アルコールの脱水反応とは?分子内・分子間の違いとザイツェフ則、工業での使われ方

固定床反応器と蒸留塔が並ぶ臨海部の化学プラント

アルコールの脱水反応は、酸を触媒にしてヒドロキシ基(−OH)と水素原子を水分子として取り除く反応です。濃硫酸を使う実験室の目安では、エタノールは約170℃で分子内脱水してエチレンに、130〜140℃で分子間脱水してジエチルエーテルになります。

どちらが起こるかは温度と酸・アルコールの量の比で決まり、二重結合の位置が何通りかあるアルコールでは、ザイツェフ則で主生成物が決まります。工場ではこの反応を固体の触媒で連続して進め、サトウキビ由来のエタノールからバイオエチレンを、イソブタノールからイソブテンをつくっています。

目次

アルコールの脱水に酸触媒が要る理由

アルコールの炭素と酸素をつなぐC−O結合は、強い共有結合(σ結合)です。そのうえ、−OHがそのまま外れると水酸化物イオン(OH−)という不安定なイオンになるため、アルコールを加熱しただけでは、OHはほとんど抜けません。

そこで酸を加えて、−OHの酸素に水素イオン(H+)を1つ渡します。すると−OHは−OH2+に変わり、外れるときは安定な水分子として抜けられるので、反応が一気に進みやすくなります。酸は最後にH+を取り戻すため、消費されない触媒として働きます。

実験室でよく使う酸は濃硫酸で、ほかにリン酸も使われます。工場では、液体の酸の代わりにアルミナ(酸化アルミニウム)やゼオライトのような、表面が酸として働く固体の触媒を使い、アルコールの蒸気を通して反応させます。

濃硫酸は脱水の触媒としてよく効く一方で、強い酸化剤でもあります。アルコールの一部を二酸化炭素まで酸化して自らは二酸化硫黄に変わり、黒く炭化もさせるため、きれいに反応させたい実験では酸化力の弱いリン酸がよく選ばれます。

濃硫酸による脱水のメカニズム:H⁺がOHを水に変える

濃硫酸は硫酸の割合が98%前後と高く、水がごくわずかしか含まれていない液体です。希硫酸なら硫酸は周りの水にH+を渡して H3O+ ができますが、受け取る水が少ない濃硫酸では、H+はアルコールの酸素に渡ります。

希硫酸の中:H⁺は水が受け取る
H2O + H+ → H3O+
濃硫酸の中:H⁺はアルコールの酸素が受け取る
C2H5−OH + H+ → C2H5−OH2+
右辺のC2H5−OH2+は、酸素がH⁺を受け取って正の電荷をもったイオン(オキソニウムイオン)です。この形になると、−OH2+は水分子として外れやすくなります。

H+を受け取ったアルコールからは、水が1分子抜けます。抜けたあとに隣の炭素の水素がH+として外れると二重結合ができ、外れたH+は次のアルコールに渡されるので、硫酸は減らずに反応を繰り返し進めます。

図1:酸触媒による脱水の3段階(エタノールの例)

H⁺でOHを水に変えて外し、最後にH⁺が戻るので、酸は触媒として繰り返し働きます。

① H⁺を受け取る② 水が抜ける③ H⁺が外れるC₂H₅−OH₂⁺H₂O が離れるCH₂=CH₂外れたH⁺は次のエタノールへ(触媒)
① H⁺を受け取る② 水が抜ける③ H⁺が外れるC₂H₅−OH₂⁺H₂O が離れるCH₂=CH₂ ができる外れたH⁺は次のエタノールへ(右の点線、触媒)

※第一級のエタノールでは②と③がほぼ同時に起こり、第二級・第三級のアルコールでは②のあとに正電荷をもつ炭素(カルボカチオン)を経てから③が起こります。

濃硫酸には水を強く引きつける性質もあり、反応でできた水を取り込みます。生成物の水が減ると反応はアルコールを脱水する向きにさらに進むので、濃硫酸は「H+を渡す触媒」と「できた水を受け取る役」の両方を担っています。

この濃硫酸そのものは、硫黄を燃やしてできた二酸化硫黄を酸化し、水に吸収させてつくります。原料から製品までの流れは接触法と硫酸工場のしくみの記事で、反応式とあわせて整理しています。

アルコールの脱水は2種類:温度で分子間と分子内に分かれる

アルコールの脱水には、2分子のアルコールの間から水が抜ける「分子間脱水」と、1分子の中から水が抜ける「分子内脱水」があります。エタノールと濃硫酸の組み合わせでは、130〜140℃ならジエチルエーテルが、約170℃ならエチレンが主にできます。

図2:温度で分かれる2つの脱水(エタノール+濃硫酸)

高い温度では分子数が増える吸熱の分子内脱水が、低い温度では発熱の分子間脱水が有利になります。

約170℃130〜140℃分子内脱水 → エチレン分子間脱水 → ジエチルエーテルC₂H₅OH → CH₂=CH₂ + H₂O1分子→2分子、ΔH ≒ +45 kJ(吸熱)2C₂H₅OH → C₂H₅OC₂H₅ + H₂O2分子→2分子、ΔH ≒ −26 kJ(発熱)ΔH:25℃・すべて気体(NIST の値から計算)
約170℃:分子内脱水130〜140℃:分子間脱水エチレンができるC₂H₅OH → CH₂=CH₂ + H₂O1分子→2分子、ΔH ≒ +45 kJ(吸熱)ジエチルエーテルができる2C₂H₅OH → C₂H₅OC₂H₅ + H₂O2分子→2分子、ΔH ≒ −26 kJ(発熱)ΔH:25℃・すべて気体(NIST の値から計算)

※温度は濃硫酸を使う実験室の目安です。固体の触媒を使う工場では、触媒の種類によって温度が大きく変わります(後の章)。

温度で生成物が分かれる理由は、2つの反応の熱の出入りと分子数の変化から説明できます。分子内脱水は熱を吸収する反応で、しかも1分子から2分子に増えるため、温度を上げるほど進みやすくなる性質をもっています。

反応熱(反応エンタルピー)の求め方
ΔH = ΣΔfH(生成物)− ΣΔfH(原料)
分子内脱水:C2H5OH → C2H4 + H2O
ΔH = (+52.4)+(−241.8)−(−234)
= +44.6 kJ(吸熱)
分子間脱水:2C2H5OH → (C2H5)2O + H2O
ΔH = (−252.2)+(−241.8)− 2 ×(−234)
= −26.0 kJ(発熱)
ΔfH は生成エンタルピーで、Σ は和を表します。数値は25℃・すべて気体の標準生成エンタルピー[kJ/mol](NIST Chemistry WebBook):エタノール −234、エチレン +52.4、ジエチルエーテル −252.2、水 −241.8。分子内脱水はエタノール1 molあたり、分子間脱水はエタノール2 molあたりの値です。

分子間脱水は熱を出す反応で分子数も変わらないので、温度を上げても有利にはならず、低めの温度で進めるのが合っています。反応熱の符号と温度の関係は、エンタルピーとエントロピーの違いを押さえておくと見通しよく理解できます。

温度のほかに、酸とアルコールの量の比も結果を左右します。アルコールが多いと、H+を受け取った分子の近くに別のアルコールがいる確率が高くなり、分子間脱水が起こりやすくなります。逆に、エチレンをつくる実験では過剰の濃硫酸を使います。

分子間脱水(130〜140℃):2分子からエーテルができる

分子間脱水では、2分子のアルコールから水が1分子抜け、残った部分が酸素原子を介してつながります。エタノールからはジエチルエーテル(C2H5−O−C2H5)ができ、このC−O−Cのつながりをエーテル結合と呼びます。

全体の反応式(130〜140℃、濃硫酸)
2C2H5OH → C2H5−O−C2H5 + H2O
しくみ:H⁺を受け取った分子に、もう1分子の酸素が付く
C2H5−OH2+ + C2H5OH → C2H5−O+H−C2H5 + H2O
C2H5−O+H−C2H5 → C2H5−O−C2H5 + H+
原子数:左辺 C4・H12・O2、右辺 C4・H12(エーテル10+水2)・O2で一致します。最後に外れたH⁺は、次のエタノールに渡されます。

しくみの要点は、H+を受け取って水が抜けやすくなった炭素に、もう1分子のアルコールの酸素が非共有電子対で結び付くことです。この段階では二重結合をつくるための水素の引き抜きが起こらないため、温度が低いうちはエーテルが主になります。

水が抜けて酸素を介した結合ができる点は、アルデヒドとアルコールからアセタールができる反応とも共通しています。どちらも酸を触媒にした脱水で、できた水を取り除くほど生成物の側へ進みます。

分子内脱水(約170℃):1分子からアルケンができる

分子内脱水では、−OHが付いた炭素と、その隣の炭素の水素が一緒に水として抜け、2つの炭素の間に二重結合ができます。エタノールからはエチレン(CH2=CH2)ができ、アルコールからアルケンをつくる代表的な方法になっています。

エタノールの分子内脱水(約170℃、過剰の濃硫酸)
CH3−CH2−OH → CH2=CH2 + H2O
−OHの付いた炭素(右の炭素)からOHが、隣の炭素(左の炭素)からHが抜けます。隣の炭素に水素がないアルコールでは、この形の分子内脱水は起こりません。

必要な温度は、−OHの付いた炭素にほかの炭素がいくつ結合しているか(第一級・第二級・第三級)で大きく変わります。濃硫酸を使う場合の目安は、第一級が170〜180℃、第二級が100〜140℃、第三級は25〜80℃と、炭素が多く付いたアルコールほど低い温度で脱水します。

差が出るのは反応の道すじが違うためで、第二級・第三級では水が抜けて先にカルボカチオンができ、それから水素が外れます(E1)。炭素が多く付くほどカルボカチオンは安定で第三級がもっとも速く、これをつくりにくい第一級では水の脱離と水素の引き抜きが同時に起こります(E2)。

E1の道すじでは、途中のカルボカチオンの中で水素や炭素の結合が隣へ移る「転位」も起こります。転位すると元の骨格からは考えにくい位置に二重結合ができるため、炭素数が多いアルコールの生成物を予想するときは、転位の可能性も頭に入れておく必要があります。

ザイツェフ則:置換基の多いアルケンが主生成物になる

2-ブタノールのように、−OHが付いた炭素の両隣に水素をもつ炭素があると、どちらから水素が抜けるかで2種類の位置のアルケンができます。ザイツェフ則は、このとき水素の少ない方の炭素から水素が抜けたアルケン、つまり二重結合に付く炭素の多いアルケンが主生成物になるという経験則です。

図3:2-ブタノールの分子内脱水でできるアルケン

水素の少ない3番目の炭素から水素が抜けた2-ブテンが主生成物で、1-ブテンは少なくなります。

2-ブタノールCH₃−CH(OH)−CH₂−CH₃炭素の番号:左から1・2・3・43番目のH1番目のH2-ブテン(主生成物)1-ブテン(副生成物)CH₃−CH=CH−CH₃trans体が多く、cis体もできるCH₂=CH−CH₂−CH₃二重結合に付く炭素は1つ
2-ブタノール2-ブテン(主生成物)1-ブテン(副生成物)CH₃−CH(OH)−CH₂−CH₃CH₃−CH=CH−CH₃trans体が多く、cis体もできるCH₂=CH−CH₂−CH₃3番目の炭素のHが抜ける1番目の炭素のHが抜ける

※2-ブテンにはシス・トランスの幾何異性体があるので、生成物は全部で3種類です。主・副の割合は酸や温度などの条件で変わります。

2-ブタノールの分子内脱水(主生成物:2-ブテン)
CH3CH(OH)CH2CH3 → CH3CH=CHCH3 + H2O
(副生成物:1-ブテン)
CH3CH(OH)CH2CH3 → CH2=CHCH2CH3 + H2O
OHの付いた2番目の炭素の隣は、水素3つの1番目(CH3)と水素2つの3番目(CH2)です。水素の少ない3番目から水素が抜けた2-ブテンが主生成物になります。

ここでいう主生成物は「多くできる方」という意味で、副生成物の1-ブテンもなくなるわけではありません。名前の由来はロシアの化学者アレクサンドル・ザイツェフで、1875年にハロゲン化アルキルの脱離反応の観察から示した規則が、アルコールの脱水にもそのまま当てはまります。

置換基の多いアルケンが多くできるのは、そのほうが安定でエネルギーが低いからです。二重結合に付いたアルキル基の炭素−水素結合が二重結合の電子と相互作用し(超共役)、付く炭素が多いほど二重結合は安定になります。安定さの差は、水素を付けたときに出る熱(水素化熱)で比べられます。

図4:アルケンの水素化熱(二重結合に付く炭素の数で比べる)

付く炭素が多いアルケンほど水素化熱が小さく、もともとのエネルギーが低い(安定な)ことを示しています。

エチレン(0)プロペン(1)trans-2-ブテン(2)2-メチル-2-ブテン(3)テトラメチル体(4)136125115112110水素化熱の大きさ[kJ/mol](かっこ内は二重結合に付く炭素の数)
エチレン(0)136プロペン(1)125trans-2-ブテン(2)1152-メチル-2-ブテン(3)112テトラメチル体(4)110水素化熱[kJ/mol](かっこ内は付く炭素の数)

※値は OpenStax「Organic Chemistry」7.6 の表による。テトラメチル体は2,3-ジメチル-2-ブテンです。棒の長さは0から測っています。

2-ブテンでトランス体が多くなるのも同じ考え方で、シス体では2つのメチル基が同じ側にあって押し合うぶん、エネルギーが少し高くなります。水素化熱はシス体が119 kJ/mol、トランス体が115 kJ/molで、約4 kJ/molの差がトランス体の多さにつながっています。

似た名前の経験則に、アルケンにHXや水が付加するときのマルコフニコフ則(水素は、もともと水素の多い炭素に付く)があります。付加では水素の多い炭素に水素が付き、脱離では水素の少ない炭素から水素が抜けるので、向きが逆になっている2つの規則を対にして覚えると整理しやすくなります。

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構造決定での使い方:脱水の生成物から骨格とOHの位置を読む

有機化合物の構造を決めるとき、脱水反応は「OHがどこに付いているか」を確かめる手がかりになります。脱水でできるアルケンの種類と数は、−OHの付いた炭素の両隣にどんな水素があるかで決まるので、生成物から逆にたどれば、OHの位置と炭素の骨格をしぼり込めます。

図5:脱水を使って構造をしぼり込む手順

分子式から候補を並べ、脱水の生成物と照らし合わせ、残った候補を別の反応で見分けます。

STEP 1候補を書き出す分子式からアルコールとエーテルの異性体をすべて並べる
STEP 2アルコールか確かめるナトリウムで水素が出ればアルコール。エーテルは反応も脱水もしない
STEP 3できる二重結合を数えるOHの炭素の両隣の水素から、アルケンとシス・トランスを列挙する
STEP 4生成物と照合するできたアルケンの種類・数と合う候補だけを残す
STEP 5別の反応で見分ける同じアルケンになる候補は、酸化やヨードホルム反応で区別する
STEP 6構造を決めるすべての結果と矛盾しない1つに決め、転位の可能性も確かめる

分子式C4H10Oを例にとると、候補はアルコールが4種類、エーテルが3種類の計7種類です。そのうちアルコール4種類を脱水したときの生成物を並べると、脱水だけで1つに決まるものと、同じアルケンになって区別できないものがあることが分かります。

アルコール(級)分子内脱水で主にできるアルケン脱水で分かること・ほかの手がかり
1-ブタノール CH3CH2CH2CH2OH(第一級)1-ブテン実際の酸性条件では二重結合が移った2-ブテンも混じるため、生成物だけで決めるときは条件に注意する
2-ブタノール CH3CH(OH)CH2CH3(第二級)2-ブテン(trans・cis)が主、1-ブテンが副の計3種類転位を考えないとき、幾何異性体を含む3種類ができるのはこれだけ。CH3CH(OH)−をもつのでヨードホルム反応も陽性
2-メチル-1-プロパノール (CH3)2CHCH2OH(第一級)2-メチルプロペン(イソブテン)下の第三級アルコールと同じアルケンになる。酸化するとアルデヒドになり、銀鏡反応が陽性
2-メチル-2-プロパノール (CH3)3COH(第三級)2-メチルプロペン(イソブテン)もっとも低い温度で脱水する。第三級なので、ふつうの酸化剤では酸化されにくい
表1:C4H10Oのアルコール4種類の脱水生成物と見分け方(エーテル3種類は脱水されない)

表のとおり、2-メチル-1-プロパノールと2-メチル-2-プロパノールは、どちらもイソブテンになるので脱水だけでは区別できません。そこで別の性質を組み合わせ、酸化されてアルデヒドになるか、ヨードホルム反応を示すかといった結果を重ねて、候補を1つに決めます。

CH3CH(OH)−の部分を見分けるヨードホルム反応や、アルデヒドを見分ける銀鏡反応は、脱水と組み合わせて使う代表的な手がかりです。どちらもC=Oをもつカルボニル基の性質を使った反応です。

いまの分析室では、生成したアルケンの種類と割合はガスクロマトグラフィー(GC)で分けて測るのが普通です。1-ブテンとシス・トランスの2-ブテンは沸点が近くても別々のピークとして現れるので、クロマトグラフィーの考え方を知っておくと、反応の結果を数字で確かめられます。

実際の工場では:エタノールの脱水でつくるバイオエチレン

エチレンは、ポリエチレンや塩化ビニル、エチレングリコールの原料になる石油化学の基礎原料です。日本では主にナフサを熱分解してつくりますが、エタノールを脱水すれば、石油を使わずに同じエチレンを得られます。サトウキビなど植物由来のエタノールからつくったものをバイオエチレンと呼びます。

ナフサは原油を分留して取り出す留分で、これを大型の分解炉で熱分解するのがエチレンセンターです。国内では設備の集約が進んでおり、その動きは西日本のエチレン集約の記事でまとめています。

固体酸触媒(アルミナ・ゼオライト)と反応条件

工場のエタノール脱水では、濃硫酸の代わりに粒状の固体酸触媒を反応器に詰め、加熱したエタノールの蒸気を通して連続で反応させます。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の技術資料によると、精製したバイオエタノールをアルミナかシリカアルミナの触媒でエチレンに変えるのが基本の方式です。

白い球状のアルミナ触媒をトレーに広げる手袋の手元

固体触媒は、液体の酸のように装置を腐食させたり、反応後に酸を分けたりする手間がありません。エチレンだけが気体で出てくるので、反応器の後ろで水や副生物を除けばよく、連続運転に向いていることが工業で固体触媒を選ぶ大きな理由になっています。

2013年の総説(Fan ほか、Materials誌)は、触媒ごとの条件と成績を次のように整理しています。ただし研究ごとに原料の濃度や流量が異なるため、数字は目安として比べます。

  • γ-アルミナ:約450℃が必要で、エチレン収率は約80%
  • 市販の SynDol(MgO−Al2O3/SiO2):450℃で転化率99%・選択率96.8%、安定に長く使える
  • ゼオライトの HZSM-5:200〜300℃と低い温度で働き、300℃で転化率98%・選択率95%。酸が強いぶん炭素が付着(コーキング)しやすい

実験室の170℃と比べて工場の温度が高いのは、液体の濃硫酸と、気体を短い時間で通す固体触媒では反応の場がまったく違うからです。同じ総説は、適した温度の範囲を外れると、ジエチルエーテルやアセトアルデヒドを生む別の反応が有利になってエチレンの収率が下がると指摘しており、温度で生成物が分かれる点は実験室と共通です。

低温側でエーテルが増える点も、先に見た分子間脱水の考え方どおりです。

分子内脱水は吸熱反応なので、反応器には熱を補い続けなければなりません。反応器を出た高温のガスで原料を予熱するなど、熱をどこから入れてどう回収するかが、プラントの設計と運転費を左右します。

図6:バイオエチレンができるまで

植物の糖を発酵させたエタノールを、固体触媒で脱水してエチレンにし、精製して樹脂の原料にします。

STEP 1糖・デンプンサトウキビの糖やトウモロコシのデンプンを原料にする
STEP 2発酵・蒸留発酵でエタノールにし、蒸留で濃縮・精製する
STEP 3蒸発・予熱エタノールを気化させ、反応温度まで温める
STEP 4触媒で脱水アルミナなどを詰めた反応器で、熱を補いながら脱水する
STEP 5水・副生物の除去ガスを冷やして水を除き、エーテルなどの副生物を取り除く
STEP 6精製・重合純度を上げたエチレンを、ポリエチレンなどの原料にする

※工程の分け方は概略です。実際の設備の構成は技術を提供する会社や工場ごとに異なります。

原料のエタノールは、トウモロコシならデンプンを糖に分解してから発酵させてつくります。デンプンを糖に分けるしくみはグリコシド結合と加水分解の記事で取り上げており、発酵で薄くできたエタノールは蒸留で濃くします。

計算例:エチレン1トンに要るエタノールと熱

反応式から、エチレン1トンをつくるのに要るエタノールの量と熱を見積もれます。収率100%の理論量で計算すると、エタノールは約1.64トン、反応に吸収される熱は約1.6 GJになります。

原料のエタノール(C2H5OH 1 mol から C2H4 1 mol)
エタノール = 1 t × 46.0728.05 = 1.64 t
反応に要る熱(分子内脱水の ΔH = +44.6 kJ/mol)
エチレンの物質量 = 1,000,000 g28.05 g/mol = 35,650 mol
熱 = 35,650 mol × 44.6 kJ/mol
= 1.59 × 106 kJ = 約1.6 GJ
46.07:エタノールのモル質量[g/mol] 28.05:エチレンのモル質量[g/mol]。ΔH は25℃・すべて気体の値で、原料の蒸発や予熱に使う熱は含みません。

IRENA の資料はエチレン1トンに含水エタノール1.74トンが要るとしており、理論量より多いのは水を含み収率も100%でないためです。同じ資料は、転化率99%・エチレン選択率97%の実績と、理論上の最小エネルギー1.6 GJ/トンを挙げていて、上の計算と一致します。

ブラジルのバイオPE:サトウキビ由来のポリエチレン

エタノール脱水を大規模に動かしている代表例が、ブラジルの化学会社ブラスケムです。同社は2010年にサトウキビ由来エタノールからのエチレン製造を始め、2023年6月にリオグランデ・ド・スル州トリウンフォの設備を年20万トンから年26万トンへ増強しました。

このエチレンからつくるポリエチレンは、植物由来でも分子の構造は石油由来のものと同じです。そのためバイオPEは土の中で分解する生分解性プラスチックではなく、ふつうのポリエチレンと同じ設備で成形・リサイクルできます。

「植物由来」と「生分解性」は別の性質で、原料が石油でも微生物に分解される樹脂があります。両者の違いと分解のしくみは、生分解性ポリマーの記事で整理しています。

イソブテンとジエチルエーテルも脱水でつくる

エチレンのほかにも、脱水反応で工業原料をつくる例があります。いずれもアルコールのOHと隣の炭素の水素を水として外す同じ反応で、原料のアルコールの形を変えると、できるアルケンやエーテルが変わります。

図7:脱水反応でできる工業原料と行き先

同じ脱水反応でも、原料のアルコールと条件しだいで樹脂・燃料・溶剤の原料に分かれます。

エチレンエタノールから。ポリエチレンやEVAなどの樹脂に
エチレングリコールバイオエチレンから。PET樹脂などの原料に
イソブテンイソブタノールから。ジェット燃料やゴムの原料に
ジエチルエーテルエタノールの分子間脱水から。溶剤・抽出に

※エチレングリコールはエチレンを酸化エチレンにしてから水と反応させてつくり、脱水だけでできるわけではありません。

イソブタノールからイソブテン

イソブタノール(2-メチル-1-プロパノール)を脱水すると、二重結合に炭素が多く付いたイソブテンができます。米国の Gevo の研究者らは2010年、発酵でつくったイソブタノールを弱い酸性のγ-アルミナで脱水し、高い転化率と選択率でイソブテンを得たと報告しました。

イソブタノールの分子内脱水
(CH3)2CH−CH2OH → (CH3)2C=CH2 + H2O
OHの付いた炭素の隣はCH(水素1つ)だけなので、ここから水素が抜けたイソブテン(2-メチルプロペン)ができます。表1の2-メチル-1-プロパノールと同じ反応です。

イソブテンは分子どうしをつなげてから水素を付けると、ジェット燃料の成分になる炭化水素になります。再生可能なイソブタノール由来のこの燃料(ATJ-SPK)は2016年に規格 ASTM D7566 に加わり、従来のジェット燃料に最大30%まで混ぜて使えるようになりました。

イソブテンはこのほか、合成ゴムや樹脂の原料にも使われる基礎化学品です。植物由来のアルコールから燃料をつくる流れは、持続可能な航空燃料(SAF)の一つの道すじとして液体燃料と合成燃料の記事でも触れています。

ジエチルエーテルの製造

ジエチルエーテルは、エタノールを酸触媒で分子間脱水してつくれます。工業ではエチレンに水を付けてエタノールをつくる工程(直接水和)でも副生し、水和は脱水のちょうど逆向きの反応なので、条件しだいで同じ反応器の中で両方が起こります。

米国特許US4003952は、直接水和で副生するエーテルはエタノールの1〜10%ほどで、反応器に戻せば正味の生成をほぼなくせると説明しています。ジエチルエーテルは有機溶剤や抽出の溶媒として使われ、沸点35℃と低いため、溶かした成分から蒸発させて取り除きやすい溶媒です。

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ジエチルエーテルを扱うときの安全:特殊引火物としての扱い

分子間脱水でできるジエチルエーテルは、実験室でも工場でも扱う機会の多い溶剤ですが、もっとも燃えやすい液体の1つです。

区分項目ジエチルエーテルの値・扱い
物性(SDS)沸点35℃
物性(SDS)引火点−45℃(密閉式)
物性(SDS)自然発火温度175℃
物性(SDS)爆発範囲空気中で1.7〜48 vol%
物性(SDS)蒸気密度2.55(空気=1)。蒸気は低いところにたまる
物性(SDS)反応性光や空気にさらすと爆発性の過酸化物ができることがある
法令消防法第4類引火性液体の特殊引火物。指定数量は50 L
法令労働安全衛生法管理濃度400 ppm(日本産業衛生学会の許容濃度も400 ppm)
表2:ジエチルエーテルの危険性と法令上の扱い(厚生労働省モデルSDS、消防法・危険物の規制に関する政令による。2026年11月時点)

消防法の特殊引火物は、1気圧で発火点が100℃以下、または引火点が−20℃以下で沸点が40℃以下のもので、ジエチルエーテルが名指しされています。指定数量は50 Lと、エタノールなどのアルコール類(400 L)の8分の1で、少ない量でも危険物施設としての規制がかかります。

引火点が−45℃なので、ふつうの気温では液面の上がいつでも燃える濃さの蒸気です。空気より重い蒸気は床や溝を伝って流れ、離れた火花でも引火するため、SDSは防爆型の電気機器、火花を出さない工具、静電気を逃がす接地を挙げています。危険場所の機器の選び方は防爆構造の違いの記事で説明しています。

もう1つの注意点が過酸化物で、開封して長く置いたエーテルには爆発性の過酸化物がたまることがあり、蒸留や蒸発で濃縮すると危険です。遮光・密閉して保管し、開封日を記録して、古いものは使う前に過酸化物の有無を確かめるのが実験室での基本です。

アルコールの脱水反応のよくある質問

脱水反応と脱水縮合はどう違いますか?

脱水反応は水分子が抜ける反応全般を指し、脱水縮合はそのうち2つの分子が水を出してつながる反応です。アルコールの分子間脱水によるエーテルの生成は脱水縮合にあたり、1分子の中から水が抜ける分子内脱水は脱水縮合とは呼びません。

メタノールを脱水するとアルケンはできますか?

できません。メタノールは炭素が1つしかなく、OHの付いた炭素の隣に水素をもつ炭素がないため、分子内脱水で二重結合をつくれないからです。酸触媒で脱水すると、分子間脱水でジメチルエーテル(CH3OCH3)ができます。

フェノールも酸で脱水しますか?

ふつうの条件では脱水しません。フェノールのOHはベンゼン環の炭素に直接付いていて、OHと環の結合がアルコールのC−O結合より強く、水を抜くと安定なベンゼン環の形が崩れてしまうためです。同じOHをもつ化合物でも、アルコールとフェノールは性質が大きく違います。

脱水反応は逆向きにも進みますか?

進みます。アルケンに酸触媒で水を付ける水和反応は分子内脱水の逆反応で、工業ではエチレンやプロピレンの水和でエタノールやイソプロピルアルコールがつくられています。高温で水を取り除くと脱水の向きに、低めの温度で水を多くすると水和の向きに進みます。

まとめ

この記事のまとめ
  • アルコールの脱水反応は、酸がOHにH⁺を渡して水として外す反応で、酸は最後にH⁺を取り戻す触媒として働く
  • エタノールと濃硫酸では、130〜140℃で分子間脱水してジエチルエーテルが、約170℃で分子内脱水してエチレンができる(吸熱で分子数が増える分子内脱水ほど高温で有利)
  • 分子内脱水の必要温度は第三級<第二級<第一級で、ザイツェフ則により二重結合に付く炭素の多いアルケンが主生成物になる
  • 構造決定では、脱水でできるアルケンの種類と数からOHの位置をしぼり、同じアルケンになる候補はヨードホルム反応や酸化で見分ける
  • 工場ではアルミナやゼオライトの固体触媒でバイオエチレン・イソブテンをつくり、副生・製造されるジエチルエーテルは特殊引火物として扱う

アルコールの脱水反応は、OHを水に変えて外すという1つのしくみが、生成物の決まり方・構造決定・工業プロセスまでを一続きに説明してくれる反応です。温度・触媒・分子の形のどれが結果を変えるのかを押さえておくと、実験でも工場の条件を読むときでも見通しがよくなります。

石油化学の基礎原料から製品までのつながりは、化学業界の全体像を扱った次の記事でまとめています。

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プラント機器メーカーとプラントメーカーで約10年、設備の提案・設計・試運転に携わったのち、Webマーケターに転身。現在はBtoB製造業専門のWebコンサルタントとして、メーカーの情報発信を支援しています。エネルギー管理士/第三種電気主任技術者。工業技術ブログを2017年から運営(500本以上執筆)、YouTube登録者約2万人、Xフォロワー約1万人。

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