アルコールは、炭化水素の水素を−OH(ヒドロキシ基)に置きかえた形の化合物の総称です。沸点・水への溶けやすさ・液性といった性質のほとんどは、この−OHが分子どうしや水と水素結合をつくることから説明できます。
同じ分子式のエーテルより沸点がずっと高く、炭素の少ないメタノールやエタノールは水と自由に混ざります。水溶液は中性なのに、金属ナトリウムを入れると水素を出して溶けるのもアルコールの特徴です。
工場では、メタノール・エタノール・IPA(2-プロパノール)が洗浄や消毒の溶剤に、エチレングリコールが不凍液やPETの原料に使われています。
どの性質も「−OHの水素結合」と「炭素の鎖の大きさ」の綱引きで決まります。
※反応のうち、酸化(アルデヒド・ケトンになる)と脱水(エーテル・アルケンになる)は別の記事で扱います。
アルコールとは:−OH(ヒドロキシ基)をもつ化合物
アルコールは、鎖状や環状の炭化水素の炭素に−OHが付いた化合物です。エタノールCH3CH2OHなら、エタンCH3CH3の水素1個を−OHに置きかえた形で、−OHのように性質を決める原子のまとまりを官能基と呼び、アルコールの官能基がヒドロキシ基です。
ただし、ベンゼン環の炭素に−OHが直接付いたものはアルコールに入れず、フェノール類として別に扱います。フェノールは−OHの電子がベンゼン環に引き込まれて水素イオンを出しやすく、水溶液が弱い酸性を示すため、中性のアルコールとは性質がはっきり違うからです。
分子の残りの部分(炭素と水素の鎖)は、アルキル基と呼ばれ、まとめてRで表します。アルコールはR−OHと書けるので、性質は「水になじむ−OH」と「油になじむR」の釣り合いで考えると見通しがよくなります。
アルコールの分類:価数・級数・炭素数の3つの物差し
アルコールは、−OHの数(価数)、−OHが付いた炭素のまわり(級数)、炭素の数(分子量)の3つで分類します。3つは別々の物差しなので、同じアルコールでも「1価・第二級・低級」のように3つの名前を同時にもちます。
価数は−OHの数、級数は−OHが付いた炭素の混み具合、炭素数は分子の大きさを見ます。
※例:2-プロパノールは「1価・第二級・低級」、グリセリンは「3価・低級」です。
価数:−OHの数で1価・2価・3価(多価アルコール)
1分子の中の−OHの数を価数といい、エタノールのように−OHが1個なら1価アルコールです。エチレングリコールHO−CH2−CH2−OHは−OHが2個なので2価、グリセリンHOCH2−CH(OH)−CH2OHは3個なので3価になります。
2価以上をまとめて多価アルコールと呼び、−OHが多いぶん水素結合が増えるので、炭素数が同じ1価アルコールより沸点が高く、粘りが強く、水によく混ざります。エチレングリコールの沸点は197.4℃で、炭素数が同じエタノール(78.4℃)より約120℃高い値です。
級数:−OHが付いた炭素に、ほかの炭素がいくつ付くか
級数は、−OHが付いた炭素に、ほかの炭素(アルキル基)がいくつ結合しているかで決まります。1個なら第一級、2個なら第二級、3個なら第三級で、炭素が1個増えるたびに、その炭素に付いている水素は1個ずつ減っていきます。
−OHが付いた炭素Cのまわりの4本の手のうち、Rが何本かを数えます。
※R はアルキル基(炭素の鎖)。メタノールCH₃OHは炭素が1個だけでRがありませんが、水素を3個もち酸化のされ方が第一級と同じなので、第一級と同じ仲間として扱うのが一般的です。
同じ炭素3個のプロパノールでも、端の炭素に−OHが付いた1-プロパノールCH3CH2CH2OHは第一級、真ん中に付いた2-プロパノールCH3CH(OH)CH3は第二級です。
炭素4個で枝分かれした2-メチル-2-プロパノール(CH3)3COHは、−OHの付いた炭素にほかの炭素が3個付いた第三級です。同じ炭素4個の1-ブタノール(第一級)と並べると、級数による性質の違いがよく分かります。
級数は、酸化されたときの行き先を決める物差しとしても重要です。第一級はアルデヒドを経てカルボン酸に、第二級はケトンになり、第三級はふつうの酸化剤では酸化されません。反応式と理由はアルコールの酸化反応で、生成物のC=Oの性質はカルボニル基の記事で詳しく扱っています。
炭素数(分子量):低級アルコールと高級アルコール
炭素の数が少ないアルコールを低級アルコール、多いものを高級アルコールと呼びます。境目は資料によって違いますが、炭素5個以下を低級、6個以上を高級とする分け方が目安としてよく使われます。ここでの「高級」は品質が良いという意味ではなく、分子量が大きいという意味です。
高級アルコールの代表が、炭素12個の1-ドデカノールC12H25OH(ラウリルアルコール)です。水にはほとんど溶けず、硫酸エステルにした界面活性剤が合成洗剤や湿潤剤の原料になるので、身近な洗剤の中にも高級アルコール由来の成分が入っています。
アルコールの性質:物理的性質と化学的性質
物質の性質は、沸点・融点・溶けやすさのように分子が変わらずに現れる物理的性質と、酸・塩基としての振る舞いや反応のように分子が変化する化学的性質に分けて考えます。アルコールの場合、物理的性質は主に−OHどうしの水素結合で、化学的性質は主にO−H結合の切れやすさで決まります。
どちらも出発点は同じで、酸素が電子を強く引きつけるため、O−H結合の水素がわずかにプラス、酸素がわずかにマイナスに偏っています。電気陰性度の差がつくるこの偏りが、分子どうしを引き寄せる力にも、水素がイオンとして外れるかどうかにも関わってきます。
物理的性質:分子どうしが水素結合でつながる
アルコールの−OHでは、プラスに偏った水素が、隣の分子のマイナスに偏った酸素に引き寄せられます。この引き合いが水素結合で、アルコールの液体では−OHどうしが水素結合で次々につながり、分子が離れて気体になるのを引き留めています。
水素結合は、どの分子の間にも働くファンデルワールス力(分子どうしの弱い引力)よりずっと強い引力です。そのため、アルコールの沸点は同じくらいの分子量の炭化水素やエーテルより高くなり、分子の極性だけでは説明しきれない差が生まれます。
アルコールはO−Hの水素が隣の酸素に向かって手を伸ばせますが、エーテルには伸ばす水素がありません。
※エーテルの酸素は、水やアルコールの水素から水素結合を受け取ることはできます。エーテルどうしの間では水素結合ができません。
アルコールとエーテル:同じ分子式でも沸点が100℃前後違う
エタノールC2H5OHとジメチルエーテルCH3OCH3は、どちらも分子式C2H6Oの異性体です。それでも沸点はエタノールが78.4℃、ジメチルエーテルが約−25℃で、室温でエタノールは液体、ジメチルエーテルは気体という大きな差があります。
炭素4個でも同じで、1-ブタノールの沸点117.5℃に対し、異性体のジエチルエーテルは34.6℃で、差は80℃を超えます。
エーテルのC−O−Cにも電荷の偏り(極性)はありますが、酸素に水素が付いていないため、エーテルの分子どうしでは水素結合をつくれず、引き合う力がファンデルワールス力と極性による弱い引力だけになります。
この沸点の差は、実験や工場で2つを分ける手がかりにもなります。アルコールを濃硫酸と温めて2分子から水を取るとエーテルができ、沸点の低いエーテルを先に蒸留で取り出せます。この反応の条件と仕組みはアルコールの脱水反応で整理しています。
級数と沸点:第三級ほど沸点が低い
分子式が同じアルコールどうしでは、級数が大きいほど沸点が下がります。分子式C4H10Oの仲間では、第一級の1-ブタノールが117.5℃、第二級の2-ブタノールが約99℃です。第三級の2-メチル-2-プロパノールは82.4℃で、第一級から第三級へ35℃ほど下がります。
分子量は5つとも同じ74ですが、級数・枝分かれ・−OHの有無で沸点が80℃以上変わります。
※値はNIST Chemistry WebBookの沸点(1気圧)をセルシウス度に換算したもの。2-ブタノールは資料の幅が±1℃あるため「約」を付けています。
主な理由は2つ考えられます。1つは、−OHのまわりにアルキル基が多いと隣の分子の−OHが近づきにくく、水素結合をつくる向きや距離が限られて、引き合う力が弱くなることです。もう1つは、第三級ほど分子が球に近い形になり、分子どうしが触れ合う面積が小さくなることです。
| 物質 | 分子式 | 種類 | 沸点(℃) |
|---|---|---|---|
| 水 | H2O | — | 100.0 |
| メタノール | CH4O | 1価・第一級扱い | 64.7 |
| エタノール | C2H6O | 1価・第一級 | 78.4 |
| ジメチルエーテル | C2H6O | エーテル | 約−25 |
| 1-プロパノール | C3H8O | 1価・第一級 | 97.2 |
| 2-プロパノール(IPA) | C3H8O | 1価・第二級 | 82.4 |
| 1-ブタノール | C4H10O | 1価・第一級 | 117.5 |
| 2-メチル-1-プロパノール | C4H10O | 1価・第一級 | 107.7 |
| 2-ブタノール | C4H10O | 1価・第二級 | 約99 |
| 2-メチル-2-プロパノール | C4H10O | 1価・第三級 | 82.4 |
| ジエチルエーテル | C4H10O | エーテル | 34.6 |
| 1-ペンタノール | C5H12O | 1価・第一級 | 約138 |
| 1-ヘキサノール | C6H14O | 1価・第一級 | 約157 |
| エチレングリコール | C2H6O2 | 2価 | 197.4 |
表1を縦に読むと、直鎖の第一級アルコールでは炭素が1個増えるごとに沸点がおよそ14〜21℃ずつ上がっていきます。炭素の鎖が長くなるとファンデルワールス力が強くなる効果が、−OHの数が同じまま積み重なるためです。
級数が同じなら直鎖のほうが沸点が高い
分子式も級数も同じなら、枝分かれのない直鎖のほうが沸点は高くなります。どちらも第一級の1-ブタノール(117.5℃)と2-メチル-1-プロパノール(107.7℃)では、−OHのまわりの混み具合は同じでも、枝分かれのある後者が約10℃低い値です。
この差をつくるのは水素結合ではなく、ファンデルワールス力です。細長い直鎖の分子は隣の分子と横に並んで広い面で接しますが、枝分かれした分子は丸く縮こまっていて接触する面積が小さく、そのぶん引き合う力が弱くなります。
工場では、こうした沸点の差を使って異性体どうしを蒸留塔で分けます。沸点の近いものほど段数の多い塔と大きな還流が必要になるため、異性体の沸点差は、精製にかかる設備とエネルギーの大きさを見積もる最初の手がかりになります。
化学的性質:中性・水溶性・ナトリウムとの反応
アルコールの化学的性質は、O−H結合の水素がイオンとして外れやすいかどうかと、分子全体が水にどれだけなじむかで整理できます。対象は液性、水溶性、ナトリウムとの反応の3つで、酸化や脱水のように炭素の骨格が変わる反応は別の記事で扱います。
液性:−OHをもつのに中性である理由
アルコールの水溶液は中性で、リトマス紙の色を変えません。−OHという字面は水酸化ナトリウムNaOHと同じですが、NaOHのOHは水に溶けると水酸化物イオンOH−として離れるのに対し、アルコールの−OHは炭素と共有結合でつながっていて外れません。
pKaが16前後なら、水素イオンを出すエタノール分子の割合は極めて小さくなります。純水も25℃でわずかに電離していますが(水のイオン積は1.0×10−14)、アルコールが出す水素イオンは水自身の電離と同じ程度かそれ以下なので、溶かしてもpHはほぼ7のままです。
同じ−OHをもつ水酸化ナトリウムが強い塩基になるのは、ナトリウムと酸素の結合がイオン結合だからです。水酸化ナトリウムのように金属と−OHがイオンで結びついた物質と、炭素と−OHが共有結合でつながったアルコールとは、形が似ていても別の仲間だと考えると混乱しません。
水溶性:炭素が増えるほど水に溶けにくくなる
アルコールの分子は、水と水素結合をつくる−OH(親水基)と、水をはじく炭素の鎖R(疎水基)の両方をもっています。炭素が少ないうちは−OHの力が勝って水と自由に混ざり、炭素が増えるにつれて疎水基の性質が強くなって溶けにくくなります。
| 物質 | 炭素数 ÷ −OHの数 | 25℃の水への溶けやすさ |
|---|---|---|
| メタノール | 1 | 自由に混ざる |
| エタノール | 2 | 自由に混ざる |
| 1-プロパノール・2-プロパノール | 3 | 自由に混ざる |
| 2-メチル-2-プロパノール(第三級) | 4 | 自由に混ざる |
| 2-ブタノール(第二級) | 4 | 181 g/L |
| 2-メチル-1-プロパノール | 4 | 85 g/L |
| 1-ブタノール | 4 | 63 g/L |
| 1-ペンタノール | 5 | 22 g/L |
| 1-ヘキサノール | 6 | 5.9 g/L |
| 1-オクタノール | 8 | 0.54 g/L |
| 1-ドデカノール | 12 | 0.004 g/L |
| エチレングリコール | 1(2÷2) | 自由に混ざる |
| グリセリン | 1(3÷3) | 自由に混ざる |
表2のとおり、炭素3個のプロパノールまでは水と任意の割合で混ざり、炭素4個のブタノールから溶ける量に限りが出てきます。そこから炭素が1個増えるごとに溶ける量はおよそ3〜4分の1に減り、炭素12個の1-ドデカノールでは1 Lに4 mgしか溶けません。
「炭素数 ÷ −OHの数」が3以下なら水と自由に混ざる、が目安です。
※値はPubChem(25℃)。「3以下」は経験的な目安で、分子の形によって外れるものがあります。
この目安は、炭素数を−OHの数で割って3以下なら水と混ざる、という形で覚えると多価アルコールにも使えます。C2H5OHは2÷1=2で水と混ざり、C6H13OHは6÷1=6で溶けにくい側に入り、グリセリンは3÷3=1でよく溶けます。
ただし目安なので例外もあり、炭素4個でも第三級の2-メチル-2-プロパノールは水と自由に混ざります。炭素4個が−OHの付いた炭素のまわりに丸くまとまり、水に触れる疎水基の表面が小さいためと説明されます。
水に溶けにくいアルコールは、水と2層に分かれる性質を使って、水溶液から油になじむ成分を抜き出す溶媒に使えます。1-ブタノールや1-オクタノールを使った分液漏斗での抽出は、この溶けにくさを利用した操作です。
ナトリウムとの反応:中性なのに水素が発生する
アルコールは中性ですが、金属ナトリウムを入れると泡を出して反応し、水素が発生します。水に溶かしたときにはほとんど外れなかったO−Hの水素が、電子を出しやすいナトリウムを相手にすると水素分子として奪われるためで、酸の強さとは別の話です。
水との反応と同じ形ですが、エタノールとの反応は水より穏やかに進みます。アルキル基があるぶんO−Hの水素がわずかに外れにくく、第一級より第二級、第二級より第三級と、アルキル基が大きいほど反応は遅くなります。
O−Hをもつ水とエタノールは水素を出し、O−Hのないエーテルは反応しません。
※灰色の小片がナトリウム。ナトリウムは水より軽く水面に浮き、エタノール・ジエチルエーテルより重いので底に沈みます。
エーテルは同じ分子式のアルコールと見分けにくいのですが、O−Hをもたないのでナトリウムとは反応しません。分子式が同じ2つの物質のうち、ナトリウムで水素が出るほうがアルコール、出ないほうがエーテルと判断できるので、構造決定でよく使われる見分け方です。
発生する水素の量は、反応式の係数から計算できます。アルコール2分子から水素1分子ができるので、エタノール1 molがすべて反応すると水素は0.5 molになります。
金属ナトリウムは空気中の水分とも反応するため、灯油などに沈めて保管し、消防法では第3類の危険物(指定数量10 kg)として扱われます。工業的なつくり方はナトリウムの溶融塩電解で、同じ族のリチウムやカリウムとの比較はアルカリ金属の性質にまとめています。
この反応は工業でも使われ、溶融したナトリウムとメタノールを反応させるとナトリウムメトキシドCH3ONaができます。ナトリウムメトキシドは、油脂からバイオディーゼル(脂肪酸メチルエステル)をつくるときのアルカリ触媒や、医薬品の中間体を合成する試薬として使われています。
実際の工場では:メタノール・エタノール・IPAを溶剤に使う

ここまでの性質を工場の目で見直すと、低級アルコールは「水にも油にもなじみ、沸点が低く、蒸発しやすい液体」です。汚れを溶かして拭き取ったあと短時間で乾き、水を含む汚れにも油を含む汚れにも使えるので、メタノール・エタノール・IPAは洗浄・消毒・希釈の溶剤として幅広く使われています。
洗浄と消毒:水にも油にもなじんで、すぐ乾く
IPA(2-プロパノール)は、油や樹脂、化粧品原料の溶剤として使われ、半導体の製造現場でも使われる溶剤の1つです。電子基板や部品の拭き取りでは、指の脂やはんだ付けの後に残る樹脂を溶かし、沸点82.4℃と低いので水よりも早く乾いて、部品のすき間に水分を残しにくいのが利点です。
エタノールは消毒の主役で、厚生労働省などの案内では、濃度70%以上95%以下のエタノールをよくすり込む方法が示されています。
アルコールはウイルスの膜を壊して働き、同じ案内では70%以上が手に入らないときは60%台を使ってもよいとしています。手指に使う製品は、医薬品・医薬部外品の表示があるものを選びます。
溶剤を選ぶときは、汚れの種類だけでなく、材料への影響と安全面を合わせて比べます。現場で比べる観点は次のとおりです。
- 汚れとの相性:水溶性の汚れか、油・樹脂(フラックスなど)か
- 材料への影響:樹脂やゴム、塗装を膨らませたり白くしたりしないか
- 乾き方と跡:乾く速さ、拭き跡やしみが残らないか
- 引火性と法令:引火点、消防法の区分、有機溶剤中毒予防規則の対象か
- 人への影響と後始末:吸い込んだときの毒性、廃液の処理方法
半導体や電子部品の工場で溶剤がどこに使われるかは、半導体の前工程の流れで洗浄工程ごとに整理しています。溶剤を新しく使い始めるときは、工場のリスクアセスメントの手順で、引火と吸入の両方の危険を洗い出しておくのが基本です。
引火点と消防法:「アルコール類」に入るもの・入らないもの
低級アルコールは引火点(火を近づけると燃え始める最低温度)が10〜20℃前後と低く、暖房した冬の室内でも引火する温度です。消防法では第4類の引火性液体のうち「アルコール類」という品名があり、炭素数1〜3個の飽和1価アルコール(変性アルコールを含む)だけがこの品名に入ります。
そのため、炭素4個のブタノールや、2価のエチレングリコール、3価のグリセリンは、化学ではアルコールでも消防法のアルコール類には入らず、引火点の高さで第一〜第三石油類に分かれます。炭素1〜3個のアルコールでも、含有量が60%未満の水溶液はアルコール類から外れます。
| 物質 | 引火点(密閉式) | 消防法の品名 | 指定数量 |
|---|---|---|---|
| メタノール | 約9〜11℃ | アルコール類 | 400 L |
| エタノール | 約12〜14℃ | アルコール類 | 400 L |
| 2-プロパノール(IPA) | 約12℃ | アルコール類 | 400 L |
| 1-プロパノール | 約15〜23℃ | アルコール類 | 400 L |
| 1-ブタノール | 約29〜37℃ | 第二石油類(非水溶性) | 1,000 L |
| エチレングリコール | 約111℃ | 第三石油類(水溶性) | 4,000 L |
| グリセリン | 約176℃ | 第三石油類(水溶性) | 4,000 L |
| (参考)ジエチルエーテル | 約−45℃ | 特殊引火物 | 50 L |
指定数量以上の危険物は、原則として、許可を受けた製造所・貯蔵所・取扱所でしか貯蔵や取り扱いができません。品名の違う危険物を同じ場所に置くときは、それぞれの数量を指定数量で割った値を足し、合計が1以上なら指定数量以上とみなされます。
引火性の蒸気が漂う場所では、電気設備から火花が出ない構造が求められます。蒸気の発生源のまわりの電気機器の選び方は、安全増防爆と耐圧防爆の違いを参考にしてください。
有機溶剤中毒予防規則:メタノールとIPAは対象、エタノールは対象外
吸い込んだときの健康への影響は、労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則(有機則)で管理されます。メタノール、IPA、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノールは第二種有機溶剤に当たります。
第二種有機溶剤を屋内の洗浄や塗装に使うときは、局所排気装置などの設備、作業環境測定、特殊健康診断が必要になります。使う量が少ない場合などは一部が適用除外になることもあるため、実際の適用は事業場ごとに所轄の労働基準監督署などで確かめます。
一方、エタノールは有機則の対象物質の一覧に入っていません。
同じように使える場面なら、IPAやメタノールをエタノールに置きかえると有機則の管理が要らなくなる場合がありますが、引火性は変わらないので消防法の扱いは同じです。メタノールはさらに毒物及び劇物取締法の劇物にも指定されています。
工業用エタノールとアルコール事業法・酒税法
エタノールは酒の成分でもあるため、工業用として扱うときには税の仕組みが関わります。酒税法では、アルコール分1度以上の飲料や、薄めて飲料にできるものを酒類としていますが、アルコール分90度以上のアルコールは原則として酒類から外れ、アルコール事業法の対象になります。
アルコール事業法では、90度以上のアルコールの製造・輸入・販売・使用に経済産業大臣の許可が要ります。
許可を受けずに工業用に使えるのは、酒類への不正な転用を防ぐための加算額を価格に含めて売られる「特定アルコール」に限られます。飲めないように別の物質を混ぜた変性アルコールも、消防法ではアルコール類に含まれます。
多価アルコールの使われ方:エチレングリコールとグリセリン
−OHを2個以上もつ多価アルコールは、沸点が高く、水と自由に混ざり、凍りにくい液体です。低級アルコールのように溶剤として蒸発させるのではなく、液体のまま使い続けたり、−OHを反応させて樹脂の骨格に組み込んだりする点が使われ方の大きな違いです。
蒸発させて使う低級アルコールと、液体のまま・原料として使う多価アルコールに分かれます。
エチレングリコール:不凍液とPETの原料
エチレングリコールは、エチレンを空気や酸素で酸化してつくった酸化エチレンに、水を反応させてつくります。触媒を使わずに加熱して水を付け加える工程で、エチレンから多くの化学品へ枝分かれする石油化学の流れの一部です。
用途の柱の1つは、自動車やパソコンの冷却液・不凍液です。水と自由に混ざって凝固点を下げ、沸点が197.4℃と高いので冷却の途中で蒸発しにくいという性質がそのまま生きています。工場の冷凍機で使う不凍液の濃度管理は、チラーとブラインの違いで詳しく扱っています。
もう1つの柱がポリエステルの原料で、テレフタル酸と脱水しながらつながって、ペットボトルや繊維になるPET(ポリエチレンテレフタラート)をつくります。2つの−OHが両端で反応できる2価アルコールだからこそ、鎖が長く伸びて樹脂になり、つながり方は縮合反応の記事で図解しています。
グリセリン:バイオディーゼルの副産物から医薬・化粧品まで
グリセリンは、油脂の骨格をつくっている3価アルコールです。油脂にメタノールと触媒を加えてエステル交換すると、バイオディーゼル(脂肪酸メチルエステル)とともにグリセリンが分かれて出てきます。
米国エネルギー省の資料では、油脂約100ポンドとメタノール約10ポンドから、バイオディーゼル約100ポンドとグリセリン約10ポンドができるとされ、グリセリンは医薬品や化粧品の原料に回ります。
グリセリンは水によく混ざり、湿気を引き寄せて保つので、医薬品や化粧品の保湿剤、食品添加物、可塑剤として使われます。粘りが強く凍りにくい性質から、計器の振れを抑える封入液にも使われており、その使い方はグリセリン入り圧力計の記事で紹介しています。
アルコールの性質のよくある質問
アルコールとフェノールの性質はどう違いますか?
どちらも−OHをもちますが、ベンゼン環に−OHが直接付いたフェノールはpKaが9.99と小さく、水溶液が弱い酸性を示して水酸化ナトリウムと中和します。アルコールは中性で、水酸化ナトリウム水溶液とはほとんど反応しません。
アルコールの水溶液は電気を通しますか?
ほとんど通しません。アルコールは水に溶けても分子のまま散らばり、イオンにほとんど分かれない非電解質だからです。電気を通すのは、食塩や水酸化ナトリウムのように水中でイオンに分かれる電解質です。
第三級アルコールもナトリウムと反応しますか?
反応しますが、第一級よりかなり遅くなります。−OHのまわりのアルキル基が大きく、O−Hの水素が外れにくいためです。級数で反応のしやすさが変わる例は、酸化や脱水でも見られます。
メタノールとエタノールは、扱いのうえで何が違いますか?
消防法ではどちらもアルコール類で指定数量400 Lと同じですが、メタノールは毒物及び劇物取締法の劇物で、有機溶剤中毒予防規則の第二種有機溶剤にも当たります。エタノールはどちらにも当たらないため、職場での管理の手間が大きく違います。
まとめ
- アルコールは−OH(ヒドロキシ基)をもつ化合物で、価数(−OHの数)・級数(−OHが付いた炭素に付く炭素の数)・炭素数の3つで分類する
- −OHどうしの水素結合で、同じ分子式のエーテルより沸点が高い(エタノール78.4℃、ジメチルエーテル約−25℃)。同じ分子式なら第三級ほど、枝分かれが多いほど沸点は低い
- 炭素数÷−OHの数が3以下なら水と自由に混ざるのが目安。ブタノールから溶ける量に限りが出て、炭素が増えるほど溶けにくい
- −OHはほとんど電離せず中性だが、ナトリウムとは2R−OH+2Na→2R−ONa+H₂で水素を出す。エーテルは反応しない
- 消防法のアルコール類は炭素1〜3個の飽和1価アルコールだけ(指定数量400 L)。メタノール・IPAは有機則の第二種、エタノールは対象外
アルコールの性質は、「−OHの水素結合」と「炭素の鎖の大きさ」という2つの力の釣り合いで、沸点・水溶性・反応のしやすさまで一続きに説明できます。この見方を持っておくと、溶剤を選ぶときや法令の区分を確かめるときにも、数字の理由がつかみやすくなります。
アルコールが原料や溶剤として流れる化学業界の全体像と、そこで働く人の仕事は次の記事でまとめています。

出典
出典・参考資料(11件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 沸点:NIST Chemistry WebBook(SRD 69)の各物質の Phase change data(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、エチレングリコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、水)
- 水への溶解度・pKa・引火点・用途・製法:PubChem(米国国立医学図書館)の各化合物ページ(Solubility、Dissociation Constants、Flash Point、Uses、Methods of Manufacturing。HSDB 由来の記載を含む)。ナトリウムメトキシドの製法と用途:PubChem「Sodium methoxide」
- アルコール類・石油類・特殊引火物の定義、指定数量の合算:消防法(e-Gov法令検索) 別表第一・第10条
- 指定数量:危険物の規制に関する政令(e-Gov法令検索) 別表第三
- 60%未満の水溶液の除外:危険物の規制に関する規則(e-Gov法令検索) 第1条の3
- 有機溶剤の一覧と第二種の範囲:労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索) 別表第六の二、有機溶剤中毒予防規則(e-Gov法令検索) 第1条
- メタノールの劇物指定:毒物及び劇物取締法(e-Gov法令検索) 別表第二
- 酒類の定義:酒税法(e-Gov法令検索) 第2条
- 90度以上のアルコールと許可・特定アルコール:アルコール事業法(e-Gov法令検索) 第2条・第3条・第26条
- 消毒に使うエタノールの濃度:厚生労働省・経済産業省・消費者庁「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について」
- バイオディーゼルとグリセリンの量:U.S. Department of Energy, Alternative Fuels Data Center「Biodiesel Production and Distribution」
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