2026年11月2日、米半導体大手マーベル・テクノロジーが、光通信用レーザー大手のルメンタムを企業価値約1,150億ドル(日本の報道で約18兆円)で買収すると発表しました。全額を株式で払う案件で、日経クロステックは狙いを「光電融合の中核部品である光源の確保」と報じています。
光電融合のうち、データセンターで実用化が進むのがCPO(Co-Packaged Optics、光部品を半導体と同じパッケージに載せる技術)です。電気を光に変える場所をチップの隣に寄せて配線で失う電力を減らす技術で、その光を生むレーザーが世界的に足りていません。
光電融合(CPO)とは|光の変換をチップの隣に置く技術

CPOは、スイッチやAI半導体のチップと同じパッケージの上に「光エンジン」と呼ぶ電気と光の変換部品を載せ、チップから光までの電気配線を数cm以内に縮める実装の方式です。機器どうしは光ファイバーでつながる一方、チップの計算は電気の信号で行うため、どこかで電気と光を変換します。
これまでの主流は、機器の前面に差し込む「プラガブル光トランシーバー」で変換する方式でした。チップから前面の差し込み口まで基板の上を電気で長く走らせるため、信号が弱まらないよう補正する回路に電力を使い、通信の速さが上がるほどその負担が重くなります。
電気を光に変える場所が、機器の前面からチップの隣へ移ります。
※CPOでもレーザーをパッケージに入れる方式や、光エンジンの置き方には複数の設計があります。図は代表的な形です。
2つの方式の違いは、変換の場所だけではありません。熱の逃がし方や壊れたときの交換の単位も変わるため、どちらが優れているかは使う場面で決まります。
| 観点 | プラガブル光トランシーバー | CPO |
|---|---|---|
| 電気を光に変える場所 | 機器の前面に差し込んだ部品の中 | チップと同じパッケージの上 |
| チップからの電気配線 | 基板の端まで長く走る | 数cm以内(NTTの試作では約300mmを約30mmに短縮) |
| レーザーの置き場所 | 部品の中に内蔵 | パッケージの外に置く外部光源が多い |
| 壊れたときの交換 | 1本ずつ抜き差しして交換 | 光源は外から交換、光エンジンは基板ごとの対応になりやすい |
| 熱の影響 | 前面に分かれて置かれる | チップの熱が光部品のすぐ近くに集まる |
| 普及の状況 | 今のデータセンターの主流 | 2025〜2026年に大手のスイッチで出荷が始まった段階 |
光電融合とCPOの関係
光電融合は、NTTが次世代の通信基盤「IOWN(アイオン)」で使ってきた言葉で、電気で処理する部分をできるだけ光に置き換えていく考え方全体を表します。CPOはスイッチのチップと光部品を同じパッケージにまとめる段階にあたり、その先にはチップの内部まで光でつなぐ計画があります。
NTTの光電融合デバイス(PEC)は、ICチップと光エンジンを同じ台座に載せた「PEC-2」で電気配線を約300mmから約30mmに縮めました。NTTはこれを使ったスイッチを2026年第4四半期に出荷する予定で、スイッチ単体の電力を約50%減らせる見込みです。
CPOは、光が入り込む範囲を機器の外からチップのすぐ隣まで進めた段階です。
※PEC-3・PEC-4の時期はNTTが示した目標で、出荷を約束したものではありません。
なぜ今CPOが必要なのか|AIデータセンターの電力と配線
CPOが急に注目されたのは、AIの学習でGPUを数万台規模でつなぐと、通信にかかる電力と部品の数が大きく膨らむからです。GPUどうしの通信は光ファイバーを通るため、GPUが増えるほど光トランシーバーとレーザーの数も増え、その1つ1つが電力を使い、故障の原因にもなります。
GPUの台数が増えるほど、通信の部品にかかる負担が積み上がります。
米エヌビディアは2025年3月、CPOスイッチ「Spectrum-X Photonics」「Quantum-X Photonics」を発表しました。同社は従来方式と比べて、レーザーの数が4分の1、電力効率が3.5倍、大規模なネットワークの耐障害性が10倍になると説明しています。
これらはメーカー自身が示した比較で、比べる相手や条件はエヌビディアの設定によります。同社はのちの資料で電力効率を5倍と書いており、数字は製品の世代や比べ方で変わるものとして読むのが安全です。
電力は減る一方で、熱・交換・検査の課題が部品の側に移ります。
熱と交換の課題への答えの1つが、レーザーをパッケージの外に出す「外部光源」です。熱に弱く寿命の短いレーザーを外に置けば交換しやすくなりますが、1つの光源で複数の通路に光を送るため、1個あたりに高い出力が必要になります。
買収の狙いは光源|レーザーが足りない理由

報道が挙げる買収の理由は、CPOでも従来の光トランシーバーでも欠かせないレーザーの供給を、自社の中に押さえることです。ルメンタムは、レーザーの材料になるリン化インジウム(InP)という化合物半導体の工場を自社で持つ、光通信用レーザーの大手です。
そのレーザーが足りていません。ルメンタムのCEOは、InPの工場と材料の供給が顧客の需要を約3割下回っていると話し、InPの不足はメモリ不足より深刻になるという見方を示しました。
確認できる制約は、InPのレーザーをつくる工場の生産能力です。
※インジウムそのものの不足がレーザー不足の原因だと確認されたわけではありません。確認できるのはレーザー工場の生産能力の不足です。
CPOが広がると、レーザーの中身も変わります。外部光源は1個のレーザーで複数の通路に光を送るため、高出力の連続光(CW)を出すレーザーが中心になります。
工場の転換と大口顧客の資金で、生産能力を広げようとしています。
マーベルのルメンタム買収の条件と、会社が公表した狙い
両社の共同発表によると、ルメンタム1株にマーベル4.5株を渡す株式交換で、完了は2028年上半期の見込みです。両社の株主総会と各国の規制当局の承認が条件になっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年11月2日(両社の取締役会が全会一致で承認) |
| 企業価値 | 約1,150億ドル |
| 交換比率 | ルメンタム1株にマーベル4.500株(1株あたり約1,132ドル相当) |
| 上乗せ幅 | 約23.9%(報道で株価が動く前の2026年10月28日の終値と比べて) |
| 統合後の持ち分 | マーベル株主 約67%、ルメンタム株主 約33% |
| 完了の見込み | 2028年上半期(両社株主と規制当局の承認が条件) |
| 費用の削減効果 | 年10億ドル超を見込む |
| 統合後の対象市場 | 5,500億ドル(会社の試算) |
| 経営 | マーベルのマット・マーフィー氏が会長兼CEOを続け、ルメンタムから3人が取締役に加わる |
会社の発表で目を引くのは、両社の得意分野がほとんど重ならない点です。マーベルは電気の信号を扱うチップ、ルメンタムは光を生む部品と工場を持っていて、2社がそろうとデータセンターの「電気から光まで」を1社で設計できると説明しています。
電気のチップと光の部品を合わせ、接続の部品を一通りそろえます。
一方で、共同発表には「CPO」という言葉そのものは出てきません。会社が書いているのは光への転換と、レーザーや先端パッケージをまとめて持つことで、CPOの具体的な製品計画はまだ公表されていないと読むのが正確です。
濃い色がマーベルの株主、薄い色がルメンタムの株主です。
10人中7人がマーベル、3人がルメンタムの株主(約67%と約33%、完全希薄化後)
CPOの実用化はどこまで来たか|発表・出荷・予定の時系列
CPOは研究段階を抜け、2026年にはスイッチの大手2社が出荷を始めた段階にあります。ただし、発表、出荷開始の報道、会社の予定が混ざって伝わりやすいため、種類を分けて並べます。
【発表】【報道】【予定】の印で、事実の確かさを分けています。
出荷が始まったとはいえ、CPOの対象は今のところデータセンターの中でも、GPUを大量につなぐ大型スイッチが中心です。サーバー側の接続や一般の通信機器まで広がるかは、熱と交換の課題がどこまで解けるかと、レーザーの供給量しだいです。
日本企業が関わる部品と、確認できる接点
今回の買収に日本企業は加わっていませんが、CPOのスイッチには光ファイバー・光コネクタ・パッケージ基板など日本企業が強い部品が欠かせません。ただし関わり方は「発表に名前がある」「CPO向け製品を発表した」「関連製品を供給している」と社ごとに深さが違います。
接点の種類を色分けしています。受注や採用の規模を示すものではありません。
※「関連製品」はCPO専用の受注を確認したものではなく、CPOでも使われる種類の製品という意味です。
光コネクタ:はんだ付けの熱に耐える部品が要る
CPOでは、光ファイバーをチップのすぐ横の光エンジンにつなぐため、コネクタにも新しい条件が加わります。古河電工が2025年3月に発表した12心の光コネクタは、部品を基板にはんだ付けするリフロー工程の熱(260℃)に耐えることを特長に挙げています。
- 接続の面積:一般的な多心コネクタ(MPO)の約6分の1
- 接続の損失:0.5dB以下(くり返し接続しても±0.05dB以内)
- 接続の方法:磁石を使った半自動の接続で、レンズで光を結合するため端面のほこりの影響を受けにくい
- 今後:16心への展開や40心コネクタの開発も進める
光ファイバーとパッケージ基板:本数と実装の両方が変わる
光ファイバーはAIデータセンター向けの需要が伸びており、フジクラの光ファイバー事業や住友電工の光通信事業は、その需要を受ける側にあたります。CPOは光への変換をチップの近くへ移すだけなので、機器の外を光ファイバーでつなぐ需要はそのまま残ります。

パッケージ基板は、チップと光エンジンを同じ板の上に並べるCPOで、配線の細かさや反りの小ささへの要求が一段と厳しくなる部品です。AI半導体向けの基板ではイビデンや新光電気工業が大手で、CPOでも同じ種類の基板の技術が土台になります。

製造業で働く人・取引先にとっての意味
CPOで変わるのは、光と電気をこれまで別々に設計・製造していた境目が、1つのパッケージの中でなくなることです。部品メーカーや装置メーカーで働く人にとっては、担当する工程で新しく確かめることが増えます。
仕事が増えると決まったわけではなく、変化の兆しとして押さえる点です。
取引先として見ると、マーベルとルメンタムが1社になることで、レーザーや光部品の供給先が統合後の会社の製品を優先する形に変わる可能性があります。完了は2028年上半期の見込みなので、それまでの間に両社の発表や規制当局の判断を追い、自社の調達や営業の計画に反映していくのが現実的です。
データセンターの設備では、通信だけでなく冷却や電力の部品にも同じAI需要の波が来ています。データセンターの液冷は、CPOの熱の課題とも重なる分野です。
光電融合(CPO)のよくある質問
プラガブル光トランシーバーはなくなりますか?
すぐにはなくなりません。エヌビディアもCPOスイッチを発表した2025年3月の資料で、従来型の光トランシーバーの供給企業を別に挙げており、交換しやすさを重んじる場面では差し込み式が使われ続けるとみられます。
シリコンフォトニクスとCPOは同じものですか?
同じではありません。シリコンフォトニクスはシリコンの上に光の回路をつくる製造の技術で、CPOは光部品をチップと同じパッケージに置くという実装の形です。CPOの光エンジンをつくる方法の1つとして、シリコンフォトニクスが使われます。
光電融合はパソコンやスマートフォンにも使われますか?
いま公表されている計画の対象は、データセンターや通信の機器です。NTTはチップの内部まで光でつなぐ段階を2032年ごろの目標としていますが、身近な機器に入る時期は示していません。
まとめ
- CPOは、電気と光の変換部品をチップと同じパッケージに載せ、電気配線を数cm以内に縮める光電融合の方式
- AIでGPUを大量につなぐと通信の電力と部品が膨らむため、大手のスイッチで2026年に出荷が始まった
- CPOは熱・交換・検査が難しく、レーザーを外に出す外部光源が多い。その高出力レーザーが足りない
- マーベルは2026年11月2日、ルメンタムを企業価値約1,150億ドルで買収すると発表。完了は2028年上半期の見込み
- 日本企業は光ファイバー・光コネクタ・パッケージ基板で関わるが、関わり方の深さは社ごとに違う
光通信の部品は、半導体の製造や素材の知識とも深くつながっています。前工程・後工程の全体像は半導体製造の仕組みで、AI需要が電子部品全体に広がる様子はAI需要で伸びる電子部品の受注動向で確かめられます。
出典
出典・参考資料(11件)を開く出典・参考資料を閉じる
- Marvell・Lumentum 共同プレスリリース(2026年11月2日、米SEC提出のForm 8-K 添付資料)
- 日経クロステック「マーベルの18兆円買収、狙いは光電融合の中核技術」(2026年11月6日)
- NVIDIA プレスリリース「Spectrum-X Photonics Co-Packaged Optics Networking Switches」(2025年3月18日)
- NVIDIA「Silicon Photonics」製品ページ
- Tom’s Hardware「Lumentum CEO says the indium phosphide shortage will become worse than memory」
- TrendForce「InP Shortage Emerges as AI Optical Interconnect Bottleneck」(2026年8月6日)
- TrendForce プレスセンター(CPOスイッチの出荷状況、2026年7月27日)
- Lumentum によるQorvo社グリーンズボロ工場の取得(2026年3月の報道、Semiconductor Today ほか)
- EE Times Japan(NTTの光電融合デバイスとIOWNのロードマップ)
- 古河電気工業 ニュースリリース「CPOに適した小型12心光コネクタを開発」(2025年3月27日)
- 古河電気工業 ニュースリリース「光電融合用小型多心光コネクタSnap-BeamがECOC 2026で受賞」
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