「産業用ロボットの用途」と聞くと、多くの方は自動車の車体を溶接する大きなロボットを思い浮かべるのではないでしょうか。
実際には、段ボールを積み上げる、工作機械に材料をセットする、食品を1つずつつまんで並べるなど、産業用ロボットはさまざまな業界の多様な工程で使われています。近年は中小企業の現場でも、人手不足への対策として導入が進んでいます。
この記事では、産業用ロボットの主な用途、業界別の活用方法、公的機関の事例集に掲載された導入事例、導入の進め方、ロボットに関わる仕事と求められるスキルという順で整理します。
産業用ロボットの主な用途

産業用ロボットの用途は、手先に何を付けて、何をさせるかによって大きく6つに分けられます。同じロボット本体でも、ハンドや工具を替えることで、まったく違う仕事をこなせるのが特徴です。
手先の道具を替えることで、さまざまな作業に使われています。
溶接・塗装
溶接と塗装は、産業用ロボットがもっとも早くから使われてきた用途です。自動車の車体を点で接合するスポット溶接や、金属部品を線でつなぐアーク溶接では、ロボットが決まった軌道と条件で動くことでビードの形や強度をそろえやすくなります。
塗装も、塗料のミストや有機溶剤の中で人が長時間作業するのは負担が大きい工程です。ロボットに任せることで、塗膜の厚みを均一にしつつ、作業者の健康リスクも下げられます。
搬送・パレタイジング
重い製品や段ボール箱を運び、パレットの上に決まったパターンで積み上げるのがパレタイジングです。反対に、積まれた荷を1つずつ降ろす作業はデパレタイジングと呼ばれます。
同じ動作の繰り返しで、腰への負担も大きい作業のため、人手不足の現場で最初に自動化されやすい工程の一つです。物流倉庫や食品工場の出荷場など、製造ライン以外にも活躍の場が広がっています。
組立・ねじ締め
電子機器や精密部品の組立では、小さな部品を決まった位置へ正確に差し込む作業が繰り返されます。水平多関節(スカラ)ロボットが得意とする分野で、ねじ締めや部品の圧入などにも使われます。
近年は、手首の力センサーで押し付ける力を感じ取りながら部品をはめ込むなど、人の指先に近い繊細な作業にも対応できるようになってきました。
工作機械へのワーク着脱
旋盤やマシニングセンタなどの工作機械に、加工前の材料をセットし、加工後の部品を取り出す作業をロボットに任せる使い方です。マシンテンディングとも呼ばれます。
加工中は人が機械の前で待つ時間が多いため、ロボット化による効果が出やすいのが特徴です。夜間もロボットに材料を入れ替えさせれば、人がいない時間も機械を動かし続けられます。
検査・ピッキング
カメラと組み合わせたロボットは、製品の外観を確かめて良品と不良品を分けたり、コンベアを流れる食品や部品を1つずつつまんで箱に並べたりできます。
この分野では、画像認識の精度がロボットの性能を大きく左右します。AIによる画像判定と組み合わせることで、形や向きがばらばらな物にも対応できる場面が増えています。

業界別の活用方法

産業用ロボットの使われ方は、業界によって大きく異なります。IFRによると、2024年に日本で設置されたロボットは、電気・電子産業が約1万4,000台、自動車産業が約1万3,000台で、この2つの業界が大きな割合を占めています。
業界ごとに、ロボットに任せる作業と求められる条件が変わります。
※同じ業界でも、会社の規模や生産する製品によって使い方は大きく変わります。
自動車
自動車業界は、産業用ロボットの普及をけん引してきた業界です。車体のスポット溶接や塗装の工程には多数のロボットが並び、IFRは2024年の自動車産業での国内設置台数が5年ぶりの高水準になったと伝えています。
電動化によって、電池やモーターなど新しい部品の生産ラインでもロボットの活用が進んでいます。車種の切り替えにプログラムの変更で対応できる点が、多くの車種を同じラインで流す自動車工場と相性のよい理由です。
電機・半導体
エレクトロニクス・半導体業界では、電子部品の組立や基板の搬送など、小さく軽い物を速く正確に扱う用途が中心です。スカラロボットや小型の垂直多関節ロボットが多く使われます。
半導体の製造工程では、ウエハを真空やクリーンルームの中で運ぶ専用の搬送ロボットも欠かせません。人が入ると異物の原因になるため、人を工程から遠ざけること自体が品質対策になっています。
食品・医薬品
食品・医薬品業界では、形や大きさが不ぞろいな食材の扱いや、衛生面への配慮が課題になります。水で洗える構造のロボットや、食材をやさしくつかむ柔らかいハンドなどが開発されてきました。
箱詰めやパレタイジングなど包装・出荷の工程から導入が進み、近年はカメラで一つひとつの位置を読み取って盛り付けるなど、これまで人手に頼ってきた工程にも広がっています。
金属加工・機械
金型・プレス・機械加工業界や機械業界では、工作機械へのワーク着脱や溶接、バリ取りなどでロボットが使われます。多品種少量生産の会社が多く、段取り替えのしやすさが重視されます。
中小の加工会社では、人のそばに置ける協働ロボットを使い、日中は人と分担し、夜間は無人で加工を続けるといった使い方も見られます。
導入事例

ここでは、経済産業省や地方経済産業局が公開している事例集から、産業用ロボットを導入した中小製造業の事例を紹介します。企業名と数値は、各事例集に掲載された内容にもとづいています。
課題は違っても、人手不足と技能継承への対応が共通しています。
※東北経済産業局「中小製造業における省力化事例集」(2025年6月)、経済産業省「平成28年度ロボット導入実証事業 採択事例紹介」より作成。
及源鋳造:協働ロボットで琺瑯引きを自動化
南部鉄器を製造する及源鋳造(岩手県)では、中心となっていた作業員が高齢を理由に退職し、輸出が好調な中で納期に間に合わなくなるおそれがありました。そこで、琺瑯引きの工程に協働ロボットを、鉄鍋のバリ取りにロボットを導入しています。
東北経済産業局の事例集によると、生産量は約30%増え、労働生産性は2.64倍に改善しました。熟練者の技能をロボットに置き換え、技能継承の課題にも対応した例と言えます。
スズミ:協働ロボットで溶接を自動化
精密板金加工を手がけるスズミ(福島県)は、地域の労働力不足への対策として工場の自動化を進めました。ブランク加工やバリ取り、曲げ加工の自動化に加え、溶接工程に協働ロボットを導入しています。
その結果、生産量が10%増えても同じ人員数で対応でき、不良品の数も減ったと報告されています。人を増やさずに増産に対応できた点が、この事例のポイントです。
ヤマト特殊鋼:ロボットによる自動機械加工
特殊鋼の流通・加工を行うヤマト特殊鋼(山形県)は、人手をかけずに24時間稼働できる工場を目指し、産業用ロボットや協働ロボットを使った自動機械加工のラインを整えました。
事例集では、社員数約50名の山形第二工場に対し、山形第三工場は約10名の体制を実現したと紹介されています。工場の立ち上げ段階から自動化を前提に設計した例として参考になります。
山神:画像認識とロボットでホタテ加工を自動化
ホタテの加工を行う山神(青森県)では、作業者の高齢化で熟練作業員が減り、品質の維持と生産量の確保が難しくなっていました。経済産業省のロボット導入実証事業(2016年度)で、ホタテのウロを取り除く工程の自動化に取り組んでいます。
コンベア上のホタテをカメラで撮影して位置を認識し、ロボットが熟練者に近い動きでウロを除去する仕組みです。事例集では、1人で対応する生産量が1日1,200個から6,000個へと、労働生産性が5倍に向上したとされています。
導入の進め方

産業用ロボットの導入は、ロボットを買って置けば終わりではありません。一般的には、検討、設計、立ち上げの3つの段階で次のように進みます。
検討、設計、立ち上げの3つの段階に分かれます。
※補助金を活用する場合は、申請や採択の時期も計画に織り込む必要があります。
全体としては、最初の検討段階にどれだけ時間をかけられるかが成否を分けます。段階ごとのポイントを見ていきます。
検討:どの工程を自動化するかを決める
最初に、人手不足や品質のばらつきなど、現場の困りごとを具体的に書き出します。そのうえで、繰り返しが多い、重い、危険といった条件を持つ工程から、ロボットに任せる候補を選びます。
ここで大切なのは、「何台入れるか」ではなく「何を解決したいか」から考えることです。目標とする省人化の人数や生産量を決め、投資を何年で回収できるかも試算しておきます。
設計:テストで実現できる範囲を確かめる
自社だけで判断せず、ロボットメーカーやシステムインテグレーター(SIer)に早めに相談するのが近道です。実際のワークを使ったテストや、パソコン上のシミュレーションで、つかめるか、時間内に終わるかを確かめます。
その結果をもとに、ハンドや周辺機器、安全柵やセンサーなどの安全対策を含めたシステム全体を設計します。協働ロボットとして柵なしで使う場合も、リスクアセスメントは欠かせません。
立ち上げ:人を育てながら改善を続ける
設備が据え付けられたら、動作を教え込み、試運転で品質とサイクルタイムを確認します。あわせて、教示や点検を担当する人は労働安全衛生規則にもとづく特別教育を受けておく必要があります。
本稼働後も、止まった原因や段取り替えの手間などを記録し、少しずつ改善していきます。1台目で得た経験を社内にためることが、2台目以降の導入を早める力になります。


産業用ロボットに関わる仕事と求められるスキル

産業用ロボットは、つくる、組み込む、使いこなす、支えるといった多くの仕事によって現場で動いています。代表的な職種と、求められるスキルを紹介します。
同じロボットでも、立場によって求められる知識が変わります。
生産技術
工場でロボットの導入を主導するのが生産技術です。どの工程を自動化するかを決め、設備の仕様を固め、立ち上げまでをまとめます。
ロボット単体の知識だけでなく、工程全体を見渡してタクトタイムや投資対効果を考えられる力が求められます。
電気設計・ソフトウェア
ロボットを含む設備の制御盤や配線を設計するのが電気・電子設計、ロボットやPLCのプログラム、画像処理などを担うのがソフトウェア・組込みの技術者です。
ロボットメーカーやSIerでは、こうした技術者が中心となって設備をつくり上げます。ティーチングやPLCのプログラミング、カメラの設定といったスキルが実務で役立ちます。
設備保全・技術営業
導入後のロボットを止めずに動かし続けるのが設備保全の役割です。定期点検や減速機・ケーブルなどの交換、故障時の復旧を担い、ロボットの特別教育を受けて作業にあたります。
また、ロボットメーカーやSIerの技術営業・FAEは、顧客の課題を聞き取り、どのロボットをどう使えば解決できるかを提案します。技術と現場の両方を理解していることが強みになります。
まとめ
- 主な用途は溶接・塗装、搬送・パレタイジング、組立、ワーク着脱、検査・ピッキングなど
- 自動車と電機・電子で多く使われ、食品や金属加工の中小企業にも広がっている
- 公的な事例集では、生産性の向上や増産への対応、技能継承などの効果が報告されている
- 導入は検討・設計・立ち上げの順に進め、目的の明確化とテストでの検証が成否を分ける
- 生産技術、電気設計、ソフトウェア、設備保全、技術営業など多くの職種が関わる
産業用ロボットの仕組みや種類は産業用ロボットとは?仕組みと基本原理で、注目される理由や従来の自動化との違いは産業用ロボットが注目される背景と従来技術との違いで解説しています。ロボットの目となるAI・画像検査や、ロボットメーカーが多く属するFA業界の記事もあわせて参考にしてください。
産業用ロボットの最新動向については、産業用ロボットの技術ページから関連記事もあわせてご覧ください。
出典
- 導入事例(及源鋳造・スズミ・ヤマト特殊鋼):東北経済産業局「中小製造業における省力化事例集 ~FA・ロボット等の導入による生産性向上~」(2025年6月)
- 導入事例(山神):経済産業省・日本ロボット工業会「平成28年度ロボット導入実証事業 採択事例紹介」
- 日本の世界生産シェア・自動車産業の設置台数:International Federation of Robotics「Japan’s Car Industry has Highest Robot Installations in Five Years」(2025年7月)
- 特別教育:一般社団法人日本ロボット工業会「ロボットの特別教育」

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