配位結合は、一方の原子が非共有電子対を2個とも差し出し、相手の空いた軌道に入れて2つの原子で共有する結合です。普通の共有結合が電子を1個ずつ出し合うのに対し、配位結合は電子の出どころが片方だけという点が違います。
ただし、結合ができてしまえば共有結合と見分けはつきません。アンモニウムイオン NH4+ の4本の N–H 結合のうち1本は配位結合でできますが、できた4本は長さも性質も同じで、どれがそれかは決められません。
配位結合とは?:電子対を片方だけが出す結合
違うのは電子の出どころだけです。配位結合では B が非共有電子対を2個とも出し、A の空いた軌道に入れて共有します。
※青い点は A の電子、橙の点は B の電子を表します。結合ができた後は、どちらの電子だったかを区別できません。
原子どうしが電子対を共有してつながる結合のうち、結合に使う2個の電子を片方の原子だけが出したものを配位結合と呼びます。電子を出す側は、結合に使われていない電子のペア(非共有電子対)を持つ原子で、窒素・酸素・硫黄、陰イオンのシアン化物イオンや塩化物イオンなどがその役になります。
受け取る側には、電子が入っていない空の軌道が必要です。電子を1個も持たない水素イオン H+、電子が6個しかないホウ素の化合物、外側の軌道が空いている金属イオンが代表で、相手の電子対を丸ごと受け入れて結びつきます。
電子対を出す側をルイス塩基、受け取る側をルイス酸と呼ぶ考え方もあり、配位結合はルイス酸とルイス塩基の結びつきそのものです。三フッ化ホウ素 BF3 とアンモニア NH3 を混ぜると、窒素の非共有電子対がホウ素の空の軌道に入り、H3N–BF3 という1つの分子になります。
構造式では、どれが配位結合かを示したいときだけ矢印を使います。できた後の結合を示すだけなら普通の価標「–」で書いてかまわず、アンモニウムイオンも4本とも同じ線で描くのが一般的です。
配位結合と共有結合の違い:でき方は違い、できた後は区別できない
普通の共有結合では、2つの原子がそれぞれ不対電子を1個ずつ出し、ペアにして共有します。配位結合では片方が2個とも出しますが、共有されている電子が2個であること、2つの原子核の間に電子が集まって原子をつなぎとめることは同じです。
| 比べる観点 | 共有結合 | 配位結合 |
|---|---|---|
| 電子の出どころ | 両方の原子が1個ずつ | 片方の原子が2個とも(非共有電子対) |
| 出す側に必要なもの | 不対電子 | 非共有電子対(N・O・S、CN-、Cl- など) |
| 受け取る側に必要なもの | 不対電子 | 空の軌道(H+、B、金属イオン) |
| できた後の結合 | 2個の電子を共有 | 2個の電子を共有(共有結合と区別できない) |
| 構造式の書き方 | A–B | A←B(区別しないときは A–B) |
| 代表例 | H2、H2O、CH4 | NH4+、H3O+、[Cu(NH3)4]2+ |
区別できない理由は、電子に「どちらの原子から来たか」という目印がないからです。アンモニウムイオンでは、窒素のまわりの4組の電子対がすべて N–H 結合に使われ、4本はどれも同じ長さで正四面体の頂点に向かいます。
ただし、配位結合が一般の共有結合と同じ強さだとは言い切れません。同じイオンの中の4本は等価でも、金属イオンと配位子の配位結合には、水溶液の中でほかの配位子と入れ替わるほど弱いものも多くあります。
配位結合の例は3つのパターンに分けられる
配位結合が出てくる場面は、「H+ が分子に結びつく」「オキソ酸のような分子をつくる」「錯イオンをつくる」の3つに分けると整理しやすくなります。3つ目の錯イオンが、工場の現場でいちばん関わりの深いパターンです。
2つ目のオキソ酸は、日本の高校化学で使う電子式の描き方にもとづく分類です。同じ分子を二重結合で描く流儀もあるので、どこまでが確かな事実で、どこからが描き方の約束かを分けて読んでください。
H⁺が分子に結びつく:アンモニウムイオンとオキソニウムイオン
H⁺ は電子を1つも持たないので、相手の非共有電子対(橙)を丸ごと受け取って結びつきます。電荷の+1は H⁺ から持ち込まれたものです。
※青は共有電子対、橙は非共有電子対と、そこから生まれた配位結合です。実際の NH₄⁺ は正四面体、H₃O⁺ は三角錐の立体形で、図は平面に開いて描いています。
アンモニア NH3 の窒素は、3組の共有電子対と1組の非共有電子対を持っています。電子を持たない水素イオン H+ がこの非共有電子対を受け取ると、窒素のまわりの4組がすべて結合に使われたアンモニウムイオン NH4+ ができます。
アンモニアは工業的にはハーバー・ボッシュ法で大量につくられ、硫酸アンモニウム(硫安)や塩化アンモニウムのように、アンモニウムイオンの塩として使われる肥料もあります。酸がアンモニアを中和する反応は、分子の目で見ると H+ が窒素の非共有電子対に配位する反応です。
水 H2O の酸素は非共有電子対を2組持ち、そのうち1組に H+ が配位するとオキソニウムイオン H3O+ になります。酸素には非共有電子対が1組残るため、形は平面ではなく三角錐です。
水溶液中の H+ は単独では存在せず、水分子に配位したオキソニウムイオンの形でいます。pH や水のイオン積の式で [H+] と書くのは、実際には [H3O+] を略したものです。
オキソ酸のような分子をつくる:硝酸・リン酸・硫酸
オキソ酸は、中心の原子に酸素原子と OH が結びついた酸で、硝酸・リン酸・硫酸、塩素のオキソ酸などがあります。高校化学の電子式では、中心の原子が非共有電子対を出し、酸素に配位結合していると描くのが一般的です。
高校化学の描き方では、中心の N・P・S が非共有電子対を出し、電子が6個しかない状態の酸素に配位結合すると考えます。
※リン酸・硫酸は P=O・S=O の二重結合で書く流儀もあり、どちらも同じ物質を表す描き方の違いです。硝酸の N→O は、形式電荷で N⁺–O⁻ と書くこともできます。
酸素原子は電子を6個持ち、普通は2本の結合をつくって8個にそろえます。図3の矢印の先の酸素は、中心の原子から電子対を受け取るだけで8個になると考える描き方で、ここが配位結合として描かれます。
一方で、リン酸の P=O、硫酸の S=O のように二重結合で書く構造式も広く使われています。どちらも同じ物質を表す描き方の違いで、結合の実際の性質は電子の分布を計算して議論する対象なので、構造式の線の本数だけで決めつけない方が安全です。
硝酸
硝酸 HNO3 の窒素は、OH と1本、酸素と二重結合で1本つながり、残った非共有電子対で3つ目の酸素に配位結合していると描きます。2本の N–O は実際には同じ長さで、電子は2つの酸素に広がっています。
硝酸は濃硝酸と希硝酸で反応が変わる酸化力の強い酸で、肥料・火薬・ナイロン原料の製造に使われます。
リン酸
リン酸 H3PO4 は、リンに3つの OH が結びつき、OH と結びついていない4つ目の酸素がリンからの配位結合で描かれます。3つの OH の水素がそれぞれ H+ として外れるので、リン酸は3段階に電離する3価の酸です。
工業では肥料・食品添加物のほか、高純度品が半導体のエッチング液に使われています。
硫酸
硫酸 H2SO4 は、硫黄に2つの OH と2つの酸素が結びつき、OH と結びついていない2か所が配位結合として描かれます。旧来の高校化学では「硫酸は2か所が配位結合」と覚える形でした。
硫酸は接触法でつくられ、生産量の多い代表的な工業薬品です。構造式の描き方が違っても、2価の強酸であること、濃硫酸に脱水作用があることといった性質は変わりません。
錯イオンをつくる:金属イオンと配位子
金属イオンに、非共有電子対を持つ分子や陰イオンが配位結合で結びついたイオンを錯イオンと呼びます。結びつく分子・イオンを配位子、その数を配位数といい、錯イオンは [ ] で囲んで、中心の金属・配位子の順に書きます。
中心の金属イオン(青)に、非共有電子対を持つ配位子(橙)が配位結合で結びつきます。何個・どの向きで結びつくかは金属イオンの種類で決まります。
※点線は奥に向かう結合です。[Cu(NH₃)₄]²⁺ は水溶液中では上下に水分子が弱く結びついた形をとりますが、高校化学では正方形として扱います。
金属イオンは電子を手放して陽イオンになったので、外側に空いた軌道を持っています。アンモニアやシアン化物イオンの非共有電子対がそこに入るため、金属と分子が結合できるわけです。
結合の性格は、電気陰性度(電子を引きつける強さ)の差によって、電子を均等に分け合う共有結合から、片側に偏ったイオン結合まで連続的に変わります。
金属イオンと配位子の結合も、組み合わせによって共有結合寄りのものからイオン結合寄りのものまで幅があり、極性分子と無極性分子と同じく電子の偏りで考えると理解しやすくなります。
| 名前 | 化学式 | 配位子・配位数 | 形・色 |
|---|---|---|---|
| ジアンミン銀(I)イオン | [Ag(NH3)2]+ | NH3・2 | 直線形・無色 |
| テトラアンミン亜鉛(II)イオン | [Zn(NH3)4]2+ | NH3・4 | 正四面体形・無色 |
| テトラアンミン銅(II)イオン | [Cu(NH3)4]2+ | NH3・4 | 正方形・深青色 |
| ヘキサシアニド鉄(II)酸イオン | [Fe(CN)6]4- | CN-・6 | 正八面体形・淡黄色 |
| ヘキサシアニド鉄(III)酸イオン | [Fe(CN)6]3- | CN-・6 | 正八面体形・黄色 |
硫酸銅(II) の水溶液にアンモニア水を少しずつ加えると、まず青白い水酸化銅(II) が沈み、さらに加えると沈殿が溶けて深青色の液になります。
起きているのは Cu(OH)2 + 4NH3 → [Cu(NH3)4]2+ + 2OH- の反応です。この「金属イオンが錯イオンになると沈殿が溶ける」性質は、後で見る排水処理の問題にそのまま関わってきます。
同じ仕組みで、塩化銀はアンモニア水に [Ag(NH3)2]+ となって溶けます。どのハロゲン化銀がどこまで溶けるかは、ハロゲン化銀の性質で溶解度と錯イオンの強さを比べながら整理しています。
配位数は「金属イオンの価数の2倍」になる組み合わせが多く、Ag+ は2、Zn2+ と Cu2+ は4です。ただしこれは1か所で結びつく配位子の個数についての目安で、Fe2+ は価数2でも配位数6、Ni2+ もアンモニアと6配位の [Ni(NH3)6]2+ をつくります。
錯イオンをつくりやすいのは、空いた d 軌道を持つ遷移元素のイオンです。どの元素が遷移元素で、なぜ色がつくのかは下の記事でまとめています。

水溶液の中の金属イオンも、じつは水分子が配位した錯イオンです。硫酸銅(II) の水溶液の青色は [Cu(H2O)6]2+ の色で、水分子が酸素の非共有電子対で銅に結びつく様子は水和と水和物の記事で扱っています。アンモニアを加えると、水分子がアンモニアに入れ替わって色が変わります。
実際の工場では:めっき浴とキレート剤 EDTA
工場で配位結合が効いてくるのは、金属イオンを錯イオンにすると、水溶液の中の「裸の」金属イオンの濃度が大きく下がるからです。その結果、同じ金属でも沈みにくくなったり、電極の上での析出のしかたが変わったりし、めっき・分析・水処理の条件がこの性質で決まります。
めっき浴の錯化剤:シアン浴・アンモニア浴
電気めっきの液(めっき浴)には、金属イオンをわざと錯イオンにする錯化剤がよく入ります。代表がシアン化物を使うシアン浴で、銅・亜鉛・銀・金などのめっきに使われてきました。アンモニアやアンモニウム塩で金属を錯イオンにするアンモニア浴もあります。
錯イオンにする利点は3つあります。
- 裸の金属イオンが少なくなるので、鉄の素地に触れたとたん銅が置き換わって付着する「置換析出」を抑え、密着のよい皮膜にしやすい
- 析出がゆっくりになり、粒の細かいなめらかな皮膜になりやすい
- 水酸化物として沈むはずのアルカリ性の液でも、金属を溶かしたまま使える
どれだけ裸のイオンが減るかは、錯イオンの生成定数 Kf で見積もれます。Kf は錯イオンのできやすさを表す平衡定数で、値が大きいほど金属イオンは錯イオンの側に偏ります。
| 金属イオン | アンモニアの錯イオン(Kf) | シアン化物イオンの錯イオン(Kf) |
|---|---|---|
| Ag+ | [Ag(NH3)2]+:1.7 × 107 | [Ag(CN)2]-:1 × 1021 |
| Cu2+/Cu+ | [Cu(NH3)4]2+:1.7 × 1013 | [Cu(CN)2]-(Cu+):1.0 × 1016 |
| Zn2+ | ― | [Zn(CN)4]2-:2.1 × 1019 |
| Fe2+/Fe3+ | ― | [Fe(CN)6]4-:1.5 × 1035、[Fe(CN)6]3-:2 × 1043 |
同じ銀でも、シアン化物イオンと組むと裸の Ag+ はアンモニアのときより10桁以上少なくなります。
シアン浴が長く使われてきたのはこの強さのためで、同じ強さが排水処理では分解の手間を生みます。毒性の高いシアンを避けるため、シアンを使わない浴への切り替えも進んでおり、めっきの種類ごとの特徴はめっきの種類と違いで比べています。
錯化剤を使わない浴もあります。銅の電解精錬の硫酸銅の電解液や、トタンなどの亜鉛めっき鋼板を電気めっきでつくるときの酸性の硫酸亜鉛浴がその例で、金属イオンは水分子が配位した形で液の中にいます。浴を選ぶときは、素地の金属、ほしい皮膜、排水処理までを合わせて考えます。
キレート剤 EDTA:硬度のキレート滴定と金属イオンの封鎖
1つの配位子が2か所以上で金属イオンをはさむように結びつくと、カニのはさみで挟んだような環ができます。この結びつき方を、ギリシャ語の「カニのはさみ」にちなんでキレートと呼びます。
代表的なキレート剤 EDTA(エチレンジアミン四酢酸)は、窒素2か所と酸素4か所の計6か所で1個の金属イオンを包み込みます。
EDTA は金属イオンの価数に関係なく1対1で結びつくため、分析で使いやすい試薬です。アミノ酸も、アミノ基とカルボキシ基の2か所で銅などの金属イオンをはさむ配位子になり、α-アミノ酸の基本構造を見るとその2か所がよく分かります。
硬度成分のカルシウム・マグネシウムより、亜鉛・銅・鉄(III) のほうが桁違いに強く EDTA に捕まります。
※D. Harvey「Analytical Chemistry 2.1」付録の値(20 ℃、イオン強度0.1 mol/L)。実際の結びつきやすさは pH やほかの配位子で変わります。
水の硬度(カルシウムとマグネシウムの量)は、この EDTA で滴定して測ります。
米国環境保護庁(EPA)の Method 130.2 は、指示薬にエリオクロムブラックT を使う EDTA 滴定です。飲料水・表流水・工場排水などの硬度を、炭酸カルシウム換算の mg/L で求めます。

試料に pH 10 の緩衝液と指示薬を加えると、指示薬がカルシウム・マグネシウムと結びついて液はワインレッドになります。EDTA を滴下すると、より強く結びつく EDTA が金属を指示薬から奪い、すべて奪い終えたところで指示薬本来の青色に変わり、そこが終点です。
硬度はボイラー水や冷却水の管理で毎日のように測る項目で、カルシウム・マグネシウムが多いと伝熱面にスケールとして付着します。ボイラー水の水処理では軟水化が基本で、キレート剤で硬度成分を封じ込めて析出を防ぐ方法も使われます。
金属イオンを包み込んで反応させないこの働きを「封鎖」と呼び、洗浄剤・食品・繊維の漂白などで、微量の鉄・銅が品質を落とすのを防ぐために使われます。一方で、包み込んだ金属を手放しにくい性質が、次に見る排水処理では弱点になります。
触媒と排水処理で見る配位結合
触媒でも排水処理でも、考え方の軸は同じで、金属イオンにどの配位子が結びついているかで、その金属のふるまいが決まります。触媒ではそれを利用して反応を選び、排水処理ではそれが金属を沈まなくする原因になります。
遷移金属錯体の触媒
遷移金属のイオンや原子に配位子を結びつけた錯体は、多くの化学反応の触媒になります。反応する分子が金属に配位して近づき、金属の上で結合の組み替えが起きた後に離れていくので、配位子を変えると反応の速さや、できる分子の形を細かく調整できるのが強みです。
- チーグラー・ナッタ触媒:アルミニウムと炭素の化合物に、チタンなどの遷移金属を微量組み合わせた触媒で、ポリエチレンやポリプロピレンを穏やかな温度・圧力でつくれるようにした(1963年ノーベル化学賞)
- 不斉水素化触媒:ロジウムやルテニウムの錯体に、鏡像の片方だけをつくる配位子を結びつけたもの。野依良治氏らの「キラル触媒による水素化反応」の研究(2001年ノーベル化学賞)
- パラジウム触媒のクロスカップリング:炭素どうしをつなぐ反応で、医薬品の合成や、有機ELなど電子材料の分子の製造に使われる(2010年ノーベル化学賞、根岸英一氏・鈴木章氏ら)
鏡像の片方だけをつくる合成は医薬品の製造に欠かせず、その流れの中にある研究はノーベル化学賞2026の不斉自己触媒でも紹介しています。
液に溶けた錯体の触媒は、反応後に製品から取り除く工程が必要です。医薬品の元素不純物の国際ガイドライン ICH Q3D(R2) は、パラジウム・白金・ロジウム・ルテニウムの1日あたりの許容量を経口剤で100 µg と定めています。
そのため医薬品の工場では、触媒に使った金属の残留量が品質管理の測定項目になり、吸着剤などで取り除いた後に分析で確かめます。
排水処理:錯体があると水酸化物で沈まない
めっきや金属加工の排水から銅・亜鉛・ニッケルを取り除く基本は、アルカリを加えて水酸化物として沈める水酸化物法です。環境省の資料は、亜鉛の場合に水酸化物が析出しやすい pH を9〜10.5とし、pH 11以上では水酸化亜鉛が再び溶けると説明しています。
沈殿ができる pH を計算で見積もる方法は溶解度積 Kspで扱っています。
ところが、排水に錯化剤が入っていると話が変わります。
同じ資料によると、めっき工場・電子部品・機械部品・自動車工場の排水にはクエン酸などの有機酸、EDTA、シアン、アミン、アンモニア、ポリリン酸など錯イオンをつくる物質が含まれます。そのため、水酸化物法では処理できない例が多くなっていると資料は指摘しています。
| 処理方法 | Cd | Ni | Zn | Cu | Pb | Cr |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 消石灰で pH 11 に中和 | 4.5 | 11.1 | 4.4 | 16.5 | 2.6 | 14.9 |
| 塩化鉄(III) を併用(鉄として1000 mg/L) | <0.1 | <0.1 | <0.1 | <0.1 | <0.1 | 0.32 |
表4はクエン酸を含む合成排水1例の結果ですが、消石灰だけでは銅が16.5 mg/L も残り、一般排水基準の3 mg/L を大きく超えます。
鉄塩を併用すると、鉄の水酸化物と一緒に沈む共沈が働き、Cr 以外の金属は0.1 mg/L 未満まで下がっています。Cr も14.9 mg/L から0.32 mg/L まで下がりました。
水酸化物法の前に、どの配位子が金属をつかんでいるかを確かめると、前処理の選び方が決まります。
まず確かめること
錯体の種類ごとの前処理(環境省資料より)
※環境省「亜鉛の処理技術について」(資料4、2005年)の整理をもとに作成。実際の処理条件は排水ごとの試験で決めます。
シアノ錯体は、次亜塩素酸ナトリウムなどでシアンを酸化分解してから金属を沈めます。ただし鉄のシアノ錯体は表3のとおり桁違いに安定で、亜鉛や銅のシアノ錯体より分解しにくいとされています。
シアン化合物の一般排水基準は1 mg/L なので、どのシアノ錯体が入っているかを確かめるのが処理設計の第一歩です。
アンモニアやアミンの錯体は、カルシウムと錯体をつくらないため置換法が効きにくい例があります。
同じ資料には、アンモニアの濃度が高いときは先に下げる、キレート樹脂やイオン交換樹脂で除去するといった方法が挙がっています。
硫化物で沈める場合も、強い錯化剤があると除去が大きく妨げられたという実験結果があります。排水の中のイオンの動きを式で追う方法はイオン反応式の書き方、硫化物での沈め方は硫化水素の沈殿一覧で詳しく扱っています。
配位結合のよくある質問
配位結合の矢印はどちら向きに書きますか?
電子対を出す原子から、受け取る原子へ向けて書きます。アンモニアが三フッ化ホウ素に配位するなら H3N→BF3、錯イオンなら配位子から金属イオンへ向かう矢印です。
結合ができた後も「配位結合」と呼ぶのですか?
でき方を説明するときに配位結合と呼びますが、できた結合そのものは共有結合と区別できません。アンモニウムイオンの4本の N–H 結合は等価で、どれが配位結合かを指定することはできません。
配位結合かどうかはどうやって見分けますか?
一方が非共有電子対を持ち、もう一方が空の軌道を持つ組み合わせを探します。H+ が NH3 や H2O に結びつく場合と、金属イオンに NH3・H2O・CN-・Cl- などが結びつく錯イオンが代表です。
配位結合と水素結合の違いは何ですか?
配位結合は2個の電子を共有して原子どうしをつなぐ化学結合です。水素結合は、O–H や N–H の水素と別の分子の酸素・窒素の非共有電子対が引き合う力で、配位結合よりずっと弱く、分子どうしを引きつける力として扱います。
まとめ
- 配位結合は、一方の原子が非共有電子対を2個とも出し、相手の空の軌道に入れて共有する結合。電子対を出す側から受け取る側へ矢印で書く
- 共有結合との違いは電子の出どころだけで、できた後は区別できない。NH4+ の4本の N–H は等価
- 例は3パターン:H+ が分子に結びつく(NH4+・H3O+)、オキソ酸の電子式(硝酸・リン酸・硫酸)、錯イオン([Cu(NH3)4]2+、[Fe(CN)6]4- など)
- 錯イオンの電荷は金属イオンと配位子の電荷の合計。配位数「価数の2倍」は目安で、Fe2+ や Ni2+ の6配位のような例外がある
- 工場では、めっき浴の錯化剤、EDTA による硬度のキレート滴定と金属の封鎖、遷移金属錯体の触媒に使われ、排水処理では錯体が水酸化物法を効かなくする
配位結合は、金属イオンを溶かしたままにするか沈めるかを決める、化学工場の水まわりの基本です。めっき・分析・排水処理の現場では、どの配位子が金属をつかんでいるかを確かめることが、液の管理と処理の出発点になります。
出典
出典・参考資料(11件)を開く出典・参考資料を閉じる
- 錯イオンの生成定数:OpenStax「Chemistry 2e」Appendix K「Formation Constants for Complex Ions」
- EDTA と金属イオンの生成定数:D. Harvey「Analytical Chemistry 2.1」16.12 Formation Constants(LibreTexts)
- 硬度の EDTA 滴定:NEMI「EPA-NERL: 130.2: Total Hardness of Water by Titrimetry」
- 錯化剤を含む排水の処理:環境省 資料4「亜鉛の処理技術について」(2005年)
- 錯化剤と沈殿処理:OSTI「Removal of heavy metals by sulfide precipitation in the presence of complexing agents」
- 鉄シアノ錯体の分解しにくさ:特許 JP7290511B2「シアン含有水の処理方法及び処理設備」
- 排水基準:環境省「一般排水基準」
- チーグラー・ナッタ触媒:NobelPrize.org「The Nobel Prize in Chemistry 1963 – Speed read」
- 不斉水素化:NobelPrize.org「The Nobel Prize in Chemistry 2001 – Popular information」
- パラジウム触媒のクロスカップリング:NobelPrize.org「The Nobel Prize in Chemistry 2010 – Popular information」
- 医薬品の元素不純物:ICH「Q3D(R2) Guideline for Elemental Impurities」(2022年)Table A.2.1
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