逆滴定とは?原理と計算方法をアンモニア・CO2の例で解説|ケルダール法・COD

化学工場の分析室に並ぶビュレットとケルダール蒸留装置

逆滴定は、測りたい物質に濃度の分かった標準液を多めに加えて反応させきり、余った分を別の標準液で滴定して、使われた量を引き算で求める方法です。測るのは物質そのものではなく、標準液の「残り」という点が、ふつうの中和滴定との違いです。

この回り道をするのは、相手が気体で逃げる、固体で水に溶けにくい、反応が遅くて1滴ずつ終点を待てない、のどれかに当たるときです。アンモニアや二酸化炭素、石灰石、水の中の有機物がその代表で、分析や品質管理の現場では今も毎日使われています。

目次

逆滴定とは:過剰の標準液を加えて残りを滴定する方法

図1:直接滴定と逆滴定の線分図

逆滴定では X そのものを滴定せず、多めに加えた標準液の「残り」を測って、全量から引きます。

直接滴定測りたい物質 X標準液 B の滴下量X = B(そのまま読む)逆滴定過剰に加えた標準液 A の全量(分かっている)X と反応した分残り=B で滴定= A の全量 − 残り滴定で測る

※物質量は H+ や OH-、受け渡す電子の数(mol)にそろえて並べます。

ふつうの中和滴定(直接滴定)では、濃度の分からない酸や塩基の溶液に標準液を1滴ずつ加え、色が変わった点までの体積から量を求めます。測りたい物質と標準液が1対1で向き合うので、滴下した量をそのまま読めば答えになります。

逆滴定では、測りたい物質 X に標準液 A を明らかに多めに加え、X をすべて反応させます。そのあと液に残った A を別の標準液 B で滴定すれば、「A の全量 − 残り」が X と反応した分になり、反応式の係数で X の量に直せます。

逆滴定の基本の式(物質量を H+ や OH- の数でそろえる)
X と反応した A = 加えた A の全量 − 残った A
残った A = 滴定に使った B(反応式の係数で換算)
A:過剰に加える標準液(量と濃度が正確に分かっている) B:残りを滴定する標準液 X:測りたい物質。中和なら H+ と OH- の物質量、酸化還元なら受け渡す電子の物質量でそろえます。

図2:直接滴定できない3つの理由

逃げる・溶けない・遅い、のどれかがあると、標準液を1滴ずつ加えて終点を見る方法では正しく測れません。

揮発する(気体で逃げる)水に溶かして滴定する間に一部が空気中へ逃げ、元の量が分からなくなる。NH3CO2
水に溶けにくい(固体)溶液にならないので、ビュレットから滴下しても反応がすぐ進まない。CaCO3制酸剤のMgO
反応が遅い加熱や時間が必要で、1滴ずつ加えて終点を待つ滴定に向かない。水中の有機物(COD)
共通の解決策反応する相手を過剰に加えて反応させきり、残った分を速く進む反応で滴定する。逆滴定

気体のアンモニアは水によく溶けますが、溶かして滴定するまでの間に一部が空気中へ逃げます。そこで最初から過剰の酸に吸わせて塩にすれば、アンモニアは液の中に閉じ込められ、もう逃げられません。

炭酸カルシウムのような固体も、過剰の塩酸に溶かしてしまえば反応が最後まで進みます。「先に反応させきってから、速く進む反応で残りを測る」のが逆滴定のねらいで、気体・固体・遅い反応という3つの悩みを同じ考え方で解いています。

逆滴定の組み立て方:何に吸収させ、何で滴定するか

逆滴定の問題や試験法は数多く見えますが、決めることは3つしかありません。測りたい物質と反応する標準液、その残りを滴定する標準液、そして残りを測る反応の終点を見る指示薬です。

測りたい物質過剰に加える標準液 A残りを滴定する標準液 B指示薬・終点
アンモニア NH3(気体)塩酸・硫酸水酸化ナトリウムメチルレッド(酸性側で変色)
二酸化炭素 CO2(気体)水酸化バリウム塩酸フェノールフタレイン
二酸化炭素 CO2(気体)水酸化ナトリウム塩酸終点を2つ使う(ワルダー法)、または BaCl2 で沈めてから滴定(ウィンクラー法)
炭酸カルシウム CaCO3(固体)塩酸水酸化ナトリウムメチルレッド
水中の有機物(COD)過マンガン酸カリウムシュウ酸ナトリウム→過マンガン酸カリウム過マンガン酸イオン自身の薄い赤紫
表1:逆滴定の組み合わせの例

A には、測りたい物質と反対の性質を持つ強い酸か塩基を選びます。弱いアンモニアを強い塩酸に、弱い酸の二酸化炭素を強い塩基に吸わせると、反応がほぼ完全に右へ進むので、吸い残しが出ません。

A は「明らかに多め」に加えるのが条件で、足りないと吸収しきれなかった分がそのまま誤差になります。一方で多すぎると、残りを滴定する B の体積が大きくなり、小さな差を大きな数から引くことになるため、読み取りの誤差が答えに響きやすくなります。

計算は、どの例でも次の順番で進めます。物質ごとに見た目は変わっても、この順番を守れば係数や分取の倍率を取り違えにくくなります。

  • 加えた A の全量を、H+・OH-・電子の物質量で出す
  • 滴定に使った B から残った A を出す(一部だけ取って滴定したら、分取の倍率を掛けて全体に戻す)
  • 全量から残りを引き、X と反応した分を出す
  • 反応式の係数で X の物質量に直し、モル質量を掛けて質量・含量・濃度にする

物質量から質量に直すところは、モル質量の求め方と同じ計算です。試験法によっては、試料を入れずに同じ操作をする空試験の滴定量を使い、「空試験 − 本試験」の差から直接答えを出す形で書かれていますが、中身は同じ引き算です。

アンモニアの逆滴定

アンモニアは水への溶けやすさが気体の中でも際立っていますが、水に吸わせただけでは、滴定までの間にアンモニアの一部が液面から逃げていきます。逃げた分は滴定にかからないので、測った値は元の量より小さくなります。

そこで、塩酸や硫酸の標準液を過剰に入れた受器にアンモニアを通し、アンモニウムイオン NH4+ の塩にして液に閉じ込めます。気体の溶けやすさと圧力の関係はヘンリーの法則、アンモニアの工業生産はハーバー・ボッシュ法で扱っています。

アンモニアの逆滴定の手順と物質量の関係

アンモニアと塩酸は1対1で反応し、塩化アンモニウムができます。受器には反応しきれなかった塩酸が残るので、この残りを水酸化ナトリウム水溶液で滴定すれば、アンモニアの量は引き算で決まります。

吸収と滴定の反応
NH3 + HCl → NH4Cl
HCl + NaOH → NaCl + H2O(残った HCl)
物質量の関係
n(NH3) = n(HCl の全量) − n(NaOH)
n:物質量[mol]。硫酸で吸収するときは H2SO4 1 mol が H+ 2 mol を出すので、硫酸の物質量を2倍して H+ の量にそろえます。

計算例として、アンモニアを含む気体を 0.100 mol/L 塩酸 25.0 mL に通して吸収させた場合を考えます。残った塩酸を 0.100 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液で滴定したら、12.0 mL を要したとします。

計算例1:吸収したアンモニアの量
HCl の全量 = 0.100 mol/L × 25.0 mL = 2.50 mmol
残った HCl = NaOH = 0.100 mol/L × 12.0 mL = 1.20 mmol
NH3 = 2.50 − 1.20 = 1.30 mmol
質量 = 1.30 mmol × 17.03 g/mol = 22.1 mg
mol/L × mL = mmol として計算すると、10-3 の付け忘れを防げます。17.03 は NH3 のモル質量[g/mol]です。

この 1.30 mmol は、アンモニアが受け取った H+ の数そのものです。アンモニアが H+ を受け取って NH4+ になるしくみは、配位結合の代表例でもあります。

滴定曲線とpH指示薬:メチルレッドを使う理由

アンモニアを吸収させた後の受器には、残った塩酸と、できた塩化アンモニウムが一緒に入っています。この混合液に水酸化ナトリウムを加えていくと、反応は2段階で進みます。

  • ① 強い酸の HCl が先に中和される:HCl + NaOH → NaCl + H2O
  • ② HCl がなくなると、NH4+ から NH3 が追い出される:NH4Cl + NaOH → NH3 + H2O + NaCl
  • ③ そのあとは加えた NaOH が余り、強い塩基性になる

HCl が先に反応するのは、H+ を出す力が HCl のほうが NH4+ よりはるかに強いからです。逆滴定で知りたいのは①の終わり、つまり残っていた HCl の量なので、第1当量点で止まる指示薬を選ぶことになります。

図3:HCl と NH4Cl を含む液を NaOH で滴定した曲線

アンモニアを吸収させた後の液(残った HCl 1.20 mmol+NH4Cl 1.30 mmol、約50 mL)を滴定した計算値です。止めるのは第1当量点です。

メチルオレンジ 3.1〜4.4メチルレッド 4.4〜6.2フェノールフタレイン 8.0〜9.802468101214048121620242832pH加えた 0.100 mol/L NaOH 水溶液の体積(mL)第1当量点 12.0 mL・pH 5.5=残った HCl の分。ここで止める第2当量点 25.0 mL① HCl の中和② NH4+ → NH3③ NaOH 過剰

※塩化アンモニウムの酸解離定数 Ka=5.6×10-10(pKa 9.25)、25℃として計算。色の帯は各指示薬の変色域の目安です。

第1当量点の液は塩化アンモニウムと塩化ナトリウムの水溶液で、NH4+ が水に H+ を渡すため弱い酸性になります。図3の条件では pH 約5.5 で、変色域が4.4〜6.2のメチルレッドがちょうど当てはまります。

フェノールフタレインを使うと、変色域が②の区間に入ってしまい、NH4+ の一部まで滴定してしまいます。NaOH を余計に読む分だけ「残った HCl」が大きく見え、アンモニアは少なく出るので、ここでは使いません。

指示薬変色域(pH)色の変化(酸性→塩基性)この記事での使いどころ
メチルオレンジ3.1〜4.4赤→黄NaOH 吸収液の第2段(HCO3-→CO2)
メチルレッド4.4〜6.2赤→黄アンモニアの逆滴定、炭酸カルシウムの逆滴定
ブロモクレゾールグリーン・メチルレッド混合約5付近赤紫→灰色→緑ケルダール法(色の変わり目を見やすくした混合指示薬)
フェノールフタレイン8.0〜9.8無色→赤Ba(OH)2 の逆滴定、NaOH 吸収液の第1段
表2:指示薬の変色域と使いどころ

メチルオレンジも第1当量点の急な立ち上がりにかかるので使えますが、変色域が当量点より酸性側にずれる分、わずかに早く止まります。pH の考え方そのものは水のイオン積の記事で、硫酸の2段目の電離が弱いことは濃硫酸と希硫酸の酸性の違いで整理しています。

二酸化炭素の逆滴定

二酸化炭素は水に溶けても大半が CO2 のまま残り、炭酸として酸の働きをする分はわずかです。水に通しただけでは溶け残りや再放出が起きるので、アンモニアと同じく、反対の性質を持つ強い塩基を過剰に用意して吸わせます。

吸収液には水酸化バリウムと水酸化ナトリウムの2つがよく使われます。どちらも CO2 を炭酸イオンに変えて液に閉じ込めますが、炭酸イオンが沈殿するか液に残るかで、その後の滴定のしかたが変わります。

水酸化バリウムに吸収させて塩酸で滴定する

水酸化バリウム水溶液に二酸化炭素を通すと、水に溶けにくい炭酸バリウムが白く沈みます。CO2 は沈殿として液から外れるので、上澄みに残るのは使われなかった水酸化バリウムだけになります。

吸収の反応(1行目)と、残った Ba(OH)2 の滴定(2行目)
Ba(OH)2 + CO2 → BaCO3↓ + H2O
Ba(OH)2 + 2HCl → BaCl2 + 2H2O
↓は沈殿を表します。CO2 1 mol は OH- を 2 mol 使います。

図4:二酸化炭素を水酸化バリウムで測る流れ

CO2 を沈殿として取り除き、液に残った塩基だけを滴定するので、反応の段階が1つで済みます。

STEP 1標準液を正確に量る濃度の分かった Ba(OH)2 水溶液をホールピペットで量り、吸収びんに入れる
STEP 2気体を通して吸収CO2 を含む気体を通す。CO2 より OH- が十分多い量にしておく
STEP 3静置して沈めるできた BaCO3 が白く沈む。CO2 は沈殿として液から外れる
STEP 4上澄みを分取上澄みの一部を正確に取る。全体の何分の1を取ったかを記録する
STEP 5塩酸で滴定残った OH- をフェノールフタレインで滴定。赤が消えたら終点
STEP 6引き算して換算分取の倍率を掛けて全体の残りにし、OH- の全量から引いて 2 で割る

残りの滴定にはフェノールフタレインを使い、液の赤い色が消えたところで止めます。終点が塩基性側にあるので、上澄みに細かな炭酸バリウムが混じっていても溶かしにくく、沈めた CO2 の分まで塩酸で測ってしまう誤りを避けられます。

石灰水に二酸化炭素を通すと白く濁るのも同じ反応で、カルシウムが炭酸カルシウムとして沈みます(石灰水が白く濁る理由)。硫酸イオンや炭酸イオンがバリウム・カルシウム・鉛と組むと沈殿しやすい理由は、溶解度積の大きさで説明できます。

計算での注意点:2価と1価をH⁺とOH⁻の数でそろえる

この計算で間違いやすいのは、2価の塩基の水酸化バリウムと、1価の酸の塩酸、OH- を2個使う二酸化炭素が混ざるところです。物質量のまま引き算すると数が合わないので、すべて H+ と OH- の個数に直してから線分図に並べます。

中和の量的関係(OH- の全量 = CO2 が使った分 + 塩酸が中和した分)
2 × n(Ba(OH)2) = 2 × n(CO2) + 1 × n(HCl)
係数の2と1は、それぞれ1 mol あたりに出す OH-、使う OH-、出す H+ の数です。上澄みの一部だけを滴定したときは、n(HCl) に分取の倍率を掛けて全体の量に戻します。

もう1つの落とし穴が分取の倍率です。100 mL のうち 20.0 mL を取って滴定したなら、滴定の結果は全体の5分の1なので5倍して戻します。吸収で液の体積が変わらないとみなしている点も、計算の前提として押さえておきます。

二酸化炭素の逆滴定の計算例

ある気体を 0.0500 mol/L 水酸化バリウム水溶液 100 mL に通して二酸化炭素を完全に吸収させ、静置して沈殿を沈めました。上澄み 20.0 mL を取り、0.100 mol/L 塩酸で滴定したところ 14.0 mL を要した場合です。

計算例2:吸収した二酸化炭素の量
OH- の全量 = 2 × 0.0500 mol/L × 100 mL = 10.0 mmol
上澄み 20.0 mL 中の残り = 0.100 mol/L × 14.0 mL = 1.40 mmol
全体の残り = 1.40 mmol × 100 mL20.0 mL = 7.00 mmol
CO2 が使った OH- = 10.0 − 7.00 = 3.00 mmol
CO2 = 3.00 ÷ 2 = 1.50 mmol(× 44.01 g/mol = 66.0 mg)
44.01 は CO2 のモル質量[g/mol]。検算:2 × 1.50 + 7.00 = 10.0 mmol で OH- の全量と一致します。

アルカリの液に二酸化炭素を吸わせて滴定する方法は、土から出る二酸化炭素(土壌呼吸)の測定などにも使われてきました。吸収びんの中の塩基が空気中の CO2 にも触れるため、吸収液を準備する段階から空気に触れる時間を短くし、同じ扱いの空試験と比べます。

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水酸化ナトリウムに吸収させる方法:ワルダー法とウィンクラー法

水酸化ナトリウムで二酸化炭素を吸収すると、炭酸ナトリウムは水によく溶けるので沈殿しません。液の中に、使われなかった NaOH と、できた Na2CO3 が一緒に残り、塩酸で全部を中和すると、その量は CO2 を吸う前の NaOH の量と変わりません。

吸収の反応
2NaOH + CO2 → Na2CO3 + H2O
塩酸との反応(強い塩基から順に進む)
NaOH + HCl → NaCl + H2O
Na2CO3 + HCl → NaHCO3 + NaCl
NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2
Na2CO3 1 mol は塩酸を 2 mol 使い、NaOH 2 mol 分と同じです。だから全体を中和する量は吸収の前後で変わりません。

そこで、残った NaOH と炭酸ナトリウムの内訳を分けて測る方法が2つあります。終点を2つ使って同じ液を続けて滴定するのがワルダー法、塩化バリウムで炭酸イオンを沈めて片方を外すのがウィンクラー法です。

図5:NaOH 吸収液を塩酸で滴定するときの2つの読み方

10.0 mL 分取、0.100 mol/L 塩酸で滴定した計算例3の数字です。OH- と CO32- を、終点を2つ使うか、沈殿で片方を外すかで分けます。

ワルダー法(同じ液を2段で滴定)メチルオレンジの終点 10.00 mLフェノールフタレインの終点 8.50 mLOH- の中和1段目2段目07.00CO32- の分:1段目 1.50 mL + 2段目 1.50 mLウィンクラー法(2つに分けて滴定)Aそのまま全部を中和:10.00 mL(メチルオレンジ)BBaCl₂ で CO₃²⁻ を沈めて OH⁻ だけ:7.00 mL(PP)CO₃²⁻ の分 =(A − B)÷ 2 = 1.50 mL

※PP はフェノールフタレイン。全体の滴下量(10.00 mL)は CO2 を吸収する前の NaOH の量と同じで、CO2 の量は内訳の違いにしか出ません。

ワルダー法では、まずフェノールフタレインの終点まで滴定します。ここまでに NaOH の中和と、炭酸イオンが炭酸水素イオンになる1段目が終わり、続けてメチルオレンジを加えて滴定すると、炭酸水素イオンが二酸化炭素になる2段目の分だけが読めます。

計算例として、0.100 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液 50.0 mL に二酸化炭素を吸収させ、10.0 mL を取って 0.100 mol/L 塩酸で滴定します。

フェノールフタレインの終点までに 8.50 mL、続けてメチルオレンジの終点までにさらに 1.50 mL を要したとします。

計算例3:ワルダー法で二酸化炭素を求める
CO32-(2段目の分)= 0.100 mol/L × 1.50 mL = 0.150 mmol
OH- = 0.100 × 8.50 − 0.150 = 0.700 mmol
検算:OH- + 2 × CO32- = 0.700 + 0.300 = 1.00 mmol(分取した NaOH 0.100 × 10.0 と一致)
全体の CO2 = 0.150 mmol × 50.0 mL10.0 mL = 0.750 mmol(33.0 mg)
1段目(8.50 mL)は OH- と CO32- の両方の分、2段目(1.50 mL)は CO32- の分だけを表します。

ウィンクラー法では、同じ吸収液から2つ分取します。1つはメチルオレンジで全部を中和し(10.00 mL)、もう1つは塩化バリウムを加えて炭酸イオンを炭酸バリウムとして沈めてから、フェノールフタレインで NaOH だけを滴定します(7.00 mL)。

差の 3.00 mL の半分が炭酸イオンの分で、0.150 mmol とワルダー法と同じ答えになります。

比べる観点Ba(OH)2 吸収NaOH 吸収+ワルダー法NaOH 吸収+ウィンクラー法
CO2 の行き先BaCO3 として沈殿Na2CO3 として液に残るNa2CO3 として液に残る
滴定の回数上澄みを1回同じ液を2段(終点2つ)2つに分けて1回ずつ
指示薬フェノールフタレインフェノールフタレイン→メチルオレンジメチルオレンジ/フェノールフタレイン
分かること残った OH-OH- と CO32- の内訳OH- と CO32- の内訳
注意点沈殿を静置・分離する手間1段目の終点の色の変化がゆるやかで見落としやすいBaCl2 を十分に加え、沈殿を溶かさない
表3:二酸化炭素の吸収液と滴定のしかたの比較

この「OH-・CO32-・HCO3- を2つの終点で分ける」考え方は、ボイラー水のアルカリ度(P アルカリ度・M アルカリ度)の管理にも使われています(ボイラー水の水処理)。

苛性ソーダや炭酸ナトリウムの純度を調べる品質試験も同じ形で、水酸化ナトリウムの性質と扱いで触れた空気中の CO2 の吸収が、ここでも誤差の元になります。

実際の分析室では:ケルダール法で窒素とたんぱく質を測る

ケルダール法の分解ブロックに並ぶガラス管と排気マニホールド

食品や飼料のたんぱく質、肥料や化学品の窒素を測る代表的な方法がケルダール法です。試料の窒素を一度アンモニアにして気体で取り出すので、受器のところで、ここまで見てきたアンモニアの逆滴定がそのまま使われます。

分解・蒸留・吸収の流れ

第10版 食品添加物公定書(厚生労働省・消費者庁)の窒素定量法では、試料に硫酸カリウムと硫酸銅(II)、濃硫酸を加えて加熱し、液が青色の透明になってからさらに1〜2時間加熱します。

硫酸カリウムは液の沸点を上げ、硫酸銅は分解を速める触媒として働き、有機物の窒素は硫酸アンモニウムとして液に残ります。

図6:ケルダール法の流れ

窒素を一度アンモニアにして気体で取り出すので、吸収のところで逆滴定の考え方がそのまま使われます。

前処理:窒素をアンモニウムイオンにして取り出す

分解濃硫酸で加熱分解硫酸カリウム・硫酸銅(II) を加えて加熱。有機物の窒素が NH4+ になる。液が青く澄むまで
蒸留アルカリにして蒸留濃い NaOH 溶液を加えて NH3 を追い出し、水蒸気と一緒に受器へ送る
吸収受器で捕まえる硫酸の標準液を過剰に入れておく(逆滴定)か、ホウ酸溶液に吸収させる(直接滴定)

定量:滴定して窒素からたんぱく質へ

滴定残りか、捕まえた量を滴定硫酸吸収なら残った硫酸を NaOH で、ホウ酸吸収ならできたホウ酸塩を硫酸・塩酸で
空試験試料なしで同じ操作試薬に含まれる窒素や、吸収液の量の誤差を差し引く
換算窒素量×換算係数窒素の質量から含量を出し、たんぱく質は食品ごとの係数(6.25 など)を掛ける

※第10版 食品添加物公定書「窒素定量法」の手順をもとに作成。分解・蒸留・滴定を自動で進める装置も使われます。

分解した液に濃い水酸化ナトリウム溶液を加えると、アンモニウムイオンからアンモニアが追い出され、蒸留で受器へ送られます。

公定書のケルダール法では、受器に 0.05 mol/L 硫酸 25 mL を正確に入れておき、残った硫酸を 0.1 mol/L 水酸化ナトリウム溶液で滴定して、空試験で補正します。

計算例4:ケルダール法(硫酸吸収)で窒素とたんぱく質を求める
滴定量の差 = 空試験 25.00 mL − 本試験 12.00 mL = 13.00 mL
窒素 = 13.00 mL × 1.401 mg/mL = 18.21 mg
窒素の含量 = 18.21 mg1,000 mg(試料 1.000 g) × 100 = 1.82%
たんぱく質 = 1.82% × 6.25 = 11.4%
1.401 mg/mL:0.05 mol/L 硫酸 1 mL(H+ 0.1 mmol)が受け止める窒素の質量(0.1 mmol × 14.007 g/mol)。0.1 mol/L NaOH 1 mL も同じ 0.1 mmol なので、NaOH の滴定量の差にそのまま掛けられます。6.25 は食品一般の窒素-たんぱく質換算係数です。

6.25 は「たんぱく質の窒素は約16%」という見立てから来た係数で、食品によって値が変わります。

関税中央分析所の分析法では、乳と乳製品 6.38、小麦 5.83、米 5.95、大豆 5.71、その他 6.25 としており、同じ窒素 1.82% でも小麦なら 10.6% になります。

硫酸吸収(逆滴定)とホウ酸吸収(直接滴定)の違い

受器に入れる液には、もう1つホウ酸溶液を使う方法があります。ホウ酸はごく弱い酸で、アンモニアを受け止めてホウ酸イオンをつくり、このホウ酸イオンを硫酸や塩酸の標準液で直接滴定します。

比べる観点硫酸吸収ホウ酸吸収
滴定の形逆滴定(残った硫酸を NaOH で)直接滴定(捕まえたアンモニアの分を硫酸・塩酸で)
受器の液の量正確に量る(ホールピペット)おおよそでよい(過剰にあれば答えに入らない)
標準液の数硫酸と NaOH の2つ硫酸または塩酸の1つ
公定書の例ケルダール法:0.05 mol/L 硫酸 25 mL、1 mL=1.401 mg Nセミミクロケルダール法:ホウ酸溶液(1→25) 15 mL、0.005 mol/L 硫酸 1 mL=0.1401 mg N
終点赤紫→微灰黄→微灰緑(混合指示薬)または電位差緑→微灰青→微灰赤紫(混合指示薬)または電位差
表4:ケルダール法の受け液の比較(第10版 食品添加物公定書より)

ホウ酸吸収の利点は、受け液の量を正確に量らなくてよく、標準液が1つで済むことです。逆に言えば、逆滴定は「加えた量を正確に知っている」ことが前提で、受け液を量るホールピペットの精度や標準液の濃度の誤差が、そのまま答えに入ります。

たんぱく質を色で確かめる反応はアミノ酸・タンパク質の検出反応、窒素がアミノ基として入っているしくみはα-アミノ酸の基本構造で解説しています。

たんぱく質以外の窒素(尿素や遊離アミノ酸など)も測りこむので、換算した値は「粗たんぱく質」と呼ばれます。なお硝酸イオンの窒素は、通常の分解ではアンモニアになりにくく、そのままでは測れません。

COD・炭酸カルシウム・制酸剤で使われる逆滴定

逆滴定は中和だけの技ではなく、酸化還元の分析や、固体の含量・医薬品の働きを確かめる試験にも組み込まれています。どの例も「何を過剰に加えるか」「何が残るか」「何で滴定するか」の3つで読めば、同じ形をしています。

COD:過マンガン酸カリウムの残りを2段階で測る

工場排水や湖沼の COD(化学的酸素要求量)は、日本では過マンガン酸カリウムを使う CODMn で測ります。試料 100 mL に硫酸と硝酸銀を加え、5 mmol/L 過マンガン酸カリウム 10 mL を過剰に加えて沸騰水浴で30分加熱し、有機物を酸化させます。

ここからが2段階の逆滴定です。まず 12.5 mmol/L シュウ酸ナトリウム 10 mL を加えて残った過マンガン酸カリウムをすべて還元し、さらに余ったシュウ酸ナトリウムを 5 mmol/L 過マンガン酸カリウムで滴定します。

過マンガン酸イオン自身の赤紫が終点の目印になるので、指示薬は加えません。

CODMn の計算式(試料 100 mL、滴定量 4.20 mL の例)
COD =(a − b)× f × 1000V × 0.2
= 4.20 × 1.000 × 1000100 × 0.2 = 8.40 mg/L
a:試料の滴定に使った 5 mmol/L KMnO4[mL] b:空試験の滴定量[mL](この例では 0 とした) f:KMnO4 のファクター V:試料[mL] 0.2:5 mmol/L KMnO4 1 mL が受け取る電子を酸素に直した質量[mg]

過マンガン酸カリウムとシュウ酸ナトリウムの濃度は、受け渡す電子の数でちょうど釣り合うように決められています(半反応式の作り方)。手順の理由、加熱後に残る量の目安、排水基準との関係はCOD の測定法と計算方法で詳しく扱っています。

海外の排水分析で主流の二クロム酸カリウム法(CODCr)も逆滴定です。日本の JIS K 0102 にも、過マンガン酸法とは別に二クロム酸法の規定があります。

米国環境保護庁(EPA)の方法410.3(塩化物の多い試料向けの滴定法)では、試料に二クロム酸カリウムと硫酸(硫酸銀入り)を加え、塩化物の妨害を抑える硫酸水銀も入れます。これを2時間加熱還流し、残った二クロム酸を硫酸アンモニウム鉄(II) の標準液で、フェロインを指示薬に滴定します。

シュウ酸ナトリウムで逆滴定するのは過マンガン酸カリウム法の側で、二クロム酸法では硫酸アンモニウム鉄(II) が残りを測ります。2つの方法は酸化の強さも違うので、CODMn と CODCr の数値はそのまま比べられません。

炭酸カルシウム・石灰石の純度

炭酸カルシウムは水に溶けにくい固体なので、塩酸を過剰に加えて溶かしきり、残った塩酸を水酸化ナトリウムで滴定します。

第10版 食品添加物公定書の「炭酸カルシウムⅡ」の定量法では、試料約2 g に 1 mol/L 塩酸 50 mL を正確に加え、水浴で約10分加熱します。冷却後、過量の塩酸を 1 mol/L 水酸化ナトリウムで滴定し、メチルレッドの赤が黄に変わる点を終点とします。

反応と計算例5(試料 2.000 g、NaOH 10.20 mL の場合)
CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2
CaCO3 =(50.00 − 10.20)mL × 50.04 mg/mL = 1,991.6 mg
含量 = 1,991.6 mg2,000 mg × 100 = 99.6%
50.04 mg/mL:1 mol/L 塩酸 1 mL(1 mmol)と反応する CaCO3(0.5 mmol × 100.09 g/mol)。標準液のファクターは 1.000、空試験と乾燥物換算は省略した例です。公定書の規格は乾燥物換算で 98.0〜102.0% です。

加熱には、反応で出た二酸化炭素を液から追い出す効果もあります。CO2 が炭酸として液に残ると、それが NaOH と反応して終点がずれ、炭酸カルシウムが少なく出てしまいます。

同じ公定書でも、もう一方の「炭酸カルシウムⅠ」は EDTA によるキレート滴定で定量しています。

石灰石やドロマイトでは炭酸マグネシウムも塩酸を使うので、逆滴定の値は「炭酸カルシウムに換算した塩基の量」になり、カルシウムだけを知りたいときはキレート滴定や機器分析と使い分けます。石灰石は製鉄・セメント・排煙脱硫で大量に使われる原料です。

制酸剤の制酸力試験

胃酸を中和する制酸剤(酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなど)の「制酸力」も、逆滴定で決めます。

日本薬局方の制酸力試験法では、試料に 0.1 mol/L 塩酸 100 mL を正確に加え、37±2℃で1時間振り混ぜてからろ過します。ろ液 50 mL を取り、残った塩酸を 0.1 mol/L 水酸化ナトリウムで滴定します。

この試験の終点は指示薬ではなく、pH 計で pH 3.5 と決められています。体温に近い37℃で1時間かけて反応させる条件からも分かるとおり、相手は時間をかけて酸を中和する固体で、まさに「反応が遅い」相手を逆滴定で測る例です。

計算例6:酸化マグネシウムの制酸力(試料 0.120 g)
ろ液 50 mL 分 = 空試験 50.0 mL − 本試験 20.4 mL = 29.6 mL
試料が中和した 0.1 mol/L 塩酸 = 29.6 mL × 100 mL50 mL = 59.2 mL
制酸力 = 59.2 mL0.120 g = 1 g あたり 0.1 mol/L 塩酸 493 mL
ろ液はフラスコ全体(100 mL)の半分なので2倍して戻します。理論値は MgO(40.30 g/mol)1 g が H+ 49.6 mmol を中和するので 496 mL です。数値は検算用の例です。

自動滴定装置と逆滴定の誤差管理

逆滴定は引き算で答えを出すので、加えた量と残りの量のどちらにも誤差が入ります。ふつうの滴定より手順が1つ多い分、標準液の濃度・加えた体積・空試験の3つをそろえて管理することが、値の信頼性を決めます。

  • 標準液のファクター:A・B どちらの標準液も、標定して実際の濃度を確かめておく
  • 加える体積:A はホールピペットや精度の確認されたディスペンサーで量る。ビュレットの読み取りだけで済ませない
  • 空試験:試料を入れずに同じ操作をし、試薬の不純物や吸収液が空気から吸った CO2 の分を差し引く
  • 残りの割合:A が多すぎても少なすぎても誤差が大きくなる。CODMn では加熱後に残る過マンガン酸カリウムの量に目安の範囲が決められている

現場の分析室では、ビュレットと指示薬に代わって自動滴定装置が多く使われています。pH 電極や白金電極で電位を測りながら標準液を少しずつ加え、電位が急に変わる点を終点として自動で読むので、色の見え方の個人差や、濁った液・色のある液で終点を見落とす心配が減ります。

食品添加物公定書のケルダール法や日本薬局方の制酸力試験も、終点を電位差計や pH 計で決める方法を認めたり、規定したりしています。自動装置でも、電極の校正と標準液の標定を記録に残すことは手作業と同じで、計測器の校正周期の決め方の考え方がそのまま当てはまります。

分析値は製品の合否や出荷の判断に使われるため、手順書・記録・異常時の対応までを含めて管理するのが品質保証・品質管理の仕事です。逆滴定のように手順の多い分析ほど、誰が測っても同じ値になる仕組みづくりが大切になります。

逆滴定のよくある質問

逆滴定と直接滴定はどう使い分けますか?

相手が水に溶けた酸や塩基で、標準液とすぐに反応するなら直接滴定で十分です。気体で逃げる、固体で溶けにくい、反応が遅い、終点が見えにくいといった事情があるときに、過剰の標準液で反応させきってから残りを測る逆滴定を選びます。

空試験は何のためにするのですか?

試料を入れずに同じ試薬・同じ手順で測り、試料以外が原因で使われた標準液の量を差し引くためです。逆滴定では「空試験の滴定量 − 本試験の滴定量」が試料と反応した分になる形の式が多く、加えた標準液の量の誤差もここで打ち消せます。

逆滴定でも終点を指示薬で見ますか?

見ます。残りを滴定する反応の当量点の pH に合う指示薬を選び、アンモニアならメチルレッド、水酸化バリウムならフェノールフタレインのように決めます。分析室では指示薬の代わりに pH 電極などで電位の変化を読む自動滴定も多く使われます。

ウィンクラー法は溶存酸素の測定法と同じものですか?

別のものです。水に溶けた酸素を測るウィンクラー法は、マンガンの沈殿とヨウ素滴定を使う方法です。この記事のウィンクラー法は、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの混合液を、塩化バリウムで炭酸イオンを沈めてから塩酸で滴定する中和滴定で、名前が同じでも中身は違います。

まとめ

この記事のまとめ
  • 逆滴定は、測りたい物質に標準液を過剰に加えて反応させきり、残りを別の標準液で滴定して「全量 − 残り」で求める方法
  • 使う理由は、気体で逃げる(NH3・CO2)、固体で溶けにくい(CaCO3・制酸剤)、反応が遅い(COD)の3つ
  • 計算は H+・OH-・電子の数でそろえ、分取の倍率と空試験を忘れない。アンモニアは HCl 全量 − NaOH、CO2 は(OH- 全量 − 残り)÷ 2
  • 指示薬は残りを滴定する反応の当量点に合わせる。アンモニアはメチルレッド、Ba(OH)2 はフェノールフタレイン、NaOH 吸収液は終点2つ(ワルダー法)か BaCl2(ウィンクラー法)
  • 現場ではケルダール法、CODMn・CODCr、炭酸カルシウムの定量、制酸力試験で使われ、自動滴定装置と標準液・空試験の管理で精度を保つ

逆滴定は、測りにくい相手を「標準液の残り」という測りやすい量に置き換える方法です。試験法を読むときに、何を過剰に加え、何が残り、何で滴定するかを確かめると手順の意味が見えてきます。

COD のような水質の数字や、たんぱく質・純度の数字がどこから来たかも追えるようになり、分析値を受け取る側の品質管理や工程管理の仕事にも役立ちます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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