ナトリウム単体の工業的製法|溶融塩電解(ダウンズ法)の反応式と用途

円筒形の電解槽が一列に並ぶ溶融塩電解の工場内

ナトリウム単体(金属ナトリウム)は、塩化ナトリウムを水に溶かさず、高温で溶かした液を電気分解する溶融塩電解でつくります。工業では塩化ナトリウムに塩化カルシウムなどを混ぜて約600℃で溶かし、陰極にナトリウム、陽極に塩素を出すダウンズ法が使われています。

食塩水をそのまま電気分解すると、陰極ではナトリウムイオンより先に水が電子を受け取り、水素が出るだけで終わります。ナトリウムは空気や水とすぐ反応するため天然に単体はなく、取り出すには水のない状態で電気の力を使うしかありません。

後半では、実際の電解槽のしくみと電力量の計算、工場での取り扱いと消防法の決まりまで扱います。

目次

ナトリウム単体の精製が難しい理由

ナトリウムは、リチウムやカリウムと同じアルカリ金属で、陽イオンになる力(イオン化傾向)がきわめて大きい金属です。イオン化傾向の並びでは Li・K・Ca・Na が上位に並び、マグネシウムやアルミニウムよりも電子を手放しやすい位置にあります。

そのため単体のナトリウムを空気中に置くと、表面がすぐ酸素と反応して酸化ナトリウムになり、銀色の光沢が失われます。水とはさらに激しく反応して水酸化ナトリウムと水素を生じ、反応熱で水素に火がつくこともあります。

空気中の酸素との反応
4Na + O2 → 2Na2O
水との反応
2Na + 2H2O → 2NaOH + H2
水との反応は、ナトリウム2個に水2分子が反応します(左右とも Na 2・H 4・O 2)。生じる NaOH は強い塩基で、水溶液は強いアルカリ性になります。

この反応でできる水酸化ナトリウムの性質と工場での扱いは別の記事で詳しく扱っています。こうした性質があるので、実験室や工場では金属ナトリウムを灯油や流動パラフィンなどの保護液に沈め、空気と水分から遮って保管します。

反応性が高い理由は、原子の構造にあります。ナトリウムの電子は内側から2個・8個・1個の順に殻へ入っていて、いちばん外側の殻には電子(価電子)が1個しかありません。この1個を手放せば、安定なネオンと同じ電子の並びになれます。

図1:ナトリウム原子が電子を1個手放す

いちばん外側の電子1個が外れると、内側の殻だけが残る安定なナトリウムイオンになります。

+11+11Na(2・8・1)Na⁺(2・8)電子を1個放出e⁻

※中央の「+11」は原子核の電荷(陽子11個)。点線の円が価電子の入る3番目の殻です。

外側の電子が外れやすいのは、原子核からの引きが弱いためです。原子核の電荷はナトリウムが+11、同じ周期のマグネシウムが+12、アルミニウムが+13で、ナトリウムは電子を引き寄せる力がいちばん弱く、原子も大きくなります。

原子核から遠く、しかも1個だけの電子は、ほかの原子に簡単に奪われます。電子を1個取り去るエネルギー(第1イオン化エネルギー)は約496 kJ/molで、同じ周期で最小です。周期表の位置と原子の大きさの関係はイオン半径と原子半径の大小関係で整理しています。

ナトリウムが陽イオンになる変化
Na → Na+ + e−
e−:電子。電子を失う変化なので、ナトリウムは酸化されています。単体を得るには、この逆向きの Na+ + e− → Na を外から電気で起こす必要があります。

電子を手放しやすく、陽イオンになって化合物をつくるのは金属元素に共通する性質で、ナトリウムはその性質が特に強い元素です。金属元素と非金属元素の性質の違いは金属元素と非金属元素の違いでまとめています。

ナトリウムの溶融塩電解(融解塩電解)とは

溶融塩電解(融解塩電解)は、塩(えん)を高温で溶かした液を、水を使わずに電気分解する方法です。地球上のナトリウムの大半は海水や岩塩の塩化ナトリウム(NaCl)として存在するので、原料はこの食塩になります。

まず、食塩水をそのまま電気分解した場合を考えます。水溶液には Na+ と Cl− のほかに水分子があり、陰極では Na+ と水のどちらが電子を受け取るかの競争になります。陰極・陽極で何が起きるかの決まりは電気分解の陰極・陽極の反応で扱っています。

どちらが先に電子を受け取るかは、標準電極電位で比べられます。Na++e−→Na は −2.71 V、水が還元されて水素が出る反応は −0.83 V で、値が大きい(負に小さい)水のほうがはるかに電子を受け取りやすいことが分かります。

図2:陰極で電子を受け取る順番

水があると水が先に還元されて水素が出ます。水のない溶融塩なら、Na+ が電子を受け取ってナトリウムになります。

0 V水の還元 −0.83 VNa⁺の還元 −2.71 V水溶液 → H₂溶融塩 → Na水が先に受け取るNa⁺ が受け取る上ほど電子を受け取りやすい

※25℃の水溶液中の標準電極電位(Chemistry LibreTexts の表、Bard ほか 1985 による)。水の還元は 2H2O+2e−→H2+2OH− の値で、中性の水ではさらに受け取りやすくなります。

仮に陰極でナトリウムが一瞬できても、周りの水とすぐ反応して Na+ に戻ります。そのため食塩水の電気分解では、陰極に水素、陽極に塩素が出て、液には水酸化ナトリウムが残ります。

食塩水の電気分解(陰極)
2H2O + 2e− → H2 + 2OH−
食塩水の電気分解(陽極)
2Cl− → Cl2 + 2e−
全体(2つを足し、Na+ を両辺に加える)
2NaCl + 2H2O → 2NaOH + H2 + Cl2
水は2分子必要です(左右とも Na 2・Cl 2・H 4・O 2)。陰極と陽極で動く電子の数(2個)をそろえてから足し合わせます。

この反応は水酸化ナトリウムと塩素をつくる食塩電解そのもので、現在の国内の工場は陽イオンだけを通す膜で陰極と陽極を仕切って運転しています。工業的な装置はイオン交換膜法による食塩電解で詳しく説明しています。

かつての水銀法は、水銀の上では水素が出にくい性質(水素の過電圧が大きい)を利用し、ナトリウムを水銀との合金(アマルガム)として陰極に取り込んでいました。国内では水銀の問題から1986年に全廃され、単体のナトリウムを取り出す方法でもありません。

そこで考えられたのが、水を一切入れず、塩化ナトリウムそのものを溶かして電気分解する方法です。融点の801℃以上に加熱すると、結晶の中で動けなかった Na+ と Cl− が液の中を動けるようになり、電流が流れます。

陰極(−):ナトリウムが析出する
Na+ + e− → Na
陽極(+):塩素が発生する
2Cl− → Cl2 + 2e−
全体(陰極の式を2倍して足す)
2NaCl → 2Na + Cl2
電子1個でナトリウム原子1個、電子2個で塩素分子1個ができます。電気分解では電源の負極につないだ電極を陰極、正極につないだ電極を陽極と呼び、ナトリウムは陰極側に出ます。

陰極の式は「電子を受け取る」還元、陽極の式は「電子を渡す」酸化の半反応式です。電子の数をそろえて足す手順は半反応式の作り方と同じで、溶融塩電解でもそのまま使えます。

ただし801℃の塩化ナトリウムだけを電解すると、できたナトリウムが蒸発しやすく、電解槽の材料も傷みます。工業では塩化カルシウムなどを混ぜて融点を約600℃まで下げ、鉄の陰極と黒鉛の陽極で電解しており、この方法をダウンズ法と呼びます。

同じ考え方で、アルミナを氷晶石に溶かして約950℃で電解するのがアルミニウムの製錬です。比べると、溶融塩電解が「水溶液では取り出せない金属」に共通する方法だと分かります(アルミニウムの融解塩電解)。

比べる点食塩水の電気分解(食塩電解)溶融塩電解(ダウンズ法)
電解する液塩化ナトリウム水溶液塩化ナトリウムに塩化カルシウムなどを混ぜて溶かした液
温度100℃未満約600℃
陰極に出るもの水素(液に NaOH が残る)液体のナトリウム
陽極に出るもの塩素塩素
仕切り陽イオン交換膜鋼の金網(Na と Cl2 の逆戻りを防ぐ)
主な製品水酸化ナトリウム・塩素・水素金属ナトリウム・塩素
表1:食塩水の電気分解と溶融塩電解の違い(EU BREF Chlor-alkali 2014、RSC「Sodium: Teacher Notes」をもとに作成)

ナトリウム単体の使用例:ナトリウムランプ・高速炉から化学品まで

ナトリウム単体の使い道は、性質ごとに見ると整理しやすくなります。光る性質はランプに、融点が低く熱をよく運ぶ性質は原子炉の冷却材に、強い還元力は金属や化学品の製造に使われています。

英国王立化学会(RSC)の2012年の資料では、世界の金属ナトリウムの生産は年6万〜8万トンで、すべてダウンズ法でつくられています。用途別では化学品の原料が大半を占め、ランプや冷却材は量としては小さい用途です。

図3:金属ナトリウムの行き先(2012年の資料)

3割強が水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤づくりで、農薬・触媒・ゴムが続きます。

水素化ホウ素系の還元剤農薬触媒ゴムアジ化物(エアバッグ)インディゴ染料電子金属の還元(チタン)その他32%17%8%6%5%5%5%5%17%

※RSC(英国王立化学会)「Sodium: Fact file」(2012年作成)の用途割合。現在の割合を示す資料ではありません。ランプ・冷却材は「その他」に含まれます。

道路やトンネルで見かけるオレンジ色の照明は、ナトリウムの蒸気の中で放電させて光らせるナトリウムランプです。ナトリウムの炎色反応の黄色と同じく、ナトリウム原子が出す波長589 nm付近の光(D線)が色のもとになっています。

蒸気の圧力を約0.5 Paと低くした低圧ナトリウムランプは、ほぼ D線だけの単色光を出し、効率は約175 lm/W と実用光源の中で最も高い部類です。その代わり色の見分けがつかないため、用途はトンネルなど色の判別が要らない場所に限られてきました。

蒸気の圧力を約1.3×104 Pa まで上げた高圧ナトリウムランプは黄白色の光になり、400 W で115〜140 lm/W です。発光管にはナトリウムに侵されにくい透光性アルミナを使い、道路照明や天井の高い工場、スポーツ施設の照明に使われています。

原子が特定の波長の光を出すしくみは温度放射とルミネセンスの違いで扱っています。トンネルの低圧ナトリウムランプは寿命が約8,000時間と短く、蛍光ランプや LED への置き換えが進んでおり、工場の照明更新の考え方は工場の LED 化の進め方が参考になります。

もう一つの代表的な用途が、高速炉(高速の中性子で核分裂を続ける原子炉)の冷却材です。沸点が約883℃と高いので加圧しなくても高温で使え、熱をよく伝えるうえ、中性子を減速しにくいため、高速炉の冷却材として世界的に定着しました。

日本原子力研究開発機構(JAEA)の資料によると、初期には水銀も試されましたが毒性や沸点の低さが欠点とされ、その後の高速炉はすべてナトリウムか、ナトリウムとカリウムの合金(NaK)を選んでいます。

ナトリウムは水と激しく反応するため、高速炉では原子炉を通るナトリウムと蒸気をつくる水の間に、もう一段ナトリウムの回路(2次系)を挟み、水漏れの検出設備も設けています。

量の多い用途は化学品と金属の製造です。ここからは、性質を電池・還元剤として使う3つの例を挙げます。

  • NaS電池:負極にナトリウム、正極に硫黄を使い、約300℃で両方を液体にして動かす蓄電池。大型の電力貯蔵に使われてきた
  • 金属の還元:チタンなど、塩化物を還元して金属を取り出す。19世紀にはアルミニウムもこの方法でつくられた
  • 化学品の原料:水素化ホウ素ナトリウム(医薬品などの合成に使う還元剤)、アジ化ナトリウム、インディゴ染料など

NaS電池は、ナトリウムがベータアルミナという固体のセラミックス電解質を Na+ として通り抜け、正極の硫黄と反応して多硫化ナトリウムになることで放電します。充電ではこの逆の反応が進み、繰り返し使える二次電池になります。

NaS電池の反応(右向きが放電、左向きが充電)
2Na + xS ⇄ Na2Sx
x:多硫化ナトリウムの硫黄の数で 3.3 ≤ x ≤ 5(日本ガイシの製品資料)。負極 Na → Na+ + e−、正極で硫黄が電子と Na+ を受け取ります。動作温度は約300℃です。

NaS電池は日本ガイシが1980年代から東京電力と共同で研究し、定置用の大型蓄電池として事業化しました。2025年10月31日、同社は原材料の高騰や安いリチウムイオン電池の台頭を理由に製造・販売の終了を決め、2027年1月ごろの出荷が最後になる予定です。

硫酸と鉛を使う身近な二次電池の反応は鉛蓄電池の放電・充電の反応式と比べると、電極の材料が液体か固体かの違いが分かります。電池材料としてのナトリウムは、常温で動くナトリウムイオン電池の研究開発が続いています。

金属の還元では、四塩化チタンを液体のナトリウムで還元するハンター法が、かつてチタンをつくる工業的な方法の一つでした。いまのスポンジチタンは、ほぼすべてマグネシウムで還元するクロール法でつくられています。

ハンター法(ナトリウムで還元)
TiCl4 + 4Na → Ti + 4NaCl
クロール法(マグネシウムで還元、現在の主流)
TiCl4 + 2Mg → Ti + 2MgCl2
どちらもチタン1個につき電子4個を還元剤から受け取ります(Na は1個ずつ、Mg は2個ずつ渡す)。ハンター法は NaCl の融点(約801℃)と Na の沸点(約883℃)の間の狭い温度で反応を制御する必要がありました。

ハンター法は発熱が大きく温度の幅も狭いうえ、副生する食塩の分離にも手間がかかったため、英国と日本の工場が1990年代初めまで動いたのを最後に、商業生産は行われていません。反応性の高い金属で別の金属を取り出す考え方は、アルミニウムで鉄を取り出すテルミット反応と共通しています。

歴史をさかのぼると、1854年にフランスのドビーユがナトリウムで塩化アルミニウムを還元してアルミニウムをつくりました。高価な方法だったため、1886年に電気分解によるホール・エルー法が生まれると置き換わっています。

実際の工場では:ダウンズ法の電解槽と電力

1807年にデービーが水酸化ナトリウムの電気分解で初めて取り出したナトリウムは、いまは世界中でダウンズ法によってつくられています。工場では円筒形の電解槽を何台も並べ、1台に数十キロアンペアの直流を流します。

電解槽の設計で大事なのは、陰極にできたナトリウムと陽極にできた塩素を、混ぜずに別々に取り出すことです。両者が出合うと、激しく反応して元の塩化ナトリウムに戻ってしまいます。

耐熱服の作業者が電解槽の原料投入口を棒で確かめる様子

鉄の陰極・黒鉛の陽極と隔膜

電解槽は鋼製の容器で、底の中央から円筒形の黒鉛の陽極が立ち上がり、その周りを円筒形の鋼(鉄)の陰極が囲んでいます。陽極と陰極の間には鋼の金網の隔膜があり、イオンは通しながら、ナトリウムと塩素が混ざるのを防いでいます。

図4:ダウンズ電解槽の断面

陽極の上のベルで塩素を、陰極側の集合部でナトリウムを集め、金網の隔膜で2つを分けます。

塩素(Cl₂)鉄板のベル鉄の陰極(−)隔膜(鋼の金網)Na の貯槽黒鉛の陽極(+)溶融塩約600℃液体 Na○ 塩素の泡 ● ナトリウムの粒

※構造は米国特許 US6669836・US4584068 と RSC「Sodium: Teacher Notes」の説明をもとに模式化したもので、寸法は実物と違います。

陽極で出た塩素の泡は陽極の真上にかぶせた鉄板のベルに集まり、管で取り出されます。陰極で出たナトリウムは小さな液体の粒になり、密度が約0.97 g/cm3と溶融塩(約2.2 g/cm3)より小さいので浮き上がります。

浮いたナトリウムは陰極側の上部にある集合部に集まり、立ち上がり管を通って貯槽へ押し上げられます。貯槽のナトリウムは窒素で覆い、空気中の酸素や水分に触れないようにしています。

原料の塩は乾燥させて槽に足していきますが、それでも水分がわずかに残ります。RSC の資料では塩の水分は約0.05%で、ナトリウムと反応して出る水素に火がつき、ときどき小さな破裂音がすると紹介されています。

塩化カルシウムを混ぜて約600℃で電解する

電解に使う液(電解浴)は、塩化ナトリウムに塩化カルシウムや塩化バリウムを混ぜたものです。RSC が紹介する工場の例では、塩化カルシウム26%・塩化バリウム46%・塩化ナトリウム28%の組成で、融点は塩化ナトリウム単独の約800℃から600℃に下がっています。

温度を下げる利点は2つあります。ナトリウムと塩素が槽の材料を侵す速さが遅くなることと、高温を保つための熱が少なくて済むことです。さらに温度が高いと、ナトリウムが細かな霧になって溶融塩に散り、電流がむだになりやすいことも特許で指摘されています。

混ぜた塩化カルシウムのカルシウムも陰極で電子を受け取れますが、先に析出するのはナトリウムです。電解浴の中では Na+ のほうが析出する電位が負に小さく、先に電子を受け取れるためで、バリウムはほとんど出てきません。

それでも、陰極ではカルシウムが少し一緒に出ます。粗いナトリウムを冷やすとカルシウムが固まって出てくるので、ろ過で取り除き、カルシウムは水と反応させて水酸化カルシウムの排水として処理します。

冷却・析出・ろ過を経た市販のナトリウムでも、カルシウムは約200〜400 ppm(質量)残るとされています。カルシウムを嫌う用途では、この不純物の量が品質の管理項目になります。

ファラデーの法則で電力量を計算する

陰極の反応 Na++e−→Na から、ナトリウム1 molをつくるには電子1 mol分の電気量(ファラデー定数 96,485 C)が必要です。まず、ナトリウム1 kgに必要な電気量を求めます。

ナトリウム1 kgの物質量
n = 1,000 g22.99 g/mol = 43.50 mol
必要な電気量(電子も 43.50 mol)
Q = n × F = 43.50 × 96,485 = 4.197 × 106 C
アンペア時に直す(1 Ah = 3,600 C)
Q = 4.197 × 1063,600 ≒ 1,166 Ah
n:物質量[mol] F:ファラデー定数 96,485 C/mol Q:電気量[C]。ナトリウムのモル質量 22.99 g/mol。1,166 Ah は「1,166 A の電流を1時間流す」電気量です。

電力量は電気量に電圧を掛けて求めます。ここでは、①反応に最低限必要な理論値、②実際の運転条件を置いた計算例、の2つに分けて計算し、その差がどこへ行くかを見ます。

① 理論値(分解電圧 3.4 V、電流効率100%)
W = 1,166 Ah × 3.4 V = 3,964 Wh ≒ 3.96 kWh
② 計算例(セル電圧 7.0 V、電流効率85%)
W = 1,166 Ah × 7.0 V0.85 = 9,602 Wh ≒ 約9.6 kWh
分解電圧:塩化ナトリウムを分解するのに最低限要る電圧(電解温度で約3.4 V、米国特許 US4584068)。セル電圧:実際に槽にかける電圧(資料により 6.2〜7.5 V)。電流効率:流した電気のうちナトリウムの生成に使われた割合(資料により 85〜89%)。

実際の槽では理論の2倍以上の電力を使う計算になります。セル電圧のうち分解に要るのは約3.4 Vで、残りは電解浴の電気抵抗などで熱になるため、供給した電気のほぼ半分が熱として消えます。

この熱の一部は、約600℃の電解浴を溶かしたまま保つのにも使われます。残りの差は電流効率で、できたナトリウムの一部が塩素と再び反応して塩に戻るぶんが主な損失です。電流効率の考え方は銅の電解精錬でも同じように使われます。

図5:ナトリウム1 kgの物質と電気の収支

原料・電気・生成物を理論量で並べると、ナトリウムの1.5倍の塩素が一緒にできることが分かります。

原料:塩化ナトリウム 2.54 kg43.50 mol × 58.44 g/mol。実際は乾燥した塩を少しずつ槽に足していく
電気:1,166 Ah理論値 3.96 kWh、セル電圧7.0 V・電流効率85%の計算例で約9.6 kWh
製品:Na 1 kg + Cl2 1.54 kg塩素は 43.50 ÷ 2 × 70.90 g/mol。塩素の使い道も工場の採算に効く

※原料・製品は収率100%の理論量。電力量の計算例は資料の運転条件の範囲から置いた値で、特定の工場の実績ではありません。

副生する塩素は、塩化ビニル樹脂の原料や消毒剤などに回すことで価値になります。塩素からつくる次亜塩素酸などの化合物は塩素のオキソ酸の性質で整理しています。

1台の槽でどれだけつくれるかも、同じ式で計算できます。米国特許にある 40 kA の槽を電流効率85%で24時間運転すると、次のように1日約0.7トンになります。

1槽・1日あたりのナトリウムの量
m = I × tF × M × η = 40,000 × 86,40096,485 × 22.99 × 0.85
m ≒ 7.0 × 105 g = 約0.70 t
I:電流[A] t:時間[s](24時間 = 86,400 s) M:モル質量[g/mol] η:電流効率。RSC が紹介する工場の塩の供給(1槽に毎分約1.3 kg)をナトリウムに直すと毎時約31 kg で、この計算(毎時約29 kg)と同じ規模です。

金属ナトリウムの取り扱いと法規

金属ナトリウムは、消防法で第3類の危険物(自然発火性物質及び禁水性物質)に当たり、指定数量は10 kgです。水に触れると水素を出して発火・爆発のおそれがあり、皮膚に付くと汗の水分と反応して重い薬傷になります。

注意点は、扱う場面によって変わります。工場で溶けたナトリウムを扱う場面、容器で保管する場面、火災や漏えいが起きた場面に分けると、次のようになります。

  • 工場で溶けたナトリウムや電解浴を扱う:貯槽や配管を窒素で覆い、空気と水分を入れない。作業者は溶けた電解浴の飛散に耐える難燃性の防護服を着る
  • 容器で保管する:灯油や流動パラフィンなどの保護液に沈め、液面から出ないようにする。黄りんなど水中に貯蔵する物品とは同じ貯蔵所に置かない
  • 火災・漏えいが起きた:水・泡・二酸化炭素・ハロゲン系の消火剤は使わず、乾燥砂か金属火災用の粉末消火剤で覆う

図6:ナトリウムの火災に使える消火・使えない消火

水や二酸化炭素とも反応するので、ふつうの消火器は使えません。空気を断つ乾燥砂や専用の粉末で覆います。

乾燥砂・専用粉末使える。上から覆って空気を断つ
水・泡使えない。水素が出て燃え広がる
二酸化炭素使えない。ナトリウムと反応する
ハロゲン系使えない。四塩化炭素などと激しく反応

※ICSC 0717「ナトリウム」(ILO・WHO)と熊本大学「化学物質取扱マニュアル」の記載による。実際の消火設備は所轄の消防と相談して決めます。

保管と取り扱いの決まりは、消防法と危険物の規制に関する政令にまとまっています。指定数量(10 kg)以上を貯蔵・取り扱うには、許可を受けた製造所・貯蔵所・取扱所が必要です。

決まり・資料金属ナトリウムについての中身
消防法 別表第一・危険物の規制に関する政令 別表第三第3類(自然発火性物質及び禁水性物質)、品名「ナトリウム」、指定数量 10 kg
消防法 第10条指定数量以上は、許可を受けた製造所・貯蔵所・取扱所以外で貯蔵・取り扱いをしない
危険物の規制に関する政令 第24条第14号保護液の中に保存するときは、危険物が保護液から露出しないようにする
同 第25条第3号禁水性物品(カリウム・ナトリウムなど)は水との接触を避ける
同 第26条第1号の3黄りんなど水中に貯蔵する物品と、禁水性物品を同じ貯蔵所に貯蔵しない
ICSC 0717(ILO・WHO)水と激しく反応し可燃性の水素を出す。皮膚と眼に重い損傷。消火は乾燥砂か専用の粉末
表2:金属ナトリウムにかかる主な決まり(2026年11月時点で e-Gov 法令検索などで確認)

ナトリウムを扱う作業では、水や湿気がどこから入りうるかを洗い出す視点が欠かせません。設備の洗浄水、結露、消火用の散水設備などが想定外の接触源になるため、作業前に工場のリスクアセスメントの手順で危険源と対策を確かめておきます。

ナトリウムの溶融塩電解のよくある質問

溶融塩電解と融解塩電解は同じものですか?

同じものです。どちらも固体の塩を高温で溶かした液を電気分解する方法の呼び名で、教科書では「融解塩電解」、工業や研究の分野では「溶融塩電解」と書かれることが多くなっています。

NaS電池とナトリウムイオン電池は同じ電池ですか?

別の電池です。NaS電池は金属ナトリウムと硫黄を約300℃で液体にして動かす高温の電池で、ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と同じく常温で Na+ が電極の間を行き来する電池です。電池の種類による製造工程の違いは全固体電池とリチウムイオン電池の違いも参考になります。

ナトリウムを水に入れると燃えることがあるのはなぜですか?

水との反応で水素が発生し、同時に出る大きな反応熱でナトリウムが溶けて温度が上がり、水素に火がつくためです。かたまりが大きいほど発熱が集中し、溶けたナトリウムが飛び散って爆発的になることもあります。

ナトリウムの融点が98℃と低いのはなぜですか?

金属の原子どうしをつなぐ自由電子が、ナトリウムでは原子1個につき1個と少なく、原子も大きいため結び付きが弱いからです。価電子が2個のマグネシウム(融点約650℃)や3個のアルミニウム(約660℃)と比べると、その差がよく分かります。

まとめ

この記事のまとめ
  • ナトリウムは価電子が1個で原子核の引きも弱く、電子を失いやすいので反応性が高く、天然に単体は存在しない
  • 食塩水の電気分解では陰極で水が先に還元されて水素が出るため、ナトリウム単体は取り出せない
  • 塩化ナトリウムを溶かして電気分解する溶融塩電解で、陰極に Na、陽極に Cl2 が出る(2NaCl → 2Na + Cl2)
  • 工業のダウンズ法は塩化カルシウムなどを混ぜて約600℃で電解し、鉄の陰極・黒鉛の陽極・金網の隔膜で Na と Cl2 を分ける。1 kgに 1,166 Ah、計算例で約9.6 kWh
  • 用途はナトリウムランプ、高速炉の冷却材のほか、還元剤などの化学品、チタンの還元、NaS電池。消防法の第3類で、保護液の中に保管し水を近づけない

ナトリウムの製法は、イオン化傾向や電極電位、ファラデーの法則といった化学の基本が、電解槽の構造と電力、安全の決まりにそのまま表れる題材です。食塩から生まれる製品と化学メーカーの仕事の全体像は、次の記事でつかめます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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