クメン法とは?フェノールとアセトンができる反応式と工場のしくみ

酸化反応器と蒸留塔、配管ラックが並ぶ臨海部のフェノールプラント

クメン法とは、ベンゼンとプロピレンからクメン(イソプロピルベンゼン)をつくり、空気で酸化してクメンヒドロペルオキシドにしたあと酸で分解して、フェノールとアセトンを同時に得る工業的製法です。全体の式は C6H6+C3H6+O2→C6H5OH+CH3COCH3 です。

できたフェノールは、ポリカーボネートやエポキシ樹脂の原料になるビスフェノールA、フェノール樹脂、ナイロンの原料などに使われる基礎化学品です。アセトンが必ず一緒にできることはこの製法の強みであると同時に、アセトンの売れ行きで採算が揺れる弱みにもなっています。

この記事では、クメン法に登場する4つの物質と3段階の反応式、各段階で何が起きているかを順に整理し、フェノールの製法の中でクメン法が選ばれる理由を見ます。続いて、実際のフェノール工場の工程と安全管理、アセトンとの需給バランス、フェノールの用途と国内の生産の動きを取り上げます。

目次

クメン法に登場する4つの物質と構造

クメン法は、ベンゼンからクメンを経由してフェノールをつくる方法で、原料2つと中間体2つが主な登場物質です。ベンゼン環はそのままフェノールの骨格に残り、プロピレンから来た3個の炭素がアセトンになって外れるという見方をすると、反応の全体がつかみやすくなります。

図1:クメン法に登場する4つの物質

ベンゼン環にイソプロピル基が付いたクメンを、O−O結合をもつクメンヒドロペルオキシドに変えてから分解します。

H₂CCHCH₃CH₃CH₃HCH₃O−O−HベンゼンプロピレンクメンCHP原料:C₆H₆原料:C₃H₆中間体:C₉H₁₂中間体:C₉H₁₂O₂●の炭素のH(第三級)が酸化されやすい

※CHPはクメンヒドロペルオキシドの略です。ベンゼン環は略記の六角形と円で表し、環の水素は省いています。

ベンゼン:フェノールの骨格になる環

ベンゼン(C6H6)は、炭素6個が正六角形につながった芳香族炭化水素で、クメン法ではこの環がそのままフェノールの骨格になります。石油化学では、原油の分留で得たナフサを分解・改質した留分から取り出され、国内では2025年に約273万トンが生産されました(石油化学工業協会)。

プロピレン(プロペン):イソプロピル基のもと

プロピレン(CH2=CH−CH3、IUPAC名はプロペン)は、炭素3個で二重結合を1つもつアルケンで、国内では主にナフサを分解するエチレン設備で生まれます。クメン法ではベンゼン環にイソプロピル基(−CH(CH3)2)として付き、最後はアセトンになって環から外れます。

プロピレンの側から見ると二重結合に付く付加反応、ベンゼンの側から見ると環の水素がイソプロピル基に置き換わる置換反応です。同じ反応を両側から見ているだけなので、「付加か置換か」で迷ったら、どちらの分子を主語にしているかを確かめると整理できます。

クメン(イソプロピルベンゼン):主役の中間体

クメンはベンゼン環にイソプロピル基が1つ付いた化合物(C9H12)で、製法の名前にもなっている主役の中間体です。環のすぐ隣の炭素(ベンジル位)が、ほかの炭素3個と結合した第三級の炭素で、水素を1個だけもっていることが、次の酸化で効いてきます。

クメンヒドロペルオキシド:O−O結合をもつ過酸化物

クメンヒドロペルオキシド(CHP)は、クメンのベンジル位の水素と炭素の間に酸素分子1個がそのまま入り込んだ形の化合物で、C6H5−C(CH3)2−O−O−Hと書けます。名前の「ペルオキシド」は過酸化物、「ヒドロ」はO−Oの先に水素が付いていることを表します。

似て見えるが別物:ヒドロペルオキシ基とカルボキシ基
ヒドロペルオキシ基 −C−O−O−H(酸素どうしが単結合でつながる)
カルボキシ基 −C(=O)−O−H(炭素に二重結合の酸素とOHが付く)
どちらも「C・O・O・H」を含みますが、CHPには C=O がなく、酸素どうしの結合(O−O結合)があります。O−O結合は切れやすく、これが分解のしやすさと危険性の両方につながります。

O−O結合は弱く、熱や酸、一部の金属で切れやすいため、CHPは消防法で第5類(自己反応性物質)に分類される有機過酸化物です。この切れやすさがフェノールをつくる反応を進める力であり、同時に工場が最も気を配る危険の源でもあります。

クメン法の流れ(3段階の反応式)

クメン法は、①ベンゼンとプロピレンからクメンをつくる、②クメンを空気で酸化してCHPにする、③CHPを酸で分解してフェノールとアセトンにする、の3段階で進みます。どの段階も熱を出す反応で、3つを足すと原料3つから製品2つができる全体の式になります。

①クメンをつくる(アルキル化)
C6H6 + CH2=CH−CH3 → C6H5−CH(CH3)2
②クメンを酸化してCHPにする
C6H5−CH(CH3)2 + O2 → C6H5−C(CH3)2−O−O−H
③CHPを酸で分解する
C6H5−C(CH3)2−O−O−H → C6H5OH + CH3COCH3
①〜③を足した全体の式
C6H6 + C3H6 + O2 → C6H5OH + CH3COCH3
検算:Cは左6+3=9・右6+3=9、Hは左6+6=12・右6+6=12、Oは左2・右1+1=2で釣り合います。中間体のクメンとCHPは、足し合わせると左右で消えます。

図2:クメン法の3段階

固体の酸触媒でクメンをつくり、空気で酸化し、酸で分解します。分解で出るα-メチルスチレンは水素化してクメンに戻せます。

原料①アルキル化②空気酸化③酸で分解製品ベンゼンプロピレンゼオライトなど→ クメン80〜120℃・空気→ CHP硫酸(触媒)→ 分解フェノールアセトンα-メチルスチレンは水素化してクメンへ

※条件は欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)に示された範囲です。CHPは分解の前に真空で濃縮します(工場の章で説明)。

クメンをつくる:ベンゼンとプロピレンのアルキル化

最初の段階では、酸触媒のはたらきでベンゼン環にイソプロピル基を付け、クメンをつくります。ベンゼン環に炭化水素の基を付ける反応はアルキル化と呼ばれ、クメン1 molができるごとに約99 kJの熱が出る発熱反応です。

ベンゼンのアルキル化(発熱)
C6H6 + C3H6 → C6H5CH(CH3)2 ΔH ≒ −99 kJ
25℃・1 bar、すべて気体、クメン1 molあたり。標準生成エンタルピー ベンゼン +82.9、プロペン +20.41、クメン +3.9 kJ/mol(NIST)から、3.9−82.9−20.41=−99.4 kJ。

反応は、酸の水素イオン(H+)がプロピレンに付いてプラスの炭素(カルボカチオン)ができ、それがベンゼン環と結合する流れで進みます。このとき水素イオンは水素の多い端の炭素に付き、プラスの電荷は真ん中の炭素に残るため、付く基はn-プロピル基ではなくイソプロピル基になります。

手順1:プロピレンに水素イオンが付く(マルコフニコフ則の向き)
CH2=CH−CH3 + H+ → CH3−C+H−CH3
手順2:イソプロピルカチオンがベンゼン環に付き、環の水素が水素イオンとして外れる
C6H6 + (CH3)2CH+ → C6H5−CH(CH3)2 + H+
真ん中の炭素にプラスが残るカチオン(第二級)は、端の炭素にプラスが残るカチオン(第一級)より安定です。水素イオンは最後に戻るので、酸は触媒としてはたらきます。

教科書ではこの酸触媒の例として濃硫酸やリン酸が挙げられますが、工場で使われてきたのは担体に載せた固体リン酸(SPA)や塩化アルミニウムです。

欧州連合の技術資料によると、1980年代後半にゼオライト触媒が導入され、選択性の高さと触媒管理の簡単さから主流になりました。示されている収率は、固体リン酸で95%、塩化アルミニウムで98%、ゼオライトで99%です。

できたクメンにさらにプロピレンが付くと、イソプロピル基を2つもつジイソプロピルベンゼン(DIPB)ができてしまいます。そこで工場はベンゼンを過剰に入れて多置換を抑え、それでもできたDIPBはベンゼンと反応させてクメンに戻すトランスアルキル化を組み合わせています。

クメンを空気で酸化してクメンヒドロペルオキシドにする

2段階目では、液体のクメンに空気を吹き込み、酸素でゆっくり酸化してCHPにします。酸素分子1個がそのままクメンのC−H結合の間に入る形の反応で、これも発熱です。

クメンの空気酸化(発熱)
C6H5CH(CH3)2 + O2 → C6H5C(CH3)2OOH ΔH ≒ −83 kJ
25℃・1 bar、気体、CHP 1 molあたり。CHPの標準生成エンタルピー −78.7±6.7 kJ/mol(NIST)から、−78.7−3.9=−82.6 kJ。CHPの値には±7 kJほどの幅があります。

この酸化は、不対電子をもつラジカルが次々に受け渡される連鎖反応です。ベンジル位の第三級C−H結合は、水素が抜けたあとのラジカルがベンゼン環と第三級の炭素で安定になるため切れやすく、酸化はほぼこの位置だけで進みます。

ラジカル連鎖のしくみ(R=C6H5C(CH3)2−)
開始:R−H → R・(ベンジル位の水素が抜ける)
成長1:R・ + O2 → R−O−O・
成長2:R−O−O・ + R−H → R−O−O−H + R・
成長2で新しいR・ができるので、反応は鎖のようにつながって進みます。CHP自身が少しずつ分解してラジカルを出すため、反応は自分で加速する性質(自己触媒的)をもちます。

工業条件は80〜120℃、大気圧から約700 kPa、滞留時間4〜20時間です(欧州連合の技術資料)。主な副生物は、酸化の途中でできるジメチルベンジルアルコール(DMBA)とアセトフェノンで、温度を低く抑え、CHPの濃度を高くしすぎない運転がクメンの損失を減らすとされています。

そのため酸化はCHPが17〜30%ほどになったところで止め、残りの未反応クメンは次の濃縮で回収して酸化に戻します。一度に全部をCHPにしないのは、副生物を減らすためと、分解しやすい過酸化物を高い濃度・高い温度で長く置かないためです。

クメンヒドロペルオキシドを酸で分解する

最後の段階では、濃縮したCHPを、酸を触媒にして分解し、フェノールとアセトンにします。酸化に何時間もかかるのに対し、この分解は速く、しかも大きな熱を出す反応です。

CHPの酸分解(発熱)
C6H5C(CH3)2OOH → C6H5OH + CH3COCH3 ΔH ≒ −235 kJ
25℃・1 bar、気体、フェノール1 molあたり。標準生成エンタルピー フェノール −96.4、アセトン −217.1、CHP −78.7 kJ/mol(NIST)から、−96.4−217.1−(−78.7)=−234.8 kJ。3段階のうち最も大きな発熱です。

分解の途中では、フェニル基(ベンゼン環)が炭素から酸素へ移る転位が起きます。この酸で進む転位はホック転位と呼ばれ、ベンゼン環とイソプロピル基の炭素の間に酸素が割り込み、そこで切れることで、環の側がフェノール、残りがアセトンになります。

手順1:末端の酸素に水素イオンが付く
C6H5C(CH3)2−O−OH + H+ → C6H5C(CH3)2−O−OH2+
手順2:フェニル基が酸素へ移り、水が抜ける
→ (CH3)2C+−O−C6H5 + H2O
手順3:水が付き、水素イオンが外れる
→ (CH3)2C(OH)−O−C6H5 + H+
手順4:酸素と炭素の結合が切れる
→ C6H5OH + CH3COCH3
水素イオンは手順1で使われ手順3で戻るので、酸はごく少量で足ります。手順2で抜けた水は手順3で戻るため、全体の式には水が出てきません。

工場では、酸として通常は硫酸を使い、2段に分けて分解するのが一般的です。酸化で副生したDMBAはこの段階で水が抜けてα-メチルスチレン(AMS)になり、AMSは製品として売るか、水素を付けてクメンに戻して原料として使い直します。

計算例:フェノール1トンと一緒にできるアセトンは何kgか

全体の式から、フェノール1 molにつきアセトンが必ず1 molできることが分かります。分子量をフェノール94.11、アセトン58.08、クメン120.19として、フェノール1トンあたりの理論量を求めると次のようになります。

併産するアセトン(理論量)
1,000 kg × 58.0894.11 = 約617 kg
必要なクメン(理論量)
1,000 kg × 120.1994.11 = 約1,277 kg
理論量は反応がすべて式どおりに進んだ場合の値です。欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)は、実際のクメンの消費をフェノール1トンあたり1.31〜1.38トンとしています(資料では、アセトン・フェノール・AMSの生産に対して消費を見るという前置き付き)。

理論の1.28トンと実際の1.31〜1.38トンの差は、DMBA・アセトフェノン・重い副生物(タール)になった分です。酸化と分解の選択性を1%上げることが、そのまま原料費の削減になるため、工場は酸化の温度やCHPの濃度、分解の段数を細かく管理しています。

フェノールの製法でなぜクメン法が使われるのか?

欧州連合の技術資料は、フェノールの7つの製法のうち世界で最も広く使われ、欧州で主流なのはクメンの酸化だとしています。国内でも、三井化学が停止を決めた市原工場のフェノールプラントの対象製品はフェノール・アセトン・α-メチルスチレンで、クメン法の併産品の組み合わせと一致します。

クメン法が選ばれる理由の1つ目は、副生物のアセトンが溶剤やビスフェノールA、MMAの原料として売れる製品であることです。2つ目は、原料が石油化学の基礎品であるベンゼン・プロピレン・空気で、融かした水酸化ナトリウムのような過酷な条件を使わず、大量の塩や廃アルカリも出さないことです。

製法主な原料反応の流れフェノール以外にできるものいまの位置づけ
クメン法ベンゼン・プロピレン・空気アルキル化→空気酸化→酸で分解アセトン(ほかにAMS・アセトフェノン)世界で最も広く使われる
アルカリ融解法ベンゼン・硫酸・水酸化ナトリウムスルホン化→水酸化ナトリウムで融解→酸で遊離亜硫酸ナトリウムなどの塩欧州では使われていない
クロロベンゼン法ベンゼン・塩素・水酸化ナトリウム塩素化→加水分解塩化ナトリウム欧州では使われていない
トルエン酸化法トルエン・空気安息香酸を経て酸化・分解アセトンはできない欧州生産の5%未満で、商業的な製法ではなくなった
ベンゼンの直接酸化ベンゼン・酸素や過酸化水素・N2O1段で酸化アセトンはできないまだ商業化されていない
出典:欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)8.2.1をもとに作成。反応の流れは代表的な説明

別の理由:アルカリ融解法などとの比較

アルカリ融解法は、ベンゼンを硫酸でスルホン化し、そのナトリウム塩を融かした水酸化ナトリウムと反応させ、酸でフェノールを取り出す方法です。フェノール1 molをつくるのに水酸化ナトリウムを2 mol使い、亜硫酸ナトリウムが同じだけ出るため、薬品代と塩の後処理が重くなります。

アルカリ融解法の流れ(代表的な式)
C6H6 + H2SO4 → C6H5SO3H + H2O
C6H5SO3Na + 2NaOH → C6H5ONa + Na2SO3 + H2O
C6H5ONa + HCl → C6H5OH + NaCl
ベンゼンスルホン酸は水酸化ナトリウムなどで中和してナトリウム塩にしてから融解します。最後の酸は塩酸のほか、二酸化炭素を使う説明もあります。

クロロベンゼンを水酸化ナトリウムで加水分解する方法も、塩素と水酸化ナトリウムを使って塩化ナトリウムを出すので、同じく塩の処理が付いて回ります。これに対してクメン法は、酸素を空気から取り、酸は触媒として少量使うだけなので、副生物の大部分がアセトンという売れる製品になる点で有利です。

一方、トルエンを酸化する方法やベンゼンを直接酸化する方法は、アセトンを出さない製法として研究・実用化が試みられてきました。欧州連合の技術資料は、アセトンの価格変動を避けられる製法は事業上望ましいとしながらも、どれも広く使われるには至っていないとしています。

実際のフェノール工場では:濃縮・分解熱・分離回収・安全

酸化反応器の下部で配管の弁と圧力計を点検する作業者

教科書の3つの式の間には、実際の工場では濃縮・中和・蒸留・回収の工程が挟まります。ここでは欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)をもとに、式だけでは見えない運転上の要点を工程順に見ていきます。

ゼオライト触媒でクメンをつくる

クメンの製造ではゼオライト触媒が主流で、固定床に詰めて気相で反応させる方式と、液相で反応させる方式があります。反応の発熱は回収して後ろの蒸留の熱源に使われ、原料のベンゼンとプロピレンは反応の前に蒸留で水を除いておきます。

固体リン酸の触媒は、反応後の工程にあるフィルターの保守が頻繁で、ベンゼンがある場所での作業が多いことも課題でした。ゼオライトへの切り替えは、収率だけでなく、こうした保守作業の負担を減らす意味もありました。

酸化塔からCHPの真空濃縮へ

酸化には、塔の下から空気を泡にして吹き込む気泡塔型の反応器を2〜6基以上使い、液は直列に、空気は並列に流します。反応熱は塔の内外の熱交換器で除いて温度を保ち、塔頂から出る排ガスは安全のために酸素濃度が低いことを監視したうえで、凝縮・活性炭吸着・燃焼で処理します。

以前は炭酸ナトリウムの水溶液を加えて有機酸を除く湿式の酸化が使われていましたが、いまはアルカリを加えない乾式の酸化のほうが効率が良いとされています。

酸化を出た液はCHPが17〜30%で、残りの大半は未反応のクメンです。

これを薄膜蒸発器やフラッシュ塔で真空にして沸点を下げ、低い温度のままクメンを飛ばして、CHPを65〜85%まで濃縮します。真空にする第一の理由はCHPの分解を防ぐという安全上の要請で、設備は外圧に耐える真空容器として設計します。

図3:フェノール工場の流れ

反応の3段階の間に、濃縮・中和・蒸留・回収の工程が入ります。過酸化物を扱う酸化と濃縮では温度の管理が要です。

クメンをつくる
01原料の乾燥ベンゼンとプロピレンから水を蒸留で除いてから反応させる
02アルキル化ゼオライトの固定床でクメンに。ベンゼンは過剰に入れる
03トランスアルキル化副生したジイソプロピルベンゼンをベンゼンと反応させてクメンに戻す
CHPをつくる
04空気酸化気泡塔を2〜6基以上。80〜120℃、4〜20時間でCHP 17〜30%に
05真空濃縮低い温度でクメンを飛ばし、CHPを65〜85%に。クメンは酸化へ戻す
06酸分解硫酸で2段に分けて分解。速く大きな発熱を除きながら進める
分けて仕上げる
07中和酸を中和して、後ろの蒸留での副反応と腐食を防ぐ
08蒸留アセトン・クメン・AMS・フェノールに分け、重い残りはタールとして燃料に
09AMSの水素化α-メチルスチレンに水素を付けてクメンに戻す(パラジウム系触媒)

※欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)2.1.1.5・8.2.2をもとに要点をまとめたものです。工程の分け方や段数は工場によって異なります。

分解・中和・蒸留とAMSの回収

分解には、CHPと約40%の希硫酸を1対4ほどで混ぜて水相を循環させる二相式と、ごく少量の酸を加える均一式があります。分解は速く熱も大きいので2段に分けて進め、欧州連合の技術資料は、2段の設計が原料の消費を大きく減らし、熱量計で分解を制御すると中程度に減らせると整理しています。

分解液に残った酸は、フェノールのナトリウム塩やイオン交換樹脂で中和します。そのあと何本もの蒸留塔でアセトン・未反応クメン・AMS・フェノールを順に分け、高い沸点の残り(タール)はフェノール1トンあたり20〜200 kgほど出て、炉の燃料などに使われます。

蒸留には多くの熱を使い、資料に載った例ではフェノール1トンあたり蒸気1.9トン(18 bar)と0.4〜0.9トン(5 bar)、電力190 kWhです。排水からは、酸化工程の過酸化物を分解し、フェノールを溶剤で抽出して回収してから、最終の排水処理に送ります。

クメンヒドロペルオキシドの暴走を防ぐ

厚生労働省のモデルSDSはCHPを有機過酸化物タイプEとし、約150℃に加熱すると爆発することがあり、コバルトや銅・鉛の合金、無機酸に触れると激しく分解することがあるとしています。分解に使う酸そのものが危険源にもなるので、酸を加える場所と量、温度を工程の中で厳しく決めておきます。

有機過酸化物は、分解で出た熱がさらに分解を速める「暴走」を起こしやすい物質です。過酸化物を扱う工程は、温度管理を誤ると暴走反応の危険があります。

そこで工場では、酸化塔の冷却能力と攪拌、温度計の数と位置、緊急停止時に何を止め何を動かし続けるかを、反応の熱の出方(エンタルピーの変化)と合わせて設計します。

異常な昇温や圧力上昇に備えて、インターロックや安全弁のような保護装置も組み合わせます。止めたあとも冷却と攪拌が続くようにしておくことが、過酸化物を扱う設備の基本です。

アセトンの併産と需給バランス

クメン法では、フェノールとアセトンができる割合が反応式で決まっており、運転の工夫では変えられません。フェノール1トンをつくるとアセトンが約0.62トンできるので、フェノールの需要に合わせて生産するとアセトンの量も自動的に決まり、その売れ行きが採算を左右します。

図4:フェノール1トンあたりの原料と併産品(理論量)

原料1.62トンが、フェノール1トンとアセトン0.62トンになります。アセトンの量はフェノールの量で決まります。

使う原料できる製品ベンゼン 0.83 tプロピレン 0.45 t酸素 0.34 tフェノール 1.00 tアセトン 0.62 t合計 1.62 t(クメンを経由)合計 1.62 t(質量は保存される)

※分子量(ベンゼン78.11、プロピレン42.08、酸素32.00、フェノール94.11、アセトン58.08)から求めた理論量です。実際は副生物の分だけ原料が多く要ります。

フェノールの大きな使い道であるビスフェノールA(BPA)は、フェノール2分子とアセトン1分子からできるので、アセトンも一緒に使います。ただしその割合は、クメン法でできる割合のちょうど半分ほどです。

ビスフェノールAをつくる縮合反応
2C6H5OH + CH3COCH3 → C15H16O2 + H2O
計算例:フェノール1トンをすべてBPAにした場合に使うアセトン
1,000 kg × 58.082 × 94.11 = 約309 kg
クメン法でできる617 kg − 309 kg = 約308 kg が余る
フェノールの用途がすべてBPAだったと仮定した計算です。実際にはフェノール樹脂など、アセトンを使わない用途もあるため、余るアセトンはこれより多くなります。

欧州連合の技術資料も、クメン法の経済性は副生アセトンの価格に強く左右され、その価格は大きく変動すると書いています。フェノールが売れてもアセトンの値が崩れれば利益は薄くなり、逆にアセトンが足りない時期にはフェノールの生産が引っ張られるという、2つの製品の市況がつながった事業です。

そこでメーカーは、アセトンの出口を自社のチェーンの中につくってきました。三井化学は2011年、大阪工場のプロピレン法イソプロピルアルコール(IPA)の設備を止め、フェノール・チェーンのアセトンを原料にする年6万トンのアセトン法IPA設備の新設を発表しました。

アセトンはほかに、アクリル樹脂の原料になるMMAや、溶剤のメチルイソブチルケトン(MIBK)にも使われます。国内のフェノール・アセトンの生産の流れは、エチレン設備の集約でプロピレンの供給がどう変わるかとも切り離せません。

フェノールの用途と国内の生産

ビスフェノールA・フェノール樹脂・ナイロン原料

フェノールの用途について欧州連合の技術資料は、フェノール樹脂、アニリン、カプロラクタム、エポキシ樹脂とポリカーボネートの原料になるビスフェノールAなどを挙げています。最終製品は、接着剤、積層板、塗料の原料、可塑剤、農薬、ゴム薬品まで広がります。

図5:フェノールの行き先

フェノールは樹脂・繊維の原料として、電機・自動車・建材から日用品までつながっています。

ビスフェノールAアセトンと縮合。ポリカーボネートとエポキシ樹脂の原料
フェノール樹脂ホルムアルデヒドと反応させる熱硬化性樹脂。積層板・成形材料・接着剤
ナイロン原料水素化してシクロヘキサノンに。カプロラクタムを経てナイロン6へ
そのほかアニリン、可塑剤、農薬、ゴム薬品、医薬品の原料

※欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)8.1・2.1.2の記述をまとめたものです。

ビスフェノールAから重合するポリカーボネートは、透明で衝撃に強いエンジニアリングプラスチックの代表で、電機・自動車の部品に使われます。同じくビスフェノールAを原料とするエポキシ樹脂は、塗料や接着剤、半導体の封止材、CFRPの成形に使う樹脂として広く使われています。

フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドを反応させた熱で固まる樹脂で、1907年に米国で特許が出願されたベークライトに始まる、歴史の長い合成樹脂です。社名をこの樹脂の商品名に由来する住友ベークライトのように、フェノール樹脂を出発点に事業を広げてきた化学メーカーもあります。

フェノールを水素化したシクロヘキサノンは、ナイロン6の原料のカプロラクタムや、ナイロン6,6の原料のアジピン酸につながります。新しい設備ではシクロヘキサノンをフェノールの水素化でつくるとされ、その先で使う硝酸はオストワルト法でつくられます。

国内の生産と主なプラント

石油化学工業協会の統計によると、国内のフェノール生産は2021年の約61.8万トンから2025年には約32.8万トンへと、4年でほぼ半分になりました。ビスフェノールAも2021年の約44.7万トンから2024年の約14.0万トンへ減りました(2025年は秘匿)。

図6:国内のフェノール生産量の推移

2021年から2025年の4年で、国内のフェノール生産はほぼ半分になりました。

61.855.645.138.632.82021年2022年2023年2024年2025年単位:万トン

※出典:石油化学工業協会「石油化学製品の生産」(経済産業省 生産動態統計)。2021年 617,697 t、2022年 555,771 t、2023年 450,622 t、2024年 386,224 t、2025年 327,716 t。

三井化学と三菱ケミカルが2025年1月に出した共同発表は、その背景を、2022年以降に中国を中心としたアジアで新しい設備が動き出したことによる大幅な供給過多と、国内需要の縮小と説明しています。両社が挙げる主なプラントは次のとおりです。

会社拠点フェノールの年産能力発表された動き
三井化学大阪工場(大阪府高石市)20万トン今後の国内供給の軸にする
三井化学市原工場(千葉県市原市)19万トン2026年度までに停止すると2024年4月に発表
三菱ケミカル茨城事業所(茨城県神栖市)28万トンビスフェノールAなどの誘導品も展開
出典:三井化学・三菱ケミカル 共同発表(2025年1月17日)、三井化学 発表(2024年4月4日)。能力は発表時点の値で、実際の生産量とは異なります。市原工場の停止が完了したことを伝える発表は、2026年10月時点では確認できていません

三井化学の市原工場は1970年にフェノールの生産を始めた拠点で、同社は中国・上海でも生産しています。

三菱ケミカルも2024年3月に九州事業所のビスフェノールA設備(年12万トン)を止めました。国内のフェノール・チェーンは、上流のフェノールから下流のビスフェノールAまで同時に縮小と再編が進んでいる状況です。

両社の共同検討には、定修(定期修理)やトラブルで一方が止まったときの製品の融通、タンクの運用、物流の合理化が含まれます。フェノール関連製品は経済安全保障の面でも重要とされ、1社では支えきれない供給を業界で守る動きとして、化学メーカーの再編の流れの中に位置づけられます。

クメン法のよくある質問

フェノールとアセトンの割合は運転で変えられますか?

変えられません。クメンヒドロペルオキシド1分子がフェノール1分子とアセトン1分子に分かれるので、重さでフェノール1トンにつきアセトン約0.62トンの割合が反応式で決まっています。割合を変えたいときは、アセトンをIPAやMMAなど別の製品に変える設備を後ろに持つことで対応します。

アセトンを出さずにフェノールをつくる方法はありますか?

トルエンを安息香酸経由で酸化する方法や、ベンゼンを酸素・過酸化水素・N2Oで直接酸化する方法があります。ただし欧州連合の技術資料(2017年)では、トルエン法は欧州生産の5%未満で商業的な製法ではなくなり、直接酸化はまだ商業化されていないとされています。

クメンはフェノール以外にも使われますか?

クメンの主な用途は、クメンヒドロペルオキシドを経たフェノールとアセトンの製造です。欧州連合の技術資料には、日本の化学会社がクメンヒドロペルオキシドを酸化剤に使ってプロピレンオキサイドだけをつくる方法を開発し、副生するクミルアルコールを水素化してクメンに戻すと紹介されています。

クメン法で硫酸はどのくらい使いますか?

硫酸は分解を進める触媒なので、反応液の中に必要な濃さはごく低いとされています。二相式では希硫酸を循環させて使い回し、分解のあとは中和して硫酸ナトリウムなどの塩として排水側で処理します。硫酸そのものの工業的な製法は接触法です。

まとめ

この記事のまとめ
  • クメン法は、ベンゼンとプロピレンからクメンをつくり、空気で酸化したクメンヒドロペルオキシドを酸で分解して、フェノールとアセトンを同時に得る製法
  • 全体の式はC6H6+C3H6+O2→C6H5OH+CH3COCH3で、3段階とも発熱、最後の分解が最も速く熱も大きい
  • クメンのベンジル位のC−H結合が酸化されやすく、分解ではフェニル基が酸素へ移る転位でフェノールとアセトンに分かれる
  • 工場はゼオライト触媒でクメンをつくり、CHPを真空で濃縮してから硫酸で分解し、過酸化物の暴走を防ぐ温度管理が要になる
  • フェノール1トンでアセトン約0.62トンが必ずでき、その売れ行きと国内外の需給が採算と再編を左右している

クメン法は、ベンジル位の反応性や転位という有機化学の基本が、副生物の扱い、過酸化物の安全管理、2つの製品をまとめて売る事業の組み立てにまで表れている製法です。

フェノールからビスフェノールA、樹脂、部品へと続く流れは化学業界のサプライチェーンと、使い終えた樹脂を原料に戻す動きはケミカルリサイクルの解説とあわせて読むと、つながりがつかみやすくなります。

出典

出典・参考資料(8件)を開く出典・参考資料を閉じる

NEWSLETTER

生産技術・化学・樹脂・ゴムの記事を、週1回まとめてメールで受け取る

週刊MONOSCOPEは、登録時に選んだ職種・業種に合わせた記事を週1回お届けする無料のメルマガです。

実際に届くメールの例を見る

件名:今週のあなた向け記事|週刊MONOSCOPE 10/9号
登録内容:品質保証・品質管理 × 食品・医薬・日用品

週刊MONOSCOPEの見本(品質保証・品質管理 × 食品・医薬・日用品)

職種3本・業種3本・製造業で働くすべての方へ2本・今週よく読まれた記事3本が届きます。記事は毎週入れ替わります。ほかの見本を見る

生産技術を選んだ状態で登録へ ›

無料・週1回。登録後に届く確認メールのリンクを押すと登録が完了します。配信はメール内のリンクからいつでも停止できます。

WEEKLY NEWS

今週の製造業ニュース10選

メルマガは職種・業種に合わせた記事。LINEとnoteでは、全員共通の10本を毎週土曜の朝にお届けします。

LINEでニュース10選を受け取るnote今週のニュース10選をnoteで読む ›
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

MONOSCOPEの運営者

プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

▶ お仕事のご依頼はこちら

目次