炭酸水素ナトリウム(重曹)の性質とは?熱分解の反応式・pHと工業での用途

ごみ焼却施設の排ガス処理室に並ぶ薬剤サイロとバグフィルタ

炭酸水素ナトリウム(NaHCO3、重曹)は、水に少し溶けて pH 約8.3(0.1 mol/L、25℃)の弱い塩基性を示し、加熱したり酸を加えたりすると二酸化炭素を出す白い粉です。

熱分解の反応式は 2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2 で、約50℃から分解が始まり、加熱後には炭酸ナトリウムの白い粉が残ります。

この「おだやかな塩基」と「熱や酸で CO2 を出す」という2つの性質が、ふくらし粉や胃薬から、消火器の粉末、ごみ焼却施設の排ガス処理まで、重曹の使い道を決めています。食品と医薬の分野では、純度や不純物を確かめる公定の規格もあります。

目次

炭酸水素ナトリウムの化学式・式量・用途

炭酸水素ナトリウムは、ナトリウムイオン Na+ と炭酸水素イオン HCO3− が1:1で結びついたイオン結晶で、炭酸水素塩のなかまです。化学式 NaHCO3 は分子1個を表すのではなく、イオンの数の比を示す組成式になります。

そのため重さの目安は分子量ではなく「式量」と呼び、食品添加物公定書では 84.01 と記載されています。原子量の足し算で式量を出す手順や、g/mol との関係はモル質量と式量の違いで詳しく扱っています。

式量の計算(原子量 Na 22.99、H 1.008、C 12.01、O 16.00)
22.99 + 1.008 + 12.01 + 16.00 × 3 = 84.01
イオン結晶なので「分子量」ではなく「式量」と呼びます。1 mol あたりの質量(モル質量)は 84.01 g/mol です。

図1:炭酸水素ナトリウムの正体と呼び名

Na⁺ と HCO₃⁻ が1:1で並んだ白い結晶で、重曹・重炭酸ソーダとも呼ばれます。

Na⁺HCO₃⁻NaHCO₃ナトリウムイオン炭酸水素イオン式量 84.01・白色の粉末別名:重曹(重炭酸曹達の略)、重炭酸ソーダ、ベーキングソーダ

※食品添加物公定書(第10版)「炭酸水素ナトリウム」の分子量・別名・性状をもとに作成。

「重曹」は、別名の重炭酸曹達(曹達はソーダの当て字)を縮めた呼び名です。ナトリウムは周期表1族のアルカリ金属で、その化合物の多くは水に溶けやすい性質を持ちます。1族の元素ごとの傾向はアルカリ金属の性質にまとめています。

常温では白い結晶性の粉末で、食塩とアンモニア、石灰石から安くつくれ、人への毒性も低い物質です。

そのため用途は広く、食品のふくらし粉、胃薬(制酸剤)、ごみ焼却の排ガス処理、消火器の粉末、入浴剤、ブラスト洗浄などに使われます。

炭酸水素ナトリウムの性質:何性?pHは?

炭酸水素ナトリウムの水溶液は弱い塩基性で、厚生労働省のモデルSDS では 0.1 mol/L・25℃で pH 8.3 です。医薬品の資料でも、1.0 g を水20 mL に溶かした液の pH は 7.9〜8.4 とされ、濃度が変わっても中性より少し塩基性側にとどまります。

性質は大きく3つに整理できます。

  • 水に少しだけ溶ける(20℃で 100 mL に 8.7 g)
  • 水に溶けると弱い塩基性を示す(pH 約8.3)
  • 加熱や酸で分解して二酸化炭素を出す

すこし水に溶ける

モデルSDS によると、炭酸水素ナトリウムは 20℃の水 100 mL に 8.7 g 溶け、エタノールにはほとんど溶けません。同じナトリウムの炭酸塩でも、炭酸ナトリウムは 25℃で水 100 g に 30.7 g 溶けるので、重曹は溶けにくい側の塩です。

溶けるときは、結晶の中のイオンが水分子に囲まれて水の中へ散らばります。イオンが水分子を引きつける水和の力と、結晶をつなぎとめる力の大小で溶けやすさが決まり、その考え方は水和とイオンが水に溶ける原理で図解しています。

水に溶けたときの電離
NaHCO3 → Na+ + HCO3−
溶けた分はほぼすべてイオンに分かれます。液性を決めるのは HCO3− のほうで、Na+ は水とほとんど反応しません。

水に溶けると弱塩基性を示す

炭酸水素イオンは、弱い酸である炭酸 H2CO3 から水素イオンが1個外れた形です。そのため水の中では一部が水から H+ を受け取って炭酸に戻り、残った OH− の分だけ塩基性になります。塩のイオンが水と反応して液性が変わるこの反応を、加水分解と呼びます。

炭酸水素イオンの加水分解(OH− を生む向き)
HCO3− + H2O ⇄ H2CO3 + OH−
同時にわずかに進む電離(H+ を出す向き)
HCO3− ⇄ H+ + CO32−
⇄ は両方向に進む平衡を表します。炭酸の電離定数は1段目 K1 = 4.57×10−7、2段目 K2 = 5.6×10−11(医薬品インタビューフォーム)。

HCO3− は H+ を受け取ることも出すこともできるため、片方の向きだけが強く進むことはありません。OH− を生む向きがわずかに勝つ分だけ塩基性になり、pH は 8.3 付近に落ち着きます。

同じ濃度の水酸化ナトリウムは強い塩基で、0.1 mol/L なら pH はおよそ13になり、皮膚や目を傷めます。重曹を素手で扱えるのは pH が中性に近いからで、強い塩基との扱いの差は水酸化ナトリウムの性質と危険性と比べるとはっきりします。

図2:pH の物差しで見る重曹の位置

重曹は中性のすぐ隣で、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムとは大きく離れています。

024678101214中性 7重曹 8.3炭酸ナトリウム 11.7NaOH 約13フェノールフタレインの変色域 8.0〜9.8

※重曹は 0.1 mol/L・25℃、炭酸ナトリウムは濃度の記載なし(いずれも厚生労働省モデルSDS)、水酸化ナトリウムは 0.1 mol/L で完全に電離するとした計算値。条件がそろっていないので位置の目安として見てください。

分解して二酸化炭素を生じる

炭酸水素ナトリウムは、熱したときと酸を加えたときに二酸化炭素を出します。名前に「水素」が入っていますが、水素ガスは発生しません。式の中の H は、分解すると水素ガスではなく水 H2O の一部になって出ていきます。

出てくる二酸化炭素は、水に溶けると炭酸になる酸性酸化物です。酸と塩基の性質を酸化物の側から見る考え方は酸性酸化物・塩基性酸化物の見分け方で扱っており、重曹はこの CO2 を出し入れする塩と見ると性質がつかみやすくなります。

炭酸水素ナトリウムを加熱すると:熱分解の反応式と温度

炭酸水素ナトリウムを加熱すると、2個分がまとまって炭酸ナトリウム、水、二酸化炭素に分かれます。加熱後に残る白い粉は炭酸ナトリウムで、出ていくのは水蒸気と二酸化炭素です。

炭酸水素ナトリウムの熱分解
2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
左右で Na 2個、H 2個、C 2個、O 6個がそろっています。熱を吸って進む吸熱反応で、加熱を続けないと止まります。

分解の始まりは意外に低い温度です。モデルSDS は約50℃以上で分解し始めるとし、医薬品インタビューフォームは次の段階を挙げています。

  • 約50℃:二酸化炭素を失い始める
  • 100℃:セスキ炭酸塩(Na2CO3・NaHCO3・2H2O)になる
  • 270〜300℃で約2時間:炭酸ナトリウムになる

保管場所の温度が上がる夏場や、乾燥機の熱がかかる工程では、少しずつ CO2 が抜けて品質が落ちるおそれがあります。医薬品の資料が「湿った空気中で徐々に分解する」として貯法を密閉容器と定めているのも、この分解しやすさのためです。

なぜ加熱で分解するのか

塩化ナトリウムや炭酸ナトリウムは、融点まで加熱しても分解しません。炭酸ナトリウムの融点は約850℃です。重曹だけが低い温度で分解するのは、炭酸水素イオンが自分の中に H+ を持っているからです。

隣り合う2個の HCO3− のあいだで H+ が受け渡されると、片方は炭酸イオン CO32− に、もう片方は炭酸 H2CO3 になります。炭酸は不安定で、すぐに水と二酸化炭素に分かれます。

H+ の受け渡しと炭酸の分解
2HCO3− ⇄ CO32− + H2CO3
H2CO3 ⇄ H2O + CO2
まとめると
2HCO3− ⇄ CO32− + H2O + CO2
加熱で H2O と CO2 が気体になって系の外へ出ていくため、平衡が右へ引っぱられ続けます。

生成物の気体が出ていくと、ルシャトリエの原理(平衡は変化を打ち消す向きに移る)により平衡は右へ動き、分解が最後まで進みます。平衡が濃度や温度で動く考え方は、ハーバーボッシュ法とルシャトリエの原理と共通です。

計算例:加熱で重さはどれだけ減るか

熱分解では水と二酸化炭素が抜けるので、重さが減ります。この減り方は試料の純度を確かめる目安にもなるため、式量から理論値を出しておくと便利です。

① 質量の減少率(式量:NaHCO3 84.01、Na2CO3 105.99)
減少率 = 1 − 105.992 × 84.01
= 1 − 0.631 = 36.9%
② 重曹 1 kg から出る CO2
1,000 g84.01 g/mol = 11.90 mol
→ CO2 はその半分の 5.95 mol
5.95 mol × 44.01 g/mol = 262 g
0℃・1気圧の体積で 約133 L
2 mol の NaHCO3 から CO2 が 1 mol できます。気体の体積は 1 mol = 22.4 L(0℃・1気圧)で計算しました。純粋な重曹がすべて分解したときの理論値です。

100 g の重曹を十分に加熱すると、約63 g の炭酸ナトリウムが残る計算です。減り方が理論値より小さければ、もともと炭酸ナトリウムなど分解しない成分が混ざっていたか、加熱が足りなかったことを示します。

加熱実験のやり方と注意点

実験室では、乾いた試験管に重曹を入れ、口を少し下げて固定してガスバーナーで加熱します。出てきた気体を石灰水に通すと白く濁るので、二酸化炭素だと確かめられます。白く濁る理由と CO2 を吹き込み続けたときの変化は石灰水と二酸化炭素の反応で解説しています。

図3:重曹の加熱実験と2つの注意点

試験管の口を下げることと、火を止める前にガラス管を抜くことが、割れ事故を防ぐ要点です。

重曹(NaHCO₃)石灰水ガスバーナー① 口を少し下げる:できた水が加熱部に戻ると割れる② 火を消す前にガラス管を抜く(逆流を防ぐ)

※装置は説明用に簡略化しています。加熱後の試験管は高温なので、冷めるまで触らないでください。

試験管の口を下げるのは、分解でできた水が試験管の口付近で冷えて液体になり、熱い底のほうへ流れ戻ると、急に冷えた部分のガラスが割れるからです。火を止める前にガラス管を石灰水から抜くのは、冷えて縮んだ試験管内の気体に液が吸い込まれる逆流を防ぐためです。

炭酸水素ナトリウムに塩酸を加えると:弱酸遊離反応

炭酸水素ナトリウムに塩酸を加えると、泡を出して二酸化炭素が発生し、液には塩化ナトリウムが残ります。強い酸が、弱い酸である炭酸を塩から追い出す反応で、弱酸遊離と呼ばれます。

塩酸との反応
NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2
酢酸(食酢)との反応
NaHCO3 + CH3COOH
→ CH3COONa + H2O + CO2
どちらも、イオンだけで書くと同じ式になる
HCO3− + H+ → H2O + CO2
いったんできた炭酸 H2CO3 が、すぐに H2O と CO2 に分かれます。炭酸より強い酸なら、塩酸・酢酸・クエン酸など種類を問わず同じように CO2 が出ます。

反応に関わらない Na+ や Cl− を消して書くと、本質は HCO3− が H+ を受け取る1つの反応に絞れます。この書き方の手順はイオン反応式の書き方で練習できます。

化学の実験室では、この性質を物質の分け取りに使います。カルボン酸を含む有機溶媒に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて振ると、カルボン酸だけが塩になって水層へ移り、フェノールは移りません。手順は分液漏斗で酸・塩基を分ける方法で図解しています。

炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムの違い

重曹を加熱した後に残る炭酸ナトリウム(ソーダ灰)は、名前は似ていても性質が大きく違います。重曹は溶けにくく塩基性が弱く、炭酸ナトリウムは溶けやすく塩基性が強いと覚えると、ほかの違いも理由ごと整理できます。

比べる観点炭酸水素ナトリウム(重曹)炭酸ナトリウム(ソーダ灰)
化学式NaHCO3Na2CO3
水への溶けやすさ8.7 g/100 mL(20℃)30.7 g/100 g(25℃)
水溶液の pH8.3(0.1 mol/L、25℃)11.7(濃度の記載なし)
加熱したとき約50℃から分解して CO2 と水を出す分解せず、約850℃で融ける
風解しない十水和物の結晶は空気中で風解する
目に入ったとき(GHS)区分外眼に対する重篤な損傷 区分1
主な用途食品のふくらし粉・制酸剤・排ガス処理・消火剤・入浴剤ガラス・洗剤・化学品の原料
出典:厚生労働省 職場のあんぜんサイト モデルSDS「炭酸水素ナトリウム」「炭酸ナトリウム」、医薬品インタビューフォーム、融点はコトバンク「炭酸ナトリウム」。溶けやすさは単位と温度、pH は濃度の条件が異なります

炭酸ナトリウムの十水和物は、空気中に置くと結晶水を失って粉っぽく崩れる風解を起こします。重曹は結晶水を持たないので風解しません。風解と潮解の違いや起きる物質の例は、風解とは:潮解との違いで整理しています。

加熱の前後で別の物質になったことは、溶けやすさと液性で確かめられます。同じ量の水に溶かすと、加熱前の重曹は溶け残りやすく、加熱後の粉はよく溶けます。フェノールフタレインを加えると、重曹の液はほとんど色づかないかごく薄い赤、加熱後の液ははっきり赤くなります。

炭酸水素ナトリウムの製法:アンモニアソーダ法と精製重曹

炭酸水素ナトリウムは、アンモニアソーダ法(ソルベー法)で大量につくられます。アンモニアを溶かした濃い食塩水に二酸化炭素を吹き込むと、溶けにくい炭酸水素ナトリウムが結晶になって沈みます。

アンモニアソーダ法の炭酸化(炭酸化塔の中の反応)
NaCl + NH3 + H2O + CO2 → NaHCO3 + NH4Cl
左右で Na 1個、Cl 1個、N 1個、H 5個、C 1個、O 3個がそろっています。溶液に残る塩化アンモニウムは、石灰で処理してアンモニアを取り戻します。

ここで沈む粗い重曹の大部分は、そのまま焼成炉で加熱され、熱分解の式どおりに炭酸ナトリウム(ソーダ灰)に変えられます。石灰炉から炭酸化塔、アンモニアの回収までの5つの工程と全体の反応式はソルベー法(アンモニアソーダ法)の反応式と工場で詳しく扱っています。

食品や医薬に使う重曹は、この粗重曹とは別に「精製重曹」としてつくります。欧州連合の技術資料(BREF、2007年)によると、ソーダ灰を水に溶かした炭酸ナトリウム溶液を重炭酸化塔へ送り、CO2 を吹き込んで重曹を析出させます。

精製重曹をつくる反応(重炭酸化)
Na2CO3 + H2O + CO2 → 2NaHCO3
熱分解の逆向きの反応です。CO2 はソーダ灰工場の石灰炉ガスの余りを使います。結晶をろ過・遠心分離で分け、母液は戻して使い回します。

図4:粗重曹と精製重曹ができるまで

ソーダ灰工場の中で、重曹は「途中の物質」と「製品」の両方として現れます。

ソーダ灰をつくる流れ(粗重曹)

STEP 1アンモニア食塩水濃い食塩水にアンモニアを吸収させる
STEP 2炭酸化塔で粗重曹CO₂ を吹き込み、溶けにくい NaHCO₃ を沈める
STEP 3焼成してソーダ灰加熱で Na₂CO₃ に。出た CO₂ は炭酸化塔へ戻す

製品の重曹をつくる流れ(精製重曹)

STEP 4ソーダ灰を溶かす炭酸ナトリウムの溶液をつくる
STEP 5重炭酸化塔石灰炉ガスの CO₂ で NaHCO₃ を再び結晶に
STEP 6ろ過・乾燥・粒度分け熱風で乾かし、ふるい分けて袋・ばらで出荷

※欧州連合の技術資料(BREF「Large Volume Inorganic Chemicals – Solids and Others」2007年)の工程図をもとに作成。

一度溶かしてから結晶をつくり直すので、不純物が母液側に残り、純度が上がります。溶かして結晶を育て直すことで不純物を除く考え方は、再結晶の原理と工業晶析と同じです。

同じ資料によると、2002年時点の世界の精製重曹の生産能力は約240万 t/年で、米国が80万 t、EU-25 が65万 t、日本は10.5万 t でした。

20年以上前の値なので現在の規模とは異なりますが、同じ資料で EU-25 のソーダ灰の能力(約780万 t)と比べると1割に満たず、高い純度で少量をつくる製品だと分かります。

ここまでの「溶けにくい」「弱い塩基」「熱や酸で CO2 を出す」という性質は、工場ではそのまま品質の管理項目や使い道の理由になります。

工場での品質規格:食品添加物公定書の試験を読む

食品に使う炭酸水素ナトリウムは、厚生労働省と消費者庁がまとめる食品添加物公定書(第10版、2024年)の規格に合っていなければなりません。中心になる値は、乾燥したものの含量が NaHCO3 として99.0%以上であることです。

試験の項目は、前半で見た性質と製法を知っていると意味が読めます。主な項目と、それぞれが何を確かめているかを表にしました。

試験項目公定書の規格何を確かめているか
含量乾燥物で NaHCO3 99.0%以上ほとんどが重曹そのものであること
溶状1.0 g を水20 mL に溶かして澄明水に溶けない異物や濁りの元がないこと
塩化物Cl として0.021%以下原料の食塩が残っていないこと
炭酸塩15℃以下で溶かし、0.1 mol/L 塩酸2.0 mL とフェノールフタレインを加えて直ちに赤くならない熱分解でできる炭酸ナトリウムが多く混ざっていないこと
アンモニウム塩加熱してアンモニアのにおいがしない製法の途中のアンモニウム塩が残っていないこと
鉛・ヒ素Pb 2 µg/g 以下、As 3 µg/g 以下有害な重金属などが少ないこと
乾燥減量0.25%以下(4時間)余分な水分が少ないこと
出典:食品添加物公定書 第10版(2024年、厚生労働省・消費者庁)「炭酸水素ナトリウム」。「何を確かめているか」は試験の内容と製法からの読み取りで、公定書の記載ではありません

炭酸塩の試験は、前の章の確認実験と同じ原理で、重曹だけなら塩酸を少し加えた液は pH が下がってフェノールフタレインが赤くならず、炭酸ナトリウムが多く混ざっていると塩基性が強く残って赤くなります。

溶かす温度を15℃以下にするのは、溶かす途中で重曹が分解しないようにするためと読めます。15℃を超える水で時間をかけて溶かすと、分解でできた炭酸ナトリウムが混ざっていたように見えてしまうからです。

塩化物とアンモニウム塩の試験も、アンモニアソーダ法で食塩とアンモニアを使い、母液に塩化アンモニウムが残る製法を考えると意味がつかめます。規格を満たすかどうかを出荷ごとに判定して記録する品質保証の仕事の全体像は、品質保証・品質管理の役割で解説しています。

品質管理の試験室で白い粉の試料溶液をビュレットで滴定する手元

定量法:硫酸で滴定して純度を出す

含量は、乾燥した試料約2 g を水25 mL に溶かし、0.5 mol/L 硫酸で滴定して求めます。指示薬はブロモフェノールブルーで、公定書には「0.5 mol/L 硫酸 1 mL = 84.01 mg NaHCO3」という換算が書かれています。

滴定の反応と換算の根拠
2NaHCO3 + H2SO4 → Na2SO4 + 2H2O + 2CO2
0.5 mol/L × 1 mL = H2SO4 0.5 mmol
→ NaHCO3 1.0 mmol = 84.01 mg
試料 2.000 g が純粋な重曹だったときの滴定量
2,000 mg84.01 mg/mL = 約23.8 mL
硫酸は1 mol で H+ を2 mol 出すので、重曹 2 mol と反応します。実際の含量(%)は、滴定量 × 84.01 mg ÷ 試料の質量 × 100 で出します。

公定書は、終点の近くで一度煮沸して二酸化炭素を追い出し、冷やしてから滴定を続けるよう定めています。溶けた CO2 が炭酸として液を酸性側に寄せ、指示薬の色が本当の終点より早く変わってしまうのを防ぐ操作です。

炭酸水素ナトリウムの用途:性質から読む6つの使い道

重曹の使い道は、前半で見た性質のどれを使うかで整理できます。CO2 を出す性質はふくらし粉・入浴剤・消火剤に、弱い塩基は制酸剤と排ガス処理に、やわらかく水に溶けることはブラスト洗浄に生かされています。

図5:炭酸水素ナトリウムの6つの使い道と使われる性質

同じ白い粉が、CO₂ を出す・酸を中和する・やわらかいという性質で使い分けられています。

ふくらし粉酸と反応して出る CO₂ で生地をふくらませる
制酸剤胃酸を中和する。透析液にも使われる
排ガス処理焼却炉の塩化水素・硫黄酸化物を中和
消火剤第一種粉末として油・電気の火災に
入浴剤有機酸と組み合わせて湯の中で CO₂ を出す
ブラスト洗浄やわらかい粒で母材を傷めず塗膜を落とす

※食品添加物公定書、医薬品インタビューフォーム、武蔵野市の焼却施設計画資料、消防法施行規則、日本浴用剤工業会、米国特許 US5160547 などをもとに作成。

欧州連合の技術資料には、2002年の EU-15 での精製重曹の使われ方の内訳が載っています。飼料43%、パーソナルケア・医薬18%、排ガス処理11%、製パン・食品10%、洗剤7%、消火器2%です。

地域も年も限られた数字ですが、家畜の飼料が最大の用途で、食品は一部にすぎないことが分かります。

ベーキングパウダーと食品添加物

使われる性質は「酸と反応して CO2 を出す」ことです。ベーキングパウダーは重曹を主体に、中和のための酸剤(リン酸塩、ミョウバン、酒石酸水素カリウムなど)と、保存中の反応を防ぐデンプンを混ぜたものです(日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典)。

酸剤(酒石酸水素カリウム)との反応の例
NaHCO3 + KHC4H4O6
→ KNaC4H4O6 + H2O + CO2
左右で H 6個、C 5個、O 9個などがそろっています。粉のままでは反応せず、水を加えたり加熱したりすると反応が進み、出た CO2 が生地の中で泡になります。

重曹だけで生地をふくらませると、熱分解でできる炭酸ナトリウムが残って生地がアルカリ性に傾き、苦みや臭み、風味の低下、ビタミン B1・C の分解が起きます。酸剤を組み合わせるのは、CO2 を出しながら、残る物質を中性に近づけるためです。

食品の表示では、ベーキングパウダーの成分は「膨脹剤」などの一括名でまとめて書けます。食品工場では、原料の受け入れで規格書と試験成績を確かめ、配合量と保管を管理するのが基本で、こうした管理の進め方は食品工場の HACCP 運用の手順と重なります。

医薬の制酸剤

使われる性質は「胃酸の塩酸をすばやく中和する弱い塩基」であることです。日本薬局方の炭酸水素ナトリウムは制酸剤として使われ、医薬品インタビューフォームは速効性の制酸作用を持つと説明しています。

同じ資料は、中和で出た CO2 が胃の粘膜を刺激して二次的に胃酸の分泌を促すこと、消化管から吸収されやすく、使いすぎると血液がアルカリ性に傾くアルカローシスを起こすことも挙げています。CO2 を出す性質は、医薬では注意点にもなります。

欧州連合の資料は、医薬向けの用途として発泡錠や血液透析も挙げています。食品と医薬のどちらでも、使う側は公定の規格に合ったグレードを選び、工業用の重曹とは区別して扱います。

排ガス処理:乾式の脱塩化水素・脱硫

使われる性質は「酸性のガスを中和する塩基」であることです。ごみを燃やした排ガスには、塩化ビニルなどから出る塩化水素(HCl)や、硫黄酸化物(SOx)が含まれます。これを中和して取り除くのが酸性ガスの処理です。

武蔵野市の焼却施設の計画資料(2010年)によると、近年は消石灰 Ca(OH)2 や重曹の粉を排ガスに吹き込み、バグフィルタ(ろ布の集じん器)の表面で酸性ガスを中和する乾式の方法が主流です。煙道で熱を受けた重曹は、まず熱分解して炭酸ナトリウムになり、それが酸性ガスと反応します。

煙道の中で重曹が熱分解する
2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2
塩化水素の除去(脱塩化水素)
Na2CO3 + 2HCl → 2NaCl + H2O + CO2
硫黄酸化物の除去(脱硫)
Na2CO3 + SO2 + ½O2 → Na2SO4 + CO2
塩化水素と硫黄酸化物の2式は武蔵野市の資料による。できた塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム、未反応の薬剤は、ばいじんと一緒にろ布で捕集されます。

図6:ごみ焼却の乾式排ガス処理と重曹の行き先

吹き込んだ重曹はバグフィルタのろ布で酸性ガスと反応し、反応生成物は飛灰として取り出されます。

焼却炉重曹バグフィルタ煙突飛灰(NaCl など)減温した排ガス処理後のガスろ布の表面で中和

※武蔵野市「排ガス処理の方式」「酸性ガス乾式処理における使用薬剤の特性について」(2010年)をもとに簡略化。実際の施設では減温塔・触媒脱硝などの設備が加わります。

同じ資料は、重曹は消石灰より反応の効率が高いので吹き込む量を減らせ、最終処分する灰の量も減らせます。一方で、薬剤の単価が高いことと、塩化水素との反応で塩化ナトリウムができることを課題に挙げています。

消石灰は安く実績が多いものの、バグフィルタの入口温度を低くしないと除去率が下がるとされています。

計算例:塩化水素 1 kg を中和する重曹の理論量
1,000 g36.46 g/mol = 27.4 mol(HCl)
→ 必要な NaHCO3 も 27.4 mol
27.4 mol × 84.01 g/mol = 約2.3 kg
NaHCO3 1 mol が HCl 1 mol を中和します(熱分解を経ても全体の比は同じ)。実際の施設では、反応しきれない分を見込んで理論量より多めに吹き込みます。

排ガス量の求め方は排ガス量の計算方法で、焼却発電の設備をつくる側の事業はごみ焼却発電で世界トップ級のプラントメーカーの記事で読めます。

消火剤(BC 粉末)・入浴剤・ブラスト洗浄

消火剤で使われる性質は「熱で分解して CO2 と水を出す、燃えない微粉」であることです。消火器用消火薬剤の規格省令は、粉末消火薬剤を防湿加工したナトリウム・カリウムの重炭酸塩やりん酸塩類などと定めています。

同じ省令は、呼び寸法180 µm 以下の微粉であることや、温度30℃・相対湿度80%の槽に48時間置いても質量の増え方が2%以下であることも定めています。重曹が湿気で固まる性質を、防湿加工で抑えているわけです。

消防法施行規則は、炭酸水素ナトリウムを主成分とする粉末を「第一種粉末」と呼び、全域放出方式の粉末消火設備では防護区画 1 m3 あたり 0.60 kg を求めています。

重曹系の粉末は油火災(B)と電気火災(C)に向くことから BC 粉末と呼ばれ、普通火災にも使える ABC 粉末はりん酸塩類が主成分で、規格上は淡紅色に着色されます。

入浴剤について、日本浴用剤工業会は炭酸水素ナトリウムを使う2つの種類を挙げています。炭酸塩と有機酸を組み合わせて湯の中で炭酸ガスを出す「炭酸ガス系」と、重曹などの無機塩類を主成分にして湯を軟らかくする「無機塩類系」です。発泡する錠剤は、湯に溶けたとたんに酸と重曹が反応します。

発泡入浴剤の反応の例(クエン酸との反応)
C6H8O7 + 3NaHCO3
→ Na3C6H5O7 + 3H2O + 3CO2
クエン酸は H+ を3個出せる酸なので、重曹 3 mol と反応します。左右で H 11個、C 9個、O 16個がそろっています。

ブラスト洗浄で使われるのは「やわらかく、水に溶ける」性質です。米国特許 US5160547 によると、炭酸水素ナトリウムのモース硬度は約2.5と低く、砂のような硬い研磨材と違って、アルミ合金や複合材など傷つきやすい母材を削らずに塗膜を落とせます。

使った粉は水で流せる一方、湿気で固まると装置の中で流れにくくなるのが弱点で、保管中の湿気の管理が欠かせません。

炭酸水素ナトリウムのよくある質問

重曹の水溶液にフェノールフタレインを入れると赤くなりますか?

ほとんど色づかないか、ごく薄い赤になる程度です。重曹の水溶液は pH 約8.3(0.1 mol/L)で、フェノールフタレインが色を変え始める pH 8.0 付近にあるため、はっきり赤くなる炭酸ナトリウムの液とは見分けられます。

重曹を手で触っても大丈夫ですか?

pH が中性に近く、厚生労働省のモデルSDS でも急性毒性は区分外とされ、強い塩基のような薬傷は起こしにくい物質です。ただし工場で大量の粉を扱うときは、粉じんを吸い込まないようにし、目に入ったら水で洗い流します。

重曹とセスキ炭酸ソーダの違いは何ですか?

セスキ炭酸ソーダ(セスキ炭酸ナトリウム)は、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムが1:1で組になった Na2CO3・NaHCO3・2H2O で、重曹より塩基性が強くなります。重曹を100℃で加熱したときにもこの形を経て、さらに加熱すると炭酸ナトリウムになります。

重曹はいつまで保管できますか?

湿った空気の中では少しずつ分解して CO2 を失うため、医薬品の資料は貯法を密閉容器としています。高温と湿気を避けて密閉しておけば品質は保たれやすく、ふくらし粉などの性能が気になるときは、少量を酢に入れて泡の出方を確かめると目安になります。

まとめ

この記事のまとめ
  • 炭酸水素ナトリウム(重曹)は NaHCO3、式量84.01のイオン結晶で、水に少し溶け(8.7 g/100 mL、20℃)、水溶液は pH 約8.3の弱塩基性
  • 熱分解は 2NaHCO3 → Na2CO3 + H2O + CO2。約50℃から始まり、270〜300℃で約2時間加熱すると炭酸ナトリウムになる。重さは理論上36.9%減る
  • 塩酸などの酸を加えると弱酸遊離で CO2 が出る。イオン反応式は HCO3− + H+ → H2O + CO2
  • 炭酸ナトリウムは溶けやすく塩基性が強く、加熱で分解しない。アンモニアソーダ法では粗重曹を焼いてソーダ灰に、精製重曹はソーダ灰の溶液に CO2 を吹き込んでつくる
  • 食品添加物公定書は含量99.0%以上と、塩化物・炭酸塩・アンモニウム塩などの試験を定める。用途はふくらし粉・制酸剤・排ガス処理・第一種粉末の消火剤・入浴剤・ブラスト洗浄

重曹の化学は、HCO3− が H+ を受け取って CO2 を出すという一点に集まり、それが液性の弱さ、熱への弱さ、ふくらし粉や排ガス処理での働きにつながっています。ソーダ灰から重曹、食品や環境設備へと続く化学品の流れは、化学業界のサプライチェーンから見渡せます。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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