モル質量は物質1 molあたりの質量で、単位は g/mol です。原子量・分子量・式量は炭素12の原子1個の質量の1/12を基準にした相対値で、単位を持たない「比」の数です。水なら分子量は18.015、モル質量は18.015 g/molと、数字は同じで単位だけが違います。
数字が一致するのは、1 molに入る粒子の数を、原子量の数字がそのまま g/mol になるように決めてあるからです。2019年の国際単位系(SI)の改定で厳密にはわずかなずれが生まれましたが、その差は10億分の1ほどで、配合や分析の計算に効くことはありません。
モル質量と原子量・分子量・式量の違いは?数値は同じで、単位と意味が違う
2つの違いを一言でまとめると、モル質量は「1 mol集めたときの実際の質量」、原子量・分子量・式量は「炭素12と比べて何倍重いか」です。前者は天びんで量れる量なので単位が付き、後者は重さどうしの比なので単位が消えます。
原子量・分子量・式量は、どの粒子の相対値かで呼び名が変わるだけで、考え方は同じです。元素の原子なら原子量、分子をつくる物質なら分子量、塩化ナトリウムのように分子がないイオン結晶や金属なら式量と呼びます。
| 比べる点 | モル質量 | 原子量・分子量・式量 |
|---|---|---|
| 意味 | 粒子を1 mol(6.022 140 76×1023 個)集めた質量 | 粒子1個の質量が、炭素12の1/12の何倍か |
| 単位 | g/mol(SI では kg/mol) | なし(比の数) |
| 基準 | アボガドロ定数(2019年から定義値) | 炭素12の原子1個=12 |
| 水の例 | 18.015 g/mol | 分子量 18.015 |
| 主な使い道 | 質量と物質量の換算、濃度・流量の計算 | 周期表・SDS・規格書に書く物質固有の値 |
モル質量とは:1 molあたりの質量(単位 g/mol)
モル質量(記号 M)は、ある粒子を1 mol、つまり 6.022 140 76×1023 個集めたときの質量です。物質の質量 m を物質量 n で割った値で、化学では g/mol、SI の組立単位としては kg/mol で表します。
炭素12の原子1個の質量は 1.992 6×10−23 g です。これをアボガドロ定数の個数だけ集めると、ほぼ12 gになり、炭素12のモル質量は約12 g/molと分かります。わずかなずれは後の節で扱います。
原子1個どうしの重さの比が原子量、同じ粒子を 6.022×1023 個集めて天びんで量った質量がモル質量です。
※炭素12の原子1個は 1.992 6×10−23 g。1 mol 集めた質量は 12.000 g(2019年以降は 1 g/mol とのずれが約10億分の1)。
モル質量が分かると、量った質量から粒子の数(物質量)が出せます。塩化ナトリウム(モル質量 58.44 g/mol)を 5.844 g 量れば 0.1000 mol で、溶液の濃度、反応に要る原料の量、生成物の理論収量は、どれもこの換算から始まります。
原子量・分子量・式量とは:炭素12を基準にした単位のない相対値
相対質量は、炭素12の原子1個の質量を12としたときに、ほかの原子1個が何倍の重さになるかを表す数です。重さを重さで割った比なので、相対質量にも、そこから求める原子量にも単位はありません。
ただ、ほとんどの元素には中性子の数が違う同位体があり、同じ元素でも原子1個の質量がそろっていません。そこで元素ごとに、自然界に存在する同位体の相対質量を存在比で重みづけして平均した値を原子量としています。
自然界の塩素を25個取り出すと、およそ19個が 35Cl(濃い点)、6個が少し重い 37Cl(薄い円)です。重みをつけて平均した値が原子量になります。
模式図:25個中 35Cl 19個・37Cl 6個(実際の存在比は 75.76%:24.24%)→ 平均 35.45
※相対質量は 35Cl が 34.969、37Cl が 36.966。どちらも炭素12を12とした比なので単位はありません。
分子量は分子をつくる原子の原子量の和で、水 H2O なら 1.008×2+15.999=18.015 です。一方、分子として存在しない塩化ナトリウムやケイ素の酸化物は、組成式に含まれる原子の原子量を足して式量と呼び、NaCl は 22.990+35.45=58.44 になります。
組成式と分子式の使い分けは組成式と分子式の違いで詳しく整理しています。
原子量は固定された定数ではありません。同位体の存在比は産地や鉱物ごとにわずかに違うからです。
そこで国際純正・応用化学連合(IUPAC)の同位体存在度・原子量委員会(CIAAW)は、2024年の標準原子量で水素・炭素・酸素・塩素など14元素の値を [下限, 上限] の区間で示しています。
青い帯が CIAAW の標準原子量(区間)、三角が計算に使う略記値です。帯の幅は、産地や原料による同位体の割合の違いを表します。
※IUPAC CIAAW「Standard Atomic Weights」(2024)。区間で示されるのは H・Li・B・C・N・O・Mg・Si・S・Cl・Ar・Br・Tl・Pb の14元素。軸の目盛りは元素ごとに違います。
区間のままでは計算に使いにくいので、CIAAW は通常の計算用に1つの数で書いた略記値(水素1.0080、炭素12.011、酸素15.999、塩素35.45 など)も出しています。同位体そのものの性質や工業での使い道は同素体と同位体の違いを参考にしてください。
なぜ数値が同じになるのか:M=Ar×Mu で整理する
モル質量と原子量の関係は、SI の公式文書(SI 文書 第9版)に1本の式で書かれています。相対原子質量(原子量・分子量)Ar に「モル質量定数」Mu を掛けたものがモル質量で、Mu がほぼ 1 g/mol なので数字がそのまま一致します。
2019年5月までは、モルは「炭素12の 0.012 kg に含まれる原子と同じ数の粒子を含む物質量」と決められていました。この定義では炭素12のモル質量が正確に 12 g/mol で、Mu もぴったり 1 g/mol でした。
現在の定義はアボガドロ定数の数値を固定する形に変わり、炭素12のモル質量は実験で決める値になりました。CODATA 2022 の値では Mu は 1 g/mol より約1×10−9 だけ大きく、原子量とモル質量の数字は小数点以下9桁目で初めて食い違います。
水素原子で言い直すと、水素の原子量 1.008 は「水素原子1個が炭素12の1/12の1.008倍の重さ」という意味で、水素原子を 6.022×1023 個集めると 1.008 g になります。モルの大きさや同位体の発見の歴史はドルトンの原子説の解説にまとめています。
計算では区別しなくてよいのか:ずれの大きさで判断する
濃度や配合の計算では、原子量・分子量の数字に g/mol を付けてモル質量として使ってかまいません。ずれが計算結果に出るかどうかは、ほかの誤差と大きさを比べると判断できます。
- モル質量定数のずれ:約1×10−9(10億分の1)
- 原子量の区間による幅:水の分子量で 18.014 71〜18.015 99、幅は約70 ppm(0.007%)
- 試薬の純度の表示:99.5%以上なら、最大0.5%(5,000 ppm)の違い
試薬の純度や水分、天びんの読み取りの誤差のほうが桁違いに大きいので、配合・調製・品質管理の計算で効くのはそちらです。区間の幅が問題になるのは、同位体比の精密測定や、原子量そのものを使う標準物質の値付けのような特殊な場面に限られます。
一方で、言葉と単位を区別しないと困る場面もあります。報告書に「分子量 18.02 g/mol」と書くと単位の付け方が混ざるので、分子量なら単位なし、モル質量なら g/mol と書き分けます。単位の考え方はSI基本単位と組立単位の違いも参考になります。
生化学や高分子の分野では、分子1個の質量をダルトン(Da)で表し、「分子量 50 kDa のたんぱく質」のように書きます。1 Da は炭素12の原子1個の質量の1/12に等しい単位で、分子1個の質量を Da で書いた数字と、分子量・モル質量(g/mol)の数字は同じになります。
同位体の割合を人工的に変えた物質では、教科書の原子量そのものが使えません。NMR の溶媒に使う重水 D2O は約20.03と普通の水の18.02より約11%重く、CIAAW も、同位体組成を変えた市販品は標準原子量から大きく外れることがあると注記しています。
実際の現場では:配合計算と濃度換算(mol/L・質量%・ppm)
化学工場や分析室では、濃度が質量%(質量パーセント)、mol/L(モル濃度)、ppm(百万分率)など、資料ごとに違う単位で書かれています。単位の間を行き来するときに必ず橋渡しになるのがモル質量で、気体なら1 molの体積、液体なら密度も一緒に使います。
どの換算にもモル質量が入り、液体では密度、気体ではモル体積(基準温度)が一緒に要ります。入力の条件をそろえないと換算できません。
※気体の ppm は体積(物質量)の割合、水の ppm は質量の割合で、同じ「ppm」でも意味が違います。
質量%から mol/L に直す:濃硫酸を例に
質量%の薬品を mol/L に直すときは、液1 Lの質量を密度から出し、そこに含まれる溶質の質量をモル質量で割ります。密度は濃度と温度で変わるので、製品の成績書や SDS の値を使います。ここでは密度 1.84 g/cm3 の98%硫酸で計算します。
この硫酸から 1 mol/L の希硫酸を 1 L つくるなら、要る量は 1 ÷ 18.39 = 0.0544 L、つまり約54.4 mL です。濃硫酸は水に加える順番を守り、発熱に備えて少しずつ入れます。硫酸の工業的な製法は接触法の解説にまとめています。
SDS には硫酸の分子量が 98.08 と書かれていることがあり、硫黄の原子量を 32.065 で計算した値です。この程度の違いは純度や密度の誤差に埋もれるので、社内の計算書で使う原子量の表を1つに決めておくと、担当者ごとに値がばらつかずに済みます。
ppm と mg/m3 を換算する:気体の基準温度に注意
気体の ppm は、普通は体積(物質量)の割合で、空気 100万 mol 中に何 mol あるかを表します。質量濃度の mg/m3 に直すには、モル質量と1 molの気体の体積(モル体積)を使い、モル体積は0℃なら22.414 L、25℃なら24.465 Lです。
同じ 50 ppm でも、基準温度の取り方で質量濃度が約9%違って出ます。作業環境の基準値や排ガスの規制値を比べるときは、どの温度・圧力で換算した数字かを先にそろえます。
水の中の ppm は事情が違い、普通は質量の割合(mg/kg)です。薄い水溶液なら1 Lがほぼ1 kgなので、1 ppm ≒ 1 mg/L として扱えます。導電率や pH と並ぶ水質の指標は水のイオン積の解説にも出てきます。
実際の現場では:ガスの体積流量と質量流量を換算する
プラントの窒素や燃料ガスの流量は、0℃・1気圧に直した体積で Nm3/h(ノルマル立方メートル毎時)と書くことが多い一方、物質収支や購入量は kg/h やトンで管理します。体積流量と質量流量の間をつなぐのも、モル質量とモル体積です。
標準状態の体積をモル体積で割って物質量にし、モル質量を掛けると質量になります。基準温度が違えば最初の割り算の値が変わります。
※基準は0℃・101.325 kPa(モル体積 22.414 m³/kmol)。15℃基準なら 23.645 m³/kmol を使います。
単位を kmol と kg/kmol にそろえると、22.414 m3/kmol と 28.014 kg/kmol の数字をそのまま使えて桁を間違えにくくなります。Nm3 と実際の体積 m3 の換算はNm3(ノルマルリューベ)とはで、圧力と温度の補正まで詳しく扱っています。
注意したいのは、「標準状態」の温度が業界や機器で違う点です。
日本の Nm3 は0℃・1気圧が一般的ですが、Sm3 など呼び名と基準条件の組み合わせは業界や機器で一致しません。
天然ガスの国際規格(ISO 13443)は15℃・101.325 kPa を標準参照条件とし、20℃を使う機器もあります。0℃と15℃では同じ数字でも質量が約5%違うので、銘板や仕様書の基準条件を先に確かめます。
測る側では、コリオリ流量計は質量流量を直接測り、面積式や渦式の流量計は体積流量を測ります。体積で測る計器はガスの密度、つまりモル質量・圧力・温度から換算するので、成分が変わると指示がずれます。原理の違いはコリオリ流量計とはの記事で確かめられます。
成分が混ざったガスなら、成分ごとのモル質量をモル分率で平均した平均分子量を使います。空気が約28.96になる計算や、混合ガスの密度の出し方は平均分子量とはで整理しています。
実際の現場では:水和物・純度・高分子で起きる取り違え
モル質量の計算そのものは足し算と掛け算だけですが、現場の失敗は「どの物質のモル質量を使うか」の取り違えから起きます。試薬瓶のラベル、成績書、配合表を突き合わせるときに見落としやすい4つを並べます。
計算式は合っていても、使う式量が中身と違えば濃度や配合がずれます。量る前に見る場所を決めておくと防げます。
水和物の式量:硫酸銅(II)五水和物の例
結晶の中に水を含む水和物は、水の分まで含めた式量で量ります。青い結晶の硫酸銅(II)五水和物 CuSO4·5H2O は式量 249.68 で、無水物 CuSO4(159.60)より約1.56倍重く量らないと同じ物質量になりません。

同じ取り違えは、炭酸ナトリウム(無水物 105.99、十水和物 286.14)やチオ硫酸ナトリウム(無水物 158.10、五水和物 248.17)でも起きます。水和物が空気中で水を失う風解や、反対に水を吸う潮解が進むと、ラベルの式量と中身も合わなくなります。
水和物の結晶がどうできるかは水和とは、保管中に結晶水が抜ける現象は風解と潮解の違いで詳しく扱っています。
試薬の純度とファクター:量った質量は全部が目的の物質ではない
試薬の純度が 99.5% なら、量った質量の0.5%は目的の物質ではありません。純分で 10.00 g が要るなら 10.00 ÷ 0.995 = 10.05 g を量り、成績書の純度(含量)の値を使えば計算と実際のずれを小さくできます。
水酸化ナトリウムのように空気中の水分や二酸化炭素を吸う試薬は、モル質量から計算した濃度どおりにはなりません。滴定に使う標準液は、つくったあとに標準物質で濃度を確かめ(標定)、表示濃度との比をファクターとして記録し、計算ではモル濃度にファクターを掛けて使います。
水酸化ナトリウムが水分を吸いやすい理由は水酸化ナトリウムの性質で、純度の高い結晶を得る精製は再結晶の解説で取り上げています。天びんや滴定器具の管理は計測器の校正周期の決め方が参考になります。
高分子は平均分子量と当量で配合する
高分子は鎖の長さがそろっていないので、1つの分子量ではなく数平均分子量 Mn や重量平均分子量 Mw という平均値で表し、単位は g/mol です。GPC(サイズ排除クロマトグラフィー)で測った値は、較正に使った標準物質に対する相対値なので、測定条件の違う値どうしを比べません。
Mn・Mw の式と GPC のしくみは、先に挙げた平均分子量の記事に計算例つきでまとめています。樹脂の配合で実際に使うのは、反応する官能基1 molあたりの質量である「当量」(g/eq)のほうです。
当量も、モル質量と同じく「1 molあたりの質量」の考え方でできています。分子量で配合すると官能基の数がずれるので、成績書に書かれた当量の実測値を使うのが基本です。
モル質量のよくある質問
モル質量の単位は g/mol と kg/mol のどちらですか?
SI の単位は kg/mol ですが、化学では数字が原子量と同じになる g/mol が広く使われます。水なら 18.015 g/mol=0.018 015 kg/mol で、どちらも正しい書き方です。
分子量と式量はどう違いますか?
分子として存在する物質の相対質量が分子量で、塩化ナトリウムのようなイオン結晶や金属、二酸化ケイ素のような共有結合の結晶のように分子がない物質では、組成式から求めて式量と呼びます。足し算のしかたは同じで、単位もありません。
原子量はなぜ改定されるのですか?
同位体の存在比や同位体の質量の測定が精密になると、CIAAW が標準原子量を見直すからです。2024年にはガドリニウム・ルテチウム・ジルコニウムの値が改定されました。計算では社内で使う原子量表の版をそろえておくと混乱しません。
分子1個の質量はどう求めますか?
モル質量をアボガドロ定数で割ります。水なら 18.015 g/mol ÷ 6.022×1023 mol−1 = 2.991×10−23 g で、ダルトンで表すと約18.015 Da です。
まとめ
- モル質量は1 molあたりの質量で単位は g/mol。原子量・分子量・式量は炭素12の1/12を基準にした相対値で単位がない
- 原子量は同位体の相対質量を存在比で平均した値で、CIAAW は14元素を区間で示し、計算用に略記値も出している
- 2019年の SI 改定でアボガドロ定数が定義値になり、モル質量定数は 1 g/mol から約10億分の1ずれたが、計算への影響はない
- 濃度換算では密度とモル質量、ガスの ppm や流量の換算ではモル体積とモル質量を使い、基準温度をそろえる
- 現場の失敗は水和水・純度・同位体組成・高分子の平均分子量や当量の取り違えから起きるので、量る物質の式量を成績書で確かめる
モル質量は、教科書の定義の問題であると同時に、配合表や流量の数字を物質量でつなぎ直すための共通の物差しです。単位の違いを押さえておけば、資料ごとに違う濃度や流量の書き方にも迷わずに済みます。
mol/L の濃度を使う計算の続きは溶解度積、気体の圧力の単位の換算は760mmHgと圧力の単位、化学メーカーの仕事の全体像は次の記事が役に立ちます。

出典
出典・参考資料(7件)を開く出典・参考資料を閉じる
- モルの定義とアボガドロ定数:BIPM「SI base unit: mole」
- 旧定義・M(X)=Ar(X)Mu・ダルトン:BIPM「The International System of Units(SI Brochure)」第9版
- モル質量定数(CODATA 2022):NIST「CODATA Value: molar mass constant」
- 標準原子量と区間表記:IUPAC CIAAW「Standard Atomic Weights」
- 原子量の略記値:IUPAC CIAAW「Abridged Standard Atomic Weights」
- 天然ガスの標準参照条件(15℃・101.325 kPa):ISO 13443:1996「Natural gas — Standard reference conditions」
- 硫酸の分子量と密度の記載例:厚生労働省 職場のあんぜんサイト「モデルSDS 硫酸」
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