って9.5×10−8 mol/Lで、これは酸が加えたH+の分だけ水の電離平衡が水に戻る向きへ動くためです(ルシャトリエの原理)。それでも合計の[H+]は1.0×10−7を下回らないので、pHは7を超えません。

図2:薄い塩酸のH+はどこから来るか(25℃)

塩酸の濃度が1.0×10−7 mol/Lを下回るあたりから、水由来のH+が主役になります。

酸由来水由来C=1.0×10⁻⁶C=1.0×10⁻⁷C=1.0×10⁻⁸99%62%38%90%pH 6.00pH 6.79pH 6.98

※C は塩酸の濃度[mol/L]。電荷のつり合いとKw=1.0×10−14から計算した値。C=1.0×10−8の酸由来は約10%(1.0÷10.5)です。

計算でpH7を超えないことを確かめる:10−8 mol/L塩酸のpH

水の電離で生じるH+の濃度をx mol/Lと置くと、水はH+とOH−を同じ数だけ出すので、[OH−]もx mol/Lになります。全体の[H+]は塩酸由来の1.0×10−8とxの和なので、これをKwの式に入れると、xについての二次方程式ができます。

① Kwの式に代入する
(1.0×10−8 + x) × x = 1.0×10−14
② 展開して二次方程式にする
x2 + 1.0×10−8 x − 1.0×10−14 = 0
③ 解の公式(x>0 の解をとる)
x = −1.0×10−8 + √D2
√D = √((1.0×10−8)2 + 4×1.0×10−14)
= √(4.01×10−14) = 2.0025×10−7
x = −1.0×10−8 + 2.0025×10−72
≒ 9.5×10−8 mol/L
④ 全体の[H+]とpH
[H+]= 1.0×10−8 + 9.5×10−8
= 1.05×10−7 mol/L
pH = −log10(1.05×10−7)
= 7 − log101.05 ≒ 7 − 0.02 = 6.98
x:水の電離で生じたH+(=OH−)の濃度[mol/L] D:判別式 b2−4ac。log101.05=0.021。25℃、塩酸は完全に電離するとした理想的な計算です。

解の公式で出てくるもう一つの解は、√の前の符号がマイナスのほうで、xが負の値になります。濃度は負になりえないので、正の解だけが意味を持ち、[H+]は1.05×10−7 mol/L、pHは6.98とわずかに酸性側に決まります。

この程度の酸性は、青色リトマス紙を赤く変えるほどの強さではありません。また、この計算は濃度をそのまま使った理想的な値で、現実にはこの濃さの塩酸をつくっても、後の章で見るように空気中の二酸化炭素が溶け込んで、測ったpHは計算値より低く出ます。

同じ計算を10倍ずつ薄めた液で繰り返すと、変化の様子がよく見えます。pH 2の塩酸を10倍に薄めるたびにpHは3、4、5と1ずつ上がりますが、pH 6を過ぎたあたりで上がり方が急に鈍り、6.79、6.98、7.00と7に寄っていくだけになります。

図3:10倍ずつ薄めたときのpHの変わり方(25℃)

強酸も強塩基も、薄めるほどpH7に近づき、7を越えて反対側へは行きません。

04711141倍100倍1万倍100万倍1億倍希釈倍率(目盛りは100倍ごと)塩酸 0.01 mol/LNaOH 0.01 mol/L点線:酸のH⁺だけで計算した値(誤り)pH 6.98中性 pH 7

※電荷のつり合いとKw=1.0×10−14から計算。塩酸は100万倍(1.0×10−8 mol/L)でpH 6.98、NaOHは同じ倍率でpH 7.02。CO2の溶け込みは含めていません。

強塩基を薄めてもpH7より小さくならない理由

水酸化ナトリウム水溶液のような強塩基を薄める場合も、同じ考え方でOH−の出どころを2つに分けます。pH 8(pOH 6、[OH−]=1.0×10−6 mol/L)の水酸化ナトリウム水溶液を100倍に薄めると、塩基由来の[OH−]は1.0×10−8 mol/Lになります。

水の電離で生じるOH−(=H+)をx mol/Lと置く
(1.0×10−8 + x) × x = 1.0×10−14
→ x ≒ 9.5×10−8 mol/L
[OH−]= 1.0×10−8 + 9.5×10−8
= 1.05×10−7 mol/L → pOH ≒ 6.98
pH = 14 − pOH = 14 − 6.98 = 7.02
pOH=−log10[OH−]。pH+pOH=14 は25℃(Kw=1.0×10−14)のときの関係です。二次方程式は塩酸の場合と同じ形なので、解も同じになります。

求めたpHは7.02で、7よりわずかに大きい塩基性にとどまります。強塩基をどれだけ薄めても、弱い塩基性のまま中性に近づくだけで、酸性側へ回り込むことはありません。強酸と強塩基の結果を並べると、どちらも水が決める中性の値を境に、元の側から近づいていくことが分かります。

実際の工場で扱う水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)は、48%液や25%液のように濃い状態で受け入れ、用途に合わせて薄めて使います。濃い液を薄める段階では水の電離はまったく効かず、pHは濃度だけで決まります。

水の電離はいつ考えればよいか

pHを計算するたびに二次方程式を解く必要はありません。酸由来の[H+]が水由来の分より十分に大きければ、水の電離は無視でき、強酸の濃度がおよそ10−6 mol/L以上なら、濃度の−logをそのままpHとしてよいと言えます。

塩酸の濃度 C[mol/L]厳密に計算したpH酸のH+だけで計算したpH[H+]に占める水由来の割合
1.0×10−22.002.00ほぼ0%
1.0×10−55.005.000.01%
1.0×10−65.9966.00約1%
1.0×10−76.797.00約38%
1.0×10−86.988.00(誤り)約90%
1.0×10−96.9989.00(誤り)約99%
25℃、Kw=1.0×10−14、塩酸は完全に電離するとした計算値。「水由来の割合」は[H+]全体に対する[OH−]の比

表から、C=1.0×10−6 mol/Lでは水由来のH+が[H+]全体の約1%で、pHの差は0.004しかありません。ところが10−7 mol/Lまで薄めると水由来が約4割に増え、単純計算との差が0.2を超えるので、このあたりから水の電離を入れた計算が必要になります。

この目安は、塩酸や硝酸のように完全に電離する強酸の話です。

酢酸のような弱酸は一部しか電離しないため、0.1 mol/LのpH 2.88が10倍に薄めても3.39と、約0.5しか上がりません。弱酸や緩衝成分を含む液は、強酸よりさらに薄めてもpHが動きにくく、計算には電離定数や緩衝の式が要ります。

弱酸と塩を組み合わせてpHを保つ仕組みは緩衝液の原理と計算方法で扱っています。

10−8 mol/Lの塩酸は考え方を確かめるための計算例で、実際にこの濃度の液を空気中でつくって保つのは困難です。

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実際の現場では①:排水を水で薄めて流すことの限界

工場の排水は、公共用水域に出す前にpHを決められた範囲に入れる必要があります。水質汚濁防止法に基づく一般排水基準(排水基準を定める省令)では、海域以外へ出す排水はpH 5.8以上8.6以下、海域は5.0以上9.0以下です。この基準は、1日の平均的な排水量が50 m3以上の工場・事業場に適用されます。

基準は排水口で測った濃度で判定されるので、酸性の排水を水で薄めればpHは上がります。ただ、ここまでの計算から分かるとおり、強酸のpHを1上げるには10倍の水が要り、基準に入れるのに必要な水の量はすぐに現実離れした大きさになります。

試算:pH 2の酸性排水(0.010 mol/Lの塩酸だけを含むと仮定)1 m3をpH 5.8にする
pH 5.8 の[H+]= 10−5.8 ≒ 1.58×10−6 mol/L
水で薄める場合
0.0101.58×10−6 ≒ 約6,300倍(約6,300 m3)
中和する場合
0.010 mol/L × 1,000 L = H+ 10 mol
NaOH 10 mol × 40.0 g/mol = 400 g
塩酸と水酸化ナトリウムだけの単純な液での理論値です。pH 12(0.010 mol/LのNaOH)をpH 8.6まで薄めるなら、[OH−]を10−5.4≒4.0×10−6 mol/Lまで下げるので約2,500倍になります。

1日に10 m3出るpH 2の排水を薄めて基準に入れるには、1日に約6万3千 m3の水が要る計算で、中和なら25%の水酸化ナトリウム液で約16 kgに相当する量で済みます。しかも薄めても排水に含まれる酸の量は1 molも減らず、川や海へ出ていく総量は同じです。

東京都の水質総量削減制度の資料も、基準に適合する低い濃度の排水でも排水量が多ければ水域に出る汚濁物質は多くなり、濃度規制だけでは水質改善に限界があったと説明しています。東京湾・伊勢湾・瀬戸内海では、この反省からCOD・窒素・りんの総量規制が加わりました。

図4:酸性排水を基準に入れるときに比べること

水で薄めるとpHは動いても酸の量は減らず、水の量も桁違いに増えます。

水で薄めるpH 2→5.8 に約6,300倍。pHを1上げるのに10倍の水が要り、酸の総量は変わらない
中和するH+をOH−と反応させて水にする。1 m3あたりNaOH 400 g(理論値)
緩衝成分があると弱酸・炭酸塩などを含む排水は薄めてもpHが動きにくく、試算より多くの水や薬品が要る
基準と排水量を確かめる一般排水基準は5.8〜8.6(海域以外)。条例の上乗せや下水道の排除基準も確認する

※試算は塩酸・水酸化ナトリウムだけの単純な液の理論値。実際の排水は成分を調べて処理方法を決めます。

そのため排水処理の基本は、薄めることではなく、酸やアルカリを反対の性質の薬品で中和して酸そのものを消すことです。実際の排水には弱酸や炭酸塩、金属イオンなどが混ざるので、少量を採って薬品を加えていく滴定で注入量の目安をつかみ、pH計で薬品の量を自動で調整します。

中和槽から放流までの設備の流れや、pH 12の排水を硫酸で中和するときの薬品量は、前述の水のイオン積の記事の排水の章にまとめています。

どの成分がどう中和されたかを追うときはイオン反応式の書き方が役に立ち、pHと並ぶ水質の指標であるCOD(化学的酸素要求量)も同じ排水口で管理されます。

実際の現場では②:純水・超純水のpHが測りにくい理由

純水はKwの計算どおりなら25℃でpH 7のはずですが、ビーカーに汲んで測るとpH 5台後半を示すことがよくあります。原因の一つは、空気中の二酸化炭素が溶けて炭酸になり、H+を出すことです。

大気と釣り合った純水のpH(25℃の試算)
[CO2(aq)]= kH × pCO2
= 0.034 × 4.3×10−4 ≒ 1.5×10−5 mol/L
[H+]= √(Ka1[CO2(aq)]+ Kw)
= √(4.5×10−7 × 1.5×10−5 + 1.0×10−14)
≒ 2.6×10−6 mol/L
pH ≒ 5.6
kH:二酸化炭素のヘンリー定数 0.034 mol/(kg·bar)(NIST) pCO2:大気中のCO2の分圧[bar](濃度約426 ppm、2026年7月の世界平均) Ka1:炭酸の第一電離定数(pKa1=6.35)。第二段階の電離は小さいので省いています。

この試算から分かるように、空気に触れた純水のH+は、10−8 mol/L塩酸の酸由来のH+より2桁以上多くなります。極端に薄い酸の理論値は、試料が空気に触れた時点で測定値と合わなくなるので、10−8 mol/Lの塩酸は考え方を確かめる計算例として読むのが適切です。

気体が溶ける量と分圧の関係はヘンリーの法則で説明できます。もう一つの原因は、純水そのものがイオンをほとんど含まず、電気を通しにくいことで、pH計のガラス電極と比較電極が安定した電位を出しにくくなります。

計測器メーカーの技術資料は、緩衝能の弱い試料ではガラス膜の応答が遅れることと、比較電極の液絡部で液間電位や流動電位が生じやすいことを挙げています。

比較電極の内部液(KCl)が漏れ出して試料のpHを変えることもあり、容器や大気からのわずかな汚れでも値が動くので、通常の水溶液と同じ手順では指示値がふらつきます。

図5:純水のpH測定を難しくする4つの要因

イオンが少ない液ほど、外から入るわずかな成分と電極の不安定さが値を動かします。

CO2の溶け込み炭酸になってH+を出し、pH 5.6前後まで下がる
導電率が低いイオンが少なく、ガラス電極の応答が遅れて値がふらつく
液絡部の電位比較電極の液絡部で液間電位・流動電位が生じやすい
内部液・容器の汚れ漏れ出したKClや容器の付着物が試料のpHを変える

※HORIBA「低導電率液(低緩衝能)のサンプル測定」の説明をもとに作成。CO2によるpHは本文の試算。

対策として、配管から試料を流しながら測るフロースルー式のセル、窒素やアルゴンで空気を追い出した密閉容器、内部液が漏れにくい低導電率用の電極などが用意されています。測る前に電極を同じ種類の水に浸してなじませ、指示値が落ち着くまで待つのも基本です。

こうした事情から、純水や超純水の水質は、pHより導電率(比抵抗)で管理するのが一般的です。不純物のイオンが増えれば導電率は確実に上がるので、イオンの少なさを直接見られます。理論上の上限である比抵抗18.2 MΩ·cm(25℃)も、Kwから求まるイオン濃度とH+・OH−の極限モル伝導率から計算できます。

実際の現場では③:薬液の希釈作業と品質管理のpH

ドラフト内でかき混ぜている水に薬液を少しずつ注ぐ手元

工場や分析室では、濃い酸や塩基を受け入れて、必要な濃度まで水で薄めて使う場面が多くあります。薄めればpHは計算どおり7に近づきますが、作業の安全面では「どちらをどちらに入れるか」が大きな違いを生みます。

酸は水に少しずつ加える

濃硫酸は水と混ざるときに大量の熱を出すため、硫酸協会の安全データシート(SDS)は、水をかき混ぜながら硫酸を少しずつ加えるよう求めています。逆にすると急激な発熱で硫酸の飛沫が飛ぶことがあるので、必要なら冷やしながら作業します。

濃硫酸が水を強く引き付ける性質は濃硫酸の脱水作用と吸湿性で扱っています。同じSDSは、薄めてできた希硫酸が鉄などの金属を腐食して水素を出すことにも触れており、濃い硫酸を入れていた鋼製のタンクやドラムで、水が入って薄まった部分ほど腐食が進みやすい点にも注意が要ります。

図6:濃い酸を水で薄めるときの手順

「水が先、酸は後から少しずつ」が基本で、薄めた後の確認までを1つの作業にします。

STEP 01SDSと保護具を確かめる保護眼鏡・耐酸性の手袋とエプロン、換気を確保し、近くに洗浄用の水を用意
STEP 02容器に水を先に入れる薄めた後の量に合う耐酸性の容器を選び、水を入れてかき混ぜておく
STEP 03酸を少しずつ加えるかき混ぜながら少量ずつ注ぐ。濃い酸に水を注ぐ逆の順番はしない
STEP 04温度を見て冷やす発熱で温度が上がるので、必要なら冷却し、間をおいて加える
STEP 05冷めてから確かめる室温に戻してから濃度・pHを測り、目標の範囲に入ったかを記録する
STEP 06表示して保管する中身・濃度・日付を容器に表示し、薄めた液に合う材質の容器で保管する

※硫酸協会「安全データシート 濃硫酸」(2023年10月)の取扱いの記述をもとに作成。具体的な手順は使う薬品のSDSと事業場の作業手順書に従います。

塩酸を薄める場合は硫酸ほど発熱しませんが、濃塩酸からは塩化水素のガスが出るので、局所排気の効いた場所で扱います。硫酸がなぜ濃いと酸性を示しにくく薄めると強い酸として働くのかは、濃硫酸と希硫酸の違いで説明しています。

品質管理でpHを測るときの注意

製品や工程液のpHを品質管理で測るときは、まずpH計をJIS Z 8802の標準液で校正します。25℃でpH 4.01のフタル酸塩、6.86の中性りん酸塩、9.18のほう酸塩などから、測る範囲を挟む2種類を選ぶのが一般的です。

校正の記録や頻度の決め方は、計測器の校正周期と記録の残し方と同じ考え方で管理します。pHは温度で変わるので、測定値は温度と一緒に残し、管理値も「pH(25℃)」のように温度を添えて決めておきます。

見落としやすいのが、試料を水で薄めてから測る場合です。塩酸のような強酸だけの液なら10倍に薄めるとpHはほぼ1上がりますが、緩衝液や弱酸を含む液ではほとんど動かないこともあり、薄めた液のpHから元の液のpHを逆算できるとは限りません。

粘りのある液や濃い液を薄めて測るなら、希釈の倍率と使う水、温度を手順書で固定し、同じ条件の値どうしで比べます。pHで量を決めにくい成分は、試薬を加えて反応した量から求める逆滴定のような分析法で濃度を確かめます。

酸の希釈とpHのよくある質問

pH 6の塩酸を10倍に薄めるとpHはいくつになりますか?

塩酸だけを含む液で25℃なら、1.0×10−7 mol/Lになり、水の電離を入れて計算するとpHは約6.79で、7にはならずわずかに酸性のままです。緩衝成分を含む液では、薄めてもpHの上がり方が小さくなります。

弱酸を薄めてもpH7を超えませんか?

超えません。弱酸も水の電離を含めると[H+]が[OH−]より多い状態が保たれるので、25℃でpH7に近づくだけです。強酸より電離が小さいぶん、同じ倍率で薄めたときのpHの上がり方は小さくなります。

純水のpHは7ではないのですか?

空気に触れない理想的な純水なら25℃でpH 7ですが、空気中の二酸化炭素が溶けると約5.6まで下がります。また中性のpHは温度で変わり、100℃では約6.1が中性です。

pHがマイナスになったり14を超えたりすることはありますか?

あります。[H+]が1 mol/Lを超える濃い強酸ではpHが0を下回り、濃い強塩基では14を超えます。ただしこうした濃い液では濃度と実際の働き(活量)のずれが大きく、通常のpH計では正確に測れません。

まとめ

この記事のまとめ
  • 強酸を薄めてもpH7を超えないのは、薄める水自身が電離してH+を出しているため。強塩基も同じ理屈で7を下回らない(25℃)
  • 1.0×10−8 mol/Lの塩酸は、(1.0×10−8+x)x=Kw の二次方程式から[H+]=1.05×10−7 mol/L、pH 6.98
  • 強酸の濃度がおよそ10−6 mol/L以上なら水の電離は無視でき、10−7 mol/L付近からは無視できない
  • pH 2の排水をpH 5.8まで水で薄めるには約6,300倍の水が要り、酸の量も減らないので、排水は中和で処理する
  • 純水はCO2が溶けてpH 5.6前後になり、導電率も低いのでpHが測りにくい。濃い酸は水に少しずつ加えて薄める

「薄めても7を超えない」という結果は、水溶液のpHを酸と水の2つのH+の足し算として見ることから出てきます。この見方は、排水の中和量の見積もりや純水の測定、薬液の希釈手順まで現場のpH管理につながっています。pHを扱う仕事の全体像は品質保証・品質管理の仕事から確かめられます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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