アルコールの酸化反応とは?第一級・第二級・第三級の違いと反応式、工業での使われ方

保温材で覆われた反応器と配管が並ぶ化学プラントの架台

アルコールの酸化反応は、−OHの水素と、OHが付いた炭素の水素を1個ずつ酸化剤に渡して、炭素と酸素の二重結合(C=O)をつくる反応です。第一級アルコールはアルデヒドを経てカルボン酸に、第二級アルコールはケトンになり、第三級アルコールはふつうの酸化剤ではほとんど酸化されません。

実験室では二クロム酸カリウムや過マンガン酸カリウムを酸化剤に使い、色の変化で反応の進み具合が見えます。工場では空気中の酸素を触媒で反応させてホルムアルデヒドやアセトアルデヒドをつくり、飲酒運転を防ぐアルコール検知器も呼気のエタノールを酸化して濃度を測っています。

図1:アルコールの酸化の早見(級数ごとの生成物)

OHの付いた炭素に水素が何個あるかで、酸化の行き先が決まります。

第一級(C−Hが2個)アルデヒド → カルボン酸例:エタノール → アセトアルデヒド → 酢酸。条件しだいでアルデヒドで止められる
第二級(C−Hが1個)ケトンで止まる例:2-プロパノール → アセトン。ケトンの炭素にはもう水素がない
第三級(C−Hが0個)ふつうは酸化されない例:2-メチル-2-プロパノール。C=Oをつくるには炭素どうしの結合を切る必要がある

※「ふつうの酸化剤」は、酸性の二クロム酸カリウムや過マンガン酸カリウムを室温〜加熱程度で使う条件です。燃焼のように骨格ごと壊す条件は別に扱います。

目次

アルコールの結合:酸化で外れるのはO−HとC−Hの水素

エタノール(CH3CH2OH)の結合は、C−C、C−H、C−O、O−Hのどれも単結合で、二重結合(π結合)をもっていません。ただし、酸化されにくさを決めているのはπ結合の有無ではなく、C=Oをつくるために取り去る水素がそろっているかどうかです。

酸化剤は、−OHの水素と、OHが付いた炭素(α炭素)の水素を1個ずつ取り去ります。2つの水素が抜けた跡で炭素と酸素の間にもう1本の結合ができ、C−O単結合がC=O二重結合に変わるので、アルコールの酸化は分子から水素2個分(2H++2e−)を取る反応と言いかえられます。

図2:酸化で取れる2つの水素(エタノールの例)

O−HのHとα炭素のC−HのHが抜け、C−OがC=Oに変わります。α炭素のHの数が級数で違います。

CH₃COHHHα炭素のHO−HのH2H⁺+2e⁻酸化剤へCH₃COHC=O ができる第一級第二級第三級α炭素のH 2個α炭素のH 1個α炭素のH 0個
CH₃COHHHα炭素のHO−HのH2H⁺+2e⁻酸化剤へCH₃COHC=O ができる第一級:α炭素のH 2個第二級:α炭素のH 1個第三級:α炭素のH 0個

※α炭素は、OHが直接付いている炭素のことです。水素は酸化剤にH⁺と電子の形で渡ります。

この見方では、OHの付いた炭素の酸化数で反応の進み具合を表せます。エタノールのその炭素は−1で、アセトアルデヒドで+1、酢酸で+3と、酸素との結合が1本増えるか水素が1個減るたびに酸化数が上がっていきます。

水素を受け取る側の酸化剤として、実験室でよく使うのが二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)と過マンガン酸カリウム(KMnO4)です。どちらも硫酸で酸性にして使い、酸性の液の中では次の半反応式のように電子を受け取ります。

過マンガン酸イオン(赤紫 → ほぼ無色)
MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O
二クロム酸イオン(橙 → 緑)
Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2O
検算:1本目は O 4=4、H 8=8、電荷 +2=+2(左辺 −1+8−5、右辺 +2)。2本目は O 7=7、H 14=14、電荷 +6=+6(左辺 −2+14−6、右辺 +6)。25℃の標準電極電位はMnO4−/Mn2+が1.51 V、Cr2O72−/Cr3+が1.36 V(資料により1.33 V)で、過マンガン酸のほうが強い酸化剤です。

この2つは反応のたびにマンガンが+7から+2へ、クロムが+6から+3へと変わり、反応した量だけ消費される「酸化剤」であって、自分は変わらずに反応を速める「触媒」ではありません。触媒が登場するのは、空気中の酸素で酸化する工場のプロセスで、後半の工業の章で取り上げます。

アルコールの酸化は級数で決まる:OHの付いた炭素の水素の数

アルコールの級数は、OHの付いた炭素にほかの炭素が何個つながっているかで決まり、1個なら第一級、2個なら第二級、3個なら第三級です。炭素が1個増えるたびに、その炭素に残る水素は1個ずつ減るので、級数は「α炭素に水素が何個あるか」と読みかえられます。

酸化のたびにα炭素の水素が1個使われるので、水素が2個ある第一級は2回、1個の第二級は1回まで酸化でき、0個の第三級はC=Oをつくれません。逆に、酸化してできた物質を調べれば元のアルコールの級数が分かり、これが構造決定で級数を決める手がかりになります。

図3:OHの付いた炭素の酸化数(メタノールとエタノールの例)

酸化のたびに酸化数が2ずつ上がり、メタノールは最後に二酸化炭素になります。

−20+2+4メタノールホルムアルデヒドギ酸二酸化炭素CH₃OHHCHOHCOOHCO₂エタノールは −1 → アセトアルデヒド +1 → 酢酸 +3(酢酸のC−Cは切れずに残る)
メタノール CH₃OHホルムアルデヒド HCHOギ酸 HCOOH二酸化炭素 CO₂−20+2+4エタノール −1 → アセトアルデヒド +1→ 酢酸 +3(酢酸のC−Cは切れずに残る)

※酸化数は、OHやC=Oの付いた炭素1個について、Oとの結合を+1、Hとの結合を−1、Cとの結合を0として数えた値です。

第一級アルコールの酸化:アルデヒドを経てカルボン酸へ

第一級アルコールを酸化すると、まずアルデヒドができます。アルデヒドのC=Oの炭素にはまだ水素が1個残っており、そのまま進むとカルボン酸になります。水がある液の中ではアルデヒドに水が付いてOHを2つもつ形(水和物)になり、もう一度アルコールと同じように酸化されるためです。

水和物は、アルデヒドにアルコールが付いてできるヘミアセタールの、水が付いた版にあたる形です。アルデヒドで止めたいときは、アルコールを多めにして酸化剤を少なめにし、生じたアルデヒドを反応液から逃がします。

エタノールの酸化でできるアセトアルデヒドは沸点が20.2℃と低く、エタノール(78℃)より先に気体になるので、温めながらできた分を蒸留で取り出せばアルデヒドで止められます。反対にカルボン酸まで進めたいときは、酸化剤を多めにし、蒸気を冷やして戻す還流の形で加熱を続けます。

アルコールの酸化の反応式:半反応式から組み立てる

アルコールの酸化も無機物と同じ酸化還元反応なので、全体の式は丸暗記しなくても組み立てられます。アルコールが電子を出す側(還元剤)、二クロム酸イオンが電子を受け取る側(酸化剤)として半反応式を1本ずつ書き、電子の数をそろえて足すのが手順で、考え方は半反応式の作り方と共通です。

還元剤側の半反応式は、エタノールがアセトアルデヒドになることさえ分かっていれば、酸素・水素・電荷の順にそろえるだけで書けます。エタノールを例に、各段階で原子数と電荷を確かめながら進めます。

図4:還元剤側の半反応式をつくる手順(エタノール → アセトアルデヒド)

反応物と生成物を書いたら、O→H→電荷の順にそろえるだけです。

1. 反応物と生成物C2H5OH → CH3CHOCは2=2。Oは1=1、Hは左6・右4
2. 酸素をH₂Oで不足なしOの数は両辺とも1なので、H₂Oは足さない
3. 水素をH⁺で右辺に 2H+Hは6=4+2でそろう。電荷は左0・右+2
4. 電荷をe⁻で右辺に 2e−電荷は0=+2−2でそろい、半反応式が完成する
5. 電子をそろえる還元剤の式を3倍二クロム酸イオンは6e⁻を受け取るので、6e⁻どうしで足す
6. 全体を検算原子数と電荷両辺のC・H・O・Crの数と電荷の合計が一致すれば完成

酸素の数をそろえる

左辺に第一級アルコールRCH2OH、右辺にアルデヒドRCHOを書くと、酸素はどちらも1個です。酸素の数がすでに同じなので、この段階では水(H2O)を加える必要はありません。Rは炭素の鎖で、エタノールならRがCH3にあたります。

水素の数をH⁺でそろえる

水素を数えると、RCH2OHのR以外の部分は3個、RCHOは1個で、右辺が2個少なくなっています。足りない2個は、酸性の液の中にある水素イオンの形で右辺に2H+として加え、酸化で取り去った2個の水素が、H+として液に出ていくと読みます。

電荷をe⁻でそろえ、酸化剤の式と足す

ここまでで左辺の電荷は0、右辺は2H+の分だけ+2なので、右辺に電子2個(2e−)を加えると両辺がそろいます。こうしてできた還元剤の半反応式を3倍し、二クロム酸イオンが受け取る6個の電子と数を合わせて足すと、電子が消えて全体のイオン反応式になります。

還元剤(第一級アルコール → アルデヒド)
RCH2OH → RCHO + 2H+ + 2e− (×3)
酸化剤(二クロム酸イオン)
Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2O
足して電子6個を消す(H⁺は14−6=8個が左辺に残る)
3RCH2OH + Cr2O72− + 8H+
→ 3RCHO + 2Cr3+ + 7H2O
検算:Oは 3+7=10、右辺 3+7=10。電荷は 左辺 −2+8=+6、右辺 2×(+3)=+6。

イオン反応式を物質の式に直すには、Cr2O72−の相手のK+と、H+のもとの硫酸を両辺に補います。エタノールの場合、二クロム酸カリウム1 molと硫酸4 molでエタノール3 molをアセトアルデヒドにでき、残ったイオンは硫酸カリウムと硫酸クロム(III)になります。

エタノールを二クロム酸カリウムで酸化する(物質の式)
3C2H5OH + K2Cr2O7 + 4H2SO4
→ 3CH3CHO + K2SO4 + Cr2(SO4)3 + 7H2O
検算:C 6=6、H 18+8=26/12+14=26、O 3+7+16=26/3+4+12+7=26、K 2=2、S 4=1+3、Cr 2=2。二クロム酸カリウム(式量294.2)1 molでエタノール3 mol(138 g)を酸化できるので、エタノール1 gあたり約2.1 gの二クロム酸カリウムが要ります。

アルデヒドからカルボン酸への反応式

アルデヒドがカルボン酸になる反応も、同じく半反応式を立てて酸化剤と足す、ふつうの酸化還元反応です。アルデヒドのC−Hの水素が取れて、代わりに水から来た酸素が炭素に付くと考えると、どこに水と水素イオンが入るかが見えてきます。

左辺にアルデヒド、右辺にカルボン酸を書く

左辺にアルデヒドRCHO、右辺にカルボキシ基をもつカルボン酸RCOOHを書きます。酸素は左辺が1個、右辺が2個で、右辺のほうが1個多いことがこの段階で分かります。

RCHO → RCOOH

酸素の不足をH₂Oで補う

左辺に足りない酸素1個は、水1分子で補います。酸性の水溶液の中で反応するので、新しく付く酸素は、酸化剤そのものではなく周りの水から来ると書くのが半反応式の約束です。

RCHO + H2O → RCOOH

水素の不足をH⁺で補う

水を足した左辺はR以外の水素が3個、右辺のRCOOHは1個なので、差の2個ぶんを右辺に水素イオン2個として加えて水素の数をそろえます。この2H+は、アルデヒドのC−Hと水から外れた水素にあたります。

RCHO + H2O → RCOOH + 2H+

電荷の偏りを電子e⁻で補う

右辺が+2になったので、電子2個を加えて電荷を0にそろえると半反応式の完成です。アルコール→アルデヒドもアルデヒド→カルボン酸も、どちらも電子2個を出す反応なので、酸化剤との組み合わせ方も同じになります。

還元剤(アルデヒド → カルボン酸)
RCHO + H2O → RCOOH + 2H+ + 2e−
二クロム酸イオンと足す(還元剤を3倍)
3RCHO + Cr2O72− + 8H+
→ 3RCOOH + 2Cr3+ + 4H2O
検算:Oは 3+7=10、右辺 6+4=10。電荷は +6=+6。左辺の3H2Oは右辺の7H2Oと相殺して右辺に4H2Oが残ります。

過マンガン酸カリウムのように強い酸化剤を多めに使うと、エタノールは途中で止まらず酢酸まで進みます。この場合は還元剤側が「アルコール+水→カルボン酸+4H++4e−」の4電子反応になり、電子の数を20個にそろえるとエタノール5 molに過マンガン酸カリウム4 molが対応します。

還元剤(エタノール → 酢酸)を5倍、酸化剤を4倍して電子20個をそろえる
C2H5OH + H2O → CH3COOH + 4H+ + 4e−
MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O
物質の式
5C2H5OH + 4KMnO4 + 6H2SO4
→ 5CH3COOH + 2K2SO4 + 4MnSO4 + 11H2O
検算:C 10=10、H 30+12=42/20+22=42、O 5+16+24=45/10+8+16+11=45、K 4=4、S 6=2+4、Mn 4=4。イオン反応式は 5C2H5OH+4MnO4−+12H+→5CH3COOH+4Mn2++11H2O(電荷 +8=+8)です。

第二級アルコールの酸化反応:ケトンで止まる

第二級アルコールを酸化すると、ケトンができます。α炭素の水素は1個だけなので1回の酸化で使い切り、ケトンのC=Oの炭素にはもう水素が残っていないため、条件を変えてもふつうの酸化剤ではそこから先に進みません。

代表例が、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)を酸化してアセトンをつくる反応です。第一級のアルデヒドと違って生成物が1つに決まるので、酸化剤の量や蒸留の工夫をしなくても、ケトンだけが得られます。

第二級アルコールの酸化の反応式

第二級アルコールをR−CH(OH)−R′と書くと、還元剤側の半反応式は第一級と同じく水素2個と電子2個を出す形です。二クロム酸イオンとの組み合わせは、第一級アルコール→アルデヒドの式とまったく同じ係数になります。

還元剤(第二級アルコール → ケトン)
RCH(OH)R′ → RCOR′ + 2H+ + 2e−
2-プロパノールを二クロム酸カリウムで酸化する
3CH3CH(OH)CH3 + K2Cr2O7 + 4H2SO4
→ 3CH3COCH3 + K2SO4 + Cr2(SO4)3 + 7H2O
検算:C 9=9、H 24+8=32/18+14=32、O 3+7+16=26/3+4+12+7=26、K 2=2、S 4=4、Cr 2=2。RとR′は炭素の鎖で、2-プロパノールではどちらもCH3です。

第三級アルコールの酸化:OHの付いた炭素に水素がない

第三級アルコールは、OHの付いた炭素に3個の炭素がつながっていて、水素が1個もありません。O−Hの水素は取れても、α炭素から取る水素がないので、C=Oをつくるには炭素どうしの結合(C−C)を切るしかなく、ふつうの酸化剤ではその手前で止まって反応しません。

代表的な第三級アルコールの2-メチル-2-プロパノール((CH3)3COH)は、酸性の二クロム酸カリウムと混ぜても橙色のままです。OHの付いた炭素の酸化数は+1で、これ以上上げるにはつながっている炭素の結合を切る必要があります。

第三級アルコールを無理に酸化するとどうなるか

第三級アルコールでも、燃やして完全燃焼させれば二酸化炭素と水になり、これも酸化の一種です。ただし炭素の骨格ごと壊れてしまうため、第一級・第二級でも同じ二酸化炭素と水になり、級数を見分ける目的には使えません。

2-メチル-2-プロパノールの完全燃焼
(CH3)3COH + 6O2 → 4CO2 + 5H2O
検算:C 4=4、H 10=10、O 1+12=13/8+5=13。ブタノールの異性体(C4H10O)はどれも同じ式になります。

分析・構造決定での使い方:色の変化で級数を見分ける

アルコールの級数は、見た目やにおいでは区別できません。そこで酸性の二クロム酸カリウム水溶液に少量のアルコールを加えて温め、橙色が緑色に変われば第一級か第二級、橙色のままなら第三級と判断するのが、昔からある簡単な見分け方です。

橙色と緑色の液が入った試験管が並ぶ試験管立て

ただし色の変化だけでは、第一級と第二級を分けられません。第一級ならアルデヒド、第二級ならケトンができるので、生成物を銀鏡反応にかけて陽性ならアルデヒド、つまり元は第一級と決められます。

もう1つの手がかりがヨードホルム反応で、CH3CH(OH)−をもつアルコールやCH3CO−をもつケトン・アルデヒドだけが黄色の沈殿を出します。代表的なアルコール4種類で結果を並べると、どの試験で何が分かるかが整理できます。

アルコール(級)酸化の生成物二クロム酸の色この試験で分かること
エタノール CH3CH2OH(第一級)アセトアルデヒド → 酢酸橙 → 緑生成物が銀鏡反応で陽性。CH3CH(OH)−をもつので、エタノール自身もヨードホルム反応で陽性
1-プロパノール CH3CH2CH2OH(第一級)プロパナール → プロピオン酸橙 → 緑生成物が銀鏡反応で陽性。ヨードホルム反応は陰性で、エタノールと区別できる
2-プロパノール CH3CH(OH)CH3(第二級)アセトン橙 → 緑生成物は銀鏡反応で陰性(ケトン)。アルコールも生成物もヨードホルム反応で陽性
2-メチル-2-プロパノール (CH3)3COH(第三級)酸化されない橙のまま色が変わらないことで第三級と分かる。ヨードホルム反応も陰性
表1:代表的なアルコールの酸化と試験の結果(二クロム酸の色だけでは第一級と第二級は分けられない)

いまの分析室では、こうした試験管の反応は候補をしぼる下調べに使い、決め手は機器分析に任せるのが普通です。生成物のC=Oは赤外分光(IR)で強い吸収として現れるので、カルボニル基の見分け方と組み合わせると、酸化が進んだかどうかを数字で確かめられます。

酸化と並んで構造決定に使われるのが、酸でOHと水素を水として外すアルコールの脱水反応です。酸化は水素2個を酸化剤に渡してC=Oをつくり、脱水は水1分子を外してC=Cをつくるという違いがあり、生成物から読み取れる情報も異なります。

実際の工場では:空気と触媒でアルコールを酸化する

二クロム酸カリウムや過マンガン酸カリウムは、反応した量だけ消費されるうえ、使ったあとにクロムやマンガンの廃液が残ります。そのため何万トンもの製品をつくる工場では、酸化剤には空気中の酸素を使い、ゆっくりしか進まない反応を触媒で速めるのが基本です。

図5:実験室の酸化剤と、工場の酸素酸化の違い

実験室では酸化剤が消費され、工場では触媒が残って酸素だけが消費されます。

実験室:酸化剤で酸化二クロム酸カリウム・過マンガン酸カリウムを硫酸酸性で使う。Cr⁶⁺→Cr³⁺、Mn⁷⁺→Mn²⁺と変わり、反応した量だけ消費される色の変化で進み具合が見える重金属の廃液が出る
工場:空気の酸素で酸化銀や鉄・モリブデンの酸化物を触媒に、アルコールの蒸気と空気を高温で通す。触媒はそのまま残り、消費されるのは酸素原料は空気とアルコール爆発範囲と反応熱の管理が要る

工業でつくる代表的な酸化生成物は、メタノールからのホルムアルデヒド、エタノールからのアセトアルデヒド、イソプロパノールからのアセトンです。いまも主流なのはホルムアルデヒドだけで、残りの2つは別の原料の製法に置き換わりました。

メタノールからホルムアルデヒド:銀触媒法と鉄モリブデン触媒法

ホルムアルデヒドは、メタノールの空気酸化でつくられます。欧州連合の技術資料(2017年)によると、製法は空気を少なめにして銀の触媒を使う「銀法」と、空気を多めにして金属酸化物の触媒を使う「金属酸化物法」の2つです。

同じ資料では、欧州の生産能力は2つの製法でおよそ半々、新設では金属酸化物法への投資が多いとされています。どちらも原料はメタノールと空気だけで、違いは空気の量と触媒、そして反応熱の扱い方にあります。

銀法:脱水素と、できた水素の一部の燃焼
CH3OH → HCHO + H2
ΔH = +84 kJ/mol
H2 + ½O2 → H2O
ΔH = −243 kJ/mol
金属酸化物法:酸素で直接酸化
CH3OH + ½O2 → HCHO + H2O
ΔH = −159 kJ/mol
検算:銀法の2本を足すと金属酸化物法の式になり、ΔHも +84 − 243 = −159 kJ/molで一致します(ヘスの法則)。値は欧州連合の技術資料(BREF LVOC、2017年)の表示です。NIST の標準生成熱(メタノール−205±10 kJ/mol、ホルムアルデヒド−108.6〜−115.9 kJ/mol)から25℃で計算すると、脱水素は+89〜+96 kJ、全体は−145〜−153 kJです。技術資料の値との差は約10 kJで、メタノールの生成熱の不確かさ(±10 kJ)の範囲内です。

銀法は、吸熱の脱水素(+84 kJ)と発熱の水素の燃焼(−243 kJ)を組み合わせ、反応器の中で熱を自給する方式です。

エンタルピーの符号が逆の2つの反応を組み合わせるので、空気の量で燃やす水素の割合を変えると反応器の熱を調節でき、高転化の運転では触媒層が650〜700℃になります。

図6:ホルムアルデヒドの2つの製法

同じメタノールの酸化でも、空気の量と触媒で温度・安全の考え方が変わります。

銀法(空気を少なめ)触媒:銀の結晶(3〜9か月で交換、銀は再生できる)/温度:580〜680℃(高転化の運転は650〜700℃)/メタノール転化率97.5〜99.5%、収率89.5〜90.5 mol%爆発上限より上(メタノール過剰)で運転排ガスの水素を燃料に使える
金属酸化物法(空気を多め)触媒:モリブデン酸鉄と三酸化モリブデン(5〜18か月で交換)/温度:270〜430℃/メタノール転化率98〜99.5%、収率88〜91 mol%爆発下限より下(酸素少なめの循環ガス)で運転反応熱は熱媒油で取って蒸気に

※数値は欧州連合「Production of Large Volume Organic Chemicals」BREF(2017年)表6.2と本文による。収率はメタノールに対するモル収率です。

銀法では、メタノールを過剰にして混合気体を爆発範囲の上側に置き、接触時間を0.1秒未満に抑えて、ホルムアルデヒドが分解する前に触媒層の直下で一気に冷やします。金属酸化物法は逆に酸素を爆発範囲の下側に抑え、多数の細い反応管の外を流れる熱媒油で発熱を取り去ります。

冷やした反応ガスは吸収塔で水に吸わせ、40〜60%前後の水溶液(ホルマリン)として出荷し、合板の接着剤やポリアセタールなどの樹脂の原料になります。同じ資料は、金属酸化物触媒に以前使われていたクロム酸化物の助触媒が、発がん性のため欧州ではもう使われていないとも書いています。

エタノールからアセトアルデヒド:ワッカー法に置き換わった経緯

アセトアルデヒドは、酢酸や酢酸エチル、ピリジンなどの原料になる中間製品です。エタノールを触媒で酸化・脱水素する製法は今も欧州連合の資料に挙がっていますが、現在の大規模な製法は、エタノールではなくエチレンを酸素で直接酸化するワッカー法です。

ワッカー法は、塩化パラジウムと塩化銅を溶かした水溶液にエチレンと酸素を通す方法で、1957年にドイツのワッカー社が特許を出願しました。エタノールを経ずに安いエチレンから1段でアセトアルデヒドが得られるため、エチレン設備を中心とする石油化学の広がりとともに主流になりました。

図7:アセトアルデヒドの製法の移り変わり

原料はアセチレン・エタノールから、エチレンへ移りました。

〜1960年代アセチレンの水和硫酸水銀を触媒にアセチレンに水を付ける。副生したメチル水銀が水俣病の原因になった
並行してエタノールの酸化・脱水素エタノールの蒸気を触媒で酸化する。教科書の「第一級→アルデヒド」にあたり、今も製法の1つ
1950年代末〜エチレンの直接酸化(ワッカー法)塩化パラジウム・塩化銅の水溶液でエチレンを酸素で酸化。現在の主な製法

※水銀触媒によるアセトアルデヒドの製造は、水俣条約で2018年までに廃止することになり、EU・米国では使われていません(欧州連合 BREF LVOC、2017年)。

日本では、アセチレンから水銀触媒でアセトアルデヒドをつくる工程の排水に含まれたメチル水銀が、水俣病と新潟水俣病を引き起こしました。環境省の環境白書によると、チッソ水俣工場のアセトアルデヒド生産は1968年(昭和43年)に止まりました。

アルデヒド→カルボン酸の酸化も、工業では空気で行います。欧州連合の資料は酢酸の製法の1つに、アセトアルデヒドを酢酸マンガンの触媒で50〜80℃・約10気圧の空気で酸化する方法を挙げています。ほかに、メタノールに一酸化炭素を付けるカルボニル化などの製法が並んでいます。

イソプロパノールからアセトン:いまはクメン法の副生が主流

第二級アルコールの2-プロパノール(IPA)からアセトンをつくる反応は、工業では酸化剤を使わず、触媒で水素を外す脱水素として行われてきました。

米国の毒性物質疾病登録庁(ATSDR)の2022年の資料では、米国のアセトンの約90%はクメン法でつくられ、IPAの脱水素は過去には一般的だったものの使われなくなったとされています。原料がプロピレンとベンゼンに移り、アセトンはフェノールと一緒にできる製品になりました。

IPAの脱水素(水素2個が気体のH₂として外れる)
CH3CH(OH)CH3 → CH3COCH3 + H2
検算:C 3=3、H 8=6+2、O 1=1。酸化剤を使わなくても、α炭素とO−Hから水素が2個抜けてC=Oができる点は二クロム酸による酸化と同じです。

クメン法はクメンを空気で酸化してフェノールを得る製法で、フェノール1トンにつきアセトンが約0.62トン必ずできます。フェノールの需要に合わせて出てくるアセトンが市場を満たしているため、わざわざIPAを酸化してアセトンをつくる必要が小さくなりました。

国内ではむしろ流れが逆向きになり、クメン法で余ったアセトンに水素を付けてIPAに戻す設備も建てられています。教科書では一方通行に見える「第二級アルコール→ケトン」も、工場では原料の値段と需給で向きが決まる反応です。

アルコール検知器:呼気のエタノールを酸化して測る

運転前の酒気帯び確認に使うアルコール検知器も、アルコールの酸化を利用した計測器です。警察庁によると、一定台数以上の自動車を使う事業所の安全運転管理者には、2023年12月1日からアルコール検知器を使った確認と記録の1年保存、検知器を常に使える状態に保つことが義務付けられました。

検知器のセンサーには、主に燃料電池式(電気化学式)と半導体式の2種類があります。国土交通省の検討資料では、燃料電池式は精度とほかのガスの影響の受けにくさで、半導体式は応答の速さで有利と整理されており、用途に応じて選び分けます。

図8:燃料電池式アルコールセンサーのしくみ

白金電極でエタノールを酸化して出た電子を、電流として数えます。

呼気上の白金電極(エタノールを酸化)電解質(酸性)下の電極(酸素を還元)C₂H₅OH → CH₃CHO + 2H⁺ + 2e⁻H⁺ が上から下へ移る½O₂ + 2H⁺ + 2e⁻ → H₂OA電流を測る流れた電子の数 = 酸化されたエタノールの量
呼気が入る上の白金電極電解質(酸性)下の電極C₂H₅OH → CH₃CHO+ 2H⁺ + 2e⁻H⁺ が下へ移る½O₂ + 2H⁺ + 2e⁻→ H₂OA右の回路を電子が流れ、電流として測る流れた電子の数は、酸化されたエタノールの量に比例する

※電極ではアセトアルデヒドからさらに酢酸まで酸化される分もあります。下の電極の式は、上の電極の電子2個に合わせて書いています。

燃料電池式は、白金の電極の上でエタノールを酸化し、出てきた電子を外の回路に流して電流として測ります。米国の特許文献では、電子の数は電極に届いたアルコール分子の数に比例するとされ、流れた電気の量から呼気中のアルコール濃度を計算できるのがこの方式の強みです。

しくみは燃料電池そのもので、燃料が水素ではなくエタノールに、目的が発電ではなく計測に変わっただけです。ほかの成分には反応しにくい一方、半導体式より応答が遅く、測定に時間がかかります。

半導体式は、数百℃に加熱した酸化スズの粒の表面で起こる酸化反応を使います。空気中では表面に吸着した酸素が電子を捕まえて電気を通しにくくし、エタノールのような還元性のガスがその酸素と反応すると電子が戻って抵抗が下がるので、抵抗の変化から濃度を読み取ります。

半導体式は安く応答が速い反面、アルコール以外の還元性ガスにも反応するので、事業所で数値を記録する用途では燃料電池式が選ばれる傾向があります。検知器の原理の違いは、センサーの仕組みを電気化学と半導体の面から整理しておくと比べやすくなります。

こうした電子式の検知器が普及する前は、二クロム酸カリウムの溶液に呼気を通し、橙色が緑色に変わる度合いでアルコールの量を測る装置が使われていました。実験室の級数の見分け方と同じ反応を、色の濃さで量る形に応用したもので、酸化剤による酸化が分析に直結することをよく示しています。

六価クロムを酸化剤に使うときの扱い:規制と廃液

二クロム酸カリウムのクロムは+6の六価クロムで、酸化力が強い反面、人の健康と環境への有害性が大きい物質です。厚生労働省のモデルSDSでは、二クロム酸カリウムの発がん性は区分1A(人に対する発がん性が知られている)とされています。

同じSDSでは、生殖細胞変異原性と生殖毒性が区分1B、呼吸器感作性と皮膚腐食性が区分1と並び、作業場の管理濃度はクロムとして0.05 mg/m3です。過マンガン酸カリウムも酸化性固体で皮膚を強く傷めますが、発がん性の区分は付いておらず、法令上の扱いも次の表のとおり差があります。

項目二クロム酸カリウム K2Cr2O7過マンガン酸カリウム KMnO4
酸性での半反応式(受け取る電子)Cr2O72−+14H++6e−→2Cr3++7H2O(6個)MnO4−+8H++5e−→Mn2++4H2O(5個)
色の変化橙 → 緑赤紫 → ほぼ無色
標準電極電位(25℃)1.36 V(資料により1.33 V)1.51 V(より強い)
電子1 molあたりの量294.2 ÷ 6 = 49.0 g158.0 ÷ 5 = 31.6 g
GHSの主な区分(モデルSDS)発がん性1A、生殖細胞変異原性1B、生殖毒性1B、呼吸器感作性1酸化性固体2、皮膚腐食性1、反復ばく露(神経系・呼吸器)1
管理濃度0.05 mg/m3(クロムとして)0.05 mg/m3(マンガンとして、吸入性粉じん)
主な法令の区分特定化学物質第2類・特別管理物質、PRTR特定第一種、劇物、消防法第1類(重クロム酸塩類)特定化学物質第2類、PRTR第一種、消防法第1類(過マンガン酸塩類)
よく使われる場面アルコールの検出、海外のCOD(CODCr)の測定国内のCOD(CODMn)の測定、酸化還元滴定
表2:二クロム酸カリウムと過マンガン酸カリウムの比較(法令の区分は厚生労働省モデルSDSの記載。マンガンの管理濃度は2021年4月の改正後の値)

特別管理物質に当たる二クロム酸カリウムを扱う作業場では、局所排気などのばく露対策に加えて、作業の記録と健康診断の記録を長く保存する義務があります。試薬を選ぶ段階で、リスクアセスメントの考え方に沿って代わりの酸化剤で済まないかを先に検討するのが、いまの化学の現場の進め方です。

反応後の液には六価と三価のクロムが残るので、そのまま流さず、還元剤で六価クロムを三価に変えてからアルカリで水酸化クロム(III)として沈めます。この2段階の処理の反応式とpHの管理は、前半で紹介した半反応式の記事で、排水処理の例として詳しく扱っています。

処理後の水が守る値は、水質汚濁防止法にもとづく「排水基準を定める省令」で決まっています。e-Gov法令検索の現行条文では、六価クロム化合物の許容限度は1 Lあたり0.2 mgです。

この値は、環境省が2024年1月25日に公布を発表した改正で0.5 mg/Lから引き下げられ、2024年4月1日に施行されました。

同じ改正では、電気めっき業の特定事業場に3年間の暫定排水基準として0.5 mg/Lが設けられています。

六価クロムは、酸化剤として試薬瓶で扱う場面と、クロムめっきの排水として扱う場面の両方で、厳しくなった基準を前提にした管理が要ります。

水の汚れを測る化学的酸素要求量では、国内は過マンガン酸カリウム、海外は二クロム酸カリウムを使う方法が標準で、ここでも2つの酸化剤が使い分けられています。測定の手順と計算はCOD(化学的酸素要求量)の記事で取り上げています。

アルコールの酸化のよくある質問

酸化剤と触媒はどう違いますか?

酸化剤は相手から電子を受け取って自分が還元される物質で、反応した量だけ消費されます。触媒は反応を速めるだけで反応の前後で変わらず、アルコールの酸化では工場で使う銀や鉄・モリブデンの酸化物が触媒、二クロム酸カリウムや酸素が酸化剤にあたります。

お酒を飲むと、体内でアルコールはどう酸化されますか?

主に肝臓で、酵素の働きによってエタノールがアセトアルデヒドに、さらに酢酸に酸化されます。電子を受け取るのは補酵素のNAD+で、アセトアルデヒドを分解する主な酵素ALDH2の働きが弱い人が日本人には多く、少量の飲酒で顔が赤くなる原因になります。

クロムを使わずにアルコールを酸化する方法はありますか?

あります。有機合成の実験室では、クロム系の試薬は毒性と火災の危険からあまり使われなくなり、第一級アルコールをアルデヒドで止められるデス・マーチン試薬などが使われています。工場では酸素と触媒を使う方法が中心です。

アルコールの酸化と燃焼は何が違いますか?

どちらも酸化ですが、アルコールの酸化は炭素の骨格を残したまま、OHの付いた炭素だけをアルデヒド・ケトン・カルボン酸に変える反応です。燃焼は炭素どうしの結合まで切って二酸化炭素と水にする反応で、元のアルコールの形は残りません。

まとめ

この記事のまとめ
  • アルコールの酸化は、O−HのHとOHの付いた炭素(α炭素)のHを1個ずつ取り、C−OをC=Oに変える反応
  • α炭素のHが2個の第一級はアルデヒドを経てカルボン酸に、1個の第二級はケトンに、0個の第三級はふつうの酸化剤では酸化されない
  • 全体の式は半反応式を立てて電子の数をそろえて足す。エタノール3 molに二クロム酸カリウム1 mol、酢酸まで進めるならエタノール5 molに過マンガン酸カリウム4 mol
  • 二クロム酸カリウム・過マンガン酸カリウムは消費される酸化剤で、触媒ではない。工場では空気の酸素を使い、銀や鉄・モリブデンの酸化物を触媒にする
  • ホルムアルデヒドは今もメタノールの酸化でつくるが、アセトアルデヒドはワッカー法、アセトンはクメン法の副生が主流。六価クロムの排水基準は2024年4月から0.2 mg/L

アルコールの酸化は、「α炭素に水素が何個あるか」という1つの見方で、生成物の違いから反応式、分析、工場の製法までを一続きに説明できる反応です。酸化剤と触媒の違いを押さえておくと、実験室の試験管の反応と、何万トン規模のプラントの条件を同じ物差しで読めるようになります。

アルコールやアルデヒドを原料にする化学製品が、どんな会社でどう生産されているかは、化学業界の全体像を扱った次の記事でまとめています。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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