「鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模」と聞くと、多くの方は粗鋼生産量が何千万トンといった、量の数字を思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、金額で見るか量で見るか、鉄鋼と非鉄金属のどちらを含めるかによって、同じ業界でも見え方は大きく変わります。さらに需要先の景気、輸出の動き、脱炭素への対応が、市場の姿を少しずつ変えています。
この記事では、鉄鋼・非鉄金属業界の市場を、最新の市場規模、過去の推移、需要先の内訳、海外市場と輸出、市場を動かすトレンド、今後の見通しという順で整理します。
鉄鋼・非鉄金属業界の市場規模

経済産業省の2024年経済構造実態調査によると、2023年の製造品出荷額等は、鉄鋼業が23兆8,346億円、非鉄金属製造業が13兆2,915億円でした。合わせると約37兆円で、製造業全体の約1割にあたります。
鉄鋼業の出荷額は製造業全体の6.4%、非鉄金属製造業は3.6%を占めます。前年と比べると、どちらもほぼ横ばい(鉄鋼業0.4%減、非鉄金属製造業0.5%減)でした。
同じ調査で、2024年6月1日時点の事業所数は鉄鋼業が5,075、非鉄金属製造業が3,069、従業者数はそれぞれ21万7,804人と14万7,873人です。1事業所あたりの出荷額は鉄鋼業で約47億円となり、製造業全体の約17億円を大きく上回ります(いずれも同調査から算出)。少ない拠点で大きな金額を生む装置産業であることが、数字からも読み取れます。
ただし、市場規模の数字は数え方によって変わります。国内の工場から出荷された金額を積み上げる製造品出荷額、主要企業の売上高を合計した数字、粗鋼生産量のような量の統計では、対象も単位も異なります。企業の売上高には海外子会社や鉄鋼以外の事業も含まれるため、出荷額とは一致しません。
同じ業界でも、何を数えるかで数字の大きさが変わります。
※出典:経済産業省「2024年経済構造実態調査」、業界動向サーチ(2022〜2023年)、日本鉄鋼連盟、アルミニウム調査会。
市場規模の推移

鉄鋼の市場の大きさを長く追える指標が、粗鋼生産量です。日本鉄鋼連盟の集計で2020年から2025年までの推移を見ると、次のようになります。
2021年に回復したあと、4年続けて前年を下回っています。
※出典:日本鉄鋼連盟の発表(IRuniverse掲載の各年の生産概況記事)。万トン未満は四捨五入。
2025年の8,067万トンは、コロナ禍の2020年を下回り、1968年以来の低い水準です。一方で、この間の業界の売上高は必ずしも減っていません。量と金額の動きが食い違うところに、この業界の特徴があります。
2020年:コロナ禍で大きく落ち込む
2020年は、自動車の生産停止や建設工事の遅れで鋼材の需要が急減し、粗鋼生産は8,319万トンまで落ち込みました。需要の急減を受けて、各社で生産を大きく絞る動きが広がりました。
翌2021年は、需要の戻りを受けて9,634万トンまで回復します。ただし、この回復は長く続かず、翌年から再び減少に転じました。
2022年以降:量は減り、価格は上がる
2022年以降は、半導体不足による自動車の減産や、人手不足・資材高による建設の停滞が続き、生産量は減り続けています。一方で、原料炭や鉄鉱石、エネルギーの価格が高騰し、鋼材の販売価格は大きく上がりました。
業界動向サーチの集計でも、鉄鋼業界の業界規模は2021年から2022年にかけて大きく伸びたとされています。量が減っても、価格の上昇で金額は増えるという動きが、この時期の市場を特徴づけています。
2025年:4年連続の減少
2025年の粗鋼生産を炉の種類別に見ると、高炉系の転炉鋼が5,983万トン(前年比3.4%減)、電炉鋼が2,084万トン(同5.5%減)でした。電炉は建設向けの形鋼や鉄筋が主力のため、建設需要の弱さの影響を受けやすいと言えます。
鋼の種類別では、普通鋼が6,246万トン(同4.3%減)、特殊鋼が1,820万トン(同2.7%減)です。自動車部品などに使う特殊鋼は、普通鋼より減り方が小さいという結果でした。
需要先・製品別の内訳

鉄鋼の需要先は、日本鉄鋼連盟の用途別受注統計で確認できます。2026年4〜6月期の普通鋼鋼材の国内向け受注は857万2,000トンで、前年同期比4.0%増でした。
販売業者向けを除くと、自動車と建築が二大需要先です。
※出典:日本鉄鋼連盟の用途別受注統計(日刊産業新聞の報道による)。主な用途のみ抜粋。
最も大きいのは、流通の在庫として問屋や商社に売られる販売業者向けです。その先も建設や中小の製造業が多く、実需の多くは建設と自動車で占められていると言えます。
同じ期間の前年同期比は、自動車用が5.1%増、建築用が8.0%増と伸びた一方、土木用は6.3%減、電機用は8.9%減でした。どの需要先が伸びるかは、四半期ごとに入れ替わります。
年度で見ると、2025年度の普通鋼鋼材の受注は3,338万トンで、前年度から1%増えました。ただし日刊産業新聞によると、2019年度から2025年度にかけては年平均2.8%のペースで減っており、国内需要は長い目で見ると縮小傾向にあります。
非鉄金属では、アルミニウム調査会が2025年度のアルミ製品総需要を365万6,500トン(前年度比0.3%増)と見込みました。アルミは自動車や建築、缶などの容器、銅は電線や電子部品が主な用途です。
日本アルミニウム協会によると、国内でアルミの地金をつくる製錬は電力コストの上昇を受けて姿を消し、新地金は全量を輸入しています。日本のアルミ産業は、輸入した地金を板や押出材、箔に加工する加工型の産業として成り立っています。

海外市場と輸出

日本の鉄鋼業は、輸出の比重が大きい業界です。日本鉄鋼連盟によると、2025年の全鉄鋼の輸出量は3,039万トンで、前年から4.2%減りました。同じ年の粗鋼生産量8,067万トンと比べると、約4割に相当する量を海外へ出荷している計算です(両者から算出。品目の範囲が異なるため目安)。
アジアの近隣国が輸出の中心です。
※出典:日本鉄鋼連盟「鉄鋼輸出入実績概況(暦年)」。全鉄鋼ベース。
相手国別では、タイが435万トンで最も多く、韓国、中国、台湾が続きます。韓国向けは前年から19.7%、中国向けは12.6%減りました。一方で、普通鋼鋼材の輸入は468万トンあり、その多くを韓国、中国、台湾から受け入れています。
輸出の比重が大きいため、業績はアジアの鋼材市況や為替の影響を強く受けます。国内で需要が減っても、輸出で設備の稼働を保てるかどうかが、製鉄所の採算を左右すると言えます。
世界全体で見ると、世界鉄鋼協会(worldsteel)の集計で2025年の世界の粗鋼生産は18億4,940万トンでした。このうち中国が9億6,080万トンと世界の約5割を占めます。日本は中国、インド、米国に次ぐ4位で、インドは前年から10.4%増と、上位国で唯一の2桁の伸びでした。
企業単位では、worldsteelの2024年の粗鋼生産ランキングで、日本製鉄が4,364万トンで世界4位、JFEスチールを中心とするJFEグループが2,353万トンで14位に入っています。首位の中国宝武鋼鉄集団は1億3,009万トンで、日本最大手の約3倍の規模です(各社の生産量から算出)。
国内の需要が伸びにくい中で、日本の大手は海外で需要を取り込む動きを強めています。日本製鉄は2025年6月に米国のUSスチールの買収を完了しており、輸出だけでなく現地で生産して売る形への移行も進んでいます。
市場を動かす主なトレンド

鉄鋼・非鉄金属の市場は、需要先の景気だけでなく、製法や国際関係の変化にも左右されます。いま特に影響が大きいのは、次の4つです。
数年単位で市場の姿を変えていく流れです。
脱炭素と電炉化
鉄鋼業はCO2の排出が多いため、製法の転換が市場の姿を変えつつあります。たとえばJFEスチールは2022年、倉敷地区の高炉1基を2027年にも休止し、大型電炉を導入する方針を発表しました。
電炉が増えれば、原料は鉄鉱石から鉄スクラップへ移ります。良質なスクラップの確保や、電炉で高級鋼板をつくる技術が、今後の競争力を左右すると言えます。
2025年の電炉鋼は2,084万トンで、粗鋼生産全体の約26%でした(日本鉄鋼連盟の発表から算出)。高炉からの転換が進めば、この比率がどこまで上がるかが、市場の構造を見るうえでの目安になります。
中国の生産と各国の通商措置
中国の生産が国内需要を上回ると、余った鋼材がアジア市場に流れ、価格を押し下げます。日本の輸出先であるアジア各国の市況は、中国の動きに強く影響されます。
各国は自国の鉄鋼業を守るため、輸入鋼材への関税や規制を強めています。韓国やインド、欧州の通商措置が日本の輸出を左右するとの見方も報じられており、輸出の比重が大きい日本にとって見逃せない動きです。
電動化・電子化による非鉄金属の需要
非鉄金属では、電気自動車の電池材料や、軽量化のためのアルミ材、電線や電子部品向けの銅など、脱炭素や電子化に関わる需要が成長のけん引役とされています。
一方で、銅やニッケルなどの価格は国際市況で大きく変わり、業績の振れ幅も大きくなります。需要が伸びる分野と、市況の影響を分けて見ることが大切です。
人手不足と省人化
24時間操業の製鉄所や製錬所では、交替勤務を担う人材の確保が課題になっています。熟練者の退職も進み、技能をどう引き継ぐかが各社の共通テーマです。
そのため、設備の状態をセンサーで監視する予知保全や、操業データを使った自動制御への投資が進んでいます。現場の省人化は、今後の設備投資の大きな柱と言えます。


今後の見通しとキャリアへの影響

日本鉄鋼連盟は2025年12月、2026年度の鉄鋼需要見通しを公表しました。2025年度の粗鋼生産は8,033万トン(前年度比3.2%減)の見込みで、2026年度は前年並みの見通しとしています。
鋼材の国内需要も、建設業・製造業ともに前年並みとされました。土木や造船、機械は微増が見込まれる一方、自動車は米国の関税や中国のEV競争の影響で前年割れの見通しです。中国経済の動向と米国の関税政策が、主なリスクとして挙げられています。
年度の粗鋼生産は、2024年度が8,295万トンでした。2025年度の見込みどおりなら2年度続けて減ったあと、2026年度は下げ止まるという見立てです。量の大きな回復は見込まれておらず、各社は生産量よりも1トンあたりの収益を高める方向にかじを切っています。
量から質へ、伸びる仕事
生産量が大きく伸びにくい中で、各社は高強度鋼板や電磁鋼板など、付加価値の高い製品に力を入れています。需要家と一緒に材料を開発する研究開発や技術サービスの役割は、これからも大きくなると考えられます。
電炉化や水素製鉄などの新しい製法の導入も続きます。設備の立ち上げを担う生産技術やプラント系のエンジニアにとっては、大型の新設案件に関われる時期とも言えます。
非鉄金属では、電池材料や電線、電子材料といった成長分野を持つ会社で、開発や生産技術の役割がいっそう大きくなると考えられます。鉄鋼とは異なる分野の知識、たとえば化学や電気の素養が生きる場面も多いのが特徴です。
求められるスキル
脱炭素への対応では、エネルギーやCO2排出量を数字で管理する力が求められます。市況や為替が業績を大きく左右するため、営業や調達では国際市場を読む力も欠かせません。
現場では、操業データを分析して品質や歩留まりを改善する力の価値が高まっています。金属の知識とデータを扱う力の両方を持つ人材は、どの会社でも求められやすいと言えます。
まとめ
- 2023年の製造品出荷額等は、鉄鋼業が23兆8,346億円、非鉄金属製造業が13兆2,915億円
- 粗鋼生産量は2025年に8,067万トンまで減り、1968年以来の低い水準になった
- 国内の需要先は建設と自動車が中心で、どの用途が伸びるかは時期によって変わる
- 2025年の鉄鋼輸出は3,039万トンで、タイや韓国などアジア向けが中心
- 2026年度は前年並みの見通しで、脱炭素と高付加価値化が働き方を変えていく
業界の基本については鉄鋼・非鉄金属業界とは、企業どうしの関係は鉄鋼・非鉄金属業界の構造、各社の位置づけは鉄鋼・非鉄金属業界の主要企業と勢力図で解説しています。関連する技術として脱炭素・カーボンニュートラルや材料技術もあわせてご覧ください。
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出典
- 製造品出荷額等:経済産業省「2024年経済構造実態調査二次集計結果〈製造業事業所調査〉結果の概要」
- 粗鋼生産量:IRuniverse「2025暦年粗鋼生産量は前暦年比4.0 %減の8,067万823トンとなった」(2021〜2024年は2022暦年・2024暦年の同記事。いずれも日本鉄鋼連盟の発表に基づく)
- 用途別受注:日刊産業新聞「普通鋼鋼材 国内向け受注動向(上)/わずかに増加、車・造船回復」
- 鉄鋼輸出:日本鉄鋼連盟「鉄鋼輸出入実績概況(暦年)」
- 需要見通し:日本鉄鋼連盟「2026年度の鉄鋼需要見通し」(2025年度見込みはIRuniverseの報道による)
- 世界の粗鋼生産:worldsteel「December 2025 crude steel production and 2025 global crude steel production totals」(企業別の2024年順位は、worldsteelの集計を掲載したWikipedia「List of steel producers」で確認)

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